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審決分類 |
審判 補正却下不服 判示事項別分類コード:13 A61K |
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管理番号 | 1070027 |
審判番号 | 補正2002-50078 |
総通号数 | 38 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-12-07 |
種別 | 補正却下不服の審決 |
審判請求日 | 2002-09-02 |
確定日 | 2003-01-18 |
事件の表示 | 平成10年特許願第335759号「増殖因子レセプターの機能を阻害することにより腫瘍細胞を処置する方法」において、平成14年4月5日付けでした手続補正に対してされた補正の却下の決定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原決定を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判の請求に係る特許出願は、昭和64年1月5日を原出願日(優先日:1988年1月12日、1988年1月25日)とする平成10年11月26日の出願であって、平成14年4月5日付けで手続補正書が提出されたところ、この手続補正について平成14年5月27日付け(発送日:平成14年6月4日)で補正の却下の決定をしたものである。 2.原決定の理由 上記補正の却下の決定(以下、「原決定」とする)の理由は次のとおりのものである。「請求項1、5に記載される「治療的に有効(な)量のEGFレセプターと結合する抗体」は、出願当初の明細書に記載されていないし、該明細書の記載から自明な事項とも認められない。」 3.本件手続補正の概要 特許請求の範囲の 「【請求項1】 治療有効量のHRE2タンパク質と結合する抗体および該抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤とを患者に投与するための指示書を含むキット。 【請求項2】 抗体が、腫瘍細胞を細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤の細胞毒性作用に敏感にするものである請求項1に記載のキット。 【請求項3】 指示書が、抗体とサイトカインとを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。 【請求項4】 サイトカインが、TNF-α、TNF-β、IL-1、IL-2またはIFN-γである請求項3記載のキット。 【請求項5】 指示書が、抗体と化学療法剤とを患者に投与することに関するものである請求項1または2に記載のキット。 【請求項6】 化学療法剤が、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセートまたはドキソルビシンである請求項5記載のキット。 【請求項7】 指示書が、抗体と細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を一緒にまたは別々に患者に投与することに関するものである請求項1〜6のいずれかに記載のキット。 【請求項8】 指示書が、細胞毒性因子、サイトカインまたは化学療法剤を患者に投与する前に抗体を患者に投与することに関するものである請求項1〜7のいずれかに記載のキット。」 を 「【請求項1】 EGFレセプターを発現する腫瘍を有する患者を処置するために用いられる組成物であって、組成物が、治療的に有効量のEGFレセプターと結合する抗体及び治療的に有効量の細胞毒性因子を含み、抗体及び細胞毒性因子が、一緒にか又は別々に投与される、組成物。 【請求項2】 細胞毒性因子が、化学療法剤である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 細胞毒性因子が、TNF-α、TNF-β、IL-1、IFN-γ、IL-2、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート又はドキソルビシンである、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 抗体が、細胞毒性因子の投与の前に患者に投与される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 治療的に有効な量のEGFレセプターと結合する抗体と、患者に細胞毒性因子、サイトカイン又は化学療法剤を投与するための指示書とを含む、キット。 【請求項6】 抗体が、腫瘍細胞を細胞毒性因子、サイトカイン又は化学療法剤の細胞毒性作用に敏感にさせるものである、請求項5に記載のキット。 【請求項7】 指示書が、抗体と化学療法剤とを患者に投与するためのものである、請求項5又は6に記載のキット。 【請求項8】 サイトカインが、TNF-α、TNF-β、IL-1、IFN-γ又はIL-2である、請求項7に記載のキット。 【請求項9】 指示書が、抗体と化学療法剤とを患者に投与するためのものである、請求項5又は6に記載のキット。 