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審決分類 審判 全部無効 特29条の2 無効とする。(申立て全部成立) B21D
管理番号 1072985
審判番号 無効2001-35506  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-11-16 
確定日 2003-03-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第1491321号発明「薄板の成形方法とその成形型」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1491321号の特許請求の範囲第1項、第2項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・本件特許発明
本件特許第1491321号の特許請求の範囲第1項、第2項に係る発明(昭和59年2月9日出願、平成1年4月7日設定登録。以下「本件特許発明1、2」という。)は、願書に添付された明細書及び図面(以下「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲第1項、第2項に記載された以下のとおりのものであると認める。
本件特許発明1:
「第1型に第2型を直線方向に移動させて衝合して成形する際負角になる成形部を有する成形方法であって、第1型に負角成形部を有するカム部材を回転自在に設け、第2型に前記カム部材に対向させて負角成形部を有するカムを設け、第1型に第2型が近接してカムがカム部材に衝合し移動してカム部材との間で負角成形部を成形し、負角成形後第2型が第1型より遠ざかり、ワークが第1型より取り出せる状態までカム部材を回転後退させるようにしたことを特徴とする薄板の成形方法。」
本件特許発明2:
「第1型に第2型を直線方向に移動させて衝合して成形する際負角になる成形部を有する成形型であって、周壁軸方向に溝を刻設した円柱状のカム部材を第1型に回転自在に設け、カム部材の溝縁部に負角成形部を形成し、負角成形部を有するカムを前記カム部材に対向させて第2型に設け、成形後ワークが第1型より取り出せる状態までカム部材を回転後退させる自動復帰装置を第1型に設けたことを特徴とする成形型。」

第2 請求人の主張
これに対して、請求人(株式会社ユアビジネス)は、本件特許発明1、2の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。
そして、その理由として、本件特許発明1、2は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」という。)の出願の日前の他の特許出願であって本件出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、且つ、その発明をした者が本件特許発明1、2の発明者と同一の者でもなく、本件出願の出願時にその出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者でもないので、本件特許発明1、2は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであると主張し、甲第1号証(特願昭58-71001号(出願日:昭和58年4月21日)の願書、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)、甲第2号証(甲第1号証の公開公報である特開昭59-197318号公報)、及び、甲3号証(本件出願の願書)を提出している。

第3 被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の主張は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。そして、その理由の概要は以下のとおりである。
1 特許法第29条の2の規定の趣旨からみて、先願が存在しているとしても、後願発明が新しい技術の公開となる範囲については特許権は与えられるべきである。即ち、先願の明細書、図面には、後願の特許請求の範囲に記載の構成要件が具体的に記載されてなければ、先願は後願発明を排除できない。
2 先願明細書に記載された発明がプレス用金型に限定しているのに対し、本件特許発明1、2は板金やプラスチック等のあらゆる薄板を成形できるものである。即ち、本件特許発明1、2は先願明細書に開示されてない新たな技術分野を対象にしている。
3 先願明細書に記載された発明が「下型20に回転カム23を、上型に吊りカム33を設ける」のに対し、本件特許発明1、2は、「下型に回転するカム部材を設けたり、あるいは上型にもカム部材を設ける」こともできる。このように、本件特許発明1、2は先願明細書に開示されてない新たな技術を開示している。
4 先願明細書に記載された発明が「プレス方向が上下方向のみ」であるのに対し、本件特許発明1、2は、「上下、横、斜方向等あらゆる方向で」加工するものに適用できるものであり、本件特許発明1、2は先願明細書に開示されてない新たな技術を開示している。

