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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G11B
管理番号 1078039
異議申立番号 異議1999-74224  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-07-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-17 
確定日 2003-05-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第2892325号「光ディスク装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2892325号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I,手続の経緯
特許第2892325号の特許請求の範囲の第1項に記載の発明は、昭和62年7月31日に出願された特願昭62-192225号の一部が、平成9年1月10日に新たに特願平9-3391号として特許出願され、平成11年2月26日にその特許の設定登録がなされ、その後特許異議申立人中村吉孝により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知(平成12年6月30日発送)がなされ、その指定期間内である平成12年8月29日付で訂正請求がなされ、訂正拒絶理由(平成13年9月25日発送)が通知され、平成13年11月26日付で該訂正拒絶理由通知に対して手続補正書が提出されたものである。
II.訂正の適否
(II-1)訂正請求に対する補正の適否について
平成13年11月26日付け手続補正書は、平成12年8月29日付け訂正請求書について
(1)「訂正事項c」を「発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔発明が解決しようとする課題〕の項を訂正する。」から、「発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔課題を解決するための手段〕の項を「この発明は、・・・分割された検出器の差信号に基づいて溝のウォブリング情報に含まれる位置情報を検出するようにした光ディスク装置である。」から「この発明は、・・・分割された検出器の差信号のFM成分に基づいて溝のウォブリング情報に含まれる、ディスク上の位置情報を検出するようにした光ディスク装置である。」へ訂正する。」と補正し、
(2)「訂正事項d」を「発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔発明の効果〕の項を訂正する。」から、「発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔発明の効果〕の項を、
「この発明では、ウォブリングされたグルーブがトラッキング情報のみならず、位置情報を含むので、ディスク上の記録領域内に位置情報を記録する必要がなくなり、ディスク上に記録できるデータ量を増加させることができる。」へ訂正する。」と補正するものである。
上記補正の(1)は訂正事項cにおける訂正の対象を変更するものであり、また「(差信号の)FM成分」という新しい事項を加えることによる内容の変更を伴うものであるから、訂正請求の補正に関する東京高等裁判所の判決(平成11年6月3日言渡、平成8年(行ケ)第222号審決取消請求事件)が平成12年1月21日に上告棄却され確定したことを受け、平成12年3月に特許庁審判部から通知した「訂正の補正に関する適用変更のお知らせ」中の、「(2)訂正請求書(訂正の審判請求書)の補正において、訂正事項の補正は、訂正事項の削除、及び請求書の要旨を変更しない範囲での軽微な瑕疵の補正等が可能であり、新たに訂正事項を加える、あるいは訂正事項を変更することは、請求書の要旨の変更に該当するものとします。例;(イ)略(ロ)通常認められない補正:訂正事項の追加又は変更」(後略)」のうち「「訂正事項がA(特許請求の範囲の減縮)であったものを、特許請求の範囲をより減縮する目的で、訂正事項A’に変更する補正」もしくは「従来の請求の主旨を新しい主旨に変更する補正」」に該当し、請求書の要旨を変更する補正であると認められるため、特許法第131条第2項、特許法第17条の4の規定に違反することになり当該補正書による補正は認められない。
