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審決分類 審判 一部無効 発明同一 無効とする。(申立て全部成立) H01M
管理番号 1072796
審判番号 無効2002-35288  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-07-11 
確定日 2003-02-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3190024号発明「バッテリ保護装置及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3190024号の請求項1乃至11、14乃至17に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3190024号の請求項1〜17に係る発明についての出願は、平成11年8月18日に特許出願され、平成13年5月18日にその発明について特許権の設定がなされ、その後請求項1〜11、14〜17に係る特許について、平成14年7月11日に請求人宮田耕平により無効の申立がなされたものである。

2.本件発明
本件請求項1〜11、14〜17に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明11」、「本件発明14」〜「本件発明17」という。)は特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜11、14〜17に記載されるとおりの次の事項により特定されるものである。
「【 請求項1】 第1のケース部材と第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、
前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、
少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、
前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された第1の接点と、
前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された第2の接点と、
前記第1の外部端子に接続されると共に、前記第1の接点を可動接点として備え、前記第1の接点と前記第2の接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、
前記第1及び第2の外部端子間に、前記バイメタル素子と並列となるように接続される正特性サーミスタと、
を備えるバッテリ保護装置。
【請求項2】 樹脂からなる第1のケース部材と樹脂からなる第2のケース
部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、
前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、
少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、
前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された第1の接点と、
前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された第2の接点と、
前記第1の外部端子に接続されると共に、前記第1の接点を可動接点として備え、前記第1の接点と前記第2の接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、
を備え、前記ケース体が前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を超音波溶着して形成されるバッテリ保護装置。
【請求項3】 樹脂からなる第1のケース部材と樹脂からなる第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、
前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、
少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、
前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された可動接点を備えるリード部材と、
前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された固定接点と、
前記ケース体内に配置され、前記可動接点と前記固定接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、
を備え、前記ケース体が前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を超音波溶着して形成されるバッテリ保護装置。
【請求項4】 前記第1又は第2のケース部材の少なくとも一方は、インサートモールド成型され、前記第1及び第2の外部端子は、該成型の際に前記第1又は第2のケース部材の何れかに一体にされる請求項1、2又は3記載のバッテリ保護装置。
【請求項5】 前記第1のケース部材及び前記第2のケース部材は、互いに対向される周面を備え、前記ケース体が、前記第1のケース部材及び前記第2のケース部材の前記周面を互いに超音波溶着して形成される請求項1、2、3又は4記載のバッテリ保護装置。
【請求項6】 第1のケース部材と第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、
前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、
少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、
前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された可動接点と、
前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された固定接点と、
前記ケース体内に配置され、前記可動接点と前記固定接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、
前記ケース体内に形成された、前記第1の外部端子と前記第2の外部端子間に電気的に接続される正特性サーミスタの収容部と、
を備えるバッテリ保護装置。
【請求項7】 前記バイメタル素子が前記可動接点を備える請求項6記載のバッテリ保護装置。
【請求項8】 前記ケース体内に配置され、前記可動接点を備えるリード部材を更に備える請求項6記載のバッテリ保護装置。
【請求項9】 前記収容部に、前記第1又は第2の外部端子に電気的に接続され、前記正特性サーミスタに電気的に接続される凸状の電極が設けられている請求項6、7又は8記載のバッテリ保護装置。
【請求項10】 前記収容部に正特性サーミスタを装着した請求項6、7、8又は9記載のバッテリ保護装置。
【請求項11】 前記ケース体が前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を超音波溶着して形成される請求項6、7、8、9又は10記載のバッテリ保護装置。
【請求項14】 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13記載のバッテリ保護装置を、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置したバッテリーパック。
【請求項15】 前記バッテリ保護装置が、前記複数の電池を直列接続する電流通路内に接続され、前記電池の間隙内で前記第1の外部端子と前記第2の外部端子が異なる方向に延在するように配置された請求項14記載のバッテリーパック。
【請求項16】 第1の面とこれと反対側の第2の面を備える中空のケース体を構成する第1のケース部材と第2のケース部材を備えるバッテリ保護装置の製造方法において、
前記第2のケース部材を、前記第1の面側に第1の外部端子を突出させると共に前記第2の面側に第2の外部端子を突出させた状態で、これらと一体にインサートモールド成型する工程と、
前記第2のケース部材内に、第1及び第2の接点、並びに該第1及び第2の接点を相対的に開閉させるバイメタル素子を組み込む工程と、
前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を、互いの接触面で超音波溶着して前記中空のケース体を形成する工程と、
を備えるバッテリ保護装置の製造方法。
【請求項17】 請求項16記載の方法により製造されたバッテリ保護装置を、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置してバッテリーパック内に実装する工程を更に備えたバッテリーパックの製造方法。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1〜11、14〜17の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、本件発明1〜11、14〜17は、本件出願日前の他の出願であって、本件出願後に出願公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、その特許は、無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証を提出している。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求書副本の送達通知に対する答弁書提出期間内に、応答しなかった。

