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審決分類 |
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て一部成立) B05D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て一部成立) B05D 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て一部成立) B05D 審判 全部無効 特29条の2 無効とする。(申立て一部成立) B05D 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て一部成立) B05D |
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管理番号 | 1072531 |
審判番号 | 無効2002-35126 |
総通号数 | 40 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-10-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-04-04 |
確定日 | 2003-02-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3210523号発明「塗装金属板およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3210523号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3210523号の請求項2ないし3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 |
理由 |
【1】手続の経緯 1.本件特許第3210523号の特許の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)についての出願は、平成6年4月15日に特許出願され、平成13年7月13日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。 2.請求人日本鋼管株式会社は、平成14年4月4日付けで、本件発明1〜3についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする趣旨の審決を求める無効審判を請求した。 3.当審では、平成14年4月26日付けで無効理由を通知した。 4.これに対して、被請求人は、平成14年7月8日付けで意見書を、平成14年10月17日付けで口頭審理陳述要領書(平成14年10月31日の第1回口頭審理において陳述)を、それぞれ提出した。 5.一方、請求人は、平成14年7月4日付けで、当審の審尋に対する回答書及び手続補正書を、平成14年10月28日付けで口頭審理陳述要領書(平成14年10月31日の第1回口頭審理において陳述)を、平成14年11月22日付けで上申書を、それぞれ提出した。 【2】請求人の主張及び提示した証拠方法 1.請求人の主張の概要 請求人は、証拠として、甲1〜8号証を提示するとともに、以下に示す無効理由1、無効理由2、無効理由3及び無効理由4の1を主張している。 (1)無効理由1 (イ)甲第1号証にはWc-sm、Wc-aについて直接的には記載されていないが、凸部の高さhが2〜50μmであって、Wc-aは参考資料2に示すようにWc-a≦h/2であるから、甲第1号証記載の発明におけるWc-a≦1〜25μmである。 また、甲第1号証記載の凸部の幅rは、甲第1号証の図1(b)の記載等からみて、谷底から次の谷底までの距離であるから、Wc-sm≧1〜10mmである。なお、このような解釈は、甲第8号証の記載に対する被請求人の認識を示す甲第7号証の記載から明らかである。 すなわち、甲第1号証には、本件発明1のWc-sm、Wc-aとオーバーラップする樹脂被覆面の凹凸状態が記載されている。 (ロ)甲第2号証にはWc-sm、Wc-aについて具体的には記載されていないが、本件発明1の実施例と同一の製造方法が示されているから、本件発明1の凹凸構造は、甲第2号証に実質的に記載されている。 (ハ)甲第3号証に記載されている、表面粗さRaが0.28μmで波長Wが1.8mmの凹凸形状、又は、表面粗さRaが0.55μmで波長Wが0.5mmの凹凸形状は、その波長Wからみて本件発明1で規定する長い波長に該当するから、波長Wはろ波うねり波長Wc-smに相当し、また、表面粗さRaはWc-aに該当する。 すなわち、甲第3号証には、本件発明1の凹凸状態が記載されている。 (ニ)したがって、本件発明1は、甲1〜3号証記載の発明であるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。 (2)無効理由2 (イ)本件発明1のWc-a、Wc-sm に関する構成は甲第1〜3号証に記載されているが、仮にそうでないとしても、甲第4号証には、Wc-smと類似概念の長波長のうねり成分及びろ波中心線うねりWc-aをコントロールすることにより、表面の光沢性を調整可能であることが記載されている。該記載から、塗膜表面をゆず肌状態とするには、鋼板表面の長波長のうねり成分を400μm以上とし、かつWc-aを0.7μm超とすればよいことが導かれる。そして、甲第4号証には、塗装後の凹凸のうねりピッチが下地のうねりピッチとほぼ同一であること、塗装表面では鋼板表面のWc-aより小さいことが自明であることから、少なくとも塗装表面でうねりピッチを400μm以上とし、かつWc-aを0.7μm超とすれば塗料表面がゆず肌となることが導かれる。 (ロ)本件発明2、3で規定する粘度条件は、甲第1〜3号証には記載がないものの、ロールコーターによる塗装として一般的な範囲内のものと考えるのが相当である。 (ハ)したがって、本件発明1〜3は、甲1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜3についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。 (3)無効理由3 (イ)特願平5ー1315号の願書に最初に添付した明細書又は図面(先願明細書:甲第5号証)には、Wc-aが1.2μmないしは1.0μmであるゆず肌外観の塗装金属板が記載されている。 (ロ)上記先願明細書には、Wc-sm に関する記載がないが、凸部を1cm2あたり1〜100個存在させると記載されており、このことは山間隔であるWc-smが10/100〜10/1mmすなわち100〜10000μmであることに他ならない。 (ハ)したがって、本件発明1は、特願平5ー1315号の願書に最初に添付した明細書又は図面(先願明細書:甲第5号証)に記載された発明と同一であるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。 (4)無効理由4の1 特許請求の範囲の請求項2、3及び発明の詳細な説明において、塗料を「測定温度60℃、剪断速度1sー1における塗料粘度」で規定している。しかしながら、このような粘度の特定条件は、JISに規定するような一般的なものではなく、しかも、本件発明2、3でその粘度を特定する塗料の製造方法又は入手先等が本件明細書には記載されていない。したがって、本件明細書は、当業者が容易に実施し得る程度に本件発明2、3の構成を記載したものと認めることができない。また、参考文献として提示する「JIS使い方シリーズ 改訂版塗料の選び方・使い方」の第67頁17行〜26行に「・・・すなわち,ηaはずり速度依存性がある.時間とともにずり応力が低下し、ある平衡値に落ち着く.・・・」と記載されているように粘度を測定する場合、剪断速度だけでなく、剪断速度の与え方も重要であるから、具体的な剪断速度の与え方が記載されていない本件発明2、3に関する特許請求の範囲の記載は、本件発明2、3の構成に欠くことができない事項を記載したものとは認めることができない。 したがって、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明2〜3についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とすべきものである。なお、審判請求人は、上記無効理由4の1を、審判請求書では「特許法第36条第6項第2号」違反と記載し、平成14年7月4日付け手続補正により、「特許法第36条第4項、第5項第2号」違反と補正しているが、審判請求書に記載されていた記載不備の具体的内容からみて、上記手続補正の内容は、審判請求書の要旨を変更するものではないと認める(被請求人も、第1回口頭審理の場で、その旨認めている。)。 なお、審判請求人の提出した口頭審理陳述要領書第10頁14行〜第11頁2行には、参考資料3、4をもとに「本件発明1は公知/公用の発明である」旨記載されているが、この記載内容は、新たな無効理由の追加というべきもので、明らかに審判請求書の要旨を変更するものであるから、上記の記載内容は採用しない。この点につき、請求人は、上記の記載内容は単なる参考である旨主張している(第1回口頭審理調書の「請求人3」の項を参照。)。 2.請求人の提示した証拠方法 甲第1号証:特開平4ー370164号公報 甲第2号証:特開昭62ー53775号公報 甲第3号証:特開昭62ー116138号公報 甲第4号証:特開昭62ー230402号公報 甲第5号証:特開平6ー206047号公報 甲第6号証:JISハンドブック 塗料 JIS K 5400(1990)第88頁〜第98頁 甲第7号証:本件特許出願の拒絶理由通知に対する、平成13年5月25日付け意見書 甲第8号証:特開平1-127269号公報 なお、被請求人は、甲第6号証の成立、及び、甲第6号証が本件特許の出願前に頒布された刊行物であることを認めている(第1回口頭審理調書の「被請求人2」の項を参照。)。 【3】平成14年4月26日付けで通知した無効理由の概要 当審は、平成14年4月26日付けで上記の無効理由1、無効理由2、無効理由3及び無効理由4の1に加えて、下記の無効理由4の2を通知した。 「さらに、本件明細書の記載では、本件発明2、3において、Wc-aを1.4×10ー1Wc-sm+0.059より、それぞれ小さく、大きくすることの技術的意義が不明である。 すなわち、本件発明2、3に関する特許請求の範囲の記載は、上記の点でも、本件発明2、3の構成に欠くことができない事項を記載したものとは認めることができない。 したがって、本件特許出願は、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1〜3についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とすべきものである。」 【4】被請求人の主張及び提示した証拠方法 1.被請求人の主張の概要 被請求人は、証拠として、乙第1、2号証を提示するとともに、以下に示す無効理由1、無効理由2、無効理由3及び無効理由4の1、2に対して以下の旨を主張している。 (1)無効理由1に対して (イ)甲第1〜3号証には、本件発明1のWc-a、Wc-sm に関する構成が記載されていない。また、甲第4号証には、Wc-sm に関する構成が記載されていない。なお、甲第1号証記載のrは微小凹凸中の一つの凸部の幅であって、Wc-smではなく、また、甲第3号証記載の表面粗さRaは、乙第1号証の記載から明らかなように、粗さ曲線の微小凹凸の程度を示すものであって、短波長成分を除去したろ波うねり曲線の中心線平均Wc-a とは異なるものである。 (ロ)したがって、本件発明1は、甲1〜3号証記載の発明でなく、本件発明1についての特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものではない。 (2)無効理由2に対して (イ)甲第4号証の記載内容は、いわゆるアフターコートの塗装用金属板に関する技術であって、プレコートの塗装金属板に関する本件発明1〜3、甲第1〜3号証記載の技術とは関連のないものである(第1回口頭審理調書の「被請求人3」の項を参照。)。 (ロ)また、本件発明1〜3の課題である「歪みの目立ちにくさ」と甲第1号証等に記載の「ゆず肌」とは異なるものである(第1回口頭審理調書の「被請求人3」の項を参照。)