(II-2)訂正の内容
上記訂正請求の補正が認められなかった結果、特許権者が請求する訂正の内容は次のとおりのものとなる。
「(1)訂正事項a
特許請求の範囲中で、特許請求の範囲の減縮を目的として、「差信号のFM成分に基づいて」との限定を加える。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲中で、特許請求の範囲の減縮を目的として、「ディスク上の位置を表す位置情報」との限定を加える。
(3)訂正事項c
発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔発明が解決しようとする課題〕の項を訂正する。(4)訂正事項d
発明の詳細な説明中で、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明のの記載が対応するように,〔発明の効果〕の項を訂正する。」
(II-3)独立特許要件
(II-3-1)訂正明細書の請求項1に係る発明
(本来、「訂正明細書の特許請求の範囲の第1項に記載の発明」であるが、慣習上、訂正明細書の記載に従って、このように表現する。)
訂正明細書の請求項1に係る発明(以後、「訂正発明」という)は、平成12年8月29日付けで訂正請求書に添附された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される以下のとおりのものである。
「照射されるビームスポットの直径より小なる幅を有し、幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、
この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号のFM成分に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる、ディスク上の位置を表す位置情報を検出するようにした光ディスク装置。」
(II-3-2)引用刊行物に記載の発明
(i) 当審で訂正拒絶理由として通知した特開昭61-236034号公報(以後、「刊行物1」という)には、光学式ディスクプレーヤに関し、以下の事項が記載されている。
(i-A)
「斯かるディスクDにおける渦巻き状の案内溝13は、例えば、第4図に示される如く、基体14の表面に、渦巻き状の各一周周が微小な振幅をもって蛇行するものとして形成される。この案内溝の例では、深さt及び幅wが一定とされ、その対向縁部が微小な振幅をもって溝幅方向に往復変位して蛇行するものとされており、第5図に示される如く、溝幅w、ピッチP及び対向縁部の蛇行の最大振幅QがピッチPの5乃至2.5パーセントになるように選定されている。・・・・
斯かる案内溝13の対向縁部の最大振幅Qをもっての蛇行は、所定の信号、例えば、所定の周波数を有するクロック信号に応じたものとされ、蛇行周期がクロック信号の周期に対応するものとされている。」(公報第4頁右下欄第3行〜第5頁左上欄第3行参照)
この記載は、案内溝13の対向縁部の最大振幅Qをもっての蛇行周期(溝のウオブリング周期)がクロック信号の周期に対応することを示すと同時に、溝の両縁部(対向縁部)をウオブリングに利用することも示している。
(i-B)
「B.発明の概要
本発明は、中央部を取り囲む渦巻き状の案内溝が設けられたディスク状記録媒体が装着され、それに光ビームを入射せしめて情報信号の記録もしくは再生を行う光学式ディスクプレーヤにおいて、ディスク状記録媒体にその渦巻き状の案内溝を走査するものとされた光ビームを入射させ、案内溝を走査してディスク状記録媒体から到来する光ビームを一対の隣接配置された光検出手段で検出し、これら一対の光検出手段の夫々の出力の差に基づくプッシュプル信号を形成してそれをハイパスフィルタに供給することにより、ハイパスフィルタの出力側に、ディスク状記録媒体の渦巻き状の案内溝に記録された所定の周波数帯域より高い周波数帯域に属する周波数を有する信号の読取り出力を、所定の周波数帯域に属する周波数を有するものとして得られるトラッキング・エラー信号とは区別して得ることができるようにするものである。」(公報第2頁左上欄第10行〜同頁右上欄同9行参照)
「E.問題を解決するための手段
