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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
管理番号 1071848
異議申立番号 異議2000-71004  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-10 
確定日 2003-01-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2948088号「戸籍情報と除籍情報との統合検索システム」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2948088号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成 6年 3月15日
特許権設定登録 平成11年 7月 2日
(特許第2948088号)
特許掲載公報発行 平成11年 9月13日
特許異議の申立て 平成12年 3月10日
消理由通知 平成12年 7月14日
(発送日:平成12年 7月28日)
意見書 平成12年 9月25日
上申書 平成13年 6月 8日

2.本件発明
本件特許異議の申立てがなされた特許第2948088号に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1乃至4」という。)。
【請求項1】
各戸籍筆頭者に対応する本籍地と該筆頭者によって代表される戸籍構成員の各々についての情報とを格納する戸籍データベースと、除籍となった戸籍筆頭者及び戸籍構成員についての情報を格納する除籍見出しデータベースと、検索キーとして該戸籍構成員の氏名を入力する手段と、該氏名に基づいて該戸籍データベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、該氏名に基づいて該除籍見出しデータベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、上記の検索結果それぞれの少なくとも一部にそれが現在戸籍に属するか除籍に属するかの区分を付加して表示する手段とを有することを特徴とする戸籍情報と除籍情報との統合検索システム。
【請求項2】
入力された該氏名の中に外字コードでありかつ同意味の対応する内字コードが存在するような外字コードが含まれる場合、該外字コードを対応する内字コードに変換してから該除籍見出しデータベースを検索することを特徴とする請求項1記載の戸籍情報と除籍情報との統合検索システム。
【請求項3】
戸籍構成員の各々についてのコード情報を格納する戸籍データベースと、除籍となった戸籍構成員についてのコード情報を格納する除籍データベースと、検索キーを入力する手段と、該入力に基づいて該戸籍データベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、該入力に基づいて該除籍データベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、該検索結果が戸籍データベースに属するか除籍データベースに属するかの区分をつけて表示する手段とを有することを特徴とする戸籍情報と除籍情報との統合検索システム。
【請求項4】
戸籍構成員の各々についてのコード情報を格納する戸籍データベースと、除籍となった戸籍構成員についてのコード情報を格納する除籍データベースと、検索キーの入力に基づいて該戸籍データベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、該検索キーの入力に基づいて該除籍データベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段とからなる戸籍情報と除籍情報との統合検索システムに用いる端末装置であって、該検索キーを入力する手段と、該戸籍データベースの検索結果と該除籍データベースの検索結果を入力し該検索結果が戸籍データベースに属するか除籍データベースに属するかの区分をつけて表示する手段とを有することを特徴とする端末装置。

3.取消理由通知の概要
これに対して、当審において通知した取消理由は、本件発明1乃至4は、次の刊行物1乃至3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1乃至4に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。
刊行物1:
戸籍総合システム 操作説明書(Ver.3.2) KING system User Manual
富士ゼロックスシステムサービス(株) 1992年第2版発行
刊行物2:
特開平2-27480号公報
刊行物3:

4.特許権者の意見
上記取消理由に対して、特許権者は意見書において、
イ.刊行物1、3は操作説明書であって、発行日に不特定の人に入手可能になる刊行物ではないから、刊行物1、3が、本件特許の特許出願日前に公知になったと認定して通知された取消理由は根拠がない、
ロ.刊行物1には、「現在戸籍データベースと除改戸籍データベース」については記載されていない、又、「氏名に基づいて、現在戸籍データベースと除改戸籍データベースとを検索して、該当する情報を検索結果としてとり出す手段」についても記載されていない、
ハ.刊行物1におけるシステムでは、戸籍データベースと除籍見出しデータベースは別々に設けられていることは記載されていない、
ニ.刊行物2には、戸籍謄本の検索については記載されているが、戸籍情報と除籍情報との統合検索システムとは全く異なる、
ホ.刊行物3には、JEFコードとROBOコードとの対応関係は記載されているが、統一文字へのコード変換については記載されていないから、外字を内字に変換することは記載されていない、
旨、主張している。

