• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A23L
管理番号 1079193
審判番号 無効2002-35385  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-11-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-09-11 
確定日 2003-06-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第1514992号発明「海苔製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1514992号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第1514992号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和60年5月11日に出願され、平成1年8月24日に設定登録されたものである。

(2)これに対して、請求人は、本件発明は昭和62年改正前(審判請求書に記載の「平成6年改正前」は誤記であり、正しくは「昭和62年改正前」であると認める。)の特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反するものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきである旨主張し、証拠方法として甲第1号証を提出した。

(3)被請求人は、平成14年12月6日付けで答弁書を提出すると共に、同日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めた。

(4)当審では、平成14年12月20日付けで、「本件の訂正請求は、特許法第134条第2項ただし書3号の規定に適合しない。」との訂正拒絶理由を通知した。

(5)これに対して、被請求人からは、指定期間を経過するも何ら応答がなかった。

2.訂正の適否に対する判断
(1)訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
ア.訂正事項A
明細書(昭和60年7月12日付けの手続補正書で全文補正した明細書を指し、以下同様とする)第9頁第7行〜第8行(特許公報第5欄20行〜21行)の「上下乾燥室チェーン7,7′」を「上下乾燥室チェーン7′,7″」に訂正する。
イ.訂正事項B
明細書第9頁第20行(特許公報第5欄第32行)の「同チェーン41右端」」を「同チェーン41左端」に訂正する。
ウ.訂正事項C
明細書第10頁第7行と第8行との間(特許公報第5欄第38行と第39行との間)に、「かかる受渡し部5における受渡し部駆動機構46は、搬送チェーン1及び同搬送チェーン1と同じ間欠搬送作動を行う上下乾燥室チェーン7′,7″と同期作動の押し上げローラー20及び受渡中の簀枠9を下方から支持するための第1〜第4ガイド板21,22,23,24、簀枠9の折返し作動のための上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている。このようにして、従前の乾燥室の搬入機構をそのまま使用して抄製される海苔を一枚づつ乾燥室内に搬入する。」を挿入する。
エ.訂正事項D
明細書第11頁第12行(特許公報第6欄第16行目)に記載されたカッコ内の「第4図」を「第2図」に訂正する。
オ.訂正事項E
明細書第11頁第20行〜第12頁第2行(特許公報第6欄第23行目〜25行目)の「確実なものとし、第5図のタイミングチャートに示すタイミングで各部を作動させるものであり、各部の作動と時間との関係を示すものである。」を、「確実なものとしている。搬送チェーン1、上下乾燥室チェーン7′,7″及び各部の作動は、すべて一基の主モータ36からの動力を各種連動機構を介して伝達することによって行われるものであり、主モータ36は、第5図のタイミングチャートに示すタイミングで各部を作動させるものであり、第5図は、各部の作動と時間との関係を示すものである。」に訂正する。

(2)当審の判断
そこで、上記訂正事項AないしEのうち、先ず訂正事項Cについて検討する。
一般に「駆動」とは、「動力を与えて動かすこと。」(新村出編「広辞苑 第五版」岩波書店)と定義されている。
この定義に従えば、訂正事項Cにおける「受渡し部駆動機構46」は、受渡し部を構成する部材に動力を与えて、これらの部材を動かす機構を意味するものと解される。
一方、明細書には「受渡し部5は、搬送チェーン1を略W字形状に屈折走行せしめ、左方向に突出した上下突出部18,19と、乾燥室チェーン7を構成した上下乾燥室チェーン7′,7″の右端それぞれの間で簀枠9の受渡しを行うべく構成されており、簀枠9の受渡し作動は、搬送チェーン1及び上下乾燥室チェーン7′,7″と同期作動の押し上げローラー20及び受渡中の簀枠9を下方から支持するための第1〜第4ガイド板21,22,23,24、簀枠9の折返し作動のための上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27により行われ、………………」(特許公報2頁第4欄第31行〜41行)と記載されている。
かかる記載によれば、受渡し部5における簀枠9の受渡し作動は、押し上げローラー20、第1〜第4ガイド板21,22,23,24、上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27により行われるものと認められ、従って、上記押し上げローラー、第1〜第4ガイド板、上下折返しガイド板及び補助ガイド板は、受渡し部5における簀枠9の受渡し作動機構を構成するところの部材であるということができる。
しかしながら、少なくとも上記第1〜第4ガイド板、上下折返しガイド板及び補助ガイド板は、主モーターからの動力が伝達され、該動力により動く部材、すなわち、受渡し部駆動機構46を構成する部材ではない。
そうすると、訂正事項Cにおける「………受渡し部駆動機構46は、………………押し上げローラー20……………第1〜第4ガイド板21,22,23,24、……………上下折返しガイド板25,26及び補助ガイド板27より構成されている。」は、技術的に不明瞭な記載であるということになり、このような不明瞭な技術的事項を明細書に挿入する訂正は、不明りょうな記載の釈明を目的とする明細書の訂正には該当しない。

