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審決分類 審判 訂正 旧特126条1項1号 請求の範囲の減縮 訂正する F16G
審判 訂正 判示事項別分類コード:813 訂正する F16G
管理番号 1082076
審判番号 訂正2002-39268  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-06 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-12-13 
確定日 2003-07-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2632656号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2632656号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第2632656号(平成7年2月14日(パリ条約による優先権主張 1994年2月15日、米国)出願、平成9年4月25日設定登録。)の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記訂正事項a〜訂正事項eのとおりに訂正することを求めるものである。
訂正事項a
特許第2632656号の明細書(以下、「本件明細書」という。)における発明の名称「動力伝達用チェーン、ガイドリンクおよび動力伝達用チェーンの製造方法」を、「サイレントチェーン、ガイドリンクおよびサイレントチェーンの製造方法」に訂正する。

訂正事項b
本件明細書の特許請求の範囲1〜10において、元の請求項2,6,7,9及び10を削除するとともに、元の請求項8の内容を請求項1に盛り込んで新たな請求項1とする。また、元の請求項3,4の項数を繰り上げて新たな請求項2,3とする。さらに、元の請求項8の内容を元の請求項5に盛り込んで新たな請求項4とする。また、元の請求項8を独立項にして新たな請求項5とする。
即ち、本件明細書の特許請求の範囲の記載を下記のとおりに訂正する。 「【請求項1】複数のチェーンリンクを有するサイレントチェーン10において、各チェーンリンクが、
a.二つのガイドリンク20と、
b.複数の内側リンク50と、
c.ガイドリンクを連結する枢支部材80と、
を備えるとともに、
a’.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔24,26と、間隔をあけて配置された一対のつま先部28,30とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を有し、内側フランク面は、丸いクロッチ部40で結合されており、
b’.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔54,56と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、
c’.一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、
a”.各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、クロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするサイレントチェーン。

【請求項2】内側リンクが内側リンクのガイド列および内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ、ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられている、
ことを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。

【請求項3】ガイドリンクが変形するときには、ガイドリンクの端部44,46に最小量の変形を伴いつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する、
ことを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。

【請求項4】リンク50の組立体および枢支部材80から構成されるサイレントチェーンとともに用いられる側部ガイドリンク20であって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、
a.底部22と、
b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30とを備え、
b’.前記つま先部は、開孔24,26を囲むとともに、外側フランク面36,38と、丸いクロッチ部40で連結された内側フランク面32,34とを有しており、
b”.ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有し、かつクロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするガイドリンク。

【請求項5】実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有しているサイレントチェーンの製造方法であって、
a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、
b.第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけることとを備えており、
前記チェーンリンクは、
i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を備えた複数の側部ガイドリンク20と、
ii.少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、
iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材80とを含んでおり、
さらに、
iii’.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔24,26を囲みかつ外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を備える、間隔を隔てた一対のつま先部28,30を有しており、
iii”.ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有するとともに、ガイドリンクのクロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするサイレントチェーンの製造方法。」

訂正事項c
本件明細書の発明の詳細な説明の段落番号【0001】、【0025】の「動力伝達用チェーン」との記載を「サイレントチェーン」と訂正する。

訂正事項d
本件明細書の段落番号【0027】、【0032】〜【0035】を削除するとともに、以下の段落番号を繰り上げ、発明の詳細な説明中の【課題を解決するための手段】及び【作用】の欄の記載を以下のように訂正する。
「【0026】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明に係るサイレントチェーンは、複数のチェーンリンクを有するサイレントチェーンにおいて、各チェーンリンクが、二つのガイドリンクと、複数の内側リンクと、ガイドリンクを連結する枢支部材とを備えるとともに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔と、間隔をあけて配置された一対のつま先部とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面および内側フランク面を有し、内側フランク面は、その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部で結合されており、内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、かつクロッチ部の基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0027】
請求項2の発明に係るサイレントチェーンは、請求項1において、内側リンクが内側リンクのガイド列および内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ、ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられていることを特徴としている。
【0028】
請求項3の発明に係るサイレントチェーンは、請求項1において、ガイドリンクが変形するときには、ガイドリンクの端部に最小量の変形を伴いつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生することを特徴としている。
【0029】
請求項4の発明に係るガイドリンクは、リンクの組立体および枢支部材から構成されるサイレントチェーンとともに用いられる側部ガイドリンクであって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、底部と、間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部とを備え、前記つま先部は、開孔を囲むとともに、外側フランク面と、丸いクロッチ部で連結された内側フランク面とを有しており、ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有し、かつクロッチ部の基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0030】
請求項5の発明に係るサイレントチェーンの製造方法は、実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有しているサイレントチェーンの製造方法であって、無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なる第2の内側リンクピッチ(第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい)とが得られるように、ガイドリンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけることとを備えており、前記チェーンリンクは、間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を備えた複数の側部ガイドリンクと、少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔をそれぞれ有する複数の内側リンクと、そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり、さらに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔を囲みかつ外側フランク面および内側フランク面を備える、間隔を隔てた一対のつま先部を有しており、ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有するとともに、ガイドリンクのクロッチ部基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0031】
【作用】
本発明は、複数のチェーンリンクを備えた無端状のサイレントチェーンに使用されるガイドリンクに関する。一実施態様においては、各チェーンリンクが、複数の内側リンクに差し込まれた二つのガイドリンクと、ガイドリンクを接続する二つの枢支部材とから構成されており、各ガイドリンクは内側リンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有している。各ガイドリンクおよび内側リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有している。複数の内側リンクの各々の一部は、ガイドリンク間に配置されている。枢支部材の各々は、各ガイドリンクの対向する各開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通している。
【0032】
サイレントチェーンは、負荷ブロック部材を含む可変プーリトランスミッションに使用される形式であってもよい。チェーンは、ブロック配列であってもよいし、または交互に組み合わされた配列であってもよい。各内側リンクは同一でもよいし、その形状や構造の一つまたはそれ以上の点で異なっていてもよい。たとえばリンクは以下の点で異なっていてもよい。すなわち、外形、フランク形状、ピッチ、向き(非対称リンクに関して)、スプロケット歯との駆動噛合いの形式、およびつま先部の数(つまり、一組につま先部一つか二つか)である。
【0033】
枢支部材は単一ピンであってもよく、また単一ピンのロッカージョイント構造であってもよく、さらに、ピンおよびロッカーが設けられるとともに、ピンがガイドリンク開孔内に延びかつピンおよびロッカーが内側リンク開孔を通って延びている典型的なロッカージョイント構造であってもよい。
【0034】
ガイドリンクは内側ガイドリンクであってもよい。この内側ガイドリンクにおいては、間隔を隔てた開孔を有する複数の駆動リンクの側部に配置され、間隔を隔てた開孔を有する単一ガイドリンクと、ガイドリンクに設けられ、間隔を隔てた開孔を挿通する二つの枢支部材と、駆動リンク内の少なくとも一つの開孔とから各チェーンリンクが構成されている。ガイドリンクは、駆動リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有している。ガイドリンクが内側リンクの側部に配置されたチェーンの該内側リンクと同一の形状を駆動リンクが有していることが分かるだろう。したがって、内側ガイドリンクチェーンにおける駆動リンクはまた、内側リンクと呼ばれる。
【0035】
好ましい実施態様では、ガイドリンクは、底部と、上方に延びる一対のつま先部によって囲まれ、間隔を隔てた一対の開孔とを備えた形状を有している。つま先部は、内側リンク面と、該内側フランク面が丸いクロッチ部で連結された外側フランク面とによって形成されている。クロッチ部の基部は、開孔の少なくとも頂上部下方まで延びている。またガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも小さい降伏荷重を有するように、内側リンクよりも厚みが薄くかつ硬度が低くなっている。
【0036】
本発明のある特定の実施形態においては、サイレントチェーンに使用されるガイドリンクが、凹面状の底部と、間隔をあけて配置された一対の開孔と、開孔を囲み、外側フランク面および内側フランク面を有するとともに、丸いクロッチ部で接続された一対のつま先部とを備えている。クロッチ部の基部は、ガイドリングが他のリンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有するように、開孔の水平方向中心線の下方まで垂れ下がっている。
【0037】
他の実施態様においては、ガイドリンクがまた内側フランク面の厚みよりも薄い厚みを有している。また他の実施態様においては、ガイドリンクが他のリンクの硬度よりも低い硬度を有している。この実施態様では好ましくは、ガイドリンクの硬度は内側リンクの硬度よりも少なくとも8単位分低くなっている。より好ましくは、ガイドリンクは、他のリンクよりも硬度が低くかつ厚みも薄くなっている。
【0038】
他の実施態様では、サイレントチェーンには複数のチェーンリンクが設けられており、各チェーンリンクは、複数のガイドリンクと、複数の内側リンクと、枢支部材とから構成されている。ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有している。ガイドリンクはまた、間隔をあけて配置された一対の開孔を有しており、該開孔は、プリストレス運転後の内側リンクのピッチに実質的に等しいガイドリンクのピッチを定めている。内側リンクの各々は、間隔をあけて配置されかつ内側リンクのピッチを定める一対の開孔を有しており、内側リンクの少なくとも一部はガイドリンク間に配置されている。枢支部材はガイドリンクを連結しており、一方の枢支部材は、各ガイドリンクの対向する開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通している。
【0039】
本発明はまた、実質的に全てのリンクがプリストレス運転後に実質的に同一のピッチになるようなサイレントチェーンの製造方法を含んでいる。この方法は以下の工程を含んでいる。すなわち、複数の内側リンクと、該内側リンクの降伏強度よりも低い降伏強度のガイドリンクとを用意すること、ガイドリンク間に配置された内側リンクの少なくとも一部をチェーンリンクが含むように、内側リンクおよびガイドリンクを連結して無端状のチェーンを形成すること、チェーンにプリストレスをかけることである。
【0040】
ガイドリンクの各々は、間隔をあけて配置された、第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を有しており、内側リンクの各々は、間隔をあけて配置された、第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔を有している。二つの枢支部材は側部ガイドリンクを連結しており、各枢支部材は各ガイドリンクの対向する開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通している。チェーンには、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプリストレスがかけられ、これにより、第1のガイドリンクピッチとは異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチとは異なる第2の内側リンクピッチとが得られ、また第2のガイドリンクピッチは、実質的に全ての内側リンクのピッチと実質的に同一である。
【0041】
クレーム内においても同様に、前述したおよび以下の記述で使用される「硬度」という語は、ロックウエル硬度のCスケールを意味している。クレーム内においても同様に、前述したおよび以下の記述で使用される「降伏荷重」という語は、塑性変形が起こりはじめる引張荷重を意味している。」