。 (ハ)したがって、本件発明1〜3は、甲1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1〜3についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものではないから、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものではない。 (3)無効理由3に対して (イ)先願明細書には、「布状風合いの表面外観」を有する塗装金属板について、凸部間隔の記載はあるが、Wc-a に関する構成が記載されておらず、一方、「ゆず肌模様」を有する塗装金属板について、Wc-a に関する記載はあるが、Wc-sm に関する構成が記載されていない。そして、上記の凸部間隔はWc-smではない。 (ロ)したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一ではないから、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2に違反してされたものではなく、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものではない。 (4)無効理由4について (イ)測定温度と剪断速度とを特定することによって塗料の粘度を表示することは、乙第2号証に見られるごとく当業者の技術常識である。また、請求人の提示した参考文献「JIS使い方シリーズ 改訂版塗料の選び方・使い方」には、「・・・時間とともにずり応力が低下し、ある平衡値に落ち着く.・・・」と記載されており、平衡値に落ち着いたときの剪断速度と剪断応力から粘度を求めることは当業者の常識であるから、請求人の「剪断速度が一定であっても、その与え方によって測定される粘度は異なる」との主張は、当業者の粘度測定をことさらに無視した主張である。 (ロ)Wc-aを1.4×10ー1Wc-sm+0.059より、それぞれ小さく、大きくすることの技術的意義は、本件特許明細書の段落【0018】及び【0019】と段落【0020】及び【0021】とに、それぞれ記載されている。 (ハ)したがって、本件特許明細書には、無効理由4の1、2にいう記載不備はなく、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2号に規定する要件を満たしているから、本件発明1〜3についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とすべきものではない。 2.被請求人の提示した証拠方法 乙第1号証:JISハンドブック 金属表面処理、財団法人日本規格協会、1998年4月24日発行、第13頁〜第15頁 乙第2号証:化学工学会 第24回秋季大会 研究発表講演要旨集 第1分冊、化学工学会、1991年発行、第22頁、第28頁 なお、請求人は、乙第1、2号証の成立、及び、乙第2号証が本件特許の出願前に頒布された刊行物であることを認めている(第1回口頭審理調書の「請求人2」の項を参照。)。 【5】本件発明 本件発明1〜3は、設定登録時の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものであると認める。 なお、本件特許請求の範囲の請求項2及び請求3の記載には、下記の「【10】無効理由4について」で示すように、不備がないと認められるので、本件発明2及び本件発明3を、特許請求の範囲の請求項2及び請求項3に記載されたとおりのものであると認定した。 「【請求項1】下地処理が施された金属板上に、溶剤系または水系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板であって、最終の樹脂被覆層の表面うねりが下記領域(単位:μm)の表面うねりパターンであることを特徴とする塗装金属板。ろ波うねり中心線平均Wc-aおよびろ波うねり平均山間隔Wc-smが ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500 0.2≦Wc-a≦5.0 で表される領域。 【請求項2】下地処理が施された金属板上に、溶剤系または水系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板を製造するに当たり、最終の樹脂被覆層として、測定温度60°C、剪断速度1sー1における粘度が80cp以上320cp以下であるポリエステル樹脂系または/およびポリウレタン樹脂系塗料を塗布焼付することにより下記領域(単位:μm)の表面うねりを有する樹脂被覆層を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法。 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 0.2≦Wc-a≦1.4×10ー3Wc-sm+0.059 Wc-sm≦3500 【請求項3】下地処理が施された金属板上に、溶剤系または水系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板を製造するに当たり、測定温度60°C、剪断速度1sー1における塗料粘度が180cp以上450cp以下であるポリエステル樹脂系または/およびポリウレタン樹脂系塗料を塗布焼付することにより下記領域(単位:μm)の表面うねりを有する樹脂被覆層を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法。 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 1.4×10ー3Wc-sm+0.059≦Wc-a≦5.0 Wc-sm≧100」 【6】甲第1〜5号証、乙第2号証記載の発明(事項) 1.甲第1号証 本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物である甲第1号証には、 (イ)「【産業上の利用分野】本発明は仕上げ用塗料組成物に関し、更に詳しくは、いわゆるゆず肌と呼ばれるような微小凹凸模様を容易にかつほぼ均一に形成することができ、プレコート塗装に好適に使用できる塗料組成物に関する。」