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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) C07C
審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て全部成立) C07C
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) C07C
管理番号 1074207
審判番号 審判1998-35403  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-08-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-08-31 
確定日 2003-03-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2135099号発明「ジアリールカーボネートの連続的製造法」の請求項1ないし7に係る特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2135099号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第2135099号は、平成3年2月19日に出願(優先権主張平成2年2月21日)され、平成7年7月26日に出願公告(特公平7-68182号)され、平成10年2月27日に設定の登録がなされたところ、平成10年8月31日に請求人日本ジーイープラスチックス株式会社より本件特許について特許無効の審判の請求がなされ、その後被請求人より平成10年12月22日に答弁書が提出され、請求人より平成12年4月26日に弁駁書が提出され、被請求人より平成12年8月22日に答弁書(第2回)が提出され、平成12年10月23日に第1回口頭審理が行われ、請求人より平成12年11月22日に弁駁書(第2回)が提出され、更に平成12年12月26日に第2回口頭審理及び証人尋問が行われたものである。(なお、答弁書、弁駁書と表示された書類以外の書類提出については記載を省略した。第2回口頭審理後、双方から出された書類の提出も記載を省略した。)

II 本件発明の要旨
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物からジアリールカーボネートを製造するに際して
(A)原料化合物であるジアルキルカーボネート及び芳香族ヒドロキシ化合物を、第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第1連続多段蒸留塔内でアルキルアリールカーボネート化触媒と該原料化合物とを接触させることによって反応させながら、副生する脂肪族アルコールを含む低沸点成分を蒸留によってガス状で連続的に抜き出し、一方、生成したアルキルアリールカーボネート類を含む高沸点成分を塔下部より液状で連続的に抜き出す第1工程
(B)アルキルアリールカーボネート類を含有する第1連続多段蒸留塔の塔下部抜き出し液を、第2連続多段蒸留塔内に連続的に供給し、該第2連続多段蒸留塔内でアルキルアリールカーボネートとジアリールカーボネート化触媒とを接触させることによって反応させながら、副生するジアルキルカーボネートを含む低沸点成分を蒸留によってガス状で連続的に抜き出し、その一部または全部をガス状又は液状で第1連続多段蒸留塔に供給することによって循環させ、一方、生成したジアリールカーボネートを含む高沸点成分を塔下部より液状で連続的に抜き出す第2工程
を含むことを特徴とするジアリールカーボネートの製造法。
【請求項2】アルキルアリールカーボネート化触媒が、反応条件で反応液に溶解し得る触媒であって第1連続多段蒸留塔に連続的に供給されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】ジアリールカーボネート化触媒が、反応条件で反応液に溶解し得る触媒であって第2連続多段蒸留塔に連続的に供給されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】アルキルアリールカーボネート化触媒および/またはジアリールカーボネート化触媒が、固体触媒であって連続多段蒸留塔内部に配置されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】第1連続多段蒸留塔の塔下部抜き出し液を第2連続多段蒸留塔に供給するに際して、該抜き出し液を第1触媒分離装置に導き、アルキルアリールカーボネートを含む低沸点成分とアルキルアリールカーボネート化触媒を含む高沸点成分とに分離した後、該低沸点成分の一部または全部を第2連続多段蒸留塔に供給することによって循環させ、一方、該触媒を含有する高沸点成分の一部または全部を第1連続多段蒸留塔に供給することによって循環させることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項6】第2連続多段蒸留塔の塔下部抜き出し液を第2触媒分離装置に導き、ジアリールカーボネートを含む低沸点成分と、ジアリールカーボネート化触媒を含む高沸点成分とに分離した後、該触媒を含む高沸点成分の一部または全部を第2連続多段蒸留塔に供給することによって循環させることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項7】第1連続多段蒸留塔の塔下部抜き出し液を第2連続多段蒸留塔に供給するに際して、該抜き出し液を第1触媒分離装置に導き、アルキルアリールカーボネートを含む低沸点成分とアルキルアリールカーボネート化触媒を含む高沸点成分とに分離した後、該低沸点成分の一部または全部を第2連続多段蒸留塔に供給することによって循環させ、一方、該触媒を含有する高沸点成分の一部または全部を第1連続多段蒸留塔に供給することによって循環させ、さらに第2連続多段蒸留塔の塔下部抜き出し液を第2触媒分離装置に導き、ジアリールカーボネートを含む低沸点成分と、ジアリールカーボネート化触媒を含む高沸点成分とに分離した後、該触媒を含む高沸点成分の一部または全部を第2連続多段蒸留塔に供給することによって循環させることを特徴とする請求項2又は3記載の方法。」
上記の請求項1〜7に係る発明を、以下それぞれ「本件第1発明」〜「本件第7発明」という。

III 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第2135099号はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として審判請求書において次の3つを挙げおよそ次のように主張している。
理由1
本件の請求項1〜7の発明は、本件優先日前に頒布された甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
そして、請求人は上記理由1の主張を立証する証拠方法として甲第1〜12号証を提出したが、その後、理由1に関し更に第1回口頭審理までに甲第26〜32、49、50号証を、その当日に甲第51号証を、その後第2回頭審理までに甲第52、55号証を追加した。
なお、無効審判請求書2頁13〜15行の「、又は甲第8〜11号証・・・容易に発明をすることができた」という主張で「、又は甲第8〜11号証(要すれば更に甲第6,7号証)」に記載の発明に基づいて容易であるという部分は撤回された。(第1回口頭審理調書、「請求人」の「7」参照)

理由2
本件の請求項1〜7の発明は、本件優先日前に外国で頒布された甲第13号証の1に記載された発明であり、又はそれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
理由2の主張を立証する証拠方法として審判請求時に甲第13〜22号証を提出し、その後第1回口頭審理までに甲第33〜41号証を提出した。

理由3
本件の請求項1〜3の発明は、本件優先日前に、日本国内において公然知られたので、特許法第29条第1項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
請求人は、理由3の主張を立証する証拠方法として審判請求時に甲第23〜25号証を提出し、その後第1回口頭審理までに甲第28〜30、42〜48号証を、その後第2回口頭審理までに甲第53号証を、第2回口頭審理当日に甲第54号証を提出した。
また理由3に関し証拠方法として下記証人の証人尋問を申請した。
証人:山形文一
東京都品川区小山7-7-17

2 請求人の証拠方法
第1回口頭審理及び第2回口頭審理において、請求人が提出した証拠の一部に表示の訂正、参考資料への変更があった。以下理由1〜3に関する証拠を示すが、訂正された証拠については訂正後の甲号証等を示す。

甲第1号証 :平田光穂著「最新蒸留工学」日刊工業新聞社、昭和45年、207〜247頁
甲第2号証 :米国特許第2,829,153号明細書(1958年)
甲第3号証 :Petrole et Techniques、No.350、1989年、p.36〜40
甲第4号証 :quaderni dell´ingegnere chimico italiano、1974年、p.36〜40
甲第5号証 :Petrole et Techniques、No.329、1986年、p.34〜38
甲第6号証 :Ger, Chem. Eng.3,1980年,p.252〜257
甲第7号証 :ING. CHIM. ITAL.,V.21,N.1-3, GEN-MAR. 1985年、p.6〜12
甲第8号証 :特開昭54- 48733号公報
甲第9号証 :特開昭54- 48732号公報
甲第10号証:特開昭61-291545号公報
甲第11号証:特開平 1-275548号公報
甲第12号証:特開昭51-105032号公報
甲第13号証:ENICHEM SINTESI ISOLA 19-RAVENNA IMPIANTO DIFENIL CARBONATO DESCRIZIONE PROCESSO ED IMPIANTO DICEMBRE 1985
(エニケム シンテシ社がラベンナ市に提出した建設許可申請書に添付されたプロセス説明書と図面の写し)(訂正前、甲第13号証の1)
甲第14号証:COMUNE DI RAVENNA CONCESSIONE CONCESSIONE N゜1902/86 DATA 16 DIC 1986(ラベンナ市が出した建設許可書の写し)(訂正前、甲第14号証の1)
甲第15号証:LEGGI E DECRETI LEGGE 6 agosto 1967,N.765(イタリア国の1967年8月6日の法律第765の公報写し)(訂正前、甲第15号証の1)
甲第16号証:Gulminelli女史のステートメント、 1996年12月21日付
甲第17号証:Gulminelli女史のステートメント、
1997年2月6日付
甲第18号証:Gulminelli女史のステートメント、
1997年8月26日付
甲第19号証:ラベンナ市当局のStringa氏のステートメント、1997年11月28日付
甲第20号証:Cisilino氏(元ラベンナ市の役人)のステートメント、1997年6月4日付
甲第21号証:Ribolzi教授の鑑定書、1998年1月8日付
甲第22号証:Stringa氏のステートメント、 1998年2月10日付
甲第23号証:EniChem Synthesis DIPHENYLCARBONATE PROCESS TECHNICAL ECONOMIC NOTE October,1987(三井石油化学株式会社がエニケム社から受領した書面)
甲第24号証:「DMC法DPC打合せ」62-10-24 山形(記)
甲第25号証:SECRECY AGREEMENT
(ENICHEM SYSTHESIS SpA と三井石油化学株式会社の秘密保持契約。1987年11月9日。)
甲第26号証:ヨーロッパ特許第461274号に対する特許異議決定書の写し(本件特許に対応する。)
甲第27号証:PCT/JP90/01734請求の範囲の写(発明の名称:芳香族カーボネートを連続的に製造する方法)
甲第28号証:European Chemical News,13 November 1989,p.44
甲第29号証:Chemical Marketing Reporter,vol.236,December 4,1989,No.23
甲第30号証:Europa Chemie 35-36/89,p.585
甲第31号証:Dialog(R)File 319:Chem Bus News Base (C)1998 Royal Soc Chemistry
甲第32号証:Babcock Distillation with Chemical Reaction,Lehigh University,1976
甲第33号証:中山信弘、注解特許法、青林書院第二版 191〜197頁
甲第34号証:川口博也、民商法雑誌 第84巻 第2号 196〜201頁
甲第35号証:紋谷暢男、注釈特許法、有斐閣ミドル・コンメンタール 71〜76頁
甲第36号証:盛岡一夫、ジュリスト昭和61年6月10日号、243〜245頁
(甲第33〜36号証は「頒布された刊行物」についての論文。)
甲第37号証:Tanzarella氏(ミラノの弁護士)の鑑定書、1998年7月30日付(訂正前、甲第37号証の1)
甲第38号証:Ribolzi教授の鑑定書(第2)(訂正前、甲第38号証の1)
甲第39号証:Massaro氏のデクラレーション、 1998年10月7日付(訂正前、甲第39号証の1)
甲第40号証:Ravenna市が出した証明書、1998年10月14日付(訂正前、甲第40号証の1)
甲第41号証:弁理士ツムステイン博士(エニケム社代理人)からヨーロッパ特許庁への手紙 1996年11月5日付
甲第42号証:カサールからの山形宛のファクシミリ書面、1988年9月30日
甲第43号証:山形文一の陳述書(平成11年5月17日)
甲第44号証:マイケル モダンの陳述書(1998年9月16日)
甲第45号証:アレン コーの陳述書(1998年9月23日)
甲第46号証:リナルド ペライヤの陳述書(1998年9月30日)
甲第47号証:ゼネラルエレクトリック社とエニケム社との秘密保持契約、1988年11月15日締結
甲第48号証:日本ジーイープラスチックス社とエニケム社との秘密保持契約、1989年7月6日締結
甲第49号証:WO83/03825号公報
甲第50号証:米国特許第1,400,849号明細書
甲第51号証:特開昭51-75044号公報
甲第52号証:東京高裁特許権侵害差止等請求控訴事件、平成12年(ネ)第2720号 における甲第41号証(抜粋)
甲第53号証:東京高裁特許権侵害差止等請求控訴事件、平成12年(ネ)第2720号 における甲第42号証
甲第54号証:DMC/DPC三者会談議事録
(1988年10月6日、東京で開催した会議)
甲第55号証:三井化学株式会社、猪木哲による実験成績証明書(PMC生成速度について)
(甲号証の添付文書)
甲第2〜4号証(抄訳文)
甲第5号証(抄訳文2)
甲第6号証(抄訳文2)
甲第7号証の抄訳文(2)
甲第13号証の抄訳(訂正前、甲第13号証の1の抄訳)
甲第14号証の抄訳(訂正前、甲第14号証の1の抄訳)
甲第15号証の抄訳(訂正前、甲第15号証の1の抄訳)
甲第16〜22号証の抄訳
甲第37〜40号証(訳文又は抄訳)
甲第23、25、32号証の抄訳
甲第26、27〜31、44〜48号証の訳文
甲第41、49、50号証の抄訳
甲第42号証の抄訳
(参考資料)
参考資料-1:甲第13号証の英訳(訂正前、甲第13号証の2)
参考資料-2:甲第14号証の英訳(訂正前、甲第14号証の2)
参考資料-3:甲第15号証の英訳(訂正前、甲第15号証の2)
参考資料-4:甲第37号証の英訳(訂正前、甲第37号証の2)
参考資料-5:甲第38号証の英訳(訂正前、甲第38号証の2)
参考資料-6:甲第39号証の英訳(訂正前、甲第39号証の2)
参考資料-7:甲第40号証の英訳(訂正前、甲第40号証の2)
参考資料-8:乙第12号証の抄訳文
参考資料-9:乙第14号証の抄訳文
参考資料-10:乙第15号証の抄訳文

