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審決分類 審判 訂正 発明同一 訂正する C10M
管理番号 1082071
審判番号 訂正2003-39073  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-19 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-04-11 
確定日 2003-06-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3145360号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3145360号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判請求の要旨は、特許第3145360号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲請求項1の、
「【請求項1】ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とすることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。」を、
「【請求項1】ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲請求項2の、
「【請求項2】前記ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。 」を、
「【請求項2】前記ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。 」と訂正する。

(3)訂正事項c
訂正前の請求項1または2を引用している請求項3を、訂正後の請求項1または2を引用している請求項3に訂正する。

(4)訂正事項d
訂正前の請求項1〜3のいずれか1項を引用している請求項4を、訂正後の請求項1〜3のいずれか1項を引用している請求項4に訂正する。

(5)訂正事項e
訂正前の請求項1〜4のいずれか1項を引用している請求項5を、訂正後の請求項1〜4のいずれか1項を引用している請求項5に訂正する。

(6)訂正事項f
明細書段落【0010】の、
「ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とすることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」を、
「ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし、流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」に訂正する。

(7)訂正事項g
明細書段落【0011】の、
「ペンタエリスリトールと、 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物とを反応させる」を、
「ペンタエリスリトールと、 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とを反応させる」に訂正する。

2.当審の判断
2.1 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否

(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲請求項1における、「【請求項1】ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とすることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」を「【請求項1】ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」に限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また該訂正は、訂正前の特許請求の範囲請求項1、明細書段落【0025】及び実施例の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正前の特許請求の範囲請求項2における、「【請求項2】前記ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。」を「【請求項2】前記ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。」に限定するとともに、訂正事項aによって訂正された請求項1を引用したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また該訂正は、訂正前の特許請求の範囲請求項2、明細書段落【0025】及び実施例の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、訂正事項aによって訂正された請求項1、および、訂正事項bによって訂正された請求項2を引用する請求項3の実質的な訂正であって、訂正事項a.bと同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、訂正事項aによって訂正された請求項1、訂正事項bによって訂正された請求項2、および、訂正事項cによって訂正された請求項3を引用する請求項4の実質的な訂正であって、訂正事項a、b、cと同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項eについて
訂正事項eは、訂正事項aによって訂正された請求項1、訂正事項bによって訂正された請求項2、訂正事項cによって訂正された請求項3、および、訂正事項dによって訂正された請求項4を引用する請求項5の実質的な訂正であって、訂正事項a、b、c、dと同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもので、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(6)訂正事項fについて
訂正事項fは、上記訂正事項a〜eによる特許請求の範囲の記載の訂正に伴って発明の詳細な説明の記載部分に生じた特許請求の範囲の記載と整合しない記載を、特許請求の範囲の記載に合わせて訂正して整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また該訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(7)訂正事項gについて
訂正事項gは、上記訂正事項a〜eによる特許請求の範囲の記載の訂正に伴って発明の詳細な説明の記載部分に生じた特許請求の範囲の記載と整合しない記載を、特許請求の範囲の記載に合わせて訂正して整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また該訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2.2 独立特許要件についての判断
(1)訂正後の特許請求の範囲に記載されている発明
訂正後の特許請求の範囲に記載されている発明は、審判請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された以下のとおりのものである(以下、「訂正発明1〜5」という。)。
なお、本願は、平成1年12月28日に出願した特願平1-341244号の一部を平成11年3月11日に新たな特許出願としたものである。

「【請求項1】ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。
【請求項2】前記ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項3】冷凍機油全量に対し、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも 1種のリン化合物0.1〜5.0重量%を必須成分として含有する請求項1または2に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項4】前記エステルの100℃における動粘度が 2〜150 cSt であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項5】前記エステルの25℃における体積抵抗率が4×1014Ωcm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。」

(2)引用した先願明細書、及び、それに記載される事項
訂正前の本件請求項1ないし5に係る特許の取消決定において引用された先願明細書に記載される事項は下記のとおりである。

先願明細書:特願平1-172001号の願書に最初に添付した明細書
[平成元年7月5日出願の特願平1-172001号、および、特願平 1-172002号を優先権主張の基礎出願とする特願平2-718 93号(特開平3-128992号公報)参照]

