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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1076513
異議申立番号 異議2000-73691  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-06-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-29 
確定日 2003-04-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第3029612号「合成樹脂製食品容器」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3029612号の請求項1ないし8に係る特許を取り消す。 
理由 I 手続の経緯

特許第3029612号の請求項1ないし8に係る発明についての手続の経緯は、およそ次のとおりである。
(1)特許出願 平成11年2月4日(優先権主張平成10年9月22日)
(2)特許権の設定の登録 平成12年2月4日
(3)特許掲載公報の発行 平成12年4月4日
(4)特許異議申立人三菱化学フォームプラスティック株式会社(以下「異議申立人甲」という。)による特許異議の申立て 平成12年9月29日
(5)特許異議申立人出光石油化学株式会社(以下「異議申立人乙」という。)による特許異議の申立て 平成12年10月4日
(6)特許の取消理由の通知 平成12年12月26日(発送日)
(7)特許権者からの特許異議意見書の提出及び訂正請求(以下「前回訂正請求」という。前回訂正請求に係る訂正を以下「前回訂正」という。) 平成13年2月23日
(8)異議の決定(取消決定。以下「前回異議決定」という。) 平成13年3月26日
(9)特許権者並びに異議申立人甲及び乙への前回異議決定の決定謄本の送達 平成13年4月11日
(10)前回異議決定に対する取消訴訟の提起 平成13年5月10日
(11)同取消訴訟の判決言渡〔東京高等裁判所平成13年(行ケ)第210号、前回異議決定の取消〕 平成13年9月26日(確定済み。当該判決を以下「確定判決」という。)
(12)ファクシミリによる特許権者への問い合わせ 平成14年1月31日
(13)同じく異議申立人甲への問い合わせ 平成14年1月31日
(14)同じく異議申立人乙への問い合わせ 平成14年1月31日
(15)異議申立人甲からの回答書の提出 平成14年2月13日
(16)異議申立人乙からの回答書の提出 平成14年2月12日
(17)特許権者からの回答書(以下「特許権者の回答書」という。)の提出 平成14年3月4日
(18)再度の特許の取消理由の通知 平成14年4月5日(発送日)
(19)特許権者からの再度の特許異議意見書の提出及び再度の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。本件訂正請求に係る訂正を以下「本件訂正」という。) 平成14年6月4日(本件訂正請求に係る訂正請求書については、平成14年7月9日付けで手続補正があった。)
(20)前回訂正請求の取下げ 平成14年9月18日(受入日)
(21)訂正拒絶理由の通知 平成14年10月8日(発送日)
(22)特許権者からの意見書の提出 平成14年12月6日

II 本件訂正の適否について

1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求は、特許第3029612号発明の願書に添付した明細書を平成14年6月4日付け訂正請求書に添付した明細書(以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正をすることを求めるものである。

2 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のア〜イのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物を成形してなる、底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
を、
「【請求項1】(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる、底部の厚みが0.3〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
に訂正する。
イ 同請求項2の記載について、
「【請求項2】熱可塑性樹脂がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の合成樹脂製食品容器。」
を、
「【請求項2】(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる、底部の厚みが0.3〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、前記両連続相を有するシートが、下記式(II)で表される体積変化率と、下記式(III)で表される重量減少率とを同時に具備している、座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。
V’/V = 0.5〜2.5 (II)
[式中、V’は25℃のテトラヒドロフランに24時間浸漬後のシートの体積(cm3)を示し、Vは浸漬前のシートの体積(cm3)を示す。]
(W-W’)/(W×nPS)≧0.7 (III)
[式中、W’は25℃のテトラヒドロフランに24時間浸漬後のシートの重量(g)を示し、Wは浸漬前のシートの重量(g)を示し、nPSは浸漬前のシートのスチレン系樹脂の含有比(重量%)を示す。]」
に訂正する。

3 本件訂正の適否の検討
(1)先ず、アの訂正について検討する。
(1-1)請求項1の記載の分説
訂正前の明細書(特許の設定登録時の明細書)の請求項1の記載は、便宜上次のように、容器材料に関する要件(要件P)、容器形状に関する要件(要件Q)及び容器物性に関する要件(要件R)に分説することができる。
「P (A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物を成形してなる、
Q 底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、
R 座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
訂正明細書の請求項1の記載も、便宜上次のように、容器材料に関する要件(要件P’)、容器形状に関する要件(要件Q’)及び容器物性に関する要件(要件R)に分説することができる。
「P’ (A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる、
Q’ 底部の厚みが0.3〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、
R 座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
(1-2)請求項1の記載の対比