(3)むすび
したがって、他の訂正事項A、B、D及びEについての訂正の適否について検討するまでもなく、本件の訂正請求は、特許法第134条第2項ただし書3号の規定に適合しない。
よって、当該訂正は認められない。

3.請求人の主張
請求人は、以下に示す理由を挙げて、本件発明は、昭和62年改正前(審判請求書に記載の「平成6年改正前」は誤記であり、正しくは「昭和62年改正前」であると認める。)の特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反するものであり、特許法第123条第1項第3号の規定により、無効とすべきである旨主張し、証拠方法として甲第1号証(平成10年(行ケ)第328号の判決書写し)を提出している。

「本件発明において、搬送チェーン1の作動と乾燥室チェーン7の作動との関連付けは、特許請求の範囲で本件発明の構成要素とされている重要な技術事項である。そして本件発明の特許請求の範囲に、搬送チェーン1と乾燥室チェーン7の作動を関連付けるものとして、『同チェーン1の終端には乾燥室チェーン7を同期して作動すべく配設し、』、『一回の抄き部2の抄き作動後の抄き停止間に、搬送チェーン1を抄き機構13の複数個の数と同じ回数だけ間欠搬送作動させ、搬送チェーン1の間欠搬送作動にともなって、乾燥室チェーン7も同じ回数だけ間欠搬送作動するように構成し』との記載がある。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明や図面には、上記作動(構成)を裏付ける記載は全くない。すなわち、特許請求の範囲には、発明の詳細な説明や図面にまったく記載されていない構成(発明の詳細な説明や図面の記載とはまったく無関係な構成)が記載されているのである。
以上の点については、甲第1号証に係る判決書(後述)に詳細に記載されているので、無効理由の詳細については判決書(甲1)を援用する。」

4.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、「本件出願に係る発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることから、本件特許発明は、昭和62年改正前(答弁書に記載の「平成6年改正前」は誤記であり、正しくは「昭和62年改正前」であると認める。)の特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。 また、甲第1号証に示された平成10年(行ケ)328特許権行政訴訟事件における判断は、本件出願に係る発明の詳細な説明の欄の不明瞭な記載に基づくものであり、本審判事件答弁書と同時提出の訂正請求書により発明の詳細な説明の欄を訂正したことによって、上記訴訟事件での判断の誤りが解消されるものと思料する。」と主張し、証拠方法として乙第1号証(特公昭63-13663号公報)、乙第2号証(昭和62年6月30日付け拒絶理由通知書の写し)、乙第3号証(特開昭55-150885号公報)、乙第4号証(特公昭58-5653号公報)及び乙第5号証(特公昭54-25111号公報)を提出している。

5.無効理由についての判断
(1)本件発明
本件発明は、明細書(昭和60年7月12日付けの手続補正書で全文補正した明細書を指し、特公昭63-13663号公報に掲載されたものである。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「簀枠9を間欠搬送する無端状の搬送チェーン1と同期して作動する抄き部2、プレス脱水部4及び剥ぎ取り部8をそれぞれ同チェーン1の搬送方向に沿って配設し、同チェーン1の終端には乾燥室チェーン7を同期して作動すべく配設し、更には抄き部2を複数個の抄き機構13にて構成すると共に、各抄き機構13の抄き作動はすべて同時に同調して間欠作動すべく構成し、一回の抄き部2の抄き作動後の抄き停止間に、搬送チェーン1を抄き機構13の複数個の数と同じ回数だけ間欠搬送作動させ、搬送チェーン1の間欠搬送作動にともなって、乾燥室チェーン7も同じ回数だけ間欠搬送作動するように構成してなる海苔製造装置。」

(2)当審の判断
請求人が主張する上記無効理由について、以下検討する。
(イ)特許請求の範囲の記載によれば、「搬送チェーン1」と「乾燥室チェーン7」とは、同期して作動するものであり、搬送チェーン1が間欠搬送作動すれば、乾燥室チェーン7も同じ回数だけ間欠搬送作動するという構成のものであることが認められる。