5.刊行物に記載された事項及び発明
5-1.刊行物1
刊行物1には、次の事項が図面と共に記載されている。
(a)1.索引処理:システムに登録されている見出しに対し、筆頭者・構成員・本籍の照会等を行います。(第2-9頁第3〜4行)
(b)索引処理は、システムに登録されている「現在戸籍」、「除籍・改製原戸籍」(以後、除改戸籍)の筆頭者氏名、構成員氏名により索引し、画面表示、外部出力装置(マイクロフィルムリーダプリンター、回転保管庫、光ディスク)への表示指示を行う処理です。(第3-1頁第2〜5行)
(c)<画面進行>
戸籍索引処理の索引条件の入力を行います。
索引指示において該当する見出しが複数あった場合、表示する見出しを番号で選択します。
索引された見出しを表示します。
現在戸籍と除改戸籍とでは、一部表示が異なります。
(3-3頁第1〜7行)
(d)「索引指示」の画面(第3-4頁)
(e)<入力詳細>
(1)氏名(氏) 索引する氏名の氏を入力します。…(略)…
(2)氏名(名) 索引する氏名の名を入力します。…(略)…
(3)戸籍 索引する戸籍の区分を入力します。
1.現在戸籍 :現在戸籍である場合
2.除改戸籍 :除改戸籍である場合
3.現在戸籍・除改戸籍 :現在戸籍か、除改戸籍か、
どちらかわからない場合
(4)対象 索引する対象者を入力します。
1.筆頭者 :現在戸籍である場合
2.構成員 :除改戸籍である場合
3.筆頭者・構成員 :筆頭者、構成員どちらか
わからない場合
(第3-5頁第1〜15行、なお原文では番号は()書きではなく丸数字である。)
(f)氏名の漢字は、外字、統一文字のいずれでも入力が可能です。そのとき、<システム管理者編>1.システム管理処理(5)漢字ファイルで登録されている統一文字に限ります。(第3-5頁の<注意>枠内第1〜3行:なお、<システム管理者編>において、漢字ファイルは、「5」ではなく「6」に記載されているものである。)
(g)「戸籍選択」の画面(第3-6頁)
(h)(1)指示 索引する戸籍を選択します。
索引する戸籍がある場合:該当する戸籍の番号を入力します。 索引する戸籍がない場合:[PF15]キーで§3.1索引指示へ戻 りもう一度、索引の条件を入力して下さい。
(第3-7頁第2〜5行、なお原文では番号は()書きではなく丸数字である。)
(i)「戸籍表示(現在戸籍の場合)」の画面(第3-8頁)
(j)「戸籍表示(除改戸籍の場合)」の画面(第3-10頁)
上記記載の内、(d)、(g)、(i)、(j)の画面は、索引処理を行う経緯を表したものであって、まず、(d)の「索引指示」の画面が表示され、必要事項を入力すると、(g)の画面が索引の回答として表示され、且つ、この画面は「戸籍選択」の画面でもあり、当該画面で複数の該当戸籍の中から1つを選択すると、その回答として(i)の「戸籍表示(現在戸籍の場合)」或いは(j)の「戸籍表示(除改戸籍の場合)」の画面が表示される。そして、この表示の内容について、その詳細を説明した上記(e)、(h)の記載を参酌して検討すると、索引処理に関して、「索引指示」の入力画面において、氏名を入力し、戸籍、対象に「3」(戸籍については、現在戸籍、除改戸籍の別が不明であるため。対象については、筆頭者、構成員の別が不明であるため。)を選択して「実行キー」を押すと、その回答画面である「戸籍選択」の画面が表示され、当該画面には、入力した氏名の該当者について、氏名、本籍と共に「現」(現在戸籍)、「除」(除改戸籍)の区分、その他が表示されるようになっている。さらに、当該回答画面において、該当戸籍の1つを選択すると、該当戸籍を筆頭者とする戸籍が、本籍、構成員等と共に表示される(なお、現在戸籍と除改戸籍とは、一部表示が異なっている。)、ことを表している。
即ち、刊行物1に記載された索引処理は、筆頭者、構成員の氏名を索引キーとして、現在戸籍と除改戸籍を索引し、索引された該当氏名を、関連事項(本籍、区分、編製除改年、登録番号)と共に表示する処理であり、且つ、上記(g)の回答表示画面のとおり、索引される氏名の該当者が、現在戸籍、除改戸籍のどちらにあるかを、区分の欄に「現」、「除」として、氏名、本籍と共に表示するものである。
そして、このような索引が可能であることからみて、刊行物1に記載された、現在戸籍と除改戸籍とは、戸籍に関するデータ、例えば、筆頭者氏名、構成員氏名、本籍等の情報を格納したデータベース(以下、「戸籍に関するデータベース」という。)となっていることは明らかである。
以上の点からみて、刊行物1には、次のような発明が記載されているものと認められる。
「戸籍筆頭者と該筆頭者の戸籍の構成員の各々について、氏名、本籍地等の現在戸籍情報、及び、除籍となった戸籍筆頭者と該筆頭者の戸籍の構成員の各々について、氏名、本籍地等の除改戸籍情報、を格納する戸籍に関するデータベースと、索引キーとして氏名を入力する手段と、該氏名に基づいて戸籍に関するデータベースを索引する手段と、索引された情報を索引結果として、該当戸籍の氏名、本籍、現在戸籍或いは除改戸籍の区分を表示する手段と、を有することを特徴とする戸籍総合システム。」(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)