5.証拠方法
先願明細書:特願平10-93199号(特開平11-297174号公報(甲第1号証)参照)
そして、先願明細書には、「安全装置」に関して、以下の発明が記載されている。
(摘示1)「【請求項1】 樹脂製の第1ベースと、この第1ベースの外へ一端部を第1端子部として突出させた状態で前記第1ベースに一体成形され、前記第1ベース内に一部が露出する第1固定電極と、前記第1ベースの開放部分を覆うように前記第1ベースに溶着される樹脂製の第2ベースと、この第2ベースの外へ一端部を第2端子部として突出させ、前記第1ベースと対面する状態で前記第2ベースに一体成形されて保持された第2固定電極と、前記第1ベースと前記第2固定電極とで一端側が挟まれる状態に配設され、他端側が前記第1ベース内に露出する前記第1固定電極に対して接離する可動電極と、この可動電極と前記第1ベースとで一端側が挟まれる状態に配設され、第1設定温度以上になると、前記可動電極の他端側を前記第1固定電極から離すように前記可動電極を変位させ、第1設定温度未満になると、前記可動電極の他端側を前記第1固定電極へ接触させるバイメタルと、を備える安全装置。」(特許請の範囲の請求項1)
(摘示2)「【請求項7】 請求項1・・・に記載の安全装置において、前記第1固定電極に一端が圧着し、前記第2固定電極、前記可動電極、前記バイメタルのいずれかに他端が圧着する正特性サーミスタを配設した、ことを特徴とする安全装置。」(特許請求の範囲の請求項7)
(摘示3)「【請求項9】 請求項1・・・に記載の安全装置において、前記可動電極に前記バイメタルの機能を持たせて1部品にした、ことを特徴とする安全装置。」(特許請求の範囲の請求項9)
(摘示4)「【請求項10】請求項9に記載の安全装置において、前記第1固定電極に一端が圧着し、前記第2固定電極または前記可動電極に他端が圧着する正特性サーミスタを配設した、ことを特徴とする安全装置。」(特許請求の範囲の請求項10)
(摘示5)「・・・二次電池パックには、短絡、過充電、過負荷または過熱などから二次電池を保護する安全装置が設けられている。」(段落【0002】)
(摘示6)「図1〜図7において、1は平面形状が長方形の第1ベースを示し、絶縁性を有した樹脂で成形され、上方へ開放する第1凹部2および第2凹部3と、上面の周縁を周回する突条4と・・・が設けられている。・・・11は第1ベース1に一体成形された第1固定電極を示し、一端部を第1ベース1の一方の短辺側から長辺と平行に突出させて第1端子部12とするとともに、他端部を第1ベース1の他方の短辺側から長辺と平行に突出させて第3端子部13としている。そして、第1ベース1(「第1ベース1」は「第1固定電極11」の誤記と認められる。)の一部は第1および第2凹部2,3に露出し、第2凹部3に露出した部分には、後述する正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために上側へ突出する円弧状の凸部14が複数形成され、第1凹部2に露出した部分には、固定接点15が配設されている。」(段落【0013】、【0014】)
(摘示7)「21は平面形状が長方形の第2ベースを示し、絶縁性を有した樹脂で成形され、第1ベース1の開放した上面を覆うように溶着されるものであり、下面に第1ベース1が嵌合する凹部22が設けられる・・・」(段落【0015】)
(摘示8)「31は第2ベース21に一体成形されて保持された第2固定電極を示し、一端部を第2ベース21の一方の短辺側から長辺と平行に突出させて第2端子部32としている。・・・41はバイメタルで構成された可動電極を示し、変位温度または反転温度でもある常温よりも高い第1設定温度・・・に昇温すると、変位、反転し、第1設定温度から復帰温度である第2設定温度・・・に降温すると、元の状態に復帰するものである。そして・・・第2凹部3に対応する位置、すなわち正特性サーミスタ61に対応する位置に、正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために下側へ突出する円弧状の凸部43が形成されるとともに、固定接点15に対応する他端部の位置に、固定接点15に対して接離する可動接点45が配設されている。61は正特性サーミスタを示し、通電による自己発熱によって可動電極41の変位状態を維持させるものである。」(【0016】〜【0018】)
(摘示9)「次に、組立について説明する。まず、第1ベース1の第2凹部3内へ正特性サーミスタ61を上方から挿入し、下端を第1固定電極11に接触させる。そして・・・可動接点45を固定接点15に接触させるように可動電極41を載置して凸部43を正特性サーミスタ61の上端に接触させる。次に、凹部22内に第1ベース1の上端を挿入するように第2ベース21を第1ベース1に被せ・・・第1ベース1と第2ベース21とを超音波溶着で溶着させると、突条4・・・および第1ベースと第2ベース21の接触面が溶着するので・・・安全装置Sを組み立てることができる。」(段落【0020】、【0021】)