・・・本発明に係る光学式ディスクプレーヤは、中央部を取り囲む渦巻き状の案内溝に所定の周波数帯域より高い周波数帯域に属する周波数を有する信号が記録されたディスク状記録媒体に、その案内溝を走査する光ビームを入射せしめる光学手段と、案内溝を走査してディスク状記録媒体から到来する光ビームを検出する一対の隣接配置された光検出手段と、これら一対の光検出手段の夫々の出力の差に基づくプッシュプル信号出力を発生する信号形成部と、上述の所定の周波数帯域以下の周波数帯域を通過帯域とし、信号形成部からのプッシュプル信号出力が供給されてそれからトラッキング・エラー信号を得るローパスフィルタと、上記所定の周波数帯域より高い周波数帯域を通過帯域とし、信号形成部からのプッシュプル信号出力が供給されてそれから案内溝に記録された信号の読取り出力を得るハイパス・フィルタとを備えて構成される。」(公報第3頁左下欄第18行〜同頁右下欄第16行参照)、
「第1図は、・・・・感光部30が4個の光検出器30a,30b,30c及び30dで構成され・・・特に、感光部30を形成する4個の光検出器30a〜30dは、ディスクDに対するレーザ光ビームの入射位置が案内溝13の中央からその溝幅方向にずれるとき、光検出器30a及び30bの組に対する入射光量と光検出器30c及び30dの組に対する入射光量とが、一方が増加して他方が減少するものとなるように設定される。」(公報第7頁左上欄第12行〜同頁右上欄同13行参照)、
「一方、感光部30を形成する4個の光検出器30a〜30dのうちの光検出器30a及び30bの組の出力信号Ra及びRbが加算回路46に供給されて、和の出力信号Ra+Rbが得られ、また、光検出器30c及び30dの組の出力信号Rc及びRdが加算回路47に供給されて、和の出力信号Rc+Rdが得られる。そして、減算回路48で和の出力信号Ra+Rbと和の出力信号Rc+Rdとの差がとられ、減算回路48から、ディスクDに入射するレーザ光ビームの案内溝13に対する追従状態を示すトラッキング・エラー信号TEと、案内溝13の対向縁部における蛇行あるいは凹凸の繰返し等に応じた信号、即ち、案内溝13に記録されたクロック信号の読取り出力CLとを含んだ出力信号RXが、プッシュプル信号として得られる。」(公報第7頁左下欄第15行〜同頁右下欄第10行参照)
これらの記載は、案内溝13を走査してディスク状記録媒体Dから到来する光ビームを一対の隣接配置された光検出手段(30a+30bの組)及び(30c+30dの組)で検出し、これら一対の光検出手段の夫々の出力(Ra+rb)、(Rc+Rd)の差に基づくプッシュプル信号RXを形成してそれをハイパスフィルタに供給することにより、ハイパスフィルタの出力側に、ディスク状記録媒体の渦巻き状の案内溝13の対向縁部における蛇行あるいは凹凸の繰返し等に応じた信号すなわちクロック信号の読取り出力を、トラッキング・エラー信号TEとは区別して得ること、及び一対の隣接配置された光検出手段(30a+30b)及び(30c+30d)はディスクの径方向に対応して分割されていることを示している(下線部参照)。
(i-C)
「本発明に斯かる光学式ディスクプレーヤに装着しうるディスクは、その渦巻状の案内溝に書込まれる信号がクロック信号に限られたものではなく、クロック信号以外の種々の情報信号が書込まれたものあってよい。」(公報第8頁右下欄第14〜18行参照)
この記載は、案内溝に蛇行として書込まれる信号が何であってもいことを示している。
(i-D)
「このような書込み可能なディスクには・・・中央孔を取り囲む渦巻状の案内溝が予め設けられ・・・この案内溝は・・・情報信号の書込み、あるいは・・・読取りがなされるに際し、・・・記録トラックに適性に追従させるべく形成されるトラッキング・サーボコントロール系において必要とされるトラッキング・エラー信号を得るべく使用されるものとなされ、さらには、記録トラックに関連してのディスク上の位置を示すアドレス情報を有するものとされる。」(公報第2頁右上欄第15行〜同頁左下欄第10行参照)
ここでは、従来書込み可能なディスクの案内溝にはトラッキング・エラー信号とともに、記録トラックに関連してのディスク上の位置を示すアドレス情報すなわちディスク上の位置を表す位置情報を記録しておくのが普通であることを示している。

以上の事項を総合すると、刊行物1には、
「幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、
この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる情報を検出するようにした光学式ディスクプレーヤ。」(以後、「刊行物1に記載発明」という)
