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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04F
管理番号 1066070
異議申立番号 異議1999-73628  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-07-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-24 
確定日 2002-10-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第2874046号「温水床暖房装置の施工方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2874046号の特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第2874046号に係る出願は、昭和62年5月18日に出願された実願昭62-73917号の実用新案登録出願の一部を、平成8年1月8日に分割して実願平8-9号として新たに実用新案登録出願としたものを、さらに、平成9年2月20日に特許出願に変更したものであって、分割、変更は適法になされたものであり、平成11年1月14日にその特許の設定登録がされ、平成11年9月24日に藤田肇より特許異議の申立てがされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年5月15日に意見書が提出され、再び取消理由が通知され、その指定期間内である平成12年10月6日に意見書が提出されたものである。
2.本件発明
本件特許第2874046号に係る発明の要旨(以下、本件発明という)は、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものであると認める。
「弾力ある複数の温水配管(2)を平坦な床下地(5)の上面に敷設し、セルフレベリング材(3)を前記温水配管(2)の上から流し延べ、前記温水配管(2)をセルフレベリング材(3)内に埋設することを特徴とする温水床暖房装置の施工方法。」
3.引用刊行物
刊行物1:特開昭55-123994号公報
刊行物2:実願昭58-65817号(実開昭59-170110号)のマイクロフィルム
(1)刊行物1には、チューブマット状熱交換器に関する発明が記載されており、発明の詳細な説明の欄に、
a.「チューブマットは、薄いコンクリートスラブで容易に被覆される連続状多チューブ形態を有する。」(第4頁左下欄第12〜14行)、
b.「本発明はチューブマット状熱交換器、更に詳しくは、特に埋封輻射加熱システムへの使用に適合し(中略)先行技術の輻射加熱システムは、典型的には、コンクリートスラブ中に、または添加熱素材としての砂の中のスラブ下に埋封される銅パイプを用いている。加熱水はパイプを通じて循環されて、コンクリートまたは砂に熱エネルギーを伝達し、そして輻射によってスラブ上の空間を加熱する。」(第3頁左下欄第2〜16行)、
c.「本発明に従って、チューブマット状熱交換器17は横たわるコンクリートスラブ14の上に配置され、(中略)チューブマット状熱交換器17の上に、マトリックスとして注入コンクリート床スラブ20を使用し、交換器を埋封せしめる。」(第4頁右下欄第16行〜第5頁左上欄第5行)、
d.「かかるマットは、合成ゴムなどの弾性材料および特にEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマーまたはターポリマー)の一体押出から形成される。得られるチューブマット(第3および4図参照)21は、その幅の少なくとも4倍であるが12倍を越えない長さを有し、および互いに平行で等間隔に並んだ多数のチューブ22を有する。」(第5頁左上欄第15行〜同頁右上欄第2行)、
e.「そのチューブマットは化学作用に対して不活性であり、またそれらは弾性なので、コンクリート床の凍結または移動に基づく伸張および収縮に耐えることは容易である。」(第6頁左下欄第10〜14行)
と図面とともに記載されている。
そして、第1図等の記載からみて、刊行物1に記載されたチューブ状熱交換器は床暖房に使用されるものであることは明らかである。
したがって、刊行物1には、弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを有するチューブマットをコンクリートスラブ上に配置した後、コンクリートを注入してチューブマットを埋封する温水床暖房構造の施工方法の発明が記載されている。
