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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800179 審決 特許
審判199223900 審決 特許
無効200480218 審決 特許
無効2007800105 審決 特許
無効200335505 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) C07K
管理番号 1067334
審判番号 審判1997-7911  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-07-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-05-07 
確定日 2002-06-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第2061556号発明「ヒト白血球インタフエロン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2061556号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯・本件特許発明
本件特許第2061556号発明(以下、「本件特許発明」という。)は、昭和54年11月22日(優先権主張1978年11月24日、1979年7月31日、及び1979年9月21日、アメリカ合衆国)に出願した特許出願(特願昭54-150803号)の一部を特許法第44条第1項の規定により分割して昭和58年2月25日に新たな特許出願として出願された特許出願(特願昭58-29632号)の一部を、特許法第44条第1項の規定により更に分割して昭和62年12月8日に新たな特許出願として出願され、平成3年1月10日に出願公告(特公平3一1320号公報)され、平成6年12月28日付け手続補正書及び平成8年2月2日付け手続補正書により補正がなされた後、平成8年6月10日に設定登録がなされたものであって、本件特許発明の要旨は、出願公告後補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)(a)ドデシル硫酸ナトリウムを含まず;
(b)順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し;
(c)分子量約16200±1000〜約21000±1000であり;
(d)次の工程
A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を、緩衝液で平衡化した、シクロヘキシル、フェニル、オクチル、またはオクタデシル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、
B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した、グリセリル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、および
C 工程Aを反復し、ならびに、所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る、
を組み合わせることからなる方法により得ることができ;
(e)ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する;
均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン。」
II 当事者の主張
請求人は、本件特許発明は甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項の規定により無効とされるべきである旨主張している。そして、請求人は甲第1号証に加えその訳文と参考資料を提出している。
これに対して、被請求人は請求人が示した理由によっては無効になりえないものである旨主張し、以下の乙第1〜3号証、乙第3号証の1〜6を提出している。
(請求人側提出)
甲第1号証:Abstracts of the Annual Meeting of the American Society for Microbiology、S 202 (Las Vegas、Nevada 14-19 May 1978)
「添付文書」
甲第1号証訳文
「参考資料」
参考資料1:平成4年審判第23900号審決謄本
参考資料2:審判請求理由補充書(平成6年12月28日付け)写し
(被請求人側提出)
乙第1号証:Abstracts of the Annual Meeting of the American Society of Biological Chemists、Atlanta (1978年、6月4-8日)のNo.953