が記載されるとともに、溝の対向縁部のウオブリング情報を利用することすなわち溝の両縁部を同時に読取っている蓋然性が高いこと、また書込み可能ディスクであって書込み位置を知る必要性から、(i-D)の従来技術に示されているように、記録トラックに関連してのディスク上の位置を示すアドレスを何らかの形で含んでおり、ウオブリング情報に含まれる情報がディスク上の位置を表す位置情報である可能性が高いことも示している。
(ii) 当審が刊行物1と同時に訂正拒絶理由として通知した特開昭58-91544号公報(以後、「刊行物2」という)には、テレビジョン信号用記録担体の読取装置に関し、以下の事項が記載されている。
(ii-A)
「1.テレビジョン情報をトラック状に貯留し、該トラックの領域及び中間領域が各々照射光線に対し異なる効果を及すと共に、他の情報をトラック読取方向に対し横方向におけるトラックのうねりとして貯留したテレビジョン信号用記録担体を読取るための装置において、光源と、該光源からの光線を記録担体を介し感光情報検出系に供給するための対物レンズ系とを備え、前記光源により供給され、前記領域及びうねりにより変調された光線を電気信号に変換する前記感光情報検出系を4個の感光検出器で構成し、これら検出器を対物レンズ系の有効出射瞳内に配置するとともに該出射瞳を通るX-Y座標系の夫々異なる象限内に位置させX軸をトラック読取方向に、又Y軸をこれに対し横方向に夫々延在させたことを特徴とするテレビジョン信号用記録担体の読取装置。
2.第1及び第2象限内に配置した検出器の出力端子を第1の合計装置に接続し、第3及び第4象限内に配置した検出器の出力端子を第2の合計装置に接続し、第1及び第2の合計装置を差動増幅器に接続し、この差動増幅器の出力側に前記うねりとして記録した他の情報を生ぜしめ、第1及び第4象限内に配置した検出器の出力端子を第3の合計装置に、又第2及び第3象限内に配置した検出器の出力端子を第4の合計装置に夫々接続し、第3及び第4の合計装置を増幅器に接続し、その出力側に前記領域に記録した情報を生せしめるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のテレビジョン信号用記録担体の読取装置。」(特許請求の範囲参照)、
「第4図は検出系14・・・を上方より見て示す。この検出系を4個の感光検出器15,16,17及び18で構成する。これら検出器のトラック構造に対する相対位置を示すために、読取るべきトラックの突起2’を情報検出系上に描く。・・・・第5図は上記出力信号の処理手順を示す。検出器15及び16の出力信号は合計装置20に、又検出器17及び18の出力信号は合計装置31に供給される。これら合計装置から信号は差動増幅器24に供給され、その出力端にトラックのうねりに含まれる情報に関する信号Srが表れる。領域の種々の空間的周波数に含まれる情報は・・・この差動増幅器は信号Stを発生する。」(公報第4頁左上欄第3行〜同頁右上欄第4行参照)、
第4、5図から明らかなように、検出器15,16の組と検出器17,1の組は夫々一体となって動作し、かつ光ディスクの径方向に対応して分割されていることから、これらの記載には、
「幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる情報を検出するするようにした光学式記録担体の読出装置。」が示されている。
(ii-B)
「情報構造を好ましくは位相構造とし、」(公報第3頁右上欄第16行参照)
「第2図に示すように、色及び音情報はうねりの空間的周波数に置換ることができる。・・・更に、トラックのうねりを周波数変調するとともに振幅変調して、色情報を例えばうねりの空間周波数により記録し、音情報をうねりの振幅により記録することができる。」(公報第3頁右上欄第8〜15行参照)、
「上述の如く情報、例えばクロミナンス情報及び音情報がうねりの周期変化として記録されている場合、電気信号Srは一定の振幅をもち、その周波数が変化する。」(公報第6頁右上欄第5〜8行参照)
ここでは、記録されるテレビジョン信号の輝度情報が位相構造で、色及び音情報が「うねり」即ち周波数変調されたウオブリング情報として記録されていることを示している。
(ii-C)第8図のスポットSの径は明らかにトラック2”の幅より大きい。
(ii-A)〜(ii-C)の記載を総合すると、刊行物2には、
「照射されるビームスポットの直径より小なる幅を有し、幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、
この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号のFM成分に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる情報を検出するするようにした光学式記録担体の読出装置。」