(摘示10)「・・・第1端子部12と第3端子部13とを反対側に位置させ、第2端子部32と第4端子部35とを反対側に位置させ、さらには第1端子部12と第2端子部32とを同一方向へ向けたので、端子部を折り曲げて方向を反転させることなく、取付位置に応じて端子部を選択することができるため、使い勝手のよいものとなる。・・・」(段落【0028】)
(摘示11)「図8はこの発明の第2実施形態である安全装置の断面図・・・であり、図1〜図7と同一または相当部分に同一符号を付して説明を省略する。・・・41Aは可動電極を示し・・・固定接点15に対応する他端部の位置に、固定接点15に接離する可動接点45が配設されている。51はバイメタルを示し・・・第2凹部3に対応する位置、すなわち正特性サーミスタ61に対応する位置に、正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために下側へ突出する図示を省略した円弧状の凸部(53)が形成されている。」(段落【0029】、【0030】)
(摘示12)「この第2実施形態の安全装置Sを組み立てる場合は、第1実施形態の安全装置Sを組み立てる場合と同様に、第1ベース1に対して正特性サーミスタ61、バイメタル51、可動電極41A、第2ベース21を順次載置して第1ベース1と第2ベース21とを溶着することにより、組み立てることができる。そして、第2実施形態の安全装置Sの動作は、第1実施形態における可動電極41が可動電極41Aとバイメタル51との2部品で構成されているものの、第1実施形態と同様になる・・・」(段落【0031】)
(摘示13)「図10は図1〜図9に示した安全装置を使用した二次電池パックの説明図であり、図1〜図9と同一または相当部分に同一符号を付して説明を省略する。図10において、Pは二次電池パックを示し、例えば複数本が2列に配列された二次電池Bと、この二次電池Bの周面に第1ベース1の円弧面を当接させて二次電池Bの隙間に配設した安全装置Sと、必要部位を露出させて二次電池Bおよび安全装置Sを覆う、例えば熱収縮性の被覆体Cとで構成されている。なお、安全装置Sは、第1〜第4端子部12,13,32,35のいずれかと、リード線などを利用して二次電池にBに直列に接続されている。このように・・・二次電池Bを並置した空間を有効に利用して安全装置Sを配設することができ・・・」(段落【0033】、【0034】)
(摘示14)「なお、上記した各実施形態では、正特性サーミスタ61を使用した自己保持型を示したが、正特性サーミスタ61を使用しないものであってもよい。・・・」(段落【0035】)
図1、6には、摘示1〜10に記載される安全装置として、樹脂製の第1ベース1と、この第1ベースの短辺側の第1の面から端部を第1端子部12として、第1の面と反対の第2の面から端部を第3端子部13として突出させた状態で、第1ベースに一体形成され、第1ベース1内に一部が露出した第1固定電極11(第1凹部2に露出した面には固定接点15が配設され、第2凹部3に露出した面には上側へ突出する複数の凸部14が形成されている。)と、樹脂製の第2ベース21と、この第2ベースの短辺側の第1の面から一端部を第2端子部32として第1端子部12と同じ方向に突出させ、第2ベース21に一体成形された第2固定電極31と、第1ベース1と第2固定電極32とで一端側が挟まれる状態に配置されたバイメタルで構成された可動電極41(固定接点15に対向した位置には可動接点45が配設され、第2凹部3に対応する位置には下側に突出する凸部43が形成されている。)とを備え、第1ベース1の第2凹部3内に正特性サーミスタ61が収容されている安全装置が記載されており、正特性サーミスタ61は、第2端子部32及び第3端子部13間にバイメタルで構成された可動電極41と並列に接続し、可動接点45は第2端子部材32に電気的に接続し、固定接点15は第3端子部13に電気的に接続していることが看取できる。
さらに、図1、6には、樹脂製の第1ベース1及び樹脂製の第2ベース21は、互いに対向される周面を備え、第1ベース1にはその上面の周縁を周回する突条4が設けられ、第1ベース21にはその下面に第1ベースが嵌合する凹部22が設けられ、第1ベースの開放部分を覆うように第2ベースを超音波溶着する(摘示1、9)ことにより、第1凹部2、第2凹部3、凹部22を中空部分とする中空のケース体を形成する構造が開示されている(摘示6、7)。
図8には、摘示1、2、5、11、12に記載される安全装置として、可動電極41A(固定接点15に対向した位置には可動接点45が配設されている。)と、可動電極41Aと第1ベース1とで一端側が挟まれる状態に配設されたバイメタル51を備え、バイメタルの正特性サーミスタに対応する位置には下側に突出する凸部が設けられ、他の構成は図1、6と同様である安全装置が記載されており、正特性サーミスタ61は、第2端子部32及び第3端子部13間にバイメタル51と並列に接続し、可動接点45及び可動電極41Aは第2端子部材32に電気的に接続し、固定接点15は第3端子部13に電気的に接続していることが看取できる。
図10には、二次電池パックにおける安全装置Sの取付状態が示されている。

