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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A01G
管理番号 1070549
判定請求番号 判定2002-60043  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1991-07-16 
種別 判定 
判定請求日 2002-04-12 
確定日 2002-12-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2572652号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件は、特許第2572652号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は、イ号物件は、本件特許第2572652号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

2.本件発明
本件特許第2572652号の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、分説すると以下(AないしD)の構成要件を備えるものである。
A:栄養繁殖型の芝の初芝をほぐしたランナー状の芝を、
B:腐朽性素材又は分解性素材よりなる網体と
C:網体の間に挟持せしめたことを特徴とする
D:移植用マット状芝。
(以下、これを「本件発明」という)

3.イ号物件
イ号図面及びその説明書によれば、イ号物件は、以下(A´ないしD´)の構成を備えた「移植用マット状芝」にあるものと認められる。
A´:栄養繁殖型の芝の初芝をほぐしたランナー状の芝を、
B´:腐朽性素材又は分解性素材よりなる不織布と
C´:不織布の間に挟持せしめた
D´:移植用マット状芝。
なお、上記の構成中、B´とC´の「不織布」に関して、請求人は「不織布シート」であるとし、被請求人は、イ号物件の「不織布」は実質的には「網体」であるとしており、この点については争いがある。

4.本件発明とイ号物件との対比・判断
4-1 構成要件A、Dについて
イ号物件の構成A´、D´がそれぞれ本件発明の構成要件A、Dを充足することについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。

4-2 構成要件B、Cについて
イ号物件の構成B´、C´と本件発明の構成要件B、Cについての請求人及び被請求人の主張は以下のとおりである。
(1)請求人の主張
本件発明とイ号物件とを対比すると、両者はBとB´及びCとC´の各構成において異なる。すなわち、本件発明が「網体」を用いているのに対してイ号物件は「不織布シート」を用いているのであり、「網体」と記載すれば網体に特定したものであり、網体以外の他の素材には権利が及ばないと考えるのが常識である。しかも、本件特許明細書には網体について、『網体の網目(目開き)は、網体に分散させた芝の押えに充分な目開きでかつ接地側の網体の目開きは移植の妨げにならない程度の目開きであることが好ましく、網体の間に挟む芝の長さによって異なるが、通常9〜18mm程度とするとよい。』(特許公報第2頁右段第17-21行目)と記載されており、作用効果についても、『・・ランナー状の芝が網体の間に適当な量でしかも個々に分散された形で挟持されていることから、芝の各々の全てが成長点となって旺盛な成育が図られ・・』(特許公報第3頁右段第48-末行)と記載されていることからして、本件発明に使用する素材は網体であることが明らかである。
また本件発明に係る特許出願(特願平1-319580号)の手続きにおける、拒絶理由通知に対する平成7年7月31日付け意見書(甲第1号証)の記載において、『・・ランナーを・・不織布等のシート状物の間に挟むとこれらを突き破って出てくることがありません。・・本願発明ではこの根の部分が容易に地面に接することができるように、適当な目開きを有する網体でこれを挟むこととしました。』(第2頁第10-19行目)と明確に、不織布シートを否定して、網体に限定していることが窺えるにもかかわらず、被請求人は、『網体』と『不織布』とは均等であるとの主張を曲げていない。被請求人の上記主張は『禁反言の原則』に違反している。

(2)被請求人の主張
請求人は、本件発明とイ号物件とはBとB´及びCとC´の各構成において異なると主張するが、BとB´及びCとC´の各構成において、両者共に腐朽性素材又は分解性素材であることに相違はなく、本件発明では腐朽性素材又は分解性素材を「網体」と表現したのに対してイ号物件では「不織布シート」と表現している点の相違はあるが、これは単に表現(文言)上の相違でしかなく、両者は実質的に同一と判断されるべきものである。しかも、本件発明もイ号物件も上記腐朽性素材又は分解性素材の網目構成内にランナー状の芝を挟持させることでも全く同一であり、作用効果の点においても、本件特許明細書に記載された本件発明が有する作用効果をイ号物件が同様に備えている。
また、請求人が実施するイ号製品は、乙第7号証及び乙第8号証に示すとおり不織布といっても事実上「ネット」として称呼される薄手の網目製品である。そして、乙第1号証ないし乙第3号証に示すとおり不織布には「ガーゼ」や「レース」のように目の粗いものも含まれるのであり、不織布が網目(目開き寸法)を有する以上、網体に包含される。
請求人は「網体」と記載すれば網体に特定したものであり、網体以外の他の素材には権利が及ばないと考えるのが常識であると主張しているが、不織布には繊維間に目間隙のあることが明白であるから、不織布と網体とは均等である。さらに、請求人が指摘する本件特許明細書の記載(特許公報第2頁右段第17-21行目の記載、及び特許公報第3頁右段第48-末行の記載)は、本件発明における好ましい一実施例及びその作用効果について記載したものに外ならず、また同じく請求人が主張する、意見書(甲第1号証)における記載(第2頁第10-19行目)は、引用例との具体的差異を説明しただけであって、手続補正書によって不織布の使用を削除するような補正を行ったわけでもないから、「禁反言の原則」には該当しない。

