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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備  C08J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1074792
異議申立番号 異議2001-72285  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-09-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-27 
確定日 2003-02-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3137604号「通気性フィルムの製造方法」の請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3137604号の請求項1〜4に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3137604号発明は、平成2年4月27日に出願した特願平2-110110号及び平成2年6月18日に出願した特願平2-157688号(いずれも優先権主張国日本)に基づいて優先権を主張して、平成3年4月24日に出願した特願平3-119020号を原出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願として平成10年4月24日に特願平10-114453号として出願されたものであって、その特許について平成12年12月8日に設定登録がなされ、その後、山口雅行より特許異議の申立てがなされ、平成13年11月20日付けで特許異議申立人より上申書が提出され、平成14年3月6日付けで特許権者に取消理由通知書と上記上申書の送付がなされ、平成14年5月14日付けで特許権者より特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。
【2】訂正の適否についての判断
〈1〉訂正事項
〔1〕訂正事項(1)
特許請求の範囲の請求項1の「(a)成分が、」という記載の後の「密度:0.945g・cm3以下」という記載を「密度:0.945g/cm3以下」と訂正する。
〔2〕訂正事項(2)
特許請求の範囲の請求項1の「メルトフローレート0.1
〜20g/10分」という記載の後に、改行して「フローレシオ:6〜10、」を挿入する。
〔3〕訂正事項(3)
特許請求の範囲の請求項1の「平均粒径:0.001〜0.7mm」を「平均粒径:0.01〜0.7mm」と訂正する。
〔4〕訂正事項(4)
特許請求の範囲の請求項1の「線型ポリエチレン共重合体である、」という記載を「線型エチレン共重合体であり、」と訂正すると共に、上記の記載の後に、改行して、
「(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、」を挿入する。
〔5〕訂正事項(5)
発明の詳細な説明の段落番号【0005】の「特徴とする、」という記載の後に「通気性フィルムの製造方法であって、」を挿入するとともに、「ASTM DI922-61Tによる縦方向の引裂強度が10g以上、ASTM D822-67による引張強度(TD破断点)が700g/15mm幅以上、JIS Z 0208-1973による透湿度が5,100g/m2・24hr以上であり、」を削除し、該箇所に
「(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上3 5重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、」を挿入する。
〈2〉訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
〔1〕訂正事項(1)
上記訂正事項(1)は、密度の単位として誤記であることが明らかな「g・cm3」を密度の正しい単位である「g/cm3」とするものであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔2〕訂正事項(2)
上記訂正事項(2)は、本件願書に添付した明細書の段落番号【0013】に記載されていた「更にフローレシオ(測定法は実施例中に記載した)が6〜10であるものが、延伸フィルムの引張強度及び引裂強度の点で好ましい。」という記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1における(a)成分のポリマーを更にフローレシオの点からも特定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔3〕訂正事項(3)
訂正事項(3)は、本件願書に添付した明細書の段落番号【0016】に記載されていた「本願発明において、……顆粒状又は粉体状の線型エチレン重合体を使用するのが好ましく、特に、平均粒径が0.001〜0.7mm、好ましくは0.01〜0.6mmで、粒径分布が……好ましい。」という記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1における(a)成分のポリマーの平均粒径の下限を「0.001mm」から「0.01mm」にするものであって、該ポリマーの平均粒径の数値範囲の幅を減縮するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔4〕訂正事項(4)
上記訂正事項(4)は、本件願書に添付した明細書の段落番号【0024】に記載されていた「本発明フィルムを製造するのに好適な(b)成分は、平均粒径10μm以下、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.5〜2μmの粒状無機フィラーで、かさ密度が0.1〜0.7g/cm3、好ましくは0.2〜0.6g/cm3、より好ましくは0.3〜0.5g/cm3のものである。」という記載に基づいて、本件の(b)成分の無機フィラーについて更にその「粒径」と「かさ密度」を限定するものであるとともに、それに伴い、文章のつなぎとして「である」を「であり」と訂正するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〔5〕訂正事項(5)
上記訂正事項(5)は、発明の詳細な説明の段落番号【0005】の「特徴とする、」という記載の後に「通気性フィルムの製造方法であって、」を挿入するとともに、審査の段階で補正により削除された旧請求項1に対応する記載であって、発明の詳細な説明中に残っていた記載である「ASTM DI922-61Tによる縦方向の引裂強度が10g以上、ASTM D822-67による引張強度(TD破断点)が700g/15mm幅以上、JIS Z 0208-1973による透湿度が5,100g/m2・24hr以上であり、」という記載を削除するとともに、「ASTM DI922-61Tによる縦方向の引裂強度が10g以上、ASTM D822-67による引張強度(TD破断点)が700g/15mm幅以上、JIS Z 0208-1973による透湿度が5,100g/m2・24hr以上であり、」を削除し、該箇所に訂正後の特許請求の範囲の請求項1の構成要素に対応する
「(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、」を挿入することによって特許請求の範囲の記載の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、本件願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
〈3〉むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
【3】特許異議申立についての判断
〈1〉特許異議申立理由の概要
特許異議申立人の主張する特許異議申立理由の概要は次のものである。
〔1〕訂正前の本件請求項1に係る発明について
訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明であるか、或いは、甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明又は甲第1号証(特開昭62-18435号公報)、甲第2号証(粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」株式会社産業技術センター、昭和50年5月1日発行、第346頁)、甲第3号証(「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁)、甲第4号証(特開昭63-33404号公報)及び甲第5号証(「最新ラミネート加工便覧」加工技術研究会、1989年6月30日発行、第283頁〜第296頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、訂正前の本件請求項1に係る発明は当業者が容易に実施することが困難な範囲を含み、また、訂正前の本件請求項1に係る発明で特定する平均粒径及び粒度分布の範囲に関する臨界的意義が発明の詳細な説明に記載されていない点で明細書の記載が不備である。
したがって、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号或いは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとともに、同法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、取り消されるべきものである。
〔2〕訂正前の本件請求項2に係る発明について
訂正前の本件請求項2に係る発明は訂正前の本件請求項1に係る発明における延伸倍率を1.2〜6倍であるものに限定するものである。
しかし、延伸倍率を1.2〜6倍にすることは甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載されていることであるから、訂正前の本件請求項2に係る発明は訂正前の本件請求項1に係る発明と同様に甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明であるか、或いは、甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明又は甲第1号証(特開昭62-18435号公報)、甲第2号証(粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」株式会社産業技術センター、昭和50年5月1日発行、第346頁)、甲第3号証(「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁)、甲第4号証(特開昭63-33404号公報)及び甲第5号証(「最新ラミネート加工便覧」加工技術研究会、1989年6月30日発行、第283頁〜第296頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、訂正前の本件請求項2に係る発明は当業者が容易に実施することが困難な範囲を含み、また、訂正前の本件請求項2に係る発明で特定する平均粒径及び粒度分布の範囲に関する臨界的意義が発明の詳細な説明に記載されていない点で明細書の記載が不備である。
したがって、訂正前の本件請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号或いは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとともに、同法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、取り消されるべきものである。
〔3〕訂正前の本件請求項3に係る発明について
訂正前の本件請求項3に係る発明は訂正前の本件請求項1に係る発明又は訂正前の本件請求項2に係る発明に係る方法により製造された衛生材料用フィルムである。
しかし、通気性フィルムを衛生材料用フィルムに用いることは甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載されていることであるから、訂正前の本件請求項3に係る発明は訂正前の本件請求項1に係る発明と同様に甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明であるか、或いは、甲第1号証(特開昭62-18435号公報)に記載された発明又は甲第1号証(特開昭62-18435号公報)、甲第2号証(粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」株式会社産業技術センター、昭和50年5月1日発行、第346頁)、甲第3号証(「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁)、甲第4号証(特開昭63-33404号公報)及び甲第5号証(「最新ラミネート加工便覧」加工技術研究会、1989年6月30日発行、第283頁〜第296頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、訂正前の本件請求項3に係る発明は当業者が容易に実施することが困難な範囲を含み、また、訂正前の本件請求項3に係る発明で特定する平均粒径及び粒度分布の範囲に関する臨界的意義が発明の詳細な説明に記載されていない点で明細書の記載が不備である。
したがって、訂正前の本件請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号或いは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとともに、同法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、取り消されるべきものである。
〔4〕訂正前の本件請求項4に係る発明について
訂正前の本件請求項4に係る発明は訂正前の本件請求項1に係る発明又は訂正前の本件請求項2に係る発明に係る方法により製造された建材用フィルムである。
しかし、建材用フィルムという用語は概念が非常に広いし、甲第3号証(「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁)に直鎖状中密度ポリエチレンの1つであるネオゼックスを用いて包装一般用のフィルムを製造することが記載されており、該一般包装用のフィルムの中に建材用のものも含まれる可能性があることを考えると、訂正前の本件請求項4に係る発明は甲第1号証(特開昭62-18435号公報)、甲第2号証(粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」株式会社産業技術センター、昭和50年5月1日発行、第346頁)、甲第3号証(「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁)、甲第4号証(特開昭63-33404号公報)及び甲第5号証(「最新ラミネート加工便覧」加工技術研究会、1989年6月30日発行、第283頁〜第296頁)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとともに、訂正前の本件請求項4に係る発明は当業者が容易に実施することが困難な範囲を含み、また、訂正前の本件請求項4に係る発明で特定の平均粒径及び粒度分布の範囲に関する臨界的意義が発明の詳細な説明に記載されていない点で明細書の記載が不備である。
したがって、訂正前の本件請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとともに、同法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、取り消されるべきものである。
〈2〉本件発明
本件特許第3137604号の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から4に記載された事項により特定される次のものである。
「【請求項1】(a)エチレンと炭素数6以上のα-オレフィン又はジオレフィンの共単量体を2〜15重量%含有する線型エチレン共重合体20〜80重量%、
(b)無機フィラー80〜20重量%、及び
(c)炭素数9〜40の飽和又は不飽和の脂肪酸エステルを、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.1〜15重量部、
を配合した樹脂組成物を、フィルム状に成形した後、延伸することを特徴とする、通気性フィルムの製造方法であって、
(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84m以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、
方法。(以下「本件第1発明」という。)
【請求項2】延伸倍率1.2〜6倍で延伸する、請求項1記載の通気性フィルムの製造方法。(以下「本件第2発明」という。)
