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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1077258
審判番号 不服2001-19003  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-24 
確定日 2003-05-19 
事件の表示 平成 7年特許願第178827号「サーマルプリンタ」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 2月 4日出願公開、特開平 9- 30019]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年7月14日の出願であって、平成13年8月30日付けで拒絶の査定がされ、これを不服として同年10月24日付けで審判請求がされ、同年11月20日付けで特許法17条の2第1項3号の規定による手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成13年11月20日付けの手続補正を却下する。

2.理由
(1)補正の目的
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「発熱素子を有するサーマルヘッドと、その発熱素子に近接して配置され、サーマルヘッドを駆動するための駆動用ICとを備え、インクリボンを用いて記録媒体上に画像を記録するサーマルプリンタにおいて、
前記サーマルヘッドは、前記インクリボンの供給部と巻き取り部との間に位置するインクリボンに対向して配置され、また、前記駆動用ICは、前記発熱素子のインクリボンの供給部側近傍に配置されており、
前記駆動用ICと前記インクリボンとの間に配置され、未使用のインクリボンが駆動用ICと接触することを防止すると共に、前記発熱素子による記録位置までインクリボンを案内するためのインクリボン保護手段を、フィルム状の樹脂部材から成る一部材により構成したことを特徴とするサーマルプリンタ。」と補正された(以下、この発明を「補正発明」という。)。
本件補正は、補正前の請求項1(平成12年10月30日付け手続補正書記載の請求項1)に記載した発明を特定するために必要な事項(以下では、「発明を特定するために必要な事項」を「構成」ということにする。)である「インクリボン保護手段」を「フィルム状の樹脂部材」に限定するものであるから、特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件の判断
そこで、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。
(ア)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-301360号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の記載又は図示がある。
・「この発明は、小型のサーマルヘッドを有した昇華熱転写型カラービデオプリンタ等の熱転写型プリンタに関する。」(段落【0001】)
・「図4に示すように、上記サーマルヘッド10′は、・・・セラミック基板12にガラス膜等の保護膜で覆われるように載置された抵抗素子としての薄膜チップ状の発熱素子13と、・・・硬質基板14′と、この硬質基板14′のヒートシンク11′より突出した部分にマウントされたコネクタ15と、上記硬質基板14′の発熱素子13側の面にマウントされたドライバ回路用等のICチップ部品16と、上記硬質基板14′にネジ止めされ、上記ICチップ部品16を保護するカバー17と、上記硬質基板14′にネジ止めされたリボン案内ガイド18とで大略構成されている。」(段落【0003】)
・「昇華熱転写型カラービデオプリンタ1′により印画紙7にカラープリントする場合には、図3,5に示すように、サーマルヘッド10′をヘッド駆動機構20′によりリボンカートリッジ30′のリボン開口部31a側に揺動させ、プラテンローラ3に印画紙7とリボンカートリッジ30′のリボン開口部31aより露出したインクリボン34とを挾んでサーマルヘッド10′の発熱素子13で圧接する。そして、上記サーマルヘッド10′の発熱素子13を加熱することにより上記インクリボン34のY(イエロー),M(マゼンタ),C(シアン)の各インク34aが印画紙7にそれぞれ熱転写される。」(段落【0006】)
・図4には、ICチップ部品16を保護するカバー17、リボン案内ガイド18、及びカバー17より保護されるICチップ部品16が、図上発熱素子13よりも右側に位置すること、並びにカバー17とリボン案内ガイド18が共通のネジによって硬質基板14′にネジ止めされていることが図示されている。
・図5には、印画紙7及びインクリボン34が図上右から左へ移送されること、及びリボン案内ガイド18が図上発熱素子13よりも右側に位置することが図示されている。