5-2.刊行物2
同じく刊行物2には、次の事項が図面と共に記載されている。
(k)戸籍謄本・抄本の原紙を画像入力する際に、該原紙の画像を該原紙に記載された共通事項および筆頭者欄と各個人事項欄に切り出し加工して入力する入力処理手段と、該入力処理手段により入力された戸籍画像をファイルに格納するとともに、各端末装置から検索させるために上記ファイル内の戸籍画像位置に関連付けて検索用文字データを格納しておく記憶手段と、…(略)… 戸籍謄本検索交付オンラインシステム。(特許請求の範囲第1項)
(l)戸籍原紙は、該当する戸籍が除籍となった日付より80年間にわたって保管される制度であって、その原紙に記載された筆記具も、毛筆書き、ペン書き、タイプ書き等種々のものが使用されており、また、様式の異なるものや訂正表示のあるもの等、種々様々である。さらに、原紙の記載文末には認印があり、これらの各種筆記具による記載と、様式と、認印とを忠実に再現出力するには、従来のコード入力方法では、実用的に不可能であるため、本発明では、静止型画像入力装置を介して、画像として入力している。(公報第3頁左上欄第7〜17行)
(m)戸籍原紙から検索・調査に必要な索引用データ(筆頭者名、本籍地名、氏名続柄および記載事由等)を文字コードデータとして入力し、該当の戸籍画像と関連付けておく。(事同報第3頁右上欄第14〜19行)
上記(k)、(m)の記載からみて、検索に必要な索引用データは、画像データと関連付けられて、記憶手段に格納されているものであって、それら索引用データ、例えば、氏名を検索キーとして、検索できるようになっているものであるから、索引用データがデータベース化されて記憶手段に格納されていることは明らかである。
以上の点からみて、刊行物2には、次のような発明が記載されているものと認められる。
戸籍原紙を画像として入力してファイルに格納し、ファイル内の戸籍画像位置に関連付けて、検索に必要な索引用データ(筆頭者名、本籍地名、氏名等)を文字コードデータとして入力し、データベース化して記憶手段に格納する、戸籍検索システム。(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)

5-3.刊行物3
同じく刊行物3には、次の事項が図面と共に記載されている。
(n)1.6 漢字ファイル
このシステムで使用出来る漢字に対する活字プリンターの漢字コード(ROBOコード)、及び、戸籍索引で使用する統一文字を設定する処理です。(システム管理者編1-34頁第1〜3行)
(o)<画面進行>ROBOコード、統一文字の設定を行います。(システム管理者編1-35頁第1〜2行)
(p)漢字ファイル保守の表示画面(システム管理者編1-36頁)
(q)統一文字の設定は、
『辻(旧字体(点2つのしんにゅう部)の辻:以下、同じ)』の統一文字を『辻』にしたとき、『辻(旧字体)』『辻』のいづれでも索引が可能です。(システム管理者編1-37頁第9〜11行)
上記記載からみて、刊行物3には、次のような発明が記載されている。
戸籍索引で使用する統一文字を設定する処理に関して、旧字体に対応して、統一文字の設定を行ったものについては、旧字体、統一文字のいずれでも索引が可能である、戸籍総合システム。(以下、「刊行物3に記載された発明」という。)

