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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B66C
審判 全部無効 1項1号公知 無効としない B66C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B66C
管理番号 1080713
審判番号 無効2000-35580  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-10-20 
確定日 2003-07-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2833671号発明「敷鉄板吊上げ用フック装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2833671号の請求項1〜5に係る発明(以下、「本件特許発明1〜5」という。)についての出願は、平成3年2月26日に特許出願され、平成10年10月2日にそれらの発明について特許の設定登録がなされた。
(2)請求人株式会社スーパーツールは、平成12年10月20日付けで、本件特許発明1〜5についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求した。
(3)これに対して、被請求人は、平成12年12月26日付けで答弁書を提出した。

2.請求人の主張の概要
請求人は、証拠として、甲第1号証(特許第2833671号公報)、甲第2号証(新村出編、「広辞苑 第2版」、株式会社岩波書店、昭和47年10月16日、第2版第6刷発行、第1249頁)、甲第3号証(本件特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面の1991年7月13日付けファクシミリ)、甲第3号証の1(本件特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面)、甲第4号証(平成7年11月2日付け意見書)、甲第4号証の1(平成7年11月2日付け手続補正書)、甲第5号証(平成10年2月17日付け補正案のファクシミリ)、甲第5号証の1(平成10年2月19日付けの応対記録及び同日付け拒絶理由通知書)、甲第5号証の2(平成10年3月18日付け手続補正書)、甲第6号証(平成10年6月29日15:07〜15:08付け補正案のファクシミリ)、甲第6号証の1(平成10年6月29日16:24〜16:25付け補正案のファクシミリ)、甲第7号証(平成10年7月23日付け手続補正書)、甲第8号証(被請求人作成の、請求人及び被請求人間のやりとりの時系列説明)及び甲第9号証(吉藤幸朔著、「特許法概説 第8版」、有斐閣、昭和63年5月20日、第8版第1刷発行、第74頁〜第77頁)を提出し、以下に示す旨の理由により無効にされるべきであると主張している。

(1)第1の理由
請求項1には、「(iv)ー1」として、「前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、」と記載されており、また、「(iv)ー2」として、「前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」と記載されている。
ところが、本件特許明細書及び図面である甲第1号証には、仮想略平行線が実際どのように引かれるのか記載されていない。
そして、甲第1号証の記載をみると、フックの後端部(32)は、フック先端部(31)の反対側のフックの湾曲部分から後方に屈曲した二股構造部分のみを指すと解せられるところ、二股構造部分(32)の内側、及び、フックの先端部(31)の内側に接する仮想略平行線は存在しない。仮想略平行線が存在しない以上、仮想略平行線と略平行となる、ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分も存在しない。
すなわち、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、(iv)ー1及び(iv)ー2の事項を具体的に実現する手段が、記載されていないから、本件特許発明1は、(イ)発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に構成を記載していないばかりか、(ロ)特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではなく、(ハ)特許請求の範囲の記載が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでもない。
したがって、本件特許発明1、及び該発明の構成を構成の一部とする本件特許発明2〜5についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1〜2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2)第2の理由
請求項1に記載の「(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、」及び「(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること」は、平成10年7月23日付け手続補正により追加された事項であるが、該事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていない。
したがって、上記手続補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、上記手続補正書提出時の平成10年7月23日にしたものとみなされるべきものである。
ところで、甲第3号証(本件特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面の1991年7月13日付けファクシミリ)には、上記(iv)ー1及び(iv)ー2の事項を除く本件特許発明1〜5の構成がすべて明記されており、また、上記(iv)ー1及び(iv)ー2の事項は、甲第3号証の図1に示されているものと認められるから、甲第3号証には、本件特許発明1〜5の構成がすべて記載されていると認められる。
そして、甲第8号証に記載されている請求人と被請求人とのやりとりの経緯をみると、平成3年9月下旬に、本件特許発明の実施許諾をめぐる両者の交渉は決裂しているから、平成3年10月1日には、請求人は甲第3号証の内容に関して秘密を保持すべき義務を有しておらず、したがって、甲第3号証記載の発明は、平成3年10月1日時点では公然知られた発明である。
よって、本件特許発明1〜5は、甲第3号証記載の発明であり、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3.被請求人の主張
被請求人は、上記理由1、2に対して、以下のとおりの旨主張している。