(第1欄10行〜14行)、 (ロ)「本発明の目的は、ロール塗装で容易に形成でき、いわゆるゆず肌調の安定した微小凹凸模様を形成できるプレコート鋼板用として好適に用いることができる塗料組成物を提供することである。」(第2欄26行〜29行)、 (ハ)「ビヒクル樹脂としては、具体的には、オイルフリーポリエステル樹脂・・・を用いることができる。なお、オイルフリーポリエステル樹脂とは油脂分を含まないポリエステル樹脂を指す。」(第3欄6行〜11行)、 (ニ)「本発明の塗料組成物を適用することができる被塗物としては、・・・金属板が挙げられる。・・・被塗物は、必要に応じて・・・化成処理が施される。」(第7欄24行〜30行)、 (ホ)「本発明の塗料組成物を塗布する場合、まず塗料組成物を所望の粘度に調整する。塗装粘度は特に限定がなく、通常のこの種の塗装において用いられる粘度(たとえば40〜180秒/#4フォードカップ)であってよい。」(第7欄44行〜48行)、 (ヘ)「図1は、本発明の塗料組成物を被塗物に塗装した場合の塗膜の状態を模式的に示す部分断面図である。・・・この塗膜を焼付けると、今度は、図1の(b)に示すように、塗膜中の熱可塑性樹脂粉末2がある程度溶融して周囲に流動して偏平状となり、その上にビヒクル樹脂1が硬化して膜を形成する。このようにして得られる凹凸模様(ゆず肌調表面)は、凸部の高さ(最も凹な部分からの高さ:図1の(b)のh)が2〜50μm程度であり、1つの凸部の幅(凸部の広がりを示す径:図1の(b)のr)が1〜10mm程度となる。」(第8欄4行〜19行)、 (ト)「本発明の塗料組成物を用いた塗装は、・・・下塗り塗膜の上に塗る2コート法、さらには多重コート法であってもよい。」(第8欄28行〜31行) と記載されている。 これら(イ)〜(ト)及び図1の記載からみて、甲第1号証には、 『いわゆるゆず肌調の良好な微小凹凸模様を有するプレコート塗装面を得る』との課題、及び、 『化成処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板であって、最終の樹脂被覆層として、たとえば40〜180秒/#4フォードカップの粘度のポリエステル樹脂系塗料を塗布焼付することによる、最終の樹脂被覆層表面の凸部の高さが2〜50μm程度であり、1つの凸部の幅が1〜10mm程度である、塗装金属板の製造方法、及び、該製造方法により得られた塗装金属板』の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 2.甲第2号証 本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物である甲第2号証には、 (イ)「本発明によって得られる表面構造は・・・。更に、あばた表面は・・・。」(第3頁右下欄14行〜19行)、 (ロ)「実施例2 アルミニウム板[・・・アコメット(ACCOMET)Cで予備処理(クロム化)]ずみを・・・無油性ポリエステル樹脂で・・・顔料含有の最初の被覆を塗装した。次いで炉温260〜280℃、基体温度(PMT)230〜240℃でトンネル・オーブン中で30秒加熱した。・・・同様な方法によって、ポリウレタン樹脂をベースとする無色(顔料含有せず)の表面被覆層を加熱した含顔料被覆上に塗装し、260〜280℃の炉温、基体温度(PMT)240〜250℃でトンネル・オーブン中で40秒加熱した。使用した無色の表面被覆は、形成されるべき平坦な表面構造をもたらすワックスの量を含んでいる。乾燥フィルム厚さは10〜20μm、すなわち形成された“谷”は約5〜10μmの厚さを有し、“丘”は約20〜25μmの厚さを有する。・・・表面被覆、無色、組織構造・・・芳香族炭化水素溶剤・・・操作粘度=100sec. 4mm DIN53 211 20℃」(第9頁右上欄9行〜同頁右下欄下から5行) と記載されている。 これら(イ)、(ロ)の記載からみて、甲第2号証には、 『クロム化処理が施されたアルミニウム板上に、溶剤系の塗料を塗布し、炉温260〜280℃のトンネル・オーブン中で加熱してなる2層の樹脂被覆層を有する塗装アルミニウム板であって、最終の樹脂層として、操作粘度=100sec.4mm DIN53 211 20℃の、ワックスを含むポリウレタン樹脂系の溶剤系の塗料を塗布し、炉温260〜280℃のトンネル・オーブン中で加熱することによる、“谷”の厚さが約5〜10μmで、“丘”の厚さが約20〜25μmである、最終の樹脂被覆層があばた表面構造を有する塗装アルミニウム板の製造方法、及び、該製造方法により得られた塗装アルミニウム板』の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 3.甲第3号証 本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物である甲第3号証には、 (イ)「表面形状測定装置:・・・1.JISに準拠した表面粗さRa(μm)、カットオフ値0.8mm 2.粗さの波長W(μmまたはmm)」(第3頁左上欄1行〜5行)、 (ロ)「トップコートとして・・・ポリエステル系樹脂塗料などを用い・・・塗装した。また塗装プロセスは素地鋼板にリン酸塩処理、プライマーおよびトップコートの順である。」(第3頁右上欄2行〜8行)、 (ハ)「第1a図、第1b図、第1c図および第1d図は塗装板の表面形状を表わしたものである。Raが0.2μm未満でも粗さの波長が1mm以下であれば鮮映性は低く、反対に波長が1mm超でもRaが0.2μm以上であれば鮮映性が低いことがわかる。」(第3頁右下欄5行〜9行)、 (ニ)「(実施例2)・・・溶融亜鉛めっき鋼板にリン酸亜鉛処理を施したのち、エポキシ変性ポリエステル樹脂系塗料を・・・塗装し、220℃×50secで焼付け、さらにその上に以下に示す4種類のポリエステル系およびアクリル系上塗塗料を・・・塗装し、230℃×50secで焼付けた。」(第7頁左上欄1行〜8行) と記載され、 (ホ)図1bには、「塗装後のRaが0.28μm、波長が1.8mm、鮮映性が60%である塗装物」が、図1dには、「塗装後のRaが0.55μm、波長が0.5mm、鮮映性が20%である塗装物」が、それぞれ鮮映性の悪い例として示されている。 