4-3 当審の判断
[I] 本件発明とイ号物件とを対比すると、「腐朽性素材又は分解性素材」として、本件発明は「網体」を使用するものであるのに対して、イ号物件は「不織布」を使用するものであり、その余の点では両者に差異は認められない。
「不織布」に関して被請求人は、請求人が実施するイ号製品は乙第7号証及び乙第8号証に示すとおり不織布といっても事実上「ネット」として称呼される薄手の網目製品であり、不織布が網目(目開き寸法)を有する以上、網体に包含される旨を主張している。そして、乙第7号証(岡山県美作ラグビー・サッカー芝生舗装工事の注文書、材料承認願書)の「ヴァイアターフ(ロール工法)技術資料」の第2頁には以下の記載がある。
「製品について
・生育管理されたヴァイアターフ(改良バミュウダグラス)のランナーを 3cmの深さでソードカッターで切り取りランナーをほぐします。
・ランナーを平均3cm〜5cm程度の長さに切りそろえます。
・不織布の上に10cm〜15cmピッチで散布します。(1m2当り49本 を目安とする)
・その上にもう一枚不織布を被せミシンで縫い合わせます。
・ロール状に巻き取り製品とします。(1ロール、W=0.85m、L=5 0m)
施工方法
1(丸数字)路床、路盤、芝床層は従来の標準的構成と同様に締め固め転 圧作業を行い仕上げます。
2(丸数字)ロール巻にしたヴァイアターフを絨毯を敷く要領で敷き詰め ます。
3(丸数字)できるだけ均一に散水し、十分にペーパーネットに保水させ ます。
4(丸数字)散布機により目砂を均一に散布します。
5(丸数字)発育状態を見ながら適宜散水を行うとともに、除草、殺菌や 目土散布を行う。」
また、乙第7号証の「-参考資料-」には「ネット芝」の記載がある。
以上のとおり、乙第7号証には、「不織布」並びに「ペーパーネット」及び「ネット芝」の記載があるが、「不織布」の構造を乙第7号証及び乙第8号証から確認することができず、「ペーパーネット」及び「ネット芝」の記載をもって直ちには、乙第7号証及び乙第8号証に係る製品が網目を有する不織布であるとすることはできない。
そこで請求人が平成14年9月24日付けで上申書とともに提出したイ号物件の見本を検証すると、同イ号物件の見本から以下のことが認められる。なお、上記イ号物件の見本の副本は平成14年10月1日付けで被請求人に対して送付されており、被請求人はそれに対して平成14年10月11日付けで上申書を提出しているが、同イ号物件の見本が請求人の実施品であることについては争っていない。
イ号物件の見本はほぐしたランナー状の芝を挟持する2枚の不織布より成り、前記2枚の不織布は、長手方向に沿って連続的に形成された逢着部を、その幅方向に等間隔に4本配置することにより一体化されており、不織布は繊維間に微細な空隙を有している。
ところで、被請求人は乙第1号証ないし乙第3号証を提出し、不織布には「ガーゼ」や「レース」のように目の粗いものも含まれるのであり、不織布が網目(目開き寸法)を有する以上、網体に包含される旨を主張している。そこで上記したイ号物件の見本における、不織布が有する繊維間の空隙について考察すると、これらの空隙は、被請求人が例示した「ガーゼ」や「レース」が通常繊維間に有する空隙に比して明らかに微小なものと認められ、被請求人の主張どおり「ガーゼ」や「レース」の空隙が「網目(目開き寸法)」であるとしてみたところで、直ちにイ号物件の見本における空隙も「網目(目開き寸法)」であるとはいえない。
したがって、イ号物件は「網目(目開き寸法)」を有するとすることはできないから、イ号物件は網体に包含されるとすることはできない。
なお、上記イ号物件の見本に対して被請求人は平成14年10月11日付けで上申書を提出し、(イ号物件の)実際の施工においては、整地されたグランド上へ作業者が相互に縦・横方向へ力一杯に引張る緊張状態に展開させて張設するので、見本品の如き目間隙の小さいものでさえも、これを縦・横方向へ引張った状態では別添検証資料の如く数mm前後の粗目開きのものになる旨を主張している。しかしながら、上記「ヴァイアターフ(ロール工法)技術資料」によれば、その施工はロール巻にした「ヴァイアターフ」を絨毯を敷く要領で敷き詰めるものであり、不織布はミシンで縫い合わされて伸長が制限されているから、施工工程におけるロールの展開によって目間隙が大きく変化するとは認められない。すなわち通常の施工作業によっては、被請求人が主張するような、「見本品の如き目間隙の小さいものでさえも、これを縦・横方向へ引張った状態では数mm前後の粗目開きのものになる」とは認め難く、被請求人が検証資料として上申書に添付した写真によっても上記被請求人の主張を確認することはできない。
したがって、イ号物件の構成B´、C´は本件発明の構成要件B、Cを充足しないから、文言上、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属しない。