(1)理由1に対して
本件特許の明細書に記載不備は存在しない。

(2)理由2に対して
請求項1に記載の(iv)ー1及び(iv)ー2の事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面に実質的に記載されていたから、平成10年7月23日付け手続補正は明細書又は図面の要旨を変更するものではなく、本件特許の出願日は繰り下がらない。
また、請求人は甲第3号証の内容に関して秘密を保持すべき義務を有しており、甲第3号証記載の発明は、本件特許の出願前に公然知られた発明ではない。

4.本件特許発明
本件特許発明1〜5は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、敷鉄板を吊上げるためのフック装置において、前記フック装置が、
(i).先端部に脱落防止部(11)、後端部にワイヤー固定部(12)を有するフック支持体(1)、
(ii).前記フック支持体(1)に接合ピン(2)を介して回動自在に配設されたフック(3)、
(iii).前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と前記フック(3)の先端部(31)が略当接関係にあるとき、前記フック(3)の後端部(32)に係合して前記フック(3)を係止するための前記フック支持体(1)側に配設されたロック(4)、
及び、
(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、
を特徴とする敷鉄板吊上げ用フック装置。
【請求項2】ロック(4)が、フック(3)の後端部(32)に設けたフック側係止部(33)に対して、ロック(4)に設けたロック側係止部(41)を係合させる構成のものである請求項第1項に記載の敷鉄板吊上げ用フック装置。
【請求項3】ロック(4)が、フック(3)の後端部(32)に設けたフック側係止部(33)に対して、スプリング弾発力によりロック(4)に設けたロック側係止部(41)を係合させるものである請求項第2項に記載の敷鉄板吊上げ用フック装置。
【請求項4】フック支持体(1)を一枚の鋼板製とするとともに、フック(3)の後端部(32)を二股構造とし、前記二股構造のフック(3)の後端部(32)の間にフック支持体(1)の略中間部位を枢着したものである請求項第1項に記載の敷鉄板吊上げ用フック装置。
【請求項5】フック支持体(1)を所定の間隔をもった二枚の鋼板製とし、前記二枚の鋼板間でフック(3)の後端部(32)を枢着したものである請求項第1項に記載の敷鉄板吊上げ用フック装置。」
なお、【請求項3】には「後端分(32)」と記載されているが、フック側係止部(33)が設けられているのは、フック(3)の後端部であり、また、本願の図面中符号(33)が付されている部分は、フック(3)の後端部であるから、「後端分(33)」は「後端部(33)」の誤記と認め、請求項3に係る発明(本件特許発明3)を上記のように認定した。

5.甲第1〜9号証の記載事項等
甲第1〜9号証には、以下の事項が記載ないしは示唆されている。

(1)甲第1号証(特許第2833671号公報)
甲第1号証には、
(イ)上記「4.本件特許発明」に記載の【請求項1】〜【請求項5】の記載内容(なお、【請求項3】には「後端分(32)」と記載されている。)、
(ロ)「【問題点を解決するための手段】本発明を概説すれば、本発明は、吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、敷鉄板を吊上げるためのフック装置において、前記フック装置が、
(i).先端部に脱落防止部(11)、後端部にワイヤー固定部(12)を有するフック支持体(1)、
(ii).前記フック支持体(1)に接合ピン(2)を介して回動自在に配設されたフック(3)、
(iii).前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と前記フック(3)の先端部(31)が略当接関係にあるとき、前記フック(3)の後端部(32)に係合して前記フック(3)を係止するための前記フック支持体(1)側に配設されたロック(4)、及び、
(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、を特徴とする敷鉄板吊上げ用フック装置に関するものである。」(段落【0006】)、
(ハ)「図1は、本発明の第一実施態様のフック装置の構造を説明するための正面図である。(中略)図示のフック(3)は、その後端部(32)がフック支持体(1)の略中間部位に跨設されるように二股構造になっているものである。」(段落【0008】の抜粋)、
(ニ)「図7は、本発明の第二実施態様のフック装置(F’)の構造を説明するための正面図である。(中略)フック支持体(1’)は、図示される形状の二枚の鋼製板から成り、フック(3’)を狭持するものである。」(段落【0010】の抜粋)
と記載されている。
また、これらの記載等を参酌すると、甲第1号証の【図1】には、
(ホ)「フック先端部31の内側に接して描いた線分と、フック先端部31と対向するフックの内側に接して描いた線分とは、仮想略平行線をなしており、フック3とフック支持体1は、前記フック3とロック4の係合が解除されて前記フック3が前記フック支持体1の脱落防止部11に対して反転回動されたとき、前記フック支持体1の脱落防止部11が、前記仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部12の中心と接合ピン2の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されている。」、
(ヘ)「フック先端部31に対向するフック後端部32の近辺であって、後方に屈曲した部分の下部幅方向に横断する実線(以下、『【図1】の線分A』という。)が引かれている。」点が、
甲第1号証の【図7】には、
(ト)「フック3’とフック支持体1’は、前記フック3’とロック4’の係合が解除されて前記フック3’が前記フック支持体1’の脱落防止部11’に対して反転回動されたとき、前記フック支持体1’の脱落防止部11’が、前記フック3’の先端部31’の内側及び後端部32’の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部12’の中心と接合ピン2’の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されている。」点が示唆されているものと認める。