これら(イ)〜(ホ)の記載からみて、甲第3号証には、 『リン酸塩処理が施された鋼板上に、プライマー及びトップコートの塗料を塗布焼付してなる2層の樹脂被覆層を有する塗装金属板であって、トップコート層として、ポリエステル樹脂系塗料を塗布焼付した、カットオフ値が0.8mmである塗装物の表面粗さRaが0.28μmで波長Wが1.8mm、又は、塗装物の表面粗さRaが0.55μmで波長Wが0.5mmである鮮映性の悪い塗装鋼板の製造方法、及び、該製造方法により得られた塗装鋼板』の発明(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 4.甲第4号証 本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物である甲第4号証には、 (イ)「(産業上の利用分野)この発明は・・・プレス加工などの成形加工に供される塗装用鋼板およびその製造方法に関し」(第1頁右下欄19行〜第2頁左上欄2行)、 (ロ)「鋼板表面の凹凸が激しければ、塗装面においても凹凸が大きく、その結果光の乱反射を生じて、光沢性を損なうとともに、写像の歪みを来して写像性の低下を招き、前述の鮮映性を悪化する。一般に鋼板の表面粗さは、中心線平均粗さRaのほか最近に至って濾波中心線うねりWcaでも表わされることが多く、ここに中心線表面粗さRaが大きいほど、山と谷の振幅が大きくその結果塗装面の凹凸が激しくなり、鮮映性を劣化させると言われている。」(第2頁左下欄4行〜13行)、 (ハ)「結果の一例を第3図に示す。・・・中心線平均粗さRaは、サンプルAで1.4μm、サンプルBで0.8μmであった。・・・A2,B2のチャートは、A1,B1のチャートの波をJIS B 0610の方法によって処理(低域カットオフ0.8mm)した濾波中心線うねり(Wca)である。サンプルAはWcaが1.1μm、サンプルBは0.7μmであった。A3,B3のチャートは塗装後の塗膜の粗さ曲線であり、この波のピッチはそれぞれチャートA2,B2のそれと略々一致し・・・。以上より、鋼板のうねり成分(数100μm)が、そのまま塗膜表面に現われて、鮮映性に強い影響を与えることがわかる。」(第4頁右下欄20行〜第5頁左上欄19行)、 (ニ)「従って、もし鋼板表面の400μm以上の波長のうねり成分を、十分小さくしておけば、塗装後の塗膜面では400μm以上のうねりも十分小さく、かつ400μm未満のうねりは塗装によって十分隠蔽され、全波長域にわたって、塗膜面のうねりの少ない塗装が可能となる。」(第5頁右下欄下から2行〜第6頁左上欄4行)、 (ホ)「鋼板表面の粗さ曲線に含まれる波長400μm以上のうねり成分を、可能な限り少なくするか・・・400μm以上の波長成分の強度を示す指標である「濾波中心線うねり;Wca」をWca≦0.7μmとするのいずれかの方法によって、塗料の種類や塗装の方式を変更することなく、事実上、最高の塗装鮮映性を得ることができる。」(第6頁右下欄5行〜12行)、 (ヘ)「同じくらいのRa(K;1.82Ra、S51;1.92Ra)にもかかわらずWcaはkが0.62μm、S51では1.04μm(ゆず肌)のため塗装面に著しい差が生じている。」(第8頁左下欄5行〜7行) と記載されている。 これら(イ)〜(ヘ)の記載からみて、 『鋼板表面の粗さ曲線に含まれる波長400μm以上のうねり成分を、可能な限り少なくするか、400μm以上の波長成分の濾波中心線うねり(Wca)≦0.7μmとすると、塗装用鋼板塗装後の塗装面を凹凸が少なく鮮映性の優れたものとできること』、及び、 『塗装用鋼板の塗装後の塗膜の粗さ曲線における波のピッチは、塗装前の塗装用鋼板の濾波中心線うねりのそれと略々一致すること』が記載されているものと認められる。 5.甲第5号証 甲第5号証として提示された特願平5ー1315号(特開平6ー206047号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、 (イ)「布状風合いの表面外観を有する塗装金属板の断面図を図1(a)および(b)に示す。このような塗装金属板を製造するには、・・・金属板1に、定法によりリン酸系および/またはクロメート系の下地処理を行う。・・・下地処理後プライマー塗料5を塗布した上に、上述の樹脂を用いて慣用の印刷塗布法により凸部3を設ける。・・・矩形の凸部を1cm2当たり1〜100個程度存在させ、凸部の最大高さを2〜500μmとする」(第4欄27行〜45行)、 (ロ)「市販のポリエステル系トップコート(日本ペイント製、H47、クリーム色)」(第6欄12行〜13行)、 (ハ)「【実施例2】ゆず肌状の外観の塗装鋼板を以下のようにして製造した。溶融亜鉛めっき鋼板・・・を母材とし、リン酸亜鉛処理・・・を施した後、・・・印刷した。その上にバーコーターによって、同じP109プライマーを・・・金属板全面に塗装し、さらに、日本ペイント製のフレキコートH47トップコートを・・・塗装し、焼付硬化させてサンプルAを得た。・・・【実施例3】プライマー層と印刷層の順番を入れかえた以外は実施例2と同様にして塗装鋼板を作製し、サンプルBを得た。」(第7欄28行〜46行) と記載され、 又、表2には、 (ニ)「サンプルAはゆず肌外観と1.2μmのWCAを、サンプルBはゆず肌外観と1.0μmのWCAを、それぞれ有すること」が示されている。 これら(イ)〜(ニ)の記載からみて、先願明細書には、 『リン酸亜鉛処理が施された溶融亜鉛めっき鋼板上に、P109のプライマー及びポリエステル系トップコートH47を塗布焼付してなる2層の樹脂被覆層を有する塗装金属板であって、ポリエステル系トップコートのWCAが1.2μmないしは1.0μmであるゆず肌外観の塗装金属板』の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。 6.乙第2号証 本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物であると認められる乙第2号証には、 『測定温度と剪断速度とを特定することによって塗料の粘度を表示すること』が示されているものと認められる。 