3 被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、請求人の各理由に対しておよそ次のように反論している。
(1)無効理由1に対し、甲第1〜12号証のいずれもから、又これらをどのように組み合わせても本件特許発明は当業者が容易に想到できるものではない旨主張し、乙第1、2号証を提出し、第1回口頭審理までに乙第12〜23号証(乙第23号証は番号繰り上げ前の表示。)を提出した。
第1回口頭審理では、「いかに当業者であっても甲第1〜8,10,12 ,51号証に記載された発明から本件発明を容易に想到することは到底できるものではない。」旨主張し(口頭審理陳述要領書2〜4頁)、第1回口頭審理当日に乙第24号証を、その後乙第26号証を、第2回口頭審理当日に乙第25号証(乙第24〜26号証は番号繰り上げ前の表示。)を、更にその後乙第29号証〜乙第41号証の2、乙第43号証〜乙第44号証の2を提出した。
(2)無効理由2に対し、被請求人は「甲第13号証の1は本件優先日前に第3者に複写、閲覧は許されていなかった。仮に甲第13号証の1が閲覧・複写可能であったとしても、甲第13号証の1の原本は頒布された刊行物ではなく、このことを前提とする本件発明が特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項に該当するとする主張は根拠を欠くものである。」旨主張した(10年12月22日付け答弁書、47、51頁参照)。又第2回口頭審理でも「甲第13号証の1(の原本)は「刊行物」ではない」、「甲第13号証の1(の原本)は本件特許出願前は閲覧・複写できなかった」と反論した(第2回口頭審理陳述要領書3〜9頁)。
被請求人は反論の根拠として、答弁書と共に乙第3、4、5、10、11号証、乙第6、7,8号証の1、乙第7号証の2、乙第6,8号証の3、乙第9号証の1〜8を提出したが、第2回口頭審理当日、乙第27,28,29号証(乙第27〜29号証は番号繰り上げ前の表示。)を追加し、更に口頭審理の後、乙第42号証の1〜2を追加した。
(3)無効理由3に対し、被請求人は、請求人の本件発明が公然知られた発明であるとする主張はいずれも失当であって、採用されるべきでない旨主張した。又第2回口頭審理でも「三井石油化学が甲第23号証によって本件発明内容を知っていたとしても、これをもって日本国内で公知になったと言うことはできない。」、「甲第47号証第1.1条(iii)の規定を根拠に、東京会議(1988年10月6日、東京で開催した会議)によって本件発明内容が日本国内で公知になったと評価することはできない。」、「請求人を介する国内公知の主張にも理由がない。」と反論し(第2回口頭審理陳述要領書9〜14頁)、乙第29号証(該乙号証は番号繰り上げ前の表示。)を提出した。

なお、乙第23号証は第2回口頭審理において取り下げられ、それに伴い乙第24〜29号証の番号は繰り上げられることになった(第2回口頭審理調書参照)。

4 被請求人の証拠方法
被請求人は、第1回口頭審理及び第2回口頭審理において提出した証拠について一部番号を繰り上げると共に一部は参考資料に変更した。以下理由1〜3に関する証拠を示すが、訂正された証拠については訂正後の乙号証等を示す。

乙第1号証 :甲第5号証の英訳文
乙第2号証 :甲第3号証の英訳文
乙第3号証 :東京高裁昭和50年(行ケ)第97号判決
乙第4号証 :平成10年(ワ)第10545号 被告第1準備書面(特許権者との訴訟)
乙第5号証 :エニケム社とGEとの契約書
乙第6号証の1:Marabini & Farini の法律鑑定書
乙第6号証の3:乙第6号証の1の和訳
乙第7号証の1:Trevisan & Amadio の法律鑑定書
乙第7号証の2:同上和訳
乙第8号証の1:Marabini & Farini のRibolzi法律鑑定書に対する反論書
乙第8号証の3:乙第8号証の1の和訳
乙第9号証の1:承認されたエニケム社の建設許可申請に係る7枚の建築図面のうち
02-GB-2148X-24019-A1 of 3 (工場配置)
乙第9号証の2:同上建築図面のうち
02-GB-2148X-24019-A2 of 3(レイアウト:立面図)
乙第9号証の3:同上建築図面のうち
02-GB-2148X-24019-A3 of 3(熱媒加熱装置)
乙第9号証の4:同上建築図面のうち
02-GB-2311X-05074-A(既存プラント配置図)
乙第9号証の5:同上建築図面のうち
00-ANI-21920(ANIC全体図)
乙第9号証の6:同上建築図面のうち
02-CV-2148X-21020(工場配置:相当する部分図)
乙第9号証の7:同上建築図面のうち 19.1028(メタン変性設備)
(以上、乙第9号証の1〜7は、Bartoli Flavio作成の承認された7枚の図面)
乙第9号証の8:乙第9号証の1〜7の和訳
乙第10号証 :甲第14号証の1の表紙の和訳(1頁)及び4、5枚目の36)〜41)項の和訳(2、3頁)
乙第11号証 :「Bartoli Flavio」(エニケムの設計者)の印鑑
乙第12号証 :Catalytic distillation,Chemical Processing 1987,27-32頁
乙第13号証 :米国特許第4,410,464号明細書
乙第14号証 :Babcock Distillation with Chemical Reaction,Lehigh University,1976 18頁〜20頁
乙第15号証 :WO 00/18720
乙第16号証 :Report No.71「BUTYLENES」by EARL D. OLIVER STANFORD RESEARCH INSTITUTE 1971年10月、145頁、154頁、155頁、157頁
乙第17号証 :Report No.30A,「AROMATICS BTX」by EARL D. OLIVER and TERUMASA.INOUE SUPPLEMENT A,STANFORD RESEARCH INSTITUTE 1970年7月、71頁
乙第18号証 :Chemical Engineering Progress,vol.62,No.11. 1966,98頁〜103頁
乙第19号証 :V.H.Agreda et al.,Chemical Engineering Progress(1990),p.40-46 p.46,Nomenclature Eの数値
乙第20号証 :Yakunina G et al.,Deposited Doc (1976),VINITI 4381-76,11pp
乙第21号証 :Hao J.,Hu J.,Raliao Huaxue Xuebao,(1987), 65(4),613-20(Chemical Abstract オンライン出力結果)
乙第22号証 :Randriamahefa.S et al.,J.Mol.Catal.,(1988),49(1),85-102(Chemical Abstract オンライン出力結果)
乙第23号証 :Advances in Chemistory Series 116「Azeotropic Data-III」76頁、American Chemical Society(1973)(訂正前乙第24号証)
乙第24号証 :旭化成株式会社、東條正弘作成の「DPC生成量比較-反応(滞留)時間ベース」と題す書面(「DECLARASION」等の添付資料は除く。)(訂正前乙第25号証)
乙第25号証 :実験成績証明書「アニソール選択率の測定」(訂正前乙第26号証)
乙第26号証 :NOTA TECNICA (エニケム社が建築許可申請書に添付)(訂正前乙第27号証)
乙第27号証の1〜7:エニケム社とラベンナ市の間の交信レター(訂正前乙第28号証1〜7)
乙第28号証 :山形文一氏の平成12年1月13日付陳述書(訂正前乙第29号証)
乙第29号証 :平成3年6月28日付三井石油化学工業より被請求人購買部富田あて送品案内書
乙第30号証 :1991年8月20日付被請求人購買部富田あて、同水島技研福岡発信のファックス文書「ミテック DPC 評価の件」
乙第31号証の1: Ullemann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,Vol.B4 1992 VCH Publishers Inc. 表紙、前付、321〜328頁、奥付
乙第31号証の2: 乙第31号証の1抄訳
乙第32号証 :特開平1-265062号公報1、2頁
乙第33号証 :特開平1-265063号公報1、2頁
乙第34号証 :特開平1-265064号公報1、2頁
乙第35号証 :特開平9-165357号公報1、2頁
乙第36号証 :特開平9-176094号公報1〜3頁
乙第37号証 :化学工学、第57巻第1号77〜82頁(1993年)
乙第38号証 :被請求人研究開発本部 横田耕史郎作成による「MPCと酢酸メチルとの反応性の違い」
乙第39号証の1:Trans. Faraday Soc. 30, 1145〜1149(1934)
乙第39号証の2:乙第39号証の抄訳
乙第40号証の1:Encyclopedia of Chemical processing and design 381〜403頁、Marcel Dekker,Inc(1983年)
乙第40号証の2:乙第40号証の1の抄訳
乙第41号証の1:米国特許第4232177号明細書
乙第41号証の2:乙第41号証の抄訳
乙第42号証の1:1991 DIRECTORY OF CHEMICAL PRODUCERS WESTERN EUROPE Vol.2 はしがき1992頁
乙第42号証の2:乙第42号証の1の抄訳
乙第43号証:東條正弘による実験報告書(題:「実験成績書-第1連続多段蒸留塔 塔頂温度および塔底温度の測定」)
乙第44号証の1:Ind.Eng.Chem.Res.27,1565〜1571頁 (1988年)
乙第44号証の2:乙第44号証の1の抄訳
(乙第号証の添付文書)
乙第6号証の添付資料
乙第5号証の抄訳
乙第1,2,12〜15号証の和訳
乙第16〜23号証抄訳
乙第26,27号証の1〜7の訳文

(参考資料)
参考資料:山形証言参考資料
参考資料:甲第6号証(全文和訳)
参考資料:乙第6号証の英訳(訂正前、甲第6号証の2)
参考資料:乙第8号証の英訳(訂正前、甲第8号証の2)
参考資料:平成12年12月26日付け「上申書(2)」に添付した「DECLARATION」と題す書面、その「Exhibit 1」、「EPOへ提出した供述書(1995.12.15付)と実験証明書訳」と題す書面、「本特許・・・液保持量測定実験」と題する「Exhibit 1」
参考資料:乙第28号証(訂正前、乙第29号証)の添付資料(別添-1〜4含む)
参考資料:乙第9号証の入手説明書
参考資料:旭化成工業、福岡伸典作成の書面「MPC(DPC)生成反応に関する記述」(平成13年1月15日付け「上申書(1)」に添付)
参考資料:資料1(旭EPに対する異議申立経過)
参考資料:資料2(異議事件における証拠リスト)
参考資料:資料3(EPOの異議決定書。本件特許に対応。)
参考資料:資料4(同上抄訳)
参考資料:資料1(1999年7月6日GE提出の上申書)
参考資料:資料1の1(同上英訳)
参考資料:資料2(先行技術に記載されている反応蒸留を用いた反応とその平衡定数、およびその工業化検討に関する記述をまとめた表)

