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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない H01L
審判 訂正 発明同一 訂正しない H01L
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない H01L
管理番号 1074528
審判番号 訂正2002-39005  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-06-06 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-01-08 
確定日 2003-04-03 
事件の表示 特許第2770945号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2770945号(昭和62年11月10日特許出願(優先権:昭和61年11月10日、米国)、平成10年4月17日設定登録)に係る明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記訂正事項a〜iのとおり訂正することを求めるものである。

1.1 訂正事項a
特許請求の範囲第1項中の「誘電体層をパターンニング」を「二酸化ケイ素からなる誘電体層をパターンニング」と訂正する。
1.2 訂正事項b
特許請求の範囲第1項中の「該誘電体層及び該露出した下地材料を被覆」を「該孔内の誘電体層及び該露出した下地材料を被覆」と訂正する。
1.3 訂正事項c
特許請求の範囲第1項中の「タングステン層を堆積させて、」を「タングステン層をブランケット堆積させて、」と訂正する。
1.4 訂正事項d
特許請求の範囲第1項中の「該タングステン層により該誘電体層及び該露出した下地材料上の該接着層を被覆する」を「該タングステン層により該接着層が被覆された該孔を充填するよう該誘電体層及び該露出した下地材料上の該接着層を被覆する」と訂正する。
1.5 訂正事項e
特許請求の範囲第1項中の「からなる方法において、」を「、及び前記タングステン層及び前記接着層をエッチングバックすることにより、前記誘電体層の上表面、該接着層の上表面及び前記孔中に充填された前記タングステンの上表面からなる平坦表面を形成して、前記孔中に充填された前記タングステンのバイアを形成する工程とからなる方法において、」と訂正する。
1.6 訂正事項f
特許請求の範囲第2項、第5項及び第6項を削除する。
1.7 訂正事項g
特許請求の範囲第3項を第2項に繰り上げるとともに「第1項又は第2項記載の方法」を「第1項記載の方法」と訂正する。
1.8 訂正事項h
特許請求の範囲第4項を第3項に繰り上げるとともに「第1項又は第2項記載の方法」を「第1項記載の方法」と訂正する。
1.9 訂正事項i
明細書第7頁第6行〜第7行の「タングステン層の過度のアンダーカット」を「接着層の過度のアンダーカット」と訂正する。

2.訂正拒絶理由
平成14年2月22日付訂正拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「本件訂正発明は、特願昭61-48462号(特開昭62-206852号公報)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、また、刊行物1:特開昭61-112353号公報、刊行物2:1-36 Proceedings Third International IEEE VLSI Multilevel Interconnection Conference、June 9-10 1986、pp.418-435「BLANKET CVD TUNGSTEN INTERCONNECT FOR VLSI DEVICES」、刊行物3:特開昭59-198734号公報、刊行物4:特開昭58-98963号公報、刊行物5:「High Aspect Ratio Hole Filling with CVD Tungsten for Multi-level Interconnection」Extended Abstracts of the 18th(1986 International)Conferennce on Solid State Devices and Materials,Tokyo,1986年8月20〜22日,pp.503-506、刊行物6:特開昭60-100464号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の2及び同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件審判の請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項により、なお従前の例とされる改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。」

3.独立特許要件の検討
3.1 本件訂正発明
本件特許2770945号の訂正された特許請求の範囲第1項の発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲第1項に記載された以下のとおりのものである。
「集積回路の製作方法であって、
二酸化ケイ素からなる誘電体層をパターンニングして孔を形成し、該孔が下地材料を露出する工程であって、該露出した下地材料が導電性材料からなるものである工程、
該孔内の誘電体層及び該露出した下地材料を被覆する接着層を堆積させる工程、
化学気相堆積によりタングステン層をブランケット堆積させて、該タングステン層により該接着層が被覆された該孔を充填するよう該誘電体層及び該露出した下地材料上の該接着層を被覆する工程、及び
前記タングステン層及び前記接着層をエッチングバックすることにより、前記誘電体層の上表面、該接着層の上表面及び前記孔中に充填された前記タングステンの上表面からなる平坦表面を形成して、前記孔中に充填された前記タングステンのバイアを形成する工程とからなる方法において、
該接着層が実質的にTiNからなり、該タングステン層は減圧化学気相堆積において実質的にWF6をH2で還元することによって堆積されていることを特徴とする集積回路の製作方法。」

