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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B32B
管理番号 1068792
審判番号 審判1997-3320  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-09-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-03-03 
確定日 2002-12-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第1861173号「複合プラスチツク成形品の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成11年7月15日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11(行ケ)年第281号平成12年9月7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1861173号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1861173号に係る発明の出願の設定登録に至る経緯は、次のとおりである。
特許出願(特願昭60-57383号)(昭和60年3月19日)
手続補正書 平成1年8月11日
出願公告(特公平2-8572号公報)(平成2年2月26日)
特許異議申立10件
手続補正書 平成3年3月29日
特許異議の決定 平成4年6月12日
拒絶査定 平成4年6月12日
拒絶査定不服審判請求 平成4年8月26日(審判平4-16259号)
尋問書 平成5年6月30日
回答書 平成5年9月28日
拒絶理由通知(面接手交)平成5年12月8日
手続補正書 平成5年12月8日
審決 平成6年1月24日
設定登録 平成6年8月8日(特許第1861173号)
そして、請求人興研株式会社より無効審判が請求され、訂正請求書の手続補正を経て、訂正拒絶理由通知に至る経緯は、次のとおりである。
無効審判請求書 平成9年3月3日(審判平9-3320号)
訂正請求書 平成9年7月7日
答弁書 平成9年7月7日
手続補正書(請求人側)平成10年2月10日
書面審理通知 平成12年2月6日
無効理由通知書 平成10年3月2日
手続補正書(被請求人側)平成10年5月8日
審判事件意見書(被請求人側)平成10年5月8日
訂正拒絶理由通知 平成10年6月26日
訂正請求意見書 平成10年9月7日
手続補正書(被請求人側) 平成10年9月7日
訂正拒絶理由通知 平成10年12月9日
訂正請求意見書(被請求人側) 平成11年1月18日
手続補正書(被請求人側) 平成11年1月18日
第2弁ぱく書(請求人側) 平成11年5月6日
審判請求理由補充書(請求人側) 平成11年5月6日
上申書(請求人側) 平成11年5月13日
訂正拒絶理由通知 平成13年4月25日

II.訂正の可否に対する判断
1.訂正請求の内容
本件訂正(平成9年7月7日付の訂正請求及び平成11年1月18日付の手続補正書により補正、ただし、平成10年5月8日付及び平成10年9月7日付手続補正書は取下げ)は、特許請求の範囲の記載を「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、何らの接着剤を使用しないで、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に融着成形させることを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法(但し融着面がオス-メス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く)。」と訂正し、平成5年12月8日付の全文訂正明細書4頁3〜11行を「即ち、本発明は、ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、何らの接着剤を使用しないで、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に融着成形させることを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法(但し融着面がオス-メス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く)である。」と訂正すること等を含むものである。
2.訂正拒絶理由通知の概要
平成13年4月25日付訂正拒絶理由通知の概要は、訂正後の特許請求の範囲に記載された発明(以下、訂正後の本件発明という。)は、刊行物2、刊行物1、刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する平成6年法律第116号によりなお従前の例によるとされる特許法134条第5項で準用する特許法126条3項の規定に適合しないというものである。
3.引用刊行物の記載
刊行物1 「プラスチックス」第34巻 第8号 第29〜35頁(1983)
刊行物2 特開昭53-56889号公報
刊行物3 米国特許第4086388号明細書
刊行物4 特公昭58-40488号公報
刊行物5 中條澄著「エンジニアのためのプラスチック教本」第264頁、1997年12月1日 株式会社工業調査会発行
には、以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1