3 甲各号証、乙各号証等の記載事項
本件発明との関連から甲号証、乙号証の記載の一部を摘示又は記載を要約すると次のようになる。
・甲第1号証
甲第1号証には、「反応蒸留とは蒸留性能を良好にするために蒸留と反応とを合併した操作とも言えようし、また、反応率を向上させるために蒸留分離の力を借りた操作とも言えよう」(208頁)、「操作条件あるいは操作方式を適当に選ぶことによって反応と蒸留分離が効果的の遂行される。」(209頁、「6.1.3反応蒸留の操作基本型」の項)と記載されている。
・甲第2号証
甲第2号証(抄訳文)には、「本発明の目的は、平衡反応・・・を完結させるための方法を提供する」(2欄26〜30行)、「加熱された反応物の夫々の流れが・・・供給プレートより上に精留セクションを有し・・・下に反応及び精留セクションを有し・・・」(3欄54〜61行)、「反応速度を増すために触媒を加えることが望ましい。」(6欄8〜13行)と記載されている。
・甲第3号証
甲第3号証(抄訳文)には、「反応蒸留の第一のかつ最大の利点は、それがル シャトリエの法則に従って平衡反応の進行をズラすことができることである。」(2頁右欄2段落)、「反応蒸留の概念は、・・・これは化学反応の進行と生成物の予備精留の両者を可能にする。」(1頁右欄2段落)、「触媒反応蒸留ゾーンは、・・・段の夫々が低転化率かつ高選択率で稼働することを可能にする。・・・このことは副生成物の生成を最小にし、同時に所望の高転化率を与える。」(2頁右欄7段落)と記載されている。
・甲第4号証
甲第4号証(抄訳文)には、「反応を伴う蒸留塔内での濃度及び温度分布の評価の手順が示される。・・・エステル交換反応への適用・・・」(1頁要約)、「多段蒸留の採用は、化学工業において、ますます一般的になってきている。」(1頁左欄1〜5段落)と記載されている。
・甲第5号証
甲第5号証(抄訳文2)には、「反応蒸留か蒸留反応か?これら表現の前者が・・・ルシャトリエの法則に従って平衡化学反応の進行の程度を増大させること・・・である。」(34頁右欄第1〜2段落)、「反応蒸留の公知の適用はすでに極めて多数であるが、・・・現実に、適用の好ましいケースは何であるか?・・・生成物を蒸留することの結果として平衡がズレて、反応物のほぼ完全な転化を可能にするところの平衡化学反応のためにのみ反応蒸留は真に有利であるようである。いくつかの制約を同時に考えねばならない:
-反応と蒸留の運転温度及び圧力が両立すること; -反応物と生成物の揮発度が十分に異なること; -反応物と生成物の揮発度が或る順序に従うこと。
バブコックは・・・反応の4つのタイプを定義し、これは表IIに記号で示されている。」(37頁右欄第3〜4段落)と記載されている。
「P=生成物」と「R=反応物」を、「揮発度(V)」と関連させて分類し、「表II」において「クラスI」〜「クラスIV」として示している(38頁)。「クラスII」は「一つのPのV<各RのV<一つのPのV」であるとし、「数学的シュミレーションによって、これら2つのクラスに属する反応のみが反応蒸留で利点を示すことをバブコックは示している。利点は、クラスIIの反応の場合に最大である。」(37頁右欄下から第1段落)と記載されている。更に「実際には、バブコックの分析は、不完全であり、単純化した仮定に基づいている。従って、彼の結論は、普遍的な妥当性のものとは考えられなく、彼の分類はこの技術の潜在的適用の利点を予測するにおける誤りの無い指針として働く事は出来ない。上記分析は、反応物が反応塔の単一の位置で混合物として導入されるケースのみを考察しているので、上記分析は不完全である。・・・他方、バブコックは、塔の液相が理想溶液でありかつ成分の比揮発度が一定のままであるケースのみを考慮している。」(38頁左欄)、「反応のための最適条件に出来るだけ近い温度および圧力条件が蒸留による生成物分離をも許容する時に・・・価値ある技術である。反応物/生成物の揮発性の順序は多かれ少なかれ好都合であることができ、しかしそれが先験的な限定を示すと考える必要はない。・・・効率的なプロセスに最終的に到達するために、特定の解説法を考案することが可能」(38頁、「結論」の項)と記載されている。
・甲第6号証
甲第6号証(抄訳文2)は、「蒸留を上置した反応に対する反応器の選択」と題す論文であり、工業的規模での平衡反応を実施する方法として、「a)反応塔(連続)」、「b)塔付きのバッチ反応器(不連続)」、「c)CSTR又は反応器カスケード(連続)」の3つが挙げられ(252頁、図1)、「表1」には、AとBを反応させCとDを生成させる反応において、A,B,C,Dの「相対的揮発度」をそれぞれ「1.0」、「1.1」、「4.0」、「0.1」としたとき、「K」値が10,1,0.01と小さくなる程「RC(反応塔)」の適用が好ましいことが示されている(252頁)。「反応塔の使用」に関し「下記の前提を含む:1.反応は、反応塔の棚上の合計滞留時間が十分であるべく充分に速くなければならない。2.活性化エネルギーは低くなければならない。・・・3.反応は強く発熱であっても、強く吸熱であってもならない。・・・好ましくない。」と記載されている(253頁左欄)。
又甲第6号証には、反応器の比較が、AとBを反応させCとDを生成させる反応(但しB,Cは平衡の両側においてより揮発性の成分。Cは最大の比揮発度を有すると仮定する。)についてのものであることが記載され(253頁左欄18〜23行)、「二つの反応物AとBはほぼ同じ揮発度を示すと仮定され、他方、生成物Dは極めて低い揮発度を持つと仮定される。・・・従って、この特定の場合に、反応塔のエネルギーの利点は最大である。」(253頁左欄下から17〜9行)と記載されている。
更に「反応塔は、もし平衡定数が小さいと、特に有利であると考えられる。・・・このことを、以下で検討し、定量化する。」(253頁9〜23行)、「図5において、平衡定数を変化させた。反応塔の適用の最適範囲は、K=0.01のときに達成される。95%の転化率で見ると、反応塔は、塔付きのバッチ反応器が要する熱投入量の僅か約5%を要するのみである。」(253頁左欄4の項)と記載され、図5には、「K」値が0.01、揮発度A=1.0,B=1.1,C=4.0,D=0.1の場合、一定の転化率(%)を達成するのに「反応塔」の方は「バッチ反応器」よりも加熱量を大きく減少できることが示されている。
「5.AとBの異なる比揮発度」の項には「図6は、AとBの比揮発度が実質的に異なる(1:3)、・・・反応塔の利点はいまや事実上失われることが見られうる。しかし、Bの比揮発度を増す事は、同時にBとCの比揮発度の比を変える事を銘記しなければならない。・・・BとCとを分離する問題が支配的になって・・・」(255頁右欄〜左欄)とあり、図6には、各成分の比揮発度がA=1.0,B=3.0,C=4.0,D=0.1の例が示されている。「緒言」には「もし反応系が反応塔に理想的に適するならば、・・・バッチ式の実験室的実験は・・・厳しい熱的条件に・・・曝すことになるであろう。」(256頁)とある。
・甲第7号証
甲第7号証(抄訳文2)には、「ジメチルカーボネート:有機化学品製造の為の新しい構成材料」と題する論文であり次のような記載がある。
「カルボニル化プロセス」の項には、
(イ)「高級カーボネートのうち、芳香族カーボネートは特有の位置にある;特にジフェニルカーボネート(DPC)は、芳香族ポリカーボネート、・・・の生産のために工業的に用いられる。現在のDPC製法は、原料としてホスゲンに基づく。」、
(ロ)「一方、AA.はDMCとフェノールから出発する合成プロセスを開発した。・・・(略)・・・[「反応図4-DMC/フェノール反応」は(ロ)’に示す。]・・・初めに、適当なエステル交換反応触媒を見つけることが必要であった。そして、いくつかの触媒系(表3)のスクリーニングが行われ、チタン誘導体を用いて有望な結果が見い出された。実施条件についてのより詳細な研究は、アニソールの目立つ形成なしで、中間体フェニルメチルカーボネート(PMC)及び幾分かのDPCさえを得るようにAA.を導いた。そして、種々のチタン塩(TiCl4、アルコキシドなど)から出発して、触媒添加の後で反応媒体中でチタンテトラフェノレートが迅速に形成されることが見出された。従って、この物質種が、初期の実験の後では、反応媒体中における二次的生産物の存在を避ける為に、常に用いられた。過剰のDMC及び未反応のフェノールの除去後に、PMCのDMC及びDPCへの不均化反応を、同じ触媒を用いて比較的高い速度かつ高収率で実施することができた。これは、DPC合成プロセスにおける第2段階を成す。一緒に生成したDMCは、第1段階にリサイクルされうる。この反応シークエンス(図3)に基づく製造プロセスが現在開発中である。」、
(ロ)’「反応図4」には、
フェノール+DMC-->アニソール+メタノール+CO2、
フェノール+DMC-->PMC+メタノール、
PMC-->DPC+DMC
の反応が示されている。
(ハ)「表3」は、「DMCとフェノールからフェニルメチルカーボネートの合成」と題するもので、使用触媒「TiCl4」の欄には、「フェノール転化率%」、「PMC選択率%」、「アニソール選択率%」がそれぞれ「24」、「>99」、「<1」であることが、また使用触媒「Ti(OPh)4」ではそれらがそれぞれ「21」、「>99」、「<1」であることが記載されており、表の外には「条件:DMC/フェノール=5モル/モル、触媒/フェノール=0.05モル/モル、時間=5〜8時間、圧力=1atm、温度=98〜100℃」の記載がある。、
(ニ)「DPC製造プロセス」と題する「図3」には、DMCとフェノールが「PMC合成反応器」に導入され次いで「DPC合成反応器」をへてDPCが合成されること、DMCがリサイクルされること、R1に続くS1工程にはa,b工程が付加され、S2工程にはc、d工程が付加されることが示され、説明として「R1 PMC合成反応器;R2 DPC合成反応器; PMC精製;S2 DPC精製;a フェノールリサイクル;b DMCリサイクル;c PMCリサイクル:d 触媒リサイクル」の記載(以上、9頁左欄下から12行〜10頁左欄図3)がある。なお、9頁左欄下から7行等に記載の「AA.」は著者の意味と解される(第1回口頭審理調書、請求人5参照)。
・甲第8号証
甲第8号証には、エステル交換反応により芳香族炭酸エステルを製造する方法が記載され、「アルコールを塔頂で分離除去しながら、エステル交換反応混合物を比較的長いカラム中で必要とされる反応温度に加熱する。」(4頁右下欄)とある。
・甲第9号証
甲第9号証は、芳香族炭酸エステルの製法に関するもので、カラムの溜め部で加熱して反応を実施することが記載(実施例参照)されている。
・甲第10号証
甲第10号証は、反応蒸留塔を用いる炭酸エステルの製法に関するもので、バッチ式で反応を実施することが記載されている。
・甲第11号証
甲第11号証は、脂肪酸低級アルキルエステルの連続エステル交換に関するものであるが、多段の反応塔(即ち、多段蒸留塔)で反応させることが記載されている。
・甲第12号証
甲第12号証には、高収率、高選択率で芳香族炭酸塩を製造(蒸留塔を備える反応塔使用)する方法が記載されている。
・甲第13号証
甲第13号証(抄訳)には、DMCとフェノールからDPCを製造するプロセス、レイアウトが記載されている。表紙左下に1985年12月の表示。ラベンナ自治体のスタンプ印:1996年8月5日。
・甲第14号証
甲第14証(抄訳)は、ラベンナ市が1986年12月16日に出した建設許可の写しであり、「ファイル1986年1月3日のPG464。建設許可No.1902/86。1986年12月16日発行。」とある。
・甲第15号証
甲第15号証(抄訳)はイタリア国の公報の写し(1967年8月6日の法律第765号)であり、第10条には「建設許可の発行は、自治体の公示板に掲示し、・・・公衆に知らさなければならない。・・・何人も、建設許可及び当該プロジェクトの文書を閲覧することができ・・・」とある。
・甲第16号証(ラベンナ市、担当部署のグルミネリ女史の陳述)
「建設許可No.1902/86 P.G.464/86の公示」に関する記載と共に「・・・1990年9月2日までに、即ち1990年8月7日の法241が発効した日までに、ファイルを閲覧するまたはその写しを得る要求はなかったと見える。」と記載されている。
・甲第17号証(グルミネリ女史の回答)
「法241/90が発効する前に、我々のオフィスでは良好な行動規則が効力を持っていた。それによれば、a)建設許可の要求に関する書類へのアクセスは、全ての公衆に無差別には許されてはいなくて・・・あるいは法765/67の第10条に従う一般都市開発スキームまたは詳細実施計画に反する事を示す事が出来る人に予定されていた。b)書類を見る事を許される人は、書類を正確に理解できるために事案における或る能力を提示しなければならず・・・技術的エキスパート、・・・。」と記載されている。
・甲第18号証(グルミネリ女史の回答)
「良好な行動規則」を説明するもので「文言”良好な行動規則”は・・・”書かれた”規則を言うのではなく、法1150/42の第31条(法No 765/67第10条により置き換えられた)・・・から導かれる成文化されていない確立した慣行を言う。それによれば、(利害関係ある)誰でも、許可された建設ライセンス/許可およびプロジェクトの関連する公的書類(技術レポートを含めて)・・・市役所で調べる権利を有する。・・・」と記載されている。
・甲第19号証(ストリンガ氏の応答)
「書類へのアクセスに関する情報の要求」という主題で、「・・・法1150/42の第31条(法No 765/1967第10条により修正された)によれば、・・・誰でも、許可された建設ライセンス/許可およびプロジェクトの関連する公的書類・・・を市役所で調べる権利を有する。」、「本件の場合には、公衆の閲覧のために利用できる建設の書類は・・・意見を含んでいなければならなかった。事実そのような書類を見た後でのみ、公衆は、プロジェクトが公共安全および市計画規則などに合致するかの完全な評価・・・・・インパクトの完全な評価を出すことができた。」と記載されている。
・甲第20号証(シシリノ氏の回答)
1990年の新法以前に、建設許可に関する書類閲覧は1967年8月6日の法No.765により決められていたか?、法No.765第10条のもとでウダイン市において第3者がアクセスできる書類は何か?、という質問に対し、「建設許可の書類の閲覧が法No.765により規定されていた事を確認する。もし第三者がアクセクを望めば・・・可能であった(1990年の前および今でも)。」、化学プロセスを記載する書面に第3者がアクセスできるか?、という質問に対して「一般的法律慣行に従い、計画および建物の建設に関係する書類のみが、要求者にとって利用できた。・・・」と記載されている。
・甲第21号証(リボルツィ教授の鑑定)
「1986年12月末から特に1989年までにおいて、1967年8月6日の法律第765第10条の観点からエニケムシンテシ社の化学プラントの建設許可、計画及び図面・・・をラベンナ役所において誰でも閲覧することができたか否か、・・・私は、答は肯定的であると確信する。」と記載されている。
・甲第22号証(ストリンガ氏の陳述)
「建設許可PG464/86が許可された時、利害関係ある者は誰でも、関連する技術書類の複写ならびに許可書類の複写を、これらの閲覧に加えて、得る権利を有し、許された。」と記載されている。
・甲第23号証
エニケム社が開発した「ジフェニルカーボネート プロセス」の説明書と図面で、フェノールとDMCから2工程の反応(蒸留塔内)でDPCを合成することがが記載されたもの。
・甲第24号証
会議録(DMC法DPC打合せ)であり「1.ENI技術の評価」の項に「10月14日受領ENI情報に基づくコスト試算」とある。
・甲第25号証(契約書)
第1条(秘密情報)1.1に「a)当該情報が後出第7条に定義する日付(以下、発行日という。)において公衆に入手可能であったこと。
」、「b)当該情報が・・・直接、間接に開示者から取得されたものではなかったこと。」とある。
・甲第28号証
ジメチルカーボネートとフェノールのエステル交換反応に基づくジフェニルカーボネート(DPC)の製造方法がラヴェンナ工場で使用されていること(年産4000トン)が記載されている。
・甲第29号証
エニケム社のラヴェンナのDPCプラントはDMCとフェノールのエステル交換反応に基づいており、年産4000トンの能力を有すことが記載されている。
・甲第30号証
ジフェニルカーボネートがジメチルカーボネートとフェノールのエステル交換反応によって製造されていることが記載されている。
・甲第32号証
「化学反応を伴う蒸留」と題すバブコックの論文であり、343頁「表89(クラスI、クラスIIのまとめ)」には、「蒸留器兼反応器における化学又は物理特性」が「クラスII反応」である場合、「化学平衡が生成物生成に有利-好都合」と記載されている。
・甲第33号証
「(ロ)刊行物の意味」の項には「単なる公開原本を刊行物とするのではなく、遅滞なく複写しうるというシステム全体をもって刊行物と考えることは、単なる刊行物の注文生産と同じであり・・・」(196頁)と記載されている。
・甲第34号証
表題「特許法29条1項3号にいう刊行物の意義」。「公開された原本から遅滞なく複写物を作成・交付する態勢が整っている場合は、・・・情報伝達機能を果たす目的を持つという点では、同じだと考えてよい。」(201頁)と記載されている。
・甲第35号証
「(ロ)新規性」の項には「原本それ自体も、それが公開され、複写態勢が整備された段階で、それを頒布された刊行物と解する方がむしろ妥当であろう。」(75頁)と記載されている。
・甲第36号証
「外国において頒布された刊行物」と題し、昭和61年(行ツ)第18号審決取消請求事件の内容が紹介されている。
・甲第37号証
「プロジェクト書類の複写を得る住民の権利は、書類を提供する市役所の義務に伴うものであり、」と記載(訳文4頁下から2〜1行)されている。
・甲第38号証
「A)誰が書類を閲覧できたか」の項に「書類を閲覧することの合法性は、「誰でも」という表現中に確立されている。」、「B)これらの人は複写を得ることができたか」の項に「複写の権利は、・・・(大統領令)・・・決められている。」と記載されている。
・甲第39号証
誰でも、建設許可及び関連する書類を見かつ複写することが出来、それは化学プロセスを記述する記載およびダイヤグラムにも適用されることが記載されている。
・甲第40号証
ラベンナ市の証明書(1998年10月14日付け)であり、建設許可No.1902/86に添付されたグラフは7つ、その内の1つは図番「02-GD-2148-X-24020nC」であると記載されている。
・甲第41号証
「この書類は・・・最近に異議申立人の知るところとなった。その理由は・・・。」と記載し、欧州特許庁の異議手続において後から提出された事情を説明している。
・甲第42号証
DMCからPMCを製造し、更にPMCからDPC製造すること(21頁)、PMC製造は蒸留塔内で行われること(23頁)が記載されている。1頁の受付スタンプの日付けは平成3年10月3日。
・甲第43〜46号証(陳述書)
東京会議(1988.10.6)が秘密保持義務を前提としていなかった会議であったこと、エニケム社のDMC,DPCの技術概要が説明されたこと等が記載されている。
・甲第47号証(契約書)
第1条(秘密情報)1.1には「本契約の目的のため、契約当事者は、文書あるいは他の有形物によって、・・・本件技術情報に関するいかなる情報、データ・・・も秘密にされるべきもの・・・であるとみなす。ただし、・・・を除く。i)本契約署名の日において公然知られていたこと。・・・iii)当該情報が本契約署名の日においてGEの保有するものであったこと。」と記載されている。
・甲第48号証(契約書)
第1条(秘密情報)1.1には「本契約の目的のため・・・秘密にされるべきもの・・・であるとみなす。ただし、・・・を除く。・・・iii)当該情報が本契約署名の日においてGEPJの保有するものであったこと。」と記載されている。
・甲第49号証
甲第49号証(抄訳)には「本発明は、「反応蒸留」と呼ばれうるプロセスによる酢酸メチルの製造に関する。」(1頁2〜4行)、「本発明のプロセスにおいて用いられる最小滞留時間は、・・・好ましくは、滞留時間は、約2.4時間である。」(4頁22〜31行)、「・・・酢酸メチル/メタノール共沸物が形成する。」(14頁35行〜15頁1行)と記載されている。
・甲第51号証
触媒存在下、フェニルメチルカーボネートを不均化反応させてジフェニルカーボネートを製造する反応が記載されている。
・甲第52、53号証
甲第52号証には「1989-11-15 三井石化とのミーティング」、甲第53証は「90-2-9 三井石化 藤井氏打合せ(DMCの件)」と題する書面(社内用メモ)で、「三石」と「旭」の話し合いの内容がそれぞれ記録されている。後者で旭の質問に「エニケムのDPCはエステル交換法でTi触媒を使っていますね。」がある。
・甲第54号証(議事録)
出席者がエニケム・シンセシス、ジェネラルエレクトリック、三井石油化学であったこと、「6.山形氏はフィージビリティースタディーの結果を提示した。・・・のROI」、「7.a.更なるコスト分析により・・・ことが判明した・・・努力をすると述べた。b.・・・合意した。」、「4.カサール博士は本プロセス及び・・・の概要を説明した。」が議題となったことが記載されている。議事録添付の「議題」(10月6日)についての別紙には「ホスゲンプロセスを代替する上でのDMC法DPCプロセスの現在・・・についての考察」とある。
・甲第55号証
ジメチルカーボネートとフェノールからエステル交換法によりフェニルメチルカーボネートを生成する反応の研究。反応時間とPMC収率%の関係がグラフに示されている。
なお、その他の請求人の提出証拠については摘示を省略する。