(2)甲第2号証(新村出編、「広辞苑 第2版」、株式会社岩波書店、昭和47年10月16日、第2版第6刷発行、第1249頁)
(イ)「「接す」とは、「直線もしくは曲線が、他の曲線と一点において接線を共有する。また曲面が他の曲面と一点において接平面を共有する」を意味する。」(【接す】の項参照)

(3)甲第3号証(本件特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面の1991年7月13日付けファックス)、甲第3号証の1(本件特許第2833671号の願書に最初に添付した明細書及び図面)
甲第3号証及び甲第3号証の1には、
(イ)「フック支持体(1)を所定の間隔をもった二枚の鋼板製とし、フック(3)を二枚の鋼板間で回動自在に配設したものである請求項1項に記載の重量物吊上げ用フック装置。」(【請求項8】)、
(ロ)「図1は、本発明の第一実施態様のフック装置の構造を説明するための正面図である。(中略)図示のフック(3)は、その後端部(32)がフック支持体(1)に跨設されるように二また状になっているものである。」(甲第3号証の第5頁14行〜26行、甲第3号証の1の第4/8頁14行〜26行)、
(ハ)「本発明のフック装置における最大の特徴は、ロック解除されたとき、フック先端部(31)と脱落防止部(11)との開口幅を大きくできるという点である。」(甲第3号証の第6頁6行〜7行、甲第3号証の1の第5/8頁6行〜7行)、
(ニ)「図7は、本発明の第二実施態様のフック装置の構造を説明するための正面図である。(中略)フック支持体(1’)は、図示される形状の二枚の鋼製板から成り、フック(3’)を狭持するものである。」(甲第3号証の第7頁12行〜16行、甲第3号証の第6/8頁12行〜16行)
と記載されている。
また、これらの記載等を参酌すると、甲第3号証及び甲第3号証の1の【図1】には、
(ホ)「フック先端部31の内側に接して描いた線分と、フック先端部31と対向するフックの内側に接して描いた線分とは、仮想略平行線をなしており、フック3とフック支持体1は、前記フック3とロック4の係合が解除されて前記フック3が前記フック支持体1の脱落防止部11に対して反転回動されたとき、前記フック支持体1の脱落防止部11が、前記仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部12の中心と接合ピン2の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されている。」、
(ヘ)「フック先端部31に対向するフック後端部32の近辺であって、後方に屈曲した部分の下部の部位に幅方向に横切って実線(『【図1】の線分A』)が引かれている。」点が、
甲第3号証及び甲第3号証の1の【図7】には、
(ト)「フック3’とフック支持体1’は、前記フック3’とロック4’の係合が解除されて前記フック3’が前記フック支持体1’の脱落防止部11’に対して反転回動されたとき、前記フック支持体1’の脱落防止部11’が、前記フック3’の先端部31’の内側及び後端部32’の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部12’の中心と接合ピン2’の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されている。」点が示唆されているものと認める。