スチレン系熱可塑性エラストマーに関して、「中間ブロックを水素添加により飽和したS-EB-Sの「クレイトンG」が脚光を浴び,注目されている。」との記載があり(第29頁左欄第25〜27行)、そしてクレイトンGについて種々の製品、すなわち、クレイトンG・ポリマーとして、G1650、G1652、G1657が記載され、さらにクレイトンGのコポリマータイプは「SEBS」であり、スチレン・エチレン・ブチレン ブロックコポリマーであること、それを含むクレイトンG・コンパウンドとして2700シリーズ、具体的にはG-2705等があること(第30頁第1表、第2表及び第32頁第4表参照)
(2)刊行物2
(2)-1.「(1)ハンドルと、ピストン相互連結部と、ピストン相互連結部に前記ハンドルを接続する軸と、前記ピストン相互連結部に着脱不可能に取り付けられたピストンとを含む注射器用プランジヤ。・・・・・(4)前記軸、ハンドルおよびピストン相互連結部が剛性のポリメリツク樹脂から作られ、且つ前記ピストンがスチレン-ブタジエン共重合体から形成されている前記特許請求の範囲第1項に記載の注射器用プランジヤ。」(特許請求の範囲第1項及び第4項)
(2)-2.「軸16と相互連結部14とは、単一の構成であることが好ましく且つ例えば剛性のポリエチレン、ポリプロピレン、・・・のような剛性のポリメリツク樹脂から作られた一体的な成形ユニツトであることがよい。」(2頁右下欄第7〜13行)
(2)-3.「ピストン28を相互連結部14によって軸16への取り付け方は、第7図の9-9線に沿って得た断面図である第9図において示されている。図示されているように、間隙24(第3図参照)には、ピストン28の本体が侵入され且つ充填され、その結果バー18a,18b,18c,18dおよび支持リング20,22がピストン28の本体にからみ合わされ且つ包囲される。このようにして、ピストン28は、相互連結部14上で回転することが不可能であるかあるいはいずれの方向においても相互連結部14の端部から引き外せないような方法で相互連結部14に固定される。」(3頁左上欄第2〜14行)
(2)-4.「ピストン28を相互連結部14から取り外す唯一つの方法は相互連結部14および/或いはピストン28の物理的な破壊によるしかない。ピストン28は、相互連結部14に弾性材のピストンを成形することによって相互連結部14上の所定の位置に成形される。例えば、適当なモールドを使用して、ハンドル12と相互連結部14とを備える予め形成された軸16が従来の技術および装置を使用してその上に射出成形された弾性材のピストン28を有する。・・・本発明のプランジヤにおける弾性材のピストンヘツド28として好適なものは、スチレン-ブタジエン共重合体弾性材(シエル化学株式会社のクレートンG-2705)から製造されたものである。」(3頁左上欄第14行ないし右上欄第11行)

刊行物1の記載によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーであるクレイトンG-2705は、スチレン・エチレン・ブチレン ブロックコポリマーであって、「SEBS」と表記されることが判明するから、刊行物2には、ハンドルと、ピストン相互連結部と、ピストン相互連結部に前記ハンドルを接続する軸と、前記ピストン相互連結部に着脱不可能に取り付けられたピストンとを含む注射器用プランジャにおいて、「SEBS」(クレイトンG-2705)を溶融してピストンを射出成形することによって、固化しているポリプロピレン成形体(予め適当なモールドを使用して形成された、ハンドル、ピストン相互連結部、ピストン相互連結部に前記ハンドルを接続する軸からなる)と一体化させる成形品の製造方法が記載されているといえる。
(3)刊行物3
(3)-1.「熱可塑性エラストマー組成物よりなるゴム状クッションと、一層がゴム状クッションに溶着したポリオレフィン層で他層が配向ポリエステルよりなる二層構成のフィルムと、そのポリエステルに接着している感圧接着剤層とよりなるクッションで、エラストマー組成物は、シェルケミカル社の「クレイトンG」が使用される」(クレーム1及び実施例参照)
(3)-2.「熱可塑性エラストマー組成物をスクリュー型押出機12のノズル10を通して押出し、・・・溶融材料14のバンクまたはニップを形成する。・・・配向ポリエステル重合体層24及びポリオレフィン層26より成る重層フィルムから成るテープ23が、・・・溶融材料14のニップ中に引かれると、ポリオレフイン層26は溶融しそして冷却時にゴム状クッション20に分離不可能に結合する。」(3欄下から第24〜2行)

刊行物1の記載によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーであるクレイトンGは、スチレン・エチレン・ブチレン ブロックコポリマーであって、「SEBS」と表記されることが判明するから、刊行物3には、「SEBS」を溶融してスクリュー型押出機で押出し、この溶融した「SEBS」に配向ポリエステル重合体層とポリプロピレン層からなる二層構成のフィルムのポリプロピレン層が接することによって、ポリプロピレンが溶融し、冷却時にポリプロピレンと「SEBS」が強力に融着することが記載されているものと認められる。
(4)刊行物4
(4)-1.「1.隣合つた熱可塑性エラストマー表面を融着する方法において、熱可塑性ブロツク・エラストマー材料をエネルギ場の存在下で熱を発生するエネルギ付勢式非導電性粒状材料と混ぜ合わせ、このブロツク・エラストマー粒子混合物を薄い固形のフイルム状要素に成形し、それを前記表面の間に置いてこれらの表面が前記エラストマー材料と密着した積重組立体を形成し、この積重組立体を10秒よりも短い時間、前記エネルギ場にさらしてエラストマー混合物の温度を融着温度まで高めることを特徴する方法。
6.・・・前記熱可塑性表面を、ポリプロピレン・・・から成るグループから選定し、前記エラストマー材料が硬質ポリスチレン・エンドブロツクとデユアルエチレン-ブチレン・センタブロツクのブロツク共重合体である・・・方法。」(特許請求の範囲第1項及び第6項)
