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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01L
管理番号 1067487
異議申立番号 異議2001-70514  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-14 
確定日 2002-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3077621号「内燃機関の可変バルブタイミング機構」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3077621号の請求項1、3ないし4に係る特許を取り消す。 同請求項2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3077621号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成9年3月18日(優先権主張、平成8年4月9日)の出願であって、平成12年6月16日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人高島雄二より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年7月10日に特許異議意見書が提出された後、再度、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月24日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】の記載について、「前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」とあるのを、「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落【0012】の記載について、「前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」とあるのを、「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」と訂正する。
2.訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明を特定する事項である「前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」をこれに含まれる事項である「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」に変更し、しかも、「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」については、願書に添付された明細書の段落【0045】及び【0046】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである(上記II.1.ア.訂正事項a参照。)。
「【請求項1】内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを調節するための可変バルブタイミング機構であって、吸気バルブ及び排気バルブの何れか一方を駆動するためのカムシャフトと、そのカムシャフトの先端に固定され、外方へ突出するべ-ンを有する第1の回転体と、前記カムシャフトの外周に摺動回転可能に設けられ、前記第1の回転体を囲むとともに、内周に凹部を有し、同第1の回転体に対して相対的に回転可能な第2の回転体と、前記べ-ンはその凹部を第1の圧力室と第2の圧力室とに区画することと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記第1の圧力室に連通されるとともに、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通されることを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項2】前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーンとを有し、前記第2の回転体の内周面と前記カムシャフトの外周面との境界が前記ボスの側面によって隠れるように、前記カムシャフトにおいて前記第2の回転体が摺動回転可能に設けられる部分の外径が前記ボスの外径よりも小さく設定される請求項1記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項3】前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーンとを有し、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向に延びて前記第1の圧力室に開口するものであり、前記第2の通路は前記カムシャフトの外周面に形成された開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記ボスよりも外周側の位置にて前記第2の圧力室に開口するものである請求項1記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項4】前記第2の回転体はその一側面が前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室の壁面となるプレートを別部材として有し、前記第2の通路は前記第2の圧力室に開口する前記プレートの開口部を通じて前記第2の圧力室に連通される請求項3記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。」

2.刊行物記載の発明
刊行物1(特許異議申立人高島雄二が提出した甲第3号証である再公表特許第WO95/31633号公報に対応する、国際公開第95/31633号パンフレット(1995))には、「本発明は、入力軸と出力軸との回転位相を変更するための回転位相調節装置に関し、例えば内燃機関(以下、「内燃機関」をエンジンという)のクランクシャフトを入力軸とし、カムシャフトを出力軸として吸排気弁の開閉タイミングを運転条件に応じて変更するためのバルブタイミング調整装置に用いることができる。」(第1頁第4〜8行)、「しかしながら、このような従来のベーン式のバルブタイミング調整装置では、べーンの周方向幅が小さいので、圧力室の遅角側と進角側との間をべーンの周方向幅でシールすることが困難である。例えば、圧力室の遅角側と進角側との油圧差によりべーンを回動させると、べーンを挟んだ圧力室の遅角側と進角側との間で油漏れが発生することがある。すると、圧力室の遅角側と進角側との油圧差を速やかに所定値に設定できないことにより、高精度な吸排気弁の開閉制御ができないとう問題がある。」(第1頁第21行〜第2頁第2行)、「本発明は、進角側油圧室と遅角側油圧室との間に位置するべーンの幅を十分に大きくとることができ、両油圧室間の油の流通を抑制することを目的とする。」(第2頁第12〜14行)、「また、さらに前記シューハウジングに固定され、前記進角側油圧室と前記遅角側油圧室との側面を閉塞するプレート(4、5)を有し、前記移動部材は、前記プレートに面した状態で前記べーン内に収容されている構成としてもよい。」(第3頁第8〜11行)、「なお、前記べーンロータがn個のべーンを有し、該ベーンが専有する周方向の角度範囲Cが、ベーンロータの回動角度範囲をAとして、C≧(360/n)-2×Aとして設定されていることを第1条件とし、前記進角側油圧室と前記遅角側油圧室との間をシールする前記べーンの横断面における最短距離L1が、前記進角側油圧室と前記遅角側油圧室との間をシールする前記シューハウジングの横断面における最短距離L2とほぼ等しいか、長いことを第2条件とし、前記進角側油圧室と前記遅角側油圧室との間をシールする前記べーンの横断面積が、前記進角側油圧室と前記遅角側油圧室との間をシールする前記シューハウジングの横断面積とほぼ等しいか、広いことを第3条件として、少なくとも前記第1条件と前記第2条件と第3条件とのいずれかを満たすよう構成することが望ましい。これにより、ベーンの両側に位置する進角側油圧室と遅角側油圧室とのシール性を高めることができる。」(第3頁第22行〜第4頁第6行)、「図1および図3に示すように、ベーンロータ9は円形の中央部を有しており、その径方向の両端に扇形状のベーン9aおよび9bを有している。このべーン9aおよび9bがシュー3aおよび3bの周方向の間隙に形成されている扇状空間部内に回動可能に収容されている。インロー部9cはカムシャフト2の先端部2aに同軸に嵌合し、ベーンロータ9は2本のボルト15によりカムシャフト2に一体に固定されている。」