【7】無効理由1について 1.本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比・判断 本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「化成処理」は、その技術的意義からみて、前者の「下地処理」に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板。 〈相違点〉前者は、最終の樹脂被覆層の表面構造が、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500 0.2≦Wc-a≦5.0(単位:μm)で表される領域の表面うねりパターンであるのに対して、後者は、凸部の高さが2〜50μm程度で、1つの凸部の幅が1〜10mm程度の表面構造である点。 そこで、上記相違点につき検討するに、後者において1つの凸部幅が1〜10mm程度であることから、後者の表面構造は、波長の短い表面粗さ成分を除いた、ろ波うねりというべきものであり、凸部の高さが2〜50μm程度であることから、後者のWc-aは0.2μm≦Wc-a≦5.0μmの条件を満たしていると認められる。しかしながら、後者は、1つの凸部幅が特定されているものの、該凸部幅は、1つの凸部に着目したものであって、隣り合う凸部間の関係については何ら触れるものではないから、後者のWc-smは明らかではないといわざるを得ない。なお、請求人は、甲第1号証記載の凸部幅は、図1(b)等の記載からみて、谷底から次の谷底までの距離であると主張するが(「【2】1.(1)(イ)」を参照)、甲第1号証記載の発明において、図1(b)は単なる模式図であることからみて、図1(b)をもって、隣り合う凸部が連続して形成され、したがって、凸部幅は谷底から次の谷底までの距離すなわち波長に等しいことが示されていると認めることはできず、また、他にそのことを裏付ける根拠は示されていないから、上記の請求人の主張は採用できない。 したがって、本件発明1は甲第1号証記載の発明である、とすることはできない。 2.本件発明1と甲第2号証記載の発明との対比・判断 本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「クロム化処理」は、技術的意義からみて、前者の「下地処理」に相当し、同様にして、後者の「アルミニウム板」は前者の「金属板」に、後者の「炉温260〜280℃のトンネル・オーブン中で加熱」は前者の「焼付」に、後者の「塗装アルミニウム板」は前者の「塗装金属板」に、それぞれ相当する。 してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板。 〈相違点〉前者は、最終の樹脂被覆層の表面構造が、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500 0.2≦Wc-a≦5.0(単位:μm)で表される領域の表面うねりパターンであるのに対して、後者は、“谷”の厚さが約5〜10μmで、“丘”の厚さが約20〜25μmのあばた表面構造である点。 そこで、上記相違点につき検討するに、後者では、互いに隣接する谷の間隔ないしは丘の間隔について何ら特定されていないから、後者では少なくともWc-smが明らかでない。 なお、請求人は、この点につき、甲第2号証には本件発明1の実施例と同一の製造方法が示されているから、甲第2号証記載の発明の表面構造は本件発明1の表面構造と同一である旨主張しているが(「【2】1.(1)(ロ)」を参照)、本件発明1の塗装金属板を製造するには、最終の樹脂被覆層を形成する塗料の粘度は、特許明細書の記載からみて、測定温度60°C、剪断速度1sー1において80cp以上450cp以下である必要があると認められるのに対して、甲第2号証には、そのような粘度の塗料を用いることが記載されていないばかりか、そのような粘度の塗料が用いられているとするに足る根拠もないから、甲第2号証には本件発明1の実施例と同一の製造方法が示されているという請求人主張の前提そのものが誤っており、上記請求人の主張は採用できない。 したがって、本件発明1は甲第2号証記載の発明である、とすることはできない。 3.本件発明1と甲第3号証記載の発明との対比・判断 本件発明1と甲第3号証記載の発明とを対比すると、後者の「リン酸塩処理」は、その技術的意義からみて、前者の「下地処理」に相当し、同様にして、後者の「鋼板」は前者の「金属板」に、後者の「塗装鋼板」は前者の「塗装金属板」に、それぞれ相当する。 ところで、本件特許明細書の段落【0031】〜【0034】のWc-a、Wc-smに関する説明、乙第1号証のろ波うねり曲線に関する記載からみて、本件発明1のろ波うねり中心線平均Wc-a 、ろ波うねり平均山間隔Wc-sm は、それぞれ、断面曲線から波長の短い表面粗さの成分を除いて得られる曲線をもとに算出した平均振幅、平均波長というべきものである。一方、甲第3号証記載の発明の表面粗さRa、波長Wは、それぞれ0.8mm以下の波長の短い成分を除外して測定、算出した平均振幅、平均波長というべきものであるから、その表現が異なるものの、本件発明1のWc-a 、Wc-sm にそれぞれ相当するものと認められる。 そして、Wc-aが0.28μmでWc-smが1.8mmである場合、及び、Wc-aが0.55μmでWc-smが0.5mmである場合、Wc-a 、Wc-smは、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500 0.2≦Wc-a≦5.0(単位:μm)の3つの式を満たしている。 してみると、甲第3号証記載の発明は、本件発明1の構成要件をすべて備えている。 したがって、本件発明1は甲第3号証に記載された発明である。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。 【8】無効理由2について 1.本件発明1について 本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである(「【7】1.本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比・判断」を参照。)