【請求項3】請求項1又は2に記載の方法により製造された衛生材料用フィルム。(以下「本件第3発明」という。)
【請求項4】請求項1又は2に記載の方法により製造された建材用フィルム。(以下「本件第4発明」という。)」
〈3〉当審で通知した取消理由に引用された刊行物の記載事項
〔1〕刊行物1:特開昭62-18435号公報(異議申立人山口雅行が提出した甲第1号証)
該刊行物には、通気性フイルムの製造方法に関して次の事項が記載されている。
「ポリオレフイン系樹脂42〜87体積%と無機充填剤58〜13体積%との組成物からなるフイルムを少くとも一軸方向に延伸して通気性フイルムを製造するにおいて、前記組成物に炭素数10〜22の脂肪酸と炭素数1〜12の脂肪族アルコールとの化合物である脂肪族アルコール系脂肪酸エステルを、前記組成物100重量部に対して3〜25重量部配合することを特徴とする通気性フイルムの製造方法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は、ポリオレフイン系樹脂と無機充填剤との組成物からなるフイルムを延伸してなる通気性フイルムの製造方法に関し、特に、紙おむつ、あるいは生理用品等の衛生用品への利用に適する、ソフト感を有する通気性フイルムの製造方法に関する。」(第1頁左下欄第16行〜同頁右下欄第2行)、
「ポリオレフイン系樹脂とは、……、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体等の如きエチレン-α-オレフイン共重合体等をいい、これらは、単独で、あるいは混合状態で用いることができる。これらの中でも特にエチレン-α-オレフイン共重合体が好ましく、就中、密度が0.910〜0.940g/cm3、好ましくは0.916〜0.935g/cm3で、MFRが0. 1〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分の範囲に含まれるものがよい。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第3行)、
「ここで、エチレン-α-オレフイン共重合体とは、C3〜C8の分子骨格であるα-オレフインが1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%、エチレンが99〜80重量%、好ましくは97〜85重量%からなる直鎖状低密度エチレン共重合体で、遷移金属化合物と有機金属化合物とを組合せた触媒を用いてイオン反応によりエチレンとC3〜C8の分子骨格であるα-オレフインを1つ以上含んで共重合させて生成される樹脂であり」(第2頁左下欄第11行〜第19行)、
「無機充填剤は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、タルク、クレー、シリカ、酸化チタン、アルミナ、硫酸アルミニウム等であり、単独あるいは混合状態で用いることができる。好ましい無機充填剤の形態としては、板状、棒状、針状以外の球状、粒状、不定形等であり、その平均粒径は0.1〜5μ、……連続安定延伸性が損われる。」(第2頁右下欄第6行〜第18行)、
「脂肪族アルコール系脂肪酸エステルは、炭素数10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸と、炭素数1〜12、好ましくは1〜6の脂肪族アルコールとのエステル化合物であつて、……、これらのエステル化合物としては、例えば、(ポリ)エチレングリコールラウレート、(ポリ)プロピレングリコールラウレート、グリセリンラウレート、ソルビタンラウレート、(ポリ)エチレングリコールソルビタンラウレート、グリセリンミリステート、グリセリンパルミテート、ブチルステアレート、(ポリ)エチレングリコールステアレート、グリセリンステアレート、ブチルオレエート、(ポリ)エチレングルコールオレエート、(ポリ)プロピレングリコールオレエート、グリセリンオレエート、ペンタエリスリトールオレエート、ソルビタンオレエート、(ポリ)エチレングリコールソルビタンオレエート、グリセリンリノレート、グリセリンリノレネート、メチルリシノレート、エチルリシノレート、ブチルリシノレート、メチルアセチルリシノレート、エチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、(ポリ)エチレングリコールリシノレート、グリセリンリシノレート、グリセリンアセチルリシノレート等が挙げられる。なかで、……………、グリセリンリシノレート、グリセリンアセチルリシノレートが最も好ましい化合物である。」(第2頁右下欄第19行〜第3頁右上欄第13行)、
「ポリオレフイン系樹脂と無機充填剤との組成物に対する脂肪酸エステルの配合割合は、ポリオレフイン系樹脂と無機充填剤との組成物100重量部に対して、脂肪酸エステルが3〜25重量部、好ましくは5〜15重量部の範囲である。」(第3頁左下欄第14行〜第18行)、
「本発明における延伸倍率は、1.2〜6倍、好ましくは1.2〜4倍である。」(第3頁右下欄第17行〜第18行)、
「実施例1 エチレン-ブテン-1共重合体(ブテン-1含量6重量%、密度0.923g/cm3、MFR0.9g/10分)のパウダー65体積%、重質炭酸カルシウム……35体積%、エチレン-ブテン-1共重合体100重量部に対して熱安定剤……0.1重量部、重質炭酸カルシウム100重量部に対して分散剤……1.0重量部、およびこれらの合計量100重量部に対して精製ヒマシ油……5重量部を……混合した後、……二軸押出機より……押出した後、ペレツト状に切断した。得られたペレツトを……押出機に取り付けたTダイより……押出した後、……厚み35μの通気性フイルムを製造した。」(第4頁左上欄末行〜同頁左下欄第1行)、
「本発明の通気性フイルムの製造方法は、ソフト感を有する通気性フイルムを得ることができ、しかも、低延伸倍率でも薄肉で均一厚みとすることが可能であるので、一層のソフト感を有する布様の通気性フイルムが得られるものである。」(第5頁左上欄第2行〜第6行)。
〔2〕刊行物2:粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」株式会社産業技術センター、昭和50年5月1日発行、第346頁(特許異議申立人山口雅行が提出した甲第2号証)
該刊行物2には、中密度ポリエチレンパウダーに関して次の事項が記載されている。
「最近、オレフィン類の共重合による中密度ポリエチレンの新しい製造法が開発され企業化された。」(左欄第5行〜第7行)、
「写真、粒度分布は中密度ポリエチレン(Neo-zex丸R(甲第2号証には登録商標を示す「Rを丸で囲んだ符合」が記載されているが、Rを丸で囲んだ符合は審判ペーパーレスシステムで使用できないものであるから「丸R」と表示する。)」(左欄第18行)、
「比重:0.920〜0.945」(左欄第26行)、
「中密度ポリエチレンパウダーの粒度分布の傾向〔粒子径(μm)とひん度(任意目盛)の関係〕」(左欄下側に記載のグラフ)。
〔3〕刊行物3:「三井石油化学グループ・商品総合カタログ」三井石油化学工業株式会社、1988年10月発行、第54頁〜第55頁、第218頁(特許異議申立人山口雅行が提出した甲第3号証)
該刊行物には、中密度ポリエチレン・ネオゼックスに関して次の事項が記載されている。
「ネオゼックスは、チグラー系触媒を使用して溶液重合法により製造される直鎖状中密度ポリエチレンで、当社の製造するポリエチレン(ミラソン、ウルトゼックス、ネオゼックス、ハイゼックス)の中で、ウルトゼックスとハイゼックスの中間の密度を有します。」(第54頁左欄第2行〜第6行)、
「ASTM試験法2006Hによる密度が0.921g/cm3、ASTM試験法3510Fによる密度が0.935g/cm3、ASTM試験法45100Lによる密度が0.945g/cm3であること」旨(第55頁下欄に記載の表)、
「フィルム・シート用樹脂材として、ネオゼックスが包装一般、水物包装、重包装、シュリンク包装、ストレッチ包装の用途に使用されており、強靱性の他に、耐ストレスクラッキング性、腰の強さ、耐引裂性、熱間シール性である特長があること」旨(第218頁下欄に記載の表)。
〔4〕刊行物4:特開昭63-33404号公報(特許異議申立人山口雅行が提出した甲第4号証)
該刊行物には、エチレン共重合体の製造方法に関して次の事項が記載されている。