乙第2号証:Dr.Peter Lengyel の宣誓供述書
乙第3号証:Dr.Marzenna Wiranowska の宣誓供述書
乙第3号証の1(乙第3号証中「証拠1」と表示)
:CURRICULUM VITAE
乙第3号証の2(同乙号証中「証拠2」と表示)
:1979年4月のインターフェロンに関するスローンケタリング第2回国際研究会でのレオ、エス、リンの発表についての彼により使用された覚え書きの写し
乙第3号証の3(同乙号証中「証拠3」と表示)
:William E.StewartII、The Interferon System、Second,enlarged edition p.164〜168
乙第3号証の4(同乙号証中「証拠4」と表示)
:ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 100、p.201〜220(1979)
乙第3号証の5(同乙号証中「証拠5」と表示)
:ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 151、p.369〜374(1985)
乙第3号証の6(同乙号証中「証拠6」と表示)
:ANALYTICAL BIOCHEMISTRY 81、p.478〜480(1977)
「添付文書」
乙第1,2号証の部分訳
乙第3号証の全訳
乙第3号証の2の全訳
III 甲各号証、乙各号証等の記載事項
本件特許出願の優先権主張日前アメリカ合衆国において頒布された刊行物であることが明らかな甲第1号証(甲第1号証訳文)には、「ヒト白血球インターフェロンの見かけ上均質な状態までの精製:純粋であることの判断基準」と題し(講演要旨の著者:L.S.リン、M.ヴィラノフスカ-スチュワート及びW.E.スチュワートII世)、
▲1▼「ヒト白血球インターフェロン(HuLeIF)調製物は、2つの分子サイズの異なる群を含んでおり、それらはドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS/PAGE)により分析すると、21,000および15,000ダルトン(d)に抗ウイルス活性のピークとともに移動する。」(訳文9〜12行)、
▲2▼「K.カンテルより供与されたHuLeIF調製物(PIFという)(約106インターフェロン単位/mg蛋白)は、SDS/PAGEで測定すると、約67,000および25,000の分子量を有する2つの主要な夾雑蛋白質を含んでいる。」(訳文12〜15行)、
▲3▼「PIF調製物を過ヨウ素酸ナトリウム緩衝液により穏やかに酸化させ、50%エチレングリコールで希釈した後、沈澱した蛋白質を遠心分離して除去した。凍結乾燥により上清を濃縮し、元の容積にまで再水和した後、セファクリルS200のクロマトカラムに掛け、リン酸緩衝液にて溶出させた。蛋白質および活性プロファイルから、過ヨウ素酸酸化により25000dの夾雑蛋白質が選択的に沈澱する一方、分子篩カラムによって67000dの夾雑物がより小さいインターフェロン蛋白質から効率よく分離して、およそ3×108単位/mg蛋白の比活性を有するインターフェロン調製物が得られることが明らかとなった。」(訳文15〜23行)、
▲4▼「その後のこのインターフェロン調製物の二次元ゲル電気泳動分析により、純粋なインターフェロンが得られていたことが示されている。」(訳文23〜25行)と記載されている。
参考資料1は、本件特許の原出願であり、特許第1652163号として登録された発明の特許無効審判事件の審決である。
参考資料2は、本件特許の拒絶査定不服審判(昭和62年特許願第310788号の審判請求事件)の審判請求理由補充書である。
乙第1号証には、ヒト白血球インターフェロン調製物に対する 二次元ゲル電気泳動の結果について記載(講演要旨の著者:L.S.リン、W.E.スチュワートII世)され、ヒト白血球インターフェロン調製物を過ヨウ素酸ナトリウムで処理(スチュアート等、論文発表)する前とその後に二次元ゲル電気泳動を行なったこと、化学的に修飾されたヒト白血球インターフェロン調製物を二次元ゲル電気泳動にかけることによって電荷およびサイズが均質な見掛け上純粋なヒト白血球インターフェロンが得られたことが記載されている。
乙第2号証の5項において、Peter Lengyel博士は、「ラス ベガス アブストラクト」がアメリカ微生物学会年会講演要旨集(1978)の講演要旨S202であり、「アトランタ アブストラクト」がアメリカ生物化学学会年会講演要旨集の講演要旨953であると説明した後、私の見解では上記「ラス ベガス アブストラクト」及び「アトランタ アブストラクト」に記載のL.リン及びW.スチュアートが用いた方法によっては均質ヒト白血球インターフェロンは得られなかったし、また得ることはできなかった、と述べている。