6.当審の判断
先願明細書の図1、6及び図8には、短絡、過充電、過負荷または過熱などから二次電池を保護する安全装置が記載され(摘示5)、図1、6には、第2端子部32に電気的に接続する可動電極41がバイメタルで構成され(摘示8)、可動接点45は可動電極41上に設けられて第2端子部32と電気的に接続され、固定接点15は第3端子部に電気的に接続され、正特性サーミスタ61が第2端子部32及び第3端子部13間に、可動電極41と並列になるように接続されて第2凹部3内に挿入された安全装置が記載され(摘示1、3、4、6、8、9)、図8には、可動電極が、可動電極41Aとバイメタル51との2部品で構成され、可動接点45は可動電極41A上に配設されて第2端子部32と電気的に接続され、正特性サーミスタ61が第2端子部及び第3端子部13間に、バイメタル51と並列になるように接続されて第2凹部3内に挿入された第2実施形態の安全装置が記載されている(摘示1、2、11、12)。
図1、6記載の安全装置においては、可動接点45と固定接点15間の開閉は、バイメタルにより構成された可動電極41の温度変化による反転、復帰作用により行われるものであり(摘示1、8)、また、図8記載の安全装置の動作は図1、6記載のものと同様になるのであるから(摘示11、12)、可動接点45と固定接点15間の開閉は、バイメタル51の温度変化による反転、復帰作用により行われるものであり、図1、6及び図8記載の安全装置はともに、バイメタル素子(バイメタルで構成された可動電極41、バイメタル51)により可動接点と固定接点間の開閉が行われるものである。
そして、図1、6及び図8は、同一または相当部分には同一符号が付されているから(摘示11)、図8記載の安全装置は、可動電極が、可動電極41Aとバイメタル51の2部品で構成されている点を除いて、図1、6記載の安全装置と共通するものである。
よって、先願明細書記載の「安全装置」、「第1ベース1」、「第2ベース21」、「第1端子部12」、「第2端子部32」「第3端子部13」は、それぞれ本件発明1、2、3、6、16の「バッテリ保護装置」、「第2のケース部材」、「第1のケース部材」、「第2の外部端子」(第1の面側に突出)、「第1の外部端子」(第1の面側に突出)、「第2の外部端子」(第2の面側に突出)に相当する。

