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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F16B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) F16B
管理番号 1072799
審判番号 審判1999-35259  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-04-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-31 
確定日 2003-02-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2138117号「ドリル螺子」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2138117号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2138117号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての出願は、平成3年9月25日に特許出願(特願平3-274800号)され、平成10年9月4日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、平成11年5月31日に、請求人・若井産業株式会社より特許無効審判の請求がされ、平成11年8月26日に、被請求人・株式会社丸エム製作所より答弁書が提出され、12年2月14日に請求人及び被請求人より、それぞれ弁駁書及び答弁書(第2回)が提出され、平成12年2月29日に、被請求人より訂正請求がされると共に答弁書(第3回)が提出され、平成12年3月14日に、請求人より弁駁書(第2回)が提出され、平成12年4月28日に、被請求人より答弁書(第4回)が提出され、当審において訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成12年7月18日に意見書が提出されたものである。

II.訂正の適否についての判断

1.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
螺糸付きのシャンクと、シャンクを一対の分割ダイスで鍛造することにより形成され該シャンクの前端に延設されたドリル部と、該シャンクの尾端に設けられた工具係合部を有する頭部とから成り、前記ドリル部の径方向に対向して2条の縦溝を形成して成るドリル螺子において、前記ドリル刃(4)が、先端に位置する小径ドリル部(4a)と、該小径ドリル部と前記シャンクの間に位置する大径ドリル部(4b)とを構成し、前記小径ドリル部(4a)は、該小径ドリル部の縦溝により形成される切削面(9a)の側縁に小孔用切削刃(10a)を構成し、前記大径ドリル部(4b)は、該大径ドリル部の縦溝により形成される切削面(9b)の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する大孔用切削刃(10b)を構成し、前記小孔用切削刃(10a)から前記大孔用切削刃(10b)に次第に径を増加するように傾斜して連なる連続刃(10c)を設けて成り、それぞれドリル部の軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置する前記小孔用切削刃(10a)と連続刃(10c)と大孔用切削刃(10b)のそれぞれから前記中心面Pより偏位し且つこれとほぼ平行な縦溝の溝底を成す前記切削面に向けて傾斜する掬い面(11a)(11c)(11b)を形成し、連続刃(10c)の掬い面(11c)を大径ドリル部(4b)の切削面(9b)に向けて傾斜せしめて成ることを特徴とするドリル螺子。

2.引用刊行物記載の発明

刊行物1(甲第3号証):米国特許第3578762号明細書
刊行物2(甲第9号証):特開昭62-188809号公報

当審において、通知した訂正拒絶理由で引用した上記刊行物1(以下、「引用例1」という。)には、
a.「この発明は、比較的小径の、先鋭端を有するパイロットドリル部と、このドリル部に続く、複数の溝が形成されたリーマー部と、リーマー部に続く、材料に形成された下孔周面にネジを切り、ネジを保持するための外径が一定のネジ山が形成されたネジ部からなるネジを提供する。…このネジは、2つのドリル部を一体に備えていることになる。」(第1欄第35〜42行、平成11年11月11日付け手続補正書に添付された甲第3号証抄録翻訳文第2頁第6〜12行参照)
b.「図の10は本発明のネジ全体を示す。ネジ10はねじ込み工具係合用のヘッド11を備えている。…ネジ10の軸部12は、パイロットドリル部13と、複数の溝が形成されたリーマー部14と、径が等しい複数のネジ山15が形成されたネジ部からなる。」(第1欄下から4行〜第2欄第10行、上記抄録翻訳文第3頁第4〜13行参照)
c.「Fig1及び2に最も良く示すように、主溝17は、パイロットドリル13を通じてリーマ14の実質的部分に延びる。筒状のパイロットドリル13と筒状のリーマ14に形成された各主溝17は、パイロットドリル13とリーマ14のそれぞれにおける一対の縁20及び21を規定する。主溝17は、望ましくは公知のような適当な掬い角を縁20及び21に設けるように形成しても良い。リーマ部14のために実質的にフラットで水平な切削縁22をパイロットドリル13とリーマ14の連絡部分に形成したものを示しているが、約20度のリードを有する僅かな角度又は斜面を採用することができる。……溝縁20、21及び24は、切削縁18及び22、22aのためのガイド表面を提供する。」(第2欄第19〜41行、平成12年7月18日付け意見書に添付された別紙(1)甲第3号証抄訳第1頁右中欄及び右下欄参照)