が示されていると認められる。
(iii)当審が訂正拒絶理由として通知したもう1つの刊行物、実願昭60-79238号(実開昭61-195521号)のマイクロフィルム(昭和61年12月5日公開:以後、「刊行物3」という)には、光学式ビデオディスク等の光学式記録担体のトラッキング誤差検出装置に関し、第3,4図及びその関連説明において、照射されるビームスポットの直径より小なる幅のト案内溝8bからの反射光を、光ディスクの径方向に対応して分割された2つの受光領域(10a,10b)を有する光検出器10で受光し、2つの受光領域(10a,10b)の出力信号の差からトラッキング誤差信号を検出するプッシュプル法のトラッキング誤差検出装置が示されている。
(iv)当審が刊行物1〜3と共に訂正拒絶理由として通知した特開昭59-5449号公報(以後、「刊行物4」という)には、光ディスク用記録担体に関し、
(iv-1)
「記録再生を行う為の記録担体にはある一定の情報の記録再生を行う為のゾーンに別の情報を付加する必要が生じることがある。このような場合、・・・所謂アドオン記録をする場合には、先の記録した情報トラックと正確に隣接させることが必要である。この目的のためにトラックのガイドとして空溝を記録・・・・アドオン記録をする上でもう一つ重要なことは、所定の記録を行う為の特定のトラックを識別することである。この為に従来、トラックの一部に識別の為のアドレスコードが記録されている。従来の一般的なアドレスコードの入れ方として空溝形成時にトラックの一部で空溝を断続的に消失させ・・・その消失部分の長さ又は断続的な空溝の長さを検出することでアドレスコードを再生する・・・・アドレス部分がトラックの一部に入っていることはトラック1周分の再生を行って初めてアドレス信号の再生ができるので・・・トラック1周分の時間・・・が必要・・アドレス検索を行う上でのネックとなっている。」」(公報第2頁右上欄第6行〜同頁右下欄第14行参照)
の記載に示されているような従来のアドレスコードの付与方法の欠点を改良するために、
(iv-2)
「1.情報の記録及び再生を行う為に予め設けられた同心円状又は螺旋状の連続的なトラックを有し、前記連続的なトラックに情報記録再生のための補助的な情報を含ませた光ディスク用記録担体。
2.トラックは略矩形断面の形状を裕平成年月日しており、このトラックに含まれる補助的な情報はトラックの断面形状の変化で記録されている特許請求の範囲第1項記載の光ディスク用記録担体。
3.トラックの補助的な情報はそのトラックを識別する識別コードを含む特許請求の範囲第1項記載の光ディスク用記録担体。
トラックに含まれる補助的な情報がトラック溝の中心に対して対称となる断面の形状変化で記録されている特許請求の範囲第1項記載の光ディスク用記録担体。(後略)」(特許請求の範囲参照)、
具体的には
(iv-3)
「第2図に示す第1実施例において、(11)は記録担体基板、(12)は記録層、(13)は補助的情報信号を記録した同心円状又は螺旋状の連続的な且つ断面略矩形のトラック溝(空溝)、(14)は記録再生するための情報要素である。前記トラック溝(13)の両側は平面から見て波形にトラックの中心に対して対称に形成されている。」(公報第3頁左上欄第15行〜同頁右上欄第1行参照)、
「空溝エッジを形成するためには・・・光ビデオディスクを製造するプロセスをそのまま使用・・・ガラス原盤上に塗布したレジストを連続した光ビームで露光する。このとき光ビームを例えばアドレス信号を含む信号で強弱の変調をすることにより空溝〔トラック溝(13)〕のエッジ部に第2図〜第5図に示すような信号を形成することができる。」
と、光デイスクの原盤製造過程で、同心円状又は螺旋状の連続的な且つ断面略矩形のトラック溝(空溝)のエッジ部にアドレス信号を含む信号で強弱の変調した光ビームで露光することにより波形の信号を形成することにより、
上記トラック溝(空溝)のエッジ部にアドレス信号を含む波形の信号を形成したすなわちウオブリング情報にディスク上の位置を表す位置情報を含んだ光ディスクとすることを示している。
(II-3-3)対比・判断
そこで訂正発明を刊行物1に記載の発明とを対比させてみるに、刊行物1に記載の発明の「光学式ディスクプレーヤ」が訂正発明の「光ディスク装置」に相当することは明らかであることから、
両者は、
「幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、