訂正前の明細書の請求項1の記載と訂正明細書の請求項1の記載とを対比すると、(i)容器材料に関する要件について、前者の要件P中の「(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物」が、後者の要件P’中の「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」に、(ii)容器形状に関する要件について、前者の要件Q中の「底部の厚みが0.1〜3mm」が、後者の要件Q’中の「底部の厚みが0.3〜3mm」に、それぞれ変更されており、容器物性に関する要件については変更がないことが認められる。
(1-3)訂正の目的の適否
前記(i)の変更は、容器材料について、「(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%含有する樹脂組成物」から「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」に、樹脂組成物の組成割合の範囲をより狭い範囲に限定し、かつ、樹脂組成物の存在形態を限定するものであり、前記(ii)の変更は、容器形状について、「底部の厚みが0.1〜3mm」から「底部の厚みが0.3〜3mm」に、底部の厚みの範囲をより狭い範囲に限定するものであるから、全体としてアの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということができる。
(1-4)新規事項の追加の有無
訂正前の明細書には、【0007】(段落番号を示す。以下同じ。)に、容器形状に関し、「底部の厚みは好ましくは0.1〜3mm、特に好ましくは0.3〜2mmであり」との記載があり、この記載から、容器の底部の厚みの下限を0.3mmとし上限を3mmとすること、すなわち容器の「底部の厚みが0.3〜3mm」とすることは、直接的かつ一義的に導き出されるものと認めて差し支えないから、前記(ii)の変更は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
しかし、訂正前の明細書又は図面には、容器材料について、それが「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」であることは記載されていないし、このことが訂正前の明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものとも認められないから、前記(i)の変更は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。
(1-5)したがって、全体としてアの訂正は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。
(2)次に、イの訂正について検討する。
(2-1)請求項2の記載の分説
訂正前の明細書の請求項2の記載は、便宜上次のように、容器材料に関する要件(要件S)、容器形状に関する要件(要件T)及び容器物性に関する要件(要件V)に分説することができ、かつ独立形式に改めることができる。
「S (A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート60〜3重量%を含有する樹脂組成物を成形してなる、
T 底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、
V 座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
訂正明細書の請求項2の記載も、便宜上次のように、容器材料に関する要件(要件S’)、容器形状に関する要件(要件T’)、シート物性に関する要件(要件U)及び容器物性に関する要件(要件V)に分説することができる〔式(II)、(III)の挿入位置を変更してある。〕。
「S’ (A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシートを成形してなる、
T’ 底部の厚みが0.3〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、
U 前記両連続相を有するシートが、下記式(II)で表される体積変化率と、下記式(III)で表される重量減少率とを同時に具備している、
V’/V = 0.5〜2.5 (II)
[式中、V’は25℃のテトラヒドロフランに24時間浸漬後のシートの体積(cm3)を示し、Vは浸漬前のシートの体積(cm3)を示す。]
(W-W’)/(W×nPS)≧0.7 (III)
[式中、W’は25℃のテトラヒドロフランに24時間浸漬後のシートの重量(g)を示し、Wは浸漬前のシートの重量(g)を示し、nPSは浸漬前のシートのスチレン系樹脂の含有比(重量%)を示す。]
V 座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。」
(2-2)請求項2の記載の対比
訂正前の明細書の請求項2の記載と訂正明細書の請求項2の記載とを対比すると、(iii)容器材料に関する要件について、前者の要件S中の「(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物」が、後者の要件S’中の「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」に、(iv)容器形状に関する要件について、前者の要件T中の「底部の厚みが0.1〜3mm」が、後者の要件T’中の「底部の厚みが0.3〜3mm」に、それぞれ変更されており、(v)後者には前者にシート物性に関する要件である要件Uが加入されており、容器物性に関する要件については変更がないことが認められる。
(2-3)訂正の目的の適否
前記(iii)及び(iv)の変更は、前記のアの訂正における(i)及び(ii)の変更と同様であるが、前記(v)の加入については、要件Uの式(III)において、「nPSは浸漬前のシートのスチレン系樹脂の含有比(重量%)を示す。」との定義に従って、nPSに(A)成分のスチレン系樹脂の重量%の数値(70〜97)を代入した場合、同式を満足することはあり得ないことが明らかであるから、式(III)は意味不明であり、ひいては要件Uは意味不明である。そして、一般に、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには、訂正後の特許請求の範囲の記載の意味が明確でなければならないことはいうまでもない。
したがって、全体としてイの訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項をも目的とするものではない。
(2-4)新規事項の追加の有無
訂正前の明細書には、【0014】に、(B)成分の熱可塑性樹脂に関し、「ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートが好ましい。」との記載があり、さらに、【0007】に、容器形状に関し、「底部の厚みは好ましくは0.1〜3mm、特に好ましくは0.3〜2mmであり」との記載があり、これらの記載から、(B)成分の熱可塑性樹脂をポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートに特定した容器について、底部の厚みの下限を0.3mmとし上限を3mmとすること、すなわち同容器の「底部の厚みが0.3〜3mm」とすることは直接的かつ一義的に導き出されるものと認めて差し支えないから、前記(iv)の変更は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
