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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更 無効としない F04B
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 無効としない F04B
審判 全部無効 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備 無効としない F04B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない F04B
管理番号 1068707
審判番号 無効2002-35181  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-10-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-05-13 
確定日 2002-11-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3018537号発明「空気動工具用圧縮機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯・本件発明
本件特許第3018537号の請求項1に係る発明についての出願は、平成3年3月27日に出願され、平成12年1月7日にその発明について特許権の設定登録がなされたものであり、その後、願書に添付した明細書について、平成13年2月16日付けで訂正請求がなされ、さらに、平成13年6月25日に上記訂正請求についての手続補正がなされたものである。
また、当該請求項1に係る発明についての特許に対し、本件と同一の請求人から無効2001-35536号の無効審判請求がなされ、さらに、今回、無効2002-35181号として、本件無効審判が新たに請求されたものである。
そして、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求書に添付され、平成13年6月25日付け手続補正書により補正された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 空気釘打機、空気インパクトレンチ等の空気動工具を駆動する圧縮空気を生成する可搬型の空気動工具用圧縮機であって、
高圧の圧縮空気を生成し、生成した圧縮空気を空気タンクに貯め、空気タンクに各々から取出せる圧縮空気の最大圧力が異なる少なくとも2種類の減圧弁を取付け、これら減圧弁に取付けられ圧縮空気取出口を形成するソケットを互いに互換性のないソケットとし、前記少なくとも2種類の減圧弁から取出せる圧縮空気の最大圧力を、一方は7〜10kg/cm2 、他方はこれよりも高圧の10〜30kg/cm2 としたことを特徴とする空気動工具用圧縮機。」

【2】請求人の主張
請求人は、「特許第3018537号の特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、以下の「理由1」〜「理由3」をあげ、
「(a)特許異議の申立の際に請求され認容された訂正は、特許法第120条の4で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に違反するものであるから、本件特許は同法第123条第1項第8号の規定により無効とされるべきであり、また、(b)訂正後の特許明細書(以下「訂正明細書」という。)の記載は、特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反したものであるから、本件特許は同法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。」旨主張している。
・「理由1」;
『被請求人は、訂正請求により特許明細書の特許請求の範囲に記載された「圧縮機」を「可搬型の空気動工具用圧縮機」と訂正した。……… しかるに、特許明細書には「圧縮機の可搬性向上が可能となり、結果として圧縮機の操作性を向上できるようになる。」(【0013】最終文)、「圧縮機の可搬性を向上できるようになる等の作用効果を奏し得るようになる。」(【発明の効果】最終文)旨の記載はあるものの、「可搬型の」圧縮機であるとの構成は記載も示唆もされていない。しかも、特許明細書には「可搬型」の圧縮機の意味内容を説明する記載が全く存在しない。したがって、訂正請求によって、「可搬型の」との文言を加えることは、新規事項の追加にあたり、特許法第120条の4で準用する同法第126条第2項の規定に反するものである。』(審判請求書第2頁第26行〜第3頁第14行)
・「理由2」;
『本件特許の出願当初明細書には、圧縮機の可搬性および可搬型の圧縮機について開示も示唆もなかった。しかるに、訂正請求によって、特許請求の範囲に「可搬型の」圧縮機という構成が加えられたのであるから、当初明細書の特許請求の範囲の変更にあたるというべきである。仮に、特許明細書を基に訂正の可否を判断するとしても、特許明細書の特許請求の範囲には「可搬型の」圧縮機なる構成は記載されていなかったのであるから、訂正請求で特許請求の範囲に「可搬型の」圧縮機なる構成を加えることは特許請求の範囲の変更にあたるというべきである。……… したがって、本件特許は特許法第120条の4で準用する同法第126条第3項の規定に反するものであり、同法第123条第1項第8号の規定により無効とされるべきものである。』(同第3頁第16行〜第4頁第3行)
・「理由3」;
『訂正明細書の特許請求の範囲には、発明の構成要件として「可搬型の空気動工具用圧縮機」が記載されている。しかし、発明の詳細な説明には、空気動工具用圧縮機が「可搬型」であることを示す記載は全く存在しない。また、単に「可搬型」といっても、大きさ、重量等種々の態様が考えられるが、何をもって「可搬型」と称しているのか意味内容が不明である。このように、訂正明細書は、特許請求の範囲の記載が不明確であり、発明の詳細な説明も特許発明が当業者によって容易に実施できる程度に記載されていない。また、特許請求の範囲には、発明の構成要件として「互換性のないソケット」が記載されている。しかし、「互換性のないソケット」については、発明の詳細な説明に「新規なソケット」と記載されているのみであり、また、互換性のないソケットが出願時に市販されていたことは自明である。したがって、「新規なソケット」というのは、出願時に公知となっている全てのソケットを除外する概念であるとしか理解できない。そうとすれば、この「新規なソケット」の具体的構成が訂正明細書に記載されていないことになる。このように、訂正明細書は、特許請求の範囲の記載が不明確であり、発明の詳細な説明も特許発明が当業者によって容易に実施できる程度に記載されていない。したがって、本件特許は特許法第36条第4項および第6項(旧第36条第4項および第5項)の規定に反するものであり、同法第123条第1項第4号(旧第123条第1項第3号)の規定により無効とされるべきものである。』(同第4頁第5〜24行)