この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる情報を検出するようにした光ディスク装置。」
で一致し、
相違点1:
訂正発明では、ウオブリングされた溝が「照射されるビームスポットの直径より小なる幅を有し」ているのに対し、刊行物1に記載の発明のものにはそのような規定がないこと。
相違点2:
訂正発明では、「分割された検出器の差信号のFM成分に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる、ディスク上の位置を表す位置情報を検出する」のに対し、刊行物1に記載の発明のものは単に「分割された検出器の差信号
に基づいて」検出するとしか規定されておらず、信号の変調方法が不明である。
相違点3:
訂正発明では「ウオブリング情報に含まれる情報」が「ディスク上の位置を表す位置情報」であるのに対して、刊行物1に記載の発明のものは、「クロック信号」を含む「種々の情報信号」と規定され情報信号の種類が 特定されていない。
の3点で異なっている。

そこで、これら3つの相違点の夫々について詳細に検討してみる。
先ず、相違点1について:
刊行物1に記載の発明の実施例では確かに溝幅とスポットの直径の関係について明確に規定されてはいないが、(i-A)の記載中の「対向縁部」、溝幅が一定であることの記載、各図面から対向縁部に同相のウオブリングが施されていること、及び刊行物2、3のようにプッシュプル法では、通常、溝の両端からの反射光を用いられることを考え合わせれば、刊行物2,3での知見を元に刊行物1に記載の発明において、ウオブリングされた溝の溝幅を「照射されるビームスポットの直径より小なる幅」とする程度のことは当業者ならば容易に想到可能な範囲のものと認められ、この相違点を格別のものとすることは出来ない。
次いで、相違点2について
刊行物1において、溝の蛇行すなわちウオブリングの変調方法は明確ではない。しかし、本願出願時公知の刊行物2において、訂正発明と同様な溝の幅方向のウオブリング情報を有する光記録担体において、ウオブリング情報が周波数変調されており、分割された検出器の差信号が当然FM成分を有しているものが開示されている。刊行物1にウオブリング情報を周波数変調する理由についての明示はないが、訂正発明でも同様に理由を示すことなく図面とともに「検出器の差信号のFM成分」と規定されているに過ぎない。ただ、通常複数の情報を多重記録するとき、両者の混合や干渉を避けるために変調方法を変えることが良く行われており、刊行物1に記載の発明おいても同様な観点から、刊行物1の主情報の変調方法(おそらくEFM)とは異なる周波数変調を採用することは当業者ならば容易に可能と認められ、この点も格別な相違とは認められない。
最後に相違点3について
特許権者が意見書で主張するように、確かに刊行物1には(i-C)に記載されるように「クロック信号に限らず種々の情報でもよい」以外規定されておらす、この記載が直ちに「位置情報」を示唆するとは言えない。しかし、一方で(i-D)に記載されるように、従来書込み可能なディスクは案内溝に記録トラックに関連してのディスク上の位置を示すアドレス情報を有するものとされるのが普通で、これがなければオーバーライトを防いだり、つなぎ取り等が出来ないことは技術的常識である。ただ刊行物1では、どのように位置情報を案内溝と関連付けて記録するかが不明であるが、訂正発明でも明確な規定、記載はない。一方、刊行物4には、プリビットの形でアドレスコードを設けるものの欠点を改良するために溝のエッジを波形にウオブリングさせ、ディスク状の位置を表す位置情報であるアドレス信号を記録した光デイスクが示されており、訂正発明、刊行物1,2と同じ技術分野に属するこの従来技術を、刊行物1の従来技術の記載、本願出願時の技術常識にのっとって刊行物1に記載の発明に適用して訂正発明の如くにする程度のこともやはり当業者に格別の創作力を要するとは認められない。
したがって、これら3つの相違点のいずれも訂正発明を刊行物1に記載の発明等と格別に区別し進歩性のある発明をするに足りないため、訂正発明は、刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められ特許法同29条第2項の規定により、その出願の際独立して特許を受けることが出来るとは認められない。
(II-4)まとめ
以上から、上記訂正請求は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、