(ロ)一方、発明の詳細な説明についてみると、
1)5欄20行〜23行(明細書の該当個所を特公昭63-13663号公報の該当個所でもって表示する。以下同様である。)の記載によれば、搬送チェーン1と上下乾燥室チェーン7、7′は、一基の主モーター36からの動力の下に、各種連動機構を介して連動していると認められる。
2)5欄39行〜6欄3行の記載によれば、間欠駆動機構43は、ラチェット爪53と各ラチェット車49、50の係合歯との係合を利用して、第7チェーン44に間欠回動作動を行わせることになる。
3)6欄8行〜16行との記載によれば、ラチェット爪53と各ラチェット車49、50の係合歯との係合の具合により、内ラチェット車49が2ピッチ送り作動する間に、外ラチェット車50が1ピッチ送り作動することになる。
4)6欄9行〜10行の記載によれば、搬送チェーン1は、外ラチェット車50と連動連結していることになる。
5)6欄4行、5行の記載によれば、上下乾燥室チェーン7′、7″は、内ラチェット車49に連動連結していることになる。
6)上記1)ないし5)の下では、「従って、搬送チェーン1は上下乾燥室チェーン7′、7″が2回作動する間に1回作動する。」(6欄16行〜18行)という動作は、一組の間欠駆動機構43に係るものとして、必然的な帰結となるということができる。
7)6欄18行〜26行の記載によれば、本件発明の唯一の実施例とされている装置においては、搬送チェーン1は、一組の間欠駆動機構43しか用いないものではなく、二組の間欠駆動機構43を用い、これらを合成することによって、第5図のタイミングチャートに示すタイミングで各部を作動させるものであることが認められる。
そして、第5図によれば、搬送チェーン1が1回間欠搬送するたびに上下乾燥室チェーン 7′、7″が1回間欠作動するというタイミングで作動することになるものである。

(ハ)次に、図面についてみると、
第2図、第3図からすれば、ラチェット爪53と各ラチェット車49、50の係合歯との係合の具合により、内ラチェット車49が2ピッチ送り作動する間に、外ラチェット車50が1ピッチ送り作動するという機構を有することは明らかである。
また、第5図には、搬送チェーン1が1回間欠搬送作動した後に、上下乾燥室チェーン7′、7″が短く1回間欠作動し、続いて、すぐに、搬送チェーン1がまた1回間欠搬送作動をし、その後しばらく間隙をおいて、上下乾燥室チェーン7′、7″が短く1回間欠作動し、以上の作動を繰り返すというタイミングが示されている。

(ニ)以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に示されているのは、上下乾燥室チェーン7′、7″が 2回作動する間に搬送チェーン1は、2組の間欠駆動機構のそれぞれにより、1回ずつ合計2回、第5図のタイミングチャートに示すタイミングで作動するという構成のものであるということができる。

ところが、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面によれば、「かかる内外ラチェット車49、50とラチェット爪53及びコンロッド48と回動クランク47の間欠駆動機構43は、もう一組1ピッチの位相差をもって配設されており、両方の間欠駆動機構43の作動を合成することによって間欠作動を確実なものとし、第5図のタイミングチャートに示すタイミングで各部を作動させるものであり、各部の作動と時間との関係を示すものである。」(6欄18行〜26行)との記載があり、第5図においては、搬送チェーン1が1回間欠搬送作動した後に、上下乾燥室チェーン7′、7″が1回間欠作動するという作動を繰り返すというタイミングが示されているものの、それのみであり、一組の間欠駆動機構と、もう一組の間欠駆動機構とがどのように連結して、どのようにして第5図のようなタイミングの作動をするのかを示す記載は、本件明細書のどこにも見出すことができない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に本件発明の構成が記載されているということはできず、請求人の上記主張には理由がある。

被請求人は、「一基のモータを用いて搬送チェーンと乾燥室チェーンなどの各部とを所定のタイミングで連動させるための具体的な機構は、本審判請求人を含む当業者にとって自明の機構であり、本件出願前から当業者に広く知られていた機構であって当業者であれば容易に考え得る機構であることから、適宜の伝動機構を用いることにより第5図のようなタイミングの作動を実現することは、当業者にとって容易である」と主張する。
しかしながら、被請求人の提出した乙第1ないし5号証の記載を参酌しても、被請求人主張のように適宜の伝動機構を用いることにより第5図のようなタイミングの作動を実現することが、当業者にとって容易であると認めることはできない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法第36条第3項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-18 
結審通知日 2003-04-23 
審決日 2003-05-07 
出願番号 特願昭60-100012
審決分類 P 1 112・ 531- ZB (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 柿沢 恵子
種村 慈樹
登録日 1989-08-24 
登録番号 特許第1514992号(P1514992)
発明の名称 海苔製造装置  
代理人 高松 利行  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 内野 美洋  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