「エチレン少なくとも90モル%と1種以上の炭素数3〜8のα-オレフイン10%以下とを含有し、顆粒状で作られる密度0.91-0.94g/cm3のエチレン共重合体の連続的製造方法において、……方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明はエチレンと他のα-オレフイン類と共重合してフイルムとして押出し成形したときにピンストライピングとゲル・ストリーキングに対して改善された抵抗性をもつことを特徴とする共重合体を製造する改良された方法に関する。」(第2頁右上欄第2行〜第6行)、
「本発明に従つて製造された共重合体は、ピンストライピングやゲル・ストリーキングの発生が減り、加工のために使用される押出し成形装置に対する腐蝕が少 ないことに加えて、機械的性質も優れていることに特徴がある。」(第3頁左上欄第12行〜第16行)、
「本発明の触媒組成物を用いて製造したエチレン共重合体の密度は約0.91g/cm3-約0.94g/cm3、好ましくは0.916g/cm3-約0.925g/cm3である。」(第3頁右上欄第1行〜第4行)、
「本発明の触媒組成物を用いて製造された共重合体はモル%にして大部分(90%以上)のエチレンと小部分(10%以下)の1種以上の炭素数が3-8のα-オレフインとから成る共重合体である。」(第3頁右上欄第17行〜同頁左下欄第1行)、
「本発明の触媒組成物を用いて製造された共重合体は、標準すなわち正規荷重メルトインデツクスが0.5g/10分-5.0g/10分、好ましくは0.8g/10分-4.0g/10分であり」(第3頁左下欄第9行〜第12行)、
「本発明の触媒組成物を用いて製造されたエチレン共重合体のメルトフロー比(MFR)は22-32,好ましくは25-30である。」(第3頁右下欄3〜5行)、
「本発明の触媒組成物を用いて製造された共重合体は0.02-0.05インチ(0.5〜1.3mm)、通常0.02-0.04インチ(0.5-1.0mm)程度の直径をもつ顆粒状材料である。粒径は以下に説明するように、流動床反応器内で重合体粒子を容易に流動化するために重要である。これらの顆粒状材料には小量(全重合体生成物の4.0%以下)の微粉も含まれており、これらの微粉は直径が0.005インチ(0.1mm)以下である。」(第3頁右下欄第17行〜第4頁左上欄第5行)、
「メルトインデックス……フローインデックス……上記メルトインデックス試験で使用した荷重の10倍の荷重で測定。
メルトフロー比(MFR)=(フローインデックス)/(メルトインデック ス)
」(第9頁左下欄15行〜右下欄2行)。
〔5〕刊行物5:「最新ラミネート加工便覧」加工技術研究会、1989年6月30日発行、第283頁〜第296頁(特許異議申立人山口雅行が特許異議申立期間経過後の平成13 年11月20日付けで提出した上申書において甲第5号証として提出したもの)
該刊行物には、LLDPE・VLDPEに関して、次の事項が記載されている。
「C4とC6以上とでは各種の強度特性が大きく異なる。炭素数の多いα-オレフィンを高級アルファオレフィン(HAO)と呼ぶため、特に強度特性に優れるC6以上のα-オレフィンをコモノマーとするLLDPEをHAO-LLDPEと呼んで、C4(ブテン-1)をコモノマーとするLLDPEと区別することが行われている。」(第286頁左欄第6行〜第11行)、
「C4-LLDPEに比べHAO-LLDPEが高い引裂強度を有していること」旨(第286頁右欄に記載の図7)
〈4〉特許法第29条第1項の申立理由について
〔1〕本件第1発明について
本件第1発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「(a)エチレンと炭素数6のα-オレフィンの共単量体を2〜15重量%含有する線型エチレン共重合体20〜80重量%、
(b)無機フィラー80〜20重量%、及び
(c)炭素数9〜40の飽和又は不飽和の脂肪酸エステルを、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.1〜15重量部、
を配合した樹脂組成物を、フィルム状に成形した後、延伸することを特徴とする、通気性フィルムの製造方法であって、
(a)成分が、
密度:0.94 5g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
の無機フィラーである、
方法。」の点で一致しているが、次の諸点で両者は相違している。
(1)本件第1発明が、(a)成分について「フローレシオ:6〜10」と特定しているのに対し、刊行物1に該構成についての記載がない点。
(2)本件第1発明が、(a)成分について「沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下」と特定しているのに対し、刊行物1に該構成についての記載がない点。
(3)本件第1発明が、(a)成分について「平均粒径:0.01〜0.7mm」と特定しているのに対し、刊行物1に該構成についての記載がない点。
(4)本件第1発明が、(a)成分について「粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84m以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下」と特定しているのに対し、刊行物1に該構成についての記載がない点。
(5)本件第1発明が、(b)成分について「かさ密度:0.2〜0.6g/cm3」と特定しているのに対し、刊行物1に該構成についての記載がない点。
(なお、エチレン共重合体と無機フィラーの配合割合が前者では「重量%」で規定され、後者では「体積%」で規定されているが、無機フィラーの比重がエチレン共重合体よりもはるかに高いことを考慮すると、エチレン共重合体と無機フィラーの配合割合において両者間に重複する範囲があるからエチレン共重合体と無機フィラーの配合割合が相違点となることは考え難い。)
特許異議申立人の言うとおり、刊行物2には、中密度ポリエチレンパウダーであるネオゼックス(登録商標名)の粒径分布図が示されており、この分布図からすると本件第1発明における「平均粒径:0.01〜0.7mm、粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84m以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下」の構成要件を満足するのかも知れないが、そもそもネオゼックス(登録商標名。三井石油化学株式会社製)はエチレン-ブテン-1共重合体であり(必要ならば特開平5-5972号公報第4頁参照)、本件第1発明における「エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンの共単量体」とは別異のものであるから、その平均粒径や粒径分布を立証しても、それは本件第1発明に係るポリエチレン共重合体の平均粒径や粒径分布には直接つながらない。
そして、本件第1発明は、この相違点(3)の平均粒径や相違点(4)の粒径分布の他に、相違点(1)のフローレシオ、相違点(2)の沸騰ノルマルヘキサン抽出量や相違点(5)のかさ密度の諸点でも、先に述べたように相違しているのであるから、本件第1発明は刊行物1に記載された発明であるとすることができない。
〔2〕本件第2発明〜第4発明について
(1)本件第2発明について
本件第2発明は本件第1発明に対し、延伸倍率について「延伸倍率1.2〜6倍で延伸する」という限定をしたものであるから、本件第1発明が刊行物1に記載された発明であるとすることができない以上、本件第2発明も刊行物1に記載された発明であるとすることができない。
(2)本件第3発明について
本件第3発明は本件第1発明に対し「請求項1又は2に記載の方法により製造された衛生材料用フィルム」というように、請求項1又は2に記載の方法により製造された「衛生材料用フィルム」という「物」のカテゴリーで表現すると共にその用途を「衛生材料用」と限定したものであるから、本件第1発明の全ての構成要件に加えてカテゴリーの相違及び用途の限定が更に付加されたものと言える。それ故、本件第1発明が刊行物1に記載された発明であるとすることができない以上、本件第3発明も刊行物1に記載された発明であるとすることができない。
(2)本件第4発明について
本件第4発明は本件第1発明に対し「請求項1又は2に記載の方法により製造された建材用フィルム」というように、請求項1又は2に記載の方法により製造された「建材用フィルム」という「物」のカテゴリーで表現すると共にその用途を「建材用」と限定したものであるから、本件第1発明の全ての構成要件に加えてカテゴリーの相違及び用途の限定が更に付加されたものと言える。それ故、本件第1発明が刊行物1に記載された発明であるとすることができない以上、本件第4発明も刊行物1に記載された発明であるとすることができない。
〈5〉特許法第29条第2項の取消理由について
〔1〕本件第1発明について