(第8頁第15〜20行)、「図1に示すように、ベーンロータ9の外周壁とシューハウジング3の内周壁との間に微小クリアランス16および17が設けられており、ベーンロータ9はシューハウジング3と相対回動可能である。」(第8頁第22〜25行)、「切替バルブ59の第1バルブ59aを選択すると、ポンプ56の吐出する圧油は、外周溝54a、油通路60a、61a、62aを通って油圧室42に圧送される。そして、圧縮コイルスプリング24の付勢力に抗して弁本体21をシールリング22に対して開弁させ、圧油は油圧室43および油通路51aを通って遅角油圧室10に圧送され、さらに油通路65aを通って遅角油圧室11へ圧送される。遅角油圧室10および11内の圧油はシュー3aおよび3bに対しべーン9aおよび9bを押してべーンロータ9を反時計方向の遅角方向へ回転させるように作用する。」(第13頁第4〜11行)、「切替バルブ59の第2バルブ59bを選択すると、ポンプ56の吐出する圧油は、外周溝54b、油通路60b、61b、62bを通って油圧室47に圧送される。そして、圧縮コイルスプリング34の付勢力に抗して弁本体31をシールリング32に対して開弁させ、圧油は油圧室48および油通路51bを通って進角油圧室12に圧送され、さらに油通路65bを通って進角油圧室13へ圧送される。進角油圧室12および13内の圧油はシュー3aおよび3bに対しべーン9aおよび9bを押してベーンロータ9を時計方向の進角方向へ回転させるように作用する。」(第13頁第22行〜第14頁第1行)、「(1)切替バルブ59の第2バルブ59bを選択し、進角油圧室12および13内の圧油がシュー3aおよび3bに対してベーン9aおよび9bを押してベーンロータ9を時計方向に回転させようとするとき、図7に示す正トルクが反発し、進角油圧室12および13は正トルクの反力に応じた油圧を生じる。ポンプ56が圧送する油圧が進角油圧室12および13の油圧より大きいとき、すなわち正トルクが小さいかまたは負トルクのとき、ポンプ56が圧送する油圧はベーンロータ9をシューハウジング3に対して時計方向へ回転させるように作用する。また、遅角油圧室10および11は排出油通路58と連通しているため油圧室10および11内の油を油タンク55へ排出できるので、ベーンロータ9はシューハウジング3に対して時計方向へ回転する。つまり、カムシャフト2はタイミングプーリ1に対して進角側に回転する。進角油圧室12および13の油圧がポンプ56が圧送する油圧より大きいときすなわち正トルクが大きいとき、油圧室49の油圧は油圧室47の油圧よりも大きくなる。この油圧室47と49との差圧により逆止弁30が閉弁することにより、進角油圧室12および13内の油がポンプ56側へ逆流することが防止されるので、進角油圧室12および13の油圧は低下しない。このため、ベーンロータ9はシューハウジング3に対して反時計方向へ回転することを防止され静止する。従って、カムシャフト2はタイミングプーリ1に対して反時計方向に戻ることなく時計方向のみに断続的に回転し、その結果カムシャフト2が駆動する吸排気バルブの開閉時期が早められる。(2)切替バルブ59の第1バルブ59aを選択してベーン9aおよび9bを押してべーンロータ9をシューハウジング3に対して反時計方向に回転させようとするとき、図7に示す負トルクが反発している。前記同様に負トルクが小さいかまたは正トルクのとき、ベーンロータ9はシューハウジング3に対して反時計方向へ回転し、負トルクが大きいときベーンロータ9は静止する。従ってカムシャフト2はタイミングプーリ1に対して反時計方向の遅角方向のみに断続的に回転し、その結果カムシャフト2が駆動する吸排気バルブの開閉時期が遅められる。」(第14頁第21行〜第15頁第20行)、「カムシャフト102は、回転伝達部材であるタイミングプーリ1から駆動力を伝達され、」(第17頁第26〜27行)、「インロー部109cはカムシャフト102の先端部102aに同軸に嵌合し、」(第18頁第16〜17行)、「従って、Co=180o-(Ao十Bo)≒180o-2Aoの角度範囲に形成される扇形状空間部を極力専有するように扇形状のべーン109aおよび109bを形成すれば、ベーンロータ109の外周壁とシューハウジング103の内周壁との摺動クリアランス、特にクリアランス16におけるシール長が長くなる。すると、第1実施例および第2実施例で用いたシール部材72を取付けなくても、ベーンロータ109の最外径部における遅角油圧室10と進角油圧室13、遅角油圧室11と進角油圧室12との間の油漏れを低減することができる。また、フロントプレート4およびリアプレート5がべーンロータ109と軸方向に対向する端面とべーンロータ109の両端面との間に形成される摺動クリアランスを、ベーン109aおよびべーン109bの軸方向の両端面により良好にシールできる。このため、各油圧室間の油漏れが低減されることにより、応答性の良い高精度な吸排気弁の開閉制御が可能である。」(第20頁第13〜26行)、及び「第4実施例でも第3実施例と同様に、Co=180o-(Ao+Bo)≒180o-2Ao の角度範囲に形成される扇形状空間部を極力専有するように扇形状のべーン209aおよび209bを形成している。これにより、各油圧室間の油漏れが低減されるので、応答性の良い高精度な吸排気弁の開閉制御が可能である。」(第24頁第4〜8行)と記載されている。上記各記載並びに図1のエンジン用バルブタイミング調整装置、図2ないし図4の断面図、図5ないし図6の模式図、図7の説明図、図10のエンジン用バルブタイミング調整装置、図11ないし図12の断面図及び図13のエンジン用バルブタイミング調整装置の記載からみて、刊行物1には、
内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを調節するための可変バルブタイミング機構であって、吸気バルブ及び排気バルブの何れか一方を駆動するためのカムシャフト2、102と、そのカムシャフト2、102の先端(先端部2a、102aの先端でもある。)に固定され、外方へ突出するベーン9a、9b、109a、109bを有する第1の回転体と、前記カムシャフト2、102の外周に摺動回転可能に設けられ、前記第1の回転体を囲むとともに、内周に凹部を有し、同第1の回転体に対して相対的に回転可能な第2の回転体と、前記べーン9a、9b、109a、109bはその凹部を進角油圧室12、13と遅角油圧室10、11とに区画することと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフト2、102の回転位相を進めるべく前記進角油圧室12、13に流体圧力を供給するための油通路60b、61b、62bと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフト2、102の回転位相を遅らせるべく前記遅角油圧室10、11に流体圧力を供給するための油通路60a、61a、62aとを備えた内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記油通路60b、61b、62bは前記カムシャフト2、102の先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記進角油圧室12、13に連通されるとともに、前記油通路60a、61a、62aは前記カムシャフト2、102の先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記遅角油圧室10、11に連通される内燃機関の可変バルブタイミング機構、
流体圧室間の間隔を大きくすることにより流体の漏れを低減させ、各圧力室に対して所望の圧力を供給し、可変バルブタイミング機構の応答性を向上させること、
内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の回転体は前記カムシャフト2、102の先端(先端部2a、102aの先端でもある。)に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーン9a、9b、109a、109bとを有し、油通路60b、61b、62bは前記カムシャフト2、102の先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向(図1の油通路61bとその内側に図示される破線による円とを結ぶ破線の部分、図2及び図4に図示される油通路60bと油通路61bとの接続部分)に延びて(さらに他の方向へも延びて、進角油圧室13に対しては油通路65bをも介して)前記進角油圧室12、13に開口するものであること、
及び
内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第2の回転体はその一側面が前記進角油圧室12、13及び前記遅角油圧室10、11の壁面となる(リア)プレート5を別部材として有すること、