(2)刊行物2には、床暖房構造に関する発明が記載されており、
a.「ALC床材の表面に溝を設けて温水流通用銅管を配設し、その表面にセメント系セルフレベリング床材を、該銅管が僅かにかくれるように打設したことを特徴とする床暖房構造。」(実用新案登録請求の範囲)、
b.「13はセメント系セルフレベリング床材で、ALC板2の溝12内に温水流通用銅管3を敷設した後、セメント系セルフレベリング材に水を加えてスラリー状とし、これをALC板2の表面に厚さが5〜30mm程度となるように打設固化せしめると、自然流動により水平面を形成し、平滑で優れた面精度を持った床面が得られる。なおセルフレベリング材の打設は、銅管3の上端より上のかぶりを3〜10mm程度に止めるのが、放熱体が床面へ速かに熱を伝導する上で好ましい。また使用するセメント系セルフレベリング材は床面上に流布した後の流動性が十分な値をもったものが好ましい。」(第4頁第2〜14行)、
c.「本考案による床暖房構造は、その表面にセメント系セルフレベリング床材を銅管が僅かにかくれるように打設してあるので、一般的な床暖房の効果として必要とする熱量が少なくて済むことは勿論、施工工事が湿式工法となるところはセルフレベリング材の打設のみであり、工期がモルタル打設に比して大幅に短縮でき、かつセメント系セルフレベリング材を使用しているので、床面が平滑で耐久性にすぐれている他、床表面への伝熱が速かで暖房開始初期の昇温が速く、また床の裏面への熱伝導も少なく、その効果は大なるものがある。」(第4頁第15行〜第5頁第6行)、
と記載されている。
そして、第3図、第4図には、ALC板の溝に配設された温水流通用銅管がセルフレベリング材によって埋設されている図が記載されている。
したがって、刊行物2には、床暖房構造に用いられる温水流通用管を埋設する床材として、セルフレベリング材を使用する発明が記載されている。
4.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを有するチューブマットをコンクリートスラブ上に配置し」及び「チューブマットを埋封する」が本件発明の「弾力ある複数の温水配管を床下地の上面に敷設し」及び「温水配管を埋設する」に相当し、一般にコンクリートスラブの上面は平坦であるから、刊行物1に記載された発明におけるコンクリートスラブもその上面は平坦であると考えられ、また、本件発明における「セルフレベリング材」と刊行物1に記載された発明における「コンクリート」は共に、温水配管(チューブ)を埋設する床材であるから、両者は、弾力ある複数の温水配管を平坦な床下地の上面に敷設し、床材を温水配管の上から流し延べ、温水配管を床内に埋設する温水床暖房装置の施工方法である点で一致しており、以下の点で相違している。
相違点:温水配管の上から流し延べ、該配管を埋設する床材として、本件発明は、セルフレベリング材を使用しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、コンクリートを使用している点。
上記相違点について検討すると、温水床暖房用管を埋設する床材として、セルフレベリング材を使用することは刊行物2に記載されているように公知の技術である。
そして、刊行物1及び2に記載された発明の技術分野の同一性から考えて、刊行物1に記載された発明のコンクリートに換えて刊行物2に記載された発明のセルフレベリング材を採用して本件発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
さらに、本件発明の明細書に記載された効果も、刊行物1に記載された発明の温水配管として弾性材料からなる多数の加熱水を通すチューブを採用したことによる効果(上記「3(1)e」)及び、刊行物2に記載された発明の温水配管を埋設する床材としてセルフレベリング材を採用したことによる効果(上記「3(2)c」)に比べて、格別のものとも認められない。
5.特許権者の主張に対して
特許権者は平成12年10月6日付け特許異議意見書において、概ね、以下の3つの点を主張している。
a.平成12年8月10日付特許取消理由では、刊行物1に記載された発明と本件特許発明とは、『本件発明は、セルフレベリング材を使用しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、コンクリートを使用している点』のみで相違すると判断しており、単に材料の選択に係る事項のみが、本件特許発明の本質であると解釈している。しかし、セルフレベリング材は、コンクリート床スラブ上面等の不陸調整材料であり、コンクリートと置換される材料ではない。従って、刊行物1は、単にセルフレベリング材の使用のみを開示していないと把握すべきではなく、「セルフレベリング材を温水配管の上から流し延べ、温水配管をセルフレベリング材内に埋設すること」が開示されていないと解釈すべきである。