6-1.本件発明1について
本件発明1と先願明細書記載の発明を対比すると、先願明細書記載の「可動接点45」は第2端子部32(本件発明1の「第1の外部端子」に相当)に電気的に接続され、「固定接点15」は第3端子部13(本件発明1の「第2の外部端子」に相当)に電気的に接続されているから、それぞれ本件発明1の「第1の接点」、「第2の接点」に相当し、先願明細書記載の「可動電極41」(図1、6)及び「バイメタル51」(図8)はともにバイメタルにより構成されているから、本件発明1の「バイメタル素子」に相当する。
よって、両者は、「第1のケース部材と第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された第1の接点と、前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された第2の接点と、前記第1の外部端子に接続されると共に、前記第1の接点を可動接点として備え、前記第1の接点と前記第2の接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、前記第1及び第2の外部端子間に、前記バイメタル素子と並列となるように接続される正特性サーミスタと、を備えるバッテリ保護装置。」で一致し、他に異なるところはない。

6-2.本件発明2について
先願明細書には、正特性サーミスタを使用しないものであってもよいことが記載されているから(摘示14)、図1、6、8において、正特性サーミスタを配設しないバッテリ保護装置も開示されているものと認められる。
本件発明2と先願明細書記載の発明を対比すると、先願明細書記載の「可動接点45」は第2端子部32(本件発明1の「第1の外部端子」に相当)に電気的に接続され、「固定接点15」は第3端子部13(本件発明1の「第2の外部端子」に相当)に電気的に接続されているから、それぞれ本件発明2の「第1の接点」、「第2の接点」に相当し、先願明細書記載の「可動電極41」(図1、6)及び「バイメタル51」(図8)はともにバイメタルにより構成されているから、本件発明1の「バイメタル素子」に相当し、また、先願明細書記載の第1ベース1と第2ベース21は超音波溶着されているから(摘示9)、両者は、「樹脂からなる第1のケース部材と樹脂からなる第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された第1の接点と、前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された第2の接点と、前記第1の外部端子に接続されると共に、前記第1の接点を可動接点として備え、前記第1の接点と前記第2の接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、を備え、前記ケース体が前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を超音波溶着して形成されるバッテリ保護装置。」で一致し、他に異なるところはない。

6-3.本件発明3について
先願明細書には、正特性サーミスタを使用しないものであってもよいことが記載されているから(摘示14)、図8において、正特性サーミスタを配設しないバッテリ保護装置も開示されているものと認められる。
本件発明3と先願明細書の図8記載の発明を対比すると、先願明細書記載の可動接点45を備える可動電極41Aは、第2端子部32(本件発明3の「第1の外部端子」に相当)に電気的に接続されているから、本件発明3の「可動接点を備えるリード部材」に相当し、また、先願明細書記載の第1ベース1と第2ベース21は超音波溶着されているから(摘示1、9)、両者は、「樹脂からなる第1のケース部材と樹脂からなる第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された可動接点を備えるリード部材と、前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された固定接点と、前記ケース体内に配置され、前記可動接点と前記固定接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、を備え、前記ケース体が前記第1のケース部材と前記第2のケース部材を超音波溶着して形成されるバッテリ保護装置。」で一致し、他に異なるところはない。