が記載されている。
刊行物2(特許異議申立人高島雄二が提出した甲第2号証である特開平7-238806号公報)には、「本発明に係る可変バルブタイミング装置は、カムシャフトの一端に回転自在に取り付けたプーリと、カムシャフトの一端に突設されたベーンと、前記プーリに形成され、前記べーンによって周方向に仕切られた油圧室と、この油圧室の油圧を制御する油圧手段とを備えている。そして、プーリにはクランクシャフトの回転がタイミングベルトを介して伝達される。【0006】以上の構成において、プーリとカムシャフトとはべーンによって一体的に回転可能に結合され、カムシャフトはタイミングベルトから伝達される回転力によってプーリと同期して回転する。カムシャフトの位相を遅らせるには、油圧手段によってベーンをプーリの回転方向上流側に移動させる。一方、カムシャフトの位相を進ませるには、油圧手段によってべーンをプーリの回転方向下流側に移動させる。」(第2頁第1欄第45行〜同頁第2欄第9行)、「前記油圧室15,16は、ベーン3によって周方向に仕切られており、遅角側にポートP1,P3が形成され、進角側にポートP2,P4が形成され、中央部にスリット状のポートP5が形成されている。ポートP5に対してはべーン3の側部に形成されたくさび状の開口3aが対向する。【0011】図3は油圧機構30とその制御部、図4は油路の構成を示す。ポートP1はカムシャフト1に形成された油路5を通じて作動油供給部31に連通し、ポートP2は油路6を通じて作動油供給部31に連通している。」(第2頁第2欄第33〜43行)、「カムシャフト1には、油圧室15に連通するポートP6と、油圧室16に連通するポートP7が形成されている。」(第3頁第4欄第2〜4行)、及び「(他の実施例)なお、本発明に係る可変バルブタイミング装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更可能である。特に、油路の構成や油圧機構30の構成は任意である。」(第3頁第4欄第29〜32行)と記載されている。上記各記載、並びに図1の概略斜視図、図4の断面図、図6の説明図、及び図7の断面図の記載からみて、刊行物2には、
内燃機関の可変バルブタイミング機構において、(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の回転位相を遅らせるべく第2の圧力室に流体圧力を供給するための通路としての)油路6は(カムシャフト1に固定される第1の回転体に対する)第2の回転体が摺動回転可能なカムシャフト1の外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて(ポートP2を介して、第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の流体圧力を供給され回転位相を遅らせるべき第2の室としての)油圧室16に連通されること、
内燃機関の可変バルブタイミング機構において、(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の回転位相を遅らせるべく第2の圧力室に流体圧力を供給するための通路としての)油路6はカムシャフト1の外周面に形成された開口から(カムシャフト1に固定される第1の回転体に対する)第2の回転体の内部に延びて(カムシャフト1自体である)ボスよりも外周側の位置にて(ポートP2を介して、第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の流体圧力を供給され回転位相を遅らせるべき第2の室としての)油圧室16に開口するものであること、
及び
内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の回転位相を遅らせるべく第2の圧力室に流体圧力を供給するための通路としての)油路6は前記(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の流体圧力を供給され回転位相を遅らせるべき第2の室としての)油圧室16に開口するプレートの開口部を通じて前記(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の流体圧力を供給され回転位相を遅らせるべき第2の室としての)油圧室16に連通されること、
が記載されている。

3.対比及び判断
〈請求項1に係る発明について〉
請求項1に係る発明と、刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「カムシャフト2、102」、「ベーン9a、9b、109a、109b」、「進角油圧室12、13」、「遅角油圧室10、11」、「油通路60b、61b、62b」、「油通路60a、61a、62a」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「カムシャフト」、「ベーン」、「第1の圧力室」、「第2の圧力室」、「第1の通路」、「第2の通路」に対応するので(請求項2ないし4に係る発明の各事項についても同様に対応する。)、両者は、
内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを調節するための可変バルブタイミング機構であって、吸気バルブ及び排気バルブの何れか一方を駆動するためのカムシャフトと、そのカムシャフトの先端に固定され、外方へ突出するベーンを有する第1の回転体と、前記カムシャフトの外周に摺動回転可能に設けられ、前記第1の回転体を囲むとともに、内周に凹部を有し、同第1の回転体に対して相対的に回転可能な第2の回転体と、前記べーンはその凹部を第1の圧力室と第2の圧力室とに区画することと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記第1の圧力室に連通されるとともに、前記第2の通路は前記カムシャフトの面に開口し同開口から回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通される内燃機関の可変バルブタイミング機構、
の点で一致し、
(イ)請求項1に係る発明では、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通されるのに対し、刊行物1に記載された発明では、前記第2の通路は前記カムシャフトの先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通される点、
で相違している。
相違点(イ)について検討する。刊行物2に記載された発明の「油路6」、「カムシャフト1」、「油圧室16」は、それぞれ、請求項1に係る発明の「第2の通路」(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の回転位相を遅らせるべく第2の圧力室に流体圧力を供給するための通路としての機能からみて)、「カムシャフト」、「第2の圧力室」(第2の室に流体圧力を供給し、第1の室の流体圧力を低減させ、回転位相を遅らせる場合、の流体圧力を供給され回転位相を遅らせるべき第2の室としての機能からみて)に対応するので(請求項2ないし4に係る発明の各事項についても同様に対応する。)、内燃機関の可変バルブタイミング機構において、第2の通路は第2の回転体が摺動回転可能なカムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて第2の圧力室に連通されることが刊行物2に記載されている。しかも、刊行物1及び2記載の発明は、内燃機関の可変バルブタイミング機構という同一技術分野に属するものであり、刊行物2には、「油路の構成・・・は、任意である。」(第3頁第4欄第32行)ことが記載され、通路の構成は、設計の必要性に応じて適宜行われるべきことを示唆しており、また、刊行物1及び2記載の発明を組み合わせることに阻害事由もみあたらないので、両発明を組み合わせることに格別の困難性はない。
そして、先端面に開口した通路と外周面に開口した通路のいずれの通路を第1の圧力室と第2の圧力室のいずれの圧力室に対応させるかは、内燃機関の可変バルブタイミング機構に望まれる効果(例えば、負荷、回転速度等に応じてバルブタイミングを可変にする場合に、設定負荷、回転速度等を検出してからの応答時間を進角側への動作と遅角側への動作とでできるだけ同じくするか、進角側への応答時間と遅角側への応答時間のいずれか一方を他方より早めるか等)に基づいて、負荷(刊行物1記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構では図7に記載されているカムシャフトの回転角(位相角)に対する負荷。負トルクを有する部分を含んでいる。)を考慮して、流体通路全体に存在する流体通路抵抗要素・流体漏れ要素を斟酌しつつ、適宜選択されるべき設計事項である(例えば、負荷により応答時間を遅らせられる通路が第1の通路であり、応答時間を早めたければ、第1の通路の流体通路全体としての流体通路抵抗を小さくまたは流体漏れを少なくしつつ、第1の通路に流体通路抵抗の小さい又は流体漏れの少ない流体通路抵抗要素・流体漏れ要素(例えば、流体流路抵抗が小さく流体漏れが少なく設計製作された先端面の開口)を採用すること、又は、遅角側への動作の応答時間を進角側への動作の応答時間より早くすることが可変バルブタイミング機構に望まれる効果とすれば、各通路の流体通路全体の流体通路抵抗・流体漏れを考慮しつつ、流体通路抵抗の小さい要素、流体漏れの少ない要素を第2の通路に採用することは設計事項である。)。
