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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08F
管理番号 1067589
異議申立番号 異議2001-70915  
総通号数 36 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-26 
確定日 2002-11-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3091976号「光学部品用硬化性組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3091976号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3091976号は、平成2年11月15日に特許出願され平成12年7月28日にその特許の設定登録がなされ、その後、山口雅行より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求がなされ、「訂正を認める。請求項1に係る特許を取り消す。」旨の特許異議の決定がなされた(平成13年12月25日)。
特許権者は、該特許異議の決定を取り消すべき旨の訴をし、その訴は平成14年(行ケ)75号として審理された。
特許権者は、上記訴の提起後(平成14年2月18日)、願書に添付した明細書の訂正(特許請求の範囲の減縮)をすることについて審判(訂正審判)を請求し、その請求(訂正2002-39050)は、平成14年5月7日付けで、「審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」旨の審決(訂正審決)がなされ、その審決は確定した。
その審決の確定により、上記訴は、「本件発明の要旨を訂正審決による訂正前の特許請求の範囲のとおりに認定したことは、結果的に誤りであったことになり、この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」との理由により、特許異議の決定を取り消す旨の判決がなされ(平成14年9月3日判決言渡)、その判決は確定した。

[2]本件発明
上記訂正審決によると、審判請求の要旨は、特許第3091976号の明細書(願書に添付した明細書)を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正するものであり、その訂正事項は、次の訂正事項a及びbのとおりである。
訂正事項a
請求項1中の「光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く)」を、『光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く。またイソシアネートエチル(メタ)アクリレートとチオール基含有化合物とを反応させて得られる化合物を含むもの、並びにイソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル比1:2で反応させた化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート及びヘキサンジオールジアクリレートの混合物を除く)』と訂正する。
訂正事項b
平成12年4月21日付手続補正書で補正された明細書第3頁第15行(特許公報第2頁右欄第8〜9行)の「光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く)」を、『光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く。またイソシアネートエチル(メタ)アクリレートとチオール基含有化合物とを反応させて得られる化合物を含むもの、並びにイソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル比1:2で反応させた化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート及びヘキサンジオールジアクリレートの混合物を除く)』と訂正する。
本件発明は、審判請求書に添付された訂正明細書(訂正後の本件明細書)に記載された請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
『(A)光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く。またイソシアネートエチル(メタ)アクリレートとチオール基含有化合物とを反応させて得られる化合物を含むもの、並びにイソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル比1:2で反応させた化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート及びヘキサンジオールジアクリレートの混合物を除く)100重量部に対して、
(B)一般式

(式中、Xはメチル基、メトキシ基又は塩素原子を示し、nは2又は3の数を示し、Rはフェニル基またはメトキシ基を示す。)
で表わされる少なくとも1種の光重合開始剤を0.01〜0.3重量部、及び
(C)10時間半減期の温度が50〜95℃の範囲にある有機過酸化物を0.02〜0.5重量部含有してなる光学部品用光硬化性組成物。』

[3]特許異議申立ての要旨
特許異議申立人山口雅行は、甲第1号証(特開平4-80213号公報参照以下、「先願明細書1」という。)及び甲第2号証(特開平3-193313号公報参照、以下、「先願明細書2」という。)を提出し、訂正前の本件発明は、先願明細書1或いは先願明細書2に記載された発明であるので、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、本件明細書の記載は不備であるから、特許法第36条第3項或いは第4項の規定を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるから、特許を取り消すべきであると主張している。

[4]先願明細書の記載事項
先願明細書1には次の事項が記載されている。
(a)「主成分として、一般式(I)