また、訂正前の明細書には、要件Uに関し、【0026】に「(i)このようなシートは、特に下記式(II)で表される体積変化率と、下記式(III)で表される重量減少率の関係を満たすものであること。」(式の記載は省略)との記載があり、これと【0014】の前記記載とから、(B)成分の熱可塑性樹脂をポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートに特定したシートについて、「前記両連続相を有するシートが、下記式(II)で表される体積変化率と、下記式(III)で表される重量減少率とを同時に具備している」(式の記載は省略)とすることは、式(III)が前記のとおり意味不明のものであることは別として、直接的かつ一義的に導き出されるものと認めて差し支えないから、前記(v)の加入は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
しかし、訂正前の明細書又は図面には、容器材料について、それが「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」であることは記載されていないし、このことが訂正前の明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものとも認められないから、前記(iii)の変更は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。
(2-5)したがって、全体としてイの訂正は、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではない。

4 特許権者の主張に対して
(1)特許権者は、本件訂正請求に係る平成14年6月4日付け訂正請求書記載の「請求の原因」において、アの訂正における前記(i)の変更及びイの訂正における前記(iii)の変更に関して、(A)成分の下限値である70重量%及び(B)成分の上限値である30重量%は、訂正前の明細書の実施例4、6に記載され、また、容器材料として両連続相を有するシートを用いることは、同明細書の【0021】〜【0029】(特に【0022】)、【0040】、【0046】の表1、【0047】、【0048】の表2等に記載されている旨主張している。
しかし、これらの段落の記載からは、以下の(1-1)〜(1-2)のとおり、前記(i)、(iii)のように変更することは、直接的かつ一義的に導き出されるものではない。
(1-1)先ず、訂正前の明細書の【0021】、【0023】、【0025】〜【0029】、【0040】及び【0047】の記載について検討する。
【0021】には容器の成形方法等の説明が、【0023】には式(I)等の説明が、【0025】にはシート中の両連続相の存在割合の説明が、段落【0026】〜【0027】には式(II)及び式(III)等の説明が、【0028】〜【0029】にはシートの寸法変化又は寸法変形に関するパラメーター等の説明が、【0040】及び【0047】には無発泡容器及び発泡容器の実施例及び比較例の概略が、それぞれ記載されているものの、容器材料が「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート(訂正明細書の請求項1)」又は「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート(訂正明細書の請求項2)」(以下では、訂正明細書の請求項2に係る後者の記載は省略)であることは、これらの段落には記載されていないし、これらの段落を含む訂正前の明細書又は図面の記載から直接的かつ一義的に導き出されるものでもない。
(1-2)次に、訂正前の明細書の【0022】及び【0024】、【0046】の表1及び【0048】の表2の記載について検討する。
(1-2-1)【0022】には、「本発明の食品容器及び発泡食品容器が上記の(A)及び(B)成分を含有する樹脂組成物からなるシートを成形して得られるものの場合、このシートは無発泡又は発泡構造であるとにかかわらず、以下に記載する(1)及び(2)(i)、(ii)、(iii)から選ばれる構造、性質等を1以上でより多く有していることが好ましく、すべてを有しているものが特に好ましい。」(丸付き数字は括弧付き数字に改めてある。以下明細書の摘記において同じ。)と記載され、【0024】には、「(2)シートにおいて、原料となる樹脂組成物に含有される(A)成分のスチレン系樹脂と(B)成分の熱可塑性樹脂が両連続相を形成していること。ここで『シートにおいて(A)成分と(B)成分が両連続相を形成している』とは、シートのMD方向及びTD方向のいずれの方向においても、(A)成分の樹脂相と(B)成分の樹脂相が、粒子や繊維状のような互いに独立した状態で存在しているのではなく、両相が網目状に互いに連なった状態で混在した相構造を形成していることを意味するものである。」と記載されている。
しかし、【0022】にいう前記の「上記の(A)及び(B)成分を含有する樹脂組成物」とは、【0014】の「樹脂組成物における(A)成分の含有量は、40〜97重量%であり、好ましくは50〜90重量%であり、特に好ましくは60〜85重量%である。」及び【0016】の「樹脂組成物における(B)成分の含有量は、60〜3重量%であり、好ましくは50〜10重量%であり、特に好ましくは40〜15重量%である。」との記載を受けたものであって、【0014】、【0016】及び【0022】の記載を総合しても、容器材料が「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」であることは、直接的かつ一義的に導き出されるものではない。
(1-2-2)【0046】の表1及び【0048】の表2には、訂正前の明細書の請求項に係る発明についての「実施例」であるとして説明した次の記載がある(実施例における配合量の単位については、【0040】、【0047】の各冒頭参照)。