(4)甲第4号証(平成7年11月2日付け意見書)、甲第4号証の1(平成7年11月2日付け手続補正書)
(イ)「参考図第3図〜第4図には、フック内側から延びる線分(X線)、フック先端部内側から延びる線分(X1線)、及びフックを反転回動させた後、フック支持体と一体構造の脱落防止部の内側から延びる線分(Z線)が示されています。(中略)本願発明の敷鉄板吊上げ用フック装置において、いずれの場合も、線分Z線がフック内側から延びる線分(X線)を越えるようにフック支持体の脱落防止部が反転回動できるものであります。別言すれば、本願発明のフック装置は、フック脱落防止部との間に形成される開口幅を極めて多く設定できるものであります。(中略)参考第7図〜第8図に示されるように、引用例1のフックの構造のもとにおいては、Z線がX線を越えるまで反転回動させることができません。別言すれば、引用例1のフックにおいては、Z線がフックの開口幅(X〜X1)の内部にあり、フックと脱落防止部との間に形成される開口幅が極めて小さいものであります。」(甲第4号証の第5/7頁24行〜第6/7頁19行)
(ロ)「フック先端部の内側に接して描いた線分X1と、フック先端部と対向するフックの内側に接して描いた線分Xとは、仮想略平行線をなしており、フックとフック支持体は、前記フックとロックの係合が解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前記フック支持体の脱落防止部が、前記仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部の中心と接合ピンの中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線X、X1とが略平行になるように配設されている。」(甲第4号証の参考第3図参照)
(ハ)「フックとフック支持体は、前記フックとロックの係合が解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前記フック支持体の脱落防止部が、前記フックの先端部の内側及び後端部の内側に接して描いた仮想略平行線X1、Xの内側に存在しないように配設され、かつ、ワイヤー固定部の中心と接合ピンの中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線X、X1とが略平行になるように配設されている。」(甲第4号証の参考第4図参照)
(ニ)「フック(3)とロック(4)の係合が解除され、かつフック(3)がフック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、フック(3)の背部(34)が少なくともフック支持体(1)の側部(13)に当接するように配置構成されたフック(3)とフック支持体(1)」(甲第4号証の1の第1/10頁14行〜17行)

(5)甲第5号証(平成10年2月17日付け補正案のファクシミリ)、甲第5号証の1(平成10年2月19日付けの応対記録及び同日付け拒絶理由通知書)、甲第5号証の2(平成10年3月18日付け手続補正書)
(イ)「(iv)ー1.前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、前記フック(3)の背部(34)が少なくとも前記フック支持体(1)の側部(13)に当接するように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記フック(3)と前記フック支持体(1)の当接時に、前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設されること、」(甲第5号証の第4/4頁3行〜10行)
(ロ)「審査官は、平成10年2月17日付け補正案につき、不備を指摘した。」(甲第5号証の1の第1/4頁参照)
(ハ)「審査官は、特許法第36条第4項、第5項違反の平成10年2月19日付けの拒絶理由を通知した。」(甲第5号証の1の第1/1頁参照)
(ニ)「(iv)ー1.前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、前記フック(3)の背部(34)が少なくとも前記フック支持体(1)の側部(13)に当接するように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記フック(3)と前記フック支持体(1)の当接時に、前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設されること、」
(甲第5号証の2の第1/3頁13行〜20行)

(6)甲第6号証(平成10年6月29日15:07〜15:08付け補正案のファクシミリ)、甲第6号証の1(平成10年6月29日16:24〜16:25付け補正案のファクシミリ)
(イ)「(iv)ー1.前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、前記フック(3)の背部(34)が少なくとも前記フック支持体(1)の前記ワイヤー固定部(12)から延在する側部(13)に当接するように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記フック(3)と前記フック支持体(1)の当接時に、前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設されること、」
(甲第6号証の第5/10頁4行〜11行)
(ロ)「(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」(甲第6号証の1の第9/10頁3行〜10行)

(7)甲第7号証(平成10年7月23日付け手続補正書)
(イ)「(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」(第1/3頁12行〜19行)

