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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない B29C
審判 一部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効としない B29C
審判 一部無効 1項1号公知 無効としない B29C
管理番号 1067346
審判番号 審判1998-35126  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-01-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-03-31 
確定日 2001-06-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第1735179号発明「6本ロ-ルカレンダ-の構造及び使用方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.本件の経緯および本件発明
本件特許第1735179号は、昭和60年7月5日に出願し、平成5年2月17日に設定登録されたものであって、その後、平成8年11月13日に願書に添付した明細書および図面の訂正を求める審判請求(平成8年審判第19266号)がなされ、平成9年1月8日にそれを容認する審決(平成9年2月26日に確定)がなされたものであり、したがって、本件発明の要旨は、訂正された明細書と図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項、第2項および第3項に記載された次のとおりのものと認める。
(1)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くしたことを特徴とする6本ロールカレンダーの構造。
(2)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第一ロールR1と第二ロールR2との間に高分子材料を投入して両ロール間で圧延し、これを第二ロールR2のロール表面に沿って後方に送り、次に第二ロールR2と第三ロールR3との間で圧延して、順次第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、更に第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して、最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延する各ロール間でバンクの回転が順次反対方向となることを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。
(3)ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側または上側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール軸交叉装置を備えた第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側または上側で前記第二ロールR2と反対側位置にロール間隙調整装置を有する第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置し、各ロール周速を第一ロールR1から順次後方に行くに従って速くした6本ロールカレンダーの構造において、第二ロールR2を上側または下側に移動して第二ロールR2と第三ロールR3との間隔をとり、第一ロールR1と第二ロールR2とで圧延された材料を均一なシート状に剥がして第三ロールR3と第四ロールR4間のバンクに送り、第三ロールR3と第四ロールR4との間で圧延し、順次第四ロールR4と第五ロールR5との間で圧延して最後に第五ロールR5と第六ロールR6との間で圧延することを特徴とする6本ロールカレンダーの使用方法。
2.請求人の主張
請求人は、甲第1〜8号証を提出し、また、証人葉琳義、林光明の証拠調を申請して次のような主旨の主張をしている。
(2-1)本件第1発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証記載の発明並びに本件特許の出願前より周知の事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2-2)本件第1発明は、甲第5号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明並びに本件特許の出願前より周知の事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2-3)本件第2発明は、本件第1発明を普通に使用する方法にすぎないから、上記(2-1)又は(2-2)の主張の理由によって当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(2-4)被請求人は、葉琳義氏の発明した本件第1発明及び第2発明について、特許を受ける権利を承継することなく本件特許の出願を行ったものであり、したがって、本件特許は、その特許出願人が真の発明者から特許を受ける権利を承継しないで出願し、特許を受けたものであるから、本件第1発明及び第2発明に係る特許は、特許法第123条第1項第6号に該当するものである。
3.請求人の主張についての検討
3-1.上記(2-1)の主張について
甲第1号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、8月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年8月1日発行、p.93-98)には、Z形4本ロールカレンダ(3.4の項)や傾斜Z形およびS形4本ロールカレンダ(3.5の項)や5本ロールカレンダ(3.6の項)等について記載されており、その第94頁の第11図の中央には、シーテイング用のM形5本ロールの配置が示されており、また、その第95頁左欄6行から中央欄6行には、「わが国ではZ形にロールを1本追加したM形5本ロールカレンダ(写真11、図11中)が採用されている。この形式はバンクと次のバンクとの距離がすべて1/4円周づつで最も短いので、無可塑塩化ビニル樹脂の透明度のよいフィルムや厚いシート類の高速生産には最適である。」と記載されている。