d.「二つのドリルシステムの第二のドリル(リーマ14)にはマルチ溝の切削縁が設けられる。図面と上述の記載は、二つの切削面を備えたパイロットドリルと、四つの切削面を備えたリーマについて説明したが、螺子のセルフ・タッピング螺糸のための正確に丸い孔を準備しながら、ドリリングとリーミングを少ない時間で行わせしめる数のマルチ切削面を使用することも本発明の範囲内である。」(第2欄第49〜57行、上記抄訳第2頁右上欄第8〜14行参照)
e.「リーマー部14とヘッド11の間を延びる軸部の谷径15aは、図示の例ではリーマー部14の径と等しくなっているが、より好ましくは、軸部の谷径15aをリーマー部14の径より小さくして、穿孔時、ねじ込み時に生じる切り屑を上方に逃がす通路を形成する。ネジ山15の外径は当然リーマー部14の径より大きい。」(第2欄第58〜66行、上記抄録翻訳文第4〜9行参照)
f.「このようにして、最初に部分19がワークピースに接した後、第一段階で、パイロットドリル13がその二つの切削縁18でワークピースの最初の孔を形成し、この最初の孔を形成した後、螺子10が移動することにより、リーマ切削縁22及び22aが最初の孔を取り囲むワークピースにかなり急激に接触し、これにより螺子に与えられる勢い、即ち、ワークピースに対するリーマ14の係合が、ワークへの第二の噛み込みを開始し、リーマ14の四つの切削縁22及び22aにより孔が適切なサイズにドリル又はリームされ、その後、リームされた孔の回りのワークピースに螺糸15を係合せしめるように螺子が移動し、これにより、追加の勢いが螺糸15のセルフ・タッピング作用を開始し、螺子10が深くねじ込まれたとき、前記螺糸15が螺子を所定位置に保持する。」(第3欄第16〜32行、上記抄訳第2頁右下欄参照)と記載されている。
なお、引用例1に対して、請求人と被請求人よりそれぞれ抄訳が提出されているが、被請求人の提出した抄訳の方が原文に忠実な訳と認めることができるので、訳文が重複する箇所(上記摘記事項c,d,f)については、被請求人の提出した抄録を採用することとした。
これらの記載事項及び明細書の全記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
【引用発明1】
螺糸付の軸部12(シャンク)と、該軸部12(シャンク)の前端に延設されたドリル部(ドリル部)と、該軸部12(シャンク)の尾端に設けられたドライバー係合用の溝が形成されたヘッド11(工具係合部を有する頭部)とから成り、前記ドリル部(ドリル部)の径方向に対向して2条の主溝17,17’(縦溝)を形成して成る螺子10(ドリル螺子)において、前記ドリル部(ドリル刃4)が、先端に位置するパイロットドリル部13(小径ドリル部4a)と、該パイロットドリル部13(小径ドリル部)と前記軸部12(シャンク)との間に位置するリーマー部14(大径ドリル部4b)とを構成し、前記パイロットドリル部13(小径ドリル部4a)は、該パイロットドリル部13(小径ドリル部)の主溝17,17’(縦溝)により規定される縁20(小孔用切削刃10a)を構成し、前記リーマー部14(大径ドリル部4b)は、該リーマー部14(大径ドリル部)の主溝17,17’(縦溝)により規定され、螺糸15の谷径15a(螺糸の谷径)よりも大きく且つ外径(山径)よりも小さい径の縁21(大孔用切削刃10b)を構成し、前記パイロットドリル部13と前記リーマー部14の連絡部分に形成した約20度傾斜させた切削縁22(次第に径を増加するように傾斜して連なる連続刃10c)を設けて成り、前記縁20,21(小孔用切削刃10a,大孔用切削刃10b)に掬い角を設けてなる螺子10(ドリル螺子)。
なお、上記括弧()内の記載は、対比の便のため引用発明1の構成に概ね対応する訂正発明の構成を示すものである。
また、請求人が甲第9号証として提示した上記刊行物2(以下、「引用例2」という。)には、
g.このドリル螺子には、ドリル部をフライス等で切削加工したものと、ピンチポインティング又は冷間鍛造したものとの、二種類があるが、生産性及び経済性の点で後者が優れている。」(第2頁左上欄第14〜17行)
h.「汎用ドリルは、強度を保つために、また、繰り返し研磨することにより常に鋭利な切刃を備えさせるために、コアーを成すウエブの存在が必須とされているものである。これに対して、ドリル螺子のドリル部は、通常一回限りの使用でその目的を達し、再研磨して使用するものではないから、ウエブを設ける必要性は少ない。」(第2頁右下欄第1〜7行)
i.「ドリル部4は一対の分割ダイスによりシャンク・ブランクを挟んで圧着する冷間鍛造により形成されたもの」(第3頁左下欄第11〜13行)
j.「本発明によれば、前記切削縁11は、尖鋭部8の先端縁に位置する先端刃13と、該先端刃13より連続して尖鋭部8の両側に沿い傾斜する傾斜刃14と、該傾斜刃14より連続してボデー7の両側に沿う側刃15とを形成する。これらの先端刃13、傾斜刃14、側刃15は、ドリル部4の軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置して設けられている(第4図及び第5図)。また、前記切削面10は、該中心面Pより偏位し且つ之と略平行に位置する。」(第3頁右下欄第3〜12行)