6.対比・判断
6-1.刊行物1、3の公知性について
本件発明1乃至4の検討の前に、まず、特許権者の主張する上記4.イの点に関して、取消理由に示した刊行物1、3の公知性について検討する。
確かに、操作説明書は、必ずしもその発行日に頒布される刊行物とは限らない。しかしながら、上記取消理由に示した操作説明書は、富士ゼロックスシステムサービス株式会社が、「戸籍総合システム」を該システム(の実行)に必要な構成機器である「S3100、N5200」(以下、「実行装置」という。)と共に販売する際に、実行装置に添付されるものであって、その「戸籍総合システム」及び実行装置は不特定多数を対象として販売されるものであるから、当該操作説明書は、少なくとも実行装置の販売日以降においては、不特定多数の人が入手可能となる刊行物であることは明らかである。
そして、この実行装置の販売日について検討すると、上記操作説明書の初版が1991年(平成3年)4月1日に発行され、翌年の1992年(平成4年)3月20日に第2版が発行されており、このことを社会常識に照らして勘案すれば、操作説明書の初版の発行日以降、第2版の発行日前には、初版の操作説明書が添付された実行装置が販売に供され、第2版の発行以降は、初版に代えて第2版の操作説明書が添付された実行装置が販売に供されたと解するのが合理的であるから、少なくとも、本願の出願前には、上記操作説明書は公知の状態となったものと認められる。
したがって、当該操作説明書は、本願出願前、頒布された公知の刊行物であると認められるから、先の取消理由通知は適法な通知であると言える。

6-2.本件発明について
(1)本件発明1について
本件発明1(以下、「前者」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「後者」という。)とを対比する。
後者の「索引する手段」は、その機能からみて、前者の「とり出す手段」に相当し、同じく後者の「表示する手段」は、索引結果それぞれについて、氏名、本籍に付加して、「現在戸籍」、「除改戸籍」の区分も表示しているのであるから、前者の「表示する手段」に相当することは明らかである。
又、後者における「索引」なる用語が、通常、データベースに関連して用いられる「検索」のことであるのは明らかであり、同様に、後者の「戸籍総合システム」は、索引したい戸籍について、現在戸籍に関する情報と除改戸籍に関する情報とを格納するデータベースを索引するものであるから、「戸籍情報と除籍情報との統合検索システム」と言える。
さらに、前者の「戸籍データベース」と「除籍見出しデータベース」とは、全体として、(戸籍に関する)データベースであると言える。
なお、後者の「除改戸籍情報」は、除籍となった筆頭者関連の情報を格納している意味において、「除籍情報」であると言える。
以上の点からみて、前者と後者とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。
【一致点】
各戸籍筆頭者に対応する本籍地と該筆頭者によって代表される戸籍構成員の各々についての戸籍情報、及び、除籍となった戸籍筆頭者及び戸籍構成員についての除籍情報、を格納する戸籍に関するデータベースと、検索キーとして該戸籍構成員の氏名を入力する手段と、該氏名に基づいて該戸籍に関するデータベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、上記の検索結果それぞれの少なくとも一部にそれが現在戸籍に属するか除籍に属するかの区分を付加して表示する手段とを有することを特徴とする戸籍情報と除籍情報との統合検索システム。
【相違点1】
戸籍に関するデータベースが、前者においては、戸籍データベースと除籍見出しデータベースとして構築されているのに対して、後者においては、戸籍情報と除籍情報とを格納したデータベースとして構築されており、又、除籍情報に関して、前者では、除籍見出しデータベースであるのに対して、後者では、除籍情報を格納したデータベースである点。
【相違点2】
戸籍、除籍に関して検索を行う対象が、前者は、戸籍については戸籍データーベースであり、除籍については除籍見出しデータベースであるのに対して、後者は、戸籍に関するデータベースである点。