(Rは、HまたはCH3)
の化合物とチオール基含有の化合物とを反応させて得られる化合物10〜90重量部とラジカル重合可能なモノマーもしくはオリゴマー90〜10重量部とを含むプラスチックレンズ用組成物。」(特許請求の範囲)
(b)「次にチオール基含有の化合物を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
モノチオール基含有の化合物
・・・・・・・
ジチオール基含有の化合物
1,2-エタンジチオール・・・・・これらの化合物1モルに対して一般式(I)の化合物を基本的には2倍モルとを反応させて得られる化合物。」(第3頁左上欄第1行〜第4頁左上欄第3行)
(c)「本発明のプラスチックレンズ用組成物において、一般式(I)とチオール基含有の化合物とを反応させて得られる化合物が多すぎると、高粘度となり、また、硬化物はもろくて耐衝撃性が低下する物が多い。少ないときには耐熱性、表面硬化が低下する。・・・・・上記の理由のため組成物中10〜90重量部、好ましくは、30〜70重量部とするのが良い。」(第6頁右下欄第13行〜第7頁左上欄第2行)
(d)「本発明のプラスチックレンズ用組成物の硬化に際して使用される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物・・・・・2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニフォスフィンオキシド等の光重合開始剤が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上の混合系で使用される。この重合開始剤の配合割合は樹脂成分の合計100重量部に対して、通常、0.005〜5重量部である。」(第7頁左上欄第7行〜同頁右上欄第1行)
(e)「〔実施例〕
以下、実施例及び比較例を挙げ、本件発明をさらに詳しく説明するが、これらに本発明は限定されるものではない、なお、単量体の略号は次の通りである。
・・・・・
A1 :1-イソシアネート-エチルアクリレート
・・・・・
UA1:A1とベンジルチオールとを等モル反応させたチオウレタンアクリレート
UA2:A2(注、「A1」の誤記と認められる。「A2」の記載はない。)と2,2-ビス(4-メルカプトエトキシフェニル)-プロパンを1:2モルで反応させたチオウレタンジアクリレート
M2 :メタクリル酸メチル
・・・・・
M4 :2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-メタクリロオキシエトキシフェニル)-プロパン
・・・・・
重合例1(実施例1)
UM1 60部、M2 40部、2,4,6-トリメチルベンゾイルフォスフィンオキサイド0.03部、t-ブチルパーオキシイソブチレート0.1部、トリデシルフォスフェート0.2部、2-ヒドロキシベンゾフェノン0.2部を混合し、室温でよく撹はんした後、50mmHgに減圧して10分間脱気した。
この組成物を、鏡面仕上げした径70mmの2枚のガラスを、厚み4mmになるように組合せ、周囲をポリ塩化ビニル性ガスケットで囲んだ鋳型中に注入した。
次いで、鋳型の両面から2kwの高圧水銀灯により、2000mj/cm2の紫外線を照射した後、130℃で2時間加熱した。その後、型よりレンズを脱型し、100℃で1時間加熱してアニール処理した。このようして製造したレンズを下記評価法で評価し、その結果を第1表に示した。
・・・・・
重合例2(実施例2)
UM2 50部、M4 50部、ジイソプロピールパーオキシカーボネート2部、2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.1部を混合し、室温でよく撹はんした後、50mmHgに減圧して10分間脱気した。
重合例1と同様に鋳型に注入し、35℃で6時間、50℃で4時間、70℃で3時間、85℃で5時間保存して成形した。型よりレンズを脱型し、100℃で1時間加熱してアニール処理した。このようにして製造したレンズについて重合例1(実施例1)と同様に評価し、その結果を第1表にしめした。」(第7頁右上欄第14行〜第8頁右下欄第13行)
先願明細書2には次の事項が記載されている。
(a)「活性エネルギー線の照射により、または活性エネルギー線の照射と加熱処理とを併用してモノマーを重合させプラスチックレンズを製造する方法において、活性エネルギー線の照射と照射停止とからなる予備重合工程を少なくとも一回行なった後、活性エネルギー線の照射を行なって重合を間完了させることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。」(特許請求の範囲1)
(b)「このような本発明の方法を採用することにより、凹レンズ中心部の湾曲を抑えることが可能となり、面精度の良いレンズが得られる。一方硬化に伴う応力歪を考慮せず、連続的に活性エネルギー線を照射した場合には、残留応力歪の大きなレンズとなり、面精度の悪いレンズとなる。」(第3頁左上欄第6〜11行)
(c)「本発明に用いる光開始剤としては、ベンゾインブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシアセトフェノンなどの分子内結合開裂型、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジルなどの分子間水素引抜き型等の光開始剤が使用可能である。また光増感剤としてジメチルアミノエタノールなどのアミン類を用いると光重合速度が向上する。また、有機過酸化物等の熱触媒も併用できる。」(第3頁右上欄下から第3行〜同頁左下欄第5行)
(d)「実施例4
イソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル比1:2で反応させた化合物物40重量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(東亞合成化学工業(株)製”アロニックスM-245”)36重量部、ヘキサンジオールジアクリレート25重量部、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド0.05重量部、t-ブチルパーオキシイソブチレート0.03重量部、2(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.02重量部を混合し、そのモノマー組成物を実施例1と同一のモールド型に注入した。
次いで予備重合工程としてモールド型の両面20cmの距離から3KWのメタルハライドランプにより1対のランプ間を2m/min の速度で通過させた。通過後20分間、室温で放置した。その後、連続して、1分間、前記ランプで照射を行ない、ガラス型をはずさずに110℃で1時間硬化を行ない重合を完結させた。その結果を第1表に示した。
さらに、120℃1時間のアニールを行なったレンズについて、同様な評価を行ない、その結果を第1表に示した。」(第4頁左下欄第12行〜同頁右下欄第15行)
(e)「[発明の効果]
本発明によれば、短時間光硬化レンズの欠点であった面精度の改善が著しい。これによって、プラスチックレンズの製造時間が短縮され、ガラス型の使用サイクルが増加し、ガラス型の必要個数を減らすことが可能となった。さらに、生産スペースを削減でき、生産コストの低減への貢献度は極めて高い。」(第5頁右下欄第1〜8行)

