• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1082988
異議申立番号 異議2002-71662  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-05 
確定日 2003-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3246978号「抗原または抗体測定用試薬の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3246978号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I. 手続の経緯
本件特許第3246978号の請求項1に係る発明の出願は、平成5年6月24日に出願され、平成13年11月2日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、申立人総山英一および申立人吉倉幸子により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年12月6日に訂正請求(後日取り下げ)がなされた後、再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年3月25日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求の適否の検討
平成15年3月25日付け訂正請求書による訂正請求(以下、本件訂正請求という)の適否について以下検討する。
(1) 訂正事項
本件訂正は、つぎの訂正事項からなる。(なお、丸数字はカッコ付き数字に書き換えてある。)
<訂正事項a>
特許請求の範囲の請求項1において、「不溶性担体が分散された懸濁液中で」とあるのを、「凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で」と訂正する。
<訂正事項b>
特許請求の範囲の請求項1において、「不溶性担体に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を接触させる抗原または抗体測定用試薬の製造方法」とあるのを、「不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する抗原または抗体測定用試薬の製造方法」と訂正する。
<訂正事項c>
明細書の段落【0013】の第1〜3行の記載:「本発明においては、上記の抗体または抗原の担持工程に引き続いて、担持された担体を非イオン性または陰イオン性界面活性剤に接触させる。上記の界面活性剤に接触させるまでの時間は」を、「本発明においては、上記の抗体または抗原の担持工程に引き続いて、担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤が添加される。上記の界面活性剤が添加されるまでの時間は」と訂正する。
<訂正事項d>
明細書の段落【0014】の第1〜9行の記載:「本発明において、抗体または抗原が担持された担体と、非イオン性または陰イオン性界面活性剤とを接触させる方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1) 担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体のみを遠心分離や櫨過等の手段によって分離し、分離された担体を界面活性剤を含む緩衝液に懸濁する方法。
(2)担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体を分離せずに、担体を含む溶液に界面活性剤のみ、または界面活性剤を含む緩衝液を添加する方法。」を、
「本発明において、抗体または抗原が担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する方法としては、担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体を分離せずに、担体を含む溶液に界面活性剤のみを加える方法でもよいし、または界面活性剤を含む緩衝液を添加する方法であってもよい。」と訂正する。
<訂正事項e>
明細書の段落【0014】の第10行の記載、「なお、上記(1)および(2)の方法において」を、「なお、上記の方法において」と訂正する。
<訂正事項f>
明細書の段落【0014】の第13行の記載、「(3) 抗体または抗原の担持工程終了後」を、「また、抗体または抗原の担持工程終了後」と訂正する。
<訂正事項g>
明細書の段落【0014】の第18行の記載、「懸濁する方法」を、「懸濁させてもよい」と訂正する。
<訂正事項h>