「〈実施例1〉(A)成分として、スチレン系樹脂であるGPPS80重量%、(B)成分としてポリプロピレン(PP)20重量%及び(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3a)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例3〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS30重量%及びHIPS15重量%(スチレン系樹脂として合計45重量%)、(B)成分としてポリカーボネート(PC)55重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3c)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例4〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS40重量%、HIPS20重量%及びSBS10重量%(スチレン系樹脂として合計70重量%)、(B)成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)30重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-2a)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例5〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS60重量%、HIPS20重量%及びSBS10重量%(スチレン系樹脂として合計90重量%)、(B)成分としてナイロン6(NY6)10重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-4)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例6〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS60重量%及びHIPS10重量%(スチレン系樹脂として合計70重量%)、(B)成分としてポリプロピレン(PP)30重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3b)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例7〉(A)成分として、スチレン系樹脂であるGPPS95重量%、(B)成分としてポリプロピレン(PP)5重量%及び(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3a)2重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例8〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS40重量%、HIPS5重量%及びSBS5重量%(スチレン系樹脂として合計50重量%)、(B)成分としてポリプロピレン(PP)50重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3a)3重量部を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例9〉(A)成分として、スチレン系樹脂であるGPPS75重量%、(B)成分としてポリプロピレン(PP)25重量%及び(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-3a)3重量部を含有する樹脂組成物から得られる発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例10〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS50重量%及びHIPS10重量%(スチレン系樹脂として合計60重量%)、(B)成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)40重量%並びに(A)成分と(B)成分との合計重量に対して相溶化剤成分として(C-2b)5重量部を含有する樹脂組成物から得られる発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例2〉(A)成分として、それぞれスチレン系樹脂であるGPPS60重量%、HIPS10重量%及びSBS10重量%(スチレン系樹脂として合計80重量%)並びに(B)成分としてポリプロピレン(PP)20重量%を含有する樹脂組成物から得られる無発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈実施例11〉(A)成分としてスチレン系樹脂であるGPPS90重量%及び(B)成分としてポリプロピレン(PP)10重量%を含有する樹脂組成物から得られる発泡シートを容器に用いた場合のデーター
〈相構造の確認〉【0045】にいう相構造の確認手段に従って、実施例1〜4、6、8〜10の各シートは両連続相を有するもの(すなわち両連続相構造のもの)と判断した。」
しかし、以下に述べる理由により、実施例1〜4、6、8〜10の各シートが【0024】に定義するような両連続相を有するものであることが、訂正前の明細書又は図面に記載されていたとはいえない。
すなわち、先ず、実施例1、3〜10においては、前摘記のとおり、(A)、(B)各成分について、その配合割合が「重量%」で示されているだけで各成分の合計重量は不明であり、一方、相溶化剤成分については、その配合割合が(A)、(B)各成分の合計重量に対する「重量部」で示されているから、結局、実施例1、3〜10に用いた樹脂組成物の全成分の配合割合が不明である。配合割合が明確に示されているのは、実施例2のスチレン系樹脂80重量%及びポリプロピレン20重量%、実施例11のスチレン系樹脂90重量%及びポリプロピレン10重量%をそれぞれ含有する樹脂組成物のみである。つまり、訂正前の明細書には、特許権者の主張するような「(A)成分の下限値である70重量%及び(B)成分の上限値である30重量%」を示す実施例は存在しないのである。
次に、「両連続相を有するシート」とは、訂正前の明細書の【0024】の前摘記(訂正明細書の当該段落の記載も同じ。)によれば、「シートのMD方向及びTD方向のいずれの方向においても、(A)成分の樹脂相と(B)成分の樹脂相が、粒子や繊維状のような互いに独立した状態で存在しているのではなく、両相が網目状に互いに連なった状態で混在した相構造を形成しているシート」を意味するものと認められるところ、訂正前の明細書の段落【0046】の表1の実施例、比較例においては、シートの相構造の確認は、【0045】記載の相構造の確認手段である「下記の体積変化率と重量減少率の関係の両方を満たすか一方又は両方を満たさないか」によってなされているだけであって、前摘記の【0024】にいうような両連続相としての相構造の存在の有無は、例えば電子顕微鏡を用いた視認等の手段によって確認されてはいないし、まして、【0025】にいうような両連続相の存在割合がシート中70重量%以上であることなどは全く確認されていない。
そればかりでなく、【0045】で体積変化率と重量減少率を表すとする2つの式は、訂正明細書の請求項2に記載した式(II)、(III)と記号の意味も含めて同一であって、前記3の(2-3)に説示したとおり、式(III)は意味不明であるから、同段落記載の相構造の確認手段によっては、全実施例1〜11にわたって、両連続相としての相構造の存在の有無はもともと確認しようがないものである。
してみると、実施例1〜4、6、8〜10の各シートが【0024】に定義するような両連続相を有するものであることが訂正前の明細書又は図面に記載されていたとはいえず、したがって、訂正前の明細書又は図面の記載からは、容器材料が「(A)スチレン系樹脂70〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂30〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート」であることは、直接的かつ一義的に導き出されるものではないといわざるを得ない。