3.2 特許法第29条の2について
3.2.1 先願明細書に記載された発明
当審が訂正拒絶理由通知において提示した、本件の出願日(優先権主張の日)前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願昭61-48462号(昭和61年3月7日出願、特開昭62-206852号公報:特許異議申立人諸永芳春の甲第2号証参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、第1図と共に以下の点が記載されている。
「(1)半導体もしくは金属表面上に絶縁膜を形成し、この絶縁膜に前記半導体もしくは金属の一部が露出するように開孔部を設ける工程と、その後前記絶縁膜と密着性の良い第1の金属膜を前記開孔部及び絶縁膜上に被着する工程と、続いて前記第1の金属膜の上の全面に第2の金属膜を形成して前記開孔部を埋め込む工程と、しかる後前記開孔部以外に存在する前記第1及び第2の金属膜を除去する工程とを含む半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲(1))
「(3)第1の金属膜がチタン,ジルコニウム,ハフニウム,ニオブ,タンタル,及びこれらの硅化物,窒化物又はタングステンあるいはモリブデンの硅化物のいずれかである特許請求の範囲第1項記載の半導体装置の製造方法。
(4)第2の金属がタングステン又はモリブデン及びこれらの硅化物のいずれかである特許請求の範囲第1項記載の半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲(3)及び(4))
「(産業上の利用分野)
本発明は半導体装置の製造方法に係わり、特に配線の接続部をタングステン等の金属膜で埋め込んだ半導体装置の製造方法に関する。」(第2頁左上欄第11〜14行)
「(実施例)
以下、本発明による半導体装置の製造方法の実施例について説明する。
まず本発明の第1の実施例を第1図を参照して説明する。第1図(a)の如く5ΩcmのP型(100)シリコン基板(16)に形成したヒ素(As)高濃度ドーピング層(10)の上に絶縁膜として約1.2μmのSiO2膜(11)を常圧CVD法で形成した後、反応性イオンエッチング等により所望の場所に直径0.4μmの開孔部(15)を設ける。次に第1図(b)の如く650℃の減圧CVD装置内において分圧0.15Torrで水素(H2)を、分圧0.05TorrでTiCl4を導入し、約200Åの第1の金属膜であるチタン(Ti)膜(12)を被着し、続いて装置内を排気した後、基板温度400℃,分圧0.2Torrで水素(H2)を、分圧0.03Torrで六フッ化タングステン(WF6)を導入し第2の金属膜であるタングステン膜(13)を0.3μm堆積して開孔部(15)を埋め込んだ。その後、第1図(c)の如く0.5μmのフォトレジスト(14)を塗布し、200℃でベーキングした後、第1図(d)の如くCF4とN2を用いて開孔部(15)以外に形成したタングステン膜(13a)を反応性イオンエッチングで除去し、続いて塩素(Cl2)を導入し平坦部のチタン膜(12a)を除去して開孔部(15)にのみタングステン膜(13b)及びチタン膜(12b)が埋め込まれた形状を得る。この実施例では、タングステン膜(13)の膜はがれは見られず又上層に図示しないAl-Si配線をした時のシリコン基板とのコンタクト抵抗を測定すると1×10-6Ωcm2で電流-電圧特性は良好なオーミック性を示した。」(第3頁左上欄第17行〜同頁左下欄第6行)
「上記各実施例において、第1の金属としてチタンあるいはタングステン-シリコン合金、第2の金属としてタングステンを用いたが、本発明はこれらに限定されるものではなく第1の金属としてはチタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ハフニウム(Hf),ニオブ(Nb),タンタル(Ta),及びこれらの硅化物(シリコンとの合金),窒化物,又はモリブデン(Mo),タングステン(W)の硅化物であってもよく、第2の金属としては、タングステン(W)以外にモリブデン(Mo)あるいはそれらの硅化物であっても同様の効果が得られる。」(第4頁右下欄第7〜17行)
「更にSiO2膜(11)の下層はN+あるいはP+のシリコン基板もしくはチタン,ジルコニウム,ハフニウム,ニオブ,タンタル,クロム,モリブデン,タングステン及びこれらの硅化物又は窒化物,あるいは、ニッケル,パラジウム,プラチナ及びこれらの硅化物,あるいはアルミニウム,銅を主成分とする金属膜のいずれでもよい。」(第5頁左上欄第1〜7行)
「(発明の効果)
以上、述べてきたように本発明によれば絶縁膜に形成したコンタクトホールあるいはスルーホール等の開孔部をタングステン等の金属膜で埋め込むに際し、この金属膜と前記絶縁膜との間にこの絶縁膜と密着性の良い第1の金属膜を介在させるので金属膜のはがれが生ぜずエッチングした後も絶縁膜表面の平坦化が保たれる。又、開孔部にも隙は生じないので電気的接触も良好である。」(第5頁左上欄第8〜16行)