本件第1発明と刊行物1に記載された発明との一致点及び相違点については〈4〉で述べたとおりである。
そして、特許異議申立人の言うとおり、刊行物2に、中密度ポリエチレンパウダーであるネオゼックス(登録商標名。三井石油化学株式会社製)の粒径分布図が示されており、この分布図からすると本件第1発明における「平均粒径:0.01〜0.7mm、粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84m以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、」という構成要件を満足するのかも知れないが、そもそもネオゼックス(登録商標名。三井石油化学株式会社製)はエチレン-ブテン-1共重合体であり(必要ならば特開平5-5972号公報第4頁参照)、本件第1発明における「エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンの共単量体」とは別異のものであるから、それから本件第1発明における炭素数6以上の共重合体の平均粒径や粒径分布が示唆されるものではない。
また、刊行物3には、三井石油化学株式会社製のウルトゼックス(登録商標名。L-LDPE)やネオゼックス(登録商標名。MDPE)がフィルム・シート用樹脂材に使用され、引き裂き性に優れるという特徴を有することが記載されているが、顆粒や粉体であるか否かはもとより、その平均粒径や粒度分布については何ら記載されていない。
さらに、刊行物4には、触媒系に特徴を有するエチレン-α-オレフィン(炭素数3〜8)共重合体の製造法に特徴を有する発明について記載がされ、それによって得られた共重合体は0.5〜1.3mm程度の直径の平均粒径をもつ顆粒状材料であり、直径が0.1mm以下の微粉を4.0%以下含有することが記載されているが、微粉の割合が記載されているだけでは到底本件第1発明における3点の粒子径でその割合を規定する「1.68mm以下が70重量%以上、0.84m以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下であること」という粒径分布を示唆するものとは言えない。
その他、特許異議申立期間経過後に提出された刊行物5には、エチレンと炭素数6以上のα-オレフィンを共重合させたHAOについての記載はあるが、その平均粒径や粒径分布については何ら記載されていない。
してみると、本件第1発明と刊行物1に記載された発明との相違点である(3)の平均粒径や相違点(4)の粒径分布の点についてだけでも、刊行物2〜5の記載を併せても本件第1発明が容易に想到し得るものであるとは言えない。
そして、平均粒径が本件第1発明における数値範囲を満足するが粒径分布の点で本件第1発明における数値範囲を満足しない比較例8及び13に較べて、本件第1発明の実施例4〜10はいずれも、引張強度、透湿度、引裂強度などの点で優れていることが認められるのである。
これに加えて、本件第1発明と刊行物1に記載された発明との相違点である(1)フローレシオについては、刊行物4にメルトフロー比が22〜32であることが記載されてはいるものの、その測定条件は10倍の荷重をかけて測定しており、本件第1発明の約5倍の荷重をかけて測定したものとは条件が相違し、容易に比較類推ができないし、また、刊行物2、3、5にはフローレシオについて何ら記載されていない。
更に加えて、本件第1発明と刊行物1に記載された発明との相違点である(2)の沸騰ノルマルヘキサン抽出量や(5)の無機フィラーのかさ密度に関する相違点については、刊行物2〜5には何ら記載されていない。
してみると、本件第1発明は刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない。
〔2〕本件第2発明〜第4発明について
(1)本件第2発明について
本件第2発明は本件第1発明に対し、延伸倍率について「延伸倍率1.2〜6倍で延伸する」と言う限定をしたものであるから、本件第1発明が刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない以上、本件第2発明も刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない。
(2)本件第3発明について
本件第3発明は本件第1発明に対し「請求項1又は2に記載の方法により製造された衛生材料用フィルム。」というように、請求項1又は2に記載の方法により製造された「衛生材料用フィルム」と言う「物」のカテゴリーで表現すると共にその用途を「衛生材料用」と限定したものであるから、本件第1発明の全ての構成要件に加えてカテゴリーの相違及び用途の限定が更に付加されたものと言える。してみると、本件第1発明が刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、本件第3発明も刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
(3)本件第4発明について
本件第4発明は本件第1発明に対し「請求項1又は2に記載の方法により製造された建材用フィルム。」というように、請求項1又は2に記載の方法により製造された「建材用フィルム」と言う「物」のカテゴリーで表現すると共にその用途を「建材用」と限定したものであるから、本件第1発明の全ての構成要件に加えてカテゴリーの相違及び用途の限定が更に付加されたものと言える。してみると、本件第1発明が刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以上、本件第4発明も刊行物1に記載された発明又は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
〈6〉特許法第36条の取消理由について
特許異議申立人は本件明細書の特許請求の範囲の請求項1で特定する(a)成分の平均粒径のうち「平均粒径0.001〜0.21mm」の範囲のものは粒径分布の要件を勘案すると実現性が一般に困難である旨及び該(a)成分の平均粒径及び粒度分布の範囲に関する臨界的意義が発明の詳細な説明に記載されていない旨主張するが、訂正によりその平均粒径の下限が「0.01mm」となったこと、本件発明では(a)成分が合成後、粉砕された生成物と混合するなどの方法で特許請求の範囲の請求項1で特定する「平均粒径」及び「粒径分布」を満足するように調製されるので粒度分布曲線が正規分布をとるとは限らないこと及び本件明細書に実施例の他に(a)成分の平均粒径又は粒度分布のいずれかの量が本件特許請求の範囲の請求項1で特定する条件を満たしていない比較例が多数記載されている(比較例7〜14)こと等を考慮すると、本件明細書の記載は特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないものであるとまでは言えない。
【4】むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人山口雅行が提出した特許異議申立の理由及び証拠によっては本件第1発明〜第4発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明〜第4発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件第1発明〜第4発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
通気性フィルムの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)エチレンと炭素数6以上のα-オレフィン又はジオレフィンの共単量体を2〜15重量%含有する線型エチレン共重合体20〜80重量%、
(b)無機フィラー80〜20重量%、及び
(c)炭素数9〜40の飽和又は不飽和の脂肪酸エステルを、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.1〜15重量部、
を配合した樹脂組成物を、フィルム状に成形した後、延伸することを特徴とする、通気性フィルムの製造方法であって、
(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、
方法。
【請求項2】 延伸倍率1.2〜6倍で延伸する、請求項1記載の通気性フィルムの製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の方法により製造された衛生材料用フィルム。