(8)甲第8号証(被請求人作成の、請求人及び被請求人間のやりとりの時系列説明)
(イ)「平成3年3月末ごろ・・・野口康夫氏の自宅にて・・・フックとロッドの設計図面を渡し、見積りと下請け製造メーカー探しを依頼しました。・・・
平成3年6月5日・・・野口氏の自宅を訪ね、・・・株式会社秋山(平成8年8月末日、廃業)を通じて・・・株式会社スーパーツール・・・へ、フック・ロッドの鍛造見積り書をしていたようで、株式会社秋山名義の見積り書が、のファクシミリで送られて来た物を貰いました。・・・
平成3年6月11日・・・株式会社スーパーツール・東京支店を訪ねました。・・・(当時、在職)取締役部長兼東京支店長辰己宏(当時、在職)東京支店・支店長代理村上光任・・・両氏が応対に出られ、フックの材質、製造個数、納期、支払い、入手ルート、特に売り渡し価格等の話合いを午後4時近くまで交渉を致しました・・・
平成3年7月13日・・・スーパーツール東京支店、安川氏より電話があり、パテント料の試算をしたいので、出願書類をスーパーツール本社、技術課の川口課長へFAXして欲しいと連絡してきましたので送りました。・・・
平成3年9月下旬・・・交渉は打切りとなりました。・・・
平成4年4月27日・・・野口商店にて、(株)秋山の営業の平井氏にスーパーツールへ渡っている図面を返すように連絡してもらいました。・・・
平成4年5月13日・・・スーパーツールから何の返事も無い為、東京支店の安部氏へ弊社から渡っている図面や出願書類を返却するようFAXしました。」
(平成3年3月末ごろ〜平成4年5月13日の項)

(9)甲第9号証(吉藤幸朔著、「特許法概説 第8版」、有斐閣、昭和63年5月20日、第8版第1刷発行、第74頁〜第77頁)
(イ)「特定人であったから発明を知ることができた場合においても、その後において秘密を守る義務が解除されたときは、彼はそのときから不特定人となり、したがって、彼の知っている発明は公然知られた発明となり3)、また彼がそれを使用すれば、公然実施をされた発明(次述(iv)参照)となる4)。特定人から不特定人への転換ということができよう。」(第75頁18行〜21行)
(ロ)「秘密にすべき関係 その発明について特に黙秘の義務を課せられた場合だけでなく、社会通念上又は商慣習上、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、これを期待することができると認むべき関係又は状況にある場合をも含むとすべきである。東京高判昭30.8.9行裁集6巻8号2007頁(精紡機事件)。特許庁審決昭44.5.10参考集(2)81頁(遠隔同調方式事件)は、上記趣旨を判示する。後者は、発注会社と受注会社の担当者のみが出席し、特別の技術内容を討議した打合会での出席者は、守秘義務があるとする。」(第75頁25行〜30行)
(ハ)「4)判決 東京高判昭49.6.18無体集6巻1号170頁(壁式建造物事件)は、「調査研究委託契約に基づき、委託者(出願人)が委託者に発明を実施して建てた住宅の所有権を譲渡するとともに各種の調査研究資料をも提供したことにより、それまでに有していた委託者の守秘義務は消滅したと認めるのが相当である。したがって、本願発明は本件住宅の譲渡及び使用により公然実施されたものであることが明らかである」旨を判示する。最高裁もこれを支持する(昭50.6.12取消集昭50年91頁)。」(第75頁34行〜第76頁2行)

(A)また、本件無効審判事件と関連する、無効2000ー35582号(特許第2833679号無効審判事件)に関し、平成13年2月27日に特許庁審判廷で行われた第1回口頭審理において作成された口頭審理調書(「参考資料1」として添付)において、以下の事項については、請求人及び被請求人(それぞれ、本件審判事件の請求人及び被請求人と同一)の間に争いがない旨の事項が記載されている。
(イー1)無効2000-35582号の甲第10号証(本件審判事件の甲第8号証)の内容。
(イー2)請求人側より、無効2000-35582号の甲第8号証で示される書類(本件審判事件の甲第3号証)の提出を、実施許諾の検討等のために、被請求人側に求めたこと、その際、無効2000-35582号の甲第8号証(本件審判事件の甲第3号証)の内容に関し、守秘義務についての取り決めはなかったこと。