k.「前記先端刃13、傾斜刃14、側刃15は、何れもそれぞれ中心面Pより偏位して凹設された切削面10に至り傾斜する掬い面22,23,24を形成する。これらの掬い面は、何れも刃から切削面10の方向に直線的に平坦な面をなし、切削面10と屈曲状に交わる。」(第4頁左上欄第9〜14行)
l.「先端刃13により初期穿孔が行われた後、傾斜刃14及び側刃15により引き続き穿孔が行われるが、これらの刃14及び15は、その掬い面23及び24が初期穿孔された小孔の内周面に対して上記と同様の「正の掬い角」を有し、工作物34を良好に切削する。」(第5頁左上欄第13〜18行)

3.対比・判断
訂正発明と上記引用発明1を対比すると、引用発明1の「軸部12」は、訂正発明の「シャンク」に相当し、以下同様に、「ドライバー係合用の溝が形成されたヘッド11」は「工具係合部を有する頭部」に、「主溝17,17’」は「縦溝」に、「螺子10」は「ドリル螺子」に、「前記ドリル部」は「前記ドリル刃4」に、「パイロットドリル部13」は「小径ドリル部」に、「リーマー部14」は「大径ドリル部」に、それぞれ相当するものと認められる。
また、引用例1の「各主溝17は、パイロットドリル13とリーマ14のそれぞれにおける一対の縁20及び21を規定する。」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)との記載及び第1〜3図の記載から明らかなように、引用発明1における「縁20」及び「縁21」は、主溝17,17’により形成された面の側縁に設けられたものと認められ、一方、訂正発明における「小孔用切削刃」及び「大孔用切削刃」も、縦溝により形成される切削面の側縁に設けられたものと認められるから、引用発明1における「縁20」及び「縁21」と訂正発明における「小孔用切削刃」及び「大孔用切削刃」は、「縦溝により形成される面の側縁に設けられた縁」の限りにおいて共通しているものと認められる。
また、引用発明1における「切削縁22」は、引用例1の「切削縁22をパイロットドリル13とリーマ14の連絡部分に形成した」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)との記載及び第1〜3図の記載から明らかなように、パイロットドリル部13の縁20とリーマー部14の縁21の間に設けられたものであり、一方、訂正発明における「連続刃10c」も「小孔用切削刃10aから大孔用切削刃10bに…連なる」ものであるから、「小孔用切削刃10a」と「大孔用切削刃10b」との間に設けられたものということができるから、引用発明1と訂正発明は、「小径ドリル部の縁と大径ドリル部の縁との間に次第に径を増加するように傾斜する切削部」を設けたという限りにおいて共通しているものと認めることができる。
そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
螺糸付のシャンクと、該シャンクの前端に延設されたドリル部と、該シャンクの尾端に設けられた工具係合部を有する頭部とから成り、前記ドリル部の径方向に対向して2条の縦溝を形成して成るドリル螺子において、前記ドリル刃が、先端に位置する小径ドリル部と、該小径ドリル部と前記シャンクとの間に位置する大径ドリル部とを構成し、前記小径ドリル部は、該小径ドリル部の縦溝により形成される面の側縁に縁を構成し、前記大径ドリル部は、該大径ドリル部の縦溝により形成される面の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する縁を構成し、前記小径ドリル部の縁と大径ドリル部の縁との間に次第に径を増加するように傾斜する切削部を設けて成るドリル螺子。
【相違点1】
ドリル部が、訂正発明では、「一対の分割ダイスで鍛造することにより形成され」たものであるのに対し、引用発明1では、どのような手段により形成されたものか不明な点。
【相違点2】
訂正発明では、「小径ドリル部の縦溝により形成される切削面の側縁に小孔用切削刃を構成し、前記大径ドリル部は、該大径ドリル部の縦溝により形成される切削面の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する大孔用切削刃を構成し」ているのに対し、引用発明1では、切削面、小孔用切削刃及び大孔用切削刃について文言上明示されていない点。
【相違点3】
小径ドリル部の縁と大径ドリル部の縁との間に設けられた切削部が、訂正発明では、「小孔用切削刃10aから大孔用切削刃10bに」「連なる連続刃10c」として構成されているのに対し、引用発明1では、そのような構成が文言上明示されていない点。
【相違点4】
訂正発明では、小孔用切削刃、連続刃及び大孔用切削刃のそれぞれが、ドリル部の軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置し、さらに、それぞれの刃から前記中心面Pより偏位し且つこれとほぼ平行な縦溝の溝底を成す切削面に向けて傾斜する掬い面が形成され、連続刃の掬い面が大径ドリル部の切削面に向けて傾斜しているのに対し、引用発明1では、縁20及び縁21に掬い角を設ける構成を備えているのみである点。
そこで、上記相違点1〜4について検討する。
・相違点1について