訂正事項e
本件明細書中の符号の説明の欄における「動力伝達用チェーン」を「サイレントチェーン」と訂正する。

2.当審の判断
2-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
そこで、上記訂正事項aないし訂正事項eについて検討する。
上記訂正事項bは、本件明細書の特許請求の範囲の元の請求項2,6,7,9及び10を削除するとともに、本件明細書の元の請求項8の技術事項(本件明細書の段落番号【0065】の記載、図4、図6等)を元の請求項1,5に繰り入れて新たな請求項1,4とし、元の請求項3,4を繰り上げて新たな請求項2,3とし、元の請求項8を独立項として新たな請求項5としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
上記訂正事項a、c〜eは、訂正しようとする特許請求の範囲の記載と整合させるために発明の名称、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正事項aないし上記訂正事項eは、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲の記載を拡張し、又は変更するものでもない。

2-2.独立特許要件について
本件特許第2632656号に係る無効審判事件(平成10年審判第35034号)についての当審の審決に対し、東京高等裁判所において審決取消しの判決(平成12年(行ケ)第170号、平成14年10月31日判決言渡)がなされたので、上記判決で判示された判示事項をふまえて、上記訂正しようとする新たな請求項1ないし請求項5に係る発明(以後、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明5」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて検討する。
(1)本件訂正発明1ないし本件訂正発明5
本件訂正発明1ないし本件訂正発明5は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載されたとおりのものである。(上記「1.訂正の要旨」の項の訂正事項bを参照。)

(2)上記無効審判事件において提出された刊行物に記載された技術事項
刊行物1(特開平4-46241号公報;甲第1号証)には、サイレントチェーンに関して下記の事項ア〜ウが図面とともに記載されている。
ア;「(ハ)発明が解決しようとする課題
本発明が解決しようとする課題は、サイレントチェーンにおいて、連結ピンを総てのリンクプレートに関して回転自在にすることによって連結ピンの摩耗を全周に亙って均一にすると共にガイドリンクプレートの引張方向の剛性を小さくして多数のリンクプレートにかかる荷重を均等化し、それによって連結ピンの局部的摩耗を防止して寿命の増大及び、動力伝達能力の向上を図ることである。
(ニ)課題を解決するための手段
本発明は、スプロケットの歯とかみ合う一対のリンク歯及び一対の穴が形成された複数の駆動リンクプレートを横に複数枚並べると共に長手方向に並べて該穴内に挿入される断面円形の連結ピンで回動可能に連結し、該駆動リンクプレートの列にガイドリンクプレートを配置してなるサイレントチェーンにおいて、該連結ピンの両端を外側の該ガイドリンクプレートより外側に突出させて該突出端に抜け防止部材を固定し、該連結ピンを該連結ピンにより連結されている総てのリンクプレートに関して回転可能にし、該ガイドリンクプレートの背側には中心側に伸びる切欠きを形成して構成されている。
(ホ)作用
上記構成において、サイレントチェーンを駆動及び被駆動スプロケットに掛けて駆動スプロケットを駆動すると駆動スプロケットの動力がサイレントチェーンを介して被駆動スプロケットに伝達される。複数のリンクプレートを連結している連結ピンは総てのリンクプレートに関して回転自在になっているので、サイレントチェーンの運動中に連結ピンはリンクプレートに関して回転し、リンクプレートとの接触位置を変える。したがって、連結ピン外周の局部的摩耗は防止される。
一方サイレントチェーンに張力が作用したときガイドリンクプレートは駆動リンクプレートと同じように伸び易くなっているので連結ピンの曲がりが防止され連結ピンの回転がより行なわれ易くなるとともにチェーンの引張強度が増大する。」(第2頁右上欄14行〜右下欄13行)

イ;「ガイドリンクプレート3は駆動リンク2よりも厚さが薄くなっていて、背縁側すなわち駆動リンクプレート2のリンク歯21のある側と反対側の中央には第5図に示されるようにクロッチすなわち切欠き35が形成されている。この切欠き35は穴32の中心を結ぶ中心線0’-0’の近くまで中心側に伸びているが、その深さは必要に応じて任意に調節できる。なお、ガイドリンクプレートとしては第6図に示されるように駆動リンクプレートと同じ形状3’として、向きを逆にして使用することもできる。
ガイドリンクプレート3に切欠きを形成することにより引張り荷重に対する剛性が小さくなり、チェーンに引張り荷重が作用したとき駆動リンクプレートと同じ量だけ伸びることが可能となる。このため連結ピンの曲がりを防止できて連結ピンの回転がよりし易くなる。しかもスプロケットに対してチェーンを案内する機能は何ら失なわれない。ただ切欠きを設けることによりスプロケットに対してチェーンを案内する際に受ける曲げに対して弱くなるが、連結ピンの抜け防止部材5がこれをカバーするのでガイドリンクプレートの曲げ剛性は心配する必要がない。
なお、チェーンのリンクプレートは交互に並べて連結するため、ガイドリンクプレート3のある列はそれがない列よりもリンクプレートの枚数が1枚多くなるので、ガイドリンクプレートの枚厚は駆動リンクプレートの板厚の1/2まで薄くしてもチェーンの引張り強度は変らず、全体的な強度バランスが良くなりより軽量化が図れる。」(第3頁左下欄3行〜右下欄12行)

ウ;「(3)切欠きを設けることにより駆動リンクプレートとガイドリンクプレートの弾性変形による伸びが均衡し、隣り合う連結ピンが互いに平行を保ち、曲げ応力が発生しないのでチェーンの引張強度が向上する。」(第4頁左下欄3行〜7行)

刊行物2(特開平2-278040号公報;甲第2号証)には、動力伝達チェーンに関して下記の事項エ〜カが図面とともに記載されている。
エ;「動力伝達チェーンにおける2個の案内リンクとプレーンリンクとの間の歪みを均等化するためには、考慮すべきいくつかの要因がある。即ち、例えば、案内リンクの厚さ、プレーンリンクの厚さ、プレーンリンクの数、案内リンクとプレーンリンクとの間の相対的弾性関係、案内リンクとプレーンリンクの相対的形状関係、各リンクにおける応力の臨界点等がある。」(第8頁右下欄7行〜14行)

オ;「案内リンク52の周面は、ほぼ腎臓形状のその輪郭または全体形状から形成し、急激な不連続性、切欠き、または周面全体にわたり他の同様な中断部分がないようにする。各案内リンク52は均一で連続的な輪郭を有し、所定の予測可能操作モードの荷重の下で大きな応力上昇を生ずることなく変形するよう設計する。更に、2個の案内リンクがピンにより案内リンク間の複数個のプレーンリンクに組み合わされ、チェーンのランクを形成し、スプロケットの周りのチェーンの作動中の荷重を受け、2個の案内リンク52が複数個のプレーンリンクとほぼ同程度に変形し、荷重の分布を改善し、チェーンを構成する構成部分の摩耗寿命を延ばすことができるようにする。」(第11頁右上欄17行〜左下欄10行)

カ;「標準の従来技術の案内リンクを弾性案内リンクに変更することによってピッチ均等化がより改善される。弾性案内リンクは案内リンクとして良好に機能し、硬さが少なくプレストレスを受けたのちにもピッチの均等化を良好にする。プレストレス動作中に減少した硬さによりチェーンリンクにおける引っ張りを和らげ、より均一にする。案内リンクを案内列におけるプレーンリンクよりも薄くし、また案内列のプレーンリンクを関節連結列におけるプレーンリンクよりも厚くすることにより最良の結果が得られる。」(第13頁左上欄20行〜右上欄10行)

刊行物3(実公平6-8357号公報;甲第3号証)には、動力伝達用のサイレントチェーンに関して下記の事項キが図面とともに記載されている。
キ;「第2図は、一枚の噛合いリンクプレートの1/2の剛性を有する一枚のガイドリンク1であって、長い連結ピンP1の端部を装着固定する一対の孔2,2を有し、中央部位に窓孔3が設けられており、該窓孔3とガイドリンク1の上辺との幅Wa、及び窓孔とガイドリンクの下辺との幅Wbとの和(Wa+Wb)である最小断面長は、第3図に示す噛合いリンクプレート4の上辺と歯底との幅である最小断面長とWcに等しくされており、ガイドリンク1の板厚は噛合いリンクプレートの板厚の1/2としたから、ガイドリンク1は張力に対し噛合いリンクプレート4の1/2の剛性を有することになる。
また、ガイドリンクを噛合いリンクプレートの1/2の剛性にする他の実施例として材質を変更することもある。」(第2頁第3欄40行〜第4欄11行)

刊行物4(「ローラチェーンの安全設計」中込昌孝著、(株)養賢堂1989年9月5日発行、第77頁〜第83頁;甲第4号証)には、ローラチェーンの予荷重の影響に関して下記の事項ク〜コが図面とともに記載されている。
ク;「ローラチェーンには、製作後、組立て時のピッチ誤差およびねじれなどの矯正をするために、予張力を負荷する作業が行なわれる。この予張力は、当然チェーンの破断荷重に比較して相当小さな荷重であるから、チェーン自体の強度や精度に影響を及ぼすものではないが、荷重の大きさによっては、疲労強度にかなりの影響を及ぼすことになる。」(第77頁末行〜第78頁4行)

ケ;「予荷重を施こすことによって、20〜30%の疲労限度の向上が認められたことになる。ここで注意しなければならないことは、余り大きな予荷重をチェーンにかけると、チェーンに永久伸びが発生するために好ましくない。」(第79頁4行〜7行)

コ;「まず、チェーンに予荷重を施こしたときの効果は、ローラリンクプレート穴底部の応力集中による表面圧縮残留応力の生成と、それによる疲労試験における繰返し応力の平均応力成分の低下とみなして説明することができる。
ここで、リンクプレートの降伏域が小さく、全体としてのひずみがほとんどないものとみなせば、図8.25に示すような残留応力が生成される。また、リンクプレートの応力-ひずみ線図を直線硬化の弾塑性体と仮定し、図8.26(a)に示すようなバウシンガー効果を考慮すれば、リンクプレートに生じる表面圧縮残留応力は以下のようにして概算することができる。
いま、局部最大応力が降伏応力σyを超えない場合は、予応力を取り除いたときの応力およびひずみは0に戻るので残留応力は生成されない。」(第79頁10行〜19行)