先願明細書に記載される事項
(以下、先願明細書に記載される事項は、特願平1-172001号の出願について出願公開がされたものとみなされた特開平3-128992号公報(以下、「公報」という。)によって示す。)
先願-イ.「炭素数15以下、3価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数2〜18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、・・・を原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油。」(公報1頁 特許請求の範囲 請求項1)

先願-ロ.「本発明の目的は、特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する。」(公報2頁左下欄10〜15行)

先願-ハ.「3価のアルコール例として・・・4価以上のアルコール例として、ペンタエリスリトール、・・・ペンタエリスリトールの縮合物・・・などが挙げられる。」(公報3頁左上欄3〜15行)

先願-ニ.「1価脂肪酸の炭素数を2〜18に制限するのは、炭素数が19以上になると、HFC-134aと合成後のエステルとの相溶性が極端に悪くなるためであり、1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。例示すると、・・・2-エチルヘキサン酸、・・・、3,5,5-トリメチルヘキサン酸・・・などがある。本発明においては、これら1価脂肪酸の1種類以上を適宜混合して、特定の多価アルコールとの間でエステル反応を生ぜしめ、各種冷凍機の要求する望ましい物理特性を満足するエステルを得るものである。」(公報3頁左上欄末2行〜3頁右上欄17行)

先願-ホ.「第4表 供試エステル(実施例9〜17)」と表題が付与された供試エステル一覧表中に下記エステルとその動粘度が記載されている。
A-9 :ペンタエリスリトールとイソノナン酸のエステル
A-11:ペンタエリスリトールとプロピオン酸とステアリン酸のエステル
A-12:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸のエステル
A-14:ジペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とプロピオン酸 のエステル
A-15:ジペンタエリスリトールとイソブタン酸とイソステアリン酸のエ ステル
A-9の40℃の動粘度は125.4cSt
A-12の40℃の動粘度は42.3cSt (公報7頁 第4表)

先願-ヘ.「また従来、冷凍機油に使用されている・・・摩耗防止剤・・・を適宜添加し得ることも勿論のことである。」(公報4頁右上欄2〜4行)

先願-ト.「(発明の効果)・・・本発明の冷凍機用潤滑油は水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れている」(公報10頁左上欄9行〜末行)

先願-チ.「第6表 供試油の評価結果(実施例9〜17)」と表題が付与された供試油の評価結果一覧表中に下記エステルの80℃での体積抵抗率(Ω・cm)、二層分離温度(℃)(前者の数値が低温、後者の数値が高温)、吸湿性(ppm)が記載されている。
A-9 :ペンタエリスリトールとイソノナン酸のエステル
体積抵抗率6.5×1013、二層分離温度-38、80以上、吸湿性292
A-11:ペンタエリスリトールとプロピオン酸とステアリン酸のエステル
体積抵抗率7.6×1012、二層分離温度-50以下、80以上、吸湿性344
A-12:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とのエステル
体積抵抗率1.7×1013、二層分離温度-50以下、80以上、吸湿性331
A-14:ジペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とプロピオン酸のエステル
体積抵抗率2.6×1012、二層分離温度-40以下、80以上、吸湿性325
A-15:ジペンタエリスリトールとイソブタン酸とイソステアリン酸のエステル
体積抵抗率1.4×1012、二層分離温度-50以下、80以上、吸湿性339 (公報9頁 第6表)
(なお、上記摘記事項「先願-イ」〜「先願-チ」と同様の趣旨の事項は、先願明細書(特願平1-172001号)にも記載されている。)

(3)対比・判断
〔訂正発明1について〕
訂正発明1の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油は流動点が-10℃以下で、該冷凍機油の主成分であるエステルは、ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるものであると認められる(本件【請求項1】参照)。