【3】「理由1」及び「理由2」に対する被請求人の主張
被請求人は、請求人が主張する上記「理由1」及び「理由2」に対し、以下のように主張している。
『特許法第120条の4は平成6年法律116号により追加されたものであるが、平成6年法律第116号附則第6条(明細書又は図面の補正等についての経過措置)によると、「この法律の施行前にした特許出願の願書に添付した明細書又は図面についての補正並びに補正に係る拒絶の査定及び特許の無効並びにこの法律の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面についての訂正及び訂正に係る特許の無効については、なお従前の例による。」と規定されている。 本件特許の出願日は平成3年3月27日であるから、上記の規定により従前の例によることになる。しかも、本件特許に対して適用される特許法第123号第1項第8号は存在しない。また、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第2項新規事項の追加の禁止に関する規定ではないし、同条第3項は特許請求の範囲を変更する訂正の禁止に関する規定ではない。従って請求人の主張は法の適用に誤りがあるから失当である。』(答弁書第4頁第2〜15行)

【4】特許明細書の記載事項
a.「また空気釘打機用圧縮機は可搬性が求められ、空気タンクも同様に小型軽量化が図られ、2個の空気タンクの容量をあまり大きくすることはできない。」(段落【0007】)
b.「更に空気タンクまたは補助空気タンク16を、使用できる圧縮空気の容量を少なくすることなく小型軽量化でき、圧縮機の可搬性向上が可能となり、結果として圧縮機の操作性を向上できるようになる。」(段落【0013】)
c.「更に空気タンクの小型軽量化が可能となって圧縮機の可搬性を向上できるようになる等の作用効果を奏し得るようになる。」(段落【0014】)

【5】「理由1」及び「理由2」に対する検討
[条文適用の可否について]
本件特許の出願日は、平成3年3月27日であるから、本件特許に係わる特許異議申立事件(異議2000-73433号)においてなされた、願書に添付した明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)において、「新規事項」に対する適用条文は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法改正前の特許法(平成5年法)第126条第1項ただし書であり、「特許請求の範囲の実質的変更」に対する適用条文は、 特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法改正前の特許法(平成5年法)第126条第2項であることは、上記【3】の箇所で既述した被請求人の主張のとおりである。
それゆえ、本件特許に対する本件無効審判請求において、本件訂正の違反に対する適用条文は、特許法(平成5年法)第123条第1項第7号でなければならない。
しかるに、請求人は、本件審判の「請求の理由」において、上記異議申立の際になされた本件訂正について、「新規事項」に対する適用条文を、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項とし、「特許請求の範囲の実質的変更」に対する適用条文を、 特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第3項とし、さらに、本件無効審判請求における本件訂正の違反に対する適用条文を、特許法第123条第1項第8号としている。
したがって、請求人の主張する特許法第126条及び同法第123条に関する条文の適用には、条文適用の誤りがあることは明らかである。
しかし、特許法第126条及び同法第123条に関する条文の適用が誤りであるからといって、請求人が主張する「請求の理由」は、本件無効審判における両当事者に誤解を与え、両当事者の主張に遺漏をもたらす程の重大な瑕疵をもつものとはいえず、また、被請求人も、請求人の主張する適用条文が明らかな誤解に基づくものであって、当該適用条文の記載は明らかな誤記である、と容易に解することが出来たものと認められる。
なぜなら、この点は、上記【3】の箇所で「法の適用に誤りがある」とする被請求人の主張からも窺えるからである。
したがって、請求人が記載した特許法の上記適用条文は明らかな誤記であり、しかも、これらの誤った適用条文の誤記を正し、適正な適用条文に変えたからといって、本件審判の両当事者に対し審理を中断させるような素因とならないことは、以下で述べる当審の判断、及び、本件審決の結論をみれば明らかであるから、請求人の主張する上記適用条文を、それぞれ適法の適用条文に読み替えて審理するものとする。
[検討]
そこで、請求人の主張する「理由1」及び「理由2」について検討する。
空気釘打機、空気インパクトレンチ等の空気動機器に圧縮空気を供給する圧縮機には、「可搬型」と「非可搬型(据付型)」の2種類のものがあることは、当業者にとって技術常識である。
また、本件訂正請求の基準明細書となる本件特許明細書には、上記【4】の箇所で摘記した記載事項a.〜c.に示されるように、圧縮機が可搬性を有するものであることが明確に記載されている。
特に、「圧縮機の可搬性向上が可能となり」(記載事項b.)という記載、及び、「圧縮機の可搬性を向上できる」(記載事項c.)という記載によれば、これらの記載事項に示される圧縮機は、全て、可搬性があることを前提にして、その可搬性が(さらに)向上できると記載されている、といわざるを得ない。
しかも、可搬型の圧縮機が、可搬性のある圧縮機のうちの特定のもののみを示す等の、両者に異差があるといった特段の事情も見当たらないので、「可搬性のある圧縮機」と「可搬型の圧縮機」とは同義のものと認められるから、特許明細書の記載に基づいて、特許請求の範囲に「可搬型の」という文言を付け加える訂正は、新規事項の追加に該当しないものというべきである。
したがって、特許請求の範囲に「可搬型の」という文言を付け加える訂正は、可搬型の圧縮機と非可搬型(据付型)の圧縮機とからなる「圧縮機」を、「可搬型」のものだけに限定したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、特許請求の範囲を実質的に変更するものではないものと認められる。
[まとめ]
よって、請求人の「理由1」及び「理由2」における主張は、採用できない。
したがって、本件発明の特許に係る本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合する。