(B)さらに、請求人が、上記無効2000ー35582号の甲第9号証として提出した、「本件特許発明のフック装置シリーズの最初のフックの見積図面」(「参考資料2」として添付)に関連して、無効2000-35582号の審判請求書(下記(イ)、(ロ)記載の該当頁を「参考資料3」として添付)には、
(イ)「甲9(「見積図面」)は、時系列説明書(甲10(本件審判事件の甲第8号証)、第1頁第25行〜第2頁第4行)にて明らかなように、
『平成3年6月5日・・・野口氏の自宅を訪ね、・・・株式会社秋山(平成8年8月末日、廃業)を通じて・・・株式会社スーパーツール・・・へ、フック・ロッドの鍛造見積り書をしていたようで、株式会社秋山名義の見積り書が、のファクシミリで送られて来た物を貰いました。・・・』の記載及び『見積り図面』のファックス日付け(91年4月12日9時19分)から間違いなく野口氏及び(株)秋山の平井氏を通じて本件請求人であるスーパーツールにその時刻に渡っていた事が明らかである。」(無効2000-35582号の審判請求書第20頁18行〜第21頁4行)、
(ロ)「8.証拠方法(中略)
(10)甲第8号証 本件特許発明のフック装置シリーズの最初の特許第2833671号の原明細書(本件審判事件の甲第3号証の1)
(11)甲第9号証 本件特許発明のフック装置シリーズの最初のフックの見積図面」(無効2000-35582号の審判請求書第28頁18行〜第29頁3行)
と記載されている。
また、無効2000-35582号の甲第9号証(以下、「見積図面」という。)には、
(ハ)「フック先端部に対向するフック後端部の近辺であって、後方に屈曲した部分の下部幅方向横断するように引かれた点線(以下、『見積図面の点線』という。)は、二股構造であって、しかも、内部に空間を有する部位の下限位置を示している。」点が示唆されているものと認める。

6.対比・判断
(1)第1の理由(特許法第36条第4項、5項違反)について
本件特許明細書の段落【0006】には、本件特許発明1〜5の構成に欠くことができない事項である、
「(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)の係合が解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)ー1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)ー2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されること、」が記載されている(「5.(1)甲第1号証」の摘記事項(ロ)参照)。 したがって、本件特許発明1〜5が、発明の詳細な説明に記載されたものではない、とすることはできない。
また、本件特許発明1〜5の構成に欠くことができない事項である、上記(iv)、(iv)ー1、(iv)ー2の事項は、少なくとも本件発明の第二実施態様及びその対応図面である【図7】に当業者が容易に実施できる程度に具体的かつ明確に示されている(「5.(1)甲第1号証」の摘記事項(ニ)及び(ト)参照)。
本件特許発明1〜5の構成に欠くことができない事項である、(iv)、(iv)ー1、(iv)ー2の事項は、第1実施態様及び第2実施態様の両実施態様を包含する技術事項であると認めるのが相当である。
したがって、第1実施態様についての記載のみをもとに、本件特許発明1〜5が、発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に構成を記載したものでないとも、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないとも、することはできない。