明細書の段落【0014】の第19行の記載、「上記(3)のように」を、「上記のように」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲における製造方法で得られる不溶性担体を含む抗原または抗体測定用試薬を、凝集を利用した測定法用に限定することを目的とする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであり、上記訂正事項bは、特許請求の範囲に記載された不溶性担体と界面活性剤との接触の仕方を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものである。
また、上記訂正事項c〜hは、上記訂正事項bの特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に伴って、除外された「担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体のみを遠心分離や櫨過等の手段によって分離し.分離された担体を界面活性剤を含む緩衝液に懸濁する方法。」を削除することを含め、不溶性担体と界面活性剤との接触の仕方についての発明の詳細な説明の記載箇所を対応した内容の記載に整合させるために訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当するものである。
そして、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。

(3)訂正事項の検討結果
したがって、上記訂正は、特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の同法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、本件訂正請求を認める。

III.特許異議申立について
1.本件発明
本件特許の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】 凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で、該不溶性担体に抗体または抗原を担持させた後、上記抗体または抗原が担持された不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する抗原または抗体測定用試薬の製造方法であって、上記界面活性剤の上記試薬中の濃度が0.005〜lmg/mlであることを特徴とする抗原または抗体測定用試薬の製造方法。」

2.取消理由通知の引用刊行物
イ)当審が平成14年10月1日付け取消理由通知において引用した刊行物は次のものである:
刊行物1: 特開昭63-78066号公報(申立人総山英一の甲第1号証)
刊行物2: Ann.Clin.Biochem.,1991,28,407頁〜411頁(申立人吉倉幸子の甲第1号証)
刊行物3: 特開昭57-44854号公報(申立人吉倉幸子の甲第2号証)
刊行物4: 特開昭62-71861号公報(申立人総山英一の参考資料1)

ロ)刊行物1の記載事項
フィブリン分解産物(FDP)の測定法に関する刊行物1には、抗体が担持された凝集可能な不溶性担体からなる測定用試薬が記載されており、その製造の具体例として、「1%ポリスチレンラテックス粒子の懸濁液と上記抗ヒトDダイマー、Dモノマーモノクローナル(DD/D-1)溶液を1:1の容量比で混合した後、25℃で3時間放置することにより感作ポリスチレンラテックス粒子を調製した。ポリスチレンラテックス粒子に吸着されなかった未反応のモノクローナル抗体は遠心分離法(30000×g、30分間)によって除去した。感作ポリスチレンラテックスは遠心分離法(30000×g、30分間)によって上記のトリス緩衝液で2回洗浄した後、0.1%中血清アルブミンおよび0.01%ツィーン20を含むトリス緩衝液に懸濁し1%緩衝液とした。この1%緩衝液をラテックス凝集用試薬とした。」と記載されている(第6頁右下欄第20行〜第7頁左上欄第6行)。

ハ)刊行物2の記載事項
「尿中のビタミンA結合タンパク質のための急速ラテックス増強濁り測定アッセイの開発」と題する論文である刊行物2には、抗体が担持された不溶性担体として、直径40nmの粒子の10%(w/v)懸濁液として供給されたラテックス粒子を使用する測定用試薬が記載されており、その製造の具体例として、「最初に、粒子と抗体とを別々に一晩、PH7.4の15mMリン酸ナトリウム緩衝液を用いて室温下で透析した。それらをカップリング緩衝液(0.5mL/LのGAFAC RE610界面活性剤(ガファック社、イギリス国マンチェスター、ウィゼンショウ)を含有する、PH7.4の15mMリン酸緩衝液)で希釈し、1%(w/v)の粒子溶液、及び適当な抗体濃度を得た。抗体と粒子とを1:1で混合し、振動培養器(インフォース社、イギリス国クルー)を用い、37℃で、一定の振動を与えながら一晩インキユベートした。カップリングした粒子を、Sorvall RC-5B 冷蔵超高速遠心分離機(デュポン(英国)社、イギリス国スティーブネイジ)を用いて、40000gで1時間遠心分離し、pH7.5の50mMグリシン緩衝液により4回洗浄した。次いで粒子を、4℃で0.5mL/L GAFACと1g/Lアジ化ナトリウムを含むpH7.5の500mMグリシン緩衝液中で保存された。この試薬は、pH7.5の5mMグリシン緩衝液中の作用粒子試薬として調製される前に、MSE Soniprep 150(MSE インストルメンツ社,イギリス国、クロウリー)を用いて、23kHzの周波数、22ミクロンの強度設定で、60秒照射を2回行い音波破砕した。」と記載されている(第408頁左欄第7〜21行)。