ここで、先願明細書に記載されている発明について認定する。
先願明細書には、「本発明の目的は、特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する。」(摘示事項「先願-ロ」参照)として、 請求項1には、「炭素数15以下、3価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数2〜18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、・・・を原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油。」(摘示事項「先願-イ」参照)が記載され、また、「4価以上のアルコール例として、ペンタエリスリトール、・・・ペンタエリスリトールの縮合物・・・が挙げられ」(摘示事項「先願-ハ」参照)、さらに、「1価脂肪酸の炭素数を2〜18に制限するのは、炭素数が19以上になると、HFC-134aと合成後のエステルとの相溶性が極端に悪くなるためであり、」(摘示事項「先願-ニ」参照)とし、「1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。」(摘示事項「先願-ニ」参照)と記載されている。
そして、「例示すると、・・・2-エチルヘキサン酸、・・・、3,5,5-トリメチルヘキサン酸・・・などがある。」(摘示事項「先願-ニ」参照)ことと、併せて「本発明においては、これら1価脂肪酸の1種類以上を適宜混合して、特定の多価アルコールとの間でエステル反応を生ぜしめ、各種冷凍機の要求する望ましい物理特性を満足するエステルを得るものである。」(摘示事項「先願-ニ」参照)と記載されている。
しかし、上記したように「1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。」と記載しながらも、実施例では炭素数3〜10の分枝脂肪酸として、2-エチルヘキサン酸(A-12)、および、3,5,5-トリメチルヘキサン酸に相当するイソノナン酸(A-9)、イソブタン酸(A-15)しか使用していない(摘示事項「先願-ホ」参照)。
また、1価の脂肪酸を2種類混合使用する例に、直鎖脂肪酸同士を混合して使用する例(エステルA-11)、ジペンタエリスリトールのエステルではあるが、2-エチルヘキサン酸を直鎖脂肪酸と混合して使用する例(エステルA-14)、あるいは、分枝脂肪酸同士を混合して使用する例(エステルA-15)がある(摘示事項「先願-ホ」参照)。
そして、2-エチルヘキサン酸を直鎖脂肪酸と混合して使用する例(エステルA-14)よりも、2-エチルヘキサン酸を単独で使用する例(A-12)、あるいは、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を単独で使用する例(A-9)の方が体積抵抗率を始めとして優れた効果がある(摘示事項「先願-チ」参照)。
このように、先願明細書には、エステルを形成する脂肪酸として2-エチルヘキサン酸、および、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が優れた性能のものであることが実施例を伴って記載されると同時に、2種の脂肪酸を併用することについても、直鎖脂肪酸と分枝脂肪酸との併用例に限らずその他の併用例も実施例を伴って記載されている。
そうしてみると、先願明細書から、塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油の主成分とするペンタエリスリトールのエステルとして、実施例A-9とA-12の酸を併用したエステル、すなわち「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステル」が把握しえる。
また、先願明細書に、先願発明の潤滑油は摩耗防止剤を適宜添加し得ること(摘示事項「先願-ヘ」参照)、水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れていること(摘示事項「先願-ト」参照)も記載されている。
したがって、先願明細書には、「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とし、摩耗防止剤が適宜添加された、水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れ、塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油」(以下、「先願発明」という。)が記載されているに等しい。
なお、イソノナン酸は分枝構造の炭素数9のカルボン酸という意味で使用されることもあるが、分枝構造の炭素数9のカルボン酸として先願明細書中に具体的に記載されているのは3,5,5-トリメチルヘキサン酸のみであることから(摘示事項「先願-ニ」参照)、先願明細書のイソノナン酸(A-9)は3,5,5-トリメチルヘキサン酸であると解すべきである。
また、A-15のイソステアリン酸の表中の記載位置に誤りがあるが、A-15のイソステアリン酸をステアリン酸の誤りであるとする必然性もないから、表記どおりイソステアリン酸であると解すべきである。

ここで、訂正発明1と先願発明を対比する。
訂正発明1の「非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」は、先願発明の「塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油」に相当するから、訂正発明1と先願発明とは「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」の点で一致し、冷凍機油の流動点が、訂正発明1では「-10℃以下」と規定されているのに対し、先願発明では流動点に関する規定がされていない点、及び、2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物の混合割合が、訂正発明1では、等モル混合物とされているのに対し、先願発明では混合割合が何ら規定されていない点で相違する。

