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審決分類 |
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正 A61M |
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管理番号 | 1070407 |
異議申立番号 | 異議2000-73116 |
総通号数 | 38 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-11-14 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-08-14 |
確定日 | 2002-11-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3009598号「プレフィルドシリンジ」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3009598号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3009598号(平成7年2月17日出願、平成11年12月3日設定登録。)の請求項1乃至6に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 前端および後端が開口された筒状容器内に摺動自在に嵌合され、筒状容器の内部空間を前室と後室とに仕切るフロントガスケットと、 筒状容器の後端部に摺動自在に嵌合され、プランジャとして機能しうるように押圧用ロッドに接続可能とされたリヤガスケットと、 前記後室内に収容された液を前室内に導入しうるように前記筒状容器に形成され、フロントガスケットより前方にフロントガスケットの軸長より大きい軸方向長さを有するバイパスとを具備したプレフィルドシリンジにおいて、 上記フロントガスケットとリヤガスケットは、ノルマルブチルゴムおよびハロゲン化ブチルゴムの1種またはこれらのブレンドゴム製であり、夫々容器の内壁に圧縮された状態で気密的または液密的に摺接するピーク部を少なくとも2以上軸方向に間隔を置いて設けられ、フロントガスケットおよびリヤガスケットを容器内に嵌合配置した状態で、各ピーク部の圧縮率C(%)と各ガスケットの全てのピーク部の容器内壁との総接触面積St(mm2)との積(C×St)の値が各ガスケット1個当り約300〜1200の範囲であり、 フロントガスケットとリヤガスケットの間に液を収容した状態で滅菌乾燥処理したのちにおける各ガスケットの初動圧が1〜2Kg/cm2となるように設定されてなるプレフィルドシリンジ。 【請求項2】 上記フロントガスケットが前後2つの隣接したガスケットからなる、請求項1のプレフィルドシリンジ。 【請求項3】 前記筒状容器の後端開口とバイパスの間のバイパス寄りにフロントガスケット後側部分を挿入した状態で後室内に溶解液、分散液、薬液の少なくとも1つを充填した後端開口をガスケットで封鎖した後蒸気加熱滅菌および乾燥処理を行い、その後前端開口からフロントガスケット前側部分をバイパスとフロントガスケット後側部分の間に前後連接するように挿入した後、前端開口から薬剤を充填し前端開口をガスケットで封鎖して完成させることを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。 【請求項4】 各ガスケットにおける環状リブ間には、同リブ間を周方向に仕切る複数のブリッジが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のプレフィルドシリンジ。 【請求項5】 前端部がシール部材で密封されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載のプレフィルドシリンジ。 【請求項6】 筒状容器の前端開口部には、注射針付きキャップが着脱自在に装着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載のプレフィルドシリンジ。」 2.特許異議の申立ての概要 申立人滝口賢一郎は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前になされた補正、特に平成11年9月29日付けの手続補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないので特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされ、さらに証拠方法として甲第1号証(特開平5-139977号公報)、甲第2号証(実願平4-57780号(実開平6-13832号)のCD-ROM)、甲第3号証(米国特許明細書第4820286号)、甲第4号証(特開昭62-139668号公報)、甲第5号証(特公昭57-26782号公報)、甲第6号証(実願平1-123326号(実開平3-63344号)のマイクロフィルム)を提出し、請求項1乃至6に係る発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、当該特許を取り消すべき旨主張している。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)補正された事項について 出願人は、平成11年9月29日付けの手続補正(以下、「補正」という。)において、S及びStの定義について下記の補正をしている。 (イ)Sの定義について [出願当初の明細書の記載] 「下記の式(2)によって示される環状リブの接触面積」(【0048】欄) 「S(mm2 )=πr(d1 +d2 +・・・dn ) ・・・(2) (ただし、d1 、d2 、・・・、dn は、それぞれの環状リブが筒状容器1の内壁に摺接する接触幅)」(【0049】欄) なお、「Sは下記の式(2)によって示される環状リブの接触面積(mm2)、Stは全てのガスケット(・・・)についての環状リブの総接触面積(mm2)」(【0049】欄)の記載からみて、環状リブの接触面積値を1つのガスケットか全てのガスケットかの違いによって対比していることは明らかであるから、上記Sは、1つのガスケットについての値であるとみとめられる。 [補正された記載] 「各環状リブの接触面積」(【0048】欄) すなわち、 出願当初においては、Sを「(1ガスケットの)環状リブの総接触面積」としていたのを、上記補正によって、「各環状リブの接触面積」としていると認められる。 (ロ)Stの定義について [出願当初の明細書の記載] 「全てのガスケット(この場合はフロントガスケット3およびリヤガスケット2)についての環状リブの総接触面積」(【0048】欄) [補正された記載] 「各ガスケットの全てのピーク部の容器内壁との総接触面積」(請求項1) 「下記の式(2)によって示される各ガスケット(例えば、フロントガスケット3a)についての環状リブの総接触面積」(【0048】欄) 「St(mm2)=πr(d1 +d2 +・・・dn)…(2) (ただし、d1 、d2 、・・・、dn は、1個のガスケットの各環状リブが筒状容器1の内壁に摺接する接触幅)」(【0049】欄) すなわち、出願当初においては、Stを「全ガスケットについての環状リブの接触面積」としていたのを、上記補正によって「各ガスケットあたりの環状リブの接触面積」としていると認められる。 (2)当審の判断 上記(イ)及び(ロ)の補正は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内にない旨の当審の取消理由に対して、出願人は平成13年6月4日付けの特許異議意見書において上記補正が誤記に基づくものであると主張しているので、この点について以下検討する。 出願人は、誤記の根拠として、明細書中の表2のデータを分析している。 すなわち、上記意見書において、 「いま、r=容器内径(半径)、R=ガスケット外径/2とすると、圧縮率C(%)は以下の式で定義される。 C=(R-r)/r×100 ここで、(R-r)は嵌合度片側を表し、表2の第1実施例では、(R-r)=0.25mmであるので、 4.76(%)=0.25/r×100 となり、r=5.25(mm)であるから容器内径は10.5mmとなる。(中略) 次に、C×Sは159であり、S=4.76であるから、 159=4.76×Sであり、S=33.4mm2となる。 容器内径(直径D)は、10.5mmであるので、接触幅は、以下の通りとなる。 接触幅=33.4/πD=33.4/π×10.5 =1.013mm ここで、Sが当初の明細書の記載のように、1ガスケットの環状リブの総接触面積とすると、環状リブの接触幅は、 2環状リブの場合:1.013/2=0.5065mm/環状リブ 3環状リブの場合:1.013/3=0.3377mm/環状リブ となる。 内直径が10.5mmのシリンジにおいて、接触幅が0.5mm以下の環状リブは、余りにも薄すぎるためシール機能を持つことができないことは、当業者にとって自明である。 従って、表2におけるSは環状リブ1つについての接触面積を表しており、C×S=159、C×St=318(第1実施例)からすれば、Stは環状リブが2つのガスケットの総接触面積を表していると解するのが最も妥当である。」と主張しているが、要すれば、Sを出願当初の明細書と解すると、表2から計算した1つ当りの環状リブの接触幅が、0.5mm以下となるので、「余りにも薄すぎるためシール機能を持つことができないこと」から、補正のとおりに解するのが妥当というものである。 しかしながら、出願当初の明細書のとおりと解し、表2に基づき上記の計算を行い、その結果、複数環状リブの場合の1つの環状リブ当りの接触幅が0.5mm以下になるとしても、通常の環状リブの接触面積が1mmであることを考慮すれば、両者の数字間に、当業者の常識からみて誤記であると判断しうるほどの乖離があるとは判断できない。 したがって、出願当初のSの定義に関する記載から、Sの定義に関する補正を直接的且つ一義的に導き出すことはできない。 また、出願当初のSは上記補正後のStであるから、Stの補正に関しても、上記Sについての判断が適用できる。したがって、出願当初のStの定義に関する記載から、Stの定義に関する補正を直接的且つ一義的に導き出すことはできない。 (3)むすび したがって、平成11年9月29日付けの手続補正書による補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本件発明についての特許は、特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。 よって、本件発明についての特許は、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。 よって結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-08-15 |
出願番号 | 特願平7-29716 |
審決分類 |
P
1
651・
561-
ZB
(A61M)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 藤井 彰 |
特許庁審判長 |
佐藤 洋 |
特許庁審判官 |
和泉 等 岩崎 晋 |
登録日 | 1999-12-03 |
登録番号 | 特許第3009598号(P3009598) |
権利者 | 株式会社アルテ 武田薬品工業株式会社 |
発明の名称 | プレフィルドシリンジ |
代理人 | 河宮 治 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 河宮 治 |
代理人 | 青山 葆 |