[5]対比・判断
(本件発明が特許法第29条の2の規定に該当するか否かについての検討)
本件発明と先願明細書1に記載された発明(以後、「先願発明1」という。)とを対比検討する。
先願発明1は、特定の化合物を含有するプラスチックレンズ用組成物(摘示事項a)であって、その組成物を構成する主要な化合物は、「イソシアネートエチル(メタ)アクリレートとチオール基含有化合物とを反応させて得られる化合物」であり、本件発明から除かれたものである。
そして、先願明細書1を検討しても、その特定の化合物以外の「光重合性のジエチレン性不飽和単量体」については何も記載されていない。
したがって、もはや、本件発明が先願明細書1に記載された発明と同一とすることはできない。
本件発明と先願明細書2に記載された発明(以後、「先願発明2」という。)とを対比検討する。
先願発明2は、特定のモノマー組成物を光重合してレンズを製造することが記載されているが(摘示事項d)、そのモノマー組成物は、「イソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとをモル比1:2で反応させた化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート及びヘキサンジオールジアクリレートの混合物」であり、本件発明から除かれたものである。
したがって、もはや、本件発明が先願明細書2に記載された発明と同一とすることはできない。
(本件明細書の記載が特許法第36条の規定を満たすか否かについての検討)
特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の記載が不備であるという根拠として、「オリゴマー」いう語が具体的にどのような化合物を表しているかを発明の詳細な説明の項で何も説明されていないことを挙げて、先願明細書1及び先願明細書2に記載されている樹脂成分との区別がつかないとし、また、訂正前の本件請求項1は、「光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く。)」という非常に広い表現で規定されているが、その実施例では、2つの単量体が用いられているだけであり、不当に広い範囲を包含しているとしているので、この点について検討する。
「オリゴマー」いう語は、技術的に確立した語とすることができ(特許異議申立人が提出した甲第3号証)、この語を普通の意味で解釈しても、本件発明の「光重合性のジエチレン性不飽和単量体(オリゴマーを除く。・・・・・除く)」は、先願明細書1或いは先願明細書2に記載された樹脂成分との異同を判断することができる。
また、単に特許請求の範囲の記載が実施例の記載に比して不当に広いという理由だけでは、明細書の記載が不備であるとすることはできない。
したがって、もはや、訂正後の本件明細書には、特許異議申立人が主張する明細書の記載不備はない。

[6]むすび
以上のとおりであるから、山口雅行の提出した理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-12-25 
出願番号 特願平2-307121
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 中島 次一
船岡 嘉彦
登録日 2000-07-28 
登録番号 特許第3091976号(P3091976)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 光学部品用硬化性組成物  
代理人 長谷川 曉司  

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