訂正発明1は、ペンタエリスリトールと反応してエステルを形成する酸が「2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物」に限定された。
一方、先願明細書からは、前述したように、ペンタエリスリトールと反応してエステルを形成する酸として「 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物」が把握し得、この酸の組合せではないが実施例において種々の割合の混合酸が用いられているが、「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステル」において混合割合を特定比率(等モル)とすることは記載されておらず、記載されている事項から把握し得る事項であるとすることもできない。さらには、2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物によりエステル化されたペンタエリスリトールを主成分とする冷凍機油が-10℃以下の流動点をもつ冷凍機油と成り得ることも先願明細書に記載されている事項、もしくは、記載されている事項から把握し得る事項ではない。
したがって、訂正発明1は、先願発明と同一でない。

[訂正発明2について]
訂正発明2は、訂正発明1で「ペンタエリスルトールと2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステル」を「主成分」としているのに対し、これを「基油」とするものであるが、「主成分」と「基油」とに実質的な差はない。
したがって、訂正発明2も、訂正発明1と同じ理由により、先願発明と同一でない。

[訂正発明3〜5について]
訂正発明3〜5は実質的に訂正発明1または2の冷凍機油について技術的に限定を付すものにすぎず、訂正発明1、2が先願発明とは同一ではないので、訂正発明3〜5も同一ではない。


(4)まとめ
上述のとおり、訂正後の本件請求項1ないし請求項5に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたとみなされる特許出願の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反してされたものでなく、訂正後の本件請求項1ないし請求項5に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。
そして、他に訂正後の本件請求項1ないし請求項5に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとすべき理由を発見しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件審判請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項に規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非塩素系フロン冷媒用冷凍機油
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。
【請求項2】 前記ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項3】 冷凍機油全量に対し、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物0.1〜5.0重量%を必須成分として含有する請求項1または2に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項4】 前記エステルの100℃における動粘度が2〜150cStであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項5】 前記エステルの25℃における体積抵抗率が4x1014Ωcm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非塩素系フロン冷媒用冷凍機油に関し、詳しくは、特定の構造を有するペンタエリスリトールエステルを主成分とする、各種性能に優れた非塩素系フロン冷媒用冷凍機油に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来から、冷凍機油としては、40℃における動粘度が10〜200cStのナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、アルキルベンゼン、ポリグリコール系油、エステル油およびこれらの混合物またはこれらの各種基油に添加剤を配合したものが一般的に使用されている。