ドリル螺子において、そのドリル部を一対の分割ダイスで鍛造することにより形成することは、例えば上記引用例2に記載されているように周知の技術的事項(他に、必要であれば特公昭59-7046号公報(請求人が提示した甲第8号証参照)又は特公平2-61642号公報(同甲第10号証参照)参照)であること、また、冷間鍛造によれば、切削によるものに比べて生産性、経済性の点で優れたものであることも明らかである(上記「II.2.摘記事項g.」又は、甲第8号証第2欄第5〜10行の記載参照)ことより、引用発明1におけるドリル螺子のドリル部の形成に当たり、上記周知の技術的事項を適用し、上記相違点1に係る訂正発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できたものである。
なお、被請求人は平成12年7月18日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、「甲第3号証は、ドリル13とリーマ14を切削加工により形成したものであるから、その切削加工に代えて甲第9号証のような鍛造加工の技術をそこに適用すること自体が従来では全く常識に反することである。」、「ドリル螺子のドリル部を形成するための方法として、本件特許の出願前に切削加工と鍛造加工がそれぞれ周知ではあるが、それらは独自に役割分担され、相互に転用可能とは考えられていない。」、及び「従って、甲第3号証に対して甲第9号証を組み合わせること自体に意外性がある。」旨の主張(第10頁第18行〜第11頁第2行参照)をしているが、鍛造によるドリル螺子の製造が、上述のとおり、周知の技術的事項であって、かつ生産性及び経済性の点で優れたものであることが当業者の常識であるという観点に立ってみれば、そのような優れた技術を積極的に取り入れようと試みることが自然であり、かつ、上記被請求人の主張を裏付ける証拠も特に見当たらないから、上記「甲第3号証に対して甲第9号証を組み合わせること自体に、意外性がある。」とする主張は採用できない。
・相違点2について
引用発明1における縁20及び21には、通常切削刃に形成される掬い角を形成して良い旨、引用例1に記載されている(上記「II.2.摘記事項c.」参照)こと、及び、大径ドリル部がリーマー部と称されている(上記「II.2.摘記事項a.」参照)こと等からみて、引用発明1における「縁20」及び「縁21」は、切削刃としての機能を有し、主溝17、17’により形成される面は切削面としての機能を有するものと解することができる。
してみると、引用発明1における「主溝17,17’により規定される縁20」及び「主溝17,17’により規定され、螺糸15の谷径15aよりも大きく且つ外径よりも小さい径の縁21」は、この相違点の限りにおいて、それぞれ訂正発明における「縦溝により形成される切削面の側縁に小孔用切削刃」及び「縦溝により形成される切削面の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する大孔用切削刃」と機能上等価なものと認められるから、結局、上記相違点2は格別のものとは認められない。
・相違点3について
引用発明1における「切削縁22」は、引用例1の「二つのドリルシステムの第二のドリル(リーマ14)にはマルチ溝の切削縁が設けられる。図面と上述の記載は、二つの切削面を備えたパイロットドリルと、四つの切削面を備えたリーマについて説明した」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)、及び「パイロットドリル13がその二つの切削縁18でワークピースの最初の孔を形成し、この最初の孔を形成した後、螺子10が移動することにより、リーマ切削縁22及び22aが最初の孔を取り囲むワークピースにかなり急激に接触し、これにより螺子に与えられる勢い、即ち、ワークピースに対するリーマ14の係合が、ワークへの第二の噛み込みを開始し、リーマ14の四つの切削縁22及び22aにより孔が適切なサイズにドリル又はリームされ、」(上記「II.2.摘記事項f.」参照)との記載等からみて、切削刃としての機能を有するものと解することができる。
さらに、引用例1には、「溝縁20、21及び24は、切削縁18及び22、22aのためのガイド表面を提供する。」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)と記載されていること、同図面では、切削縁18、縁20、切削縁22及び縁21が連続した線で表されていること、及び、敢えて、縁20、切削縁22及び縁21を不連続に形成する理由も見出せないことを総合的に勘案すると、縁20、切削縁22及び縁21は、連続的に形成されているものと解する方が合理的であって、不連続に形成する方が不自然であるというべきである。
してみると、引用発明1における「切削縁22」は、この相違点の限りにおいて、訂正発明における「小孔用切削刃10aから大孔用切削刃10bに次第に径を増加するように傾斜して連なる連続刃10c」と機能上等価なものと認められるから、結局、上記相違点3は格別のものではない。
・相違点4について
ドリル螺子において、切削性向上のために切削刃又は切削面に掬い角及び掬い面を設けることは周知の技術的事項(例えば、引用例2の摘記事項l.及び上記甲第8、10号証参照)と認められる。
また、ドリル螺子は、ねじ下孔の切削がドリル部で行われるものであるから、下孔の切削性を向上させるようにドリル部の切削刃の構成を工夫する程度のことは当業者にとって自明の課題にすぎない。