(イ)引用例1記載の発明
引用例1の図4及び図5によれば、ICチップ部品16は発熱素子13に近接して、インクリボンの供給部側近傍に配置されていること、及びカバー17とリボン案内ガイド18がICチップ部品とインクリボン34との間に配置されていることは明らかである。また、サーマルヘッドがインクリボンの供給部と巻き取り部との間に位置するインクリボンに対向して配置されることは、サーマルヘッド及びインクリボンの機能に照らし自明であると同時に、(ア)では摘記しなかったものの、図3に示されている。
したがって、上記記載及び図示を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には、「発熱素子を有するサーマルヘッドと、その発熱素子に近接してインクリボンの供給部側近傍に配置されるドライバ回路用等のICチップ部品とを備え、インクリボンを用いて印画紙に熱転写する熱転写型プリンタにおいて、前記サーマルヘッドは前記インクリボンの供給部と巻き取り部との間に位置するインクリボンに対向して配置され、前記ICチップ部品を保護するカバーとリボン案内ガイドを、前記ICチップ部品と前記インクリボンとの間に配置した熱転写型プリンタ。」(以下「引用例発明1」という。)が記載されていると認められる。

(ウ)補正発明と引用例発明1との一致点及び相違点
引用例発明1の「ドライバ回路用等のICチップ部品」、「印画紙」及び「熱転写型プリンタ」は、本願発明の「サーマルヘッドを駆動するための駆動用IC」、「記録媒体」及び「サーマルプリンタ」にそれぞれ相当する。
引用例発明1の「ICチップ部品を保護するカバー」があることによって未使用のインクリボンが駆動用ICと接触することは防止され、また、引用例発明1の「リボン案内ガイド」は補正発明の「インクリボン保護手段」と「発熱素子による記録位置までインクリボンを案内するための」機能を有する上で一致するから、引用例発明1の「カバー」と「リボン案内ガイド」をあわせたものが、補正発明の「インクリボン保護手段」に相当する。
したがって、補正発明と引用例発明1とは、
「発熱素子を有するサーマルヘッドと、その発熱素子に近接して配置され、サーマルヘッドを駆動するための駆動用ICとを備え、インクリボンを用いて記録媒体上に画像を記録するサーマルプリンタにおいて、
前記サーマルヘッドは、前記インクリボンの供給部と巻き取り部との間に位置するインクリボンに対向して配置され、また、前記駆動用ICは、前記発熱素子のインクリボンの供給部側近傍に配置されており、
前記駆動用ICと前記インクリボンとの間に配置され、未使用のインクリボンが駆動用ICと接触することを防止すると共に、前記発熱素子による記録位置までインクリボンを案内するためのインクリボン保護手段を有するサーマルプリンタ。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

〈相違点1〉補正発明では「インクリボン保護手段」が「一部材」により構成されているのに対し、引用例発明1では「カバー」と「リボン案内ガイド」の二部材により構成されている点。
〈相違点2〉補正発明では「インクリボン保護手段」が「フィルム状の樹脂部材から成る」のに対し、引用例発明1ではその点明らかでない点。

(エ)相違点についての判断
〈相違点1について〉
(ア)で述べたように、引用例1には「カバー」と「リボン案内ガイド」が共通のネジでネジ止めされることが記載されており、その場合「カバー」と「リボン案内ガイド」が一連なりの部材となる。また、カバーはICチップ部品を保護できる材質の素材であればよく、リボン案内ガイドはリボンを案内できる材質の素材であればよいところ、これら2つの素材が互いに相容れない素材であると解すべき理由はなく、素材を共通にすることを阻害する要因は見当たらない。
そして、上記のとおり、これら2つの部材が一連なりの部材となるようにネジ止めされており、そして素材を共通にしうる場合において、2つの個別部材ではなく単一部材とする程度のことは、引用例発明1を実施するに当たっての軽微な設計事項というべきである。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、当業者が容易に想到しえた構成である。