[II] 均等の判断
本件発明とイ号物件との相違部分について、請求人は均等論を適用できないからイ号物件は本件発明の技術的範囲に属しないことを主張し、被請求人は均等論を適用してイ号物件は本件発明の技術的範囲に属することを主張しているので、この点について検討する。
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)は、均等論が適用される場合について、以下の五つの条件を付して認める旨の判示をしている。
(1)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が特許発明の本 質的な部分ではない。
(2)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成する ことができ、同一の作用効果を奏する。
(3)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点に おいて、当業者が容易に想到することができたものである。
(4)イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一または当業者が公知技 術から出願時に容易に推考できたものではない。
(5)イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除 外されたものに当たる等の特段の事情がない。
そこで、イ号物件が上記条件(4)を満たすか否かについて検討する。
本件発明の特許出願手続において拒絶の理由に引用された、本件発明の出願前に公知の、特公昭55-15170号公報(甲第2号証に添付された資料-2c)には、以下(2c-a.及び2c-b.)の記載が認められる。
2c-a.「芝茎と、その周辺に配在させた保水性物質とを、それらの移動、配列変化を抑制する態様に、紙、不織布、布といった繊維を相互に纏絡状、織組状に連結してなる繊維質の薄膜で包蔵した構造の芝繁殖用長尺物を地表面に適宜間隔をとって並設したのち、土壌で被覆することを特徴とする芝生の造成法。」(特許請求の範囲)
2c-b.「薄膜は芝茎周辺に配在される保水性物質と共に地中で次第に腐朽、分解して植生の環境整備、養生材ともなり得るよう作用する」(第2頁第3欄第39-42行)
そして、上記記載より、特公昭55-15170号公報には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「芝茎と、その周辺に配在させた保水性物質とを、紙、不織布、布といった繊維を相互に纏絡状、織組状に連結してなる、地中で次第に腐朽、分解して植生の環境整備、養生材ともなり得るよう作用する繊維質の薄膜で包蔵した構造の芝繁殖用長尺物」
イ号物件と引用発明とを対比すると、引用発明における「芝茎」、「地中で次第に腐朽、分解して植生の環境整備、養生材ともなり得るよう作用する」及び「芝繁殖用長尺物」は、イ号物件における「初芝をほぐしたランナー状の芝」、「腐朽性素材又は分解性素材よりなる」及び「移植用マット状芝」に対応している。ここで、イ号物件に実際に用いられている不織布は、「網体」といえるほどの大きな目間隙を有するものではないことは上記「4-3 当審の判断 [I]」に記載したとおりであるから、イ号物件の「不織布」は引用発明の「不織布」に比して構造上実質的な差異があるとは認められない。また引用発明における「芝茎」もその機能に照らすとイ号物件の「初芝をほぐしたランナー状の芝」と同じく「栄養繁殖型の芝」であるということができるとともに、イ号物件も引用発明も「初芝をほぐしたランナー状の芝」(引用発明における「芝茎」)を「不織布」により保持した点で共通している。そうすると、両者は「栄養繁殖型の芝の初芝をほぐしたランナー状の芝を、腐朽性素材又は分解性素材よりなる不織布により保持せしめた移植用マット状芝」の点で一致しており、芝を保持する保持手段が、「不織布」と「不織布」の間に挟持したか(イ号物件)、「不織布」で包蔵したか(引用発明)の点で両者は相違している。しかし、「挟持」も「包蔵」も保持手段としてどちらも周知もしくは慣用の手段であり、どちらを採用するかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的な事項にすぎないから、上記相違点は格別な技術的意義を有するものではなく、イ号物件は本件発明の出願時における公知技術である、引用発明に基いて本件発明の出願時に当業者が容易に推考できたものである。
したがって、イ号物件は上記条件(4)を満たしていないから、上記条件(1)ないし(3)及び(5)について検討するまでもなく、イ号物件と本件発明との関係において均等論は適用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は文言上本件発明の技術的範囲に属さず、また、両者の関係に均等論が適用される余地もないから、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2002-11-27 
出願番号 特願平1-319580
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A01G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 白樫 泰子
渡部 葉子
登録日 1996-10-24 
登録番号 特許第2572652号(P2572652)
発明の名称 移植用マット状芝及びその製造方法並びに移植方法  
代理人 三原 靖雄  
代理人 忰熊 弘稔  

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