3.2.2 本件訂正発明と先願明細書に記載された発明との対比判断
上記先願明細書において、第2の金属膜であるタングステン膜(13)は、減圧CVD装置内を排気した後、基板温度400℃,分圧0.2Torrで水素(H2)を、分圧0.03Torrで六フッ化タングステン(WF6)を導入して全表面に堆積されている。即ち、第2の金属膜であるタングステン膜(13)の堆積は、ブランケット堆積であり、減圧化学気相堆積において実質的にWF6をH2で還元することによって行われている。さらに、第1図(d)等の記載から、タングステン膜(13)及び第1の金属膜(12)をエッチングバックすることにより、SiO2膜(11)の上表面、第1の金属膜(12b)の上表面及び開孔部(15)中に充填されたタングステン膜(13b)の上表面からなる平坦表面を形成して、開孔部(15)中に充填されたタングステン膜(13b)のバイアを形成している。また、先願明細書には、第1の金属としてチタンの窒化物、即ちTiNが選択肢として記載されており、また、先願の出願時点においてTiNが導電性を有し実施可能であることは明らかである。
してみると、上記先願明細書には、「半導体装置の製造方法であって、SiO2膜(11)をパターンニングして開孔部(15)を形成し、該開孔部(15)が下層を露出する工程であって、該露出した下層が半導体もしくは金属膜からなるものである工程、該開孔部(15)内のSiO2膜(11)及び露出した下層を被覆するTiNからなる第1の金属膜(12)を堆積させる工程、減圧化学気相堆積により実質的にWF6をH2で還元することによってタングステン膜(13)をブランケット堆積させて、該タングステン膜(13)により該第1の金属膜(12)が被覆された該開孔部(15)を充填するよう該SiO2膜(11)及び該露出した下層上の第1の金属膜(12)を被覆する工程、及び該タングステン膜(13)及び該第1の金属膜(12)をエッチングバックすることにより、該SiO2膜(11)の上表面、該第1の金属膜(12b)の上表面及び該開孔部(15)中に充填された該タングステン膜(13b)の上表面からなる平坦表面を形成して、該開孔部(15)中に充填された該タングステン膜(13b)のバイアを形成する工程とからなる半導体装置の製造方法」が記載されているものと認められる。
そこで、本件訂正発明と上記先願明細書に記載された発明とを対比すると、上記先願明細書に記載の「SiO2膜(11)」、「開孔部(15)」、「下層」、「半導体もしくは金属膜」、「第1の金属膜」及び「半導体装置」はそれぞれ本件訂正発明の「二酸化ケイ素からなる誘電体層」、「孔」、「下地材料」、「導電性材料」、「接着層」及び「集積回路」に相当するから、両者は
「集積回路の製作方法であって、
二酸化ケイ素からなる誘電体層をパターンニングして孔を形成し、該孔が下地材料を露出する工程であって、該露出した下地材料が導電性材料からなるものである工程、
該孔内の誘電体層及び該露出した下地材料を被覆する接着層を堆積させる工程、
化学気相堆積によりタングステン層をブランケット堆積させて、該タングステン層により該接着層が被覆された該孔を充填するよう該誘電体層及び該露出した下地材料上の該接着層を被覆する工程、及び
前記タングステン層及び前記接着層をエッチングバックすることにより、前記誘電体層の上表面、該接着層の上表面及び前記孔中に充填された前記タングステンの上表面からなる平坦表面を形成して、前記孔中に充填された前記タングステンのバイアを形成する工程とからなる方法において、
該接着層が実質的にTiNからなり、該タングステン層は減圧化学気相堆積において実質的にWF6をH2で還元することによって堆積されていることを特徴とする集積回路の製作方法。」の点、即ちすべての点で一致する。