さらに、引用例2には、単一のドリル部を有するドリル螺子ではあるが、ドリル部が鍛造により形成され、ドリル部を構成する先端刃13、傾斜刃14、側刃15の3つの刃が連続して形成され、それぞれがドリル部4の軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置して設けられ、それぞれから前記中心面Pより偏位して凹設され、且つ前記中心面Pと略平行に位置する切削面10に至り傾斜する掬い面22,23,24が形成されたドリル螺子が記載されている。すなわち、引用例2には、ドリル部を構成する連続する全ての切削刃に掬い面を設け、その全ての切削刃を軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置させると共に、連続する全ての切削刃から中心面Pと略平行な切削面に向けて傾斜する掬い面を設けるといった技術思想が示されているものと認められる。
してみると、引用例1記載のドリル螺子において、上記周知技術及び技術思想を適用し、連続する全ての切削刃(縁20、切削縁22、縁21)に掬い面を設け、その全ての切削刃を軸心を通る直径線により規定される中心面P上に位置させると共に、その掬い面をその全ての切削刃から中心面Pと略平行な切削面に向けて傾斜するように構成することは、当業者が容易に想到できたものである。
なお、被請求人は意見書において、「第一に、そもそも甲第3号証は、溝17の全体の面を傾斜せしめることにより縁20、21に掬い角を設けても良いと説明する反面、縁22(本件発明の連続刃10cに相当する)には掬い角を設けようにも設けられない構成としているから、これが甲第9号証の技術を如何に参酌しても、縁22の部分に本件発明のような掬い面11cを形成する術がないのである。
また、第二に、甲第9号証は、二段ドリル刃でないため当然のことながら、本件発明の連続刃10cに相当する構成を有しておらず、このため当然のことながら、本件発明の掬い面11cに相当する技術を開示していない。」(第12頁第7〜16行)、及び「そうすると、ドリル13からリーマ14への移行部分である縁22に掬い角を設けることを不可能とした甲第3号証の技術に基づいて、如何に甲第9号証を参酌しても、本件発明における『連続刃10cから大径ドリル部4bの切削面9bに向けて掬い面11cを形成した点』の特徴は全く想到されないことが明らかである。」(第12頁第24〜28行)、と主張している。
しかしながら、甲第3号証には、「主溝17は、望ましくは公知のような適当な掬い角を縁20及び21に設けるように形成しても良い。」(上記摘記事項c.参照)と記載されているだけで、被請求人が主張するような、「溝17の全体の面を傾斜せしめることにより縁20、21に掬い角を設けても良い」とか、「縁22(本件発明の連続刃10cに相当する)には掬い角を設けようにも設けられない構成としている」といったことは記載されていないし、また、そのように解釈しなければならない理由もない。したがって、この甲第3号証に係る主張は、甲第3号証の記載に基づかない主張であるから、採用することはできない。
また、甲第9号証に記載されたドリル螺子はドリル部が2段のものではないために、確かに、訂正発明における連続刃10cに相当する構成は有していないが、引用例2には、上述のとおりの技術思想が示されており、しかも、甲第3号証に記載された発明における「切削縁22」に掬い面を形成してはならないような特段の事情も見当たらないから、このような技術思想を甲第3号証に記載されたドリル螺子に適用すれば、上記相違点3に係る訂正発明の構成のようになることは明らかである。
したがって、上記主張の何れも採用することはできない。

そして、上記相違点1〜4のように構成したことによる、切削抵抗の低下及び推力の低減並びに切粉排出を良好ならしめるといった訂正発明の作用効果は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知の技術的事項から、当業者が予測可能なものであって、格別のものとは認められない。
よって、訂正発明は、引用例1及び2記載の発明並びに周知の技術的事項から、当業者が容易になし得たものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、上記引用例1及び2記載の発明並びに周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法改正前の特許法第134条第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III.当事者の主張
1.請求人の主張
(1).無効理由1:特許法第29条第1項第3項の適用について
「本件発明に係る願書に添付した明細書について、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前の平成6年10月21日付け手続補正書においてされた補正は、明細書の要旨を変更するものであるから、特許法第40条の規定により、本件発明に係る出願は、その手続補正書の提出された日にされたものとみなされる。
そうすると、本件発明は甲第1号証に記載された発明と同一である。
また、上記補正が適法であった場合でも、本件発明は、周知技術を参酌すると、甲第3号証に記載された発明と実質的に同一である。」(請求書第8頁第25行〜第10頁第23行、弁駁書(第2回)第2頁第2行〜第3頁第8行参照)旨主張している。
(2).無効理由2:特許法第29条の2の適用について
「本件発明は、本件発明に係る出願の出願日前の実用新案登録出願であって当該特許出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一と認められ、その考案をした者が当該特許出願に係る発明者と同一の者とも、また、当該特許出願の時にその出願人と当該他の実用新案登録出願の出願人とが同一の者とも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。」旨の主張をしていたが、この主張は、平成12年2月14日に行われた口頭審理において撤回された(第1回口頭審理調書第1頁請求人2参照)。