【6】「理由3」に対する検討
[可搬型について]
上記【5】の箇所で述べたように、「可搬性のある圧縮機」と「可搬型の圧縮機」とは同義であり、また、「可搬型」なる文言は、日常的に使用される日本語であって、直ちに「運搬できるタイプのもの」と解されるから、当業者にとって、特にその意味を詳しく解説しなければ理解できないという程度の難解な用語ではない。
また、「可搬型」なる用語が、本件発明の技術的範囲を特定する上で、当業者に特段の困難性を与えるという事情も存在しない。
したがって、この用語の意味内容の定義が、発明の詳細な説明に記載されていないからといって、訂正明細書の特許請求の範囲の記載が不明確であり、発明の詳細な説明も特許発明が当業者によって容易に実施できる程度に記載されていない、とはいえない。
[新規なソケットについて]
本件訂正明細書の【0003】の記載によれば、少なくとも、出願人の認識としては、従来のものは、いずれも互換性のあるソケットしか用いられていなかった、と解される。
さらに、本件訂正明細書の【0011】の記載は、ソケット8に一般的なものを用いれば、ソケット9には従来のものとは異なる新たな互換性のないソケットを用いる、と解すべきであって、このように解することを妨げる特段の技術的事情も考えられない。
それゆえ、「互換性のない新規なソケット9」の意味するところは、使用されるソケットが従来の互換性のあるものに比べて互換性がないという程度である、とするのが相当である。
また、本件特許の出願時に、(互換性のない)ソケット自体のさまざまの構成は、当業者にとって周知の事項であり、さらには、本件特許の出願時に、このような周知の互換性のないソケットによって、本件発明の目的を達成できることが明らかであるから、「互換性のない新規なソケット」の具体的構成が明細書に記載されていないからといって、訂正明細書の記載が不備であるとすることはできない。
[まとめ]
よって、請求人の「理由3」における主張は、採用できない。

【7】むすび
以上のとおりであって、(a)本件訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に違反してされたものではないから、本件発明についての特許は、同法第123条第1項第7号に該当せず、また、(b)訂正明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反する不備があるものとはいえないから、同法第123条第1項第4号に該当するものでない。
したがって、本件特許を無効とすることはできない。
また、本件審判費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-09-27 
結審通知日 2002-10-02 
審決日 2002-10-16 
出願番号 特願平3-62990
審決分類 P 1 112・ 855- Y (F04B)
P 1 112・ 535- Y (F04B)
P 1 112・ 531- Y (F04B)
P 1 112・ 841- Y (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 和寛  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 氏原 康宏
清田 栄章
登録日 2000-01-07 
登録番号 特許第3018537号(P3018537)
発明の名称 空気動工具用圧縮機  
代理人 吉岡 宏嗣  
代理人 高田 修治  
代理人 井沢 博  
代理人 井坂 光明  

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