(3)対比・判断
【本件訂正発明1について】
刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の「ガイドリンクプレート3」、「駆動リンクプレート2」、「連結ピン4」、「クロッチ(切欠き)35」及び「サイレントチェーン」は、夫々、本件訂正発明1の「ガイドリンク20」、「内側リンク50」、「枢支部材80」、「クロッチ部40」及び「サイレントチェーン」に相当し、刊行物1に記載された発明のガイドリンクプレート3は、本件訂正発明1のガイドリンク20と同様にある厚み及び硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔と、間隔をあけて配置された一対のつま先部とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面および内側フランク面を有し、内側フランク面は、丸い(曲面形状)クロッチ部で結合されており、駆動リンクプレート2は、本件訂正発明1の内側リンク20と同様に駆動リンクプレート2の少なくとも一部がガイドリンクプレート3間に配置されるとともに、駆動リンクプレート2の各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、連結ピン4は、本件訂正発明1の枢支部材80と同様に各ガイドリンクプレート3の対向する開孔内で支持されるとともに、各駆動リンクプレート2の少なくとも一つの開孔内を挿通しているものであるから、本件訂正発明1の用語を使用して本件訂正発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「複数のチェーンリンクを有するサイレントチェーンにおいて、各チェーンリンクが、二つのガイドリンクと、複数の内側リンクと、ガイドリンクを連結する枢支部材とを備えるとともに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔と、間隔をあけて配置された一対のつま先部とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面および内側フランク面を有し、内側フランク面は、丸いクロッチ部で結合されており、内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しているように構成されたサイレントチェーン。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本件訂正発明1では、各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、クロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びているように構成されている(分説した技術事項a”)ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ガイドリンクプレート3を駆動リンクプレート2の降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するようにするための具体的構成を具備していない点。

上記相違点について検討するに、上記東京高等裁判所判決(判決書第23頁〜第38頁の「第5 当裁判所の判断」の項参照)によれば、刊行物2及び刊行物4に記載された技術事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明のようなサイレントチェーンにおいてもローラチェーンと同様に製作後にプリストレスをかけて弾性変形の限界を超えた塑性変形までの変形を生じさせて、プリストレス後に各枢支部材を実質的に平行に配列させることは容易であるとしている。
しかしながら、上記判決が本件訂正発明1の上記相違点に係る構成(技術事項a”)の容易性についてまで判示していないことは明らかである。
そこで、刊行物1〜4に記載された上記技術事項ア〜コから本件訂正発明1の上記相違点に係る構成(技術事項a”)が当業者には容易に想到できる技術事項であるかどうかについて検討した結果は、以下のとおりである。
刊行物2に記載された上記技術事項エ〜カ及び刊行物3に記載された上記技術事項キからは、サイレントチェーンの弾性限界範囲内の変形についての事項ではあるが、ガイドリンク(ガイドリンクプレート)と内側リンク(駆動リンクプレート)との間の歪を均等化するために考慮するべき要因はいくつかあり、具体的には、ガイドリンクの板厚を内側リンクの板厚の1/2とする、或いは、ガイドリンクと内側リンクの材料を変更する等により、ガイドリンクを内側リンクとほぼ同程度に変形させることにより荷重の分布を改善してチェーンを構成する構成部分の寿命を延ばすことができることが理解できる。
また、刊行物4に記載された技術事項ク〜コからは、サイレントチェーンにおいてもローラチェーンと同様に製作後、組立て時のピッチ誤差等を矯正するために内側リンクの降伏応力以上の荷重を負荷する作業が行われ、ガイドリンク及び内側リンクにわずかな塑性変形を生じさせることが理解できる。
そして、降伏荷重は、降伏応力と断面積の積によるものであるから、材料が同じであれば、ガイドリンクの板厚を内側リンクの1/2とすればガイドリンクの断面積は内側リンクの断面積の1/2となり、ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するものになることは、当業者であれば容易に理解することができる技術事項であると認められる。
上記した当業者が理解できる技術事項を総合すれば、刊行物1及び2に記載されたようなクロッチ部(穴の中心を結ぶ中心線0’-0’の近くまで中心側に伸ばしたもの)を形成したガイドリンクの板厚を駆動リンクプレート(内側リンク)の板厚よりも薄くすること、或いは、硬度の異なる材料を使用することによってガイドリンクプレートの降伏荷重を駆動リンクプレートの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように構成することは、当業者であれば容易に想到することができるものと認められる。
しかしながら、本件訂正発明1では、ガイドリンクを内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するようにするために、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、クロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びているようにガイドリンクを構成するものである。
刊行物1の上記記載事項イには、「この切欠き35は穴32の中心を結ぶ中心線0’-0’の近くまで中心側に伸びているが、その深さは必要に応じて任意に調節できる。」との記載があるが、刊行物1の上記記載からは、ガイドリンクプレートを駆動リンクプレートの弾性変形に追従させて変形できるようにするためにガイドリンクに形成するクロッチ部の形態として本件の出願前に当業者に知られた範囲内のクロッチ部形状において任意に調節できることが理解されるに留まるものである。
そして、本件の出願前にはガイドリンクに形成したクロッチ部の形態としては、穴の中心を結ぶ中心線の近くまで中心側に伸びるように形成することが知られている(例えば、刊行物1の図5、図6、刊行物2の図3参照)にすぎないものであって、本件訂正発明1のようにクロッチ部の基部を開孔(穴)の水平方向中心線の下方まで延ばすことは、本件の出願前に当業者に知られていた事項であるとは認めることができないものである。
そうすると、刊行物1〜4から理解される上記技術事項を総合勘案したとしても、本件訂正発明1のようにガイドリンクの厚みと硬度とクロッチ部の形状(クロッチ部の基部を開孔の水平方向中心線の下方まで延ばすこと)を総合してガイドリンクを内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重とすることについてまでは、当業者といえども容易に想到することができるものとは認めることができない。
また、本件訂正発明1のようなクロッチ部の形状を採用すれば、開孔を結ぶ水平方向中心線上には隙間が形成されるから、製作後にプリストレスを負荷してガイドリンクをわずかに塑性変形させる際に、従来知られたクロッチ部形状(穴の中心を結ぶ中心線の近くまで中心側に伸びるように形成)のものと比較して、ガイドリンクに生じる塑性変形の実質的にすべてをクロッチ部近傍の領域で発生させることができるという格別な効果を奏するものと認められる。
なお、その他の証拠(上記無効審判事件で提出された甲第5号証〜甲第7号証)について検討しても、本件訂正発明1のようなクロッチ部形状を当業者が想到するための契機となる事項は認めることができない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
また、他に本件訂正発明1について、独立特許要件を満さないとする証拠も発見しない。

【本件訂正発明2,3について】
本件訂正発明2,3は、夫々、本件訂正発明1の技術事項を引用するとともに、さらに構成を限定したものである。
そして、本件訂正発明1が、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができないものであることは、上記【本件訂正発明1について】の項で検討したとおりである。
したがって、本件訂正発明2,3も、本件訂正発明1と同様の理由により、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
また、他に本件訂正発明2,3について、独立特許要件を満たさないとする証拠も発見しない。

【本件訂正発明4について】
刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の「ガイドリンクプレート3」、「駆動リンクプレート2」、「連結ピン4」、「クロッチ(切欠き)35」及び「サイレントチェーン」は、夫々、本件訂正発明1の「(側部)ガイドリンク20」、「内側リンク50」、「枢支部材80」、「クロッチ部40」及び「サイレントチェーン」に相当し、刊行物1に記載された発明のガイドリンクプレート3も、本件訂正発明4の側部ガイドリンク20と同様に底部と、間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部とを備え、該つま先部は、開孔を囲むとともに、外側フランク面と、丸い(曲面形状)クロッチ部で連結された内側フランク面とを有しているものであるから、本件訂正発明4の用語を使用して本件訂正発明4と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「リンクの組立体および枢支部材から構成されるサイレントチェーンとともに用いられる側部ガイドリンクであって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、底部と、間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部とを備え、前記つま先部は、開孔を囲むとともに、外側フランク面と、丸いクロッチ部で連結された内側フランク面とを有しているガイドリンク。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本件訂正発明4では、ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有し、かつクロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びているように構成されている(分説した技術事項b”)ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、ガイドリンクプレート3を駆動リンクプレート2の降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するようにするための具体的構成を具備していない点。

上記相違点について検討するに、本件訂正発明4の上記相違点に係る構成(技術事項b”)は、本件訂正発明1の技術事項a”と実質的に同一の事項である。
そして、本件訂正発明1の技術事項a”が刊行物1〜4に記載された技術事項ア〜コを総合勘案したとしても当業者が容易に想到することができない事項であることは、上記【本件訂正発明1について】の項で検討したとおりである。
したがって、本件訂正発明4も、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
また、他に本件訂正発明4について、独立特許要件を満たさないとする証拠も発見しない。

【本件訂正発明5について】
刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の「ガイドリンクプレート3」、「駆動リンクプレート2」、「連結ピン4」、「クロッチ(切欠き)35」及び「サイレントチェーン」は、夫々、本件訂正発明5の「(側部)ガイドリンク20」、「内側リンク50」、「枢支部材80」、「クロッチ部40」及び「サイレントチェーン」に相当し、サイレントチェーンを含むローラーチェーンにおいては、製作後、組立て時のピッチ誤差等を矯正するために駆動リンクプレート(内側リンク)の降伏荷重以上のプリストレスを負荷してわずかに塑性変形を生じさせるもの(上記東京高等裁判所の判示事項参照)であり、また、刊行物1に記載された発明のガイドリンクプレート3は、本件訂正発明5の側部ガイドリンク20と同様に、ある厚みおよび硬度を有するとともに、穴(開孔)を囲みかつ外側フランク面および内側フランク面を備える、間隔を隔てた一対のつま先部を有しており、駆動リンクプレートの板厚の1/2まで薄く(駆動リンクプレートよりも低い降伏荷重を有する)できるものであるから、本件訂正発明5の用語を使用して本件訂正発明5と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有しているサイレントチェーンの製造方法であって、無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけることとを備えており、前記チェーンリンクは、間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を備えた複数の側部ガイドリンクと、少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置かつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔をそれぞれ有する複数の内側リンクと、そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり、さらに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔を囲みかつ外側フランク面および内側フランク面を備える、間隔を隔てた一対のつま先部を有しているサイレントチェーンの製造方法。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本件訂正発明5では、ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度より低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有するとともに、クロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びているように構成されている(分説した技術事項iii”)ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明は、ガイドリンクプレート3を駆動リンクプレート2の降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するようにするための具体的構成を具備していない点。

上記相違点について検討するに、本件訂正発明5の上記相違点に係る構成(技術事項iii”)は、本件訂正発明1の技術事項a”と実質的に同一の事項である。
そして、本件訂正発明1の技術事項a”が刊行物1〜4に記載された技術事項ア〜コを総合勘案したとしても当業者が容易に想到することができない事項であることは、上記【本件訂正発明1について】の項で検討したとおりである。
したがって、本件訂正発明5も、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
また、他に本件訂正発明5について、独立特許要件を満たさないとする証拠も発見しない。