したがって、刊行物2記載の技術事項を刊行物1に記載された内燃機関の可変バルブタイミング機構に適用し、もって、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通されることは、当業者が容易になしえたことである。
次に、効果の予測性について、検討する。a)刊行物1には、流体圧室間の間隔を大きくすることにより流体の漏れを低減させ、各圧力室に対して所望の圧力を供給し、可変バルブタイミング機構の応答性を向上させることが記載されており、供給側の流体と排出側の流体との間の間隔を広げることにより、流体の漏れを低減し、可変バルブタイミング機構の応答性を向上することが記載されているので、刊行物2記載の技術事項を刊行物1に記載された内燃機関の可変バルブタイミング機構に適用し、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通されることにより、可変バルブタイミング機構の応答性を向上することができるとの効果は、刊行物1及び2に記載された発明から当業者であれば予測できるものであり、b)カムシャフト先端面における空洞低減による剛性の向上は、一般に空洞を有する部材に対しその空洞を有しない部材の方が剛性が向上することは、技術常識であるから、当業者であれば、予測できることである。
請求項1に係る発明を特定する事項によってもたらされる他の効果も、刊行物1及び2に記載された発明及び技術常識から当業者であれば予測できる程度のものである。
〈請求項2に係る発明について〉
請求項2に係る発明で新たに限定された「前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーンとを有し、前記第2の回転体の内周面と前記カムシャフトの外周面との境界が前記ボスの側面によって隠れるように、前記カムシャフトにおいて前記第2の回転体が摺動回転可能に設けられる部分の外径が前記ボスの外径よりも小さく設定される」点の内、「境界が前記ボスの側面によって隠れるように」される点について、検討する。刊行物1には、カムシャフト2、102は境界を越え延在しており、境界はボスの側面及びボスのインロー部9c、109cによって隠れるようにされており、「境界が前記ボスの側面によって隠れるように」されることについては刊行物1に記載されていない。そして、奏する効果であるシール効果について前提となる、請求項1(請求項2は請求項1を引用している)の「前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し」に示される境界での通路の開口についても記載がない。刊行物2及び異議申立人高島雄二が提出した甲第1号証である特開平6-299812号公報にも「境界が前記ボスの側面によって隠れるように」の点について、記載も示唆もされていない。そして、この構成により、明細書記載の効果、すなわち、「カムシャフト25の先端面において、カムシャフト25の外周面231とプレート23の内周面211との間の境界はボス27によりシールされている。」(本件特許公報の段落【0060】参照)という効果を奏するものである。そして、当業者が容易に想到できる根拠も見あたらない。してみると、請求項2に係る発明は刊行物1及び2並びに異議申立人高島雄二が提出した甲第1号証である特開平6-299812号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
〈請求項3に係る発明について〉
請求項3に係る発明で新たに限定された「前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーンとを有し、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向に延びて前記第1の圧力室に開口するものであり、前記第2の通路は前記カムシャフトの外周面に形成された開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記ボスよりも外周側の位置にて前記第2の圧力室に開口するものである」点について、検討する。内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたべーンとを有し、第1の通路は前記カムシャフトの先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向に延びて前記第1の圧力室に開口するものであることは、刊行物1に記載されており、内燃機関の可変バルブタイミング機構において、第2の通路はカムシャフトの外周面に形成された開口から第2の回転体の内部に延びてボスよりも外周側の位置にて第2の圧力室に開口するものであることは、刊行物2に記載されているので、請求項3に係る発明は、上記請求項1に係る発明について示したと同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたことである。
そして、請求項3に係る発明を特定する事項によってもたらされる効果も刊行物1及び2に記載された発明及び技術常識から当業者であれば予測できる程度のものである。
〈請求項4に係る発明について〉
請求項4に係る発明で新たに限定された「前記第2の回転体はその一側面が前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室の壁面となるプレートを別部材として有し、前記第2の通路は前記第2の圧力室に開口する前記プレートの開口部を通じて前記第2の圧力室に連通される」(「別部材のプレートを有し」ではなく「プレートを別部材として有し」と記載されている。)点について、検討する。刊行物1に記載された発明の「(リア)プレート5」は請求項4に係る発明の「プレート」に対応するので、内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第2の回転体はその一側面が前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室の壁面となるプレートを別部材として有することは、刊行物1に記載されており、内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第2の通路は前記第2の圧力室に開口するプレートの開口部を通じて前記第2の圧力室に連通されることは、刊行物2に記載されている。請求項4に係る発明は、上記請求項1に係る発明について示したと同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になしえたことである。
そして、請求項4に係る発明を特定する事項によってもたらされる効果も刊行物1及び2に記載された発明及び技術常識から当業者であれば予測できる程度のものである。

なお、特許権者は、平成14年4月24日付け特許異議意見書第4頁第26〜27行で「可変バルブタイミング機構にあっては、カムシャフトのトルクの作用により常に遅角側に戻ろうとする強制力を受けている」と指摘しているが、この指摘は、請求項1に係る発明を特定する事項に基づく主張とは認められず、当該指摘に基づく主張は採用できない。カムシャフトは、カムの形状、位相角、カムシャフトの回転速度等により変化する強制力を受けるものでもあり得る(例えば、取消理由で挙示した、同じく可変バルブタイミング機構を記載している前記刊行物1の回転角(位相角)に関する第14頁第21行〜第15頁第20行及び第7図等の記載参照。)ところ、上記指摘は、請求項1に係る発明を特定する事項において常に生ずる事象であるとされる根拠は開示されていない(さらに、図1及び6並びに段落【0031】の「両カムシャフト14,70は複数のカム75を有する。カムシャフト14のカム75の下方には吸気バルブ77が配置され、カムシャフト70のカム75の下方には排気バルブ78が配置されている。」の記載も、上記指摘が常に生ずる事象であることを開示しているとは、認められない。)。