〈相違点2について〉
本件出願前に頒布された実願昭52-164962号(実開昭54-90242号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、「・・・発熱体ブロックと、・・・ダイオードアレイブロックと・・・を基板上に配設して構成し、・・・前記ダイオードアレイブロック・・・をカバーで覆ってなるサーマルヘッド装置。」(1頁実用新案登録請求の範囲)、「カバー14,15は、ダイオードアレイ5cに接触しない程度の空間を形成する高さを必要とし、・・・底部と外部からの衝撃,圧力に耐えるための0.5mm程度の肉厚が必要である。材質としては、セラミックまたはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂または硬質塩化ビニル樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂・・・使用できる。」(10頁5〜15行)、及び「具体例として、硬質塩化ビニル樹脂をを(ママ)用いて押出し成形で肉厚0.5mmのカバーを加工し、・・・不良発生は皆無であった。」(11頁2〜8行)との各記載がある。
ここで、「ダイオードアレイブロック」は引用例発明1の「ICチップ部品」と同一とはいえないものの、発熱体(引用例発明1の「発熱素子」に相当する。)の近傍に配設され、発熱素子への電気的接続に寄与する部材である点では「ICチップ部品」と共通し、したがってそれを覆う引用例2記載の「カバー」は、発熱素子への電気的接続に寄与する部材を保護する部材である点で、引用例発明1の「カバー」と共通する。
そして、相違点2に係る補正発明の構成のうち、「フィルム状」については、本件補正後の明細書にその厚さがいかほどのものを意味するのか一切記載がない。また、補正発明の「インクリボン保護手段」が、未使用のインクリボンと駆動用ICとの接触防止及びインクリボンの案内という2つの機能を有するためには、その厚さが薄すぎてはいけないことは明らかである。そうであれば、「フィルム状」とは「フィルム」と断定的にいえるような薄いもののみを意味するのではなく、ある程度の可撓性があり比較的薄いものを意味すると解するのが相当であり、その意味においては、引用例2に記載の「肉厚0.5mmのカバー」は「フィルム状」の範疇に含まれる。
そうすると、引用例2記載の「カバー」は「フィルム状の樹脂部材」といいうるものであって、引用例発明1の「カバー」と引用例2記載の「カバー」が発熱素子への電気的接続に寄与する部材を保護する部材である点で共通することは上述のとおりであるから、引用例発明1の「カバー」として引用例2記載の「カバー」を採用することに困難性はない。さらに、〈相違点1について〉で述べたように、引用例発明1の「カバー」と「リボン案内ガイド」を同素材とできない理由はないから、引用例発明1の「カバー」のみならず「リボン案内ガイド」をも、引用例2記載の「カバー」により構成し、相違点2に係る補正発明の構成をなすことは当業者にとって容易想到である。

(オ)補正発明の作用効果について
各相違点に係る構成を有することによる補正発明の作用効果を検討しても、格別のものと認めることはできない。

(カ)独立特許要件の判断の結論
以上のとおりであるから、補正発明は引用例発明1及び引用例2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 請求項1に係る発明の進歩性の判断
1.請求項1に係る発明の認定
平成13年11月20日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1〜請求項3に係る発明は、平成12年10月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜請求項3に記載された事項により特定される発明であり、特に請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「発熱素子を有するサーマルヘッドと、その発熱素子に近接して配置され、サーマルヘッドを駆動するための駆動用ICとを備え、インクリボンを用いて記録媒体上に画像を記録するサーマルプリンタにおいて、
前記サーマルヘッドは、前記インクリボンの供給部と巻き取り部との間に位置するインクリボンに対向して配置され、また、前記駆動用ICは、前記発熱素子のインクリボンの供給部側近傍に配置されており、
前記駆動用ICと前記インクリボンとの間に配置され、未使用のインクリボンが駆動用ICと接触することを防止すると共に、前記発熱素子による記録位置までインクリボンを案内するための一部材から成るインクリボン保護手段を備えたことを特徴とするサーマルプリンタ。」

2.本願発明の進歩性の有無
本願発明と引用例発明1とは、第2で述べた一致点において一致し、〈相違点1〉において相違する。
相違点1に係る本願発明の構成をなすことが当業者にとって容易想到であること、及び本願発明が格別の作用効果を有さないことは、第2で述べたと同様である(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
したがって、本願発明は引用例発明1に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
請求項1に係る発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2及び請求項3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-28 
結審通知日 2003-03-11 
審決日 2003-03-25 
出願番号 特願平7-178827
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畑井 順一  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 中村 圭伸
津田 俊明
発明の名称 サーマルプリンタ  
代理人 武藤 勝典  
代理人 田辺 政一  

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