甲第2号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、6月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年6月1日発行、p.101-106)には、「カレンダの歴史と進歩」について記載されており、その第101頁の図1には、カレンダ変遷の歴史として、ロール数が2本や3本や4本や5本の多数のカレンダ方式の例が示されており、5本ロールのM形の例も示されている。
しかし、このM形5本ロールの構造は、本件特許の第12図にも示されている従来のカレンダー型式のものにすぎず、本件第1発明の6本カレンダーの構造と、甲第1号証や甲第2号証に示されるM形5本ロールの構造とを対比すると、請求人が審判請求書第11頁9行から末行でいうように、両者は、ゴム及びプラスチック等の高分子用カレンダーにおいて、第一ロールと第二ロールとを略水平に並列し、該第二ロールの下側に第三ロールを第二ロールと平行に配置し、該第三ロールの横側で第一ロールと反対側位置に第四ロールを第三ロールと略水平に並置し、この第四ロールの下側で前記第二ロールと反対側位置に第五ロールを配置したカレンダーの構造である点で一致しており、▲1▼前者は、第五ロールの下側に第六ロールを設けているのに対し、後者は、第五ロールの下に第六ロールを設けていない点、▲2▼前者は、第五ロールにロール軸交叉装置を備えると共に、第六ロールにロール間隙調整装置を備えているのに対し、甲第1号証や甲第2号証には、第五ロールにロール軸交叉装置を設けることが記載されておらず、また、後者はロール間隙調整装置を備えている第六ロールを設けていない点、▲3▼前者は、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているのに対して、甲第1号証や甲第2号証には各ロールの周速については記載されていない点で相違している。
そして、請求人は、上記相違点▲1▼について、「(A-1)甲第1号証には、これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、マルチロールカレンダ化が考えられることが記載されており、(A-2)更に甲第2号証には、3本から4本5本とロールを増すと、希望の厚さのものが製造することができ、その精度が高く、表面がきれいになり、また気泡の混入がなくなることが記載されており、(A-3)また甲第3号証にはロールを増して6本、7本としたマルチロールカレンダが記載されているので、(A-4)シート・フィルムなどの製品の品質、外観をよくし、また、厚いものも製造することができるようにするため、甲第1号証記載の発明のM形の5本ロールカレンダに1本を加えて6本ロールカレンダとすることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。(B-1)次に、M形の5本ロールカレンダに1本のロールを加える場合のロールの位置を検討すると、比較的好ましい位置として、第一ロールの上、第四ロールの右側、第五ロールの右横、第五ロールの下が考えられる。(B-2)しかし、第一ロールの上に第六ロールを設けると、第一ロールと第六ロールが垂直となるため原料の供給が困難になり適当でない。(B-3)さらに、第四ロールの右側に第六ロールを設けると、第四ロールと第六ロールの間で最後の圧延をすることになるので、ロールの撓みによりシートの両端部より中央部が厚くなる誤差を補正するため、第四ロールにロール軸交叉装置を設ける必要がある(第六ロールに設けると、テイクオフロール(引取ロール)との間の平行度が崩れ、幅が収縮し、圧延されるシートに厚み誤差が発生するため適当でない。)が、第五ロールに当たるために設けることができず、適当でない。(B-4)また、第五ロールの右横に設けると、第五ロールにロール軸交叉装置を設ける必要がある(上記理由で第六ロールに設けることができない。)が、第四ロールに当たるために設けることができず、適当でない。(B-5)そうすると、上記M形の5本ロールカレンダに第六ロールを加えるとすると、第五ロールにロール軸交叉装置を設けることができる位置である第五ロールの下側のほかに適当な位置がない。(C)また、最終ロール以前の3本以上のロール(例えば、ロール数が5本のカレンダーの場合の第五ロール、第四ロール及び第三ロール、ロール数が4本以上のカレンダの場合の第四ロール、第三ロール及び第二ロール)が直線上になるようにロールを配置することも普通に行われていること(甲第2号証の第101頁図1,甲3号証のFig.2及びFig.4、甲第4号証の図1、図2,図5及び図6など参照。)である。(D)したがって、第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第三ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」と主張し、また、上記相違点▲2▼について、「(E-1)第五ロールの下に第六ロールを設ける場合、第五ロールと第六ロールの間で最後の圧延をすることになるので、ロールの撓みによりシートの両端部より中央部が厚くなる誤差を補正するため、第五ロールと第六ロールの何れか一方のロールにロール軸交叉装置を設ける必要があり、また間隙を調整する必要があるため、何れか一方のロールに間隙調整装置を設ける必要がある。(E-2)これらのロールのうちの第五ロールは中間に配置されているので、間隙調整装置を設けることは不可能ではないが困難であり、また、上記相違点▲2▼(▲1▼の間違い)で述べたように第六ロールにロール軸交叉装置を設けることは適当でない。(E-3)そうすると、第五ロールにロール軸交叉装置を備え、第六ロールに間隙調整装置を備えることになり、他に選択の余地がない。(F)したがって、第五ロールにロール軸交叉装置をを備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が当然行うことであり、必要に応じて容易になし得ることである。」と主張し、さらに、上記相違点▲3▼について、「(G-1)甲第1号証には、理想的な回転バンクを形成するには、前のロールより次のロールの周速を速くするとよいことが記載されており、(G-2)また熱可塑性樹脂、ゴムではロールの表面速度の速いほうのロールに巻き付くことは本願出願前より周知(甲第7号証の第105頁左欄第20〜22行、甲第8号証の第241頁右欄第9〜11行、甲第1号証の第96頁中央欄第5〜10行及び図12)であるので、(H)上記M形に1本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。」と主張している。