【0003】
一方、冷凍機に用いられるフロン系冷媒としては、CFC-11、CFC-12、CFC-113、HCFC-22等が使用されている。
【0004】
これらのフロン系冷媒のうち、CFC-11、CFC-12、CFC-113等の炭化水素の全ての水素を塩素を含むハロゲンで置換した形のフロンは、オゾン層破壊につながるとして規制の対象となっている。従って、HFC-134aやHFC-152a等の非塩素系フロンがCFCの代替として使用されつつあるが、特に、HFC-134aは、従来から家庭用冷蔵庫、エアコン等の多くの冷凍機に使用されているCFC-12と熱力学的物性が類似しており、代替冷媒として有力である。
【0005】
冷凍機油には種々の要求性能があるが、冷媒との相溶性は、冷凍機の潤滑性およびシステム効率の面から極めて重要である。しかしながら、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油、アルキルベンゼンおよび従来から知られているエステル油等を基油とした冷凍機油はHFC-134a等の非塩素系フロンとの相溶性がほとんどないため、HFC-134aとの組み合せで使用すると、常温において二層分離を起こし、冷凍システム内で最も重要な油戻り性が悪くなって冷凍効率の低下あるいは潤滑性が不良となって圧縮機の焼付き発生等の実用上様々な不都合が発生し使用に耐えない。またポリグリコール類も高粘度指数を有する冷凍機油として知られており、例えば特公昭57-42119号公報、特公昭61-52880号公報、特開昭57-51795号公報等に記載されている。しかるにこれら先行技術に具体的に開示されているポリグリコール油ではやはりHFC-134aとの相溶性が十分でないため上記と同じ問題が生じて実用上使用できない。
【0006】
また、米国特許4,755,316号には、HFC-134aと相溶性のあるポリグリコール系冷凍機油が開示されている。また、本発明者等は、HFC-134aとの相溶性が従来公知の冷凍機油と比較して大幅に優れているポリグリコール系冷凍機油を先に開発し、既に出願している(特開平1-256594号公報、同1-271491号公報等)。しかしながら、ポリグリコール系油は、水の溶解性が高く、また電気絶縁性が劣るという問題を有することが判明した。
【0007】
一方、家庭用冷蔵庫等の圧縮機に用いられる冷凍機油は、高い電気絶縁性が要求される。公知の冷凍機油のうち、最も高い絶縁性を有するものはアルキルベンゼンや鉱油であるが、前述のようにアルキルベンゼンや鉱油はHFC-134a等の非塩素系フロンとの相溶性がほとんどない。従って、HFC-134a等の非塩素系フロンとの高い相溶性と、高い絶縁性とを兼ね備えた冷凍機油は未だ出現していない。
【0008】
本発明者等は、上記要求に応え得る冷凍機油を開発すべく研究を重ねた結果、特定構造を有するエステルがHFC-134a等の非塩素系フロンとの相溶性に優れ、かつ高い電気絶縁性を有するものであり、さらに優れた潤滑特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、特定構造を有するエステルを主成分とするHFC-134a等の非塩素系フロンとの相溶性に優れ、かつ高い電気絶縁性を有する非塩素系フロン冷媒用潤滑油を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし、流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。
【0011】
以下、本発明の内容をより詳細に説明する。
本発明に用いられるペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールとモノカルボン酸とのエステルであって、通常、ペンタエリスリトールと、2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とを反応させることにより得られる。得られた生成物を精製して副生成物や未反応物を除去してもよいが、少量の副生成物や未反応物は、本発明の冷凍機油の優れた性能に悪影響を及ぼさない限り、存在していても支障はない。
【0012】
本発明に用いられるペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるペンタエリスリトールエステルは、動粘度は100℃において2〜150cSt、好ましくは5〜100cStであるのが望ましい。
【0013】
本発明の冷凍機油は、上記ペンタエリスリトールエステルを単独で用いてもよいが、必要に応じて他の冷凍機油基油を混合して使用することもできる。この基油として好ましいものとしては、以下のものが例示できる。
一般式
【0014】
【化1】