【請求項4】 請求項1又は2に記載の方法により製造された建材用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた引張強度、外観、風合い及び耐引裂強度を有する通気性フィルムの製造方法及びその方法により製造された衛生材料用フィルム及び建材用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
オレフィン系樹脂と無機フィラーとの組成物からなるフィルム等を一軸又は二軸方向に延伸して、連通(貫通)したボイドを持った通気性フィルムは既に知られているが、これらフィルムは、薄肉かつ低延伸倍率で製造する場合、局部的なネッキングにより、厚みが不均一となってムラが発生し易く、著しく商品価値を損なうことが知られている。このため、例えば、特開昭62-18435号公報等に公知の第三添加物を添加した組成物が提案されており、この組成物を用いたフィルムは、使い捨て紙おむつ等の衛生材料への用途に使われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら樹脂組成物は、上記の欠点を補うには有効であるが、成形時の延伸性及び薄肉化した場合のフィルムの引裂強度が劣るという欠点を有している。本発明は、これ等の欠点を解消した通気性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、(a)線型エチレン共重合体と(b)無機フィラー及び(c)脂肪酸エステルからなる、上記目的が達成されて諸物性のバランスが良好な通気性フィルムを得て、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、(a)エチレンと炭素数6以上のα-オレフィン又はジオレフィンの共単量体を1〜20重量%含有する線型エチレン共重合体20〜80重量%、(b)無機フィラー80〜20重量%、及び(c)炭素数9〜40の飽和又は不飽和の脂肪酸エステルを、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.1〜15重量部を配合した樹脂組成物を、フィルム状に成形した後、延伸することを特徴とする、通気性フィルムの製造方法であって、
(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、
優れた外観、風合いを有する通気性フィルムの製造方法である。
【0006】
本発明の通気性フィルムを製造するのに好適な(a)成分の線型エチレン共重合体は、密度0.945g/cm3以下、メルトフローレート0.1〜20g/10分、共単量体含量2〜15重量%で、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が15重量%以下の線型低密度ポリエチレン(L-LDPE)であり、より好ましくは、密度0.935g/cm3以下、メルトフローレート0.1〜10g/10分、共単量体含量2〜10重量%で、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が10重量%以下のL-LDPEである。
【0007】
また、更により好ましくは、密度0.910〜0.935g/cm3、メルトフローレート0.3〜10g/10分、共単量体含量3〜10重量%で、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が8.5重量%以下のL-LDPEであり、最も好ましいものは、密度0.920〜0.930g/cm3、メルトフローレート0.5〜3g/10分、共単量体含量3〜10重量%で、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が5重量%以下のL-LDPEである。
【0008】
ここで、密度の測定はJIS K 6760-1971に準拠し、また、メルトフローレートの測定はASTM D1238(190℃)に準拠し、更に、共単量体含量は赤外線分光分析法により測定した。沸騰ノルマルヘキサン抽出量の測定は、後述の実施例中に記載した方法によった。
【0009】
密度が上記範囲を下回るL-LDPEは、延伸フィルムの通気性及び耐ブロッキング性の低下が大きく、逆に上記範囲を上回るものは、延伸フィルムの引張強度、引裂強度及び風合いが悪化する。
【0010】
また、メルトフローレートが、上記範囲を下回るものは成形加工性が悪く、逆に上回るものは成形加工性及び延伸フィルムの強度が低下する。
【0011】
また、共単量体含量が上記範囲をはずれるものは、延伸フィルムの強度及び剛性の点で好ましくない。
【0012】
また、沸騰ノルマルヘキサン抽出量が上記範囲を上回るものは、延伸フィルムの通気性及び耐ブロッキング性の低下が大きい。
【0013】
また、共単量体としては、炭素数6以上、好ましくは6〜24のα-オレフィン又はジオレフィンが用いられる。これら共単量体の代りに炭素数5以下のα-オレフィン又はジオレフィンを用いると、フィルム製造時の延伸性及び延伸フィルムの引張強度、引裂強度が劣るという欠点を有する。更に、フローレシオ(測定法は実施例中に記載した)が6〜10であるものが、延伸フィルムの引張強度及び引裂強度の点で好ましい。
【0014】
このような共重合体は、エチレンに、共単量体として、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、デセン-1、ドデセン-1、ヘキサデセン-1、ドコセン-1、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等の1種又は2種以上を共重合させて得られるものである。また、エチレンに2種以上の共単量体を共重合させる場合には、それらの共単量体の一部として、プロピレン、ブテン-1、1,3-ブタジエン等の炭素数5以下のα-オレフィン又はジオレフィンを、本発明の効果を著しく損なわない量で使用することができる。
【0015】
共重合体の製造法としては、圧力5〜2,500kg/cm2、温度50〜300℃の条件下でチーグラー型、バナジウム型又はカミンスキー型等の触媒を用い、エチレンと上記α-オレフィンを共重合させる。例えば、特公昭56-18132号公報等に記載された方法が知られている。
【0016】
本願発明おいて、得られる延伸フィルムの引裂強度MDとフィルム外観を特に良好にするには、顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体を用いるのが好ましく、特に、平均粒径が0.001〜0.7mm、好ましくは0.01〜0.6mmで、粒径分布が1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上及び0.21mm以下が1.5重量%以上、より好ましくは1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上及び0.21mm以下が10重量%以上の顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体を用いるのが好ましい。
【0017】
ここで、平均粒径と粒径分布の測定法は次の通りである。
【0018】
<平均粒径・粒径分布測定法>
(i)定義
線型エチレン共重合体を、各種サイズの規格篩を用いて粒径分別し、その重量分布をもって粒径分布とする。
【0019】
また、粒径分別された篩サイズ別重量パーセントを用いて算出される荷重平均篩サイズを持って平均粒径とする。
【0020】
(ii)装置・器具
1)振とう機
2)標準篩 JIS Z 8801に準拠
(3.5、10.5、20、32、48、70、145、200、350各メッシュ篩及び受け器)
3)上皿天秤
【0021】
(iii)試験方法
1)使用する標準篩及び受け器を毛ブラシで清掃後、エアーブローにて清掃する。
2)篩及び受け器の重量を測定する(w1)。各篩は受け器を底に目開きの細かいものより順に組み上げる。
3)試料100g±5gを上皿天秤にて秤取り(w2)、試料を最上段より入れる。
4)篩を振とう機に固定し、15分間振とうする。
5)篩を取り出し、試料の入った各篩及び受け器の重量を求める(w)。
【0022】
(iv)計算方法
1)粒径分布
各篩の分別物の重量パーセントを次式より求める。
W=〔(w-w1)/w2〕×100
ここで、W;各節の分別物の重量パーセント(wt%)
w:振とう後の試料を含めた各篩及び受け器の重量(g)
w1:各篩及び受け器の重量(g)
w2:試料の全重量(g)
2)平均粒径
各篩の分別物の重量パーセントを用い次式より平均粒径を求める。
D=Σ(Wn×dn)/100
ここで、D;試料の平均粒径(mm)
Wn:各篩の分別物の重量パーセント(wt%)
dn:各篩の目開きの大きさ(mm)