(4)-2.「本発明者らは、特に、硬質ポリスチレン・エンドブロックをエチレン-ブチレンまたはエチレン-プロピレン-ゴムタイプのセンタブロツクと組合わせたブロツク共重合体エラストマーを用いてポリプロピレンと高密度ポリピロピレンを強力に融着できることを発見した。」(12欄第1〜6行)
(4)-3.接合剤要素としてKratonG2705等を用いること(6頁第II表)

刊行物1の記載によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーであるクレイトンGは、スチレン・エチレン・ブチレン ブロックコポリマーであって、「SEBS」と表記されることが判明するから、刊行物4には、プラスチック等の接合ないし接着技術として、SEBSの温度を融着温度まで高めることによって、ポリプロピレンとSEBSが強力に融着することが記載されているものと認められる。
(5)刊行物5
(5)-1.第7章 プラスチックの成形加工 表7.4 成形方法の種類として「射出成形」、「押出成形」、「接着(溶接を含む)」があげられていること(264頁表7.4参照)
4.対比・判断
4-1.訂正後の本件発明(前者)と刊行物2に記載された発明(後者)の対比
後者における「固化しているポリプロピレン成形体(予め適当なモールドを使用して形成された、ハンドル、ピストン相互連結部、ピストン相互連結部に前記ハンドルを接続する軸からなる)」は、前者における「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、固化」したものに相当し、後者における「「SEBS」(クレイトンG2705)を溶融してピストンを射出成形」は、「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出」に相当するから、両者は、「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、何らの接着剤を使用しないで、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に固化成形させる複合プラスチック成形品の製造方法」で一致するが、後者には、射出成形により溶融した「SEBS」がポリプロピレン成形体に融着して固定されることが明記されていない点(相違点1)、
前者は、「(但し融着面がオス-メス型の凹凸形状または入り組んだ接合面となっているものを除く)」と特定していて、後者におけるピストン相互連結部のような構造(第3図、第9図参照)を有することは除外すると規定している点(相違点2)で相違している。
4-2.相違点1について
(1)刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明の関連付けについて
刊行物2は、SEBSを溶融して射出成形することによって、固化しているポリプロピレン成形体と一体化させる技術であることは、前示認定のとおりである。一方、刊行物3には、SEBSを溶融してスクリュー型押出機で押出し、この溶融したSEBSに配向ポリエステル重合体層とポリプロピレン層からなる二層構成のフィルムのポリプロピレン層が接することによって、ポリプロピレンが溶融し、冷却時にポリプロピレンとSEBSが強力に融着することが記載されているものと認められる。
刊行物2記載の発明と刊行物3記載の発明は、いずれもプラスチックの成形加工に関する技術であるから、技術分野の親近性が非常に高いものというべきである。刊行物5(中條澄著「エンジニアのためのプラスチック教本」(1997年12月1日株式会社工業調査会発行)264頁)には、「第7章 プラスチックの成形加工 表7.4 成形方法の種類」として「射出成形」、「押出成形」、「接着(溶接を含む)」があげられていることが認められ、このことは、プラスチックの射出成形技術である刊行物2記載の発明と、プラスチックの押出成形技術ないしこれと接着技術の複合技術というべき刊行物3記載の発明の技術分野の親近性が非常に高いことを裏付けるものである。
以上のことから、刊行物2及び刊行物3に接した当業者は、刊行物3から、ポリプロピレンとSEBSが強力に融着することを認識し、刊行物2記載の発明のSEBSも、溶融して射出成形することによって、ポリプロピレン成形体に融着して固定することを容易に想到することができたものと認められる。
(2)刊行物2記載の発明と刊行物4記載の発明の関連付けについて
刊行物2記載の発明は、SEBSを溶融して射出成形することによって、固化しているポリプロピレン成形体と一体化させる技術であることは、前示認定のとおりである。一方、刊行物4には、プラスチック等の接合ないし接着技術として、SEBSの温度を融着温度まで高めることによって、ポリプロピレンとSEBSが強力に融着することが記載されているものと認められる。
刊行物2記載の発明と刊行物4記載の発明は、いずれもプラスチックの成形加工に関する技術であるから、技術分野の親近性が非常に高いものというべきである。刊行物5(中條澄著「エンジニアのためのプラスチック教本」(1997年12月1日株式会社工業調査会発行)264頁)には、「第7章 プラスチックの成形加工 表7.4 成形方法の種類」として「射出成形」、「接着(溶接を含む)」があげられていることが認められ、このことは、プラスチックの射出成形技術である刊行物2記載の発明と、プラスチックの接着技術である刊行物4記載の発明の技術分野の親近性が非常に高いことを裏付けるものである。
以上のことから、刊行物2及び刊行物4に接した当業者は、刊行物4から、ポリプロピレンとSEBSが強力に融着することを認識し、刊行物2記載の発明のSEBSも、融着温度まで高めて溶融して射出成形することによって、ポリプロピレン成形体に融着して固定することを容易に想到することができたものと認められる。
4-3.相違点2について