しかしながら、上記(A-1)で指摘している甲第1号証には、「これから先、目的によってはさらに6本、7本とロールを増して、前述のようなマルチロールカレンダ化も考えられる…」(甲第1号証第95頁右欄11〜13行)と記載されているだけであって、6本、7本のロール構造について具体的に示すところはなく、M形5本ロールにロールを追加することを具体的に示しているわけではないし、また、上記(A-2)で指摘している甲第2号証には、「初期の直立2本ロールカレンダでは、その前工程のミクシングミルで混練・予熱された配合ゴム材料をバンクに供給して、1パスでシート化することをねらったが、材料の種類や製品の程度によっては必ずしもすべての目的を達しなかった。すなわち、希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点で2本ロール1パスの限界を知った。これを改善する方向として、一つには金属圧延機のように2本ロール機を1ラインに2台ないし数台直列に並べて順次圧延してゆく〈タンデムカレンダ〉と、もう一方ではロールの本数を3本から4本5本と増してゆく〈多数ロールカレンダ方式〉とにここで分かれた(図1参照)。」(甲第2号証の101頁左欄下から5行から中央欄11行)と記載されているにすぎず、希望の厚さやその精度・表面のきれいさ・気泡の混入・材料の温度ムラなどの点に関する2本ロール1パスの欠点を改善する方向の一つとしての、ロールの本数を3本から4本5本と増してゆく、甲第2号証の第101頁の図1に示されているところの〈多数ロールカレンダ方式〉を紹介しているにものにすぎないし、さらに、上記(A-3)で指摘している甲第3号証(特開昭51-144459号公報)には、多ロールカレンダの構造高さおよび構造幅を低減することを課題(第2頁右上欄17〜19行を参照)としている「ゴム或いは合成樹脂用多ロールカレンダ」に関する発明が記載されており、その第2図には6本ロール、第4図には7本ロールの例が示されているものの、それらは、第二ロール以降のロールを縦に並べたものであって、M形5本ロールにロールを追加しているものではないから、上記(A-1)、上記(A-2)および上記(A-3)で指摘した事項から、上記(A-4)の結論が導かれるものではない。
そして、上記(B-1)、(B-2)、(B-3)、(B-4)、(B-5)のM形の五本ロールカレンダに第六ロールを加える際の第6ロールの適正な位置についての考察の積み重ねが、当業者にとって容易であるとする理由はないし、また、そもそも、上記(B-5)でいう「M形の五本ロールカレンダに第六ロールを加えるとすると、第五ロールのロール軸交叉装置を設けることができる位置である第五ロールの下側のほかに適当な位置がない」という事項は、M形の五本ロールカレンダの下に第六ロールを加えることが当業者にとって容易であるということとは因果関係がない。
さらに、上記(C)でいうように、最終ロール以前の3本以上のロールが直線上になるようにロールを配置することが、甲第2号証の第101頁の図1、甲第3号証のFig.2及びFig.4、甲第4号証(特公昭49-44586号公報)の図1、図2、図5、図6等で行われているとしても、それらのロール構造は、それらのそれぞれの事情に応じて採用されているものであるから、M形の五本ロールカレンダの下に第六ロールを加えることが当業者にとって容易であるということとは関係がない。
したがって、結局、上記(A-1)、(A-2)、(A-3)、(B-1)、(B-2)、(B-3)、(B-4)、(B-5)、(C)という事項から、第六ロールを第五ロールの下側で、第四ロール及び第三ロールと平行に設けることは当業者が必要に応じて容易になし得ることであるという上記(D)の結論が導き出せるものではない。
また、上記(E-1)、(E-2)、(E-3)のロール軸交叉装置および間隙調整装置に関する考察の積み重ねが、当業者にとって容易であるとする理由はないし、また、そもそも上記(E-1)、(E-2)、(E-3)のロール軸交叉装置および間隙調整装置に関する考察は、M形の5本ロールカレンダの下に第六ロールを加えることが当業者にとって容易であるという前提の上での議論であり、また、(E-3)でいう「第五ロールにロール軸交叉装置を備え、第六ロールに間隙調整装置を備えることになり、他に選択の余地がない」ということは、そのような知見を得ることが当業者にとって容易であるということとは関係がないから、「第五ロールにロール軸交叉装置を備えるとともに第六ロールにロール間隙調整装置を備えることは、第五ロールの下に第六ロールを設ける場合に当業者が当然行うことであり、必要に応じて容易になし得ることである」という上記(F)の結論とは因果関係がない。