第4 先願明細書に記載された発明
先願明細書の第7頁第2行〜第12頁第3行には、以下のとおり記載されている。
「第5図乃至第8図は、本発明に係るプレス用金型を示す図面である。図中、(20)は下型であり、当該下型(20)の上面には、後述するパッド(31)と共同してピラー(A)を挟持するための保持部(21)が形成してあり、又その略中央部には当該保持部(21)と連なる円弧面を有するカム溝(22)を設けてある。(23)は上記カム溝(22)に回動自在に挿入した回転カムであり、この回転カム(23)は図示の如くその一部分を略L字状に切欠いてある。そしてその一端には、後述する吊りカム(33)の下面と接触するスライド板(24)を取付けてあり、又他端には後述する吊りカム(33)に固定した寄曲げ刃(35)と共同してピラー(A)を所定形状にプレス成形するための寄曲げ部(25)を形成してある。(26)は下型(20)内に設けた孔(27)内にスライド自在に挿入され、且つその一端がレバー(28)を介して回転カム(23)と連結したカムリフターであり、当該カムリフター(26)は孔(27)内に圧入されたスプリング(29)によって常時上方へ押圧されている。このため、ピストン(26)とレバー(28)を介して連結した回転カム(23)も、図中矢印I方向に押圧され、回転カム(23)の一端に設けた寄曲げ部(25)は、下型(20)に設けた開口部(22)の内方に後退した状態になっている。(30)は下型(20)の上方に昇降自在に配置した上型ホルダー、(31)は上型ホルダー(30)にスプリング(32)を介して支持されたパッドであり、当該パッド(31)は下型(20)上に載置されたピラー(A)を下型(20)上に圧接させるためのものである。(33)は上型ホルダー(30)にスライド台(34)を介してスライド自在に支持された、先端に寄曲げ刃(35)を有する吊り力ムである。
上記構成に於いて、本発明に係るプレス用金型によってピラー(A)のプレス成形を行なうには、先ず上型ホルダー(30)を下型(20)の上方に待機させた状態で下型(20)の保持部(21)にピラー(A)を載置する(第5図参照)。この時、回転カム(23)はスプリング(29)の弾性力によって図中矢印I方向に押圧されており、回転カム(23)の寄曲げ部(25)は下型(20)に設けたカム溝(22)の内方に後退している。次に下型(20)の上方に位置する上型ホルダー(30)を下降させると、先ず上型ホルダー(30)にスプリング(32)を介して吊下支持されているパッド(31)が下型(20)の保持部(21)上に載置されたピラー(A)の上面に圧接し、ピラー(A)を保持部(21)上に固定する。又上型ホルダー(30)が下降すると、パッド(31)と同時に吊りカム(33)も下降するため、吊りカム(33)の下面が回転カム(23)のスライド板(24)と接触し、スライド板(24)を下方に押圧するため、回転カム(23)はスプリング(29)の弾性力に抗して図中矢印II方向に回動する。そしてこの回動に伴って回転カム(23)の端部に設けた寄曲げ部(25)がカム溝(22)の開□端に向って移動し、回転カム(23)の寄曲げ部(25)とパッド(31)とによってピラー(A)の折曲部近傍を挟持する(第6図参照)。そして回転カム(23)が所定量回動した後、上型ホルダー(30)とパッド(31)間に位置するスプリング(32)を圧縮しながら上型ホルダー(30)が更に下降すると、上型ホルダー(30)にスライド台(34)を介してスライド自在に支持されている吊りカム(33)は、スライド板(24)に接触した状態で下方に押圧されるため、スライド板(24)に沿って図中矢印III方向にスライドする。そして、吊りカム(33)の先端に固定した寄曲げ刃(35)がピラー(A)を回転カム(23)の寄曲げ部(25)に押圧し、ピラー(A)を所定形状に折曲形成する(第7図参照)。このようにして、ピラー(A)の折曲形成が終了し、上型ホルダー(30)が上昇を開始すると、先ず吊りカム(33)がスライド台(34)上の元の位置まで戻った後、吊りカム(33)が回転カム(23)のスライド板(24)から離れるため、回転カム(23)はスプリング(29)の弾性力によって図中矢印I方向に回動し、回転カム(23)の寄曲げ部(25)は下型(20)に設けた開□部(22)の内方に後退する。又上型ホルダー(30)にスプリング(32)を介して支持されたパッド(31)も上型ホルダー(30)の上昇に共って上昇し、下型(20)の保持部(21)上に載置されたピラー(A)の上面から離脱する。そして上型ホルダー(30)が元の位置まで上昇し、パッド(31)及び吊りカム(33)が下型(20)の上方に退避すれば、後は下型(20)の保持部(21)に載置されたビラー(A)を上方に持ち上げ、下型(20)から取出せばよい。この時回転カム(23)の寄曲げ部(25)は、第8図に示す如くカム溝(22)の内方に後退しており、又保持部(21)の先端部(21a)はピラー(A)の折曲部(A1)より図中左方に位置しているため、ビラー(A)を上方に特上げるだけでピラー(A)を下型(20)から容易に取出せる。」

上記記載事項及び第1〜2図、第5〜8図の記載からすると、先願明細書には以下の発明が記載されていると認める。
先願発明1:
下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)を上下方向に移動させて衝合して成形する際寄曲げ部を有するプレス成形方法であって、下型(20)に寄曲げ部(25)を有する回転カム(23)を回転自在に設け、スライド台(34)に前記回転カム(23)に対向させて寄曲げ刃(35)を有する吊りカム(33)を設け、下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)が近接して吊りカム(33)が回転カム(23)に衝合し移動して回転カム(23)との間で寄曲げ部を成形し、寄曲げ成形後、スライド台(34)及びパッド(31)が下型(20)より遠ざかり、ピラー(A)が下型(20)より取り出せる状態まで回転カム(23)を回転後退させるようにしたプレス成形方法。
先願発明2:
下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)を上下方向に移動させて衝合して成形する際寄曲げ部を有するプレス用金型であって、下型(20)に寄曲げ部(25)を有する回転カム(23)を回転自在に設け、スライド台(34)に前記回転カム(23)に対向させて寄曲げ刃(35)を有する吊りカム(33)を設け、下型(20)にスライド台(34)及びパッド(31)が近接して吊りカム(33)が回転カム(23)に衝合し移動して回転カム(23)との間で寄曲げ部を成形し、寄曲げ成形後、スライド台(34)及びパッド(31)が下型(20)より遠ざかり、ピラー(A)が下型(20)より取り出せる状態まで回転カム(23)を回転後退させるカムリフター(26)を下型(20)に設けたプレス用金型。