なお、請求人は、平成14年1月8日付け審判請求書第6頁第19〜22行において、先願明細書に記載された発明に関して「このリストに含まれるZr3N4とHf(「F」は「f」の誤記)3N4は絶縁体であり、利用できないだろう。このような単なる候補者リストが、この候補の1つ1つを確認した全ての後願の発明を排除することは特許制度上からして、不合理である。」と主張している。しかし、金属は導電性を有するものであるから、導電性を有する第1の金属として記載されたジルコニウムZr及びハフニウムHfの窒化物といえば、通常、窒化ジルコニウムZrN及び窒化ハフニウムHfNのことであり、それぞれ導電性を有するものである(必要なら、特開昭60-153162号公報第2頁右下欄第8〜10行、特開昭59-6370号公報、特開2000-323753号公報【0007】、特開2001-266886号公報【請求項19】参照)。したがって、利用できないとの前記主張は採用できない。
また、請求人は、平成14年8月27日付け意見書第3頁第1〜8行において先願明細書に記載された発明に関して「その記載全体がTiの代替材料として合理的に当業者が認識できる内容でないのなら、その記載全体が無効であろう。・・・1つの記載内容としてそこに重要な瑕疵が含まれている以上、その記載全体に当業者に技術的教示をするものでもなく発明の存在は否定されるべきである。」と主張しているが、先願明細書に記載された発明にどのような瑕疵があるのか具体的主張がなく、前記主張は採用できない。仮に、先願明細書に記載された発明の一部に瑕疵があるとしても、それによって他の実施可能なものまで発明の存在を否定されるとの主張には、何ら根拠がなく、肯定できない。
さらに、請求人は、平成14年9月12日付けファクシミリにおいて「特願昭61-48462号の実施例のTiに代わるリストされた内容は、単にspeculativeであり、バイア形成時のSiO2層とW層との間の接着層の教示とはなり得ない記載である点について、平成11年12月1日に提出した「特許異議意見書」をここに添付します。」主張している。しかし、「特許異議意見書」の主張は、上記平成14年1月8日付け審判請求書第6頁第19〜22行における主張と同様の趣旨であり、同様の理由により採用できない。
また、同ファクシミリにおいて「又、TiNはこのような接着層としてTiと比しても格別なものであり(添付文献参照)、特願昭61-48462号のリストの教示からではTiNを特に選択することはできない。」と主張しており、その添付された参考文献は、本件訂正発明の優先日(昭和61年11月10日)より後の平成3年2月11日〜12日の発行であり、「プラズマ強化CVD酸化物または窒化物のような絶縁体上のCVDWの接着性は著しく劣る。タングステンおよび多様な基板の層間に接着層が必要である。・・・表Iは非窒化TiおよびTiN上におけるCVDWの接着性を比較したものである。・・・アニーリングによるチタンの窒化が著しく接着性を高めたことに注目することは重要である。」と記載されている。しかし、参考文献に記載された効果、即ち「非窒化TiよりTiNが著しく接着性を高めた」との効果は、本件訂正発明の明細書又は図面に記載されていない効果の主張であり、本件訂正発明の効果とは認められない。仮に、本件訂正発明の効果と認めたとしても、先願明細書においても、TiNは接着層として記載されているのであって、参考文献に記載された効果は、先願明細書に記載された効果と同質のものであり、格別際立って優れた効果とも認められないし、当業者の予測を超える効果とも認められない。したがって、いずれにしても、前記主張は採用できない。
さらに、先願発明の出願以前に公知であった下記刊行物3には、TiNがSiO2膜、Al層との密着性に優れている点が記載され、下記刊行物4、6には、TiN上にWを形成することが記載されているので、TiN/SiO2とTiN/Wのそれぞれが相性のよい組み合わせであることは、先願発明の出願時点に於いて明らかであり、さらに、下記刊行物3、6に示されるように、TiNはバリアメタルとしてもよく用いられていたものである。したがって、先願明細書に記載された発明からTiNを選択することに格別の阻害要因はなく、その効果についても当業者の予想を超える格別顕著な効果であるとは認められないので、「リストの教示からではTiNを特に選択することはできない。」との前記主張は採用できない。
また、同ファクシミリにおいて「又、Zr3N4、Hf3N4の他、ZrN、HfNが導電(「面」は「導」の誤記)性を有するといってもSiO2層とW層との間の接着層の問題であるのだから、接着層として実際的なものであるかどうかについてを含めた教示のリストであるかが検討されねばならないと思われます。」と主張している。しかし、「実際的なもの」というのがどのようなことを意味するのか具体的記載がないので、不明であるが、本件訂正発明の明細書又は図面に記載のない「実際的なもの」と称する効果は、本件訂正発明の効果とは認められない。また、先願明細書に記載された発明について、TiNが実施可能か否かの検討は必要であるが、TiNが実施可能であることは明らかであるから、前記主張は採用できない。