特許法第120条の4第3項で準用する第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
III.特許異議の申立てについて
(III-1)本件発明
上記のとおり訂正請求が認められなかったため、本件の特許請求の範囲の第1項に記載の発明(以後、「本件発明」という)は特許明細書の特許請求の範囲の第1項に記載される次の通りのものと認められる。
「照射されるビームスポットの直径より小なる幅を有し、幅方向に対して所定周波数でウオブリングされた溝が予め形成された光ディスクに対し、
この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、
上記光ディスクから反射されたビームを上記検出器で検出し、
上記分割された検出器の差信号に基づいて上記ウオブリング情報に含まれる、位置情報を検出するようにした光ディスク装置。」
(III-2)申立ての理由の概要
特許異議申立人中村 吉孝は、
(III-2-1)特許法第36条第4項違反
特許請求の範囲の第1項における「溝のウオブリング情報に含まれる位置情報」について、ある周波数でウオブリングしている溝にどのように位置情報を記録するのか、その具体手続補正書機構性が何ら記載されておらず、且つ周知ではない」としてこの点が特許法第36条第4項に違反する。
(III-2-2)特許法第29条第2項違反(1)
特開昭61-236034号公報(甲第1号証、訂正拒絶理由及び取消理由通知の刊行物1に同じ)、特開昭58-91544号公報(甲第2号証、訂正拒絶理由及び取消理由通知の刊行物2に同じ)を証拠として示し、本件発明は甲第1,2号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとして特許法第29条第2項の規定に違反する。
(III-2-3)特許法第29条第2項違反(2)
本願の原出願である特願昭62-192225号の出願当初明細書には本願の特許請求の範囲の第1項のウオブリングした溝に絶対時間情報を含ませる旨の記載は一切無いので分割は認められず、従って本願の出願日は現実の
出願日であるとし、特開昭64-35727号公報、特開昭63-87682号公報に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたので特許法第29条第2項の規定に違反する。
として、本件発明に対する特許は特許法第113条第1項第4号及び第2号の規定により取消されるべき旨主張する。
(III-3)判断
(III-2-2)特許法第29条第2項違反(1)について検討する。
本件発明は上記訂正発明から「検出器の差信号」、「位置情報」についての限定事項を取除いたものであり、上記(II-3)で検討したように限定条件を有したものが刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが出来たものであるから、訂正発明からその限定事項を取除いた本件発明も当然刊行物1〜4に記載の発明から容易に発明されると認められる。また、刊行物3、4は上記限定事項に関係のない発明であるので、刊行物1,2即ち甲第1,2号証からだけでも本件発明に容易に想到可能である。
(III-4)結び
以上のとおり、本件発明は、 特許法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第11号)により改正された特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。
従って、本件発明に対する特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-03-26 
出願番号 特願平9-3391
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (G11B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 竹中 辰利  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 田良島 潔
張谷 雅人
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2892325号(P2892325)
権利者 ソニー株式会社
発明の名称 光ディスク装置  
代理人 杉浦 正知  

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