第5 本件特許発明1についての対比及び当審の判断
以下、本件発明1と先願発明1を対比する。
先願発明1における「回転カム(23)」、「吊りカム(33)」、「ピラー(A)」は、それぞれ、本件特許発明1における「カム部材」、「カム」、「ワーク」に相当し、先願発明1における「寄曲げ部」、「寄曲げ刃」は、「ピラー(A)」を第2図から第1図のような形状に成形するものであるから、本件特許発明1における「負角成形部」に相当する。
また、本件特許発明1における「第1型」及び「第2型」は、位置関係を特定されたものではないから、「第1型」を下に、「第2型」を上に配置するものも、本件特許発明1における「第1型」及び「第2型」に包含される。そして、先願発明1における「下型(20)」は、円柱状の「回転カム」が回転自在に設けられるものであるから、本件特許発明1における「第1型」に相当し、「スライド台(34))」は、寄曲げ刃を有する「吊りカム(33)」が設けられていることから、本件特許発明1における「第2型」に相当する。(本件特許発明1が、「上型にもカム部材を設ける」こともできるものを含むとしても、「下型に回転するカム部材を設けた」ものも含む以上、本件特許発明1における「第1型」、「第2型」は、先願発明1における「下型(20)」、「スライド台(34)」を含むものである。)
さらに、先願発明1における「スライド台(34)」は、「下型(20)」に対して上下方向に直線移動するものであるから、その動きは、本件特許発明1における「第1型に第2型を直線方向に移動させて」に相当する。(本件特許発明1が、「上下、横、斜方向等あらゆる方向で」加工するものに適用できるものであるとしても、「上下方向」のみで加工するものを含む以上、本件特許発明1が適用できる技術には、先願発明1が含まれる。)

なお、本件特許発明1は、板金やプラスチック等のあらゆる薄板を成形できるものであるから、プレス成形を含むことは明らかである。また、このことは、本件出願の発明の詳細な説明、図面に実施例として記載された技術が、先願発明1と同様のピラーのプレス成形技術であることからしても明らかである。即ち、先願発明1における「プレス成形方法」は、本件特許発明1における「薄板の成形方法」に相当する。

以上のとおりであるから、本件特許発明1と先願発明1との間に相違点はなく、本件特許発明1は先願発明1と同一である。

第6 本件特許発明2についての対比及び当審の判断
以下、本件特許発明2と先願発明2を対比する。
各構成要件の対応関係、適用分野に関しては、上記「第5」で述べたとおりのことが、本件特許発明2と先願発明2の間にも成り立つことから、先願発明2における「下型(20)」、「スライド台(34)」、「回転カム(23)」、「吊りカム(33)」、「ピラー(A)」、「プレス用金型」は、それぞれ、本件発明2における「第1型」、「第2型」、「カム部材」、「カム」、「ワーク」、「成形型」に相当し、先願発明2における「スライド台(34)」の動きは、本件特許発明2における「第1型に第2型を直線方向に移動させて」に相当する。
また、先願発明2における「カムリフター26」は、本件特許発明2における「自動復帰装置」に相当する。
さらに、先願発明2における「回転カム23」は略L字状に切欠かれており、この切欠きが、本件特許発明2における「周壁軸方向」に刻設された「溝」に相当する。

以上のとおりであるから、本件特許発明2と先願発明2との間に相違点はなく、本件特許発明2は先願発明2と同一である。

第7 被請求人の主張について
本件特許発明1、2に関しては、上記「第5」、「第6」に述べたとおりであり、本件特許明細書が先願明細書に記載されていない新しい技術を開示しているものであるとしても、本件特許発明1、2が、先願発明1、2を含むものである以上、先願発明1、2と同一と解すべきである。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2は、先願明細書に記載された発明と同一であり、且つ、本件特許の発明者及び出願人と先願明細書に記載されたそれとを照らし合わせてみると、その発明をした者が本件特許発明1、2の発明者と同一の者でもなく、本件出願の出願時にその出願人と当該他の特許出願の出願人が同一の者でもないので、本件特許発明1、2の特許は特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件特許発明1、2の特許は、昭和60年法律第41号による改正前の特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-07 
結審通知日 2002-03-12 
審決日 2002-03-29 
出願番号 特願昭59-23743
審決分類 P 1 112・ 16- Z (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 沼沢 幸雄  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 鈴木 孝幸
加藤 友也
登録日 1989-04-07 
登録番号 特許第1491321号(P1491321)
発明の名称 薄板の成形方法とその成形型  
代理人 八幡 義博  
代理人 高木 義輝  

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