さらに、上記(G-1)で指摘している甲第1号証の第96頁左欄下から12行から7行に「理想的な回転バンクを形成するには、古くから経験的に言われているように、前のロールより次のロールのほうが、▲1▼周速が速く、▲2▼ロール温度が高く、▲3▼ロール表面が粗く、しかも▲4▼配合的にはロール表面への付着力の大きい材料のほうがよいわけである。」と記載されていること、上記(G-2)で指摘している甲第7号証(「PLASTICS AGE」、第20巻、4月号、(株)プラスチックスエージ、昭和49年4月1日発行、p.103-108)の第105頁左欄20〜22行に「一般の熱可塑性樹脂ではロールの表面速度の速いほうに、また温度の高い方に巻き付く」、甲第8号証(「日本ゴム協会誌」、第47巻、第4号、三新化学工業(株)、p.237-244)の第241頁9〜11行に「ロールの回転が異なる場合、収縮の少なくないゴム(高温における場合も同じ)は回転による流れだけとなり速度の速いほうのロールに巻付くようになる。」、と記載されていることから、上記(G-1)、(G-2)の事項は正しいとしても、甲第1号証の96頁中央欄5〜10行に、「ところが、プラスチックシーテイング用の傾斜Z形カレンダ(図12)では、最終のNo.4ロール表面にはフィルムを巻きつけず、No.3ロール側へ引き取るために、一般に機械はNo.3ロールの周速の方がほうがNo.4ロールより速くつくられている。」と記載されているから、カレンダ構造において、一般的に各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているというわけではないし、また、そもそも甲第1号証や甲第2号証に記載されたM形5本ロールではシートは第四ロールの方に巻き付いており、そのM形5本ロールでは第五ロールより第四ロールの方が周速が速いはずであるから、上記(H)でいう「上記M形(甲第1号証や甲第2号証に記載されたM形5本ロールのこと)に一本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。」という主張は、甲第1号証や甲第2号証に記載されたM形5本ロールではあり得ない「第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合」という勝手な条件を設定しての主張であるから、上記(H)の主張は理由がない。
そして、請求人は、上記の相違点▲1▼、▲2▼、▲3▼に関する主張に関連して、本件第1発明の効果について、「(I-1)本件第1発明についてその効果を検討すると、本件第1発明は、M形の5本ロールのカレンダーの第四ロールの横からシートが剥がされる場合よりバンクの材料の転換が行われるバンクが1箇所増加するとともに、バンクの材料の転換が行わないバンクの1カ所がバンクの材料の転換が行われるバンクになって、一番上のバンク以外の4ケ所の全てのバンクがバンクの材料の転換が行われるバンクになる効果があり、また、M形の5本ロールカレンダーの第五ロールの横からシートが剥がされる場合よりバンクの材料の転換が行われるバンクが1カ所増加し、ロール軸交叉装置を設けたロールからシートを剥がさなくともよくなる、すなわち、ロール間隙調整装置を設けたロールからシートを剥がすことができるようになる効果があるものと認められる。(I-2)たしかに、本件第1発明は、上記のようにM形の5本ロールのカレンダの第四ロールの横からシートが剥がされる場合と比較すると、単にバンクの材料の転換が行われるバンクが1ケ所増加するだけでなく、1ケ所のバンクの材料の転換が行われないバンクがバンクの材料の転換が行われるバンクとなって、一番上のバンク以外の4カ所の全てのバンクがバンクの材料の転換が行われるバンクになる効果がある。(J-1)しかし、通常3本ロールのカレンダーの場合、上のバンク以外の1カ所のバンクはバンクの材料の転換が行われるバンクであり(甲第2号証第101頁の図1の直立形の3本ロール、3本ロールの傾斜形など)、4本ロールのカレンダーの場合、一番上のバンク以外の2カ所の全てのバンクはバンクの材料の転換が行われるバンクであり(甲第2号証第101頁の図1の4本ロールの逆L形、Z形)、また5本ロールのカレンダーの場合、一番上のバンク以外の3ケ所の全てのバンクはバンクの材料の転換が行われるバンクである(甲第2号証第101頁の図1の直立5本形及びL形、甲第4号証の図5及び第6図)ので、(J-2)6本ロールのカレンダーの場合、一番上のバンク以外の4カ所の全てのバンクはバンクの材料の転換が行われるバンクになることが予想されるので、本件第1発明の効果、すなわち一番上のバンク以外の4カ所の全てのバンクにおいてバンクの材料の転換が行われるバンクになることは、当業者が当然予想できる程度のものである。(K)また、本件第1発明は、上記のようにM形の5(本)ロールカレンダの第五ロールの横からシートが剥がされる場合と比較すると、単にバンクの材料の転換が行われるバンクが1カ所増加するだけでなく、ロール間隙調整装置を設けたロールからシートを剥がすことができるようになる効果がある。(L)しかし、この効果は、甲第4号証の図1、図2、図5及び図6並びにその説明に記載されているように最終ロール以前の3本のロール(例えば、ロール数が5本のカレンダの場合の最終ロールの第五ロール、第四ロール及び第三ロール、ロール数が4本のカレンダの場合の最終ロールの第四ロール、第三ロール及び第二ロール)が直線上になるように最終ロールを配置する場合において奏される普通の効果であって格別のものではない。(M)したがって、本件第1発明の効果は、当業者が当然予想できる程度のものであって、格別顕著なものではない。」と主張している。
しかしながら、上記(J-1)でいう甲第2号証第101頁の図1の直立形の3本ロール、3本の傾斜形など、甲第2号証第101頁の図1の4本ロールの逆L形、Z形、甲第2号証第101頁の図1の直立5本形及びL形、甲第4号証の図5及び第6図に示される、3本ロールカレンダー、4本ロールカレンダー、5本ロールカレンダーはそれぞれの事情でそのようなロール構造を採用しているものであるから、甲第1号証や甲第2号証に記載されたM形5本ロールとは関係がないものであり、また、上記(G-1)、(G-2)および(H)の事項についての検討で既に述べたように、甲第1号証の96頁中央欄5〜10行に、「ところが、プラスチックシーテイング用の傾斜Z形カレンダ(図12)では、最終のNo.4ロール表面にはフィルムを巻きつけず、No.3ロール側へ引き取るために、一般に機械はNo.3ロールの周速の方がほうがNo.4ロールより速くつくられている。」と記載されているから、カレンダ構造において、一般的に各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているというわけではないし、また、そもそも甲第1号証や甲第2号証に記載されたM形5本ロールではシートは第四ロールの方に巻き付いており、そのM形5本ロールでは第五ロールより第四ロールの方が周速が速いはずであるから、5本ロールにおいてさえ既に一番上のバンク以外の3カ所の全てのバンクがバンクの材料の転換が行われるとは一般にはいえないものであり、6本ロールカレンダーにおいて、一番上のバンク以外の4カ所の全てのバンクがバンクの材料の転換が行われるバンクになるとは一般的にいえるものではなく、したがって、上記(J-1)でいう事項から上記(J-2)の結論が導きだせるものではない。