(4)まとめ
よって、本件訂正発明1ないし5が、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることができない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サイレントチェーン,ガイドリンクおよびサイレントチェーンの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数のチェーンリンクを有するサイレントチェーン10において、各チェーンリンクが、
a.二つのガイドリンク20と、
b.複数の内側リンク50と、
c.ガイドリンクを連結する枢支部材80と、
を備えるとともに、
a′.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔24,26と、間隔をあけて配置された一対のつま先部28,30とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を有し、内側フランク面は、丸いクロッチ部40で結合されており、
b′.内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔54,56と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、
c′.一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、
a″.各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、クロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするサイレントチェーン。
【請求項2】 内側リンクが内側リンクのガイド列および内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ、ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられている、
ことを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項3】 ガイドリンクが変形するときには、ガイドリンクの端部44,46に最小量の変形を伴いつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生する、
ことを特徴とする請求項1記載のサイレントチェーン。
【請求項4】 リンク50の組立体および枢支部材80から構成されるサイレントチェーンとともに用いられる側部ガイドリンク20であって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、
a.底部22と、
b.間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30とを備え、
b′.前記つま先部は、開孔24,26を囲むとともに、外側フランク面36,38と、丸いクロッチ部40で連結された内側フランク面32,34とを有しており、
b″.ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有し、かつクロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするガイドリンク。
【請求項5】 実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有しているサイレントチェーンの製造方法であって、
a.無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、
b.第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なりかつ第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい第2の内側リンクピッチとが得られるように、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけることとを備えており、
前記チェーンリンクは、
i.間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔24,26を備えた複数の側部ガイドリンク20と、
ii.少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔54,56をそれぞれ有する複数の内側リンク50と、
iii.そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材80とを含んでおり、
さらに、
iii′.ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔24,26を囲みかつ外側フランク面36,38および内側フランク面32,34を備える、間隔を隔てた一対のつま先部28,30を有しており、
iii″.ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有するとともに、ガイドリンクのクロッチ部40の基部が開孔24,26の水平方向中心線21の下方まで延びている、
ことを特徴とするサイレントチェーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、一般に、サイレントチェーンに関し、詳細には、サイレントチェーンのための改良されたガイドリンクに関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】
動力伝達用チェーンは自動車産業において広く使用されている。このようなチェーンは、エンジンからトランスミッションへの動力伝達や、トランスファケース内の動力伝達ばかりでなく、エンジンのタイミング装置にも用いられている。動力伝達用チェーンはまた、一般産業でも広く使用されている。
【0003】
一般に、チェーンは、列または並びを形成するように各々並んで配置された複数のリンクから構成されており、これらの列または並びは、無端チェーンを形成するように枢支部材によって連結されている。典型的なチェーンにおいてはリンク列が60から100しかないものもあれば、リンク列が120のものもある。与えられた列または並びにおけるリンクの個数は2つしかない場合もあれば、40以上のリンクが互いに隣接して配置されている場合もある。
【0004】
動力伝達用チェーンは、とくに可変プーリトランスミッションのプーリを連結するのに適合したチェーンを含んでいる。このチェーンは、一般に、差し込まれたまたは組み合わされた複数のリンクの組から構成されており、各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有している。開孔は、枢支部材が隣接するリンクの組を連結してチェーンが関節運動を行えるように、配列されている。一般に、このようなチェーンの特徴は、各リンクの組に関連しかつ通常はリンクを横切る方向に向いて配置された負荷ブロック部材が存在していることである。この種のチェーンの一例は米国特許第5,007,883号に見出され、該特許はこの明細書の中に参考として組み込まれている。
【0005】
動力伝達用チェーンのもう一つのタイプは、「サイレントチェーン」と呼ばれている。従来のサイレントチェーンは典型的には、ガイドリンクと、内向き歯付きリンクとを含んでいる。ガイドリンクは、チェーンをスプロケット上に整列させておくものであり、一般に、スプロケットの中央ガイド溝内に嵌合するように中央に配置されるか、あるいはリンクの一つ置きの組の外側縁部に配置される。ガイドリンクは典型的には、スプロケットとは噛み合わない。
【0006】
内向き歯付きリンクまたはスプロケット噛合リンクは、チェーンおよびスプロケット間で動力の伝達を行う。各内向き歯付きリンクは典型的には、一対の開孔と、一対の垂れ下がったつま先部または歯部とを含んでいる。各つま先部は、内側フランク面と外側フランク面とによって構成されている。内側フランク面はクロッチ部で連結されている。内向き歯付きリンクは典型的には、リンクがスプロケット歯に接触してチェーン組立体およびスプロケット間で動力伝達が行われるように、設計されている。内向き歯付きリンクまたは駆動リンクは、内側リンクフランク面に沿ってあるいは外側リンクフランク面に沿って、または両フランク面に沿ってスプロケット歯と接触する。
【0007】
リンクの一組または一列は、並んで配置されたまたは横方向に隣接した配置された幾つかのリンクから組み立てられている。リンクは、開孔内に受け入れられたピンである枢支部材によって連結されている。枢支部材はまたロッカージョイントから成っており、該ロッカージョイントは、一対のピンを含んでいても、あるいは単一ピンを含んでいてもよい。両ピンは、二つのリンクの組の開孔を挿通しており、チェーンを可撓状態にする揺動係合のための円弧状面を有している。典型的には、一方のピンのみがガイドリンクの開孔内で固定されており、他方のピンはガイドリンクの開孔側へ延びてはいるが、ガイドリンクの開孔内には配置されていない。
【0008】
サイレントチェーンの一例は米国特許第4,342,560号に見出され、該特許はこの明細書中に参考として組み込まれている。エンジンのタイミング駆動に適用され得るサイレントチェーンの一例は、米国特許第4,759,740号に見出され、該特許もこの明細書中に参考として組み込まれている。
【0009】
サイレントチェーンは、内側リンクの組の側部に配置された複数のガイドリンクの組を有している。チェーンを組み立てるために、一つのリンクの組の開孔が、隣接するリンクの組の開孔の一組と横方向に整列される。このような配列は、ブロック配列としてよく知られているところである。より詳細には、内側リンクは実質的に同一のものであり、ブロックを形成するように一列に並んで配置されている。このブロック配列された内側リンクの列または組は、好ましくはガイドリンク列と交互になっている。ガイドリンクとの組は内側リンクを含んでいない。ブロック配列のチェーンの一例は米国特許第5,192,253号の中に見出され、該特許はこの明細書の中に参考として組み込まれている。
【0010】
またサイレントチェーンは、差し込まれた内側リンクの組の側部に配置された複数のガイドリンクを含んでいてもよい。差し込まれた内側リンクの組を有するサイレントチェーンの一例は、上述の米国特許第4,342,560号の中に見出される。内側リンクは交互に配置されるとともに、ガイドリンクに支持された枢支部材によって相互に連結されている。したがって、一組はいわゆるガイドリンク列にあり、他の組はいわゆるノンガイドリンク列にあることになる。
【0011】
従来のサイレントチェーン駆動装置は、軸に支持された少なくとも二つのスプロケットの回りに巻き掛けられる無端状のサイレントチェーンから構成されている。駆動スプロケットの回転により、チェーンを介して動力の伝達が起こり、この結果、従動スプロケットが駆動される。従来のチェーン駆動装置は、チェーンを大強度にするために、幅方向に延長されたチェーン組立体を有していてもよい。あるいは、単一の幅広のチェーンに匹敵する動力伝達成果を得るために、二つの幅狭のチェーン組立体がスプロケット対間に並んで配置されていてもよい。
【0012】
サイレントチェーン駆動装置はまた、駆動リンクまたは内側リンクがチェーンスプロケットと同様に修正されているようなチェーン駆動装置を含んでいてもよい。たとえば米国特許出願第07/885,194号は、現在の譲受人によって所有され、この明細書の中に参考として組み込まれているものであるが、一対のランダムチェーン組立体または混成チェーン組立体と一対のスプロケットとの間に位相調整された関係を与えることを開示している。
【0013】
位相調整は、チェーン構造の変更や、スプロケット構造の変更、チェーン組立体およびスプロケットの位置関係の変更を含んでいる。スプロケットの変更は、1/2歯または他の種々のピッチ量と同様に1/2ピッチ位相調整された分割スプロケットを使用することを含んでいる。スプロケット歯のランダム化はどんな方法でもよく、たとえば歯の間隔を変えたり、歯を除去または排除したりすることなどがある。
【0014】
チェーン組立体の変更は、二つの異なった形状のリンクの組または第2の組のリンクと異なる第1の組のリンクを使用することによるランダム化ばかりでなく、同じチェーン組立体または二つのチェーン組立体内において、単一のつま先部付きのリンクと二つのつま先部付きのリンクとを使用することによるランダム化を含んでいる。二つのリンクの組の各リンクは、外形、フランク形状、主要な内側フランク面形状、外側フランク面形状、ピッチ、配置(非対称リンクについての)、スプロケット歯との駆動噛合いの形式、またはランダム化の他の形式において異なっている。
【0015】