・乙第1号証(甲第5号証の英訳)
乙第1号証(部分訳)には、「反応蒸留は、生成物が生じるとき生成物の蒸留の結果として平衡のずれが反応物質のほとんど完全な転化を許す平衡化学反応にとってのみ真に有利であるように思われる。」(12頁13〜16行)、「実際、Babcockの分析は、不完全であり、単純化された仮定に基づいている。それゆえ、・・・彼の分類は技術の潜在的な適用の利点を予測することにおいて全く誤りのないガイドとして使うことはできない。」(14頁3〜6行)と記載されている。
・乙第2号証(甲第3号証の英訳)
「-棒状の触媒を入れて縫い合わされたガラスファイバー布・・・このようなパッケージ法を採用することによって触媒粒子と蒸留器の壁・・・接触を完全に避けることができる。」(「触媒の利用」の項、37頁左欄図下)、「例えば、MTBE生成の場合、・・・通常の圧力・温度下で、正確な量--94%のオーダー--の平衡点生成物が得られる。」(4頁7〜10行)と記載されている。
・乙第3号証
判決文の中で、閲覧用あるいは要求に応じて交付する複写用の原本が「頒布された刊行物」にあたらないとの判断が示されている。
・乙第5号証(契約書)
第9条 第三者の特許」の9.1に「特許を侵害しているとの主張を受けた場合」の規定がある。
・乙第10号証
「承認設計図を構成する、市技術Rip.の印鑑を捺印した7枚の図面を、・・・・当認可証に添付して返還する。」(甲第14号証の1の4枚目下から2,3番目のパラグラフの和訳)と記載されている。
・乙第12号証
「プロセスの必須条件 触媒蒸留は、・・・共沸組成物や近い沸点成分の存在は困難を生じさせる。」(28頁下12〜5行)と記載されている。
・乙第13号証
「・・・メタノールとジメチルカーボネートの共沸混合物が結果として生じる。・・・蒸留し、分離することは非常に困難で高価な装置を要する。」(2欄49〜60行)と記載されている。
・乙第14号証
「大きな平衡定数をもった反応の方が、蒸留塔内で反応を行うことがより有利である。」(18頁下8〜末行)と記載されている。
・乙第15号証(GE社が出願)
芳香族カーボネートエステルの製造で、共沸が好ましくない旨記載されている。
・乙第16号証
「メチルアセチレンとプロパジエンが選択的に水素化で分解される。反応器抽出物は回収プロピレンと混合され・・・不均化反応の反応器・・・に供給される。」(154頁第2パラグラフ)と記載されている。図8.1は「オレフィン不均化反応」を示す。
・乙第17号証
図4.1に「トルエン不均化反応」が記載されている。
・乙第18号証
乙第18号証は「蒸留カラム内での液混合」と題する論文であり、該乙号証(抄訳)には、「(要約)分離手段における液の滞留時間と混合を評価するための装置・・・を提供する。この技術は水溶性および炭化水素化合物の混合物について・・・有用である。」(98頁)、「表記法・・・Δθ-2つの統計的平均値の差、すなわち滞留時間、秒」(103頁中欄)が記載されている。「表2.混合槽の数の計算」において「Δθ/トレイ」の欄には、「トレイ3 1.72」、「トレイ4 1.65」(102頁左下)とある。
・乙第19号証
乙第19号証は「反応蒸留法を用いた高純度酢酸メチル」と題する論文であり、「r=k0exp(-E/RT)[CMeoACCH2O-CHOACCMeoH]」、「E-活性化エネルギー(9198cal/mol)」と記載されている。
・乙第20号証
「(タイトル)フッ酸の存在下でのプロピレンによるベンゼンのアルキル化」、「(抄録)・・・モノイソプロピル化の活性化エネルギーは15.6kcal/molであった。」と記載されている。
・乙第21号証
「(タイトル)C4留分とメタノールからのMTBEの合成」、「(抄録)・・・本反応の明白な活性化エネルギーは71.78KJ/molで・・・。」と記載されている。
・乙第22号証
「(タイトル)酸触媒によるタ-シャリアミルメチルエーテル(TAME)の合成:・・・熱力学と平衡」、「(抄録)・・・正反応の活性化エネルギー(E1=81.09KJ/mol)、・・・。」と記載されている。
・乙第23号証(番号繰り上げ後)
76頁には「1968 C3H6O3 メチルカーボネート 90.35(「B-成分、B.P.℃」の欄)、 62.7(「共沸データB.P.℃」の欄)」等と記載されている。
・乙第24号証(番号繰り上げ後)
「対PhOH基準」でのDPC生成量(g/kg・hr)が「本件特許:実施例2」では260,「本件特許:比較例1」では2.1、「甲8号証:実施例」では6.4であったこと、「対DMC基準」でのDPC生成量はそれぞれ、120,0.92,7.4であったこと、等が記載されている。
・乙第25号証(番号繰り上げ後)
「5.結論」には、「特公平7-68182号公報の実施例2および比較例1に記載された方法でDPCを製造した。その際得られたアニソールの選択率を下記表1に記す。」、又「表1」には「アニソールの選択率」が「実施例2の追試」では「1.9%」、「比較例1の追試」では「8%」と記載されている。
・乙第26号証(番号繰り上げ後)
表題は「技術注釈」であり、「案件:Enichem Sintesi第19区画 ジフェニルカーボネート製造設備」とあり、それに続け「土木工事記述」がある。乙第9号証の1及び5の図面を引用している。
・乙第27号証の1〜7(番号繰り上げ後)
宣誓陳述に関して、エニケム社とラベンナ市とが交信した内容が記載されている。
・乙第28号証(番号繰り上げ後)
三井石油化学は、1987年頃、DMC(誘導品)の事業化についてエニケム社と技術提携関係にあり、フィージビリティスタディ(FS)を進めていたこと(2頁4.)等が述べられている。
・乙第29号証(三井石油化学作成の送品案内書)
品名:ジフェニルカーボネート。重量:1.3kg。希望納期:平成13年6月29日。作成日:平成13年6月28日。
・乙第30号証
「水島技研 福岡」から「富田」氏(購買部:石化・合繊原料担当)に宛てた「ミテックDPC評価の件」と題す書面。「今回のサンプルは、エステル交換法の製品でしょうか?」とある。
・乙第31号証の1
「反応塔を利用するための3つの必須前提条件は以下の通り:1)反応は、各段において平衡状態に到達しているか、・・・非常に速く進行するものでなければならない。滞留時間は、充填塔・・・では、約1分でありバフルキャップトレイでは、5〜10分である。」と記載(和訳、乙第31号証の2)されている。
・乙第32〜36号証(三井石油化学、ジェムピーシーが特許出願人。)
DMCとフェノールとからMPC、DPCを合成する反応は反応速度が遅いと記載されている。
・乙第37号証
「CDTECH MTBEプロセス」と題す論文で、78頁左欄には、MTBEの合成反応について「運転温度50〜70℃」と記載されている。82頁の「MTBE平衡転化率とモル比との相関」と題する図には、「メタノール/イソブチレン」のモル比と「イソブチレン転化率%」との関係が示されている。
・乙第38号証
「結論」には、「MPC合成反応と酢酸メチル合成反応の反応速度(反応初期速度)および平衡定数を、甲55号証および乙39,40,44号証のデータを元にシミュレーションを行った。その結果を図1に示す。図1から明らかなように、これら二つの反応に圧倒的な違いがあることは明白である。」と記載されている。
・乙第39号証の1(乙第38号証で引用)
「表II」(1146頁)には「温度14.3℃、酢酸=0.500規定、塩酸=0.00500規定」、「表III」(1147頁)には『「45.0℃」の欄-平均k:0.1682』とある(抄訳、乙第39号証の2)。
・乙第40号証の1(乙第38号証で引用)
「酢酸と色々な種類のアルコール、及びイソブタノールと色々な酸のエステル化反応の平衡定数」と表示した「表III」には、「酢酸+アルコール」の欄に「メタノール」と、「K」の欄に「5.2」と記載(抄訳、乙第40号証の2)されている。
・乙第41号証の1
実施例1〜3(9欄)には、MTBE製造の説明があり、「触媒床の中間」の温度として、138°F、160°Fが挙げられている(抄訳、乙第41号証の2)。
・乙第42号証の1
「ウダイン ・・・メレト ディ トンバ ディナミテ エスピエー爆発物と化学生産物の製造・・・」と記載(乙第42号証の2)されている。
・乙第43号証(実験報告書)
「5.結論」には、「特公平7-68182号公報の実施例3に記載された方法でDPCを製造した。その際測定した、第1連続多段蒸留塔の塔頂温度および塔底温度を下記表1に記す。」とあり、表1には、第1連続多段蒸留塔の「塔頂」と「塔底」の温度が「191℃」、「204℃」であったことが記載されている。
・乙第44号証の1
1568頁に「熱力学的に、フェノールとDMCのエステル交換反応は好ましくない(453KでKeqは約3×10-4)」と記載(抄訳、乙第44号証の2)されている。
なお、上記以外の乙号証については摘示を省略する。