乙第3号証(同全訳)の16項において、マルツェンナ ヴィラノウス博士は、インターフェロン研究室において引き続いて行った研究は、過ヨウ素酸塩ー大きさゲル法が実際には均質を達成しなかったHuLe IF調製物を生成したこと、即ちそれらが蛋白質夾雑物を含んでいたことを示したと述べ、更にL.S.リンがHuLeIFを均質になるまで精製したことを発表したスローンケタリング第2回国際研究会(1979.4)での彼自身の記憶はリン博士の覚え書き(乙第3号証の2)の内容とよく一致することも述べている。同乙号証の17項では、抄録(甲第1号証)の共著者であるW.E.スチュワートII世も過ヨウ素酸塩ー大きさゲル法が蛋白質夾雑物を含むHuLe IF調製物を生成したことを自分の著書(乙第3号証の3)の中で書いているということを述べている。14、15、18項は甲第1号証に対する彼自身の見解を示すものであり、19〜24項は、異なるアッセイ方法、異なる検量標準の使用により決定された蛋白質測定は比較できるものとは考えられないこと、抄録(甲第1号証)に記載の比活性と163特許(本件特許に係る出願の親出願の特許)にクレームされるインターフェロンの比活性とは意味ある比較ができないということについて述べたものである。25項では結論として、「要約すると、上記した事実及び理由に基づけば、私は抄録(甲第1号証)に開示した過ヨウ素酸塩ー大きさゲル法はPIF材料から均質HuLeIF調製物を生成しなかったものと結論する。むしろ、該方法は、なおも蛋白質夾雑物を含有した部分精製HuLeIF調製物を生成した。更に、該抄録に報告したHuLeIF調製物は均質ではなく、又異なる方法及び多分163特許によりクレームされる均質インターフェロン調製物を得るために使用したものとは異なった出発材料を使用して得られ、かつ二つのインターフェロン調製物の比活性が多分異なるアッセイ方法及び/または検量標準を使用した蛋白質測定に基づくものであったのであるから、二つのインターフェロン調製物の比活性の類似性は、二つ調製物の同様な純度及び効能を推定するための信頼できる根拠を与えない。」と述べている。なお、10項で「163特許」が「日本国特許第1652163号」のことであることを記載している。
乙第3号証の1は、マルツェンナ ヴィラノウスカ博士(以前の名前:ヴィラノウスカ-スチュワート)の履歴書である。
乙第3号証の2(同全訳)はリン博士の覚え書きであるが、過ヨウ素酸塩沈殿及び大きさ分別により得られた比活性が約108単位/mgの全蛋白質はその約10%がインターフェロン蛋白質であると期待されたこと(スライド5の項)、過ヨウ素酸塩処理及び分子篩い処理IFをポリ‐Uセファロースカラムを通すことによりHuLeIFの純度を約109単位/mgまで更に増大させたこと(スライド6の項)が記載されている。
乙第3号証の3には、PIF(粗インターフェロン)材料の精製に関する記載(164〜167頁)と共に、過ヨウ素酸処理と大きさゲル法を用いる精製法についても記載され、PIFの過ヨウ素酸処理とセファクリルS‐200の大きさゲル法による処理で比活性が約3×108単位/mg蛋白質のインターフェロンが得られたこと(167頁13〜18行)、最近そのインターフェロン調製物が濃縮されて、O’ファレルの二次元ゲル電気泳動技術(1975)で分析されたこと(同頁18〜20行)、残存する夾雑物が除かれたインターフェロン活性は見掛けの分子量が15,000の蛋白質の分離したスポットとして移動したこと(同頁20〜22行)、見掛け上均質なヒト白血球インターフェロンの比活性は109単位/mg蛋白質(リンとスチュアートII世、1978)であったこと(同頁25〜27行)が記載されている。
乙第3号証の4は、ローリー法を用いた蛋白質の定量について記載したものである。
乙第3号証の5は、ブラッドフォード分析について記載され、該分析では反応性のアミノ酸は支配的にはアルギニン酸であることが記載されている。
乙第3号証の6には、ブラッドフォード分析による蛋白質分析における吸光係数の変動について記載されている。
IV 対比及び当審の判断
甲第1号証における上記▲4▼に記載の純粋なインターフェロンは、上記▲2▼に記載のK.カンテルより供与されたHuLeIF(ヒト白血球インターフェロン)調製物であるPIF(比活性約106インターフェロン単位/mg蛋白質)を原料として用い、上記▲3▼に記載の精製方法を用いて夾雑物を分離、即ち過沃素酸酸化により25、000dの夾雑蛋白質を沈澱させ、分子量排除カラムにより67、000dの夾雑物を分離した、二次元ゲル電気泳動による分析で純粋であることを示した、比活性約3×108単位/mg蛋白質である。
該甲号証において原料として用いた上記▲2▼に記載のヒト白血球インターフェロン調製物はSDS/PAGEにより分析すると、21,000および15,000ダルトン(d)に抗ウイルス活性のピークとともに移動する分子サイズの異なるヒト白血球インターフェロンを含むと記載され(上記▲1▼参照)、上記▲3▼には分離精製によりヒト白血球インターフェロンに含まれる分子量約67,000および25,000の夾雑蛋白質が除かれ純粋なインタフェロンが得られたと記載されているのであるから、甲第1号証において得られるインタフェロンの分子量が21,000dと15,000dであることは明らかである。又上記▲3▼の精製過程においてドデシル硫酸ナトリウムを使用しないことから甲第1号証記載の精製されたインタフェロンがこれを含まないことも明らかである。