さらに、上記(L)でいう甲第4号証の図1、図2、図5及び図6に示される4本ロールカレンダー、5本ロールカレンダーはそれぞれの事情でそのようなロール構造を採用しているものであって、M型5本ロールに1本ロールを追加した6本ロールカレンダーにおいてそのようなロール構造が採用できるか否かは、甲第4号証に示されるそれらのロール構造から当業者が容易に想到し得るとはいえないから、上記(L)の事項から、上記(M)の結論が導かれるものではない。
さらに付言すれば、本願第1発明のロール構造は、請求人が、上記(B-1)、(B-2)、(B-3)、(B-4)、(B-5)で主張するように、本件発明の6本ロール構造のロール配置は他に適切な配置がない程適切であり、請求人が、上記(E-1)、(E-2)、(E-3)でいうように、本件第1発明のロール軸交叉装置やロール間隙調整装置の配置も他に選択の余地がない程適当であるからこそ、請求人が、上記(I-1)、(I-2)、(K)でいう効果を奏するのであって、その効果は、6本ロール構造にすれば必ず得られるというものではないからして、本件第1発明の特定の6本ロール構造としたことによる効果は格別であって、当業者が単純に予測できたものではない。
したがって、請求人の効果に関する主張も理由がない。
してみると、本件第1発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証記載の発明並びに本件特許の出願前より周知の事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする上記(2-1)の主張は理由がない。
3-2.上記(2-2)の主張について
甲第5号証(「Modern Plastics international」、McGraw-Hill.Inc.1974年1月、p.18-21)の第18頁右欄9〜22行には、「バーシュトルフ社は可塑化PVCのみならず硬質PVCをも処理できるカレンダ供給機も開発している。そのユニットは、ホッパと、スタフィング装置と、2ロールミルとで構成される。混合された材料はホッパを介し入って来る。そこから振動ラムにより高圧を掛けられて直接第1ニップへと押しやられる。バーシュトルフ社の説明によれば、こうすることにより各微細構成部分がニップを一回だけ通り同一量のエネルギを得る。第1ニップからでた薄板は次いで2つのニーダーロールによりトップロールから剥がされるときに更に混合を受ける(21頁の図参照)。次いで薄板は別のニーダー部分を通るか又は直接カレンダへと至る。ユニットをカレンダ内に直接建造することもできる。」と記載され、第20頁には、「硬質カレンダ掛けへの新たなアプローチ」と題した6本のロールを有する硬質カレンダ掛け装置の図が示されているものの、本件第1発明の6本ロールカレンダーの構造と、甲第5号証に示される6本ロールカレンダーの構造とを対比すると、請求人が、審判請求書第16頁4行から22行でいうように、両者は、6本ロールからなるゴム又はプラスチックのシートを製造するものである点で一致しているが、▲1▼前者は、6本のロールの全てがカレンダーを構成するものであるのに対し、後者は、上の2本のロールがロールミルであり、下の4本のロールがカレンダーを構成するものである点、▲2▼前者は、ニーダーロールを用いていないのに対し、後者は、上の傾斜した2本のロールのそれぞれの下に2本一対のニーダーロールを設けている点、▲3▼前者は、上の2本のロールが水平に配置されており、次の2本のロールの一方が上の2本のロールの一方の下に配置され、他方が一方と水平に設置、所謂Z形に配置されているのに対し、後者は、上の2本のロールが傾斜して配置されており、次の2本のロールの一方が上の2本のロールの下のロールの下に配置され、他方が一方と傾斜して配置、所謂傾斜Z形に配置されている点、▲4▼前者は、第五ロールにロール軸交叉装置を備えると共に、第六ロールにロール間隙調整装置を備えているのに対し、甲第5号証には第五ロールにロール軸交叉装置を設けること及び第六ロールにロール間隙調整装置を設けることが記載されていない点、及び、▲5▼前者は、各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くしているのに対して、甲第5号証にはこのようなことが記載されていない点で相違している。
そして、請求人は上記の相違点▲1▼について、「(N)本件第1発明は、上の2本のロールをロールミルとして使用する場合を除いていないので、両者はこの点において相違がない。このことは、本件特許の出願人自身が、甲第6号証において本件第1発明と同じ構造のものと認められる複合6本ロールカレンダーはミキシングロール機を必要としないと発表しており、これは上のほうの2本のロールをロールミルとして使用することを示すものであるので、上の2本のロールをロールミルとして使用する場合を除いていないことは明らかである。」