上記相違点について検討する。
【相違点1について】
前者が、除籍情報に関して、「除籍データベース」でなく「除籍見出しデータベース」を有しているのは、除籍簿がテキストデータ(コードデータ)ではなく、画像データの形で記憶手段に保管されているためであることは、本件特許公報の発明の詳細な説明の【従来技術】の項の記載に照らして明らかであり、又、画像データは索引(見出し)を設定しなければ検索できないことが当該技術分野における技術常識であることからみても、前者は、検索のために見出しデータを持たざるを得ず、除籍簿が画像データの形で格納されているが故に、前者は、「除籍見出しデータベース」を有しているのである。
ところで、特許権者は意見書において、刊行物1には、「現在戸籍データベースと除改戸籍データベース」については記載されていない、と主張(上記4.ロ参照)しているので、相違点1に関しては、データ格納形式による相違点を除外して、まず、戸籍データベースと除籍データベースとを別々に構築することについて検討する。
上記5-1(e)の(3)の記載によれば、後者は、索引する区分が「現在戸籍」であるか「除改戸籍」であるか、はっきりしている場合は、それぞれの戸籍を検索するものである。
このように、それぞれの戸籍が別々に検索できるようにデータを蓄積する手法として、各情報に「戸籍」、「除籍」の区別を表す情報を付加して格納すること、或いは、データベースを別々に構築すること等、が考えられ、これらは、データベースの構築手法としては常套手段と言うべきものである。
又、本来、戸籍は戸籍簿と除籍簿とが別々に調製されているものであるから、戸籍情報のデータベース化に際し、戸籍簿の情報と除籍簿の情報とは別々にデータベースとして構築されることが自然な方法であり、又、本件特許公報の【従来技術】の項にも、戸籍に関しては戸籍データベースを保持すること、他方、除籍に関しては、(除籍簿は画像データの形で保管しているため、検索用キーで検索することが必要となるが、)除籍簿だけのデータベースを保持すること、が記載されている。
以上の点からみて、刊行物1に記載された、「戸籍情報」と「除籍情報」とのデータベースを、「戸籍情報」と「除籍情報」に関して、別々のデータベースとして構築することは、当業者が容易に想到することであると認められる。
次に、除籍データベースを除籍見出しデータベースとすることについて検討する。
上記刊行物2には、上記5-2.に記載したとおり、「戸籍原紙を画像として入力してファイルに格納し、ファイル内の戸籍画像位置に関連付けて、検索に必要な索引用データ(筆頭者名、本籍地名、氏名等)を文字コードデータとして入力し、データベース化して記憶手段に格納する、戸籍検索システム。」が記載されており、このように、戸籍簿のように古い情報はコード情報として入力することが困難であるため、データベース化するに際しては、画像情報として入力し、別途、検索用の索引データ(見出しデータ)をデータベースとして構築しておくことは、本願出願前、公知の技術手段である。
ところで、一般に、データベース構築のためのデータ入力に関して、データをテキストデータ(コードデータ)の形で入力するか、画像データの形で入力するかは、入力に要する手間と時間、データベースを利用する回数(アクセス回数)、検索の簡便さ等、両者の長所・短所を考慮して、設計者が適宜決定し得る技術的事項であるところ、前者については、除籍簿を、画像データの形で記憶手段に保管しているため、検索のために除籍見出しデータベースを有しているものであるから、刊行物1の除籍情報のデータベース化に際し、除籍簿を画像データの形で入力して、除籍見出しデータベースを構築することは、当業者が必要に応じ決定し得る技術的事項であると認められる。
したがって、上記したように、刊行物1に記載された「戸籍情報」と「除籍情報」とのデータベースを、「戸籍情報」と「除籍情報」に関して、別々のデータベースとすることは、当業者が容易に想到することであり、その際、除籍簿に関してデータベースを「除籍見出しデータベース」とすることは、当業者が必要に応じ決定し得る技術的事項であると認められる。
なお、特許権者は、取消理由に対する意見書において、「刊行物1には戸籍データベースと除籍見出しデータベースとを別々に設けることは記載されていない」ことの理由として、「むしろ、戸籍データベースと除籍見出しデータベースを別々に備えていないと思料致します。その理由は、戸籍法において、平成6年12月1日に施行された後に、戸籍を磁気ディスクに記録し、これをもって調製することが認められたことによります。刊行物1が、本件特許の特許出願日前に頒布された刊行物であったとしても、本件特許の特許出願日である平成6年3月15日の前においては戸籍を磁気ディスクなどに記録することは戸籍法において認められてはおりませんので、本件発明1における「…(略)…」の要件を、刊行物1に係わるシステムは備えていないと思料致します。」(第8頁第22行〜第9頁第5行)と主張するので、この点に関して、念のため検討すると、「戸籍を磁気ディスクなどに記録することは戸籍法において認められていない」とは、どの様なことを意味しているのか明確ではないが、「戸籍法において、平成6年12月1日に施行された後に、戸籍を磁気ディスクに記録し、これをもって調製することが認められた」との記載からみて、戸籍に関する情報を磁気ディスクに記録することが認められていなかったのではなく、磁気ディスクに記録された情報をもって、即ち、磁気ディスクに記録された情報をもって(プリントアウト等して)戸籍(の原簿)を「調整」することが認められていなかったと解するのが相当であり、現に、本件発明も、平成6年12月1日前の平成6年3月15日の出願の時点で、戸籍データベース(戸籍に関する情報を電子データとして磁気ディスク等に記録することにより構築される。)を本件発明の要件としており、又、特許権者は、本件特許公報において、従来の技術として、戸籍に関するデータベースを保持し、このデータベースを参照して戸籍抄本を発行する戸籍情報システム、除籍簿を画像データとして保管し、検索キーにより検索する除籍検索システム、が知られていた、と明記しているから、「戸籍を磁気ディスクなどに記録することは戸籍法において認められていない」ことを理由として、「刊行物1のシステムが現在戸籍データベースと除籍見出しデータベースとを別々に設けていない」と反論することは、当を得ない主張であり、採用できない。
【相違点2について】
戸籍に関するデータベースが、戸籍データベースと除籍見出しデータベースとして構築されていれば、戸籍については戸籍データベースを、除籍については除籍見出しデータベースを、検索対象とすることは、当然の帰着であり、相違点2は、単に、相違点1に関連した相違点であり、格別のものとは認められない。
【作用効果について】
前者の奏する作用効果も、後者及び刊行物2に記載された発明の奏する効果の総和以上の格別なものとは認められない。
【まとめ】
したがって、本件発明1は、上記刊行物1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。