【0023】
また、線型エチレン共重合体を構成する共単量体として、直鎖状のα-オレフィン又は直鎖状のジオレフィンを用いた場合は、非直鎖状のα-オレフィン又は非直鎖状のジオレフィンを用いた場合に比べて、得られる延伸フィルムの引裂強度MDが著しく大きく、好ましいものである。
【0024】
本発明フィルムを製造するのに好適な(b)成分は、平均粒径10μm以下、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.5〜2μmの粒状無機フィラーで、かさ密度が0.1〜0.7g/cm3、好ましくは0.2〜0.6g/cm3、より好ましくは0.3〜0.5g/cm3のものである。ここで、平均粒径を求めるには、空気透過法により比表面積を測定し、次式により算出する。
dm:平均粒子径(μm)
dm=60,000/(ρ・Sw) ρ:粉体の真比重(g/cm3)
Sw:粉体の比表面積(cm2/g)
【0025】
比表面積の測定装置としては、例えば、島津粉体比表面積測定装置SS-100型を用いることができ、Kozeny-Carmanの式を適用して比表面積を求める。
【0026】
また、かさ密度の測定法は、JIS K 5101に準拠した。
【0027】
平均粒径が上記範囲より大きいものは、延伸フィルムの外観を阻害し、また厚さが100μm以下の薄い延伸フィルムを製造する場合において、穴あき、延伸ムラ等が発生し、安定した延伸性が損なわれる。かさ密度が、上記範囲を下回ると延伸フィルムの通気性が低下し、逆に上回ると引張強度が損なわれる。「粒状」とは、球状、方形状又はこれに近い形状をしたもので、針状、棒状又は板状でないものをいう。無機フィラーの形状が、針状、棒状又は板状では延伸フィルムに満足なミクロボイドを付与できない。
【0028】
このような無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、ゼオライト、非晶性アルミノシリケート、クレー、合成シリカ、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、中でも炭酸カルシウム、ゼオライト、非晶性アルミノシリケート、硫酸バリウム、合成シリカ、水酸化マグネシウム等が好ましく、特に炭酸カルシウム及び硫酸バリウムが好ましい。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。無機フィラー(b)の含水量は3,000ppm以下であり、1,000ppm以下のものが好ましい。含水量がこれを上回ると発泡現象が起こり易く、安定したフィルム成形が難しくなったり、色相不良やフィルム等の外観不良が発生したり、フィラーが二次凝集し易くなり、これによって、更に外観不良、延伸不良が起こり易くなる傾向となる。
【0029】
本発明のフィルムを製造するのに好適な(c)成分は、炭素数9〜40の飽和又は不飽和の脂肪酸エステルであり、不飽和脂肪酸エステルの具体例としては、(ポリ)エチレングリコールオレエート、(ポリ)プロピレングリコールオレエート、グリセリルオレエート、ソルビタンオレエート、(ポリ)エチレングリコールソルビタンオレエート、ブチルオレエート、ピナコールオレエート、m-クレゾールオレエート、ペンタエリストールオレエート、グリセリルリノレネート、グリセリルリシノレート、メチルリシノレート、エチルリシノレート、ブチルリシノレート、メチルアセチルリシノレート、エチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、(ポリ)エチレングリコールリシノレート、グリセリルアセチルリシノレート、グリセリルエルシエート等を挙げることができる。中でも、グリセリルヒドロキシ脂肪酸エステルが良く、特にグリセリルリシノレートが好ましい。
【0030】
また、飽和エステルの具体例としては、(ポリ)エチレングリコールラウレート、(ポリ)プロピレングリコールラウレート、グリセリルラウレート、ソルビタンラウレート、(ポリ)エチレングリコールソルビタンラウレート、グリセリルミリステート、グリセリルパルミテート、ブチルステアレート、エチレングリコールステアレート、プロピレングリコールステアレート、ピナコールステアレート、m-クレゾールステアレート、(ポリ)エチレングリコールステアレート、(ポリ)プロピレングリコールステアレート、グリセリルステアレート、ペンタエリスリトールステアレート、ソルビタンステアレート、(ポリ)エチレングリコールソルビタンステアレート、メチルヒドロキシステアレート、エチルヒドロキシステアレート、
【0031】
ブチルヒドロキシステアレート、メチルアセチルヒドロキシステアレート、エチルアセチルヒドキシステアレート、ブチルアセチルヒドロキシステアレート、エチレングリコールヒドロキシステアレート、プロピレングリコールヒドロキシステアレート、ピナコールヒドロキシステアテート、m-クレゾールヒドロキシステアレート、(ポリ)エチレングリコールヒドロキシステアレート、(ポリ)プロピレングリコールヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトールヒドロキシステアレート、ソルビタンヒドロキシステアレート、エチレングリコールソルビタンヒドロキシステアレート、グリセリルヒドロキシステアレート、グリセリルアセチルヒドロキシステアレート等を挙げることができる。
【0032】
中でもエチレングリコールヒドロキシステアレート、プロピレングリコールヒドロキシステアレート、ピナコールヒドロキシステアレート、m-クレゾールヒドロキシステアレート、(ポリ)エチレングリコールヒドロキシステアレート、(ポリ)プロピレングリコールヒドロキシステアレート、ペンタエリスリトールヒドロキシステアレート、ソルビタンヒドロキシステアレート、エチレングリコールソルビタンヒドロキシステアレート、グリセリルヒドロキシステアレート、グリセリルアセチルヒドロキシステアレート等のグリセリルヒドロキシ飽和脂肪酸エステルが好ましい。最も好ましいのはグリセリルヒドロキシステアレート、特にグリセリル-12-ヒドロキシステアレートである。
【0033】
脂肪酸エステルとして飽和エステルを使用した場合は、不飽和エステルを使用した場合に比べて、成形時の発煙が殆どなく、かつ、得られた延伸フィルムが無臭性に優れる点でより好ましい。
【0034】
これらの(a)、(b)及び(c)各成分の配合割合は、(a)成分と(b)成分については、(a)成分と(b)成分の合計量を基準として(a)成分20〜80重量%と(b)成分80〜20重量%であり、好ましくは(a)成分30〜70重量%と(b)成分70〜30重量%、より好ましくは(a)成分35〜60重量%と(b)成分65〜40重量%である。この(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対し、(c)成分は0.1〜15重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは1〜5重量部の配合割合である。
【0035】
(b)成分が上記範囲を下回ると、延伸フィルムの通気性及び風合いが低下し、逆に上記範囲を上回ると、フィルム製造時の延伸性、又は延伸フィルムの引張強度及び引裂強度が低下し、商品価値を著しく損なうといった欠点を生じる。
【0036】
(c)成分が上記範囲を下回ると、延伸フィルムを薄肉かつ低延伸倍率で製造する場合、局部的なネッキングにより、厚みが不均一となってムラが発生し、著しく商品価値を損ない、逆に上記範囲を上回ると、成形加工性が低下し、延伸フィルムの通気性、耐ブロッキング性が低下し好ましくない。
【0037】
延伸フィルムの引張強度、通気性、外観、風合い、延伸性、引裂強度のバランスを特に良好にさせるには、好ましくは、(a)成分として前述の顆粒状又は粉体状のものを使用し、(a)成分と(b)成分とをヘンシェルミキサー等のブレンダーで良く混合し、この混合物に(c)成分を更に添加して混合したものを二軸混練押出機、バンバリーミキサー又はニーダー等で溶融混練後、ペレット化するといった順序で製造した組成物を使用することが望ましい。
【0038】
本発明においては、組成物に通常使用される酸化防止剤、安定剤、分散剤、滑剤、アンチブロッキング剤、顔料、防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤等の添加剤を配合してもよい。
【0039】
また、エチレンと炭素数5以下のα-オレフィン又はジオレフィンとの共重合体、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の、線型エチレン共重合体(a)以外の樹脂やゴム成分を本発明の効果を著しく損なわない範囲でブレンドしてもよい。