ニ)刊行物3の記載事項
刊行物3には、凝集反応の担体として特定処理された無機化合物から成る抗体または抗原が担持された担体微粒子と安定剤、および必要に応じて分散剤を水性媒体中に分散含有してなる血清学的検査試薬が記載されている(特許請求の範囲第1項、第2頁右上欄第12行〜左下欄第4行等)。また、分散剤としては、非イオン性界面活性剤が用いられること(第3頁右上欄第5行)、及び分散剤の濃度は、1〜3%がよいこと(第3頁右上欄第16〜19行)、そして分散剤の添加の目的について、「一方、分散剤の添加は必須ではないが、これを添加しない場合、担体の種類および保存期間によつては試薬が沈降してくることもあるので、これを防止する目的で配合する。」と記載されている(第3頁左下欄第11〜14行)。
そして、具体的な製造方法としては、「粒子サイズ0.1〜0.3μmに調製した水酸化チタンの微粒子を食塩含有グリシン塩酸緩衝液(以下GBSと称す)に懸濁し、・・・遠心分離して得た沈殿を緩衝液で充分洗浄する。洗浄後の沈殿をヒト・γ-グロブリン1000μg/mlの濃度のGBS25倍量中に懸濁して25℃で1時間処理した後、一夜4℃下に静置してγ-グロブリンで感作する。遠心分離によって未吸着のヒト・γ-グロブリンを除き、沈殿物をGBSで洗浄した後、粒子濃度2%になるようにして、グリセリン20%、ツイーン20 3%を含むGBSに懸濁することによりリウマチ因子検査試薬を製造した。」と記載されている(第4頁左上欄第3〜17行)。

ホ)刊行物4の記載事項
刊行物4には、特定のHLB値を有する界面活性剤を添加することを特徴とする免疫測定方法と、特定のHLB値を有する界面活性剤を含むことを特徴とする試薬とが記載されており(特許請求の範囲第1項、第13項等)、そのような界面活性剤としては、非イオン性のものが記載されている(第4頁左下欄第8〜14行)。そして、非特異性の相互作用を減少させるために、免疫測定において恒温保持媒体一定の界面活性剤を添加することが従来公知であり、ツウイーン20のような界面活性剤の濃度が0.01%より高い濃度であると、担体材料に結合している成分が分離し、免疫測定にマイナスの影響を与えるという欠点を有していることが記載されている(第4頁左上欄第3〜20行)とともに、「界面活性物質は反応配合物重量に対して0.1〜5%の量で使用する。」(第5頁左上欄第4〜5行)、「界面活性剤を試料溶液自体に添加することはあまり有利ではない。完成した恒温保持溶液中には十分に高い温度が界面活性剤が存在しなければならない。ところが、非常に僅かな量で使用される試料溶液を介して界面活性剤を添加する場合・・・不所望な作用が表れることがある。」(第5頁右上欄第16行〜左下欄4行)と記載され、抗体を担持後のプラスチック小管を界面活性剤で処理し、この小管により抗原-抗体-複合体の脱着を測定した例、および恒温保持緩衝液および/または接合体緩衝液に界面活性剤を添加したものを使用した測定例が記載されている(第5頁右下欄13行〜第8頁)。

3.29条違反について
イ)刊行物1記載の発明との対比、検討
刊行物1に記載された界面活性剤「ツィーン20」は、本件明細書にも記載されている非イオン性界面活性剤であるから、本件発明と刊行物1に記載された試薬の製造方法とを対比すると、両者は、「凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で、該不溶性担体に抗体を担持させた後、上記抗体が担持された不溶性担体が非イオン性界面活性剤と接触させる抗原測定用試薬の製造方法であって、上記界面活性剤の上記試薬中の濃度が0.005〜lmg/mlである抗原測定用試薬の製造方法」である点で一致するが、抗体の担持工程後の界面活性剤との接触を、本願発明が「担持させた後、上記抗体または抗原が担持された不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する」ことで行うのに対し、刊行物1に記載された発明では、担持させた後、不溶性担体に吸着されなかった未反応の抗体の分離と洗浄のために複数回遠心分離処理された不溶性担体を、界面活性剤を含む緩衝液に懸濁することによって接触させている点で相違している。
そうすると、本件発明は刊行物1に記載された発明と同一のものではない。