3.2.3 特許法第29条の2についてのまとめ
よって、本件訂正発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件訂正発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件訂正発明の出願の時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件訂正発明は、特許法第29条の2の規定に違反するものである。

3.3 特許法第29条第2項について
3.3.1 当審が訂正拒絶理由通知において提示した各刊行物に記載された発明
3.3.1.1 刊行物1:特開昭61-112353号公報(特許異議申立人松下愛の甲第1号証)
刊行物1には、第2、3図と共に以下の点が記載されている。
「〔発明の目的〕
本発明の目的は、上記欠点を除去し、多層配線における開孔部を高融点金属膜で埋ることにより平坦化し、配線の断線等による不良の生じない多層配線の形成方法を提供することにある。」(第2頁左上欄第6〜10行)
「第2図(a)〜(d)は本発明の一実施例を説明するための工程断面図であり、特に素子とのコンタクト部上にAl配線を形成する場合を示している。
まず第2図(a)に示すように、半導体素子等が形成された半導体基板10上の絶縁膜11に幅1〜2μmのコンタクト用開孔部12を形成する。微細な開孔部の形成には反応性イオンエッチング法(RIE法)(「(RI)(E法)」は「(RIE法)」の誤記)等のドライエッチング法が適している。
次に第2図(b)に示すように、開孔部12を含み絶縁膜11全面に気相成長法(Chemical Vapor Deposition法:CVD法)によりタングステン(W)膜13を堆積し、開孔部12を埋める。
W膜13はCVD法により形成されるため、開孔部12は完全に埋る。そして、その上部のくぼみも小さく、W膜12はほぼ平坦に形成される。
次に第2図(c)に示すように、RIE法によりW膜12をエッチングし、絶縁膜11を露出させる。この工程によりW膜13は開孔部12の部分にのみ残ることになる。
次に第2図(d)に示すように、全面に厚さ約10μmのAl膜を堆積したのちパターニングしてAl配線14を形成し1層目の配線が完成する。」(第2頁右上欄第5行〜同頁左下欄第8行)
「2層以上の多層配線を施す場合は、このAl配線14上にSiO2膜やリンシリケートガラス膜(PSG膜)等の絶縁膜を形成したのち、上記一連の工程を繰り返すことにより、2層以上の多層配線を容易に形成することができる。」(第2頁左下欄第9〜13行)
「第3図は本発明の他の実施例を説明するための断面図であり、2層配線構造を形成する場合を示している。
第3図において、半導体基板10上のフィールド酸化膜としてSiO2膜21上には下層のAl配線22が、そしてPSG膜23を介して上層のAl配線26が形成されている。この下層のAl配線22と上層のAl配線26とは、PSG膜23に設けられた開孔部24に埋められたW膜25により接続されている。この2層配線を形成するには第2図(a)〜(d)の工程を応用すればよい。」(第2頁右下欄第1〜11行)
さらに、第2図(c)から明らかなように、絶縁膜とタングステン(W)膜により平坦化されている。
してみると、上記刊行物1の第2頁左下欄第9〜13行には、2層以上の多層配線を施す場合に関して、Al配線14上にSiO2膜等の絶縁膜を形成したのち、上記一連の工程を繰り返す、即ち該絶縁膜をパターニングしてコンタクト用開孔部を形成し、該開孔部が下層のAl配線14を露出する工程、該開孔部を含み絶縁膜全面に化学気相成長法によりタングステン膜を堆積し、該開孔部を埋める工程、タングステン膜をエッチングしてタングステン膜を開孔部の部分のみ残し平坦化する工程からなる多層配線の形成方法が記載されている。