(2)特許権者は、前記Iの(22)の意見書において、アの訂正における前記(i)の変更及びイの訂正における前記(iii)の変更に関して、およそ次のように主張している。
「(新規事項の点について)前回異議決定においても前記Iの(18)の再度の特許の取消理由においても、前回訂正、すなわち、『(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物から得られる両連続相を有するシート』とする変更を認めているのに、本件訂正に係る前記(i)、(iii)の変更を認めないとするのは、合議体自らのこれまでの認定を否定するものであり、また確定判決に異を唱えるものでもある。
合議体が、視認手段による確認のみを両連続相の存在確認の要件とし、式II、IIIでは確認できないとするなら、特許権者の回答書が提出された後の前記Iの(18)の再度の特許の取消理由の中で指摘すべきものであったのに、それを指摘せずに前回訂正を認めたのは、対応に一貫性がなく矛盾している。
また、本件訂正に係る前記(i)、(iii)の変更が新規事項の追加に該当するとするのは、特許庁が作成した「明細書又は図面の補正に関する事例集」所載の「新規事項の判断に関する事例18」の判断に抵触する。
(訂正目的の点について)式(III)は意味不明であるとの認定判断は、式(III)の「nPSは浸漬前のシートのスチレン系樹脂の含有比(重量%)を示す。」との文言を技術的観点からでなく単に表面的解釈をしたものであるから誤りである。式(III)の技術的意味を考えれば、W×重量%でないことは明らかである。」
しかし、特許権者の主張は、次の理由により採用できない。
(新規事項の点について)前記3の「本件訂正の適否の検討」における認定判断は、本件訂正について検討した結果である。改めていうまでもなく本件訂正と前回訂正とは訂正の内容が異なるものである上、(a)前回異議決定は確定判決により取り消され、また、前回訂正請求は取り下げられ初めからなかったものとみなされて前記Iの(18)の再度の特許の取消理由はもはや根拠を失ったから、これらの前回異議決定や特許の取消理由における訂正の適否の判断に本件訂正についての認定判断が拘束されるわけではないし、(b)確定判決は、前回異議決定における前回訂正に係る発明と引用例発明との一致点の認定に誤りがあったことを判示するものであるから、本件訂正についての前記認定判断は、同判決に抵触するものではない。また、前記Iの(18)の再度の特許の取消理由の中で両連続相の存在確認の要件について指摘しなかったのは、その必要がなかったからにすぎない。さらに、特許権者の援用する「新規事項の判断に関する事例18」は、補正後の数値範囲が出願当初の明細書に実施例の数値として明確に記載されている場合であり、本件訂正では、前記(1-2-2)に説示したとおり、前記(i)、(iii)の変更に相当する実施例の数値自体が訂正前の明細書に存在しないのである。
(訂正目的の点について)式(III)自体が意味不明であって、その技術的意味など考えようがない。nPSに重量%の数値を代入した場合、同式を満足することはあり得ないことが明らかであっても、式(III)のどこに誤りがあるのか不明であり、また、式(III)を提示したこと自体が誤りであるという可能性も存在するからである。

5 むすび
以上のとおりであるから、アの訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合せず、また、イの訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書の規定及び同法同条第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないものであって、全体として本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書の規定及び同法同条第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないものである。

III 特許異議申立てについて

1 本件発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下順に「第1発明」、「第2発明」、…「第8発明」という。)は、特許の設定登録時の明細書(以下「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】(A)スチレン系樹脂40〜97重量%及び(B)融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜3重量%を含有する樹脂組成物を成形してなる、底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下の開口部を有する容器であり、座屈強度が1〜50kgである合成樹脂製食品容器。
【請求項2】熱可塑性樹脂がポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートである請求項1記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項3】さらに、樹脂組成物中に、下記から選ばれる1種以上の相溶化剤を含有する請求項1又は2記載の合成樹脂製食品容器。
(C-1)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物とからなる共重合体又はその水素添加物。
(C-2)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物とからなる共重合体のエポキシ化物又はその水素添加物。
(C-3)(A)成分の構成単位となるスチレン系モノマーと、(B)成分の構成単位となるモノマーとの共重合体。
(C-4)ビニル芳香族化合物と、カルボキシル基を有する化合物又は酸無水物との共重合体。
【請求項4】JIS K5400記載の光沢度(入射角60°)が10%以上で真珠様光沢を有している請求項1〜3のいずれか1記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1記載の容器が発泡構造である合成樹脂製食品容器。
【請求項6】発泡倍率が1.1〜3倍、単位厚さ当たりの平均気泡膜数が1〜50個/mm及び厚みが0.1〜3mmから選ばれる1以上の要件を具備する請求項5記載の合成樹脂製食品容器。
【請求項7】請求項1〜6のいずれか1記載の容器を容器本体部とし、前記容器本体と嵌合できる蓋部とを備えた合成樹脂製食品容器。
【請求項8】蓋部が、ヘーズが10以下で、かつJIS K7105に準拠して測定される写像鮮明度が30%以上のものである請求項7記載の合成樹脂製容器。」

2 引用刊行物とその記載内容
当審では、前記Iの(6)の特許の取消理由の通知において、本件出願前に国内において頒布された次の刊行物1〜5ほかを引用した。
刊行物1:特公平5一75012号公報(異議申立人乙提出の甲第1号証)
刊行物2:特開平10一76565号公報(同じく甲第3号証)
刊行物3:特開昭55一161837号公報(同じく甲第4号証)