【請求項10】 化学療法剤が、5FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート又はドキソルビシンである、請求項9に記載のキット。 【請求項11】 指示書が、抗体と細胞毒性因子、サイトカイン又は化学療法剤とを一緒にか又は別々に患者に投与するためのものである、請求項5〜10のいずれか1項に記載のキット。 【請求項12】 指示書が、細胞毒性因子、サイトカイン又は化学療法剤を患者に投与する前に、抗体を患者に投与するためのものである、請求項5〜11のいずれか1項に記載のキット。」 と補正するものである。 なお、補正前の特許請求の範囲における「HRE2タンパク質」の記載は、明細書の記載全体を踏まえると、「HER2タンパク質」の誤記であるものと認める。 3.当審の判断 (1)本件の出願当初の明細書(以下、「本件明細書」とする)には、以下の記載がある。 (1)-1 「・・・既知のがん原遺伝子(プロトオンコジェン)の内、3個は増殖因子または増殖因子レセプターに関連している。これらの遺伝子には以下のものがある。c-sis:・・・。c-fms:・・・。c-erbB:EGFレセプター(EGFR)をコードしており、トリの赤白血病ウイルス(v-erbB)の形質転換遺伝子とホモローガスである。・・・」(段落番号【0003】) (1)-2 「近年、化学的に誘導されたラット神経芽細胞腫から得たDNAによる形質転換研究によって新規な形質転換遺伝子が同定された。このneuと呼ばれる遺伝子はc-erbBがん原遺伝子と近縁ではあるが明確に区別される。v-erbBおよびヒトEGFRをプローブとして用いてヒトゲノムライブラリーおよび相補的DNA(cDNA)ライブラリーをスクリーニングすることにより、ヒトerbBと近縁の2個の遺伝子(それぞれ、HER2およびc-erbB-2と呼称)を別個に単離した。後の配列決定および染色体マッピング研究により、c-erbB-2およびHER2がneuの変異種であることが分かった。・・・」(段落番号【0004】 (1)-3 「本明細書中、HER2と称する遺伝子はチロシンキナーゼファミリーの新規物質をコードしており、クッセンスら・・・の報告したEGFR遺伝子と極めて密接な関係にあるが明確に区別し得る。HER2遺伝子は、EGFR遺伝子が・・・に対し、・・・で異なっている。・・・」(段落番号【0005】) (1)-4 「・・・ギルら・・・はEGFレセプター特異的であり、EGFの結合を阻害し、EGFにより促進されるチロシンタンパク質キナーゼ活性に対するアンタゴニスト(拮抗物質)であるモノクローナル抗体を開示した。」(段落番号【0007】) (1)-5 「本発明は、増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体を提供することを目的とするものである。・・・ さらに、本発明は、増殖因子レセプターおよび/または増殖因子を過剰に発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供することを目的とするものである。 さらにまた、本発明は、腫瘍細胞を増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および腫瘍壊死因子等の細胞毒性因子で腫瘍を処理することからなる腫瘍の治療法を提供することを目的とするものである。・・・」(段落番号【0009】) (1)-6 「・・・さらにまた本発明は、治療有効量の増殖因子レセプター機能を阻害し得る抗体、および治療有効量の細胞毒性因子を投与する方法に関するものである。・・・」(段落番号【0010】) (1)-7 「新規な抗体を用いる腫瘍細胞の増殖阻害を発明した。驚くべきことに増殖因子レセプター機能、例えばHER2レセプター機能を阻害することにより細胞増殖が阻害され、細胞は細胞性毒性因子の影響を受け易くなった。従って、例えば、TNF-α単独では反応し難い乳がん細胞でも、細胞を増殖因子レセプター機能を阻害する抗体で処理しておくと、TNF-αに反応し易くなる。・・・」(段落番号【0011】) (1)-8 「・・・本発明方法は以下の条件を満たせば適用することができる。 (1)増殖因子レセプターおよび/またはリガンド(増殖因子)が発現され、腫瘍細胞の増殖が増殖因子レセプターの生物学的機能に依存性であり、 (2)増殖因子レセプターの生物学的機能が増殖因子レセプターおよび/またはリガンドに特異的に結合する抗体によって阻害される。・・・」(段落番号【0012】〜【0013】) (1)-9 「幾つかの腫瘍細胞は正常な細胞増殖および分化に必要な増殖因子を分泌する。しかしながら、これらの増殖因子はある種の条件下で、腫瘍細胞自身と近辺の正常細胞の無秩序な増殖をもたらし、腫瘍細胞形成を引き起こし得る。上皮増殖因子(EGF)は劇的な細胞増殖刺激作用を有する。精製レセプター製品において、EGFレセプターはEGFの結合により活性化されるプロテインキナーゼである。・・・」(段落番号【0015】) (1)-10 「本発明の他の実施態様においては、(1)患者に増殖因子および/またはそのレセプターに対する抗体であって、レセプターの生物学的機能を阻害し、細胞のTNF等の細胞毒性因子に対する感受性を高める抗体を投与し、さらに(2)患者に細胞毒性因子(類)または免疫系細胞を直接的または間接的に刺激して細胞毒性因子を産生させるような生物学的応答改変剤を投与することにより、腫瘍細胞を処理する。」