そうすると、甲第1号証には、比活性が3×108単位/mg蛋白質、分子量が21,000d又は15,000dであり、二次元ゲル電気泳動分析により、純粋であるドデシル硫酸ナトリウムを含まないヒト白血球インタフェロンが開示されていると認められる。また本件特許発明の比活性の表示、即ち「単位/mg蛋白質」における「単位」は、本件明細書の「すべてのインターフェロンの力価は参照単位/mlで表し、これはナショナル・インスチチュート・オブ・ヘルス・・・により提供されたヒト白血球インターフェロンの参照標準品に対して補正した。」(37頁7〜12行)の記載からみて国際単位であると解される。
そこで、本件特許発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、ヒト白血球インタフェロンにおいてその分子量とそれがドデシル硫酸ナトリウムを含まないこと、更に比活性の数値において両者は一致し、次の点で一応差違が認められる。
(1)本件特許発明では、順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示すが甲第1号証にはこのことが記載されていない点。
(2)本件特許発明では、ヒト白血球インタフェロンが「(d)次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を、緩衝液で平衡化した、シクロヘキシル、フェニル、オクチル、またはオクタデシル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、 B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した、グリセリル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、および C 工程Aを反復し、ならびに、所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る、を組み合わせることからなる方法により得ることができ」る(以下「特定要件(d)」と言う。)ものであるのに対し、甲第1号証では過ヨウ素酸酸化処理とセファクリルS200のクロマトカラムにかける処理とを行うヒト白血球インタフェロンの精製法が示されるのみであり、「特定要件(d)」に規定したような精製法で製造できるということが記載されていない点。
(3)本件特許発明では、ヒト白血球インタフェロンの比活性値が「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質、ヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質」であるのに対し、甲第1号証では「およそ3×108単位/mg蛋白」とのみ記載され、用いた細胞系が何か記載されておらず、「単位」について国際単位かどうか明確に記載されていない点。
(4)本件特許発明ではヒト白血球インタフェロンが均質な蛋白質であるのに対し、甲第1号証では得られたインタフェロンが「均質」であると明記されていない点。
そこで、これらの点の内、まず上記(4)の点について検討する。
本件特許発明における「均質な蛋白質」の意味であるが、本件明細書には該蛋白質に関して、「本発明の均質なタンパク質としてのインタフェロンは、この医薬として重要な物質の化学特性づけを初めて可能にする純すいなインタフェロンを十分な量で提供する新規製造方法により得られた。」(26頁15〜17行)、「インターフェロンを均質なタンパク質として製造する方法の例としては、次の工程の組み合わせからなる方法をあげることができる:」(28頁3〜5行)、「この新規方法により得られる均質な人の白血球のインターフェロンの種の各々は、前述のHPLCカラム上の鋭いピークと、2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。」(33頁6〜11行)、「本発明の精製された均質なインターフェロン類は、従来用いられた粗製の製剤と同じ方法で投与量を調整して望むレベルのインターフェロン単位を与えるようにして使用することができる。個個の種はそのまま使用することができ、或いはこのような種の2以上の混合物を使用することもできる。」(35頁8〜14行)と記載され、表3〜表6には9種のインターフェロン(即ちα1,α2、β2、β3、γ1〜5)について比活性、分子量、アミノ酸分析結果等のデータが記載されている。これらの記載からみて、本件特許発明の「均質な蛋白質」としてのヒト白血球インタフェロンは、特許請求の範囲に記載されているHPLC(高速液体クロマトグラフィー)においてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示すと共に、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動において単一のバンドを示すヒト白血球インタフェロンとして純粋な蛋白質であって、純粋蛋白質は少なくとも分子種α1〜γ5のいずれか又はそれらの混合物を含むものであると認められる。(なお、「インターフェロン」と「インタフェロン」は同じ意味であるので以下前者は全て「インタフェロン」と記す。)