(2)本件発明2について
刊行物1乃至3に記載された事項及び発明は上記5.のとおりである。
本件発明2(以下、「前者」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「後者」という。)とを対比する。
上記刊行物1の記載事項(f)の「氏名の漢字は、外字、統一文字のいずれでも入力が可能です。」なる事項を、関連する刊行物3の記載事項(q)を参酌して検討すると、後者の戸籍総合システムにおいては、外字に対応させて統一文字の設定を行ったものは、検索のために氏名を入力をする場合、外字、統一文字のいずれを入力しても検索が可能であることは明らかである。
他方、請求項2において付加される「入力された該氏名の中に外字コードでありかつ同意味の対応する内字コードが存在するような外字コードが含まれる場合、該外字コードを対応する内字コードに変換してから該除籍見出しデータベースを検索すること」なる事項の内、前半の「入力された該氏名の中に外字コードでありかつ同意味の対応する内字コードが存在するような外字コードが含まれる場合」とは、「入力氏名の中に、内字コードが設定された外字コードが含まれている場合」のことであり、これは、後者において「検索氏名として、統一文字が設定されている外字を入力する場合」と同義であると認められるから、結局、前者と後者との一致点、相違点は、上記(1)に記載した、一致点、相違点1、2に加え、次の相違点3を有するものと認められる。
【相違点3】
前者では、外字コードを内字コードに変換して検索するのに対して、後者では、入力した外字コードで検索するのか、内字コードに変換して検索するのか明確でない点。
ところで、前者が「外字コードを内字コードに変換して検索する」のは、前者の除籍見出しデータベース、即ち、検索されるデータベースが、内字コードで構成されているためであることは明らかであり、又、後者が、外字コードで検索するのか、内字コードに変換して検索するのか明確でないのは、後者のデータベースが内字コードのみで構成されているのか、外字コードをも含んで構成されているのか明確でないためであって(なお、データベースが外字コードのみで構成されることがないのは言うまでもない。)、データベースが内字コードのみで構成されていれば、外字コードを内字コードに変換して検索するのは明らかであるから、上記相違点3は次のように言い換えることができる。
【相違点3’】
検索されるデータベースが、前者では内字コードで構成されているのに対して、後者では、内字コードのみ或いは内字コードと外字コードとで構成されているのか明確でない点。
該相違点について検討する。
データベースを内字コードのみで構成するか、内字コードを外字コードとで構成するかは、データベースの構築のためにデータ入力を行う際の、入力に要する手間と時間等を考慮して、例えば、入力の手間を簡単にしたいときには内字コードのみでデータベースを構成し、又、入力に手間と時間はかかるものの本来の(外字が含まれる)氏名漢字で入力できる場合には内字コード及び外字コードでデータベースを構成するものであり、当業者であれば、これらの長所短所を考慮して、何によりデータベースを構成するかを決定し得るものと認められるから、上記相違点3’を格別のものとすることはできない。
したがって、本件発明2は、上記刊行物1〜3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。