また、本件発明は、凝集可能な不溶性担体に抗原または抗体の担持工程後の界面活性剤との接触を、「上記抗体または抗原が担持された不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する」ことによって、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造でき、吸光度もしくは散乱光強度の増加率が一定なので、検量線作成のための測定も2回ですむので、本発明の製造方法で得られる試薬は操作が簡便であるとともにコストも安い、という効果を奏するものである(明細書【0032】参照)。
刊行物1には、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集を利用する試薬の製造において、担持工程後に担体のみを分離して界面活性剤を含む緩衝液に懸濁して界面活性剤と接触させることは記載されているが、そのような界面活性剤との接触が、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度にいかなる影響を与えるものであるかは、何ら記載されていないし、分離しないままの担持済み担体の懸濁液に所定濃度で界面活性剤を添加することが、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造できることを、何ら示唆するものでもない。
そうすると、本件発明は、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

ロ)刊行物2記載の発明との対比、検討
刊行物2に記載された試薬の製造において使用されている界面活性剤は、申立人吉倉幸子提出の参考資料を参照すると、エトキシレイト ノニルフェノール フォスフェイト、即ちリン酸基を有する陰イオン性界面活性剤であるから、本件発明と刊行物2に記載された試薬の製造方法とを対比すると、両者は、「凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で、該不溶性担体に抗体を担持させた後、上記抗体が担持された不溶性担体を陰イオン性界面活性剤と接触させる抗原測定用試薬の製造方法であって、上記界面活性剤の上記試薬中の濃度が0.005〜lmg/mlである抗原測定用試薬の製造方法」である点で一致するが、不溶性担体と界面活性剤との接触が、本願発明では「抗体または抗原を担持させた後、上記抗体または抗原が担持された不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する」ことで行うのに対し、刊行物2に記載された発明では、担持する以前から不溶性担体に界面活性剤を接触させ、担持工程においても界面活性剤の存在下に担持させた後、遠心分離し不溶性担体に吸着されなかった未反応の抗体が分離され洗浄された後の不溶性担体を、界面活性剤を含む緩衝液に懸濁することによって、界面活性剤を接触させている点で相違している。
刊行物2に記載された抗体または抗原の担持前の担体の界面活性剤との接触は、本件明細書に記載の如く(段落【0013】参照)抗体または抗原の担体への担持が妨げられるものである。また、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集を利用する試薬の製造において、担持工程後に担体のみを分離して界面活性剤を含む緩衝液に懸濁して界面活性剤と接触させるという界面活性剤との接触が、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度にいかなる影響を与えるものであるかについて、刊行物1には何ら記載されていないし、分離しないままの担持済み担体の懸濁液に所定濃度で界面活性剤を添加することが、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造できることを、何ら示唆するものでもない。
さらに、非イオン性界面活性剤を特定処理された無機化合物担体を、担持工程後に担体のみを分離して、担体の沈降防止を目的として界面活性剤を含む緩衝液に懸濁して界面活性剤と接触させることが記載されている刊行物3の記載も、担持する抗体または抗原を分離しないままの担持済み担体の懸濁液に所定濃度で界面活性剤を添加することが、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造できることを、何ら示唆するものでもない。
そうすると、本件発明は、刊行物2に記載された発明であるとは認められないし、また刊行物2に記載された発明に基づいて、あるいは刊行物2および刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。

ハ)刊行物4との対比、検討
刊行物4には、免疫測定において、反応混合物中に高い濃度の界面活性剤が存在することの弊害について記載されているものの、被測定物質の濃度を不溶性担体凝集により測定する方法については記載されておらず、凝集可能な不溶性担体に抗体または抗原を担持させた後の不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を低濃度で添加すると、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造できることを、何ら開示、示唆するものではない。
