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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1067329
審判番号 審判1996-3723  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1996-03-18 
確定日 2002-05-27 
事件の表示 昭和60年特許願第501426号「組換えDNA分子」拒絶査定に対する審判事件〔(昭和60年9月26日国際公開WO85/04188、昭和61年7月24日国内公表特許出願公表昭61-501490号)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯等
本願は、1985年3月19日(優先権主張1984年3月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成8年4月17日付けの手続補正書により補正された請求の範囲第1項、第4項、第6項、第7項、第8項、第11項及び第12項に記載された下記のとおりのものであると認める。
「1.天然源、合成源、または半合成源に由来し、かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物を含むDNA配列;
および/または上記DNA挿入物のうちの、一または複数の塩基が置換、欠失、挿入および/または逆転されているDNA配列であって、
哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)の活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNA。
4.(a)顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)のmRNAの供給源を調製し、
(b)上記mRNAの供給源の二重鎖DNAのコピーを合成し、
(c)上記DNAコピーをクローン化し、

からなる群より選ばれた合成GM-CSFプローブを用いるコロニーハイブリダイゼーションにより工程(b)で作製したDNAコピーを潜ませているクローンをスクリーニングし、
(f)さらに上記合成GM-CSFの活性をもたらすDNA配列の製造方法。
6.組換え体として、顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)と実質上1対1に対応するコード配列を有する蛋白暗号化部分をもつDNA配列を含むクローン化ベクターであって、
上記DNA配列は、天然源、合成源、または半合成源に由来し、
かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物を含むDNA配列;
および/または上記DNA挿入物のうちの、一または複数の塩基が置換、欠失、挿入および/または逆転されているDNA配列であるクローン化ベクター。
7.組換え体として、顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)と実質上1対1に対応するコード配列を有する蛋白暗号化部分をもつDNA配列を含むクローン化ベクターによって形質転換された微生物であって、
上記DNA配列は、天然源、合成源、または半合成源に由来し、
かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物を含むDNA配列;
および/または上記DNA挿入物のうちの、一または複数の塩基が置換、欠失、挿入および/または逆転されているDNA配列である微生物。
8.天然源、合成源、または半合成源に由来し、かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物

(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物にハイブリダイズするDNA配列であって、
哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)をコードするDNA配列。
11.組換え体として、顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)と実質上1対1に対応するコード配列を有する蛋白暗号化部分をもつDNA配列を含むクローン化ベクターであって、
上記DNA配列は、天然源、合成源、または半合成源に由来し、
かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物にハイブリダイズし、哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)をコードするDNA配列であるクローン化ベクター。
12.組換え体として、顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GMーCSF)と実質上1対1に対応するコード配列を有する蛋白暗号化部分をもつDNA配列を含むクローン化ベクターによって形質転換された微生物であって、
上記DNA配列は、天然源、合成源、または半合成源に由来し、
かつ登録番号ATCC53032で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM37のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
および登録番号ATCC53036で同定される微生物が保持している組換えプラスミドpGM38のDNA挿入物であって、5’から3’の方向に以下に示すDNA配列を有するDNA挿入物