6-4.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1、2又は3において、第1又は第2のケース部材の少なくとも一方は、インサートモールド成型され、第1及び第2の外部端子は、該成型の際に第1又は第2のケース部材の何れかに一体にされることを限定するものである。
先願明細書記載の第1固定電極11は、第1ベース1に一体に成形され(摘示6)、また、第2固定電極31は、第2ベース21に一体成形されて保持されており(摘示8)、第3端子部13及び第2端子部32は、それぞれ第1固定電極11及び第2固定電極31の一端部がベースの外部に突出したものである(摘示6、8)から、第3端子部(本件発明4の「第2の外部端子」に相当)は第1ベース(本件発明4の「第2のケース部材」に相当)に一体成形され、第2端子部(本件発明4の「第1の外部端子部」に相当)は第2ベース(本件発明4の「第1のケース部材」に相当)に一体成形されているということができ、また、一体成形の手段としてインサートモールド成型は本件出願前周知のものであるから、先願明細書記載の発明において、第3端子部及び第2端子部を、インサートモールド成型によりそれぞれ第1ベース及び第2ベースに一体にすること、即ち、第1ベース及び第2ベースをインサートモールド成型し、第3及び第2端子部は、成型の際にそれぞれ第1ベース及び第2ベースに一体にすることは、当業者にとって単なる設計事項にすぎない。
よって、本件発明4は、「6-1.本件発明1について」、「6-2.本件発明2について」、「6-3.本件発明3について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

6-5.本件発明5について
本件発明5は、本件発明1、2、3又は4において、第1のケース部材及び第2のケース部材は、互いに対向される周面を備え、ケース体が、第1のケース部材及び第2のケース部材の周面を互いに超音波溶着して形成されることを限定するものである。
先願明細書記載の第1ベース1と第2ベース21は、互いに対向される周面を備えるものであって(図1)、第2ベース21の凹部22内に第1ベース1の上端(第1ベース1上面の周縁を周回する突条4(摘示6))を挿入するように第2ベース21を第1ベース1に被せ、第1ベースと第2ベースとを超音波溶着させると、突条4及び第1ベースと第2ベース21の接触面が溶着するのであるから(摘示6、7、9)、第1ベース(本件発明5の「第2のケース部材」に相当)及び第2ベース(本件発明5の「第1のケース部材」に相当)の周面を互いに超音波溶着してケース体を形成するものであるといえる。
よって、本件発明5は、「6-1.本件発明1について」〜「6-4.本件発明4について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載した発明と同一である。

6-6.本件発明6について
本件発明6(前者)と先願明細書記載の発明(後者)を対比すると、先願明細書記載の第2凹部3は正特性サーミスタを収容している凹部であって、本件発明6の「正特性サーミスタの収容部」に相当するから、両者は、「第1のケース部材と第2のケース部材を固着して形成される中空のケース体であって、第1の面とこれと反対側の第2の面を備える前記ケース体と、前記第1の面側に突出された第1の外部端子と、少なくとも前記第2の面側に突出された第2の外部端子と、前記ケース体内に配置され、前記第1の外部端子に電気的に接続された可動接点と、前記ケース体内に配置され、前記第2の外部端子に電気的に接続された固定接点と、前記ケース体内に配置され、前記可動接点と前記固定接点間の開閉を可能とするバイメタル素子と、を備えるバッテリ保護装置。」で一致し、前者は、「前記ケース体内に形成された、前記第1の外部端子と前記第2の外部端子間に電気的に接続される正特性サーミスタの収容部」を備えるのに対し、後者は、前記ケース体内に形成された、前記第1の外部端子と前記第2の外部端子間に電気的に接続される正特性サーミスタの収容部と、前記収容部に収容された正特性サーミスタを備える点で、両者は相違する。
上記相違点について検討する。
先願明細書には、正特性サーミスタを使用しないものであってもよいことが記載されているから(摘示14)、図1、6、8において、正特性サーミスタを配設しないバッテリ保護装置も開示されているものと認められる。
そして、正特性サーミスタを配設しない場合に、サーミスタの収容部を形成したケース部材を、サーミスタを収容することなく用いてバッテリ保護装置を組み立てることは、単なる設計事項であるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。
よって、本件発明6は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