なお、請求人は、特に、【図1】等で示される本件特許発明の第1実施態様では、構成要件(iv)ー1の「フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32)の内側に接して描いた仮想略平行線」が存在しない旨主張しているので、その点につき以下検討する。
【図1】には、フック支持体が一枚の鋼板製であるフック装置が示されているが、フック先端部31と対向するフックの内側に接して描いた線分は、フック先端部31の内側に接して描いた線分と仮想略平行線を構成しているものと認められる。
フック支持体が一枚の鋼板製であるフック装置のフックに関して、段落【0008】の「その後端部(32)がフック支持体(1)の略中間部位に跨設されるように二股構造になっている」との記載から(「5.(1)甲第1号証」の摘記事項(ハ)参照)、フックの後端部(32)は二股構造であると認められる。
ところで、【図1】において二股構造である後端部(32)がフックのどの部分にまで及んでいるのかを明示する記載は、確かに、本件特許明細書中にない。
しかしながら、上記5.(B)(イ)、(ロ)の記載からみても、見積図面は【図1】に相当するものであって、また、『見積図面の点線』は『【図1】の線分A』に相当するものと認められる。一方、『見積図面の点線』は、二股構造であって、しかも、内部に空間を有する部位の下限位置を示していると認められるから(「5.(B)」の摘記事項(ハ)参照)、『【図1】の線分A』も、二股構造であって、しかも、内部に空間を有する部位の下限位置を示していると認められる。
ところで、『二股』とは一般的に、「もとが一つで、末の二つに分れたもの」を指すと認められる(新村出編、「広辞苑」、第1978頁、株式会社岩波書店、昭和33年7月15日、第1版第5刷発行)。また、上記『二股』と同義である『二又』が、一つの状態である『もと』の部分と、間に空間を有して二つに分れた『末』の部分と、から構成されるものであることは、当業者にとって技術常識である(「JIS用語辞典 機械編」、財団法人日本規格協会、1984年8月25日第2版第1刷発行、第482頁の番号5910「二又」及び第493頁の付図57)。
そうすると、「二股構造」とは、二つに分かれた『末』の部分と二つに分かれた『末』の部分を統合する『もと』の部分を有する構造と解される。そして、当該構造を【図1】に相当する見積図面に当てはめてみると、『見積図面の点線』の上部は、内部に空間を有する部位、すなわち、二つに分かれた『末』の部分であり、上記『見積図面の点線』より下部(ただし、背部は除く)は、二つに分かれた『末』の部分を統合する『もと』の部分であると認められる。つまり、「二股構造」は、フックの上記『見積図面の点線』の上部から上記『見積図面の点線』を越えて下方に延びた部分までを含む範囲に相当し、当該範囲がフックの「後端部」が示す範囲となると認められる。
上記見積図面のフックは、見積図面の点線の下方にまで及ぶ後端部に有しているから、【図1】で示されるフックも、『【図1】の線分A』の下方にまで及ぶ後端部を有していると認められる。
『【図1】の線分A』下方の後端部は、フック先端部に対向する位置に存在しているから、当該『【図1】の線分A』下方の後端部の内側すなわちフックの後端部の内側に接して描いた接線は、フックの先端部の内側に接して描いた接線と、仮想略平行線を構成していると認められる。
このことは、願書に最初に添付した明細書に記載されていた「ロック解除されたとき、フック先端部(31)と脱落防止部(11)との開口幅を大きく」するという技術的事項を、先行技術との相違及び発明の構成に欠くことができない事項を明確にすることを目的として、最終的に(iv)ー1及び(iv)ー2記載の事項に補正したという、本件特許の願書に最初に添付した明細書から本件特許明細書に至る審査経過(「5.(3)甲第3号証〜(7)甲第7号証」の摘記事項参照)からも窺える。
したがって、本件特許発明の第1実施態様について、「フックの先端部の内側及び後端部の内側に接して描いた仮想略平行線」が存在しないとする、請求人の上記主張は、採用できない。

よって、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1〜2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、とする請求人の主張は採用できない。

(2)第2の理由(特許法第29条第1項第1号違反)について
(イ)要旨変更(平成10年7月23日付け手続補正の適否)
本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面の、【図1】、【図7】及びそれらの図を説明する段落【0008】、【0010】には、上記「5.第1の理由(特許法第36条第4項、5項違反)について」で示した、本件特許公報の【図1】、【図7】、段落【0008】、【0010】と実質上同一内容の事項が記載されている(「5.(3)甲第3号証の1」の摘記事項(ロ)、(ニ)〜(ヘ)参照)。
してみれば、上記「6.(1)第1の理由(特許法第36条第4項、5項違反)について」で述べた如く、(iV)ー1及び(iv)ー2として記載された、本件特許発明の構成に欠くことができない事項は、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載されていたと認められるから、平成10年7月23日付け手続補正は、明細書又は図面の要旨を変更するものではない。

(ロ)本件特許の出願日
平成10年7月23日付け手続補正は適正になされたものであるから、本件特許の出願は、平成3年2月26日になされたものと認められる。

(ハ)甲第3号証の公知性
本件特許の出願日は平成3年2月26日であり、一方、甲第3号証は平成3年7月13日付けのものであるから、甲第3号証記載の発明は、本件特許の出願前日本国内で公然知られたものではない。