IV 当審の判断
本件請求人の主張する各理由について検討する。
1 無効理由1ついて
無効理由1について、請求人が主張する要点は「本件請求項1〜7の発明は、主には甲第1〜7号証及び甲第8または10号証(要すれば更に甲第12,51号証)に記載されている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた」というものである(第1回口頭審理陳述要領書2頁参照)。
(1)甲第7号証記載の発明
請求人が提出した甲第7号証(抄訳文2)の上記摘示(ロ)、(ハ)によれば、ジメチルカーボネート(DMC)とフェノールをチタン誘導体触媒下で反応させ、アニソ-ルの目立つ形成なしにフェニルメチルカーボネート(PMC)とメタノールを生成させたこと(第1段階の反応)、得られたPMCを同じ触媒下で不均化反応させ高収率でジフェニルカーボネート(DPC)とDMCを得(第2段階の反応)、生成したDMCは第1段階にリサイクルすることが記載されている。
そして、第1段階、第2段階の使用触媒がそれぞれ「アルキルアリールカーボネート化触媒」、「ジアリールカーボネート化触媒」であることは明白であり、各段階が反応装置内で行われること、第2段階の後生成したDPCを得ることは自明であるから、甲第7号証には、「DMCとフェノールからPMCを製造するに際して、(A)DMCとフェノールを第1の反応装置内で「アルキルアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、PMCを生成させる工程、
(B)PMCを含む反応生成物を第2の反応装置内で「ジアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、DPCとDMCを生成させ、一方DMCは第1段階に循環させる工程、
を含むDPCの製造法」が開示されているものと認められる。

(2)証拠との対比
(2-1)本件第1発明について
請求人は、理由1の主張において、本件第1発明を甲第10号証及び甲第7号証と対比している。
当審での甲号証との対比においては、ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させジアリールカーボネートを製造する方法が2段階からなる点で本件第1発明と共通する甲第7号証とを比較することとした。

(a)対比
本件第1発明(前者)と甲第7号証記載の発明(後者)とを対比すると、両者はジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物からジアリールカーボネートを製造するに際して、
(A)ジアルキルカーボネートと芳香族ヒドロキシ化合物を第1の反応装置内で「アルキルアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、アルキルアリールカーボネートを生成させる工程
(B)アルキルアリールカーボネートを含む反応生成物を第2の反応装置内で「ジアリールカーボネート化触媒」の存在下に反応させ、ジアリールカーボネートとジアルキルカーボネートを生成させ、ジアリールカーボネートを回収し、一方ジアルキルカーボネートは第1段階に循環させる工程
を含むジアリールカーボネートの製造法である点で共通するが、
前者では、第1工程において原料化合物を第1連続多段蒸留塔内に連続的に供給して反応させ、副生する脂肪族アルコールを含む低沸点成分を蒸留によって連続的に抜き出し、一方、生成したアルキルアリールカーボネート類を含む高沸点成分を塔下部より連続的に抜き出し、
そして第2工程では塔下部の抜き出し液を第2連続多段蒸留塔に連続的に供給して反応させ、生成するジアルキルカーボネートを蒸留によって連続的に抜き出し、第1連続多段蒸留塔に供給して循環させ、一方ジアリールカーボネートを含む高沸点成分を塔下部より連続的に抜き出しているのに対し、後者では反応と反応生成物の分離、取り出しをこのような方法で行うことについて記載されていない点(相違点1)、前者が第1連続多段蒸留塔の塔下部の抜き出し液を第2連続多段蒸留塔内に供給するのに対し、後者では第1段階の反応後に反応液に残存するジアルキルカーボネート(DMC)と芳香族ヒドロキシ化合物(フェノール)を除いて第2段階に供給している点(相違点2)、
でそれぞれ相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断
(i)相違点(1)について
甲第7号証は、エステル交換反応によるDPCの製造を記載したものであるが、その説明文中に「特にジフェニルカーボネート(DPC)は、芳香族ポリカーボネート、・・・の生産のために工業的に用いられる。現在のDPC製法は、原料としてホスゲンに基づく。一方、AA.はDMCとフェノールから出発する合成プロセスを開発した。」(9頁左欄下から12〜5行)(AA.は著者の意味。)という記載があり、DPCの製造がホスゲンを用いない製造の開発に向けられていることを明らかにしている。 従来、DPCは工業的にはホスゲン法で製造されていたこと、甲第7号証の刊行物の頒布当時、工業的に有用なDPCを有毒のホスゲンを用いないで製造することが望まれていたことはいずれも周知(例えば、特開昭60-169445号公報、特開昭57-183745号公報等)である。
甲第7号証は、エステル交換反応によってDMCとフェノールからフェニルメチルカーボネートを製造させた際の結果(甲第7号証の上記摘示(ハ)参照)について、「有望な結果が見い出された」(9頁右欄)、PMCからDPCを生成させる反応の結果ついては、「比較的高い速度かつ高収率で実施することができた」(10頁左欄)との評価をし、「DPC製造プロセス」と題する図3において「反応シークエンス」を示し、更に「この反応シークエンス(図3)に基づく製造プロセスが現在開発中である。」(10頁左欄)と記載している。
「図3」の「反応シークエンス」は、「PMC合成反応器」(R1)と「DPC合成反応器」(R2)の2段階の反応からなり、生成したDMCはリサイクルされるものであるが、反応液中に存在する未反応物、生成物等の取り出しとリサイクル及び生成物の流れが示されており、製造が全体として合理的に行い得る設計であることは明らかである。
このように甲第7号証が、DPC製造の実験結果の発表にとどまらず、その合理的といえる製造プロセスを「図3」(10頁)に示し、「この反応シークエンス(図3)に基づく製造プロセスが現在開発中である。」とまで記載していることは、該製造プロセスによるDPCの製造を可能にすることを積極的に公表するものであり、ホスゲンを用いない図3に記載のDPC製造プロセスであっても効率よくプロセスが構成し得ることを期待させるものである。更に図3は製造プロセスの概略図であるが、主要な構成と共にその意味も明らかにしている上、当時この分野ではホスゲン法から「エステル交換反応」による合成への切り換えは、危険があるホスゲンの使用を避けられるという認識もあったのであるから、該製造プロセスに着目しそこに示された2段階の反応からなり第1段階ではメタノール除去手段を有するDPCの製造方法を行うことは何等困難を要するものではない。
甲第28号証(甲第7号証の頒布日より後の1989年11月に頒布された。)には、エステル交換反応によりDMCとフェノールとからDPCを工業的に製造(年産4000トン)することが記載され、甲第29,30号証(頒布日は甲第7号証より後。)にも同様な記載があり、これら甲号証からは本件優先日(1990年2月21日)前にエステル交換反応によるDPCの工業的製造が行われていたことが認められる。甲第28〜30号証によるDPCが工業的に製造されているということの公表は、甲第7号証の記載(9〜10頁)に見られるようにDMCとフェノールからDPCを製造する反応に技術面の向上があることから、平衡定数が非常に小さいとしても、それはエステル交換反応を実用化していく上で重大な障害にはならないであろうと期待を抱かせるものであり、同時に甲第7号証の図3記載のDPC製造方法の実施に対し強い関心をもたせるものである。
次に、この図3に記載のDPC製造方法を実施しようとした場合、「PMC合成反応器」と「DPC合成反応器」を特定し、図3中の矢印で示した工程の内容を「連続的」か否かを含めて特定すること、即ち「PMC合成反応器」及び「DPC合成反応器」をそれぞれ「第1連続多段蒸留塔」、「第2連続多段蒸留塔」とし、まず原料化合物を連続的に「第1連続多段蒸留塔」に供給して反応させ、生成する脂肪族アルコールを蒸留によって連続的に抜き出し、一方、生成したアルキルアリールカーボネート類を含む高沸点成分を塔下部より連続的に抜き出し、該抜き出し液を「第2連続多段蒸留塔」に連続的に供給して反応させ、副生するジアルキルカーボネートを蒸留によって連続的に抜き出し、「第1連続多段蒸留塔」に供給して循環させ、一方ジアリールカーボネートを含む高沸点成分を塔下部より連続的に抜き出すこと(以下「特定構成A」という。)が、当業者にとって容易になし得ることであるか否かについて以下検討する。
甲第7号証の図3に記載のDPC製造プロセスは「PMC合成反応器」を特定していないが、該プロセスにおいて低沸点生成物を除去し平衡をズラすのに蒸留手段が適することは従来からよく知られていることである。例えば、甲第3号証には「蒸留塔に入れられた・・・完全な転化を可能にする。」(2頁右欄5段落)とあり、甲第1号証には「エステル化反応は液相平衡反応の代表的なものであり、反応蒸留に適し・・・共沸物がこの塔の留出物として得られる」(212頁、9〜18行)とある。又甲第6号証には「工業的規模で平衡反応を実施するにおいては、平衡定数の値に依存して、化学平衡をズラすために反応と蒸留プロセスを組み合わせることが多かれ少なかれ必須である。」(252頁左欄2〜5行)とあり、蒸留による反応生成物の除去が工業的規模の実施において重要であることが示されている。
そうであるから甲第7号証記載の「PMC合成反応器」を特定する場合に、平衡反応で従来から用いられる蒸留手段を備えた装置の中から有利なもの、有利であることが期待されるものが採用されるのはごく当然のことである。
甲第6号証には、工業的規模での平衡反応を実施する方法として、「a)反応塔(連続)」、「b)塔付きのバッチ反応器(不連続)」、「c)CSTR又は反応器カスケード(連続)」の3つが挙げられているが(252頁)、使用装置に着目すると基本的な装置単位は2種、即ち「a)反応塔」と「b)塔付きのバッチ反応器」である。そして、図1の「反応塔(連続)」は「連続多段蒸留塔」を意味していると解される。
平衡定数が非常に小さいとしても平衡をズラせる条件下であれば、「反応塔(連続)」においても反応条件に応じて同様に平衡反応の進行がズラせると化学常識からは考えられので、PMC合成反応器としてはa)、b)の装置の使用が可能であると予想できる。なお、反応塔を使用する「反応蒸留法」においてルシャトリエの法則に従って平衡反応の進行がズラせることはよく知られていることである(甲第3、5、6号証等参照)。
甲第6号証には、「反応塔」(連続多段蒸留塔)の使用については3つの前提条件がある旨記載(253頁左欄1〜16行)されているので、該記載が「反応塔」適用の着想を妨げるものであるか否かについてまず検討する。
「1.反応は、反応塔の棚上の合計滞留時間が十分であるべく充分に速くなければならない。」は、表現が必ずしも明確でなく、「合計滞留時間」がどの程度になれば「反応塔」使用の利点がなくなくなるのかを明らかにしていない。反応速度は滞留時間内に平衡が十分生成物側にズラせ得る程度に速い方がよいことは当然のことであり、反応速度が遅いと判断されるとき反応温度の上昇等で反応速度を高められることは常識である。又反応塔は反応液の滞留時間を長くも短くもできるものであり、それが短くなければならないというものではない(本件特許明細書には「滞留時間」について「通常0.001〜50時間」とあり、本件発明での出願人の認識も同様である。)。反応は異なるが、甲第49号証に記載の「反応蒸留」では「滞留時間」は好ましくは「約2.4時間」とある(4頁12行〜5頁3行)。それだけでなく、「反応塔」の実施において反応速度又は転化率は必ず一律に一定以上でないと工業的な製造プロセスとして成功したことにならないというものでもない。工業化される製造プロセスは全体として評価され、評価の仕方も反応によって変わるのが普通である。したがって、「1.」の記載が、「反応塔」適用を思い止まらせるものであるとすることはできない。
残る2つの条件、即ち「2.活性化エネルギーは低くなければならない。」、「3.反応は強く発熱であっても、強く吸熱であってもならない。」(253頁左欄)は、「活性化エネルギー」、「発熱」、「吸熱」がどの程度になれば「反応塔」適用の利点がなくなる、又は使用できなるのかを明らかにしていない。これらの適否を判断する基準が明確でないのであるから、「2.」、「3.」の条件の記載によっても甲第7号証に記載の反応への「反応塔(連続)」の適用が妨げられるとすることはできない。被請求人は、「活性化エネルギー」については酢酸のメチルエステル化反応の例等を判定基準にしているが(値は答弁書第2回に添付の「別表4」。被請求人は乙第19〜22号証のデータ採用。)、他の反応との違いがどの程度までなら優位であるのかが明確でないのであるから、「別表4」の数値によって反応蒸留が適さないことが裏付けられるとすることはできない。
以下、甲第6号証の記載について更に検討する。甲第6号証は、「蒸留を上置した反応に対する反応器の選択」と題す論文であり、252頁の要約には「反応の平衡定数及び各成分の相対揮発度(沸点)は容易に決定可能な反応系の特性である。これらデータを用い、下図の典型的なケースを参照して、省エネルギーの見地から、反応蒸留器と、蒸留器を載せたバッチ反応器のいずれを選択すべきかを速やかに決定することが出来る。表1にその結果を示す。」(翻訳は被請求人提出の参考資料「全文和訳」による。)と記載され、甲第6号証の「表1」には、AとBを反応させCとDを生成させる反応において、A,B,C,Dの「相対的揮発度」をそれぞれ「1.0」、「1.1」、「4.0」、「0.1」としたときに、「K」値が10,1,0.01と小さくなる程「RC(反応塔)」(即ち、連続多段蒸留塔)の適用は好ましい結果をもたらすことが明確に示されている(252頁)。
これらの記載は、「相対的揮発度」が一定に決められているが、平衡定数が小さい方が反応蒸留器の適用の利点が大きいことを示している。
又甲第6号証(抄訳文2)の論文では、反応器の比較が、AとBを反応させCとDを生成させる反応(但しB,Cは平衡の両側においてより揮発性の成分。Cは最大の比揮発度を有する。)(以下「平衡反応a」という。)についてのものであることが記載され(253頁左欄18〜23行)、「二つの反応物AとBはほぼ同じ揮発度を示すと仮定され、他方、生成物Dは極めて低い揮発度を持つと仮定される。・・・従って、この特定の場合に、反応塔のエネルギーの利点は最大である。」(253頁左欄下から17〜9行)という記載がある。
更に「反応塔は、もし平衡定数が小さいと、特に有利であると考えられる。・・・このことを、以下で検討し、定量化する。」(253頁右欄9〜23行)、「図5において、平衡定数を変化させた。反応塔の適用の最適範囲は、K=0.01のときに達成される。95%の転化率で見ると、反応塔は、塔付きバッチ反応器が要する熱投入量の僅か約5%を要するのみである。」(255頁左欄4の項)と記載され、図5には、「K」値が0.01、揮発度A=1.0,B=1.1,C=4.0,D=0.1の場合、一定の転化率(%)を達成するのに「反応塔」の方は「バッチ反応器」よりも加熱量を大きく減少できることがで示されている。これらの記載は、「平衡反応a」においてA〜Dの揮発度がそれぞれ1.0,1.1,4.0,0.1の場合は、平衡定数が小さくなる程「反応塔」の方が「バッチ反応器」よりも転化に要する加熱量が大きく減じられること、即ち省エネルギー効果が大きいことを示している。
平衡定数が0.01より小さい反応例はないが、平衡定数が0.01より小さくても、転化が可能になる程度にエネルギーを供給すれば反応条件に応じて平衡を生成物側にズラせられる反応であるという点では平衡定数0.01と変わりがない。したがって、転化は平衡定数が小さくなる程起こりにくくなるのは当然であるが、平衡定数が0.01より小さい領域では直ちに省エネルギーの利点がないとすることはできない。
以上のことから、各成分の比揮発度関係がエネルギー消費に関係していることは明らかであるが、平衡定数が小さくなる程省エネルギーの利点が大きくなることが明確に示されているのであるから、前提とされる比揮発度関係の特徴と主な部分が共通しており、かつ平衡定数が小さい反応であることが知られていれば、そのような反応への「反応塔(連続)」、即ち「連続多段蒸留塔」の適用が示唆されていると言える。
平衡定数が小さい方が省エネルギーとなるという著者の見解は前提(「A、Bがほぼ同程度の比揮発度」は前提の1つ。)をおいた解析に基づくが、甲第6号証は「バッチ反応器」より「反応塔(連続)」の方が省エネルギーとなる効果をもたらすには、A+B<=>C+Dの平衡反応において「A、Bがほぼ同程度の比揮発度・・・」ということが常に欠かせない前提であるとまでは言っていない。
甲第6号証には、A、Bの比揮発度が同等でないため省エネルギー効果をもたらさない例として「図6」(各成分の比揮発度:A=1.0,B=3.0,C=4.0,D=0.1)を挙げるが、この例はB、C成分の比揮発度差が小さい。「図5」の例ではB,C成分の比揮発度は1.1、4.0である。
該甲号証の「5.AとBの異なる比揮発度」の項には、「図6は、AとBの比揮発度が実質的に異なる(1:3)、・・・反応塔の利点はいまや事実上失われることが見られうる。しかし、Bの比揮発度を増す事は、同時にBとCの比揮発度の比を変える事を銘記しなければならない。・・・BとCとを分離する問題が支配的になって・・・」(255頁右欄〜左欄)とあり、Bの比揮発度を増すことは、BとCの比揮発度の比を変えることであると指摘し、この点に注意を喚起している。著者は、ここではBとCの比揮発度差の方が重要になってくることに注意を向けさせようとしている。
A、Bの比揮発度がほぼ同等であることが、常に欠かせない前提であるということはこれらの記載をみても書かれているとすることはできない。「図6」は、A〜Dの比揮発度関係が特定された例であるから、A、Bの間に比揮発度の差があるが、B、Cの比揮発度差がこの例と違って大きいと言えるような平衡反応(例、本件発明の第1段階反応。)において、図6等の記載に基づいて「反応塔」(連続多段蒸留塔)適用の利点がないと直ちに言い切れるものではない。
更に、甲第6号証には「AとBの比揮発度の間の差」についての記載があり「差異のこの低下は、反応物を別々の棚に供給する事によって対処され得る。」(255頁右欄)とある。AとBに比揮発度に差があっても、反応物の供給位置を変えることで解決し得ることも示されているのであるから、「AとBがほぼ同程度の揮発度」でなかったとしても直ちに「反応蒸留」適用の着想が阻害されるというものではない。
そして、本件発明のDMCとフェノールからPMCとメタノールを生成させる反応は、平衡定数が10-4程度であり、C、Dに相当するメタノールとPMCの揮発度差が大きく、メタノールが最大の比揮発度(比揮発度は12年4月26日付け弁駁書24頁参照。該弁駁書は被請求人が示した値を引用。)であり、PMCの揮発度が特に低いものである。
結局、甲第6号証からは、「反応塔(連続)」で省エネルギーの利点がもたらされる場合に比揮発度関係の制約があることは認められるが、甲第6号証は上記したA+B<=>C+D(Cは最大の比揮発度)のような平衡反応において、平衡定数が小さくなるほど「反応塔(連続)」の方が「バッチ反応器」よりも利点があることを示しているのであるから、平衡定数が小さく、C、Dの揮発度差が大きく、Cが最大の比揮発度であり、Dの比揮発度が特に低い反応、例えば甲第7号証記載の第1工程のDMC+フェノール<=>PMC+メタノールのような反応への「連続多段蒸留塔」適用を示唆していると言える。
甲第5号証(抄訳文2)には、「P=生成物」と「R=反応物」を「揮発度(V)」と関連させて分類し、「表II」において「クラスI」〜「クラスIV」として示している(38頁)。「クラスII」は「一つのPのV<各RのV<一つのPのV」であるとし、「数学的シミュレーションによって、これら2つのクラスに属する反応のみが反応蒸留で利点を示すことをバブコックは示している。利点は、クラスIIの反応の場合に最大である。」(37頁右欄下から第1段落)と記載している。これらの記載からは、反応物の揮発度が生成物の揮発度の間にあるときに反応蒸留(これが「連続多段蒸留塔」を用いることは常識である。)の利点が最大になることを教示しているといえる。
甲第5号証には「反応物/生成物の揮発性の順序は多かれ少なかれ好都合であることができ、しかしそれが先験的な限定を示すと考える必要はない。」(38頁、結論の項)との記載があり、揮発性の順序が条件にあうなら実施に都合がよいとする一方、先験的限定であると考える必要がないことも述べている。これは著者の考察であるが1つの条件を限定的に捉える必要がないことを示していると解される。
そして、甲第7号証の第1工程の反応である「DMC+フェノール<=>PMC+メタノール」は、フェノール(A)、DMC(B)、メタノール(C)、PMC(D)の比揮発度関係がD<A<B<Cであるから「クラスII」である。
なお、甲第5号証における「現実に、適用の好ましいケースは何であるか?・・・反応物のほぼ完全な転化を可能にするところの平衡化学反応のためにのみ反応蒸留は真に有利であるようである。」(37頁右欄第4段落)は、適用が最適となる場合を述べているようであるが、それに制限されるとは記載されていないので、最適となる場合にだけ適用できる(最適の場合から外れたときは実施不能)という意味に限定しては解せない。又、反応蒸留を行わせる反応塔において一律に一定以上の転化率が達成されないと製造装置全体としては工業化の意義がないというものではない。「運転温度及び圧力の両立」等の制約条件も挙げられているが(37頁右欄第4段落)、これらも本件発明の反応への「反応蒸留」(連続多段蒸留塔)の適用の着想を妨げるものではない。
上記したように甲第5号証は、揮発度関係が「クラスII」である反応が反応蒸留に適することを示しており、DMC+フェノール<=>PMC+メタノール(甲第7号証記載の第1工程)は揮発度関係が「クラスII」となることは容易に分かることであるから、このような反応に連続多段蒸留塔の使用が適することが示唆されているといえる。
次に、甲第7号証記載の第2段階の反応(PMC+PMC<=>DPC+DMC)への「反応蒸留」の適用が容易になし得るか否かであるが、該第2段階の反応も平衡定数は小さいことは常識である。該反応では、PMCをA(B)、DMCをC、DPCをDとすると、成分の揮発度関係が、D<A=B<Cとなることは容易に分かるから、上記した「クラスII」に相当することは明らかである。
そうすると、甲第6号証には、平衡定数が小さい程「反応塔(連続)」の方が「バッチ反応器」より利点があることが示されており、甲第5号証には、揮発度関係が「クラスII」である反応が反応蒸留に適することが示されているのであるから、甲第7号証の第2段階の反応への「連続多段蒸留塔」の適用が示唆されているといえる。
しかも、本件第1発明は平衡定数が非常に小さいときに起こる問題、又は転化率が小さいときに起こる問題を解決する手段等を必須の構成要件とするものではない。
被請求人は、平成13年2月5日付け上申書(以下「上申書」という。)等において次の(a)〜(j)の主張をしているが下記の理由によりこれら主張も採用できない。