刊行物4:特公平4一11582号公報(同じく甲第5号証)
刊行物5:特開平9一249242号公報(同じく甲第6号証)
(1)刊行物1(特公平5-75012号公報)
(1-1)刊行物1には、ポリプロピレン系樹脂発泡シートに関し、図面(第1〜2図)とともに、次の1a〜1fの記載がある。
1a (特許請求の範囲1)
「ポリプロピレン系樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマーよりなる加熱成形用ポリプロピレン系樹脂発泡シートであって、ポリプロピレン系樹脂50〜90重量部に対し、スチレン系樹脂50〜10重量部、及び、前記スチレン系エラストマーを20重量部までの量の割合で構成されている密度0.1〜0.5g/cc、厚さ5mm以下の加熱成形用ポリプロピレン系樹脂発泡シート。」
1b (2欄6〜12行)
「本発明は新規なポリプロピレン系発泡シート及びその製造方法に関し、前記発泡シートを加熱して押圧賦形することにより蒸気で滅菌ができる断熱容器や電子レンジ加熱に耐える食品容器として使用することができるポリプロピレン系樹脂発泡体からなる成形品を製造するための発泡シート及びその製造方法に関する。」
1c (5欄31〜40行)
「これらポリプロピレン系とポリスチレン系樹脂の相溶性を向上させるために、オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマーを20重量部までの量用いることは有効である。中でもブタジエンとスチレンが共重合した後、二重結合に水素添加されたエラストマーを5〜10重量部使用するのが特に有効である。更に好ましくは、該エラストマーとして3%以下のアクリル酸や無水マレイン酸で変性されたものを使用するのが望ましい。」
1d (7欄3〜39行)
「実施例1 ポリプロピレン樹脂…65重量部とポリスチレン樹脂…30重量部と飽和型熱可塑性エラストマー樹脂(旭化成K.K. タフテックM1913)5重量部と微粉末のタルク1重量部を混合したものを押出機に供給した。…前記樹脂組成物を加熱混練し、…樹脂組成物1kgに対しジクロロジフロロメタンを0.4モル圧入し、…樹脂を押出した。押し出されたシート状樹脂は、厚さ1.22mm、幅640mm、密度0.46g/ccであった。このシートを第1図に示す容器型に成型し、成型した容器(容器寸法:長さ156mm×幅126mm×深さ30mm)にサラダオイルを150cc入れて電子レンジに入れて加熱し、容器の耐熱性及び容器への油分の吸油量を測定した。…容器の耐熱性及び容器への油分の吸油量の(「給油量を」の誤記と認める。)測定した結果、形状及び寸法変化はなかった。又、容器への油分の吸油量は約2.7gであった。」
1e (11欄20〜39行)
「実施例9 ポリプロピレン樹脂…45重量部と耐熱性ポリスチレン樹脂…45重量部と飽和型熱可塑性エラストマー(旭化成K.K.製 タフテックH1041)10重量部と微粉末のタルク1重量部を混合したものを押出機に供給した。…前記樹脂組成物を加熱混練し、…樹脂1kgに対し0.45モルの炭酸ガス(CO2)を圧入し、…樹脂を押出した。押し出されたシート状樹脂を実施例1と同じ方法で引取り厚さ1.23mm、幅640mm、密度0.35g/ccのシートを捲取った。容器の耐熱性及び容器への油分の吸油量の測定は、実施例1と同じ方法で行った結果、形状は少し変化が見られる程度で寸法変化はなかった。又、容器への油分の吸油量は約1.2gであった。」
1f そして、17〜22欄の第1表には、実施例1〜10及び比較例1〜6の実験データが示されており、また、22欄の「図面の簡単な説明」によれば、図面には、本発明の実施例で使用した本発明の発泡シートによって構成されている容器の平面図(第1図)及び同容器の一部断面側面図(第2図)が示されている。
(1-2)刊行物1の前記1a〜1fの記載を第1〜2図を参照しながら総合すると、同刊行物には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】スチレン系樹脂10〜50重量部及びポリプロピレン系樹脂90〜50重量部に対し、オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマー20重量部以下を含有する樹脂組成物から得られる、密度0.1〜0.5g/cc、厚さ5mm以下の加熱成形用ポリプロピレン系樹脂発泡シートを成形してなる、開口部を有する合成樹脂製食品容器。」
(2)刊行物2(特開平10-76565号公報)
刊行物2には、飲料用成形容器に関し、次の2a〜2bの記載がある。
2a (段落【0007】)
「容器強度として口部強度と同様に重要になるものが座屈強度である。座屈強度は、製品を積み重ねた場合の変形、製品輸送時の変形に関係し、座屈強度は高いことが望ましい。」
2b そして、表2〜6には、耐衝撃性スチレン系樹脂から成形された容器の座屈強度(単位Kg)の測定結果が次のように示されている。
「表2の実施例1〜3(胴径48mm、高さ90mm):27.1、24.5、29.4
表3の実施例4〜6(胴径48mm、高さ90mm):25.0、23.5、27.8
表4の実施例7〜9(胴径40mm、高さ80mm):19.5、14.7、25.3
表5の実施例10〜12(胴径38.5mm、高さ74.5mm):11.9、10.3、14.1
表6の実施例13〜15(胴径38.5mm、高さ74.5mm):20.8、18.3、22.7」
(3)刊行物3(特開昭55-161837号公報)
刊行物3には、熱可塑性樹脂組成物に関し、次の3a〜3cの記載がある。
3a (特許請求の範囲)
「スチレン系重合体50〜95重量部、スチレン-ブタジエンブロック共重合体1〜20重量部、オレフィン系重合体0.1〜10重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。」
3b (1頁右下欄5〜12行)
「本発明はかかる欠点を解消することを目的とするもので、スチレン系重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(以下ブロック共重合体という)、オレフィン系重合体を特定の割合で含有させた組成物を成型加工したものは、機械的強度が大きくクラックの発生がなく、層状剥離を起さない美麗な真珠光沢を有する成型体となる熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。」
3c (2頁右上欄4〜6行)
「次に、オレフィン重合体は…プロピレン重合体…などがあげられる。」
(4)刊行物4(特公平4-11582号公報)
刊行物4には、ポリオレフィン-ポリスチレン混合樹脂発泡体に関し、次の4a〜4dの記載がある。
4a (特許請求の範囲1)
「水酸化された《5欄24行、35行他の記載から見て「水素化された」の誤記と認める。》スチレン-ブタジエンブロック共重合体の存在下でポリオレフィン樹脂とポリスチレン樹脂とを混合した混合樹脂組成物を押出発泡させて得られるポリオレフィン-ポリスチレン混合樹脂発泡体に於て、《以下略》」
4b (18欄13〜24行)
「美粧性(光沢度) 試験片(押出発泡原反)を表皮部表面を日本電色工業製Gloss Meter VG-10型に装着し、照射の角度を45゜に調整し、その反射率を測定し、以下の基準に従って、評価した。《表中》15%以上◎、15%未満〜10%以上○」