したがって、凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で、該不溶性担体に抗体または抗原を担持させた後、担体のみを分離し、再度緩衝液に分散させて抗原または抗体測定用試薬を製造することが慣用の方法であっても、本件発明が、刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

4. 記載要件不備について
上記訂正により、抗体または抗原を担持させた後の不溶性担体が未吸着の抗体または抗原と分離する必要のないものに減縮され、また、発明の詳細な説明の記載も、すべて、担持工程後の担体を分離することなく、未吸着抗体が共存したままの懸濁液に界面活性剤を添加している実施例とともに、担持工程後の担体を分離することなく、未吸着抗体が共存したままの懸濁液に界面活性剤を添加することにより行うことに訂正されたので、平成15年1月14日付けの取消理由通知において指摘した明細書の記載不備の点は、解消した。

5. むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明についての特許は、特許異議申立ての理由および証拠によっては、取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
抗原または抗体測定用試薬の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で、該不溶性担体に抗体または抗原を担持させた後、上記抗体または抗原が担持された不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する抗原または抗体測定用試薬の製造方法であって、上記界面活性剤の上記試薬中の濃度が0.005〜1mg/mlであることを特徴とする抗原または抗体測定用試薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、不溶性担体に抗体または抗原を担持させ、抗原抗体反応による該担体の凝集の程度を検出することにより該抗体または抗原に対応する抗原または抗体を測定するための試薬の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、血液や尿などの体液中のタンパク質や脂質等、例えば、B型肝炎ウイルス、癌胎児性抗原、ヒト免疫不全ウイルス、C-反応性蛋白質、B型肝炎ウイルス抗体、ヒト免疫不全ウイルス抗体、リウマチ因子、抗ストレプトリジン-O、など免疫学的に抗原または抗体に属する物質の測定に、ラテックス担体のような不溶性担体に該抗原または抗体に対応する抗体または抗原を担持させ、抗原抗体反応による該担体の凝集の程度を検出することにより該抗原または抗体(以下、被測定物質という)を測定する試薬が一般的に使用されている。
【0003】
従来、このような担体の凝集を検出して被測定物質を測定する試薬においては、通常、反応液中の不溶性担体の凝集による吸光度の増加を光学密度(以下、「OD」という)で測定し、ODと被測定物質量との関係を表す検量線を予め作成し、この検量線を用いて未知量の被測定物質を定量している。この検量線は、ODを縦軸に被測定物質の濃度を横軸にとって作成すると、通常、直線にならず、被測定物質濃度が低い部分でODが特に低く、濃度の上昇につれてODの上昇割合が特に高まり、通常、シグモイド形と呼ばれる免疫反応特有のS字形の曲線となる。
【0004】
このため、精度よく測定するには、検量線作成に際し、3点以上の異なる既知濃度の被測定物質を測定するか、または特別の補正をする必要がある。しかし、3点以上の測定は、操作が複雑になり、費用も高くなる、特に自動分析装置で測定する場合、装置上に種々の制約が必要になるという問題点があった。
【0005】
そこで、この測定回数を2回にしても、正確な測定ができるように、検量線を直線に近づけようとして、2つの異なる量の同一抗原または抗体を担持させた、2種類の異なる粒径のラテックス粒子(以下、「ラテックス担体」という)を混合して使用する方法(特開昭55-151264号公報)が提案された。この提案では、被測定物質に対応する抗原または抗体が担持されたラテックス担体と被測定物質とが抗原抗体反応すると、粒径の大きいラテックス担体は早い時期に凝集塊が成長し、一方、粒径の小さいラテックス担体はやや遅れて凝集塊が成長する。従って、検量線の低濃度および高濃度領域におけるラテックス担体の吸光度または散乱光強度の増加率が一定に近づき、より広い濃度範囲において正確な測定ができる。
【0006】