(3).無効理由3:特許法第29条第2項の適用について
「本件発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術から、又は甲第3号証に記載された発明及び甲第8〜10、13及び14号証等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(請求書第第11頁第10〜25行、弁駁書第8頁第8行〜第9頁第14行、及び弁駁書(第二回)第7頁第6〜7行参照)旨主張している。
<証拠方法>
甲第1号証 特開平5-87113号公報(本件特許の公開公報)
甲第2号証 実願平3-25013号明細書
甲第3号証 米国特許第3578762号明細書
甲第4号証 特開昭51-141953号公報
甲第5号証 意匠第572522号公報
甲第6号証 特開昭50-49557号公報
甲第7号証 米国特許第3937120号明細書
甲第8号証 特公昭59-7046号公報
甲第9号証 特開昭62-188809号公報
甲第10号証 特公平2-61642号公報
甲第11号証 甲第2乃至10号証の代表的図面一覧
甲第12号証 東京高裁昭和63年9月27日(昭和62年(行ヶ)159号)判決
甲第13号証 「JIS工業用語大辞典」、財団法人日本規格協会編、1983年2月1日発行、表紙、第571〜572、1336、1339,1346、及び奥付け
甲第14号証 特公昭48-13137号公報
なお、甲第13号証は、平成12年2月14日付け弁駁書に、また、甲第14号証は、平成12年3月14日付け弁駁書(第2回)に、それぞれ添付されたものである。

2.被請求人の主張
(1).無効理由1について
「願書に最初に添付した明細書における請求項1には、『ストレートの小孔用切削刃』について何も規定していないから、この意味で、本件特許の請求項1は、補正により新たな構成要件(小孔用切削刃)が付加されたものであり、何ら請求項を拡張していない。また、当該明細書の発明の詳細な説明において、小孔用切削刃が『ストレート』の文言と必ずしも一体に使用されていない。さらに、構成要件の一部を削除すると発明それ自体の目的及び効果が変わるときは、その限りにおいて明細書の要旨を変更すると考えるべき場合があるが、本件は、そのような事案には該当しない。」(答弁書(第三回)第1頁第17行〜第3頁15行の答弁の理由5-1参照)旨主張している。
(2).無効理由3について
a.「甲第3号証は、審判請求時に提出されたものであるが、平成12年2月14日付け弁駁書における甲第3号証に基づく請求人の主張及び立証事実(引用箇所)は、審判請求書において相違点として認められていたものが、全く新たな引用をもって共通点であると主張されているものであり、これは審判請求書の請求の理由の要旨を変更するものである。」(答弁書(第二回)第1頁第17行〜第4頁第22行の答弁の理由(1)〜(4)の記載参照)旨主張していたが、この主張は、平成12年2月14日に行われた口頭審理において撤回された(第1回口頭審理調書第2頁被請求人1参照)。
b.「甲第3号証には、本件発明における『前記小孔用切削刃(10a)から前記大径用切削刃(10b)に連なる連続刃(10c)を設けて成り、前記小孔用切削刃(10a)と連続刃(10c)と大孔用切削刃(10b)のそれぞれから縦溝の溝底を成す前記切削面に向けて傾斜する掬い面(11a)(11c)(11b)を形成して成る』点は記載されていない。また、前記点は他の甲各号証の何れにも記載されていないから、本件発明は甲各号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。」(答弁書第7頁第23行〜第14頁第3行参照)旨主張している。 明細書
<証拠方法>
乙第1号証 本件特許の付与前異議の決定謄本写し
乙第2号証 特公昭45-24728号公報
乙第3号証 特公昭47-2562号公報
乙第4号証 特公昭48-13139号公報
乙第5号証 特公昭59-7046号公報
乙第6号証 図解機械用語辞典(日刊工業新聞社発行)、595頁

IV.本件発明
本件発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)。
【請求項1】螺糸付きのシャンクと、該シャンクの前端に延設されたドリル部と、該シャンクの尾端に設けられた工具係合部を有する頭部とから成り、前記ドリル部の径方向に対向して2条の縦溝を形成して成るドリル螺子において、前記ドリル刃(4)が、先端に位置する小径ドリル部(4a)と、該小径ドリル部と前記シャンクの間に位置する大径ドリル部(4b)とを構成し、前記小径ドリル部(4a)は、該小径ドリル部の縦溝により形成される切削面(9a)の側縁に小孔用切削刃(10a)を構成し、前記大径ドリル部(4b)は、該大径ドリル部の縦溝により形成される切削面(9b)の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する大孔用切削刃(10b)を構成し、前記小孔用切削刃(10a)から前記大孔用切削刃(10b)に連なる連続刃(10c)を設けて成り、前記小孔用切削刃(10a)と連続刃(10c)と大孔用切削刃(10b)のそれぞれから縦溝の溝底を成す前記切削面に向けて傾斜する掬い面(11a)(11c)(11b)を形成して成ることを特徴とするドリル螺子。
【請求項2】小径ドリル部(4a)の軸長Lを工作物の肉厚Tに対して、L1≧Tに形成したことを特徴とする請求項1に記載のドリル螺子。