同じく、同意見書第6頁第24〜25行で「刊行物1に記載された発明とは、上記ベーン式の可変バルブタイミング機構に特有のいわば平面性、対称性に鑑みて」、同意見書第7頁第11行で「相対的により強力にアシスト」と主張しているが、刊行物1には、第1の通路と第2の通路について個別的な流体通路抵抗要素・流体漏れ要素としては(幾何学的)対称性がないことが記載されている(図11等参照)。そして、駆動力については、個々の流体通路要素の先端面の開口、及び外周面の開口等の対称性のみが問題なのではなく、流体通路全体における、流体通路抵抗が大きいほどそして流体漏れが多いほど駆動力が減衰する(同意見書第4頁第24行でも「上記各通路への流体供給条件が同一であれば」として、全体通路を考慮せねばならないことを示唆している。但し、実施例とされる図3、5、7、9、及び10において、「各通路への流体供給条件が同一であ」るかは明確ではない。)のであり、駆動力についての主張は、先端面の開口、外周面の開口について製作精度等個別の流体通路抵抗・流体漏れ要素としてどの程度のものであるか等の設計事項が限定され、しかも通路全体の流体通路抵抗・流体漏れが限定された上でなされるべきところ、請求項1に係る発明においては、流体通路抵抗・流体漏れの限定はなされていないので、当該主張は、請求項1に係る発明を特定する事項に基づく主張とは認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、3及び4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2に係る発明の特許については、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできないし、また、他に取消しの理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
内燃機関の可変バルブタイミング機構
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを調節するための可変バルブタイミング機構であって、吸気バルブ及び排気バルブの何れか一方を駆動するためのカムシャフトと、そのカムシャフトの先端に固定され、外方へ突出するベーンを有する第1の回転体と、前記カムシャフトの外周に摺動回転可能に設けられ、前記第1の回転体を囲むとともに、内周に凹部を有し、同第1の回転体に対して相対的に回転可能な第2の回転体と、前記ベーンはその凹部を第1の圧力室と第2の圧力室とに区画することと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング機構において、
前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記第1の圧力室に連通されるとともに、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通される
ことを特徴とする内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項2】前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたベーンとを有し、
前記第2の回転体の内周面と前記カムシャフトの外周面との境界が前記ボスの側面によって隠れるように、前記カムシャフトにおいて前記第2の回転体が摺動回転可能に設けられる部分の外径が前記ボスの外径よりも小さく設定される
請求項1記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項3】前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたベーンとを有し、
前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向に延びて前記第1の圧力室に開口するものであり、
前記第2の通路は前記カムシャフトの外周面に形成された開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記ボスよりも外周側の位置にて前記第2の圧力室に開口するものである
請求項1記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【請求項4】前記第2の回転体はその一側面が前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室の壁面となるプレートを別部材として有し、
前記第2の通路は前記第2の圧力室に開口する前記プレートの開口部を通じて前記第2の圧力室に連通される
請求項3記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンに設けられた吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを変更するための可変バルブタイミング機構に係る。詳しくは、流体圧力を用いて駆動される可変バルブタイミング機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンに設けられた可変バルブタイミング機構(以下、「VVT」と書き表す。)は、カムシャフトの回転位相を変更し、吸気バルブ又は排気バルブのバルブタイミングを調節する。このVVTの動作により、バルブタイミングがエンジンの運転状態(負荷、回転速度等)に応じて最適化され、運転状態の変化の広範囲にわたってエンジンの燃費、出力及びエミッションが改善される。
【0003】
特開平6-330712号公報はこの種のVVTの一例を開示する。このVVTはヘリカルギア式である。同VVTでは、ヘリカルスプラインを含むリングギアを移動することにより、プーリに対するカムシャフトの回転位相が変更され、同カムシャフトにより駆動されるバルブのバルブタイミングが調節される。
【0004】
また、特開平5-113112号公報はベーン式のVVTの一例を開示する。このベーン式のVVTでは、油圧を用いてプーリに対してロータを相対的に回転させることにより、同プーリに対するカムシャフトの回転位相が変更される。これにより、同カムシャフトにより駆動されるバルブのバルブタイミングが調節される。このベーン式VVTは、ヘリカルギア式のVVTと比較してカムシャフトの軸方向の長さを低減することができるという利点を有している。
【0005】
一般に、ベーン式のVVTは、図10及び図11に示す構造を有する。図10はそのVVTを示す縦断面図であり、図11は図10の13-13線に沿った断面図である。
【0006】
図10に示すように、VVT80はカムシャフト84の先端に設けられている。カムシャフト84はその先端にボルト孔841を有し、同カムシャフト84の先端にはボルト85によりロータ82が固定されている。スプロケット81は同ロータ82を囲むように配置されており、同スプロケット81はロータ82及びカムシャフト84に対して相対回転可能である。スプロケット81はチェーン(図示しない)によりクランクシャフト(図示しない)に連結されている。
【0007】
図11に示すように、スプロケット81は内方に突出する複数の凸部811を備え、隣接する2つの凸部811は凹部812を形成する。ロータ82は複数のベーン821を備え、各ベーン821は凹部812内に収容されている。各ベーン821は凹部812を区画し、ベーン821の両側にそれぞれ第1及び第2の油圧室831,832を形成する。
【0008】
カムシャフト84内に形成された油路842を通じて第1の油圧室831に油圧が供給されることにより、ロータ82はスプロケット81に対して相対的に時計方向へ回転される。これに対して、カムシャフト84内に形成された油路843を通じて第2の油圧室832に油圧が供給されることにより、ロータ82はスプロケット81に対して相対的に反時計方向へ回転される。このロータ82の相対回転に伴い、スプロケット81(クランクシャフト)に対するカムシャフト84の回転位相が変更され、同カムシャフト84によって駆動されるバルブ(図示しない)のバルブタイミングが調節される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
VVT80にあって、油路842,843は同一の平面、即ちカムシャフト84の先端面86において開口しており、その油路842,843の開口部が互いに近接している。従って、油路842と油路843との間のシール性が低く、油路842に供給される油が油路843へ漏れたり、或いは油路843に供給される油が油路842へ漏れることがある。そのような場合には、各油圧室831,832では所望の油圧が得られないため、VVT80の応答性が低下するという問題がある。
【0011】