(a)甲第5,6号証には高生産速度でかつ高選択率を達成するために、蒸留塔付き反応器と反応蒸留でどちらが有利かを推測できる記載はない。(「上申書」4頁)
(b)本件第1発明の反応については、本件出願前当業者において反応速度が遅いという常識があった(乙第32〜36号証)。甲第6号証の反応蒸留適用のための条件に合わない。甲第55号証の実験の実験者も「反応速度が遅い」という認識であった(乙第35,36号証)。(「上申書」4〜5頁)
(c)甲第6号証では、滞留時間約40秒で100%の転化率が達成される高速の反応が考えられている。(「答弁書第2回」17頁、「上申書」5頁)
(d)乙第31号証(甲第6号証の内容を著者が追補、修正したもの)には、反応蒸留を用いるための必須前提条件が具体的に且つ明瞭に記載されている。(「上申書」6頁)
(e)MPC合成反応(甲第55号証参照)と酢酸メチル合成反応とは反応性に大きな違いがある(乙第38号証)。(「上申書」8頁)
(f)反応蒸留が適用できる反応の条件として、平衡定数は大きくなければならない(乙第2、12号証)。大きな平衡定数の方が有利である(乙第14号証)。(「答弁書第2回」、9頁、「上申書」10〜12頁)
(g)甲第5号証では、著者がバブコックの分類が役立たないと述べている。又バブコックの分類は理想状態を仮定してシミュレーションしたものであり、本件発明はこれから外れるので適用できない。(「答弁書第2回」11、13頁)
(h)クラスIIの反応(バブコックの分類)で反応蒸留を適用された例が知られておらず、バブコックの分類は役立たない(「答弁書第2回」添付の「別表2」)。(「答弁書第2回」11、14頁、「上申書」21頁)
(i)共沸組成物が生じる場合は反応蒸留を適用することは好ましくないと考えられていた(乙第12,13,15号証)。(「答弁書第2回」13頁、「上申書」15、21頁)
(j)甲第6号証には反応蒸留適用すればアニソールの生成が少なくなることを推測させる記載はない。(「答弁書第2回」22頁、「上申書」20頁)