【0040】
本発明では、上記組成物をTダイ成形、インフレーション成形等によりフィルム、シート又はテープ等のフィルム状に成形した後、これを通常の延伸温度で、一軸又は二軸方向に延伸して、衛生材料用フィルム、建材用フィルムのような通気性フィルムを製造する。この延伸方法は、従来より知られた方法で良く、具体的には、一軸延伸ではフラット状でのロール延伸、オーブン延伸又はチューブ状延伸等、また二軸延伸ではフラット状でのテンター延伸、チューブ状でのインフレーション延伸、マンドレル延伸等の方法がある。なお、延伸倍率は、1.2〜6.0倍、好ましくは1.2〜4.0倍が適している。
【0041】
得られたフィルムの厚さは、5〜300μm、好ましくは10〜50μmが実用的である。
【0042】
このようにして得られたフィルムは、ASTM D1922-61Tによる引裂強度MDが10g以上であり、好ましくは15g以上、特に好ましくは20g以上である。引裂強度MDがこの範囲未満のフィルムでは、本発明が目的とする用途への満足な適用ができなくなる。また、ASTM D882-67による引張強度(TD破断点)が700g/15mm幅以上であり、JIS Z0308-1973による透湿度が5,100g/m2・24hr以上であり、外観、風合いが優れたものである。
【0043】
【発明の効果】
本発明の通気性フィルムは、フィルム製造時の延伸性が良好で、特に引裂強度が優れており、引張強度、通気性、外観、風合いがバランスしたものである。そのため、紙おむつ、生理用品、医療用着衣等の衛生材料用や、結露防止材等の建材用として有用である。
【0044】
なお、(c)成分として飽和脂肪酸エステルを使用したときは、成形時の発煙が殆どなく、得られたフィルムは無臭性が優れたものである。
【0045】
【実施例】
実施例1〜3及び比較例1〜6
第1表に示した(a)成分相当のエチレン共重合体、(b)成分の無機フィラー及び(c)成分の脂肪酸エステルを用いて、先ず、(a)及び(b)成分をヘンシェルミキサーで混合し、これに(c)成分を添加・混合して、二軸混練押出機(スクリュー径65mm)を用い、温度200℃で押出して、それぞれの組成物のペレットを得た。
なお、比較例6は(a)成分相当品として、高圧ラジカル重合法によるポリエチレンを用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
これらの組成物を、次の方法でフィルムに加工した。
組成物を押出機(スクリュー径50mm、L/D24)及びTダイ(300mm幅、リップ幅1.2mm)を用い、230℃でフィルムに押出し、これを短区間熱延伸ロールにより、延伸温度85℃、延伸倍率3倍で一軸延伸して、厚み30μmの通気性フィルムを製造した。
【0049】
このようにして得たフィルムの品質を以下の項目について評価した。測定法は次のとおりである。評価結果を第2表に示した。
【0050】
なお、メルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238(190℃)により、またフローレシオ(FR)は、JIS K 7210-1975(190℃)により、メルトインデクサーを用い、次の式に基づいて求めた。
FR=(荷重10kgでのMFR)/(荷重2.16kgでのMFR)
【0051】
また、フィラーの平均粒径は、コールターカウンター法(分散方法は、28KC超音波5分間、0.01%ヘキサメタリン酸ナトリウムによる)にて求めた数値である。
【0052】
▲1▼ 沸騰ノルマルヘキサン抽出量
空冷インフレーション成形によって、200℃でフィルム厚み30μmに押し出したフィルム5gを、円筒ろ紙に入れた後、200mlノルマルヘキサンを注入したソックスレー抽出装置で、沸点にて8時間抽出を行う。この円筒ろ紙を真空乾燥機で60分間乾燥した後、その減量を測定する。
【0053】
▲2▼ 延伸性 最高倍率
組成物を押出機(スクリュー径50mm、L/D24)及びTダイ(300mm幅、リップ幅1.2mm)を用いて230℃でフィルムに押出し、これを短区間熱延伸ロールで、延伸温度85℃にて一軸延伸し、フィルムが切れる最大の延伸倍率を測定する。
【0054】
▲3▼ 引張強度
ASTM D882-67に準拠して測定。
【0055】
▲4▼ 透湿度
JIS Z 0208-1973に準拠して測定。
【0056】
▲5▼ 引裂強度MD
ASTM D1922-61Tに準拠して測定。
【0057】
▲6▼ 臭気
成膜したフィルムを裁断して30gを三角フラスコに取り、これを官能テストで評価した。
A:殆ど臭気なし B:若干臭う C:臭う
【0058】
▲7▼ 発煙
フィルム成形時の発煙の有無を評価した。
【0059】
▲8▼ フィルム外観試験
成膜したフィルム表面の外観異常(すじ、むら、ぶつ等)を目視にて観察した。
A:良好 B:僅かに不良 C:著しく不良
【0060】
【表3】

【0061】
実施例4〜8及び比較例7〜12
(a)成分相当のエチレン共重合体の代りに、第2表に示す種々の粒径分布を有するエチレン共重合体を使用した以外は、実施例1〜3と同様にしてそれぞれの組成物を得て、実施例1〜3と同様に、フィルムに加工し評価した。評価結果は第3表のとおりである。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
実施例9〜11及び比較例13、14
(a)成分相当のエチレン共重合体の代りに、第3表に示すエチレン共重合体を使用した以外は、実施例1〜3と同様にしてそれぞれの組成物を得て、実施例1〜3と同様に、フィルムに加工し評価した。評価結果は、共単量体の種類に関して比較できるように前記の例と共に第4表に示した。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
実施例12、13及び比較例15、17
第4表に示した(a)成分のエチレン共重合体、(b)成分の無機フィラー及び(c)成分の脂肪酸エステルを用いて、実施例1〜3と同様にしてそれぞれの組成物を得て、実施例1〜3と同様に、フィルムに加工し評価した。評価結果を表5に示した。
【0068】
【表8】

【0069】
【表9】

 
訂正の要旨 訂正事項
a. 特許請求の範囲の請求項1の「(a)成分が、」の後の「密度:0.945g・cm3以下」、を「密度:0.945g/cm3以下」と訂正する。
b.同「メルトフローレート・・・/10分」の後に、改行して「フローレシオ:6〜10、」を挿入する。
c.同「平均粒径:0.001〜0.7mm」を「平均粒径:0.01〜0.7mm」と訂正する。
d.同「線型ポリエチレン共重合体である、」を「線型エチレン共重合体であり、」と訂正する。
e.上記の後に、改行して、
「(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、」
を挿入する。
f.詳細説明〔0005〕の「ASTM D1922-61Tによる・・・100g/m2・24hr以上であり」を削除し、
「(a)成分が、
密度:0.945g/cm3以下、
メルトフローレート:0.1〜20g/10分、
フローレシオ:6〜10、
沸騰ノルマルヘキサン抽出量:15重量%以下、
平均粒径:0.01〜0.7mm、
粒径分布:1.68mm以下が70重量%以上、0.84mm以下が50重量%以上、0.21mm以下が1.5重量%以上35重量%以下で、
顆粒状又は粉体状の線型エチレン共重合体であり、
(b)成分が、
平均粒径:0.1〜5μm、
かさ密度:0.2〜0.6g/cm3、
の無機フィラーである、」
を挿入する。
異議決定日 2003-01-24 
出願番号 特願平10-114453
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C08J)
P 1 651・ 121- YA (C08J)
P 1 651・ 531- YA (C08J)
P 1 651・ 535- YA (C08J)
P 1 651・ 113- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 2000-12-08 
登録番号 特許第3137604号(P3137604)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 通気性フィルムの製造方法  
代理人 津国 肇  
代理人 津国 肇  
代理人 篠田 文雄  
代理人 篠田 文雄  

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