、上記相違点▲2▼について、「(O)甲第5号証記載の発明において、ニーダーロールを用いているのはトップロール等から薄板(シート)を剥がすとともに、更に混合するためのものであるので、トップロール等から薄板(シート)を剥がす必要がなく、また更に混合する必要がない場合にニーダーロールを取り外して本件第1発明の構成にすることは、当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」、上記相違点▲3▼について、「(P)4本のロールをZ形に配置することは、甲第1号証に記載されており、一般に4本ロールをZ形でなく傾斜Z形に配置するのは、Z形が下側バンク付近のロールスペースが狭く作業性が悪いため(甲第1号証の第94頁中央欄第5〜第28行)であるので、下側バンク付近で作業をする必要がない場合にZ形に配置して本件第1発明の構成にすることは、当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」、上記相違点▲4▼について、「(Q)最終ロール以前の3本以上のロール(例えば、ロール数が5本のカレンダーの場合の第五ロール、第四ロール及び第三ロール、ロール数が4本のカレンダの場合の第四ロール、第三ロール及び第二ロール)が上下に直線状に配置されている場合、最終ロールにロール間隙調整装置を備え、その上のロールにロール軸交叉装置を備えることは、甲第4号証に記載されているので、甲第5号証記載の発明の最終ロール、すなわち第六ロールにロール間隙交叉装置を備え、その上のロール、すなわち第五ロールにロール軸交叉装置を備えて本件第1発明の構成にすることは、当業者が必要に応じて容易になし得ることである。」、上記相違点▲5▼について、「(R)甲第1号証には、理想的な回転バンクを形成するには、前のロールより次のロールの周速を速くするとよいことが記載されており、また熱可塑性樹脂、ゴムではロールの表面速度の速いほうのロールに巻き付くことは本願出願前より周知(甲第7号証の第105頁左欄第20〜22行、甲第8号証の第241頁右欄第9〜11行、甲第1号証の第96頁中央欄第5〜10行及び図12)であるので、上記M形に1本加えた6本カレンダーにおいて、第一ロールから順次後方のロールに巻き付けて成形する場合、各ロール周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。」と主張している。
しかしながら、請求人がいうように、本件第1発明の6本ロールカレンダーの構造と、甲第5号証に示される6本ロールカレンダーの構造は、せいぜい、6本ロールからなるゴム又はプラスチックのシートを製造するものである点で一致している位で、上記相違点▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼のように、著しい相違があるものであるから、甲第5証に示される6本ロールカレンダー構造を、主の引用発明として、相違点を抽出し、容易論を展開することはそもそも合理性がないし、その結論にも合理性がないことは当然のことである。
また、上記(N)でいう甲第6号証(「合成樹脂 THE PLASTICS」、第39巻、第12号、平成5年12月1日発行、p.36)には、本件特許第1735179号に係る「超精密複合型6本カレンダー」の特徴の一つとして、「混練機より直接コンパウンドをカレンダーへ供給することが可能となり、ミキシングロール機が不要となり、設備費が節約される。」(第36頁右欄7〜10行)と記載されているが、その記載は、ミキシングロール機が不要であることを言っているだけで、「上の2本のロールをロールミルとして使用する」ことを示しているわけではないから、「本件第1発明は、上の2本のロールをロールミルとして使用する場合を除いていない」という上記(N)の主張は理由がないものであり、上記(O)でいう甲第5号証記載の6本ロールカレンダー構造において、ニーダーロールを用いているのはトップロール等から積極的に薄板(シート)を剥がすとともに、更に混合するためのものである(甲第5号証の第18頁9〜22行の記載を参照。)から、トップロール等から薄板(シート)を剥がす必要がなく、また更に混合する必要がない場合にはもともと甲第5号証記載の6本ロールカレンダー構造を採用する必要がないのであって、トップロール等から薄板(シート)を剥がす必要がなく、また更に混合する必要がない場合に甲第5証記載の6本ロールカレンダー構造からニーダーロールを取り外すして本件第1発明のようなローラ構成にすることは、決して当業者の容易に想到し得ることではない。
さらに、上記(P)で指摘している甲第1号証の第94頁中央欄5〜28行の記載は、同頁の3.5の「傾斜Z形およびS形4本ロールカレンダ」の項全体の記載からみて、4本ロールの場合のことであるから、甲第5号証の第20頁に記載された6本ロールカレンダー構造において、甲第1号証の第94頁の3.5の「傾斜Z形およびS形4本ロールカレンダ」に関する記述が当てはまるわけではないから、上記(P)の主張は理由にならないものである。
そして、上記(Q)で指摘しているように、甲第4号証の第1図、第2図、第5図、第6図には、確かに最終ロール以前の3本以上のロールが上下に直線状に配置されている場合、最終ロールにロール間隙調整装置を備え、その前のロールにロール軸交叉装置を備えることが示されているが、本件第1発明は甲第5号証記載の6本カレンダー構造の最終ロールである第六ロールにロール間隙交叉装置を備え、その上の第五ロールにロール軸交叉装置を備えたわけではないから、上記(Q)の主張は特に意味はない。
また、上記(R)でいう「上記M形に1本加えた6本カレンダー」の「上記M形」とは、甲第1号証の第94頁の図11の中央の図に示される「M形5本ロール」のことであって、甲第5号証の第20頁に示される6本ロールカレンダーとは関係がないし、さらに、甲第5号証の第20頁に示される6本ロールカレンダーには、硬質カレンダー掛けのために敢えて第一ロールおよび第二ロールの下に各2本のニーダロールが配設され、第一ロールと第三ロールおよび第二ロールと第四ロールにわたってカバーが配設されており、供給された材料は、これらのカバー内でニーダロールによって混練される特殊なタイプのものであるから、甲第1号証に、理想的な回転バンクを形成するには、前のロールより次のロールの周速を速くするとよいこと等が記載(第96頁左欄下から12行から末行)されており、また熱可塑性樹脂、ゴムではロールの表面速度の速いほうのロールに巻き付くことは、甲第7号証の第105頁左欄20〜22行や甲第8号証の第241頁右欄9〜11行や甲第1号証の第96頁中央欄5〜10行および図12に示されるように、本願出願前より周知であるとしても、それらのことから、甲第5号証の第20頁に示される特殊なタイプの6本ロールカレンダーにおいて、各ロールの周速を第一ロールから順次後方に行くに従って速くするようにすることは当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。