また均質な蛋白質であるインタフェロンが示す比活性(抗ウイルス活性)はいずれも高く(明細書54頁、表4参照)、この数値が大きい程インタフェロンの純度が高いことは技術常識であるから、高い比活性値は不純物である蛋白質が存在する割合が小さく、ヒト白血球インタフェロンの純度が高いことを意味している。
一方、甲第1号証には、約106単位/mg蛋白のインタフェロンを精製することにより比活性が3×108単位/mg蛋白のインタフェロン調製物が得られ、二次元ゲル電気泳動分析による分析でそれが純粋なインタフェロンであることが示されたと記載されており、比活性、電気泳動分析の結果を明確に述べているということは蛋白質としての電荷及びサイズが均質であること、比活性が約3×108単位/mg蛋白質であることが確認されているということであるから、高度に精製された均質な蛋白質であると解される。
したがって、甲第1号証に記載の精製されたインタフェロンは本件特許発明のインタフェロンと同程度に純度なものであり均質な蛋白質であるといえる。よって、この点に実質的な差異があるとは認められない。
なお、被請求人は、甲第1号証は、過ヨウ素酸塩酸化の条件、ゲルクロマトグラフィーの条件、セファクリルS200の使用についての詳細ならびに比活性測定に用いた生物学的検定法及び蛋白質測定法に関する科学的に詳細な記述に欠けており、また二次元ゲル電気泳動分析により純粋なインタフェロンが得られたこととを裏付けるデータが全く示されていないので精製したインタフェロンが見掛け上の均質性を有するものであると結論できない旨主張すると共に、実際に使用した処理法に係る実験詳細が記載されていないので同じ結果を再現できない旨の主張をしている。
しかし、精製手段、比活性測定法、蛋白質測定法がいずれもこの分野でよく知られていることを考慮すると、甲第1号証が頒布された当時の技術水準において記載されたようなインタフェロンが製造し得ないという特別な事情がない限り製造されたものとして記載されていると解するのが自然である。
そして、甲第1号証にはインタフェロンの精製手段が特定して記載され、精製したインタフェロンの分子量、比活性の値及び二次元ゲル電気泳動分析により純粋であったことが明記されているのであるから、甲第1号証で得られたインタフェロンが記載されたような特性を持つものとして均質であることが明確に理解できる。したがって、甲第1号証の精製法により均質なインタフェロンが得られなかったとすることはできない。
また、過ヨウ素酸処理及びセファクリルS‐200を用いる精製手段が従来より知られており、甲第1号証においてはこれらの手段が特定分子量の不純物の除去に用いられていることから該甲号証が頒布された当時の技術水準からみて甲第1号証に記載の精製方法が実施できなかったとは認められない。そして、被請求人からも記載の精製方法では均質な蛋白質としてのインタフェロンが得られなかったということを裏付ける具体的根拠を示していないので、被請求人の上記主張は採用できない。
また、被請求人は、乙第1〜3号証、乙第3号証の1〜乙第3号証の6を提出し、
(イ)甲第1号証の著者(スチュワート/リン グループ)が甲第1号証の後に発表した刊行物(乙第1号証)において、精製したヒト白血球インタフェロンが過ヨウ素酸塩酸化によって化学的に変性していたことを発表しているので、甲第1号証記載のインタフェロンは均質なものではない。
(ロ)該分野の専門家であるPeter Lengyel博士の、甲第1号証の方法では均質なインタフェロンは得られなっかったという供述(乙第2号証)は、甲第1号証記載のものが均質なものではないことを証明するものである。
(ハ)甲第1号証の共著者自身(ヴィラノウスカ博士)が該甲号証のインタフェロン調製物は均質でなく夾雑物を有するものであったと供述しており(乙第3号証)、甲第1号証記載のインタフェロンは本件特許発明の均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロンとは異なる。
と主張しているが、以下の理由でこれらの主張も採用できない。
(イ)について