この発明は上述した実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、流体圧力を用いて駆動される可変バルブタイミング機構を前提とし、その応答性を向上することの可能な内燃機関の可変バルブタイミング機構を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一方のバルブタイミングを調節するための可変バルブタイミング機構であって、吸気バルブ及び排気バルブの何れか一方を駆動するためのカムシャフトと、そのカムシャフトの先端に固定され、外方へ突出するベーンを有する第1の回転体と、前記カムシャフトの外周に摺動回転可能に設けられ、前記第1の回転体を囲むとともに、内周に凹部を有し、同第1の回転体に対して相対的に回転可能な第2の回転体と、前記ベーンはその凹部を第1の圧力室と第2の圧力室とに区画することと、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路とを備えた内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に開口し同開口から前記第1の回転体の内部に延びて前記第1の圧力室に連通されるとともに、前記第2の通路は前記第2の回転体が摺動回転可能な前記カムシャフトの外周面に開口し同開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記第2の圧力室に連通されることをその要旨としている。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたベーンとを有し、前記第2の回転体の内周面と前記カムシャフトの外周面との境界が前記ボスの側面によって隠れるように、前記カムシャフトにおいて前記第2の回転体が摺動回転可能に設けられる部分の外径が前記ボスの外径よりも小さく設定されることをその要旨としている。
【0022】
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第1の回転体は前記カムシャフトの先端に固定されたボスと外方に突出するように同ボスの外周に設けられたベーンとを有し、前記第1の通路は前記カムシャフトの先端面に形成された開口から前記ボスの内部をその径方向に延びて前記第1の圧力室に開口するものであり、前記第2の通路は前記カムシャフトの外周面に形成された開口から前記第2の回転体の内部に延びて前記ボスよりも外周側の位置にて前記第2の圧力室に開口するものであることをその要旨としている。
【0024】
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の可変バルブタイミング機構において、前記第2の回転体はその一側面が前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室の壁面となるプレートを別部材として有し、前記第2の通路は前記第2の圧力室に開口する前記プレートの開口部を通じて前記第2の圧力室に連通されることをその要旨としている。
【0026】
【0027】
【0028】
請求項1〜4のいずれかに記載した発明の構成によれば、第1の通路を通じて第1の圧力室に対して流体圧力が供給され、第2の通路を通じて第2の圧力室に対して流体圧力が供給される。ここで、第1の通路はカムシャフトの先端面に開口し同開口から第1の回転体の内部に延びて第1の圧力室に連通されるとともに、第2の通路は第2の回転体が摺動回転可能なカムシャフトの外周面に開口し同開口から第2の回転体の内部に延びて第2の圧力室に連通されているため、第1の通路から第2の通路への流体の漏れ、或いは第2の通路から第1の通路への流体の漏れが抑制される。
【0029】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、この発明の第1の実施形態に基づく可変バルブタイミング機構(以下VVTという)を図1〜図3を参照して説明する。
【0030】
図1は、この実施形態のVVTを含む動弁機構を示す平面図である。
同図に示すように、吸気側カムシャフト14及び排気側カムシャフト70はシリンダヘッド79上に回転可能に支持されている。以下、図1の左側をカムシャフト14,70の先端側、右側をカムシャフト14,70の基端側と定義する。
【0031】
両カムシャフト14,70は複数のカム75を有する。カムシャフト14のカム75の下方には吸気バルブ77が配置され、カムシャフト70のカム75の下方には排気バルブ78が配置されている。VVT10は吸気側カムシャフト14の先端に設けられている。排気側カムシャフト70の先端に設けられた駆動ギア74と、吸気側カムシャフト11の先端に設けられた被動ギア13とは互いに噛み合っている。排気側カムシャフト70の基端にはプーリ71が設けられ、同プーリ71はタイミングベルト72を介してクランクシャフト73のプーリ76に連結されている。
【0032】
クランクシャフト73が回転されることにより、プーリ76,71及びベルト72を介して排気側カムシャフト70が回転される。排気側カムシャフト70のトルクはギア74,13を介して吸気側カムシャフト11に伝わり、同カムシャフト11が回転される。このように、両カムシャフト11,70が回転されることにより、吸気バルブ77及び排気バルブ78がそれぞれ所定のバルブタイミングで開閉される。
【0033】
図2はVVT10を示す断面図であり、図3は図2の3-3線に沿った断面図である。
図3に示すように、VVT10は、カムシャフト14と、同カムシャフト14の先端に固定されたロータ11と、同ロータ11を囲むハウジング12と、同ハウジング12に固定された被動ギア13と、ハウジング12を覆うカバー15とを備えている。
【0034】
カムシャフト14はジャーナル141を有し、カムシャフト14はそのジャーナル141においてシリンダヘッド79及びベアリングキャップ67により支持されている。カムシャフト14はその先端にボルト孔143を有する。ロータ11及びカバー15はボルト30によりカムシャフト14の先端に固定され、両者11,15はカムシャフト14と一体的に回転される。ハウジング12はロータ11を囲むように配置され、同ハウジング12はカムシャフト14及びロータ11に対して相対回転可能である。カバー15はハウジング12を覆うフランジ151を有する。
【0035】
被動ギア13はボルト31によりハウジング12の一側面に固定され、同被動ギア13はカムシャフト14及びロータ11に対して相対回転可能である。被動ギア13は肉厚のリング状をなし、その外周面には複数の歯132が形成されている。被動ギア13の内周面133は、カムシャフト14の外周面149と摺動可能である。
【0036】
図2に示すように、ハウジング12及びロータ11は組み付けられ、両者12,11は時計方向に回転される。図2に示すハウジング12及びロータ11の位置は、吸気バルブ77(図1)のバルブタイミングが最も遅らせられる初期位置である。ハウジング12は内方に突出する4つの凸部121を有し、隣接する2つの凸部121の間には凹部122が形成されている。被動ギア13は各凸部121と対応する位置において上記ボルト31により固定されている。
【0037】
ロータ11は、ボス48と、外方に突出する4つのベーン112とからなる。ボス48の外周面は凸部121の先端面に接する。4つのベーン112は略90度間隔で設けられ、各ベーン112はハウジング12の凹部122内に収容されている。ベーン112は凹部122を区画しており、ベーン112の回転方向の両側に第1及び第2の油圧室101,102が形成される。第1の油圧室101はベーン112の回転方向と反対側に位置し、第2の油圧室102はベーン112の回転方向の側に配置されている。ベーン112を相対的に回転させるために、油圧が各油圧室101,102に供給される。ベーン112の先端には、シール123と、同シール123をハウジング12の内周面に向かって付勢する板バネ124とが設けられている。それらシール123及び板バネ124は第1の油圧室101と第2の油圧室との間をシールする。
【0038】
次に、第1及び第2の油圧室101,102に油圧を供給するための構造を説明する。
図3に示すように、カムシャフト14内には、軸方向に延びる2本の油路145,147が形成されている。同様に、シリンダヘッド79内には2本の油路36,37が形成されている。シリンダヘッド79及びベアリングキャップ67の内周面にはリング状の油溝18,19が形成されている。カムシャフト14内に形成された油孔144は油路145と油溝18とを連通し、同カムシャフト14内に形成された油孔146は油路147と油溝19とを連通する。カムシャフト14の先端には環状のチャンバー114が形成されている。ロータ11のボス48には放射状に延びる4つの連結路115が形成され、各連結路115はチャンバー114と第1の油圧室101(図2)とを連通する。カムシャフト14の外周面149にはリング状の油溝142が形成されている。カムシャフト14内に形成された油孔148は油路147と油溝142とを連通する。被動ギア13内には放射状に延びる4本の連結路134が形成され、同連結路134は油溝142と第2の油圧室102(図2)とを連通する。油路36、油溝18、油孔144、油路145、チャンバー114及び連結路115を通じて、第1の油圧室101に油圧が供給される。これに対して、油路37、油溝19、油孔146、油路147、油孔148、油溝142及び連結路134を通じて第2の油圧室102に油圧が供給される。