6-7.本件発明7について
本件発明7は、本件発明6において、バイメタル素子が可動接点を備えることを限定するものであるが、先願明細書には、バイメタルで構成された可動電極41が可動接点45を備えるバッテリ保護装置が記載されており(摘示8、図1、6)、可動電極41はバイメタル素子でもあるから、先願明細書には、バイメタル素子が可動接点を備える構成が記載されている。
よって、本件発明7は、「6-6.本件発明6について」に記載したと同様の理由により先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

6-8.本件発明8について
本件発明8は、本件発明6において、ケース体内に配置され、可動接点を備えるリード部材をさらに備えることを限定するものであるが、先願明細書には、可動接点45を備える可動電極41Aを更に備えるバッテリ保護装置が記載されており(摘示11、図8)、可動電極41Aは本件発明8の「リード部材」に相当するから、先願明細書には、ケース体内に配置され、可動接点を備えるリード部材を更に備える構成が記載されている。
よって、本件発明8は、「6-6.本件発明6について」に記載したと同様の理由により先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

6-9.本件発明9について
本件発明9は、本件発明6、7又は8を、収容部に、第1又は第2の外部端子に電気的に接続され、正特性サーミスタに電気的に接続される凸条の電極が設けられているという事項によりさらに特定するものである。
先願明細書には、第1固定電極11の一部は第2凹部3(本件発明9の「正特性サーミスタの収容部」に相当)に露出し、第2凹部3に露出した部分には、正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために上側へ突出する円弧条の凸部14が複数形成されること(摘示6、図1、6、8)、バイメタルで構成された可動電極41の第2凹部3に対応する位置、すなわち正特性サーミスタ61に対応する位置に正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために下側へ突出する円弧条の凸部43が形成されること(摘示8、図1、6)、及び、バイメタル51の第2凹部3に対応する位置、すなわち正特性サーミスタ61に対応する位置に、正特性サーミスタ61との電気的接触を確保するために下側へ突出する図示を省略した円弧条の凸部(53)が形成されること(摘示11、図8)が記載されており、第1固定電極11は第3端子部13(本件発明9の「第2の外部端子」に相当)に電気的に接続し、また、可動電極41及びバイメタル51はともに第2端子部32(本件発明9の「第1の外部端子」に相当)に電気的に接続するものであるから、凸部14、凸部43及び凸部(53)は、本件発明9の収容部に設けられた「第1又は第2の外部端子に電気的に接続され、正特性サーミスタに電気的に接続される凸条の電極」に相当し、上記本件発明9のさらなる特定事項と相違するものではない。
よって、本件発明9は、「6-6.本件発明6について」、「6-7.本件発明7について」、「6-8.本件発明8について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

6-10.本件発明10について
本件発明10は、本件発明6、7、8又は9を、収容部に正特性サーミスタを装着したという事項によりさらに特定するものであるが、先願明細書の図1、6、8には、収容部に正特性サーミスタを装着したバッテリ保護装置が示されており、「6-6.本件発明6について」〜「6-9.本件発明9について」に記載した理由を勘案すると、本件発明10は、先願明細書に記載された発明と異なるところはない。

6-11.本件発明11について
本件発明11は、本件発明6、7、8、9又は10を、ケース体が第1のケース部材と第2のケース部材を超音波溶着して形成されるという事項により限定するものであるが、先願明細書には第1ベース1(本件発明11の「第2のケース部材」に相当)と第2ベース21(本件発明11の「第1のケース部材」に相当)とを超音波溶着で溶着させることが記載されているから(摘示9)、本件発明11は、「6-6.本件発明6について」〜「6-10.本件発明10について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