(段落番号【0017】) (1)-11 「・・・本明細書中、HER2タンパク質を用いて示したごとく、レセプター(または他のタンパク質)機能を阻害し、細胞の細胞毒性因子に対する感受性を高める試薬を考案することができる。・・・」(段落番号【0022】) (1)-12 「治療のためにインビボで使用する際には、本発明の抗体の治療有効量(患者の腫瘍を消滅または軽減する量)を患者に投与する。・・・投与される抗体の量は、通常、約0.1から約10mg/体重kgの範囲である。」(段落番号【0035】 (1)-13 「乳がん細胞のモノクローナル抗体およびTNF-αによる処理 ・・・結果を図6,7,8,9に示す。これらの図はHER2タンパク質を過剰に発現する細胞を、タンパク質の細胞外ドメインに対する抗体と一緒にインキュベーションすると、TNF-αの細胞毒性作用に対する感受性が誘導されることを示している。・・・」(段落番号【0059】) (2)上記(1)-5〜(1)-8、(1)-10及び(1)-11の記載を踏まえると、「本件明細書」には、「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体に着目し、斯かる抗体と細胞毒性因子とを組み合わせて使用することにより、腫瘍細胞に対する細胞毒性因子の感受性を上げることが記載されていると認める。また、(1)-12の如く、「本件明細書」には、「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体を治療に使用する際の投与量も示されている。 ここで、「本件明細書」の実施例で、そのような「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体として具体的な記載があるのは、(1)-13の記載の様に、HER-2に対する抗体のみではあるが、上記(1)-7「・・・増殖因子レセプター機能、例えばHER2レセプター機能を阻害することにより・・・」、同(1)-11「・・・HER2タンパク質を用いて示したごとく、レセプター(または他のタンパク質)機能を阻害し、細胞の細胞毒性因子に対する感受性を高める試薬・・・」の記載を踏まえれば、HER-2に対する抗体は、そのような「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体の一例として記載されていることは明らかである。 そして、「本件明細書」には、EGFレセプターもそのような「増殖因子レセプター」の一つであることが記載されていて((1)-1、(1)-9)、EGFレセプターに対する抗体がEGFレセプター機能を阻害することも本件の出願時点で公知のものであるとして示されている((1)-4参照)。 (3)そうしてみると、(2)の通り、「本件明細書」には、「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体と細胞毒性因子とを組み合わせて使用することにより、腫瘍細胞に対する細胞毒性因子の感受性を上げることが記載されていて、その際の斯かる抗体の投与量、及びEGFレセプターと結合する抗体が「増殖因子レセプター」機能を阻害し得る抗体であることも記載されていたのであるから、原決定において指摘する補正に係る「治療的に有効(な)量のEGFレセプターと結合する抗体」は、出願当初の明細書に記載されていた事項の範囲内のものであり、この点をもって明細書の要旨を変更するものとすることはできない。 (4)なお、HER-2(タンパク質)とEGFレセプター(タンパク質)とは、その起源や遺伝情報などが同一なものではない((1)-2、(1)-3参照)。これらのタンパク質が同一の作用を奏するものと認めることができる程度に記載されているか否かは、補正後の明細書についての記載要件についての検討(例えば、HER-2に対する抗体が「本件明細書」の実施例に示されているような作用を奏したことのみをもって、EGFレセプターに対する抗体でも同様の作用を発現することが自明であるとすることができるのか;「本発明方法は以下の条件を満たせば適用することができる」とする条件の一つである「増殖因子レセプターの生物学的機能が増殖因子レセプターおよび/またはリガンドに特異的に結合する抗体によって阻害される」((1)-8参照)との条件の達成度は、「増殖因子レセプター」の種類によって当然に変わるものであるところ、EGFレセプターと結合する抗体はHER-2に対する抗体と同レベルの効果を奏するものとできるのか、など)に係る事項であって、補正却下不服審判での補正の適否に係る審理範囲外のものである。 4.むすび 従って、上記手続補正を却下すべきものとした原決定は失当である。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2002-12-12 |
出願番号 | 特願平10-335759 |
審決分類 |
P
1
7・
13-
W
(A61K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 平田 和男 |
特許庁審判長 |
竹林 則幸 |
特許庁審判官 |
松浦 新司 守安 智 |
発明の名称 | 増殖因子レセプターの機能を阻害することにより腫瘍細胞を処置する方法 |
代理人 | 篠田 文雄 |
代理人 | 津国 肇 |