4c (13欄37〜39行)
「本発明でいうポリオレフィン樹脂とは、望ましくは…ポリプロピレンの単独重合体であり、」
4d そして、23欄の第3表には、実施例1、12〜14において、反射率が◎〜○で表される美粧性(光沢度)の良好な発泡体が得られたことが示されている。
(5)刊行物5(特開平9-249242号公報)
刊行物5には、蓋付容器に関し、図面(図1〜6)とともに、次の5a〜5cの記載がある。
5a (特許請求の範囲の請求項1)
「合成樹脂製の容器本体と、前記容器本体に外嵌合する合成樹脂製の蓋体とからなる蓋付容器であって、…」
5b (段落【0001】)
「本発明は、例えば惣菜等の食品を収容して販売するための蓋付容器に関する。」
5c (段落【0012】)
「蓋体1は、図1に示す如く、中央部を隆起させた平面視略四角形状のものであり、透明ポリスチレンシート、ポリプロピレンシート等を真空又は圧空成形して作製される。」

3 対比判断
(1)第1発明について
(1-1)特許明細書及び刊行物1の前記1a〜1fの記載を技術常識に照らし合わせて理解すると、第1発明及び引用発明について、次の(i)〜(iv)の事実が認められる。
(i)特許明細書【0015】(段落番号を示す。以下同じ。)の記載によれば、(B)成分の融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートが好ましいとされており、また、ポリプロピレン系樹脂の融点はこの温度範囲にあることが知られているから、引用発明にいう「ポリプロピレン系樹脂」は第1発明にいう「融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂」に相当すること。
(ii)引用発明にいう「スチレン系樹脂(以下「PS」という。)10〜50重量部対ポリプロピレン系樹脂(以下「PP」という。)90〜50重量部」の配合割合は、PS10〜50重量%対PP90〜50重量%の配合割合に実質上相当すること。
(iii)刊行物1の前記1cによれば、引用発明にいう「オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマー」はいわゆる相溶化剤に相当するものであり、そこに具体例として挙げられた「ブタジエンとスチレンが共重合した後、二重結合に水素添加されたエラストマー(オレフィン成分10%以上含有)」(以下「水添SB系相溶化剤」という。)は、特許明細書【0017】〜【0018】にいう「(C-1)ビニル芳香族化合物と、共役ジエン化合物とからなる共重合体又はその水素添加物」である相溶化剤に相当すること。
(iv)第1発明では、樹脂組成物中に(A)、(B)両成分以外の配合成分(例えば、相溶化剤)が存在することや容器成形前のシートが発泡シートであることは任意であり、また、同シートの密度や厚さも問わないこと。
(1-2)したがって、第1発明と引用発明とを対比すると、結局、両者は、次の一致点で一致し、相違点1〜2でのみ相違するものと認められる。
【一致点】「PS40〜50重量%及び融点が100〜300℃の熱可塑性樹脂60〜50重量%を含有する樹脂組成物から得られるシートを成形してなる開口部を有する合成樹脂製食品容器。」
【相違点1】合成樹脂製食品容器について、第1発明では、「底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下」と規定するのに対し、引用発明では、その点の言及がない点。
【相違点2】合成樹脂製食品容器について、第1発明では、「座屈強度が1〜50kgである」と規定するのに対し、引用発明では、その点の言及がない点。
(1-3)これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1の前記1d〜1fによれば、実施例9では、厚さ(厚み)1.23mmのシートから長さ156mm×幅126mm×深さ30mmの開口部を有する容器を成形しており、この場合絞り比は約0.24であり、一方、特許権者の回答書(1〜2頁)によれば、シートから容器を熱成形する場合、絞り比が2以下程度であると、容器側部はあまり延伸されず、容器側部の厚みと容器底部の厚みとはそれほど変わらないというのであるから、前記実施例のものでは、当該シートから成形した容器の底部の厚みは0.1〜3mmの範囲にあるものと推測される。
したがって、引用発明において、合成樹脂製食品容器について、さらに「底部の厚みが0.1〜3mmで、かつ絞り比が2以下」と規定することは、刊行物1の記載から当業者が容易に想到しうることである。そして、第1発明がこのように規定することによって当業者の容易に予測し得ない格別の作用効果を奏するものとも認められない。
(相違点2について)
刊行物2の前記2a〜2bによれば、合成樹脂製食品容器においては座屈強度は高い方が望ましいことや、PSからなる容器(絞り比はいずれも2以下)の有すべき座屈強度の例として、10.3〜29.4kgのものが知られ、一方、座屈強度が低すぎると容器が破損し易くまた必要以上に高くしないことは当然であるから、引用発明において、合成樹脂製食品容器について、これらの例にも倣って、さらに「座屈強度が1〜50kgである」と規定することは、刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に想到しうることである。
そして、第1発明がこのように規定することによって当業者の容易に予測し得ない格別の作用効果を奏するものとも認められない。
(相違点1〜2の組合せについて)
相違点1〜2を組合わせた点にも格別の意味はない。
したがって、第1発明は、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)第2発明について
第2発明は、第1発明において、熱可塑性樹脂を「ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート」に限定するものであるが、引用発明はもともと、ポリプロピレンをも包含するポリプロピレン系樹脂を用いるものであるから、第2発明も、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)第3発明について
第3発明は、第1又は第2発明において、樹脂組成物中に(C-1)〜(C-4)から選ばれる1種以上の相溶化剤を含有するものであるが、引用発明に使用されている「オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマー」の1例である「ブタジエンとスチレンが共重合した後、二重結合に水素添加されたエラストマー(オレフィン成分10%以上含有)」(水添SB系相溶化剤)は、前記3の(1-1)の(iii)で認定したように、(C-1)の相溶化剤に相当し、また、(C-4)の相溶化剤は刊行物1(前記1cの「更に好ましくは」以下。)に記載されており、他の(C-2)及び(C-3)の相溶化剤は本件出願前周知のものであるから、引用発明にいう「オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマー」である相溶化剤として(C-1)及び(C-4)の相溶化剤を使用すること、並びに「オレフィン成分を10%以上含有するスチレン系エラストマー」ある相溶化剤に代えて(C-2)及び(C-3)の相溶化剤を使用することは、それぞれ当業者が容易に想到しうることである。