V.甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明
請求人が提出した甲第3号証及び甲第9号証には、上記「II.2」において示したとおりの技術的事項及び発明が記載されているものと認められる。

VI.対比・判断
[無効理由(1)について]
1.本件発明1について
本件発明1と上記甲第3号証に記載された発明とを対比すると、甲第3号証に記載された発明の「軸部12」は、本件発明1の「シャンク」に相当し、以下同様に、「ドライバー係合用の溝が形成されたヘッド11」は「工具係合部を有する頭部」に、「主溝17,17’」は「縦溝」に、「螺子10」は「ドリル螺子」に、「前記ドリル部」は「前記ドリル刃4」に、「パイロットドリル部13」は「小径ドリル部」に、「リーマー部14」は「大径ドリル部」に、それぞれ相当するものと認められる。
また、甲第3号証の「各主溝17は、パイロットドリル13とリーマ14のそれぞれにおける一対の縁20及び21を規定する。」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)との記載及び第1〜3図の記載から明らかなように、甲第3号証に記載された発明における「縁20」及び「縁21」は、主溝17,17’により形成された面の側縁に設けられたものと認められ、一方、本件発明1における「小孔用切削刃」及び「大孔用切削刃」も、縦溝により形成される切削面の側縁に設けられたものと認められるから、甲第3号証に記載された発明おける「縁20」及び「縁21」と本件発明1における「小孔用切削刃」及び「大孔用切削刃」は、「縦溝により形成される面の側縁に設けられた縁」の限りにおいて共通しているものと認められる。
また、甲第3号証に記載された発明における「切削縁22」は、甲第3号証の「切削縁22をパイロットドリル13とリーマ14の連絡部分に形成した」(上記「II.2.摘記事項c.」参照)との記載及び第1〜3図の記載から明らかなように、パイロットドリル部13の縁20とリーマー部14の縁21の間に設けられたものであり、一方、本件発明1における「連続刃10c」も「小孔用切削刃10aから大孔用切削刃10bに…連なる」ものであるから、「小孔用切削刃10a」と「大孔用切削刃10b」との間に設けられたものということができるから、甲第3号証に記載された発明と本件発明1は、「小径ドリル部の縁と大径ドリル部の縁との間に切削部」を設けたという限りにおいて共通しているものと認めることができる。
そうすると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
螺糸付のシャンクと、該シャンクの前端に延設されたドリル部と、該シャンクの尾端に設けられた工具係合部を有する頭部とから成り、前記ドリル部の径方向に対向して2条の縦溝を形成して成るドリル螺子において、前記ドリル刃が、先端に位置する小径ドリル部と、該小径ドリル部と前記シャンクとの間に位置する大径ドリル部とを構成し、前記小径ドリル部は、該小径ドリル部の縦溝により形成される面の側縁に縁を構成し、前記大径ドリル部は、該大径ドリル部の縦溝により形成される面の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する縁を構成し、前記小径ドリル部の縁と前記大径ドリル部の縁との間に切削部を設けて成るドリル螺子。
【相違点1】
本件発明1では、「小径ドリル部の縦溝により形成される切削面の側縁に小孔用切削刃を構成し、前記大径ドリル部は、該大径ドリル部の縦溝により形成される切削面の側縁に螺糸の谷径よりも大きく且つ山径よりも小さい回転軌跡を規定する大孔用切削刃を構成し」ているのに対し、引用発明1では、切削面、小孔用切削刃及び大孔用切削刃について文言上明示されていない点。
【相違点2】
小径ドリル部の縁と大径ドリル部の縁との間に設けられた切削刃が、本件発明1では、「小孔用切削刃10aから大孔用切削刃10bに連なる連続刃10c」として構成されているのに対し、甲第3号証に記載された発明では、そのような構成が文言上明示されていない点。
【相違点3】
本件発明1では、小孔用切削刃、連続刃及び大孔用切削刃のそれぞれから縦溝の溝底を成す切削面に向けて傾斜する掬い面を形成しているのに対し、甲第3号証に記載された発明では、小孔用切削刃及び大孔用切削刃に掬い角を設ける構成を備えているものの、それ以外の構成は備えていない点。
そこで、上記相違点1〜3について検討する。
・相違点1について
この相違点1は、訂正発明と引用発明1の相違点2と同じであるから、上記「II.3.・相違点2について」において示したように、上記相違点1は格別のものではない。
・相違点2について
上記「II.3.・相違点3について」において示したように、甲第3号証に記載された発明における「切削縁22」は、切削刃としての機能を有していると解することができ、また、「縁20、切削縁22及び縁21」は、連続的に形成されているものと解することができるから、上記相違点2は格別のものではない。
・相違点3について
上記「II.対比・判断・相違点4について」において示したように、ドリル螺子において、切削性向上のために切削刃又は切削面に掬い角及び掬い面を設けることは周知の技術的事項と認められること、ドリル螺子は、ねじ下孔の切削がドリル部で行われるものであるから、下孔の切削性を向上させるようにドリル部の切削刃の構成を工夫する程度のことは当業者にとって自明の課題にすぎないこと、及び、甲第9号証には、ドリル部を構成する連続する全ての切削刃のそれぞれから切削面に向けて傾斜する掬い面を設けるといった技術思想が示されているものと認められることより、甲第3号証に記載されたドリル螺子において、本件発明1のように小孔用切削刃、連続刃及び大孔用切削刃のそれぞれから縦溝の溝底を成す切削面に向けて傾斜する掬い面を形成するように構成することは、当業者が容易に想到できたものである。