b.刊行物2の床暖房構造を施行するための床暖房装置の施工方法は、銅管(3,3’)は、実質的にALC床材(2)内(連続溝(12)内)に埋設される。よって、銅管(3,3’)がセルフレベリング材の厚さの中に納まったと解釈することはできない。また、刊行物2に記載の施工方法では、弾力的ではない金属配管、即ち、「温水用銅管(3,3’)」を使用している。さらに、「ALC床材(2)の表面」に切削ないし刻設された「溝(12)」内に「銅管(3,3’)」を敷設しており、「銅管(3,3’)」は、床下地の上面の下側に位置する。したがって、刊行物2の構成は、「弾力ある複数の温水配管を平坦な床下地の上面に敷設」して「温水配管をセルフレベリング材内に埋設すること」を開示していない。
c.コンクリートの床下地を想定した刊行物1の構成に対して、溝を有するALC板の床下地を条件とした刊行物2の構成を適用しようとする動機は、両刊行物の開示からは全く得られない。
主張aについて、刊行物2には、温水流通用管を埋設する床材として、セルフレベリング材を使用することが記載されており、また、「従来の床暖房構造にはパネル方式と埋込み方式とがある。(中略)埋込み方式は放熱体をセメントモルタル又は石膏系セルフレベリング材で埋設するものである」(刊行物2明細書第1頁第12行〜同第2頁第3行)とあるように、従来より、放熱体を埋設する床材としてセメントモルタルと同様にセルフレベリング材が使用されていたことが示されていることから、両者は温水配管を埋設する床材として公知の材料であるから十分置換できる材料であると考えられる。したがって、平成12年8月10日付取消理由において、配管を埋設する材料として、本件発明は、セルフレベリング材を使用しているのに対して、刊行物1に記載の発明では、コンクリートを使用している点で相違するとした判断に誤りはなく、上記主張aは認められない。
主張bについて、平成12年8月10日付取消理由においては、刊行物2には、温水流通用管を埋設する床材として、セルフレベリング材を使用する点が記載されていると認定しているのであって、「弾力ある複数の温水配管を平坦な床下地の上面に敷設する」点について記載されていると認定してはいない。そして、刊行物2の第3図及び第4図からみて、ALC板の溝に配設された温水流通用銅管はセルフレベリング材によって埋設されていると認められる。したがって、平成12年8月10日付取消理由における刊行物2に記載された事項の認定に誤りはなく、上記主張bは認められない。
主張cについて、刊行物1および2に記載された発明は、ともに床下地上に敷設した温水配管を埋設してなる床暖房構造であって、技術分野を同じくするものであるから、床下地がコンクリートであってもALC板であっても、そこに設けられた温水配管を埋設する床材として、刊行物1に記載されたコンクリートに換えて刊行物2に記載されたセルフレベリング材とすることは、当業者が容易に想到し得ることであって、動機付けがないとはいえない。そして、刊行物2に記載された発明においてセルフレベリング材を採用したことによる作用効果である「工期が・・・短縮でき、・・・床面が平滑で耐久性にすぐれ・・・、床表面への伝熱が速かで暖房開始初期の昇温が速く、また床の裏面への熱伝導も少な」(上記3(2)c)いという作用効果は、技術分野が同じである刊行物1に記載された発明の床暖房構造においても当然求められるものであるから、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を適用する動機がないとすることはできず、上記主張cは認められない。
6.まとめ
以上より、本件発明は、刊行物1及び2に記載された発明から当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-11-14 
出願番号 特願平9-35904
審決分類 P 1 651・ 121- Z (E04F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 服部 秀男住田 秀弘七字 ひろみ  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 憲子
宮崎 恭
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2874046号(P2874046)
権利者 株式会社ユウキ 日本ユーキ株式会社
発明の名称 温水床暖房装置の施工方法  
代理人 島添 芳彦  
代理人 島添 芳彦  

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