そして、請求人は、上記相違点▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼、▲5▼に関する主張に関連して、本件第1発明の効果について、「(S)本件第1発明は、バンク数が甲第5号証記載の発明と同じ5ケ所であり、またバンクの材料の転換が行われるバンクの数(4ケ所)が甲第5号証記載の発明より1ケ所多いだけであり、また(T)上記iiiの(iii)で述べたように、6本ロールのカレンダーの場合、一番上のバンク以外の4ケの全てのバンクがバンクの材料の転換が行われるバンクになることが予想されるので、効果においても格別顕著なものとはいえない。」と主張しているが、甲第5号証の第20頁に記載された特殊なタイプの6本カレンダーでは、第一ロールおよび第二ロールの下に各2本のニーダーロールが配設され、第一ロールと第三ロールおよび第二ロールと第四ロールにわたってカバーが配設されており、供給された材料は、これらのカバー内でニーダロールによって混練されるのであるから、甲第5号証の第20頁に記載された特殊なタイプの6本カレンダーでは、本件第1発明と同様のバンクを形成できるところは、第四ロールと第五ロールの間および第五ロールと第六ロールの間の2カ所にすぎないから、上記(S)の主張は正しくないし、また、上記(T)の主張については、上記(I-1)、(I-2)、(J-1)、(J-2)、(K)、(L)、(M)の主張についての検討で、既に検討済みであって、本件第1発明の特定の6本ロール構造としたことによる効果は格別であって、当業者が単純に予測できたものではない。
してみると、本件第1発明は、甲第5号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明並びに本件特許の出願前より周知の事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする上記(2-2)の主張は理由がない。
3-3.上記(2-3)の主張について
本件第2発明は、請求人がいうように、本件第1発明を普通に使用する方法であるから、上記(2-1)および(2-2)の主張についての項で述べた理由と同様の理由により、上記(2-3)の主張も理由がない。
3-4.上記(2-4)の主張について
台湾台北市承徳路8号2棲を住所とする証人葉琳義氏は平成11年5月26日に特許庁審判廷における証拠調べにおいて、(イ)1982年か83年に、日本ロールを訪れ、日本ロールの若松常務、町田部長、その外設計の関係者多数の者の出席のもとに、同氏が設計した6本ロールのカレンダーの図面(同氏がその証拠調べの際にその場で記載した調書添付の図面No.1を参照。)を提出してその6本ロールのカレンダーについて説明し、同時にその製作の見積もりを依頼した旨を証言し、また、台湾台北市民生東路5段69巷2奔36号虎を住所とする証人林光明氏も同日同所で行われた証拠調べにおいて(ロ)同様な証言をし、自分も葉氏と同行し日本ロールを訪れ、その図面には自分も数値を加筆して相手に説明した旨を証言しているが、その図面自体は提出されていないし、また、葉琳義氏がその時期までに、その6本ロールのカレンダーを設計したことを示す葉琳義氏の発表した技術文献等の証拠も提出されていない。
また、葉琳義氏は、(ハ)その10ヶ月後に、日本ロールの製作したテストロールを見に日本ロールの工場を訪れ、テストロールを見てから大体1年後に見積もりができた旨の証言をし、また、林光明氏も、(ニ)その1年位後に葉氏と同行してテストロールを見に日本ロールを訪れたと証言しているが、千葉県浦安市八船2-5-601号を住所とする証人箱崎健吉氏は、同日同所で行われた証拠調べにおいて(ホ)6本ロールカレンダーのデモ用のミニチュアカレンダーができたのが昭和61年である旨を証言しており、また、茨城県稲敷群阿見町大字荒川沖1807-2-505号を住所とする証人町田春生氏は、同日同所で行われた証拠調べにおいて、(へ)調書添付の図面No.4(1984年12月26日という日付のあるM-6509という図番の日本ロール製造株式会社の図面=乙第3号証)を携えて1985年1月の中旬に台湾の葉氏の工場に説明に行った旨、さらに、その後、葉氏が同年2月に日本ロールに来て、その図面を基に打ち合わせをし、さらにその後、1985年3月に新たな図面(調書添付の図面No.5(1985年3月15日という日付のあるM-6516という図番の日本ロール製造株式会社の図面=乙第4号証)、調書添付の図面No.6(1985年3月12日という日付のあるM-6517という図番の日本ロール製造株式会社の図面=乙第5号証))を作製し、それに基づいて見積書を作り、その図面も台湾へ持っていった旨、葉琳義氏が、証拠調べの際にその場で記載した調書添付の図面No.1と同様な図面を携えて日本ロールを訪れたのは、1985年の2月であると証言しており、上記(ハ)、(ニ)の証言と上記(ホ)、(へ)の時系列を突き合わせてみると、1982年か83年に葉氏および林氏が日本ロールを訪れた時期とテストロール(昭和61年に製作したデモ用のミニチュアカレンダー)を見た時期とが離れすぎており、上記(イ)、(ロ)の証言は不自然で、むしろ、上記(へ)の証言の方が辻褄のあうものであるから、上記(イ)および(ロ)の証言は信憑性がない。
一方、証人箱崎健吉氏は、(ト)1981年(昭和56年)頃6本ロールのロール配列を考案した旨の証言をしており、証人町田春生氏は、(チ)調書添付の図面No.2(56年9月の日付のあるM-6298という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙1号証)および調書添付の図面No.3(56年9月の日付のあるM-6299という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙第2号証)は、昭和56年頃自分が書かせた旨の証言をしており、前記調書添付の図面No.2やNo.3の日付や内容からみて、日本ロール製造株式会社では、本件第1発明の基本ロール配置(すなわち、本件第1発明でいう「第一ロールR1と第二ロールR2とを略水平に並列し、該第二ロールR2の下側に第三ロールR3を第二ロールR2と平行でかつ第一ロールR1方向と略直交状に配置し、該第三ロールR3の横側で第一ロールR1と反対側位置に第四ロールR4を第三ロールR3と略水平でかつ第二ロールR2方向と略直交状に並置し、この第四ロールR4の下側で前記第二ロールR2と反対側位置に第五ロールR5を第四ロールR4と略平行でかつ第三ロールR3方向と略直交状に配置し、更に第五ロールR5の下側で前記第二ロールR2と反対側位置に第六ロールR6を第四ロールR4及び第五ロールR5と平行でかつ第三ロールR3と略直交状に設置する」というロール配置)を発案しており、本件特許の発明者である町田春生および箱崎健吉は本件各発明を創作するのに充分な基礎知識を既に蓄えていたことが分かるから、本件特許の発明者である町田春生および箱崎健吉が、本件第1発明及び第2発明を創作したことに不自然な点はない。