(ただし上記配列中( )内の塩基は前の塩基と置換可能であることを示す);
からなる群より選択されたDNA挿入物にハイブリダイズし、哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)をコードするDNA配列である微生物。」
II.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由の概要は「この出願は、明細書の記載が、特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。」というものであって、その理由として「本願発明の詳細な説明には、特許請求の範囲第1項に記載されている塩基配列を有するDNA挿入物のうちの一または複数の塩基が置換、欠失、挿入および/または逆転されているDNA配列であって、マウス以外の哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)の活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNAの発明について、当業者が容易に実施をすることができる程度に記載されていると認めることはできない。」点を指摘している。
III.当審の判断
1.まず、請求の範囲第1項における記載事項、および該記載事項についての明細書中の記載を検討する。
請求の範囲第1項における記載事項に関し、本願が特許法第26条第4項の要件を満たすためには、同項における記載事項を必須の構成とする発明が明細書中に実質的に記載されている必要があり、また特許法第36条第3項の要件を満たすためには、同項に記載された事項を必須の構成とする発明についての明細書中の記載が、当業者がその発明を容易に実施できる程度の記載である必要がある。
さて、請求の範囲第1項には、「哺乳類の顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)の活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNA」に関して記載されているが、ここで、「哺乳類」とは、明細書中に、はつかねずみ、又はねずみ(以下、マウスという。)という記載と共に「他の哺乳類」という記載があることからも明らかなように、ヒトなどのマウス以外の哺乳類も包含するものであるから、同項に記載される事項を必須の構成とする発明としては、マウスのGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNAのみならず、ヒト等他の哺乳類のGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNAまでも提供することを目的とするものであるといえる。
そこで、以下、明細書中に、「マウス以外の哺乳類」として代表的な「ヒト」のGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNAに関してどのような記載がなされているかを、以下の(イ)、(ロ)に分けて検討する。
(以下、請求の範囲第1項に記載された2種類の塩基配列のうち前者を「配列1」、後者を「配列2」という。また、「配列1」もしくは「配列2」に対して、一または複数の塩基が置換、欠失、挿入および/又は逆転されているDNA配列を、「改変配列」という。)
(イ)明細書中に、配列1、配列2またはその改変配列であって、「ヒトのGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNA」に係る発明について、当業者が容易に実施できるように記載されているか。
(ロ)「ヒトのGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNA」を必須の構成とする発明が、明細書中に記載されているか。
2.(イ)の点について:
(1)本願明細書中には、
(i)マウスの肺由来cDNAライブラリーから、マウスGM-CSFのアミノ酸配列の1部から予測される合成オリゴヌクレオチド・プローブ混合物を用いてcDNAクローンpGM37とpGM38を取得したこと(明細書第24〜28頁)、
(ii)pGM38から誘導したプローブとのハイブリダイゼーションにより、GM-CSFを合成しない種々の細胞由来のmRNAは検出せず、GM-CSFを合成するマウス肺由来mRNAは低レベルであるが検出したこと、及び複合CSFとGM-CSFの両方が刺激されたLB3(Tリンパ球セルライン)中のmRNAとはハイブリダイズするが複合CSFのmRNA(WEH1-3BD-1)とはハイブリダイズしないこと(明細書30〜31頁)、
(iii)非分画肺のmRNAとpGM38とのハイブリダイゼーションで選択した肺のmRNAをつめがえる卵母細胞内に注射した培養基が、いずれも極めて低いレベルのCSF活性を有したこと、及びpGM38とハイブリダイズする上記LB3中のmRNAを注射したつめがえる卵母細胞培養基が、胎児前駆細胞の増殖を強力に刺激し、成熟途中の顆粒球とマクロファージの成長を刺激し、赤血球細胞、巨大核細胞、または好酸性細胞の増殖を確認し、かつ32D C13細胞の増殖を刺激することができないこと等のデータからみて、「pGM38が、GM-CSFおよび複合CSFのmRNA群をどちらも含む混合物からGM-CSFの独特の生物学的特徴を持つ因子の暗号配列を指令するmRNAを特異的に選択できること」、即ち、pGM38は、GM-CSF遺伝子と選択的にハイブリダイズすることが示されていること(明細書第35〜36頁)、