3.3.1.2 刊行物2:1-36 Proceedings Third International IEEE VLSI Multilevel Interconnection Conference、June 9-10 1986、pp.418-435「BLANKET CVD TUNGSTEN INTERCONNECT FOR VLSI DEVICES」(特許異議申立人松下愛の甲第2号証)
刊行物2には、以下の点が記載されている。
「ブランケットタングステンは、多数の理由からアルミニウム方式のメタライゼーションに対する好ましい代替法である。」(第418頁第24〜25行)
「この研究で考察されたタングステン膜は、ホットウォール管状LPCVD反応器の中で全て堆積された。」(第419頁第1〜2行)
「堆積で使用されるガスは、マイクロプロセッサ制御型質量流量コントローラを通って流れるWF6及びH2である。」(第419頁第5〜7行)
「タングステンは酸化物に十分接着しないので、接着促進材が必要である。」(第419頁第8〜9行)
してみると、上記刊行物2には、タングステン膜をCVD法で形成する方法として、LPCVD法でWF6とH2とを用いて堆積する方法、及びタングステンは酸化物に十分に接着しないので接着促進材が必要であることが記載されている。

3.3.1.3 刊行物3:特開昭59-198734号公報(特許異議申立人松下愛の甲第4号証)
刊行物3には、以下の点が第3図と共に記載されている。
「(1)アルミニウムまたはその合金からなる複数層の導体層が順次層間絶縁膜を介して重畳して構成されたものにおいて、上記導体層と上記層間絶縁膜との間に両者間の反応を抑止するバリヤとして働きかつ上記両者との密着性の優れた中間層を設けたことを特徴とする多層配線構造。」(特許請求の範囲(1))
「(3)層間絶縁膜が酸化シリコンからなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の多層配線構造。」(特許請求の範囲(3))
「(6)中間層が窒化チタンからなることを特徴とする特許請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかに記載の多層配線構造。」(特許請求の範囲(6))
「〔発明の概要〕
この発明は以上のような点に鑑みてなされたもので、Alまたはその合金で形成される多層配線の上または下にチタン(Ti)またはTi化合物の膜を形成することによつて、配線層と絶縁膜との間の反応を防止し、かつ、密着力の向上を計り、上述の「フクレ」の生じない多層配線構造を提供するものである。」(第2頁右上欄第20行〜同頁左下欄第7行)
「〔発明の実施例〕
第3図はこの発明の一実施例の構成を説明するためにその形成工程の主要段階における状態を示す断面図である。第1層の金属配線(3a),(3b)、および層間絶縁膜(4)を形成し、この層間絶縁膜(4)にスルーホール(7)を形成するまでは従来例における第1図A〜Cと同様である。このスルーホール(7)の形成後、第3図Aに示すようにTiまたはTiW,TiNなどのTi化合物からなる中間金属膜(12)をCVD法,スパツタリング法,電子線加熱蒸着法などで薄く形成し、その後に第3図Bに示すように第2層目の金属配線としてAl層(8)をCVD法,スパッタリング法,電子線加熱蒸着法などで形成し、その所望の配線部分のみをホトレジスト膜(9)で覆い、ついで、第3図Cに示すようにホトレジスト膜(9)をマスクとして第2層のAl層(8)および中間金属層(12)にエツチングによるパターニングを施して、第2層目の金属配線(8a)および中間金属配線層(12a)を形成し、その後にホトレジスト膜(9)を除去する。そして、最後に、第3図Dに示すように全上面にSi3N4膜からなるパツシベーシヨン膜(10)を形成して多層配線構造は完成する。
以上のように、この実施例では層間絶縁膜(4)と第2層目のAl配線(8a)との間にTiまたはTi化合物からなる中間金属配線層(12a)が形成されているが、TiおよびTiW,TiNなどのTi化合物はSiO2膜,Si3N4膜,Al膜などとの密着性に優れており、また、これらTiまたはTiW,TiNなどのTi化合物を挟む両側の物質間の反応に対するバリヤとしての能力も大きい。」(第2頁左下欄第8行〜同頁右下欄第17行)
してみると、上記刊行物3には、Al等からなる配線層とSiO2等からなる絶縁膜との密着力を向上するために、その間にTiNからなる中間金属配線層を介在させることが記載されている。