(a)について
確かに、高選択率であり有利等とは明示されていない。しかし、塔の使用方法、反応条件を適宜選んで実施した場合に、「反応蒸留」は、選択率、生産速度の点で「蒸留塔付きバッチ反応器」よりも常に劣るとは技術常識からは考えられないことである。したがって、これらの点で反応蒸留が有利であると明記されていないことが直ちに着想の阻害になるというものではない。
なお、甲第5,6号証に反応蒸留適用の動機付けとなる記載があることは上記したとおりである。
(b)、(e)について
甲第6号証には、反応速度に関し前提として「1.反応は・・・十分に早くなければならない。」(253頁左欄2〜4行)とあるが、反応蒸留適用の利点がもたらされる反応速度がどのようなものか具体的に言及されていない。被請求人は、本件発明の反応は反応速度が遅いことが知られていたと主張し乙第32〜36号証(バッチ反応器等従来法による)を提出するが、バッチ反応器での反応とは反応形式だけが異なる「反応蒸留」において、本件発明が実施できないということは常識では考え難いことであるので、これら乙号証に反応速度が遅いと記載されていても反応蒸留適用の着想を阻害するものではない。
又、上記したように反応蒸留は反応液の滞留時間が短くないと実施不可能というものでもない(甲第49号証参照)。乙第38号証は酢酸メチルとMPCの反応性の違いを示すが、反応が遅くても反応蒸留適用の利点があれば反応蒸留適用の着想は断念されるものではない。
(c)について
甲第6号証では請求人がいうような高速の反応でないと反応蒸留が実施できないとまでは述べていない。(b)の理由も参照のこと。
(d)について
乙第31号証には、甲第6号証の論文の掲載に際し記載を修正した部分があるが、甲第6号証の論文自体に誤り又は不合理があり、それが乙第31号証によって証明されるというものではない。又乙第31号証だけでは修正の理由は明らかでない。乙第31号証は公知文献ではなく(1992年発行)、甲第6号証が乙第31号証の記載を参考にして読まれねばならないというものでもない。
(f)について
乙第14号証は、平衡定数が大きい方が有利であるとあるが、平衡定数が大と小の反応を比較しているだけであり、平衡定数が小さい場合に適用の利点がないとまでは述べていない。甲第3号証の翻訳に関し乙第41号証の1,乙第37号証を提出しているが、これらも反応蒸留の適用を断念させるものではない。
(g)について
甲第5号証(抄訳文2)には、「彼の分類は・・・誤りのない指針として働くことはできない。」、乙第1号証(甲第5号証の英訳)には「彼の分類は・・・全く誤りのないガイドとして使うことはできない。」(38頁左欄、表IIの下)とあるが、分析が不十分(仮定を単純化しているため)であることを著者が述べたもので、甲第5号証に記載したシミュレーションの結果自体に誤り又は不合理があるということではない。したがって、甲第5号証の記載は信頼できず、何等示唆するところがないとは言えない。
シミュレーションは、一定の前提をおいた分析であるが、前提が重要な条件を満たしていれば、条件の一部に変更があってもそれによってどのような変化が生じるのか、ある程度は予測可能になるものである。したがって、甲第5号証のシミュレーションが理想状態を仮定しているので、この仮定と異なる場合は、反応蒸留が適するかどうかは分からないと直ちに言えるものではない。
(h)について
シミュレーションでの理論的解析には単純化があるため全ての場合に適合しないのは当然であり、又工業化されている又はその検討がされている反応の内「クラスII」に属する例がなく、これ以外のクラスに属する反応が知られているとしても、甲第5号証のシミュレーション自体が直ちに無意味になるというものではない。分析の手法、その結果が技術常識からみて妥当であり、合理的なものと解されればそれは着想を断念させるものではない。そして甲第5号証の分析に誤り、不合理があるとは言えない。
「バブコックの分類」に例外があっても、シミュレーションによる解析ではあり得ることであるので直ちに該分類が役立たないと言うことにはならない。
(i)について
乙第12号証「共沸組成物・・・の存在は困難を生じさせる」(28頁)とあるが、その程度を具体的には記載していない。又共沸組成物の生成は反応蒸留を不可能にする決定的な欠陥ではなく、DMCとメタノールが共沸物である場合は不足するDMCを供給すれば問題は解決する。共沸組成物を生成する反応に反応蒸留を適用した例も知られている(甲第49号証、15〜16頁)。又反応が蒸留手段との組み合わせになっている点で「反応蒸留」と共通する「バッチ反応器」において、DMCとフェノールからPMC,DPCを生成させる反応が従来から既に行われているのであるから、乙第13,15号証も検討したが、共沸組成物の生成は甲第7号証への反応蒸留の適用を直ちに思い止まらせるものではない(甲第8,10号証等参照)。
(j)について
甲第6号証にはアニソール生成の減少を推測させる記載がないと主張するが、甲第7号証の反応(甲第7号証の上記摘示、(ロ)、(ハ)参照。)はアニソール生成が非常に少なく、これが問題になるような反応ではない。乙第43号証もこの判断を変えるものではない。
被請求人は、上記の他に反応蒸留操作では、原理的な制約(蒸留と反応の両操作の両立)から反応ゾーン全体を反応速度及び選択率の観点から好適な一定の温度・圧力条件に設定することは不可能であると述べ、反応蒸留操作がバッチ法に比べて難しい操作である旨主張するが(12年11月22日付け上申書、3頁)、本件第1発明は、反応条件又は塔の使用条件を発明の構成要件とするものではないので、該主張も採用できない。
したがって、甲第7号証の2段階の反応工程からなるエステル交換反応によるDPC製造において、第1段階及び第2段階の反応を「PMC合成反応器」と「DPC合成反応器」(10頁、図3)でそれぞれ行なわせるに際し、その使用が連続的方法である「反応蒸留」を適用し、即ち「連続多段蒸留塔」を適用して、上記した「特定構成A」の構成とすることは、当業者が容易になし得ることと認められる。
なお、被請求人は、DPC(サンプル)の入手に関し乙第29,30号証を、塔頂温度、その他事項に関し乙第16〜18,23,39,40,44号証を提出しているが、これらの証拠によっても、上記判断は左右されない。

(ii)相違点2について
第1段階の反応の後、未反応の原料をリサイクルすることは、必要に応じて行えばよいことであり、この反応を欠くと第2段階の反応が実施できないというものではないから、該リサイクル手段を省略することは格別の創意を要することとは認められない。
そして、本件第1発明におけるジアリールカーボネート類(DPC)が連続的に高収率で得られるという効果も、「連続多段蒸留塔」の分留機能により揮発度差がある成分が塔の上下に連続的に分離されること、多段蒸留塔では塔の段数の違いにより差は生じるが反応域が塔底部に近くなる程最低揮発度の生成物は減少していくこと(反応が起こり得る領域では塔底に向かって平衡がよりズラし易い条件となることは自明)がいずれも常識であること、第2段階の反応が甲第7号証によると比較的高い速度、高収率で行えること(甲第7号証の上記摘示、(ロ)、(ハ)参照。)から、当業者が予期しえない格別の効果を奏するものとも認められない。
又ジアリールカーボネート類が同時に高選択率で得ることができるという効果は、甲第7号証にアニソールの目立つ形成なしでPMCが得られるとあり、「アニソール選択%」が「<1」(反応時間:5〜8時間)であることが示されていること(「表3」参照)、PMCからDPCを生成する反応(第2段階の反応)は「比較的高い速度」で実施できたと記載(甲第7号証の上記摘示、(ハ)参照。)されていることから、予測しえない優れた効果とは認められない。
なお、被請求人は、乙第24,25号証を提出し、本件発明の「実施例2」の結果は本件明細書比較例1、従来例(バッチ反応器使用)よりもジアリールカーボネートの生産速度と、選択率の点で優れている旨主張しているが(13年2月5日付け上申書、22〜23頁)、「実施例2」の結果は「連続多段蒸留塔」の使用において特定の反応条件、塔の使用条件(例えば、反応温度、反応液の供給と流出の速度、塔充填物の大きさ、空間率等。)を設定したときの結果であり、反応温度、反応液の供給と流出速度、充填物の大きさ、空間率のような反応条件及び塔の使用条件は、本件の特許請求の範囲(請求項1)においては特定されていないので、特定条件において生じる「実施例2」の結果が、2つの「連続多段蒸留塔」を使用し反応と蒸留を連続的に行うという本件第1発明の構成要件のみによりもたらされるものであるとは認められない。

以上のとおりであり、本件第1発明は、甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(2-2)本件第2発明、第3発明について
(a)対比
請求項2又は請求項3は、使用触媒が反応液に溶解性であることを規定したものである。しかし、甲第7号証記載の第1段及び第2段の反応で使用するチタン誘導体(触媒)が反応液に溶解性のものであることは明らかであるので、この点は本件第2発明又は第3発明と甲第7号証記載の発明とを対比したとき実質的な差異ではない。
そうすると、本件第2発明又は第3発明と甲第7号証記載の発明との相違点は、上記(2-1)(a)に記載したとおりであるが、これらの相違点については既に判断したとおりである。
したがって、本件第2発明及び第3発明は、甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(2-3)本件第4発明について
本件第4発明と甲第7号証記載の発明は、上記(2-1)(a)に記載した相違点に加え、請求項4の記載事項が発明の構成要件である点で相違する。そして上記(2-1)(a)に記載の相違点についての判断は既に述べたとおりである。
本件の請求項4における、使用触媒を固体触媒とし塔内に配置する点であるが、甲第3号証には反応蒸留(蒸留塔を使用)による反応で塔内に固体触媒を配置することが記載(36頁右欄〜37頁左欄)されている。したがって、甲第7号証記載のDPC製造において、各反応工程において多段蒸留塔を使用する際、触媒として固体触媒を選びこれを塔内に配置することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることと認める。
よって、本件第4発明は、甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(2-4)本件第5発明について
本件第5発明と甲第7号証記載の発明は、上記(2-1)(a)に記載した相違点に加え、請求項5の記載事項が発明の構成要件である点で相違する。(2-1)(a)に記載した相違点についての判断は既に述べたとおりである。
甲第7号証のDPC製造プロセス(図3)には製造されたDPCから使用触媒を分離しリサイクルすることが示されている。又製造装置を構築するに際しては装置単位の位置、相互関係等は当然考慮する技術事項であるので、甲第7号証の製造プロセス(図3)において、第1段の反応工程の後に触媒分離装置を設け、PMCを含む反応液から触媒を含む高沸点成分を分離して第1段の反応工程にリサイクルすると共に、残り(低沸点成分)を次の工程に循環させることは当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎない。
したがって、本件第5発明は、甲第5〜7号証記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証に記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(2-5)本件第6発明について
本件第6発明と甲第7号証記載の発明は、上記(2-1)(a)に記載した相違点に加え、請求項6の記載事項が発明の構成要件である点で相違する。そして(2-1)(a)に記載した相違点についての判断は既に述べたとおりである。
上記(2-4)に記載したのと同じ理由により、甲第7号証の製造プロセス(図3)において、第2段の反応工程の後に触媒分離装置を設け、DPCを含む反応液から触媒を含む高沸点成分を分離し、それを同じ触媒が用いられる第2の反応工程(DPC合成反応器)にリサイクルすることも当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎない。
したがって、本件第6発明は、甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

(2-6)本件第7発明について
本件第7発明と甲第7号証記載の発明は、上記(2-1)(a)に記載した相違点に加え、請求項7記載の技術事項が発明の構成要件である点で相違する。そして(2-1)(a)に記載した相違点についての判断は既に述べたとおりである。
第7号証のDPC製造プロセス(図3)には、製造されたDPCから使用触媒を分離し第1段の反応工程へリサイクルすることが示されている。又製造装置を構築するに際しては装置単位の数、位置、相互関係等は当然考慮する技術事項であるので、第1段及び第2段の反応工程の後に触媒の分離とリサイクルの各手段を設けること、即ち第1段及び第2段の反応工程の後にそれぞれ第1及び第2の触媒分離装置を設け、反応液からそれぞれ触媒を含む分画を分離し、第1触媒分離装置からの触媒を含む分画は同じ触媒が用いられる第1の反応工程(PMC合成反応器)へ、又残り(低沸点成分)は第2の反応工程に循環させ、第2触媒分離装置からの触媒を含む分画はそれを同じ触媒が用いられる第2の反応工程へリサイクルさせることも当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項に過ぎない。
したがって、本件第7発明は、甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものである。

2 無効理由2ついて
(1)本件第1発明について
請求人が、無効理由2に関し主張する具体的理由は、「(a)本件請求項1の発明(本件第1発明)の構成要件のすべてが甲第13号証に記載されている。(b)甲第13号証の建設許可申請書は1985年12月27日にラベンナ市に提出され1986年12月16日に許可が出された。(c)本件優先日前に、第3者はラベンナ市において甲第13号証を閲覧・複写することが出来た。(d)ラベンナ市において要求があれば甲第13号証の複写物を交付する態勢にあった。これらの理由から、閲覧複写用に備えられていた甲第13号証は外国において頒布された刊行物である。」というもので、請求人は証拠方法としてここで甲第10,13〜19、21,22,33〜38号証等を示した。(平成12年12月26日付け口頭審理陳述要領書7〜8頁参照)
請求人から提出された甲第13号証は、建設許可書に添付されたプロセス説明書と図面(4枚)の写しである。甲第13号証(プロセス説明書の写し)にはラベンナ市の印が押されており、「図番02-GD-2148-X-24020nC」の図面はラベンナ市提出の建設許可書(許可書No.1902/86)の添付図であることが甲第40号証により証明されているので、甲第13号証の書面(市の証明があるもの)はイタリアのラベンナ市提出のもので、市が保管している建設許可書添付の書面の写しであると認められる。なお、承認の許可が1986年12月16日に出されたことは甲第14号証から明らかである。
これらの書面は、「プロセス説明書と図面の写し」であるから、該写しの元になったラベンナ市が保管する書面(元のプロセス説明書と図面)が特許法第29条第1項第3号に規定する「頒布された刊行物」になるか否かという点が検討されねばならない。
そこで、まず「刊行物」の判断基準としての「刊行物の公開性・情報性」の観点(吉藤幸朔著「特許法概説(第7版)」昭和61年4月25日発行、74頁参照)から検討することとする(平成10年12月22日付け答弁書、48頁参照)。
イタリア国で建設許可を受けようとする場合、建設許可申請書等の書類の提出が必要となるが、該申請書及び添付書類の提出目的は申請者にとっては建設許可を受けるためであり、提出時に行政側の実務上の判断で技術内容の開示の求めに応じることがあるとしても、それは広く第3者に広く公開させること目的としたものではない。提出された建設許可申請書とそれに添付の関連書類は、閲覧の請求があった場合、結果的に対象とされるものが公開されることになるが、その内容自体は申請者が情報として第3者に流通させることを目的としたものでないことは明白である。又行政側にとっても法律の規定に従った運用であり、閲覧の許可は請求があった者に対しての限られたものである。
したがって、甲第13号証(これ自体は写し)の元になったラベンナ市が保管する「プロセス説明書と、図面の写し」は、公開を目的として作成された書類であるとは言えず、又閲覧・交付が認められても広く第3者に情報として流通させる性質のものではないことも明らかである。
公開される書面が全て「刊行物」でないことは、昭和50年(行ケ)第97号判決(乙第3号証)の「理由」中でも記載されている。そこでは「内容の公開を目的として作成された文書等であっても、それ自体が不特定又は多数の人に対する頒布を予定されていない性質のものを刊行物ということができない・・・」(56頁右欄22〜26行)と述べられている。
そうであるから、請求人が主張する上記(a)、(c)、(d)の点については検討するまでもなく、甲第13号証(これの元になったプロセス説明書と図面)は、特許法第29条第1項第3号に規定する「頒布された刊行物」であるとは言えない。
よって、甲第13号証(これの元になったプロセス説明書と図面)が「頒布された刊行物」であることを前提とし、本件第1発明が甲第13号証に記載された発明であり、又はその発明から当業者が容易に発明することができたものであるという請求人の主張は、その前提が認められないので採用できない。
なお、請求人が提出した甲第13号証自体(複写物)も同じ理由で「頒布された刊行物」ではない。請求人が提出した甲第14〜22,33〜39、41号証の各証拠、更に甲第23、25号証及び昭和61年(行ツ)第18号判決も検討したが、これらの甲号証等によって上記判断が左右されるものではない。