【0039】
上述したように、カムシャフト14の先端部にはいくつかの空洞が形成されているが、カムシャフト14の先端面には油路145及びボルト孔143のみが開口し、カムシャフト14の外周面149には油溝142が開口している。
【0040】
ここで、カムシャフト14の外周面149と被動ギア13の内周面133との間には、カムシャフト14と被動ギア13との相対回転を許容する若干のクリアランスが形成されている。
【0041】
次に、第1及び第2の油圧室101,102に対して油圧を供給するためのオイルコントロールバルブ(以下OCVという)40と、VVT10の動作について説明する。
【0042】
図3に示すように、OCV40は複数のポート45a,45b,45r,45tを有し、油の供給及び排出の方向を切り換え、第1及び第2のポート45a,45bから各油圧室101,102に供給される油圧を調整する。OCV40は、電磁式アクチュエータ41と、ケーシング45と、同ケーシング45内に設けられたスプール44と、同スプール44に連結されたプランジャ43と、スプール44を付勢するコイルスプリング42とを備える。アクチュエータ41をデューティ制御することにより、スプール44は軸方向に往復移動される。このスプール44の移動により、油の供給量が調整される。
【0043】
供給ポート45tは油圧ポンプ46を介してオイルパン47に接続されており、第1及び第2のポート45a,45bはそれぞれ油路36,37に接続されている。ドレインポート45rはオイルパン47に連通する。スプール44は円筒状の弁体であり、油の流れを妨げるランド44aと、油の流れを許容するパセージ44b,44cとを有している。
【0044】
OCV40の作動により、ポンプ46によって吸引及び吐出された油は、供給ポート45t及び第1のポート45aを通じて油路36へ供給されたり、供給ポート45t及び第2のポート45bを通じて油路37へ供給されたりする。第1のポート45aから油が供給された場合、その油は第1の油圧室101に対して供給され、同第1の油圧室101内の油圧が増大される。これと同時に、第2の油圧室102内の油は油路37を通じて第2のポート45bへ排出され、同第2の油圧室102内の油圧は低減される。同様に、第2のポート45bから油が供給された場合、第2の油圧室102内の油圧が増大される。同時に、第1の油圧室101内の油は油路36を通じて第1のポート45aへ排出され、同第1の油圧室101内の油圧が低減される。また、第1及び第2のポート45a,45bを閉塞することにより、両ポート45a,45bからの油の供給、或いは両ポート45a,45bへの油の排出が停止される。
【0045】
上述したように、第1の油圧室101に油圧を供給することにより、ロータ11及びカムシャフト14には捻り力が付与され、両者11,14は図2に示す初期位置から図2の時計方向へ相対的に回転される。この結果、被動ギア13及びクランクシャフト73(図1)に対するカムシャフト14の回転位相は変更され、同カムシャフト14により駆動される吸気バルブ77(図1)のバルブタイミングが進められる。ベーン112が凸部121と当接することにより、ロータ11の相対回転は規制される。この場合、吸気バルブ77(図1)のバルブタイミングは最も進められた状態となる。
【0046】
これに対して、第2の油圧室102に油圧を供給することにより、ロータ11及びカムシャフト14には捻り力が付与され、両者11,14は図2の反時計方向へ相対的に回転される。この結果、被動ギア13及びクランクシャフト73(図1)に対するカムシャフト14の回転位相は変更され、吸気バルブ77(図1)のバルブタイミングが遅らせられる。ロータ11が図2に示す初期位置まで回転するので、吸気バルブ77(図1)のバルブタイミングは最も遅らされた状態となる。
【0047】
ここで、カムシャフト14の油溝142に供給された油は、カムシャフト14の外周面149と被動ギア13の内周面133との間のクリアランスに供され、その油は被動ギア13に対するカムシャフト14の相対回転を円滑にする。
【0048】
OCV40の制御により、上記各油圧室101,102内の油圧を2値的に調節することにより、吸気バルブ77のバルブタイミングは最遅角位相又は最進角位相に変更される。または、上記各油圧室101,102内の油圧を連続的に調節することにより、吸気バルブ77のバルブタイミングは最遅角位相又は最進角位相との間で連続的に変更されてもよい。
【0049】
以上詳述したように、この実施形態では、カムシャフト14の先端面には、油路145及びボルト孔143のみが開口し、油溝142はカムシャフト14の外周面149に開口している。2つの油圧室に連通する全ての油路と、ボルト孔とがカムシャフトの先端面に開口する従来のカムシャフトと異なり、このカムシャフト14は先端部に形成された空洞が低減されているため、同カムシャフト14の剛性を向上させることができる。
【0050】
この実施形態では、第1の油圧室101に開口する連結路115と、第2の油圧室102に開口する連結路134との間の間隔が、従来のVVTのそれよりも広げられている。したがって、連結路134から第1の油圧室101への油漏れ、或いは連結路115から第2の油圧室102への油漏れが低減され、各油圧室101,102間の油圧干渉を防止することができる。このため、各油圧室101,102に対して所望の油圧を供給し、VVT10の応答性を向上させることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に基づくVVTを図4及び図5を参照して説明する。この実施形態では、上記第1の実施形態のVVT10と同一の部材には同一の番号を付し、上記第1の実施形態と異なる点についてのみ説明する。この実施形態では、カムシャフト14の先端部の外径と、ロータ11のボス48の外径とが第1の実施形態とは異なる。
【0052】
図5に示すように、カムシャフト14の先端部の外径φBは、ロータ11のボス48の外径φAよりも小さく設定されている。これにより、カムシャフト14の先端面において、同カムシャフト14の外周面149と被動ギア13の内周面133との境界は、ボス48の一側面によりシールされる。従って、その境界は、第1及び第2の油圧室101,102(図4)に露出しない。
【0053】
この実施形態においても、カムシャフト14の外周面149と被動ギア13の内周面133との間には、カムシャフト14と被動ギア13との相対回転を許容する若干のクリアランスが形成されている。このクリアランスに油が供給されることにより、被動ギア13に対するカムシャフト14の相対回転が円滑化される。
【0054】
この実施形態では、カムシャフト14の先端面において上記クリアランスがシールされているため、そのクリアランスからの油漏れを防止することができる。このため、各油圧室101,102に対して所望の油圧を供給し、その正確な油圧の供給により、VVT16の応答性及び作動性を更に向上することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態に基づくVVTを図6〜図8を参照して説明する。
図6は、この実施形態のVVTを有するエンジンを示す正面図である。
【0056】
同図に示すように、吸気側カムシャフト25、排気側カムシャフト70及びクランクシャフト73はチェーン29により連結され、チェーン29はアイドラ58,59により所定のテンションが付与されている。この実施形態のVVT20は吸気側カムシャフト25の先端に設けられている。クランクシャフト73が回転することにより、チェーン29及びスプロケット49,21,57を介して両カムシャフト25,70がクランクシャフト73と同期して回転され、吸気バルブ77及び排気バルブ78は所定のバルブタイミングで駆動される。
【0057】
図7及び図8は、VVT20を示す断面図である。
図7に示すように、VVT20は、同カムシャフト25に固定されたロータ22と、同ロータ22を囲むハウジング24と、同ハウジング24に固定されたスプロケット21と、ハウジング24を覆うカバー26とを備える。
【0058】
シリンダヘッド79に支持されたカムシャフト14は、その先端にボルト孔253を有する。ロータ22はボルト32によりカムシャフト14の先端に固定され、同ロータ22はカムシャフト14と一体的に回転される。ロータ11を囲むハウジング12は、カムシャフト14及びロータ11に対して相対回転可能に設けられている。カバー26、プレート23及びスプロケット21は、ボルト33によりハウジング24に固定されており、カバー26、ハウジング24、プレート23及びスプロケット21は一体的に回転される。