刊行物2のピストン相互連結部は、融着面が入り組んだ接合面となっているけれども、SEBSがポリプロピレン成形体に融着して固定するとの知見を前提にする限り、その融着面を、オス-メス型の凹凸形状又は入り組んだ接合面からそのいずれでもない接合面に変更することは、設計的事項の範囲にあるものというべきである。
4-4.むすび
したがって、訂正後の本件発明は、刊行物2、刊行物1、刊行物3及び刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
5.むすび
上記のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法等の一部を改正する平成6年法律第116号によりなお従前の例によるとされる特許法134条第5項で準用する特許法126条3項の規定に適合しないので、本件訂正を認めることはできないとした、訂正拒絶理由は妥当である。
なお、被請求人は、訂正拒絶理由通知に対して、期間内に何も応答しなかった。
III.請求人の主張
請求人は証拠方法として、甲第1〜20号証を提出して、
理由1;本件特許明細書には、甲第1〜6号証及び9〜12号証記載の事項からも明らかなとおり記載不備があるから、特許法第36条第3項及び4項の要件を満たしていない、
理由2-1 本件発明は甲第7号証に記載された発明であるから、本件発明に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである、
理由2-2;本件発明は甲第7、8及び2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとして、本件特許を取り消すべきであると主張している。
証拠方法:
甲第1号証 手続補正書 平成5年12月8日
甲第2号証 プラスチックス 第34巻第8号 第29〜35頁(昭和58年8月1日)
甲第3号証 特願昭60-57383号の特許異議の決定の写し
甲第4号証 特願昭60-57383号の審判請求書、尋問書、回答書
甲第5号証 平成4年審判第16259号審決の写し
甲第6号証 平成7年(ワ)第2708号原告準備書面の写し
甲第7号証 特開昭53-56889号公報
甲第8号証 USP4086388号明細書
甲第9号証 「広辞苑」第3版1966頁 「嵌合」株式会社岩波書店発行
甲第10号証 増渕徹夫の作成に係る陳述書
甲第11号証 益子法士の作成に係る陳述書
甲第12号証 佐伯康治の作成に係る陳述書
甲第13号証 特公昭58-40488号公報
甲第14号証 異議申立人 小畑幸正へ提出した特許異議答弁書
甲第15号証 異議申立人 坂倉冬樹へ提出した特許異議答弁書
甲第16号証 特開昭52-112047号公報
甲第17号証 特開昭52-121663号公報
甲第18号証 特開昭54-110269号公報
甲第19号証 特開昭58-20418号公報
甲第20号証 USP4385025明細書
IV.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する理由及び証拠方法のいずれによっても本件特許を無効にすることができない旨答弁する。
そして、被請求人が提出した証拠方法及び参考資料は次のとおりである。
乙第1号証;平成5年9月28日付提出の回答書に添付のカタログ
乙第2号証;異議申立人旭化成工業(株)が提出した特許異議理由補充書
乙第3号証;異議申立人旭化成工業(株)が提出した特許異議弁駁書
乙第4号証;被請求人が代表者である有限会社複合プラスチック工業会と大日本ポリマー株式会社を含む大日本印刷株式会社との契約書
乙第5号証;請求人と住友化学工業株式会社との契約書
乙第6号証;被請求人と株式会社スタンレーとの契約書
乙第7号証;被請求人と請求人との話し合いにおけるメモ
乙第8号証;審判における尋問書
乙第9号証;同上尋問書に対する回答書
参考資料 ;特開昭53-101027号公報
V.当審の判断
1.本件発明
上述したように、訂正は認められないので、本件発明は、出願公告後に、平成3年3月29日付及び平成5年12月8日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものと認める。
「ポリプロピレン樹脂を金型内に溶融射出成形し、その固化後、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマーを溶融射出して、ポリプロピレン部材の表面に、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー部材を立体的且つ一体的に融着成形させることを特徴とする複合プラスチック成形品の製造方法。」
2.請求人の主張する無効理由1について
請求人が主張する理由1は、明細書の記載不備を理由とするものであるから、先ず、明細書の記載について検討する。
請求人は、証拠方法として甲第9〜12号証を提出して、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー」に相当するものとして、発明の詳細な説明に「住友TPE-SB」が挙げられているが、前記「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーのブロックコポリマー」とは、スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとをブロック共重合したポリマーを意味するものであって、「住友TPE-SB」シリーズのようなS-EB-Sの構造を有するものでないので、本件特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないか、または本件発明の詳細な説明には当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていない旨主張するので、この点について検討する。