駆動スプロケットおよび従動スプロケット間で絶えず駆動された状態にある動力伝達用チェーンの運転中には、チェーンは、多くの異なった形式の力、応力、ひずみ、トルクその他を受けている。チェーンが駆動スプロケットおよび従動スプロケット間で移動するとき、リンク各列がスプロケット歯と接触する場合には、列内のリンクは力を受けるということが容易に理解される。
【0016】
一般に、枢支部材はガイドリンクの開孔内に密に圧入されている。ガイドリンクはつま先部を有しないリンクとして製作されており、内側リンクより剛性が高い。したがって、プリストレス運転時のような予め設定された荷重に対しては、内側リンクがガイドリンクよりも大きく変形することになる。この変形の差は、外側リンクまたはガイドリンクよりも大きなピッチ伸びを内側リンクに生じさせる。ピンはガイドリンクに連結されているため、これにより、ピンが曲がることになる。この結果、枢支部材は、破損が生じるような大きな応力をガイドリンク近傍で受ける。
【0017】
これらの問題の一つの解決策は米国特許第4,915,675号の中に認められる。この特許では、各列方向の荷重分担を改良するために、ガイドリンクが各列内で他の内側リンクと同等の変形をするように設計されている。ガイドリンクは、各ガイドリンク列内で内側リンクと実質的に同等に伸びるように、低い強度を有している。この結果、ガイドリンクおよび内側リンクの弾性変形が実質的に等しくなり、枢支部材が実質的に互いに平行に保たれることになる。
【0018】
米国特許第4,915,675号は、ガイドリンクを腎臓形に設計してその厚みを変えることによって、ガイドリンクおよび内側リンクのこの弾性変形が実質的に同じになり得ることを教示している。リンクのために選ばれた特定の配列パターンに依存しつつ、内側リンクと実質的に同一の弾性変形量を得るためには、ガイドリンクが内側リンクの強度よりも低い設計強度を有することになる。
【0019】
同様に、米国特許第2,525,561号は、内側リンクと同じ弾性特性およびピッチ方向伸びを有するように、正面部分が形成されかつ横断面寸法が定められたガイドリンクを示している。
【0020】
他の解決策は米国特許第5,176,586号の中に認められる。この特許では、チェーンの引張荷重に対して全リンクが同じ伸び率を有するように、ガイドリンクの剛性が他のリンクの剛性の半分になっている。ガイドリンクの剛性は以下のような方法により半分にされている。すなわち、中心に窓部を配置したガイドリンクを設計することによって、またガイドリンクの厚みを内側リンクの厚みの半分に変更することによって、さらにヤングの弾性係数が内側リンクの半分になるようにガイドリンクの材料を変更することによって、またガイドリンクの厚みおよび材料の両方を変更することによってである。
【0021】
同様に、米国特許第4,547,182号は、可変速のトランスミッションに使用されるチェーンベルトを示している。チェーンベルトは三つのリンクの配列で構成されており、この配列では、リンクの横方向の千鳥配列が各三つのリンクに関して繰り返されるように、相似の位置に配置されたリンク端部が二つの枢支部材分だけオフセットされている。あらゆる横方向位置において同じリンク横断面面積を得るために、外側リンクの厚みが内側リンクの厚みの半分になっている。この結果、各リンクにかかる荷重の総量が、チェーンおよび枢支部材の幅に関して、各リンク部材の伸びに依存しつつ荷重時には等しくなる。
【0022】
また他の解決策が米国特許出願第08/098,433号の中に見出される。この出願は、1990年12月7日に出願されかつ1992年7月31日に出願公開された日本国特許出願第4-210144号に対応するもので、1993年7月28日に出願されており、また該出願はこの明細書の中に参考として組み込まれている。この出願においては、ガイドリンクの変形量が内側リンクの変形量と等しくなっている。言い換えれば、チェーンに荷重が作用したとき、ガイドリンクの伸びが内側リンクの伸びとほとんど同じになっている。変形量を等しくするために、ガイドリンクには、中央の開孔や、曲面部を有するスリット、あるいは二つの傾斜したスリットが設けられている。
【0023】
これらの解決策は、内側リンクへの荷重が内側リンクの降伏荷重よりも小さい間は、満足のいくものである。他方、プリストレス運転中におけるように、内側リンクへの荷重が内側リンクの降伏荷重よりも大きい場合には、ガイドリンクは弾性変形に留まるが、内側リンクは塑性変形する。この場合、内側リンクは「新しい」ピッチになるのに対して、ガイドリンクは、単に弾性変形しただけなので、元のピッチに戻る。ピッチにおけるこの違いは、枢支部材の残留曲げや、チェーンの疲労強度の低下につながる。
【0024】
これらの問題の一つの解決策は、内側リンクの元のピッチよりも長いピッチのガイドリンクを形成することである。これにより、内側リンクが塑性変形したとき、その「新しい」ピッチが、弾性変形しただけのガイドリンクの元のピッチと実質的に等しくなる。
【0025】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたもので、内側リンクの降伏荷重よりも小さい、好ましくは約半分以下である降伏荷重を有する、サイレントチェーンに使用するための改良されたガイドリンクを提供することによって、これらの問題を解決することを目的とする。この方法では、ガイドリンクは内側リンクと同時に塑性変形するので、内側リンクとガイドリンクの「新しい」ピッチが実質的に等しくなる。内側リンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重のガイドリンクを得るためには、形状、厚み、硬度の特徴の一つあるいはそれ以上、または全てが変更されなければならない。
【0026】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明に係るサイレントチェーンは、複数のチェーンリンクを有するサイレントチェーンにおいて、各チェーンリンクが、二つのガイドリンクと、複数の内側リンクと、ガイドリンクを連結する枢支部材とを備えるとともに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、間隔をあけて配置された一対の開孔と、間隔をあけて配置された一対のつま先部とを有し、該各つま先部が、開孔を囲むとともに、外側フランク面および内側フランク面を有し、内側フランク面は、その基部が開孔最上部の下方まで垂れ下がっている丸いクロッチ部で結合されており、内側リンクの少なくとも一部がガイドリンク間に配置されるとともに、内側リンクの各々が、間隔をあけて配置された一対の開孔と、ある厚みおよび硬度とをそれぞれ有しており、一つの枢支部材が、各ガイドリンクの対向する開孔内で支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通しており、各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するとともに、かつクロッチ部の基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0027】
請求項2の発明に係るサイレントチェーンは、請求項1において、内側リンクが内側リンクのガイド列および内側リンクのノンガイド列を構成するように組み合わされ、ガイド列内側リンクの開孔がガイドリンクの開孔と一直線上に揃えられていることを特徴としている。
【0028】
請求項3の発明に係るサイレントチェーンは、請求項1において、ガイドリンクが変形するときには、ガイドリンクの端部に最小量の変形を伴いつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形がクロッチ部近傍の領域で発生することを特徴としている。
【0029】
請求項4の発明に係るガイドリンクは、リンクの組立体および枢支部材から構成されるサイレントチェーンとともに用いられる側部ガイドリンクであって、該チェーンは、隣り合う組が交互に組み合わされた内側リンクの組が差し込まれる複数組の側部ガイドリンクを有し、該各リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有し、一つのリンクの組の一組の開孔は、隣接するリンクの組の一組の開孔と横方向に整列して配置されており、各ガイドリンクは、底部と、間隔をあけて配置されかつ上方に延びる一対のつま先部とを備え、前記つま先部は、開孔を囲むとともに、外側フランク面と、丸いクロッチ部で連結された内側フランク面とを有しており、ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも降伏荷重を有するように、内側リンクの厚みより薄いある厚みと、内側リンクの硬度より低いある硬度とを有し、かつクロッチ部の基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0030】
請求項5の発明に係るサイレントチェーンの製造方法は、実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有しているサイレントチェーンの製造方法であって、無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、第1のガイドリンクピッチと異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチと異なる第2の内側リンクピッチ(第2のガイドリンクピッチと実質的に等しい)とが得られるように、ガイドリンクの降伏荷重よりも大きな荷重でチェーンにプリストレスをかけることとを備えており、前記チェーンリンクは、間隔を隔てて配置されかつ第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を備えた複数の側部ガイドリンクと、少なくともその一部がガイドリンク間に配置され、間隔を隔てて配置されかつ第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔をそれぞれ有する複数の内側リンクと、そのうちの一つが各ガイドリンクの対向する開孔内で支持され、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通するとともに、各々内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しているガイドリンクを連結する枢支部材とを含んでおり、さらに、ガイドリンクの各々が、ある厚みおよび硬度を有するとともに、開孔を囲みかつ外側フランク面および内側フランク面を備える、間隔を隔てた一対のつま先部を有しており、ガイドリンクが内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するように、ガイドリンクの厚みが内側リンクの厚みよりも薄く、かつガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも低いような、ある厚みおよび硬度を内側リンクの各々が有するとともに、ガイドリンクのクロッチ部基部が開孔の水平方向中心線の下方まで延びていることを特徴としている。
【0031】
【作用】
本発明は、複数のチェーンリンクを備えた無端状のサイレントチェーンに使用されるガイドリンクに関する。一実施態様においては、各チェーンリンクが、複数の内側リンクに差し込まれた二つのガイドリンクと、ガイドリンクを接続する二つの枢支部材とから構成されており、各ガイドリンクは内側リンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有している。各ガイドリンクおよび内側リンクは、間隔をあけて配置された一対の開孔を有している。複数の内側リンクの各々の一部は、ガイドリンク間に配置されている。枢支部材の各々は、各ガイドリンクの対向する各開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔内を挿通している。
【0032】
サイレントチェーンは、負荷ブロック部材を含む可変プーリトランスミッションに使用される形式であってもよい。チェーンは、ブロック配列であってもよいし、または交互に組み合わされた配列であってもよい。各内側リンクは同一でもよいし、その形状や構造の一つまたはそれ以上の点で異なっていてもよい。たとえばリンクは以下の点で異なっていてもよい。すなわち、外形、フランク形状、ピッチ、向き(非対称リンクに関して)、スプロケット歯との駆動噛合いの形式、およびつま先部の数(つまり、一組につま先部一つか二つか)である。
【0033】
枢支部材は単一ピンであってもよく、また単一ピンのロッカージョイント構造であってもよく、さらに、ピンおよびロッカーが設けられるとともに、ピンがガイドリンク開孔内に延びかつピンおよびロッカーが内側リンク開孔を通って延びている典型的なロッカージョイント構造であってもよい。
【0034】