。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板。 〈相違点〉前者は、最終の樹脂被覆層の表面構造が、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500 0.2≦Wc-a≦5.0(単位:μm)で表される領域の表面うねりパターンであるのに対して、後者は、凸部の高さが2〜50μm程度で、1つの凸部の幅が1〜10mm程度の表面構造である点。 そこで、上記相違点につき検討するに、後者において1つの凸部幅が1〜10mm程度であることから、後者の表面構造は、波長の短い表面粗さ成分を除いた、ろ波うねりというべきものであり、凸部の高さが2〜50μm程度であることから、後者のWc-aはその半分弱程度であるから、0.2μm≦Wc-a≦5.0μmの条件を満たすと認められる。 ところで、後者のWc-smは明らかではないが、鮮映性の悪い塗装鋼板の断面曲線から波長の短い成分を除いて算出した、Wc-smに相当する波長が1.8mmであってWc-aに相当するRaが0.28μm、又はWc-smに相当する波長が0.5mmであってWc-aに相当するRaが0.55μmであることが、甲第3号証に記載されている。 そして、甲第1号証記載の発明と甲第3号証記載の事項とは、「塗装鋼板」という同一の技術分野に属するものであって、また、甲第3号証記載の事項の「悪い鮮映性」は甲第1号証記載の発明の「いわゆるゆず肌調の良好な微小凹凸模様」をも含むものであるから、両発明は共通の課題を有するものともいえる。 また、表面構造をWc-a等の表面うねりを表す数値で表現することは甲第4号証に記載されていることも考慮すると、甲第1号証記載の発明において、凸部の高さが2〜50μm程度、すなわちWc-aが1〜25μm程度の表面うねりの波長Wc-smを、同程度のWc-aを有する甲第3号証記載の表面うねりの波長である0.5〜1.8mm程度とし、その範囲内において、甲第1号証の記載の発明の課題である「いわゆるゆず肌調の良好な微小凹凸模様」を発現するのに好適なWc-a、Wc-sm の関係を求め、上記相違点に係る本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易になし得るものと認められる。 そして、本件特許明細書の段落【0005】の「いわゆる「ゆず肌」が形成できることにより、成型時の歪みが目立ちにくくなる」との記載からみて、本件発明1の歪みの目立ちにくさといった作用効果は、ゆず肌調塗装金属板に関する甲第1号証記載の発明、及び、悪い鮮映性の塗装金属板に関する甲第3号証記載の事項から、当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。 してみると、本件発明1は甲第1号証記載の発明及び甲第3、4号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2.本件発明2について 本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板を製造するに当たり、最終の樹脂被覆層として、ポリエステル樹脂系塗料を塗布焼付することにより樹脂被覆層を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法。 〈相違点1〉前者は、最終の樹脂被覆層のポリエステル樹脂系塗料が、測定温度60°C、剪断速度1sー1における粘度が80cp以上320cp以下のものであるのに対して、後者は、たとえば40〜180秒/#4フォードカップの粘度を有するものである点。 〈相違点2〉前者は、最終の樹脂被覆層の表面構造が、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 0.2≦Wc-a≦1.4×10ー3Wc-sm+0.059 Wc-sm≦3500(単位:μm) で表される領域の表面うねりパターンであるのに対して、後者は、凸部の高さが2〜50μm程度で、1つの凸部の幅が1〜10mm程度の表面構造である点。 そこで、相違点1につき検討するに、測定温度60°C、剪断速度1sー1における粘度が80cp以上320cp以下の塗料を用いることは、甲第2〜4号証にも記載されていない。 そして、本件発明2は、上記の事項を必須の構成要件とすることにより、本件特許明細書記載の優れた作用効果を奏しているものと認められる。 してみると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。 3.本件発明3について 本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、溶剤系の塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板を製造するに当たり、最終の樹脂被覆層として、ポリエステル樹脂系塗料を塗布焼付することにより樹脂被覆層を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法。 〈相違点1〉前者は、最終の樹脂被覆層のポリエステル樹脂系塗料が、測定温度60°C、剪断速度1sー1における粘度が180cp以上450cp以下のものであるのに対して、後者は、たとえば40-180秒/#4フォードカップの粘度を有するものである点。 〈相違点2〉前者は、最終の樹脂被覆層の表面構造が、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 1.4×10ー3Wc-sm+0.059≦Wc-a≦5.0 Wc-sm≧100(単位:μm) で表される領域の表面うねりパターンであるのに対して、後者は、凸部の高さが2〜50μm程度で、1つの凸部の幅が1〜10mm程度の表面構造である点。 そこで、相違点1につき検討するに、測定温度60°C、剪断速度1sー1における粘度が180cp以上450cp以下の塗料を用いることは、甲第2〜4号証にも記載されていない。 そして、本件発明3は、上記の事項を必須の構成要件とすることにより、本件特許明細書記載の優れた作用効果を奏しているものと認められる。 