(2)本件第2発明〜第7発明について
請求人が、本件の請求項2,3の発明(本件第2発明,第3発明)は甲第13号証記載の発明であり[2(1)の請求人の主張参照]、又はその発明から容易になし得たとする主張、本件の請求項4〜7の発明(本件第4発明〜本件第7発明)が甲第13号証記載の発明から容易になし得たとする主張は、いずれも甲第13号証(これの元のプロセス説明書と図面)が外国で頒布された刊行物であることを前提とするものであり、甲第13号証が「頒布された刊行物」でない理由は(1)で述べたとおりであるから、上記と同様に請求人の主張はその前提が認められず、採用できない。

3 無効理由3について
(1)本件第1発明〜第3発明について
(1-1)請求人の主張
請求人が無効理由3について主張する具体的理由は次のようなものである。
(a)甲第23号証(エニケム社作成の文書)の受領者である三井石油化学工業株式会社(以下「三井石油化学」と略称する。)は、エニケム社に対して守秘義務を負うことなく本件第1発明〜第3発明(以下、単に「本件発明」という。)を知っていた。甲第23号証が「厳秘」の書面でも本件特許発明の限度では守秘義務はなかった。

(b)(i)1988年10月6日に東京で開かれた会議において、本件発明と同一の発明が秘密保持義務を負わない出席者に開示されたことは明らかであるから、本件発明は本件特許出願前に日本国内において公然知られた発明と同一である。
(ii)GEは東京での会議(甲第54号証)の内容についてエニケム社に対して秘密保持義務を有していなかった。
(iii)請求人、「日本ジーイープラスチックス」は、エニケム社と秘密保持契約を締結(契約の締結は「東京会議」後である。)する以前に本件発明を三井石油化学とGEから知らされていたので、本件発明は本件特許出願よりも前に日本国内で公然知られていた。
(第2回口頭審理陳述要領書10〜13頁、12年4月26日付け弁駁書50〜53頁)

(1-2)当審の判断
(a)について
甲第23号証には、本件発明が記載されているが、エニケム社から送付を受けた「厳秘」表示の書面(1頁に1987年10月の日付。)であり、その内容は秘密保持義務が求められる特定の者しか知らないから本件発明がこれにより公然知られたことにはならない。
又、三井石油化学が甲第23号証受領後、本件発明を不特定の第3者に公表したという事実があることの立証もなされていない。
甲第24号証によると、本件特許出願前、昭和62年10月24日に「三井石油化学」、「GEM-C」の関係者が参加して会議が開かれたこと、そこでは「ENI技術の評価」のため「10月14日受領ENI情報」が討議されたことが認められる。なお、「GEM-C」は、甲第43号証、乙第28号証によると「GEMケミカル株式会社」(GEと三井石油化学の合弁会社)である。
技術移転、そのための情報入手、情報の評価などは、企業経営に関する重要事項であり、企業において特定の者がそれに関係して技術を知ったとしても社会通念上、関係者以外に知らせず、秘密扱いとすることが暗黙に了解されていることである。
甲第24号証に係る会議は、参加者が討議事項と職務上の関係がある特定の企業(三井石油化学、GEM-C)の特定の者だけに限られた会議であり、又討議事項がこれら企業にとって重要事項であることは明らかであるから、会議の参加者は、知り得た事項について暗黙に黙秘の義務が求められる者であると言わざるを得ない。そして、甲第24号証には「ENI情報」とあるだけであるから、本件発明が会議で発表されたかどうかも明らかでない。
そうすると、本件発明がその会議で発表され公然知られたとは認められず、仮に発表されたとしても参加者は社会通念上知り得たことについて暗黙に黙秘の義務が求められていたのであるから、甲第24号証の会議によって本件発明が公然知られたとすることはできない。
請求人は、甲第23号証には厳秘の文字があっても、本件発明の限度では三井石油化学にとって守秘義務はなかった(すべての事実が守秘義務の対象ではなかった)と主張し(第2回陳述要領書11〜12頁)、甲第28〜30,53号証を提出しているが、甲第28〜30号証は本件発明が公知であったことを証明するものではないので、これを根拠に本件発明がエニケム社に対して守秘義務の対象外であることはできない。又甲第53号証も本件発明が守秘義務の対象外であることを証明するものでない。
仮に三井石油化学が、エニケム社に対して守秘義務が明確に免除されていることが立証され、公表が制限されてなかったとしても、それはエニケム社に対する関係であり、甲第24号証の会議は導入が予定されるプロセスの技術評価に関係しており明らかに企業にとって重要事項であるから、参加者は社会通念上黙秘の義務が求められる者である。
又本件発明と同一の内容を記載した文書(甲第13号証)に記載された技術情報は、イタリアで公開されており、「秘密保持契約」(甲第25号証)における「発効日において公衆が入手可能であったもの」に該当するから、三井石油化学にとってエニケム社に対して守秘義務の適用が除外される情報であると主張しているが(審判請求書27〜28頁)、請求人側の一解釈であり、そのような技術情報が除外されているとは契約条項からは明確に読みとれない。仮にそう読め、前記技術情報はイタリアで公開されている情報であって、甲第24号証に係る会議において参加者が本件発明を知ることができたとしても、企業にとって重要情報であることに変わりはなく、上記したように黙秘の義務が求められる。
更に会議の参加者によってその後、本件発明が不特定の第3者に公表されたという事実があることの立証もなされていない。
したがって、(a)の理由により本件発明は本件優先日前に日本国内において公然知られた発明であるとすることはできない。
なお、請求人が提出した甲第42〜48,54号証を検討したが、上記判断はこれらの証拠によって左右されるものではない。

(b)(i)について
1988年10月6日に東京で開かれた甲第54号証に係る会議において、本件発明と同一の発明が秘密保持義務を負わない出席者に開示されたことを証明するために、請求人からは甲第42,43〜46,54号証等が提出されると共に、山形文一を証人とする証拠調べの申請があった。そして、平成12年12月26日に当庁審判廷で同人に対する証拠調べを行った。証人の証言内容は証拠調べ調書に添付の録音テープに記載されたとおりのものである。
証人の証言、甲第43〜46号証(陳述書)及び甲第54号証によると、「三井石油化学」がエニケム技術(DMC/DPC法)をGEに仲介することが目的で、1988年10月6日に東京で甲第54号証に記載の会議(以下「東京会議」という。)が開かれたこと、その会議にはエニケム社、三井石油化学、GE(ジェネラルエレクトリック社)が参加したこと、証人は会議の参加者であることが認められる。又甲第54号証の議事録ではエニケム技術に関して「8.当事者は・・・合意した。a.・・・DMC/DPCの技術・・・契約を締結する。」(議題、内容8参照)の記載がある。
更に、証人の証言によると、(イ)証人は1988年10月当時、三井石油化学の特殊化学品企画室、特化プロジェクト室に所属していたこと、(ロ)甲第44、45,46号証(いずれも「陳述書」)の作成者は「東京会議」の参加者であること、(ハ)「東京会議」ではエニケム社のDMC/DPC法(エステル交換法によるDPCの製造法)についてエニケム社から説明があったこと、(ニ)「東京会議」ではフィージビリティ・スタディの結果が報告されたこと、(ホ)DPCの生産物価格についても数字を挙げ説明がされたこと、が認められる。
そこで、まず「東京会議」の参加者が秘密保持義務を負っていたかどうかを検討する。甲第54号証(三者会談議事録)から明らかなように、参加者は協力関係にある特定の会社の者だけに限られており、不特定の第3者が参加した事実は認められない。参加した会社(三井石油化学、エニケム、GE)が経営面又は技術面で協力関係にあったことは甲第25号証、乙第28号証等から認められる。甲第25号証によると三井石油化学とエニケムは、「東京会議」開催の前の1987年11月9日に、「DMC及びDPC」等の情報に関して秘密保持契約(甲第25号証)を締結していたことが、甲第54号証、乙第28号証からは三井石油化学とGEが当時、合弁会社「GEMケミカル」(「日本ジーイープラスチックス」の前身)を設立していたことが認められる。
又その会議ではフィージビリティ・スタディの結果、DPCの生産物価格についても報告されているのであるから(証拠調べ調書、甲第54号証の「6,7項」。)、不特定の者の参加が許された会議であるとは言えない。開示されたフィージビリティ・スタディの内容が企業にとって重要であることは、甲第54号証、乙第28号証(2頁「4項」)から認めることができる。
「東京会議」は技術移転に関係しており、会議の内容はフィージビリティ・スタディの結果も含め企業にとって重要事項であるから、参加者が会議で技術を知ったとしても社会通念上、関係者以外に知らせず、秘密扱いとすることが暗黙に了解されていたとされるべきである。そして、エニケム技術(DMC/DPC法)の要部の一部が発表されたことは甲第42〜46、54号証等の証拠から認められるが、本件発明が発表されたかどうかまではこれら証拠をみても明らかでない。
請求人は、「東京会議」に参加したGEはその時点でエニケム社との間で秘密保持契約が締約されておらず(甲第47号証の契約は「東京会議」後である。)、会議の内容について守秘義務がなかったというが(第2回口頭審理陳述要領書12〜13頁)、甲第28〜30、47号証を検討しても本件発明が守秘義務の対象外であるとは認められない。仮にエニケム社に対して守秘義務がなかったとしても、「東京会議」は会議目的、議題内容(甲第54号証)からみて特定の者のみが参加できた会議であると認められ、会議の内容は技術移転に関係し重要事項であるから、三井石油化学とGEの参加者は社会通念上黙秘の義務が求められるとされるべきである。
そうすると、参加者には黙秘の義務が求められたうえ、本件発明の発表があったことも認めることができないので、本件発明が本件優先日前に日本国内において公然知られたとすることはできない。甲第23,24号証を勘案しても該認定は変わらない。
(b)(ii)について
請求人は、「エニケム社はGE社に対し秘密保持義務を負わせることなく本件発明を開示した」旨主張しているが、「東京会議」は特定の者のみが参加できた会議であり、会議の内容は企業にとって重要事項であるから、社会通念上参加者には黙秘の義務が求められる。したがって、エニケム社が会議で開示した内容は秘密義務のない不特定の者に対し開示されたことにはならず、又開示された内容が本件発明であるとも認められないので、本件発明が公然知られたとすることはできない。
請求人は、甲第25号証と甲第47,48号証との契約条項(守秘義務の免除に関して)の違いを根拠に、GE社にとってエニケム社が「東京会議」で開示した内容は守秘義務の対象外であった旨主張するが(12年4月26日付け弁駁書51頁)、請求人側の一解釈であり、エニケム社の開示が除外されているとは契約条項からは明確に読みとれない。仮にそう読めたとしても「東京会議」の内容は技術移転に関係しており企業にとって重要事項であるから参加者には黙秘の義務が求められるとされるべきである。
(b)(iii)について
「日本ジーイープラスチックス株式会社」(本件請求人)は「GEMケミカル」(三井石油化学とGEの合弁会社)が「エンジニアリング・プラスチックス株式会社」を吸収合併して設立された会社であり(甲第43号証、乙第28号証)、請求人、三井石油化学及びGEは経営又は技術面で協力関係にあったのであるから、本件請求人は不特定の第3者ではない。そうであるから、請求人が本件発明を知ったとしても守秘義務が求められない不特定の第3者が知ったことにはならず、入手した情報を第3者に自由に知らせることは普通許されることではないと考えるのが常識というべきである。又請求人が不特定の第3者に本件発明を知らせたという事実があることの証明もない。
したがって、本件発明が、本件優先日前に日本国内において公然知られたとすることはできない。
なお、甲第23,24,42〜46,53号証を検討したが、上記(b)(ii)、(iii)に示した判断はこれらにより左右されるものではない。

以上のとおりであり、当審では理由2,3についても検討したが、これらの理由に基づく請求人の主張は認められない。

7 むすび
上記「理由1」で述べたとおり、本件の請求項1〜7に係る特許は、本件優先日前に頒布された甲第5〜7号証に記載の発明に基づき、甲第1,3,8,10,28〜30,49号証に記載の発明及び周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件の請求項1〜7に係る特許は同法第123条第1項の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-04-03 
結審通知日 2001-04-09 
審決日 2001-05-29 
出願番号 特願平3-24689
審決分類 P 1 112・ 111- Z (C07C)
P 1 112・ 121- Z (C07C)
P 1 112・ 113- Z (C07C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 脇村 善一  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 山田 泰之
花田 吉秋
登録日 1998-02-27 
登録番号 特許第2135099号(P2135099)
発明の名称 ジアリールカーボネートの連続的製造法  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 松井 光夫  
代理人 花岡 巖  
代理人 木崎 孝  

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