ガイドリンクは内側ガイドリンクであってもよい。この内側ガイドリンクにおいては、間隔を隔てた開孔を有する複数の駆動リンクの側部に配置され、間隔を隔てた開孔を有する単一ガイドリンクと、ガイドリンクに設けられ、間隔を隔てた開孔を挿通する二つの枢支部材と、駆動リンク内の少なくとも一つの開孔とから各チェーンリンクが構成されている。ガイドリンクは、駆動リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有している。ガイドリンクが内側リンクの側部に配置されたチェーンの該内側リンクと同一の形状を駆動リンクが有していることが分かるだろう。したがって、内側ガイドリンクチェーンにおける駆動リンクはまた、内側リンクと呼ばれる。
【0035】
好ましい実施態様では、ガイドリンクは、底部と、上方に延びる一対のつま先部によって囲まれ、間隔を隔てた一対の開孔とを備えた形状を有している。つま先部は、内側リンク面と、該内側フランク面が丸いクロッチ部で連結された外側フランク面とによって形成されている。クロッチ部の基部は、開孔の少なくとも頂上部下方まで延びている。またガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも小さい降伏荷重を有するように、内側リンクよりも厚みが薄くかつ硬度が低くなっている。
【0036】
本発明のある特定の実施態様においては、サイレントチェーンに使用されるガイドリンクが、凹面状の底部と、間隔をあけて配置された一対の開孔と、開孔を囲み、外側フランク面および内側フランク面を有するとともに、丸いクロッチ部で接続された一対のつま先部とを備えている。クロッチ部の基部は、ガイドリンクが他のリンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有するように、開孔の水平方向中心線の下方まで垂れ下がっている。
【0037】
他の実施態様においては、ガイドリンクがまた内側フランク面の厚みよりも薄い厚みを有している。また他の実施態様においては、ガイドリンクが他のリンクの硬度よりも低い硬度を有している。この実施態様では好ましくは、ガイドリンクの硬度は内側リンクの硬度よりも少なくとも8単位分低くなっている。より好ましくは、ガイドリンクは、他のリンクよりも硬度が低くかつ厚みも薄くなっている。
【0038】
他の実施態様では、サイレントチェーンには複数のチェーンリンクが設けられており、各チェーンリンクは、複数のガイドリンクと、複数の内側リンクと、枢支部材とから構成されている。ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも小さな降伏荷重を有している。ガイドリンクはまた、間隔をあけて配置された一対の開孔を有しており、該開孔は、プリストレス運転後の内側リンクのピッチに実質的に等しいガイドリンクのピッチを定めている。内側リンクの各々は、間隔をあけて配置されかつ内側リンクのピッチを定める一対の開孔を有しており、内側リンクの少なくとも一部はガイドリンク間に配置されている。枢支部材はガイドリンクを連結しており、一方の枢支部材は、各ガイドリンクの対向する開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通している。
【0039】
本発明はまた、実質的に全てのリンクがプリストレス運転後に実質的に同一のピッチになるようなサイレントチェーンの製造方法を含んでいる。この方法は以下の工程を含んでいる。すなわち、複数の内側リンクと、該内側リンクの降伏強度よりも低い降伏強度のガイドリンクとを用意すること、ガイドリンク間に配置された内側リンクの少なくとも一部をチェーンリンクが含むように、内側リンクおよびガイドリンクを連結して無端状のチェーンを形成すること、チェーンにプリストレスをかけることである。
【0040】
ガイドリンクの各々は、間隔をあけて配置された、第1のガイドリンクピッチを定める一対の開孔を有しており、内側リンクの各々は、間隔をあけて配置された、第1の内側リンクピッチを定める一対の開孔を有している。二つの枢支部材は側部ガイドリンクを連結しており、各枢支部材は各ガイドリンクの対向する開孔内に受け入れられ、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通している。チェーンには、内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプリストレスがかけられ、これにより、第1のガイドリンクピッチとは異なる第2のガイドリンクピッチと、第1の内側リンクピッチとは異なる第2の内側リンクピッチとが得られ、また第2のガイドリンクピッチは、実質的に全ての内側リンクのピッチと実質的に同一である。
【0041】
クレーム内においても同様に、前述したおよび以下の記述で使用される「硬度」という語は、ロックウエル硬度のCスケールを意味している。クレーム内においても同様に、前述したおよび以下の記述で使用される「降伏荷重」という語は、塑性変形が起こりはじめる引張荷重を意味している。
【0042】
【実施例】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は、一般に、本発明のガイドリンク20(図2)を利用したサイレントチェーン10,駆動スプロケット12,および従動スプロケット14からなる動力伝達用チェーンおよびスプロケット組立体の一部を示している。スプロケットは、たとえばエンジンのクランクシャフトやカムシャフトのような軸に取り付けられている。スプロケットは直径が異なっており、異なった形状の異なった数の歯を有している。
【0043】
チェーン10は、組または列を形成するように並んで配置された複数のチェーンリンクから構成されている。図1の実施態様では、チェーンは、図2および図3に最もよく示されているように、ノンガイドリンク列18に組み合わされたガイドリンク列16を含んでいる。
【0044】
ガイドリンク列は、ガイドリンク20と、図1の実施態様では内側リンク50とからなり、ノンガイドリンク列は内側リンク50からなる。各内側リンクは同一である。たとえば、すべてのリンクは図7または図8に図示されるような形状を有している。あるいは、たとえば内側リンクの幾つかが図7に示す形状を有し、他の内側リンクが図8に示す形状を有するように、内側リンクが異なる形状を有していてもよい。もちろん、内側リンクが二つ以上の異なる形状を有していてもよい。本発明のガイドリンク20は図4および図6により明確に示されている。
【0045】
他の実施態様では、図13および図14に最もよく示されるように、内側リンクの組がブロック状に配列されており、ガイドリンク列16が内側リンクを含んでいない。また他の実施態様では、図15に最もよく示されるように、内側リンクが好ましくは、可変プーリトランスミッションに有用な負荷ブロック92を支持するように配置されている。なお、内側リンクはブロック状に配列されていてもよい。
【0046】
隣接するリンクの組が、内側リンクおよびガイドリンクに設けられた開孔内に支持される枢支部材80によって連結されている。ガイドリンクが内側リンクの側部に配置される場合には、ガイドリンクは枢支部材に溶接されるかまたは密に圧入される。枢支部材は、内側リンクおよびガイドリンクの開孔を通って延びている丸い形状のピンまたは適切な形状であればどんな形状でもよいピンである。
【0047】
枢支部材はまたロッカージョイントからなり、該ロッカージョイントはピンおよびロッカーを含んでいる。ピンおよびロッカーを含むロッカージョイントの例は、米国特許第4,010,656号および米国特許第4,507,106号に示されており、これらの特許は参考としてこの明細書の中に組み込まれている。
【0048】
ロッカージョイントはまた、単一ピンおよびこれに関係するリンク開孔から形成されていてもよい。このようなロッカージョイントの例は、米国特許第5,192,253号、米国特許出願第07/961,077号および米国特許出願第08/196,598号(単一ピンのロッカージョイントという名称の弁護士事件整理番号92051;本発明と同一の譲受人に譲渡され、本件出願とともに出願されている)に示されており、これらは全て本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0049】
サイレントチェーンの実施態様においては、ガイドリンクは、スプロケット上におけるチェーンの横方向の整列状態を維持している。ガイドリンクは、チェーンの外側すなわち内側リンクの側部に沿って配置されており、スプロケット歯とは何ら駆動噛合いを行わない。ガイドリンクはしたがって、スプロケット歯が接触する部材を有しないことによって、内側リンクとは区別される。サイレントチェーンの一例は米国特許第4,342,560号の中に見出され、該特許はこの明細書の中に参考として組み込まれている。エンジンのタイミング用に使用され得るサイレントチェーンの一例は、米国特許第4,759,740号の中に見出され、該特許もまた本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0050】
本発明のガイドリンクはまた、内側ガイドリンクとして使用してもよいが、この場合、スプロケットには内側リンクを受け入れるための溝が形成される。側部ガイドリンクと同様に、内側ガイドリンクは、スプロケット歯と接触する部材を有していない。本発明のガイドリンクが使用されるチェーンリンク構造の一例は米国特許第2,602,344号の中に見出され、該特許は本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0051】
可変プーリトランスミッションの実施態様では、チェーンは、一対の可変プーリ間で動力を伝達するために用いられる。ガイドリンクは一般に、内側リンクの側部に位置するチェーンリンクの外側に設けられている。内側リンクは、通常一緒に組み合わされた組で与えられている。リンクは、枢支部材の受入れのための整列された開孔を有している。枢支部材は、駆動噛合い時にシーブが枢支部材の端部に直接接触できるようにすることにより、チェーンおよびプーリシーブ間での動力伝達の方法を提供できる。
【0052】
間隔を隔てた枢支部材間でチェーン上に配置された負荷ブロック部材90つまり荷重伝達部材もまた、プーリ間での動力伝達の方法を提供することができる。負荷ブロックは、リンク下方の通路内で運搬されるストラットの形態をとることができる。あるいは負荷ブロックは、チェーンのリンクの回りに延びるとともに、チェーンリンク受入れのための一つまたはそれ以上の窓部を有することができる。負荷ブロックは、プーリおよびチェーン間で駆動噛合いをするようにプーリのシーブ面と係合する、一般にテーパ状の外側面または端面を有している。
【0053】
可変プーリトランスミッションに使用するのに適した動力伝達用チェーンの例は、米国特許第4,507,106号、米国特許第4,911,682号および米国特許第5,007,883号に示されており、これらの特許はすべて本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0054】
図2ないし図8について詳細に説明すると、これらの図には、本発明のガイドリンクを備えたサイレントチェーンが示されている。図2および図3は、交互配列構造を有するチェーンを図示しており、この構造では、ガイドリンク列16が、側部ガイドリンク20と、差し込まれた内側ガイド列リンク50とを含んでおり、ノンガイドリンク列18が内側ノンガイド列リンク50を含んでいる。チェーンリンクは、二つの対向するガイドリンク間に配置された組または列とみなすことができる。
【0055】
したがって、チェーンリンクは、対向配置された一対のガイドリンク20と、少なくともその一部がガイドリンク間に配置された複数の内側リンク50と、ガイドリンクを連結するとともに内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通する枢支部材80とを有している。
【0056】
内側リンク50は、図7および図8により詳細に図示されており、これらの図において同一数字は同一部分を表している。内側リンク50は、頂上部52と、間隔をあけて配置されかつ垂れ下がった一対のつま先部58,60によってそれぞれ囲まれた一対の開孔54,56とを有している。つま先部は、内側フランク面62,64と、該内側フランク面がクロッチ部70で連結された外側フランク面66,68とによって形成されている。端部72,74は、開孔と外側フランク面との間の領域で形成されている。
【0057】
図7および図8は、ピンおよびロッカーを有するロッカージョイントが使用されたチェーンに用いられる内側リンク50を図示している。図7および図8の内側リンクは一つのチェーン内に混合して用いることができ、あるいは、たとえば図7に示すような単一の内側リンク形状を用いることができるということは、当業者には理解されるだろう。