(3)本件発明3について
刊行物1の記載事項は、上記5-1.のとおりである。
本件発明3(以下、「前者」という。)と刊行物1に記載の発明(以下、「後者」という。)とを対比する。
上記(2)に記載したとおり、刊行物1のデータベースはテキストデータで入力され、コードデータで格納されるものであることは明らかであるから、上記(1)に記載した認定を勘案して検討すると、結局、両者は、次の一致点、相違点を有するものである。
【一致点】
戸籍構成員、及び、除籍となった戸籍構成員各々についてのコード情報を格納する戸籍に関するデータベースと、検索キーを入力する手段と、該入力に基づいて該戸籍に関するデータベースを検索し該当する情報を検索結果としてとり出す手段と、該検索結果が戸籍に属するか除籍に属するかの区分をつけて表示する手段とを有することを特徴とする戸籍情報と除籍情報との統合検索システム。
【相違点1】
戸籍に関するデータベースが、前者においては、戸籍データベースと除籍データベースとして構築されているのに対して、後者においては、戸籍情報と除籍情報とを格納したデータベースとして構築されている点。
【相違点2】
戸籍、除籍に関して検索を行う対象が、前者は、戸籍データーベースと除籍データベースであるのに対して、後者は、戸籍に関するデータベースである点。
【相違点3】
戸籍、除籍の区分表示の根拠が、前者は、戸籍データーベース或いは除籍データベースに属することであるのに対して、後者は、戸籍情報、除籍情報の別である点。
これら相違点について検討する。
相違点1は、上記(1)に記載した相違点1の前段部分と同一のものであるから、上記(1)の【相違点1について】の前段部分のとおりであり、相違点1を格別のものとすることはできない。
又、相違点2、3についても、上記(1)の相違点2と同様に、戸籍に関するデータベースが、戸籍データベースと除籍データベースとして構築されていれば、検索対象等が、それら各データベースとなることは、当然の帰着であり、上記相違点2、3は、単に、相違点1に関連した相違点であり、格別のものとは認められない。
したがって、本件発明3は、上記刊行物1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。

(4)本件発明4について
刊行物1の記載事項は、上記5-1.のとおりである。
刊行物1に記載の戸籍総合システムの索引処理は、「1.1 構成機器」に記載される端末装置で行われる処理である。そして、当該端末装置は、検索キーとして氏名を入力する入力手段と、検索結果を「戸籍」、「除籍」の区分と共に表示する手段とを有するものであることは明らかである。
結局、本件発明4と刊行物1に記載の発明とは、端末装置としては相違せず、ただ、端末装置が用いられる統合検索システムに関する相違点を有するものと認められる。
そこで、統合検索システムとしての相違点を検討するに、この相違点は、上記(3)に記載した相違点1乃至3と同一のものであり、その検討も上記(3)に記載したとおりである。
したがって、本件発明4は、上記刊行物1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。

6-3.上申書について
特許権者は、平成13年6月8日付けで上申書を提出し、(刊行物1、3が、)「本件特許出願前に頒布された刊行物であるとの証拠が提出される場合を考慮して、刊行物1との相違を明確にするために特許請求の範囲の訂正案を用意している」旨主張し、訂正案を提示すると共に、訂正案の各請求項の記載に基づいて、上記刊行物1乃至3と比較して、再度反論している。
しかしながら、特許権者は、取消理由通知に対する意見書において、刊行物1、3が公知でない旨主張する一方で、「しかしながら、刊行物1に係わるシステムが、本件特許の特許出願日前に公然知られているとしましても、」(同意見書第8頁第第19〜20行)として、特許時の請求項1乃至4の記載に基づいて、本件発明1乃至4と刊行物1乃至3(特に刊行物1)との相違点を列挙して、既に反論(上記4.及び6-2.(1)参照)しており、この意見書における主張により、刊行物との相違点は明確になっているのであるから、「刊行物1との相違を明確にするため」という理由は首肯できず、又、取消理由が通知され、訂正請求をすることができる機会があったにもかかわらず、訂正請求をせず、その期間が経過した後に訂正案を提示することは、時機に後れた防御方法であって、到底認められない。

7.むすび
以上のとおり、本件発明1乃至4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1乃至4に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、同法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-11-20 
出願番号 特願平6-43538
審決分類 P 1 651・ 121- Z (G06F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 高瀬 勤  
特許庁審判長 徳永 民雄
特許庁審判官 岡 千代子
山本 穂積
登録日 1999-07-02 
登録番号 特許第2948088号(P2948088)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 戸籍情報と除籍情報との統合検索システム  
代理人 作田 康夫  

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