甲第2号証の記載によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーであるクレイトンG-2705は、スチレン・エチレン・ブチレン ブロックコポリマーであって、「SEBS」と表記されることが判明する。「住友TPE-SB」シリーズは、米国のシェルケミカルが開発したクレイトンGをベースポリマーとしたスチレン系熱可塑性エラストマーであり、甲第10〜12号証記載のように、エチレンとブチレンのランダム共重合連鎖を持つものであるものの、当業界においては本件出願前より当該部分をランダムと表示することなく、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン ブロックコポリマーと表示することが普通に行われていたものと認められる(必要なら、「プラスチックス」Vol.35,No.1 p.137〜144、または「プラスチックス」Vol.34,No.8 p.29〜35(甲第2号証)参照)。また、前審における特許異議申立てにおいても、この技術分野の当業者である異議申立人は、本件特許請求の範囲の「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー」を上記SEBSすなわちスチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロックコポリマーと解していることが認められる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の住友TPE-SBシリーズとは、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された「スチレンポリマーとエチレンポリマーとブチレンポリマーとのブロックコポリマー」とは同一物(SEBS)を意味するものと認められ、両者が別の物であるという前提に立った、請求人の主張は採用することができない。
なお、甲第9号証は広辞苑であって、上記の事項を示唆する記載は何もない。
3.請求人の主張する無効理由2-1について
(1)対比・判断
本件発明と甲第7号証(訂正拒絶理由通知の刊行物2に該当)に記載された発明を対比すると、上記訂正拒絶理由通知において述べたように相違点1(射出成形により溶融した「SEBS」がポリプロピレン成形体に融着して固定されることが明記されていない点)の点で相違している。
したがって、本件発明は甲第7号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
4.請求人の主張する無効理由2-2について
本件発明と甲第7号証(訂正拒絶理由通知の刊行物2に該当)に記載された発明を対比すると、上記訂正拒絶理由通知において述べたように相違点1(射出成形により溶融した「SEBS」がポリプロピレン成形体に融着して固定されることが明記されていない点)の点で相違しており、その余の点は一致している。
甲第2号証、甲第7号証及び甲第8号証は、訂正拒絶理由通知における刊行物1、刊行物2及び刊行物3に該当するから、その記載内容は、「II.訂正の可否に対する判断」「3.引用刊行物の記載」に記載したとおりである。
そして、相違点について、検討すると、該相違点については、「II.訂正の可否に対する判断」「4.対比・判断」において述べたように、甲第7号証(訂正拒絶理由通知の刊行物2に該当)は、SEBSを溶融して射出成形することによって、固化しているポリプロピレン成形体と一体化させる技術であることは、前示認定のとおりである。一方、甲第8号証(訂正拒絶理由通知の刊行物3に該当)には、SEBSを溶融してスクリュー型押出機で押出し、この溶融したSEBSに配向ポリエステル重合体層とポリプロピレン層からなる二層構成のフィルムのポリプロピレン層が接することによって、ポリプロピレンが溶融し、冷却時にポリプロピレンとSEBSが強力に融着することが記載されているものと認められる。甲第7号証記載の発明と甲第8号証記載の発明は、いずれもプラスチックの成形加工に関する技術であるから、技術分野の親近性が非常に高いものというべきである。
甲第7号証及び甲第8号証に接した当業者は、甲第7号証から、ポリプロピレンとSEBSが強力に融着することを認識し、甲第7号証記載の発明のSEBSも、溶融して射出成形することによって、ポリプロピレン成形体に融着して固定することを容易に想到することができたものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第2号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
VI.むすび
以上のとおり、本件発明は、甲第7号証、甲第2号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、同法第123条第1項の規定により、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-06-15 
結審通知日 1999-07-13 
審決日 1999-07-15 
出願番号 特願昭60-57383
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 紀 俊彦  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 淑久
小林 正巳
登録日 1994-08-08 
登録番号 特許第1861173号(P1861173)
発明の名称 複合プラスチツク成形品の製造方法  
代理人 牧 哲郎  
代理人 渡部 剛  
代理人 竹本 松司  

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