3.3.1.4 刊行物4:特開昭58-98963号公報(特許異議申立人松下愛の甲第3号証)
刊行物4には、第2図と共に以下の点が記載されている。
「n+拡散層14上の電極は、Mo(1500Å)/TiN(1000Å)/Mo(300Å)となっている。」(第3頁左上欄第3〜4行)
「高融点金属層の高融点金属としてMoを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、・・・高融点金属がW,タンタリウム(Ta)等他の高融点金属である場合にも有効である。」(第3頁右上欄第10〜15行)
してみると、上記刊行物4には、W/TiN/W、即ちTiNに接してWを形成することが記載されている。

3.3.1.5 刊行物5:「High Aspect Ratio Hole Filling with CVD Tungsten for Multi-level Interconnection」Extended Abstracts of the 18th(1986 International)Conferennce on Solid State Devices and Materials,Tokyo,1986年8月20〜22日,pp.503-506(特許異議申立人諸永芳春の甲第3号証)
刊行物5には、第8図と共に以下の点が記載されている。
「高温でのアニーリングのために、TiN/TiSi2をWとSiとの間の反応バリア層として使用した。」(第503頁右欄下から5行〜3行)
さらに、第8図には、W/TiN/TiSi2/Siの層構造が記載されている。
してみると、上記刊行物5には、TiNのバリア層に接してWを形成することが記載されている。

3.3.1.6 刊行物6:特開昭60-100464号公報
刊行物6には、第1、2図と共に以下の点が記載されている。
「この後リンやAsを添加した多結晶Si4を被着し、PtやPdのシリサイドやTiNあるいはTiB,TaB等のバリア層5を被着し、さらにW,Mo、あるいはTaなどのリフラクトリ金属6を被着しこの三層のゲートを一括して同一パターンによつてエツチングしてMOSトランジスタのゲートを形成する。」(第2頁左上欄第15行〜同頁右上欄第2行)
してみると、上記刊行物6には、TiNのバリア層に接してWを形成することが記載されている。

3.3.2 本件訂正発明と刊行物に記載された発明との対比・判断
本件訂正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「SiO2膜等の絶縁膜」、「コンタクト用開孔部」、「下層のAl配線14」及び「多層配線の形成方法」はそれぞれ本件訂正発明の「二酸化ケイ素からなる誘電体層」、「孔」、「導電性材料からなる下地材料」及び「集積回路の製作方法」に相当するから、両者は、
「集積回路の製作方法であって、
二酸化ケイ素からなる誘電体層をパターンニングして孔を形成し、該孔が下地材料を露出する工程であって、該露出した下地材料が導電性材料からなるものである工程、
化学気相堆積によりタングステン層をブランケット堆積させて、該タングステン層により該孔を充填するよう被覆する工程、及び
前記タングステン層をエッチングバックすることにより、平坦表面を形成して、前記孔中に充填された前記タングステンのバイアを形成する工程とからなることを特徴とする集積回路の製作方法。」
の点で一致するが、以下の点で相違する。
(1)化学気相堆積法(以下、「CVD法」と略称する。)によりタングステン層をブランケット堆積するに当たって、本件訂正発明においては実質的にWF6をH2で還元することによって堆積する減圧CVD法を用いるのに対して、刊行物1に記載された発明ではどのようなCVD法を用いているか不明である点。
(2)二酸化ケイ素からなる誘電体層及び露出した下地材料とタングステン層との間に、本件訂正発明が実質的にTiNからなる接着層を形成する工程を有するのに対して、刊行物1に記載された発明がそのような層を形成する工程を有していない点。
(3)本件訂正発明がタングステン層及び接着層をエッチングバックすることにより、誘電体層の上表面、接着層の上表面及び孔中に充填されたタングステンの上表面からなる平坦表面を形成しているのに対して、刊行物1に記載された発明がタングステン層をエッチングバックすることにより、誘電体層の上表面及び孔中に充填されたタングステンの上表面からなる平坦表面を形成している点。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点(1)について:
刊行物2に示すようにタングステン層を堆積するCVD法として実質的にWF6をH2で還元することによって堆積する減圧CVD法が公知であり、また、刊行物1に記載された発明において前記公知技術を採用することに格別の阻害要因は認められないので、上記相違点(1)は当業者が必要に応じて任意になし得たことと認められる。