してみると、被請求人(日本ロール製造株式会社)は、葉琳義氏の発明した本件第1発明及び第2発明について、特許を受ける権利を承継することなく本件特許の出願を行ったものであり、したがって、本件特許は、その特許出願人が真の発明者から特許を受ける権利を承継しないで出願し、特許を受けたものであるとする上記(2-4)の主張は根拠が乏しいから、これを採用することはできない。
そして、請求人は、平成11年6月15日付上申書において、調書添付の図面No.4(1984年12月26日という日付のあるM-6509という図番の日本ロール製造株式会社の図面=乙3号証)を甲第11号証、調書添付の図面No.2(56年9月の日付のあるM-6298という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙1号証)を甲第12号証、調書添付の図面No.3(56年9月の日付のあるM-6299という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙第2号証)を甲第13号証、葉琳義氏が証拠調べの際にその場で記載した調書添付の図面No.1を甲第14号証、甲第17号証(「工業所有権逐条解説」、第14版)、甲第18号証(吉藤幸朔著、「特許法概説」、第8版)を提出し、また、平成11年5月26日に特許庁審判廷において行われた証人町田春生氏や箱崎健吉氏についての証拠調べ調書を甲第15号証、甲第16号証として援用するとして、証人町田春生氏や箱崎健吉氏の証言によれば、日本ロール製造株式会社は、甲第11号証(調書添付の図面No.4(1984年12月26日という日付のあるM-6509という図番の日本ロール製造株式会社の図面=乙3号証)、甲第12号証(調書添付の図面No.2(56年9月の日付のあるM-6298という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙1号証)、甲第13号証(調書添付の図面No.3(56年9月の日付のあるM-6299という図番の日本ロール製造株式会社の6本カレンダーの計画図=乙第2号証)を葉琳義氏やその他の引き合いのあった客先にそれらの図面を秘密に扱うよう特に要請せずに見せたり説明したりしているから、甲第11〜13号証に示された6本ロールカレンダーは本件特許の出願前に既に日本国内において公然知られたものであるから、本件第1発明および第2発明は本件特許の出願前に日本国内において公然知られた発明であると主張しているが、特に技術開発がらみの引き合いにおける相談において、当事者双方は、互いに秘密保持について特段の要請をしていなくとも、その引き合いの具体的内容を当事者以外の他人に漏らすことは、社会通念上信義に反することであるし、また、証人町田春生氏や箱崎健吉氏は、それらの図面を見せたり説明をしたりした引き合いの相手に守秘義務がない旨を告げたと証言しているわけでもないから、甲第11〜13号証の図面を引き合いの相手に見せたり説明したりしたからといって、それだけでその内容が日本国内において公然知られたものであるとすることはできないし、さらに、甲第11〜13号証には、本件第1発明および第2発明に係るロール配置の基本構造だけしか開示されていないのであるから、上申書における上記主張は理由がない。
なお、証人葉琳義氏が証拠調べの際にその場で記載した調書添付の図面No.1(甲第14号証)は、葉琳義氏が日本ロールを訪れて説明した際に持参し提出した図面と同じであるかどうかはその図面自体が提出されているわけではないから分からないし、また、引き合い先である葉琳義氏が日本ロール製造株式会社に6本ロールカレンダの図面を提出しその内容を説明したからといって、その6本カレンダーの製作の見積もりの依頼を受けた日本ロール製造株式会社が、勝手に、その内容を他人に漏らすことは社会通念上許されないことであるから、そのことによって、その6本ロールカレンダーが公然知られた状態に至ったということはできない。
そして、請求人が甲第9〜10号証として挙げたものは、本件審判請求事件における証拠調べ申請書自体であり、これらの書面自体は、本件における証拠ではない。
4.結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件第1発明および第2発明に係る特許を無効にすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-08-23 
結審通知日 1999-09-03 
審決日 1999-09-09 
出願番号 特願昭60-146690
審決分類 P 1 122・ 111- Y (B29C)
P 1 122・ 121- Y (B29C)
P 1 122・ 152- Y (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿谷 晶廣野村 康秀  
特許庁審判長 荻島 俊治
特許庁審判官 雨宮 弘治
喜納 稔
登録日 1993-02-17 
登録番号 特許第1735179号(P1735179)
発明の名称 6本ロールカレンダーの構造及び使用方法  
代理人 早川 政名  
代理人 石渡 英房  
代理人 長南 満輝男  
代理人 近藤 恵嗣  
代理人 荒崎 勝美  
代理人 細井 貞行  

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