6-12.本件発明14について
先願明細書には、図1〜図9に示した安全装置(本件発明14の「バッテリ保護装置」に相当)を使用した二次電池パックの説明図として図10が示され、図10には、複数本が2列に並置された二次電池Bの隙間内に、安全装置Sが配設された二次電池パックの構造が開示されている(摘示13)。そして、本件発明1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11のバッテリ保護装置は、「6-1.本件発明1について」〜「6-11.本件発明11について」で検討したように先願明細書に記載された安全装置と異なるところはないから、先願明細書には、本件発明1〜11のバッテリ保護装置を、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置したバッテリーパックが記載されているといえる。
よって、本件発明14は、「6-1.本件発明1について」〜「6-11.本件発明11について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

6-13.本件発明15について
本件発明15は、本件発明14において、バッテリ保護装置が、複数の電池を直列接続する電流通路内に接続され、電池の間隙内で第1の外部端子と第2の外部端子が異なる方向に延在するように配置されたものであることを限定するものである。
先願明細書には、安全装置S(本件発明15の「バッテリ保護装置」に相当)は、第1〜第4端子部12、13、32、35のいずれかと、リード線などを利用して二次電池Bに直列に接続されることが記載されており(摘示13)、安全装置と二次電池の接続に際しては、端子部を折り曲げて方向を反転させることなく取付位置に応じて端子部を選択するのであるから(摘示10)、第2端子部32(本件発明15の「第1の外部端子」に相当)と、第2端子部32と反対の方向に突出する第3端子部13(本件発明15の「第2の外部端子」に相当)は、折り曲げて方向を反転させることなく、電池の隙間内で異なる方向に延在するように配置されて取り付けられるものである。
よって、本件発明15は、「6-12.本件発明14について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

6-14.本件発明16について
先願明細書記載の第1の面とこれと反対側の第2の面を備える中空のケース体を構成する第2ベース21(本件発明16の「第1のケース部材」に相当)と第1ベース1(本件発明16の「第2のケース部材」に相当)を備えるバッテリ保護装置の製造方法として、先願明細書には、第1ベース1を第1の面側に第1端子部材12(本件発明16の「第2の外部端子」に相当)を突出させると共に第2の面側に第3端子部13(本件発明16の「第2の外部端子」に相当)を突出させた状態でこれらを一体成形する工程と(摘示6)、第1ベース1内に、固定接点15(本件発明16の「第2の接点」に相当)及び可動接点45(本件発明16の「第1の接点」に相当)、並びに固定接点及び可動接点を相対的に開閉させるバイメタル素子(バイメタルで構成された可動電極41、バイメタル51)を組み込む工程と、第1ベース1と第2ベース21を互いの接触面で超音波溶着する工程とにより製造することが記載されており(摘示6、7、9、12)、 また、一体成形手段として本件出願前周知のインサートモールド成型を適用することは単なる設計事項に過ぎない。
よって、本件発明16と先願明細書記載の発明を対比すると、両者は共通しており、異なるところはない。

6-15.本件発明17について
本件発明17は、本件発明16の方法により製造されたバッテリ保護装置を、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置してバッテリーパック内に実装する工程を更に備えたバッテリーパックの製造方法に係るものである。
先願明細書記載の方法により製造されたバッテリ保護装置は、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置してバッテリーパックが構成されるのであるから(摘示13)、先願明細書には、先願明細書記載の方法により製造されたバッテリー保護装置を、並列に配置された複数の電池の何れか1つの間隙内に配置してバッテリーパック内に実装する工程を備えたバッテリーパックの製造方法が実質的に記載されており、「6-14.本件発明16について」に記載した理由を勘案すると、本件発明17は、先願明細書に記載された発明と同一である。

7.むすび
以上のとおり、本件発明1〜11、14〜17は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明1〜11、14〜17の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1〜11、14〜17の特許は、特許法第29の2の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2002-12-20 
結審通知日 2002-12-27 
審決日 2003-01-10 
出願番号 特願平11-231314
審決分類 P 1 122・ 161- Z (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 綿谷 晶廣
酒井 美知子
登録日 2001-05-18 
登録番号 特許第3190024号(P3190024)
発明の名称 バッテリ保護装置及びその製造方法  
代理人 望月 孜郎  
代理人 片寄 恭三  

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