相違点(2)について:
刊行物2に示すようにAlの代替品であるタングステンが酸化物との接着性が悪く、接着促進材が必要であることは、公知の課題である。また、刊行物3に、AlとSiO2等の酸化膜との間にTiNからなる中間金属層を介在させることによってAlとSiO2等の酸化膜との間の密着性を向上させることが示されている。さらに、刊行物4〜6に示すように、TiNに接してWを形成することは一般的に行われており、また、刊行物3、5、6に示されるように、TiNはバリアメタルとしても、よく用いられていたものである。
また、これらの技術を組み合わせることに格別の阻害要因は認められない。
以上の点を考慮すれば、刊行物1に記載された発明において、タングステンと酸化膜との間の接着性の悪さを改善するために両者の間にTiNからなる接着層を介在させる工程を設けることに格別の困難性は認められない。

相違点(3)について:
誘電体層及び露出した下地材料とタングステン層との間に、TiNからなる接着層を介在させることに格別の困難性がないことは、上記相違点(2)のところで検討済である。そして、接着層を介在させれば必然的にタングステン層及び接着層をエッチングバックすることになり、さらに、平坦表面が好ましいのは当然であるから、誘電体層の上表面、接着層の上表面及び孔中に充填されたタングステンの上表面からなる平坦表面を形成した点にも格別の困難性は認められない。

なお、請求人は、平成14年1月8日付け審判請求書第11頁第7〜9行において「タングステン充填バイア形成にあって、特に薄くすることのできるTiN接着層の利用についての教示はなく、引例4〜7(上記刊行物1〜4に相当)に基づいて特許法第29条第2項の規定にあって本発明が容易であったとは言えない。」と主張し、さらに、平成14年8月27日付け意見書第4頁第14〜18行において「特許請求の範囲は、Ti層の厚さについての数値的限定を記載してはいないが、ブランケット付着法によるバイア形成時の接着層としてTiN層を規定しているのであるから、刊行物にTi層に比し特に薄くできる点を教示していない以上、本特許発明の教示には至らないはずである。」と主張している。
しかし、本件訂正発明には、TiNを特に薄くしたという限定はなく、TiNを厚く形成したものも含まれており(訂正明細書第4頁第25〜27行:特許公報第5欄第12〜13行には「もしもWと基体との相互作用を避けようとするのであるならば、一層厚いTiN層を用いてもよい。」と記載されている)、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、TiNを薄くできるというだけでは、効果とは認められない。なお、平坦化に関係する接着層がアンダーカットを生じるか否かはエッチング条件で異なるので、「平坦表面を形成する」だけでは接着層が特に薄いとは限らない。
さらに、上記相違点(2)についての検討でも述べたように、特に薄くすることができるとの教示や認識がなくても、接着層としてTiN層を用いることに格別の困難性は認められないので、請求人の前記主張は採用できない。

3.3.3 特許法第29条第2項についてのまとめ
よって、本件訂正発明は刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。

3.4 独立特許要件についてのまとめ
したがって、本件訂正発明は、特許法第29条の2及び同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4. むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項により、なお従前の例とされる改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-10-31 
結審通知日 2002-11-06 
審決日 2002-11-21 
出願番号 特願昭62-282271
審決分類 P 1 41・ 856- Z (H01L)
P 1 41・ 121- Z (H01L)
P 1 41・ 161- Z (H01L)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 朽名 一夫
橋本 武
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2770945号(P2770945)
発明の名称 タングステン被覆法  
代理人 岡部 正夫  
代理人 朝日 伸光  
代理人 吉澤 弘司  
代理人 加藤 伸晃  

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