(iv)pGM37及びpGM38のcDNAのヌクレオチド配列分析からGM-CSF遺伝子のヌクレオチド配列が推定され(ただし、3塩基不一致)、それがGM-CSFの部分的NH2末端アミノ酸配列と一致すること(ただし4アミノ酸残基は不一致)、及び計算上の分子量13,500が、脱グリコシル化したGM-CSFの見かけの分子量16,800とよく一致すること、及び、pGM37及びpGM38のヌクレオチド配列上の3個所の食い違いは対立遺伝子が存在するのではなく、cDNA合成時の読み誤りであることが示唆されていること(明細書第37〜39頁)
(v)マウスの成熟ゲノム中でどれだけの数のGM-CSFのcDNAが検出できるかを試験するために、種々の制限酵素で消化された胚または肝の成熟ゲノムDNAのフラグメントをpGM38に完全cDNA挿入を含んだフラグメントとハイブリダイズさせた結果から、マウス生殖系において、胚型のGM-CSFをコードするのは唯一の遺伝子であると結論出来ること(明細書第41頁)が、記載されている。
なお、ここで上記(i)〜(v)において、単に「GM-CSF」と記載されている物質について検討する。
そもそもpGM37および38がマウスの肺由来cDNAライブラリーから得られたクローンであって、しかもこれらクローンとハイブリダイズさせたmRNA源の細胞である、肺細胞、LB3細胞等は明らかにマウス由来の細胞であること、及び上記(v)の記載中で、マウスの肺型のGM-CSFをコードする遺伝子をGM-CSF遺伝子と称していること等を考え合わせれば、該mRNAの卵母細胞調製培養基によりGM-CSF活性を確認するために用いた胎児前駆細胞等各種細胞もマウス由来のものであると考えるのが自然であるから、確認されたGM-CSF活性はマウスGM-CSF活性であり、上記「GM-CSF」は「マウスGM-CSF」に他ならないといえる。
そこで、以下、明細書中で単に「GM-CSF」「GM-CSF活性」と記載されているものはそれぞれ「マウスGM-CSF」「マウスGM-CSF活性」と読み換え、各種細胞についても、特段の事情がない限りそれぞれマウス由来のものであることを明記する。
さらに、本願明細書の[図面の詳細な説明]によれば、本願図面には、第2図(a)としてpGM37及び38クローンの遺伝子地図上のマウスGM-CSFmRNAの推定位置を示し、第2図(b)には、pGM38(ヌクレオチド14の位置からポリA末端に相当)pGM37(ヌクレオチド1〜574に相当)に由来する複合配列、及び推定されたマウスGM-CSFのmRNAの塩基配列と対応するマウスGM-CSFの推定アミノ酸配列が記載されている。
ここで、「配列1」は、推定されたマウスGM-CSFのmRNAの塩基配列に相当し、「配列2」は、「配列1」の3’末端側にpGM38由来の塩基配列を付加した配列に相当するものであって、いずれもが卵母細胞培養基によるマウスGM-CSF活性を確認したmRNA(即ち、マウスGM-CSFのmRNA)の塩基配列もしくは該mRNAに基づいて作製されたcDNAの塩基配列を直接決定したものではなく、マウスGM-CSFのmRNAとハイブリダイズするpGM38及びそれと共通配列を有するpGM37の塩基配列から推定されたものである。しかも、該推定GM-CSF遺伝子の配列中には3塩基分の不確定な配列を含むものであり、それが対立遺伝子の存在を示すものではなく、cDNA合成時の読み誤りであると考えることは妥当であるから、不一致な塩基のいずれかが正しいものであるとはいえず、全配列中の他の塩基には誤りが無いともいえない以上、推定された「配列1」が、正確にマウスGM-CSFをコードする遺伝子であるということは到底できない。
そして、推定された遺伝子配列が確実にマウスGM-CSFをコードする遺伝子であるというためには、推定塩基配列を含む組換えDNAを用いて形質転換した宿主の発現産物が生物学的GM-CSF活性を有することを確認する必要があるが、本願の明細書中には、「配列1」及び「配列2」いずれのDNA配列についても、この点を確認したことの記載がない。
以上のことからみて、本願明細書の記載からでは、「配列1」もしくは「配列2」を含む組換えDNAを形質転換宿主で発現させた場合に、果たしてマウスGM-CSF活性を有する発現産物が取得できることが確実であるとはいえない。
なるほど、上述の如く、「配列1」、「配列2」のいずれもがマウスGM-CSFのmRNAとハイブリダイズするpGM38、及びその共通配列を有するpGM37の複合塩基配列に由来するものであることからみて、マウスGM-CSF活性をもたらすDNA配列が、「配列1」、「配列2」ではないとしても、それらの「改変配列」中に包含されていることは充分考えられることではある。
しかしながら、本出願前にマウスGM-CSFの高次構造については何の知見もなく、マウスGM-CSFの類似物質の立体構造とその生物学的活性に関する検討がなされていたともいえない以上、マウスGM-CSFの生物学的活性を有するような高次構造を形作るためには、マウスGM-CSFのアミノ酸配列中のどの辺の位置の、どのようなアミノ酸残基が必須であるのかについて示唆する技術常識が存在したとはいえない。
即ち、「配列1」もしくは「配列2」に対して、どの位置の塩基に上記改変操作のうちいかなる操作を施せばマウスGM-CSF活性をもたらすDNA配列を取得できることが、本出願前に当業者にとって明らかであったということはできない。
してみれば、請求項1に記載された「配列1」、「配列2」もしくはそれらの「改変配列」からなる極めて多数のDNA配列の群の中から、「マウスGM-CSF活性をもたらすDNA配列」ですら選択することにも困難性が存するといわざるを得ないのであるから、ましてや上記DNA配列群の中から「ヒトGM-CSF活性をもたらすDNA配列」を選択することは当業者にとって容易になし得るものではない。