しかし、この提案でも、測定し得る被測定物質の濃度範囲に限界があり十分とはいえない。それは、試薬自身の吸光度の増加が被測定物質の濃度に対して直線的に伸びていても、光学的測定機器の測定上限付近(一般の光学的測定機器において吸光度の測定上限はOD=3付近である)になると、被測定物質の濃度が高くなっても、それに伴った吸光度の増加を光学的測定機器では検出出来ず、検量線が頭打ちの状態となり、測定上限以上の吸光度では吸光度変化によって被測定物質の濃度を測定することは、難しい。すなわち、測定可能吸光度の最大変化幅は機器の測定上限と試薬のブランク(被測定物質濃度がゼロの時の吸光度)の吸光度との差に等しい。
【0007】
この吸光度の最大変化幅をひろげて、被測定物質の濃度範囲を広げようとすると、試薬のブランクの吸光度を出来るだけ下げることが考えられる。試薬のブランクの吸光度を下げるために、反応に使用するラテックス担体の量を下げると遅滞現象が通常の試薬よりも低濃度で起こり、また、検量線のシグモイドも顕著になり、2回測定で検量線を作成すると正確な測定が出来ない。
【0008】
この吸光度の最大変化幅をひろげて、被測定物質の濃度範囲を広げようとする提案として、抗体測定時に試薬中に過剰量の抗原を添加して担体に吸着していない遊離の抗原を存在させることによって、より高い濃度の抗体量まで測定するものがある(特開昭57-9723号公報)。しかし、この方法は被測定物質濃度が低いところで吸光度が低くなりすぎ、検量線がシグモイド形を呈する。従って、2回測定で検量線を作成すると正確な測定が出来ないという問題点があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬の製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明で使用される不溶性担体としては、従来、抗体または抗原が担持された不溶性担体の凝集により抗原または抗体測定を行うために使用される物質はいずれも使用可能であり、例えば、無機物質粉末、有機高分子物質粉末、微生物、血球、細胞膜片などが挙げられる。無機物質としては、金、チタン、鉄、ニッケル等の金属;アルミナ、チタニア等の金属酸化物;シリカ等が挙げられる。有機高分子としては、特に限定されないが、例えば、スチレン重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。特に、これらの重合体粉末を水に均一に懸濁させたラテックス粒子が好ましい。該ラテックス粒子の平均粒径は、0.05〜1.0μmが好ましく特に0.05〜0.5μmが好ましい。
【0011】
本発明で使用される非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-ソルビタン-モノラウレート(例えば、商品名Tween20;Atlas Powder Co.社製)、ポリオキシエチレン-ソルビタン-モノオレエート(例えば、商品名Tween80;Atlas Powder Co.社製)、アルキルポリエーテル-アルコール混合物(例えば、商品名Triton;Rohm and Haas Co.社製)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(例えば、商品名Brij35;Atlas Powder Co.社製)、ポリオキシエチレン-オクチルフェノールエーテル(例えば、商品名Non-IdetP-40)、ポリエチレンオキシド-アルキルエーテル付加物(例えば、商品名Lubrol PX;I.C.I.社製)、オキシエチレン単位10個を有するC-16,C-18脂肪族アルコール(例えば、商品名、Berol EMU 043)等が挙げられ、陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ナトリウムドデシルサルフエートが挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法においては、まず、不溶性担体が分散された懸濁液中で該不溶性担体に抗体または抗原を担持させる。この担持には、公知の物理的吸着法または化学的結合法が使用される。
抗体を担持させる場合、抗体としては、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が好適に使用される。これらの抗体は、通常、硫安沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の抗体精製手段を適宜組み合わせて精製される。抗体の種類としては、例えば、IgGやIgM等の免疫グロブリンが挙げられ、必要に応じてF(ab’)2、Fabとなされてもよい。
抗原を担持させる場合、抗原の種類としては、特に限定されず、例えば、タンパク質、ポリペプチド、ステロイド、多糖類、脂質等が測定目的に応じて使用される。
【0013】
本発明においては、上記の抗体または抗原の担持工程に引き続いて、担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤が添加される。