[式中、R5およびR6は水素または炭素数1〜18のアルキル基を示し、R7は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、aは5〜70の整数を示す]
で表されるポリオキシアルキレングリコールまたはそのエーテル。
一般式
【0015】
【化2】

[式中、R8〜R10は水素または炭素数1〜18のアルキル基を示し、R11〜R13は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、b〜dは5〜7の整数を示す]
で表されるポリオキシアルキレングリコールグリセロールエーテル。
一般式
【0016】
【化3】

示し、またR14およびR20は炭素数1〜8のアルキレン基、R15およびR17は炭素数2〜16のアルキレン基、R16およびR21は炭素数1〜15のアルキル基、R18およびR19は炭素数1〜14のアルキル基をそれぞれ示し、さらにeおよびfは0または1の数を、gは0〜30の整数をそれぞれ示す]
で表されるエステル。
一般式
【0017】
【化4】

[式中、R22〜R27は炭素数3〜15のアルキル基を、R28は炭素数1〜8の2価の炭化水素基を示し、またhは1〜5の整数を示す]
で表されるペンタエリスリトールジカルボン酸エステル。
【0018】
これらの油は単独でも数種類組み合わせて用いてもよい。なお、パラフィン系およびナフテン系の鉱油、ポリα-オレフィン、アルキルベンゼン等の油も混合してよいが、この場合は非塩素系フロン溶媒との相溶性が落ちる。
【0019】
これら他の冷凍機油基油の配合量は、本発明の冷凍機油の優れた性能を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルの割合が、冷凍機油全量に対し、通常50重量%超、好ましくは70重量%以上になるように配合される。
【0020】
また、本発明の冷凍機油において、その安定性をさらに改良するために、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を配合することができる。ここでいうフェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものであり、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えばブチルフェニルグリシジルエーテル、ベンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテルが好ましい。グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエステル、アルキルグリシジルエステル、アルケニルグリシジルエステル等が挙げられ、好ましいものとしては、グリシジルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が例示できる。
【0021】
またエポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステルが例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
またエポキシ化植物油としては、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物が例示できる。
【0022】
本発明の冷凍機油組成物において、その耐摩耗性、耐荷重性をさらに改良するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合することができる。これらのリン化合物は、リン酸または亜リン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはこの誘導体である。具体的には、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等が挙げられる。酸性リン酸エステルとしては、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート等が挙げられる。酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩が挙げられる。塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート等が挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、トリブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイェート、トリス・クロロエチルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート等が挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、トリブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリクレジルホスファイト等が挙げられる。また、これらの混合物も使用できる。これらのリン化合物を配合する場合、冷凍機油全量に対し0.1〜5.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%の割合で含有せしめることが望ましい。
【0023】
これらのエポキシ化合物の中でも好ましいものは、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物およびエポキシ化脂肪酸モノエステルである。中でもフェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましく、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテルおよびこれらの混合物が特に好ましい。
これらのエポキシ化合物を配合する場合、冷凍機油全量に対し0.1〜5.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%の割合で含有せしめることが望ましい。
また、上記エポキシ化合物とリン化合物を併用してもよいことは勿論である。
【0024】
さらに本発明における冷凍機油に対して、その性能をさらに向上させるため、必要に応じて従来より公知の冷凍機油添加剤、例えば、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系、フェニル-α-ナフチルアミン、N,N-ジ(2-ナフチル)-p-フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等の摩耗防止剤、塩素化パラフィン、硫黄化合物等の極圧剤、脂肪酸等の油性剤、シリコーン系等の消泡剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等の添加剤を単独で、または数種組み合わせて配合することも可能である。これらの添加剤の合計配合量は、通常、冷凍機油全量に対し、10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0025】
本発明のペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とする冷凍機油は、通常、冷凍機油として使用されている程度の動粘度および流動点を有していればよいが、低温時の冷凍機油の固化を防ぐためには流動点が-10℃以下、好ましくは-20℃〜-80℃であることが望ましい。また、圧縮機との密封性を保つためには100℃における動粘度が2cSt以上、好ましくは3cSt以上が望ましく、低温における流動性および気化器における熱交換の効率を考慮すると、100℃における動粘度が150cSt以下、好ましくは100cSt以下であるのが望ましい。
【0026】
本発明の冷凍機油は、従来公知の冷凍機油に比べて非塩素系フロンとの相溶性が大幅に優れている。非塩素系フロンとしては、具体的には1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、トリフルオロメタン(HFC-23)等が例示されるが、好ましいものはHFC-134aである。
また、本発明の冷凍機油は、非塩素系フロンとの高い相溶性、高い電気絶縁性を有するだけでなく、潤滑性が高く、吸湿性が低い優れた冷凍機油である。
【0027】
本発明の冷凍機油は、往復動式や回転式の圧縮機を有するエアコン、除湿機、冷蔵庫、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に特に好ましく使用できるが、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく使用できる。
【0028】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって、本発明の内容を更に具体的に説明する。
実施例、参考例1〜6および比較例1〜6
本実施例、参考例および比較例に用いた冷凍機油を以下に示す。
実施例:ペンタエリスリトール(1mol)と2-エチルヘキサン酸(2mol)および3,5,5-トリメチルヘキサン酸(2mol)のテトラエステル。
【0029】
参考例1:ペンタエリスリトール(1mol)と2-エチルヘキサン酸(4mol)のテトラエステル。
【0030】
【化5】

【0031】
参考例2:ペンタエリスリトール(1mol)と3,5,5-トリメチルヘキサン酸(4mol)のテトラエステル。
【0032】
【化6】

【0033】
参考例3:ジペンタエリスリトール(1mol)とn-ヘキサン酸(3mol)および2,4-ジメチルペンタン酸(3mol)のヘキサエステル。
【0034】
【化7】