乙第1号証には、インタフェロンは過ヨウ素酸塩酸化によって何らかの化学的に修飾がされた旨の供述があるが、インタフェロンが過ヨウ素酸塩で化学的に修飾され変性を受けているとするとインタフェロン活性は低下する。しかし、甲第1号証のインタフェロンは、比活性が3×108単位/mg蛋白質であり、二次元ゲル電気泳動で純粋であることが示されているのであるから、変性しているとは認められない。たとえ、過ヨウ素酸塩による酸化で変性されているとしても、本件特許の特許請求の範囲には変性されたインタフェロンを除くとは記載されておらず、変性していないインタフェロンのみに解されるとする記載はない。また、電荷及びサイズからみて均質であることは上記したとおりであるから甲第1号証の精製されたインタフェロンが均質なものではないとは言えない。
(ロ)について
乙第2号証は、甲第1号証の方法ではそこに記載されたような純粋なインタフェロンが得られないということを具体的に裏付けるものではないので、これにより均質なものが得られないということが客観的に証明されているとは認められない。
(ハ)について
乙第3号証におけるマルツェンナ ヴィラノウスカ(乙第3号証の1参照)の供述と乙第3号証の3の記載からみて、甲第1号証に記載のインタフェロンが完全に純粋であったとは言い切れないが、上記したように該甲号証に記載のものはそこに記載されたような特性を持つ均質なインタフェロンであると認められる。一方、本件特許発明のインタフェロンも完全に均質なものであるとは特許請求の範囲に記載されておらず、また本件明細書にはそのような限定された意味に解すべきであるとする記載もないのであるから、甲第1号証に記載の均質なインタフェロンは本件特許発明のインタフェロンと同程度に均質なものであると言わざるを得ない。そうであるから、第1号証に記載のインタフェロンが後で更に純粋にされたとしても、そのことは甲第1号証のインタフェロンと本件特許発明のインタフェロンが同程度に均質なものではないということの理由にはならない。
なお、乙第3号証の2には不明確な記載があるが、たとえ第1号証に記載のインタフェロンが更に後で純粋にされたことが該証拠により認められたとしても乙第3号証の3から認められることが証明されるに過ぎないのでこのことにより上記判断は左右されない。
次に上記した(1)の点について検討する。上記したように甲第1号証の精製したインタフェロンは本件特許発明と同程度に均質なタンパク質であると認められるので当然に順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーではインタフェロン活性に合致するピークを示すものと認められる。
上記(2)の点について検討すると、本件明細書の特許請求の範囲記載の上記「特定要件(d)」はその記載の末尾が「・・・得ることができる」という表現であるので本件特許発明のインタフェロンは「特定要件(d)」で規定される方法で製造されたものに限られない。
また本件明細書の28頁3〜29頁14行にも「インターフェロンを均質のタンパク質を製造する方法の例としては、次の工程の組み合わせからなる方法をあげることができる:・・・達成する。」と記載されており、この記載からみても「特定要件(d)」で規定される方法以外の方法で得られるヒト白血球インタフェロンであっても、本件の特許請求の範囲記載の(a)〜(c)、(e)に規定する要件を満たし、均質な蛋白質であるものは本件特許発明の範囲に包含されると認められる。更に、審判請求理由補充書(参考資料2)でも被請求人は「要件(d)による本願発明のヒト白血球インタフェロンの特定は・・・ここに記載された工程は単に1例であり、この工程に限定される特定ではない。換言すれば・・・一製造方法を特定することをもって本願発明のヒト白血球インタフェロンの均質性を特定している要件である。」(「参考資料2」4頁6〜11行)と述べている。(なお、該記載中「要件(d)」は本件明細書の特許請求の範囲に(d)として記載した要件である。)
したがって、「特定要件(d)」が構成要件として示されても本件特許発明と甲第1号証のインタフェロンを実質的に相違するものとすることはできない。
更に、上記(3)の点について検討すると、甲第1号証にはどのような細胞系を用いたのか記載されていないが、甲第1号証が頒布された当時ヒト白血球インタフェロンの比活性をウシ細胞MDBK、ヒト細胞系AG1732を使用して測定することはこの分野の技術常識であったから、甲第1号証に記載のものにおいてもこのような細胞系が用いられたと解するのが自然であり、該甲号証に細胞系が記載されていないから比活性が同一でないということにはならない。
また甲第1号証には比活性を規定する「単位」が国際単位であるかどうかは記載されていないが、この分野において測定値を国際単位に換算して表すことがこの分野の技術常識であったから甲第1号証においても換算して表されていると解される。該甲号証に記載がないからそのことによって比活性を規定する「単位」が同一でないということにはならない。(平成9年(行ケ)第17号審決取消請求事件の判決、26〜31頁参照。)