【0058】
内側リンクはまた、米国特許出願第07/885,194号において教示されるように設計することも可能であり、該特許は本明細書の中に参考として組み込まれている。この出願においては、二つの異なった形状のリンクの組、つまり第2の組のリンクとは異なった第1の組のリンクを使用するばかりでなく、同一のまたは二つのチェーン組立体の中に単一のつま先部を有するリンクおよび二つのつま先部を有するリンクを使用することにより、内側リンクがチェーン形状をランダム化するように設計されている。二つのリンクの組の各リンクは、外形、フランク形状、内側フランク形状、外側フランク形状、ピッチ、向き(非対称リンクに関して)、スプロケット歯との駆動接触の形式、またはランダム化の他の形式において、異なっていてもよい。
【0059】
本発明によるガイドリンク20の一実施態様は、図4ないし図6により詳細に示されており、とくに図7および図8に図示された内側リンクとともに有用である。ガイドリンク20は、好ましくは凹面状の丸い底部22と、間隔をあけて配置された一対の開孔24,26とを有しており、該開孔は、間隔をあけて対称に配置されかつ上方に延びる一対のつま先部28,30によって囲まれている。つま先部は好ましくは丸く形成されており、複数の円弧状面から構成されている。開孔は、水平方向の中心線21上に設けられるとともに、角度α、好ましくは約4度の傾斜角だけ回転している対称中心線25に関して対称になっている。つま先部は、それぞれ内側フランク面32,34および外側フランク面36,38によって構成されている。つま先部は、クロッチ部40によって内側フランク面32,34において連結されている。
【0060】
クロッチ部40は丸く形成されているのが好ましく、リンクの垂直中心線39上に中心を有する半径41の円弧面によって形成されている。クロッチ部を丸く形成することによって、応力集中が原因で生じる疲労クラックの形成が最小に抑えられる。クロッチ部の基部は、開孔の水平方向中心線21の下方まで延びている。好ましくはクロッチ部の基部は、水平方向中心線21から開孔の最下部までの距離の半分以上下方まで延びている。より好ましくは基部は、水平方向中心線から開孔の最下部までの距離の約85%下方まで延びている。端部44,46は、開孔と外側フランク面との間の領域によって構成されている。ガイドリンク20の降伏荷重は、以下に詳細に説明するように、内側リンク50の降伏荷重より低くなっている方が有利である。
【0061】
より詳細には、図6に最もよく示されるように、ガイドリンク20の底部22は、半径23(一方の角部についてのみ図示)によって形成された丸い角部を介して、外方に傾斜した側部42に接続されている。側部42は、水平線43から外方に少なくとも約45度の角度β、好ましくは約60度傾斜している。側部は、開孔の水平方向中心線21上に中心を有する半径27の円弧を介して、端部44,46において外側フランク面36,38に接続されている。
【0062】
丸いつま先部28,30は、つま先部28についてのみ示された半径27,31,33の接続円弧によって形成されている。円弧27の中心は開孔縁部に位置しており、半径31の中心はその真上にあって、半径27の中心と同じ垂直面内に位置している。半径33の中心は、開孔外側において対称中心線25上にある。
【0063】
一実施態様においては、ガイドリンク20は、図5に最もよく示されるように厚みAを有しており、該厚みは、図7〔B〕に最もよく示される内側リンク50の厚みBより薄くなっている。ガイドリンクは好ましくは、内側リンクの厚みの最低約75%、より好ましくは約80%の厚みを有している。他の実施態様においては、ガイドリンク20はまた、内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している。好ましくはガイドリンクは、内側リンクの硬度よりも少なくとも約5単位分低い硬度を有している。もっとも好ましくはガイドリンクは、内側リンクの厚みよりも薄く、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している。
【0064】
本発明のガイドリンク20は、チェーンリンクが図2および図3に示すように組み合わされているサイレントチェーンの実施態様において有用である。図2および図3に示すチェーンがピンおよびロッカージョイントの枢支部材を用いていることが当業者には理解されるだろう。
【0065】
本発明のガイドリンクはまた、組み合わされた内側リンクと、図9および図10に示されるような単一ピンのロッカージョイント構造とを有するサイレントチェーンに使用される。このサイレントチェーンは、単一ピンのロッカージョイントチェーンという名称の米国特許出願第08/196,598号(弁護士事件整理番号92051)に詳細に記述されており、該特許出願は本明細書の中に参考として組み込まれている。図9に示されたチェーンでは、内側リンクが同一のフランク形状を有している。
【0066】
図10について詳細に説明すると、本発明のガイドリンク120は、底部122と、間隔をあけて配置された一対の開孔124,126とを有しており、該開孔は、間隔をあけて対称に配置されかつ上方に延びる一対のつま先部128,130によって囲まれている。つま先部は好ましくは丸く形成されており、複数の円弧面から構成されている。開孔は、水平方向の中心線121上に設けられるとともに、角度α、好ましくは約3度の傾斜角だけ回転している対称中心線125に関して対称になっている。つま先部は、それぞれ内側フランク面132,134および外側フランク面136,138によって構成されている。つま先部は、クロッチ部140によって内側フランク面132,134において連結されている。
【0067】
クロッチ部140は丸く形成されているのが好ましく、リンクの垂直中心線139上に中心を有する半径141の円弧面によって形成されている。クロッチ部を丸く形成することによって、応力集中が原因で生じる疲労クラックの形成が最小に抑えられている。クロッチ部の基部は、開孔頂上部の下方まで延びている。端部144,146は、開孔と外側フランク面との間の領域によって構成されている。ガイドリンク120の降伏荷重は、以下により詳細に説明するように、内側リンク50の降伏荷重より低くなっている方が有利である。
【0068】
底部122は、一方の角部についてのみ図示した半径123によって形成される丸い角部を介して、側部142に接続される実質的に平坦な部分を有している。側部は、開孔内に中心を有する半径127の円弧を介して、端部144,146で外側フランク面136,138に接続されている。丸いつま先部128,130は、つま先部128についてのみ示した半径131,133の接続円弧によって形成されている。
【0069】
ガイドリンク120は、内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有しているのが好ましい。ガイドリンクは好ましくは、内側リンクの厚みの最低約75%、より好ましくは約80%の厚みを有している。ガイドリンク120は、内側リンクの硬度よりも低い硬度を有しているのが好ましい。より好ましくはガイドリンクは、内側リンクの硬度よりも少なくとも約5単位分低い硬度を有している。最も好ましくはガイドリンクは、内側リンクの厚みよりも薄く、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している。
【0070】
本発明のガイドリンクはまた、組み合わされた内側リンクと、単一ピンのロッカージョイント構造とを有するチェーンに使用される。そして、このチェーンでは、少なくとも幾つかの内側リンクが図11および図12に示す他の内側リンクとは異なった形状を有し、またこのチェーンは、単一ピンのロッカージョイントチェーンという名称の米国特許出願第08/196,598号(弁護士事件整理番号92051)の中で詳細に記述されており、該特許出願は本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0071】
図12について詳細に説明すると、本発明のガイドリンク220は、底部222と、間隔をあけて配置された一対の開孔226,226とを含んでおり、該開孔は、間隔をあけて対称に配置されかつ上方に延びる一対のつま先部228,230によって囲まれている。つま先部は好ましくは丸く形成されており、複数の円弧面から構成されている。開孔は、水平方向の中心線221上に設けられるとともに、角度α、好ましくは約3度の傾斜角だけ回転している対称中心線225に関して対称になっている。つま先部は、それぞれ内側フランク面232,234および外側フランク面236,238によって構成されている。つま先部は、クロッチ部240によって内側フランク面232,234において連結されている。
【0072】
クロッチ部240は好ましくは丸く形成され、複数の円弧面によって構成されている。一つの円弧面は、リンクの垂直方向の中心線239上において、水平方向のピッチラインより上方で対称中心線より下方に中心を有する半径241の円弧から形成されている。他の円弧面は、水平方向のピッチラインより下方に中心を有する円弧から形成されている。クロッチ部を丸く形成することによって、応力集中が原因で生じる疲労クラックの形成が最小に抑えられている。
【0073】
クロッチ部の基部は、開孔の水平方向中心線221の下方まで延びている。好ましくは、クロッチ部の基部は開孔の最下部まで延びている。より好ましくは、基部は開孔の最下部の下方まで延びている。端部244,246は、開孔と外側フランク面との間の領域によって構成されている。ガイドリンク220の降伏荷重は、以下に詳細に説明するように、内側リンクの降伏荷重より低くなっている方が有利である。
【0074】
底部222は凹面状になっており、垂直方向のリンク中心線239上においてリンク下方に中心を有する円弧によって形成されている。底部は、一方の角部についてのみ示した半径223によって形成される丸い角部を介して側部242に接続されている。側部242は、水平線243から少なくとも約45度の角度β、好ましくは約60度外方に傾斜している。側部は、開孔内に中心を有する半径227の円弧を介して、端部244,246で外側フランク面236,238に接続されている。
【0075】
丸いつま先部228,230は、つま先部228についてのみ示す半径231,233の接続円弧によって形成されている。半径231の中心は開孔内に配置されており、半径233の中心は水平ピッチライン上において端部から離れた位置に配置されている。
【0076】
ガイドリンク220の厚みは内側リンクの厚みよりも薄い方が好ましい。好ましくはガイドリンクは、内側リンクの厚みの最低約75%、より好ましくは約80%の厚みを有している。ガイドリンク220もまた内側リンクの硬度より低い硬度を有している方が好ましい。より好ましくはガイドリンクは、内側リンクの硬度よりも少なくとも約5単位分低い硬度を有している。もっとも好ましくはガイドリンクは、内側リンクの厚みより薄くかつ内側リンクの硬度より低い硬度を有している。
【0077】
本発明のガイドリンクもまた、チェーンリンクおよびこれに関連するスプロケットが位相調整されまたはランダム化されているサイレントチェーン駆動装置の実施態様において用いることができる。たとえば米国特許出願第07/885,194号は、本明細書の中に参考として組み込まれているものであるが、一対のランダムチェーン組立体またはハイブリッドチェーン組立体と一対のスプロケットとの間の位相調整された関係を提供することを示している。
【0078】
位相調整は、チェーン構造やスプロケット構造の変更、およびチェーン組立体とスプロケットとの配置関係の変更を含んでいる。スプロケットの変更は、他の種々のピッチ量ばかりでなく1/2歯または1/2ピッチだけ位相調整された分割スプロケットの使用を含んでいる。スプロケット歯のランダム化は、たとえば間隔の変更、歯の除去や削除のように、どんな方法によってもよい。チェーン構造の変更は、二つの異なった形状のリンクの組を使用する、つまり第2の組のリンクと異なる第1の組のリンクを使用することによるばかりでなく、単一のつま先部および二つのつま先部を有するリンクを同一のチェーン組立体または二つのチェーン組立体の中に使用することによるチェーン形状のランダム化を含んでいる。
【0079】
二つのリンクの組のリンクは、外形、フランク形状、内側フランク形状、外側フランク形状、ピッチ、向き(非対称のリンクに関して)、スプロケット歯との駆動噛合いの形式、またはランダム化の他の形式において、異なっていてもよい。
【0080】
また本発明のガイドリンクは、図13および図14に最もよく示されるように、チェーンリンクがブロック配列されたものに使用される。この場合には、ガイドリンク列16は、図4,図10あるいは図12に図示された形状、または本発明の原理に従った形状のいずれかを有するガイドリンク320を有しており、内側リンクがない点に特徴がある。本発明のガイドリンクはまた、本明細書の中に参考として組み込まれている米国特許第2,602,344号に示されるように、駆動リンクが内側リンクの側面に位置するような内側リンクとして用いることもできる。