【0035】
参考例4:ジペンタエリスリトール(1mol)、3,5,5-トリメチルヘキサン酸(6mol)のヘキサエステル。
【0036】
【化8】

【0037】
参考例5:実施例1のエステルを50重量部、実施例5のエステルを50重量部混合したもの。
参考例6:実施例2のエステルを30重量部、実施例5のエステルを40重量部および下記のトリペンタエリスリトール(1mol)、3-メチルブタン酸(4mol)および3-メチルペンタン酸(4mol)のオクタエステルを30重量部混合したもの。
【0038】
【化9】

【0039】
比較例1:ナフテン系鉱油(100℃の動粘度;5.2cSt)。
比較例2:分岐鎖型アルキルベンゼン(100℃の動粘度;5.0cSt)。
比較例3:ポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル(100℃の動粘度;5.4cSt)。
比較例4:ポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル(100℃の動粘度;9.5cSt)。
比較例5:ペンタエリスリトール(1mol)とn-ノナン酸(4mol)のテトラエステル。
比較例6:ペンタエリスリトール(1mol)とヤシ油のテトラエステル。
【0040】
本発明に関わる実施例および参考例1〜6の冷凍機油の基油の性能評価のためにHFC-134aとの溶解性、絶縁特性およびファレックス摩耗試験を評価した。また、比較のために、従来から冷凍機油に使用されている鉱油、アルキルベンゼン、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルおよびポリプロピレングリコールジアルキルエーテルの試験結果を表1に併記する。
【0041】
(HFC-134aとの溶解性)
内径6mm長さ220mmのガラス管に、実施例、参考例および比較例の試料油を0.2g採取し、さらに冷媒(HFC-134a)1.8gを採取してガラス管を封入する。このガラス管を所定の温度の低温槽または高温槽に入れ、冷媒と試料油が相互に溶解しあっているか、分離または白濁しているかを観察する。
(絶縁特性)
JIS C2101に準拠して25℃の試料油の体積抵抗率を測定した。
(FALEX摩耗試験)
ASTM D2670に準拠して、試料油の温度100℃、150lb荷重で、慣らし運転を1分行なった後に、250lbの荷重の下に2時間運転し、テストジャーナルの摩耗量を測定した。
(吸湿性)
試料油30gを300mlビーカーに採り、60℃、30%湿度に保たれた恒温恒湿槽に7日間静置した後、カールフィッシャー法により水分を測定した。
【0042】
【表1】

表1の実施例が示すとおり、本発明による冷凍機油は、比較例1〜2および5〜6に比べHFC-134aに対する冷媒溶解性が非常に優れている。
【0043】
比較例5のように酸側のアルキル基がすべて直鎖であると溶解性は悪い。また、比較例6のような従来から潤滑油、冷凍機油等に使用されているペンタエリスリトールと天然油脂とのテトラエステルも冷媒の溶解性が悪い。
【0044】
比較例3〜4に示すようにポリアルキレングリコールは冷媒溶解性は優れているものの絶縁特性が悪く密閉型のコンプレッサーには使用できない。また、比較例3〜4に示すアルキレングリコール類は、実施例の5〜10倍の水分吸湿量があり、電気絶縁性、アイスチョーク、耐摩耗性、安定性等の点で実施例よりも劣る。
【0045】
また、ファレックスによる摩耗試験においても実施例は、比較例3〜4に比べて同等ないしはそれ以上であることがわかる。
【0046】
【発明の効果】
以上の説明と実施例によって明らかなように、この発明の冷凍機油は、水素含有フロン用冷凍機における使用に適当するものであり、密閉型コンプレッサーに不可欠な電気絶縁性に優れていると共に耐摩耗性、非吸湿性も優れた冷凍機油である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2003-06-10 
出願番号 特願平11-65193
審決分類 P 1 41・ 161- Y (C10M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 雨宮 弘治
特許庁審判官 後藤 圭次
鈴木 紀子
登録日 2001-01-05 
登録番号 特許第3145360号(P3145360)
発明の名称 非塩素系フロン冷媒用冷凍機油  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長濱 範明  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 長濱 範明  

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