してみると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。 4.むすび したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである。また、本件発明2〜3についての特許は、特許法第29条第2項に違反してされたもので、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである、とすることはできない。 【9】無効理由3について 本件発明1と先願発明とを対比すると、後者の「リン酸亜鉛処理」は、その技術的意義からみて、前者の「下地処理」に相当し、同様にして、後者の「溶融亜鉛めっき鋼板」は前者の「金属板」に、後者の「P109のプライマー」及び「ポリエステル系トップコートH47」は前者の「塗料」に、後者の「WCA」は前者の「Wc-a」に、それぞれ相当する。そして、後者の「WCAが1.2μmないしは1.0μmである」ことは、前者の「0.2≦Wc-a≦5.0」を満足する。 してみると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。 〈一致点〉下地処理が施された金属板上に、塗料を塗布焼付してなる少なくとも2層以上の樹脂被覆層を有する塗装金属板であって、最終の樹脂被覆層の表面うねりが下記領域(単位:μm)の表面うねりパターンであることを特徴とする塗装金属板。ろ波うねり中心線平均Wc-aが0.2≦Wc-a≦5.0で表される領域。 〈相違点1〉前者は、塗料が溶剤系または水系のものであるのに対して、後者は、そのように特定されていない点。 〈相違点2〉前者は、表面うねりパターンが、 ー8.0×10ー4Wc-sm+0.68≦Wc-a≦ー8.0×10ー4Wc-sm+7.4 100≦Wc-sm≦3500であるのに対して、後者は、Wc-sm について明らかではない点。 そこで、相違点2につき検討するに、先願明細書には、「布状風合いの塗装金属板を得るには、有機樹脂印刷層の矩形の凸部を1cm2当たり1〜100個程度存在させる」という、波長に関連する事項が記載されている。しかし、上記の事項は「布状風合いの塗装金属板」に関する事項であって、先願発明の「ゆず肌外観の塗装金属板」がそのような事項を備えているとする根拠はない。 してみると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一ではない。 したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条の2に違反してされたもので、特許法第123条第1項第2号の規定によって無効とすべきものである、とすることはできない。 【10】無効理由4について 1.無効理由4の1について 請求人の提示した参考文献「JIS使い方シリーズ 改訂版塗料の選び方・使い方」の「すなわち,ηaはずり速度依存性がある.時間とともにずり応力が低下し、ある平衡値に落ち着く」との記載からみて、厳密には、剪断速度の与え方も粘度に影響を及ぼすというべきではある。しかしながら、「時間とともにずり応力が・・・ある平衡値に落ち着く」との上記参考文献の記載、また、測定温度と剪断速度とを特定することによって塗料の粘度を表示することは、本件特許の出願前に国内で頒布された刊行物であると認められる乙第2号証に見られるごとく、当業者の技術常識であると認められることからみて、平衡値に落ち着いたときの剪断速度と剪断応力から粘度を求めることは当業者の技術常識であると認められる。 してみると、本件特許明細書には、粘度に特定する記載に関する不備はないと認められる。 2.無効理由4の2について Wc-aを1.4×10ー3Wc-sm+0.059より小さくすることの技術的意義は、本件特許明細書の段落【0022】に「比較的滑らかな外観」とすることにあり、また、大きくすることの技術的意義は、本件特許明細書の段落【0026】に、「比較的肉持ち感」とすることにあると、それぞれ記載されている。 したがって、本件特許明細書には、Wc-aを1.4×10ー3Wc-sm+0.059より、それぞれ小さくしたり、大きくしたりすることの技術的意義に関する記載不備はないと認められる。 3.むすび したがって、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定によって無効とすべきものである、とすることはできない。 【11】むすび 以上のとおりであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。また、本件発明2、3についての特許は、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が3分の2、被請求人が3分の1負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-12-09 |
結審通知日 | 2002-12-12 |
審決日 | 2002-12-26 |
出願番号 | 特願平6-77183 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZC
(B05D)
P 1 112・ 534- ZC (B05D) P 1 112・ 113- ZC (B05D) P 1 112・ 16- ZC (B05D) P 1 112・ 531- ZC (B05D) |
最終処分 | 一部成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 稔 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
松下 聡 清田 栄章 |
登録日 | 2001-07-13 |
登録番号 | 特許第3210523号(P3210523) |
発明の名称 | 塗装金属板およびその製造方法 |
代理人 | 杉岡 幹二 |
代理人 | 杉岡 幹二 |
代理人 | 高山 宏志 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 穂上 照忠 |