したがって、第3発明も、刊行物1〜2に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)第4発明について
第4発明は、第1ないし第3発明において、合成樹脂製食品容器について、「JIS K5400記載の光沢度(入射角60°)が10%以上で真珠様光沢を有している」と限定するものである。
ところで、刊行物4は、前記4a〜4dのとおり、「水素化されたスチレン-ブタジエンブロック共重合体」(引用発明の水添SB系相溶化剤に相当する。)の存在下で、ポリスチレン樹脂つまりPSとポリプロピレンつまりPPとを混合した混合樹脂組成物から得られる成形体について、その反射率が10%以上である美粧性や光沢性の良好なものを教えている。また、刊行物3は、前記3a〜3cのとおり、スチレン系重合体つまりPS50〜95重量部、スチレン-ブタジエンブロック共重合体〔前記(C-1)の相溶化剤に相当する。〕1〜20重量部、プロピレン重合体つまりPP0.1〜10重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物を成形加工したものは、層状剥離を起さない美麗な真珠光沢を有する成形体となることを教えており、前記3種の重合体からなる熱可塑性樹脂組成物からは、その配合割合によっては、真珠様光沢の成形体が得られることが理解される。
引用発明の合成樹脂製食品容器も、刊行物3〜4記載の樹脂組成物と同様、PS、PP及び相溶化剤を含む樹脂組成物から得られるものであり、他方、合成樹脂製食品容器においては外観の美粧性や光沢性は当業者が必要に応じて当然考慮すべきことであるから、引用発明において、刊行物3〜4の記載に倣って、合成樹脂製食品容器の光沢度を一定以上に設定し、そしてそれが真珠様光沢を有しているものと規定することは当業者が容易に想到し得ることであり、これによって当業者の予測し得ない格別の作用効果を奏するものでもない。なお、前記4b記載の反射率(光沢度)の測定方法は第4発明所定のものとは異なるが、第4発明がことさら「JIS K5400記載の光沢度(入射角60°)」をもって外観の美粧性や光沢性を特定した点に格別の意義は認められない。
したがって、第4発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)第5発明について
第5発明は、第1ないし第4発明において、合成樹脂製食品容器について、「発泡構造である」と限定するものである。
しかし、引用発明の合成樹脂製食品容器は発泡シートを成形してなるもので当然発泡構造を有するから、第5発明も、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)第6発明について
第6発明は、第5発明において、合成樹脂製食品容器について、「発泡倍率が1.1〜3倍、単位厚さ当たりの平均気泡膜数が1〜50個/mm及び厚みが0.1〜3mmから選ばれる1以上の要件を具備する」と限定するものである。なお、特許明細書【0032】〜【0034】の記載によれば、ここにいう「厚み」とは、「容器底部を除く厚み」のことであり、発泡倍率及び単位厚さ当たりの平均気泡膜数は、成形前の発泡シートについてのものであると認められる。
特許権者の回答書(1〜2頁)によれば、シートから容器を熱成形する場合、絞り比が2以下程度であれば、容器側部はそれほど延伸されないというのであるから、刊行物1の前記1eの実施例9のもの(成形前のシートの厚み1.23mm、絞り比0.24)では、容器底部を除く厚みは0.1〜3mmの範囲にあるものと推測される。
次に、前記実施例9では、密度0.35g/ccの発泡シートから容器を成形しており、発泡前の樹脂組成物の密度は約1.0g/ccであると考えられるので、発泡倍率は約2.9倍となるから、刊行物1は、発泡倍率を1.1〜3倍とすることを教えている。
したがって、第6発明も、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、単位厚さ当たりの平均気泡膜数については、刊行物1に記載はないが、発泡させて気泡膜を形成させたものである発泡体について、発泡の状態を単位厚さ当たりの平均気泡膜数で表すことが、当業者にとって格別困難なこととはいえないばかりか、それらの数値範囲の限定に臨界的意義があるものとも認められない。
(7)第7発明について
第7発明は、第1ないし第6発明の合成樹脂製食品容器を容器本体部とし、該容器本体《「該容器本体部」の誤記と認める。》と嵌合できる蓋部とを備えた合成樹脂製食品容器であるが、刊行物5には、前記5a〜5bに見られるとおり、合成樹脂製食品容器を容器本体として、それと嵌合できる蓋体(蓋部)を備えた蓋付き容器とすることが記載されているから、これに倣って、引用発明の合成樹脂製食品容器を容器本体部とし、これと嵌合できる蓋部とを備えた合成樹脂製食品容器とすることは、当業者が容易に想到しうることである。
したがって、第7発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8)第8発明について
第8発明は、第7発明において、合成樹脂製食品容器(請求項8末尾の「合成樹脂製容器」は正しくは「合成樹脂製食品容器」というべきである。)について、「蓋部が、ヘーズが10以下で、かつJIS K7105に準拠して測定される写像鮮明度が30%以上のもの」に限定するものであるが、刊行物5には、前記5cのとおり、透明なシートで蓋部を構成することが記載されているところ、第7発明が、蓋部のヘーズや写像鮮明度について数値限定をした点に格別の意義があるとは認められないから、当該限定は、単に蓋部が透明であることを示すものにすぎないものいう他はない。
したがって、第8発明も、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件請求項1ないし8に係る特許は、同規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-03-26 
出願番号 特願平11-27529
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (B65D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 池田 貴俊  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 山崎 豊
杉原 進
祖山 忠彦
石井 あき子
登録日 2000-02-04 
登録番号 特許第3029612号(P3029612)
権利者 ダイセル化学工業株式会社
発明の名称 合成樹脂製食品容器  
代理人 義経 和昌  
代理人 大谷 保  
代理人 古谷 聡  
代理人 持田 信二  
代理人 高橋 祥泰  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 馨  
代理人 岩倉 民芳  

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