【0081】
ガイドリンクはまた、可変プーリトランスミッションに使用されるチェーンとともに用いるようにしてもよい。単一ピンのロッカージョイントを使用するこのようなチェーンの一部の例が図15に示されるとともに、1992年10月14日に出願された米国特許出願第07/961,077号に詳細に記述されており、該特許は本明細書の中に参考として組み込まれている。
【0082】
図15についてさらに詳細に説明すると、チェーンは、ガイドリンク420を有するガイドリンク列16と、ノンガイドリンク列18において内側リンクに組み合わされた内側リンク90とを含んでいる。このようなチェーンでは、内側リンク90は垂れ下がったつま先部を有していない。内側リンク90は、負荷ブロック92を支持するために、好ましくはブロック配列にされていない。その一方、内側リンク90がブロック配列されていてもよい。
【0083】
上述のように、ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重よりも低い。好ましくは、ガイドリンクの降伏荷重は内側リンクの降伏荷重の約半分である。この結果、ガイドリンクは内側リンクよりも低い荷重で塑性変形する。したがって、ガイドリンクの初期ピッチは、該初期ピッチよりも大きく実質的に内側リンクのピッチに等しい第2のピッチに変更することができる。
【0084】
図16は、本発明の内側リンクおよびガイドリンクについての応力-ひずみ曲線を示している。この図は、本発明の一例を示そうとしたものであり、本発明のすべての実施態様を図示しようとするものではない。内側リンクが塑性変形する荷重よりも低い荷重でガイドリンクが塑性変形することが図16から分かるだろう。このように、内側リンクが塑性変形するときにはガイドリンクもまた塑性変形することになる。これにより、複数のチェーンリンクを有する動力伝達用チェーンを製作することができる。
【0085】
また、この動力伝達用チェーンを、間隔を隔てて配置されかつガイドリンクピッチ長を定める一対の開孔を備えた複数のガイドリンクから各々が構成される複数のチェーンリンクと、少なくともその一部がガイドリンク間に配置されるとともに、間隔を隔てて配置されかつ内側リンクピッチ長を定める一対の開孔を各々が有する複数の内側リンクと、ガイドリンクを連結し、各ガイドリンクの対向する開孔内に支持されるとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通する枢支部材とから構成することができる。さらに、この動力伝達用チェーンにおいて、各ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有しており、ガイドリンクのピッチ長は、プリストレス運転後の内側リンクのピッチ長と実質的に等しくなっている。
【0086】
内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有するガイドリンクを提供するために、ガイドリンクを上述のように設計することができる。このようにして、ガイドリンクが荷重を受ける場合には、ガイドリンク端部に最小量の変形が生じつつ、ガイドリンクの実質的にすべての変形が、クロッチ部に隣接する領域で発生することになる。あるいは、また好ましくはガイドリンクの形状に関連して、ガイドリンクの厚みを内側リンクの厚みより薄くしてもよい。好ましくはガイドリンクの厚みは、内側リンクの厚みの最低約75%、好ましくは約80%である。また、ガイドリンクが上述のような形状を有し、かつ内側リンクの厚みよりも薄い厚みを有している方がより好ましい。
【0087】
あるいは、ガイドリンクの降伏荷重が内側リンクの降伏荷重よりも小さくするために、内側リンクの硬度よりも低い硬度を有するようにガイドリンクを設計することができる。ガイドリンクは、内側リンクの硬度よりも少なくとも約5単位分低い硬度を有している。好ましくはガイドリンクは、内側リンクの硬度よりも約8単位分低い硬度を有している。また、ガイドリンクが上述のような形状を有し、かつ内側リンクの硬度よりも低い硬度を有している方がより好ましい。
【0088】
最も好ましい実施態様に従うと、ガイドリンクが上述のような形状を有するとともに、内側リンクの厚みより薄く、かつ内側リンクの硬度より低くなっている。この最も好ましい実施態様では、厚みは内側リンクの厚みの約80%であり、硬度は内側リンクの硬度より約8単位分低くなっている。
【0089】
本発明はまた、実質的にすべてのリンクが実質的に同一のピッチ長を有している動力伝達用チェーンを製作する方法をも意図している。この方法は、無端状のチェーンを形成するように複数のチェーンリンクを連結することと、チェーンにプリストレスをかけることとを含んでいる。
【0090】
チェーンリンクは、複数のガイドリンクと、複数の内側リンクと、ガイドリンクおよび内側リンクを連結する枢支部材とから構成されている。ガイドリンクは、第1のガイドリンクピッチ長(開孔500,502の平坦面のピッチラインまたは水平中心線との各交叉点間の距離)を定める、間隔をあけて配置された一対の開孔を有している。内側リンクの少なくとも一部はガイドリンク間に配置されるとともに、間隔をあけて配置されかつ第1の内側リンクピッチ長(図7のピン・アンド・ロッカーのリンクについて点506,506で示される開孔内側の垂直方向の各接点間の距離)を定める一対の開孔を有している。
【0091】
ガイドリンクが内側リンクの側部に位置している一実施態様においては、枢支部材が、対向するガイドリンクを連結するとともに、各内側リンクの少なくとも一つの開孔を挿通している。ガイドリンクは、内側リンクの降伏荷重よりも低い降伏荷重を有している。
【0092】
チェーンが組み立てられた後、ガイドリンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプリストレスがかけられ、これにより、第1のガイドリンクピッチ長と異なりかつ各内側リンクのピッチ長と実質的に等しい第2のガイドリンクピッチ長が得られることになる。好ましくは、内側リンクおよびガイドリンクがともに塑性変形するように、チェーンには内側リンクの降伏荷重よりも大きな荷重でプレストレスがかけられる。このようにして、内側リンクもガイドリンクも、それぞれ元のピッチ長つまり第1のピッチ長と実質的に同一かまたはそれ以上の「新しい」ピッチ長つまり第2のピッチ長を得ることになる。
【0093】
チェーンの実質的にすべてのチェーンリンクに、このプリストレス運転後において実質的に同一のピッチ長を与えることによって、枢支部材が互いに実質的に平行になり、枢支部材の残留曲げ応力が減少することが分かるだろう。本発明のガイドリンクを使用することによって、枢支部材が実質的に平行に保たれ、これによって、ガイドリンク近傍のピン破損の発生が最小限に抑えられる。このことによりまた、チェーン全体の引張応力が上昇することになる。好ましくはチェーンには、チェーンの極限の引張応力の約65%までプリストレスがかけられる。チェーンにプリストレスをかけることによって、結果的に疲労寿命が上昇する。
【0094】
図17ないし図19は、プリストレスがかけられたチェーンリンクにおける各リンクのピッチ長伸びの度合いを図示している。ピッチ長伸びの度合いは、各リンクの元のピッチ長と、プリストレス運転により生じる「新しい」ピッチ長との間の差から決定される。
【0095】
図17についてもっと詳細に説明すると、ガイドリンクが従来のガイドリンク(つまり内側リンクの硬度より約5単位分硬度が低い)とほぼ同じ硬度を有している場合、引張強度の65%の荷重では伸びなかった。このため、チェーンは、ガイドリンク近傍で残留曲げ応力を受ける枢支部材を備えたチェーンリンクを含んでいる。しかしながら、ガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度よりも約8単位分低い場合には、チェーンリンクにおける各リンクのピッチ長伸びの度合いは、図18に最もよく示されるように、ほぼ均等に近くなっている。この結果、枢支部材への残留曲げ応力が減少することになる。
【0096】
図19は、ガイドリンクの硬度が内側リンクの硬度より約11単位分低い場合において、チェーンリンクの各リンクのピッチ長伸びの度合いを図示している。図18のチェーンリンクと同様に、ピッチ長伸びの度合いは、とくに図17のチェーンリンクと比較すると、ほぼ均等に近くなっている。
【0097】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、各リンクのピッチ長伸びの度合いを均等にでき、枢支部材への残留曲げ応力を減少することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
チェーン,駆動スプロケット,および該チェーンとともに組み立てられた関係にある従動スプロケットを示す駆動用チェーンの斜視図であり、該チェーンは、枢支部材によって連結され組み合わされた複数の組または列の内側リンクから構成されるとともに、チェーンの長さ方向にわたって他の内側リンクの外側端部に配置された本発明のガイドリンクを含んでいる。
【図2】
図1のチェーンの斜視部分図であり、本発明のガイドリンクを含んでいる。
【図3】
図2のチェーンの平面部分図である。
【図4】
本発明のガイドリンクのためのリンク形状の正面図である。
【図5】
図4のリンクの側面(端面)図である。
【図6】
図4のリンクの拡大図である。
【図7】
〔A〕は図1のチェーンの内側リンクのためのリンク形状の正面図、〔B〕は該リンクの側面(端面)図である。
【図8】
図1のチェーンの内側リンクのための他のリンク形状の正面図である。
【図9】
組み合わされた内側リンクを有し、かつ本発明のガイドリンクを含むチェーンの斜視部分図である。
【図10】
とくに図9のチェーンとともに用いられる本発明によるガイドリンクのリンク形状の他の実施態様を示す正面図である。
【図11】
一つ以上の形状を備えかつ組み合わされた内側リンクを有し、本発明のガイドリンクを含むチェーンの斜視部分図である。
【図12】
とくに図11のチェーンとともに用いられる本発明によるガイドリンクのリンク形状の他の実施態様を示す正面図である。
【図13】
本発明のガイドリンクを含む、ブロック配列構造のチェーンの斜視部分図である。
【図14】
図13のチェーンの平面部分図である。
【図15】
負荷ブロック部材および本発明のガイドリンクを含み、かつ可変プーリトランスミッションに使用されるチェーンの斜視部分図である。
【図16】
図1,図9,図11,図13のチェーンに使用される内側リンクおよび本発明のガイドリンクについての荷重-伸び曲線のグラフである。
【図17】
内側リンクの硬度よりも約5単位分低い硬度を有する本発明のガイドリンクを使用した図11のチェーンにおいて、プリストレス時に引張強度の65%の力が作用した場合のチェーンリンクの各リンクについてのピッチ伸びの度合いを示すグラフである。
【図18】
内側リンクの硬度よりも約8単位分低い硬度を有する本発明のガイドリンクを使用した図11のチェーンにおいて、プリストレス時に引張強度の65%の力が作用した場合のチェーンリンクの各リンクについてのピッチ伸びの度合いを示すグラフである。
【図19】
内側リンクの硬度よりも約11単位分低い硬度を有する本発明のガイドリンクを使用した図11のチェーンにおいて、プリストレス時に引張強度の65%の力が作用した場合のチェーンリンクの各リンクについてのピッチ伸びの度合いを示すグラフである。
【符号の説明】
10 サイレントチェーン
20 ガイドリンク
24,26 開孔
28,30 つま先部
32,34 内側リンク
36,38 外側フランク面
40 クロッチ部
44,46 端部
50 内側リンク
54,56 開孔
80 枢支部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-05-13 
結審通知日 2003-05-16 
審決日 2003-06-24 
出願番号 特願平7-50620
審決分類 P 1 41・ 813- Y (F16G)
P 1 41・ 811- Y (F16G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤井 俊明  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 常盤 務
町田 隆志
船越 巧子
前田 幸雄
登録日 1997-04-25 
登録番号 特許第2632656号(P2632656)
発明の名称 サイレントチェーン,ガイドリンクおよびサイレントチェーンの製造方法  
代理人 高崎 健一  
代理人 高崎 健一  

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