(2)そして、例え「配列1」がマウスGM-CSF遺伝子であったとしても、以下の理由によりヒトGM-CSF活性をもたらすDNA配列を取得することは当業者が容易に実施できないと認められる。
(i)本出願後の刊行物である大沢利昭編「現代化学増刊18 サイトカイン-免疫応答および細胞の増殖・文化因子-」株式会社東京化学同人(第2刷1991年7月1日発行)第89頁にも記載される如く、マウスGM-CSFとヒトGM-CSFとは明らかに別物質であって、その相同性がアミノ酸レベルで54%と低いものであり、本出願前の技術常識として、マウスGM-CSF活性(即ち、マウス顆粒球とマウスマクロファージの増殖を促進する活性)を有する物質が、ヒト由来の顆粒球とマクロファージの増殖をも促進することが明らかであるということもできない。
したがって、例え「配列1」もしくは「配列2」がマウスGM-CSF遺伝子であったとしても、そのことをもってヒトGM-CSF遺伝子を提供したことにはならない。
(ii)本出願前にはマウスGM-CSF遺伝子とヒトGM-CSF遺伝子とがどの程度どの部分で類似しているのかの知見はなかったといえるから、「配列1」中のどの部分配列に基づいたプローブを作成すればよいかは当業者にとって自明ではなく、(i)で述べた如くマウスGM-CSF遺伝子とヒトGM-CSF遺伝子とは全長でみればアミノ酸レベルで54%の相同性しかないことから、マウスGM-CSF遺伝子のDNA配列のうちでヒトGM-CSF遺伝子検索用プローブとして有効な配列を選択することも当業者にとって容易なことではないといえる。
しかも、本願明細書には実施例1としてマウス肺からマウスGM-CSFのmRNAを取得するための操作は、「C57 BL/6はつかねずみ90匹に細胞内毒素(5μg/一匹)を注射する。3時間後、肺を摘出し・・・」(明細書24頁)と記載される如く、ヒトには適用できない極めて過酷な条件であることを考慮すれば、人道的にみてもヒト肺からヒトGM-CSFのmRNAに富むフラクションを得るために本願明細書に記載されるマウスでの手法を適用することはできず、肺を用いる上記手法と代替し得る手段(例えば、ヒトのGM-CSFのmRNAを採取可能な程度産生するセルライン等)が示唆されているわけでもないから、ヒトGM-CSFのmRNAに富むフラクションを提供することも困難であったといえる。
結局、マウスGM-CSF遺伝子の塩基配列が正確に決定されたとしても、直ちにヒトGM-CSFのmRNAを効率的に確実にハイブリダイズできるプローブが作成できることにはならず、ヒトGM-CSFのmRNAに富むフラクションを提供することも困難であったといえるから、マウスGM-CSF遺伝子の塩基配列が推定されて記載されているにすぎない本願明細書の記載に基づいては、当業者であっても、到底ヒトGM-CSF遺伝子を容易に取得することはできない。
3.(ロ)の点について:
そもそも、一般にGM-CSFが属する造血因子を含め生物体内の調節機構を担うリンホカインは、それぞれの生物ごとに複数のリンホカインによる複雑なネットワークを作って作用することが多いことからみても、通常生物ごとに個々のリンホカインがそれぞれ物質として異なることはむしろ当然ともいえる。
そして、本出願前に特にGM-CSFについては、種特異性がなくて、マウスGM-CSF活性(即ち、マウス顆粒球とマウスマクロファージの増殖を促進する活性)を有する物質が、ヒト由来の顆粒球とマクロファージの増殖をも促進すると考えられる特殊な事情が存在したとは認められない。また、上記2.(2)(iii)で記載した如く、本出願後においてもマウスGM-CSFとヒトGM-CSFとは明らかに別物質であると認識されており、両者の相同性がアミノ酸レベルで54%と他の造血因子と比較しても低いものであるから、マウスGM-CSFとヒトGM-CSFとが別物質であると考えることは極めて妥当性がある。
そうであれば、それぞれの物質をコードするマウスGM-CSF遺伝子と、ヒトGM-CSF遺伝子も当然に別物質であるといえる。
したがって、本願明細書にはヒトGM-CSF遺伝子に関して何ら記載されていないので、「配列1」、「配列2」もしくはそれら配列の「改変配列」であって、しかもヒトGM-CSF活性をもたらすDNA配列を含んでなる組換えDNAを必須の構成とする発明が記載されているとは到底いえない。
4.以上のとおりであるから、請求の範囲第1項に記載された事項を必須の構成とする発明について明細書に当業者が容易に実施できる程度に記載されていないばかりか、請求の範囲第1項における記載事項を必須の構成とする発明自体が、明細書中に実質的に記載されていたとすることもできない。
IV.むすび
したがって、請求の範囲第4、6、7、8、11及び12項における記載事項を必須の構成とする発明に関する明細書中の記載を検討するまでもなく、本願は、特許第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-04-17 
結審通知日 1997-05-09 
審決日 1997-05-20 
出願番号 特願昭60-501426
審決分類 P 1 8・ 532- Z (C12N)
P 1 8・ 531- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 酒井 雅英
特許庁審判官 鈴木 恵理子
佐伯 裕子
発明の名称 組換えDNA分子  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 成瀬 重雄  

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