そして、本件発明1が、上記相違点1〜3のように構成したことによる、切削抵抗の低下及び推力の低減並びに切粉排出を良好ならしめるといった作用効果は、甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知の技術的事項から、当業者が予測可能なものであって、格別のものとは認められない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知の技術的事項から、当業者が容易になし得たものと認められる。

2.本件発明2について
本件発明2と甲第3号証に記載された発明とを対比すると、上記「1.本件発明1について」において示した【一致点】、【相違点1】【相違点2】及び【相違点3】と同様の一致点及び相違点が認められる他に、以下の相違点が認められる。
【相違点4】
本件発明2では、 「小径ドリル部(4a)の軸長Lを工作物の肉厚Tに対して、L1≧Tに形成した」のに対し、甲第3号証に記載された発明では、そのような関係が規定されていない点。
そこで、上記相違点4について検討する。
・相違点4について
ドリル螺子のドリル部の寸法は、工作物の形状・材質、ドリル螺子の軸径・材質等を考慮して適宜選択されるものであるが、小径及び大径ドリル部を有するドリル螺子において、工作物に対しそれぞれのドリル部における切削に寄与する主要な部分が同時に作用すれば、それが別々に作用するより切削抵抗が大になる程度のことは当業者が容易に予測できることであって、それを避ける必要があれば、小径ドリル部と大径ドリル部の当該部分が別々に作用するように小径ドリル部の軸長を工作物の肉厚以上に設定する程度のことは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
してみると、上記相違点4は格別のものとは認められない。
また、相違点1〜3についても上述のとおり格別のものとは認められないから、本件発明2は、甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知の技術的事項から、当業者が容易になし得たものと認められる。

[無効理由(3)について]
本件特許に係る願書に最初に添付した明細書における請求項1には、「螺糸付きのシャンクと、該シャンクの前端に延設されたドリル部と、該シャンクの尾端に設けられた工具係合部を有する頭部とから成り、前記ドリル部の径方向に対向して2条の縦溝を軸方向に形成して成るドリル螺子において、 前記ドリル部(4)が、先端に位置する小径ドリル部(4a)と、該小径ドリル部と前記シャンクの間に位置する大径ドリル部(4b)とを構成し、前記小径ドリル部の軸長L1を工作物の肉厚Tに対して、L1≧Tに形成したことを特徴とするドリル螺子」と記載されている。そして、この記載によれば、ドリル部における切削刃の形状・構造について特に規定されているわけではない。そして、同明細書の請求項2に係る発明及び実施例において、小径ドリル部の小孔用切削刃が「ストレート」であること、及び、大径ドリル部の大孔用切削刃から小径ドリル部の小孔用切削刃にかけて「傾斜刃」が形成されていることが具体化されているものである。
そうすると、請求項1の記載及び明細書の全記載からみて、出願当初から、小径ドリル部及び大径ドリル部にそれぞれ小孔用切削刃及び大孔用切削刃が形成されていること、並びに、大径ドリル部の大孔用切削刃から小径ドリル部の小孔用切削刃にかけて「切削刃」が形成されていることは、技術思想として開示されていたものと認めることができる。
してみると、平成6年10月21日付け手続補正書においてされた補正は、明細書の要旨を変更するものとは認められない。
したがって、本件発明に係る出願は、現実の出願日、即ち平成3年9月25日にされたものであって、甲第1号証に記載された発明は、本件発明に係る出願日前に頒布された刊行物ではないから、本件発明は特許法第29条第1項第3号の発明に該当しない。
よって、無効理由(3)に係る証拠と理由によっては本件特許を無効とすることはできない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲第3号証及び甲第9号証に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-10-23 
結審通知日 2000-11-06 
審決日 2000-12-26 
出願番号 特願平3-274800
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (F16B)
P 1 112・ 113- ZB (F16B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 昇治山下 喜代治  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 和田 雄二
佐藤 洋
登録日 1998-09-04 
登録番号 特許第2138117号(P2138117)
発明の名称 ドリル螺子  
代理人 鎌田 文二  
代理人 中野 収二  
代理人 東尾 正博  
代理人 鳥居 和久  

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