【0059】
図8に示すように、ロータ22はボス27と4つのベーン222とを有し、そのベーン222はハウジング24の凹部242を第1及び第2の油圧室101,102に区画する。カムシャフト25の先端とロータ22との間には環状のチャンバー221が形成されている。ロータ22のボス27には、放射状に延びる4つの連結路225が形成され、同連結路225はチャンバー221と第1の油圧室101とを連通する。
【0060】
図7に示すように、ロータ22のボス27の直径φAは、カムシャフト25の先端部の直径φBよりも大きく設定されているため、カムシャフト25の先端面において、カムシャフト25の外周面231とプレート23の内周面211との間の境界はボス27によりシールされている。
【0061】
カムシャフト25内に形成された油路255は、軸方向に延びる。同油路255の先端はチャンバー221に開口し、その基端は油孔254に連通する。
プレート23の一側面は第1及び第2の油圧室101,102の壁面をなし、同プレート23は第2の油圧室102に連通する4つの油孔232を有する。スプロケット21とプレート23との間には、環状のチャンバー213が形成され、同チャンバー213はカムシャフト25の外周面に形成された油溝252と油孔232とを連通する。カムシャフト25内には、ほぼ径方向に延びる油路258が形成され、同油路258は油溝252とボルト孔253とを連通する。カムシャフト25のジャーナル251には、径方向に延びる油路256が形成され、同油路256はボルト孔253と連通する。
【0062】
OCV40から油孔254、油路255、チャンバー221及び連結路225を通じて第1の油圧室101内に油圧を供給することにより、ロータ22及びカムシャフト25は図8の時計方向に相対的に回転される。これにより、同カムシャフト25により駆動される吸気バルブ77(図6)のバルブタイミングが進められる。これに対して、OCV40から油路256、ボルト孔253、油路258、油溝252、チャンバー213及び油孔252を通じて第2の油圧室102に油圧を供給することにより、ロータ22及びカムシャフト25は図8の反時計方向に相対的に回転される。これにより、同カムシャフト25により駆動される吸気バルブ77(図6)のバルブタイミングが遅らせられる。
【0063】
この実施形態においても、カムシャフト25の先端面において、カムシャフト25の外周面231とプレート23の内周面211との間のクリアランスはボス27によりシールされているため、同クリアランスからの油漏れを防止することができる。従って、各油圧室101,102に所望の油圧を供給し、VVT20の応答性及び作動性を向上することができる。
【0064】
この実施形態では、第1の油圧室101に開口する連結路225と、第2の油圧室102に開口する油孔232との間の間隔が、従来のVVTのそれよりも広げられているため、連結路225及び油孔232間での油圧の干渉が防止される。これにより、VVT20の応答性及び作動性を向上することができる。
【0065】
この実施形態では、プレート23が各油圧室101,102の一壁面をなすため、スプロケット21の直径を拡大することなく、同プレート23の直径を拡大することにより、ハウジング24の直径は拡大可能となる。このように、ハウジング24を拡大するとともに、各ベーン222の径方向の長さを長くすることにより、各ベーン222が受ける力が増大される。従って、VVT20の駆動力が増大し、カムシャフト25のトルク変動に起因するロータ22の振動を抑制することができるとともに、VVT20の応答性を向上することができる。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
尚、上記各実施形態は次のような他の実施形態に具体化することもできる。以下の別の実施形態でも、前記実施形態と同等の作用及び効果を得ることができる。
【0083】
図9に示すように、上記第3の実施形態のプレート23を省略してもよい。この場合、スプロケット21の厚みを増すことにより、チャンバー69が形成可能となる。
【0084】
上記各実施形態では、吸気バルブ77のバルブタイミングを変更したが、排気側カムシャフトにVVTを設けることにより、排気バルブのバルブタイミングを変更してもよい。
【0085】
また、上記各実施形態では、VVTを備えた吸気側カムシャフトの回転位相をクランクシャフトに対して変更したが、VVTを備えないカムシャフトの回転位相がクランクシャフトに対して変更してもよい。例えば、図1において、プーリ71は吸気側カムシャフト14の基端に設け、同プーリ71はクランクシャフト73のプーリ76とベルト72により連結する。この構成により、吸気側カムシャフト14はクランクシャフト73と同期して回転される。VVT10の作動により、排気側カムシャフト70の回転位相がクランクシャフト73に対して変更される。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【発明の効果】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、第1の通路がカムシャフトの先端面に開口し同開口から第1の回転体の内部に延びて第1の圧力室に連通されるとともに、第2の通路が第2の回転体が摺動回転可能なカムシャフトの外周面に開口し同開口から第2の回転体の内部に延びて第2の圧力室に連通されているため、両通路間での流体の漏れが低減される。従って、各圧力室に対して所望の圧力を供給し、可変バルブタイミング機構の応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく可変バルブタイミング機構(VVT)を含む動弁機構を示す平面図。
【図2】第1の実施形態に基づくVVTを示す断面図。
【図3】図2の3-3線に沿った断面図。
【図4】第2の実施形態のVVTを示す断面図。
【図5】図4の5-5線に沿った断面図。
【図6】第3の実施形態のVVTを含むエンジンを示す正面図。
【図7】同VVTを示す断面図。
【図8】図7の8-8線に沿った断面図。
【図9】他の実施形態のVVTを示す断面図。
【図10】従来のVVTを示す断面図。
【図11】図10の13-13線に沿った断面図。
【符号の説明】
10,16,20…内燃機関の可変バルブタイミング機構、11,22…ロータ、12,24…ハウジング、13…被動ギア、14,25…カムシャフト、23…プレート、48…ボス、40…オイルコントロールバルブ、46…ポンプ、121,241…凸部、122,242…凹部、101,102…油圧室、112,222…ベーン、133…内周面、134…連結路、141…ジャーナル、145,255,258…油路、148…油孔、149…外周面。
 
訂正の要旨 ア.訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】の記載について、「前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落【0012】の記載について、「前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体と前記カムシャフトとの回転位相を変更すべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」とあるのを、明りょうでない記載の釈明を目的として、「前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を進めるべく前記第1の圧力室に流体圧力を供給するための第1の通路と、前記第2の回転体に対する前記カムシャフトの回転位相を遅らせるべく前記第2の圧力室に流体圧力を供給するための第2の通路」と訂正する。
異議決定日 2002-06-19 
出願番号 特願平9-64123
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (F01L)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 村上 哲  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 亀井 孝志
清田 栄章
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3077621号(P3077621)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 内燃機関の可変バルブタイミング機構  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 博宣  

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