以上の結果、甲第1号証には、得られたインタフェロンを複数の分子種に分離することは記載されておらず、得られたものが本件明細書に記載されている分子種α1〜γ5に相当するか否かは分からないが、本件特許発明のインタフェロンを規定する要件を満たすヒト白血球インタフェロンが開示されているものと認められる。
したがって、本件特許発明のヒト白血球インタフェロンは甲第1号証に記載されたものである。
なお、被請求人が示した乙第3号証の19〜24項には、同じアッセイ法、検量標準等を用いた蛋白質含量の測定(色測定アッセイ)が行われないとその測定値に基づき得られる比活性について意味ある比較をすることができないという記載があり、このことを証明するために被請求人は乙第3号証の4〜乙第3号証の6を提出している。(乙第3号証の22〜24項では、163特許、即ち日本国特許第1652163号、にクレームされるインタフェロンの比活性との比較を意図した記述になっているが、163特許のインタフェロンと本件特許に係る明細書に記載のインタフェロンとは同じであるのでこの部分の記述は同時に本件特許にクレームされるインタフェロンと「抄録」、即ち甲第1号証、のインタフェロンの比活性との比較についても述べていると理解した。)一方、本件特許発明と甲第1号証に記載のものにおいては蛋白質含量の測定をどのようなアッセイ法を用いて行ったのか明らかでない。そこで、本件特許発明のインタフェロンの比活性と甲第1号証に記載のインタフェロンの比活性は意味ある比較ができないのかという点について以下検討する。
上記したようにインタフェロンを国際単位に換算して表すことが技術常識であったと認められ、インタフェロンの蛋白質含量の測定においても甲第1号証が頒布された当時ウシ血清アルブミンを検量標準として用いるのが技術常識であった。甲第1号証に記載のものと本件特許発明において蛋白質含量のアッセイ法に違いがあるのかどうか明確でないが、上記のような常識的な表記法と検量標準を用いる手法により得られた比活性値(単位/mg蛋白質)が本件出願前に文献に発表され、この値により精製の程度が専門家の間で評価されてきたことも事実であるから、たとえアッセイ法の違いによる差又は実験誤差が若干あるとしても、甲第1号証と本件特許のクレームに記載された比活性値は互いに意味ある比較ができる程度の信頼性は有していたと考えるのが自然である。そして、被請求人も、甲第1号証に記載のインタフェロンと本件特許にクレームされるインタフェロンの蛋白質の含有量測定において分析法(代表的な方法はローリー法とブラッドフォード法。)の違いによって測定値に差が生じ、比活性値(単位/mg蛋白質)がその影響を受け両者の意味ある比較ができないということを証明する具体的根拠を示していない。被請求人が提出した乙第3号証の4〜乙第3号証の6は色測定アッセイを用いた蛋白質の分析法について記載したものであるがそのことを裏付けるものではない。したがって、被請求人が示した乙第3号証等を根拠に本件特許発明と甲第1号証に記載のインタフェロンの比活性は意味ある比較ができないとすることはできない。
また、被請求人から平成11年3月15日付けの上申書が提出されているのでそれについても検討した。
本件無効審判では平成10年7月3日付けで書面審理通知を発送し、その後答弁書、弁ぱく書、証拠等について時間をかけ十分に検討したが争点に不明確な点があるとは認められなかった。また本件は確かに証拠が多く複雑であるが口頭審理を行わないと判断ができないというものではない。被請求人は口頭審理を求めているが、書面審理では十分な審理ができないということまでもは主張していないので口頭審理を行う必要があるとは認めない。上申書に記載された被請求人の要望等についても検討したが上記判断を左右するものではない。
V むすび
以上のとおりであるから、本件特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項に該当し、これを無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-03-30 
結審通知日 1999-04-16 
審決日 1999-04-27 
出願番号 特願昭62-310788
審決分類 P 1 112・ 113- Z (C07K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐伯 裕子内田 俊生佐伯 とも子山川 サツキ前田 憲彦  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 山口 由木
谷口 操
登録日 1996-06-10 
登録番号 特許第2061556号(P2061556)
発明の名称 ヒト白血球インタフエロン  
代理人 高島 一  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  

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