なお、請求人は、甲第3号証の内容に関する秘密保持義務の有無につき主張しているので検討するに、被請求人作成の、請求人及び被請求人間のやりとりの時系列説明(甲第8号証)及び参考資料1(無効2000ー35582号の口頭審理調書)からみて、
(i)本件特許の願書に最初に添附した明細書及び図面のファクシミリ(甲第3号証)は、平成3年7月13日に、被請求人から請求人に送付されたこと、
(ii)上記明細書及び図面のファクシミリは、請求人が、実施許諾の検討等のために、被請求人に求めたこと、その際、上記明細書及び図面の内容に関し、守秘義務についての取り決めはなかったこと、
(iii)平成3年9月下旬に、請求人及び被請求人に間で行われてきた実施許諾についての交渉が決裂したこと、
(iv)平成4年4月27日及び平成4年5月13日に、被請求人は、請求人に対して、上記明細書及び図面のファックスの返却を求めたこと、
以上の事実を認めることができる。
発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても、特許法第29条第1項第1号にいう「公然知られた」には当たらないが、この発明のために秘密を保つべき関係は、法律上又は契約上秘密保持の義務を課せられることによって生じるほか、社会通念上又は商慣習上、発明者側の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される場合において生じるものであったというべきである。なぜなら、本件特許発明の実施許諾の交渉が行われていた当時においても、他者の営業秘密を尊重することは、一般的にも当然のこととされており、まして、発明の実施許諾交渉の当事者間においては、そのことがより妥当するものであったとされていたからであり、発明の実施許諾交渉の際に、発明者側において、その発明につき秘密を保持すべきことをいちいち相手側に指示又は要求し、相手側がそれを理解したことを確認するような過程を経なければ、当該発明の内容を相手側に開示できないとすれば、発明の実施許諾交渉の円滑迅速な遂行を妨げ、当事者双方の利益にも反することになったからである。
したがって、発明の実施許諾交渉を行う際には、当事者間において格別の秘密保持に関する合意又は明示的な指示や要求がなくとも、当事者が当該発明の内容を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められることは、十分あり得ることであるから、このような場合には、当事者は、社会通念上又は商慣習上、当該発明の内容につき秘密を保つべき関係に立つものといわなければならない。
本件に照らしてみるに、被請求人が請求人に対して、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び図面をファクシミリにより送付した平成3年7月当時、上記明細書及び図面の内容は、当該特許出願の出願公開前のものであるから、公然知られていない発明に当たるものである。また、本件特許出願発明の実施許諾の交渉に際して、請求人及び被請求人の間で、上記明細書及び図面の内容についての秘密を保つ旨の取り決めはなかったものの、秘密を解除してよいとの合意や確認もなく、しかも、上記明細書及び図面の送付は、実施許諾等の検討を目的として、請求人から被請求人に要請したことからみると、請求人が、社会通念上又は商慣習上からも、秘密扱いとすることを期待し信頼して、被請求人が、上記明細書及び図面を請求人に送付したものと推認するのが相当である。また、実施許諾の交渉決裂後、被請求人が請求人に対して、当該明細書及び図面のファクシミリの返却を求めたことからも、被請求人は秘密扱いとすることを請求人に期待していたことが窺える。
したがって、本件特許発明の実施許諾交渉の決裂後においても、請求人は秘密保持の義務を有していたものと認められる。(なお、東京高裁平成11(行ケ)第368号判決参照)

(ニ)むすび
よって、本件特許発明1〜5は、甲第3号証記載の発明であり、本件特許発明1〜5についての特許は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、とする請求人の主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2001-03-29 
結審通知日 2001-04-13 
審決日 2001-04-24 
出願番号 特願平3-53112
審決分類 P 1 112・ 534- Y (B66C)
P 1 112・ 531- Y (B66C)
P 1 112・ 111- Y (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 栗田 雅弘
清田 栄章
登録日 1998-10-02 
登録番号 特許第2833671号(P2833671)
発明の名称 敷鉄板吊上げ用フック装置  
代理人 森 義明  
代理人 水野 喜夫  
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