前記の担持工程終了後、上記の界面活性剤が添加されるまでの時間は、長くなると担体の凝集が進行するので、担持工程終了直後から5時間以内が好ましく、より好ましくは1時間以内である。
なお、抗体または抗原の担持工程の前に、該担体を該界面活性剤に接触させると、抗体または抗原の担体への担持が妨げられる。
【0014】
本発明において、抗体または抗原が担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する方法としては、担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体を分離せずに、担体を含む溶液に界面活性剤のみを加える方法でもよいし、または界面活性剤を含む緩衝液を添加する方法であってもよい。
なお、上記の方法において、界面活性剤を緩衝液に溶解する場合、緩衝液としては、通常、pH5〜10の緩衝液が好ましく、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液などが挙げられる。
また、抗体または抗原の担持工程終了後、不溶性担体の表面の抗体または抗原付着可能部位がまだ残っている場合、該担体使用時に非特異的吸着反応が起こらないように、通常、牛血清アルブミンのようなタンパク質でその不溶性担体上の活性点を飽和させる操作(通常、この操作はブロッキングと呼ばれている)が行われるが、この操作に使用する溶液に界面活性剤を添加することにより、該担体を界面活性剤溶液に懸濁させてもよい。
なお、上記のようにブロッキングをする場合には、上記のようにブロッキングと同時に該担体を界面活性剤溶液に懸濁する方法だけでなく、ブロッキングの前または後に、該担体を界面活性剤溶液に懸濁してもよい。
【0015】
本発明の製造方法においては、最終的に得られる抗原または抗体測定用試薬は、前記非イオン性または陰イオン性界面活性剤を含有した前記不溶性担体の懸濁液である。本発明において、上記界面活性剤の濃度は、上記懸濁液中0.005〜1mg/mlとされる。該界面活性剤の濃度が低くなると、測定範囲の拡大効果が小さくなり、高くなると、上記試薬の使用時に抗原抗体反応を阻害する。
【0016】
なお、上記の界面活性剤は、該担体が抗原抗体反応に使用される際に、該担体と共存していてもよいし、または、抗原抗体反応に使用される以前に該担体から分離されていてもよい。
【0017】
また、最終的に得られる試薬中に存在する、抗体または抗原が担持された不溶性担体の濃度は、上記懸濁液中0.2〜10mg/mlが好ましく、より好ましくは1〜5mg/mlである。該不溶性担体の濃度が低くなると、測定範囲の拡大効果が小さくなり、高くなると凝集して抗原抗体反応を阻害する。
【0018】
本発明により製造された抗原または抗体測定試薬によって検体中の被測定物質を測定するには、光学的に測定する方法または肉眼で測定する方法のいずれでもよい。光学的に測定するには、例えば、まず、検体を反応容器に分注し、これに、該抗原または抗体測定用試薬を分注混合し反応させる。この工程において検体および試薬の分注順序は、上記方法の逆でも同時でもよい。反応におけるpHは、5〜10が好ましく、より好ましくは6〜8である。使用される緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液などが挙げられる。反応温度は、0〜50℃が好ましく、より好ましくは20〜40℃である。凝集反応時間は、20秒〜30分が好ましく、より好ましくは1〜15分である。
【0019】
このようにして得られる凝集物の生成量または生成速度を吸光度等を測定することによって、検体中の被測定物質の濃度を算出する。これには、例えば、吸光度を1回測定する方法、吸光度を2回測定する方法などがある。吸光度を測定する代わりに散乱光を測定する方法も用い得る。測定は300〜1000nmの適当な波長で行うことができるが、ラテックスの粒径に対して十分長い波長を用いることが好ましい。このような光学的測定の装置は既知のものを使用できる。例えば、吸光度を測定する通常の分光光度計、光の散乱強度を測定する装置、粒子数および/または粒子径を測定するための装置などが用いられる。上記凝集反応を測定するための専用装置としては、分光光度計を組み込んだ生化学自動分析装置、免疫比濁法による凝集反応を測定するための専用装置、フローインジェクションを利用して凝集反応を測定するための専用装置、ラテックス凝集反応を測定するための専用装置などがある。
【0020】
本発明により得られた試薬によって測定することのできる検体は、抗原や抗体などの免疫学的に活性な物質を含有する試料、特に生体試料(例えば、血液、胸水、腹水、リンパ液などの体液、尿、便、汗などの排泄物、又は組織の抽出物など)である。本発明で得られた試薬によって、測定できる抗原または抗体は、通常、免疫学的に抗原または抗体に属するあらゆる物質が包含される。例えば、アンチトロンビンIII(AT III)、アルファフェトプロティン(AFP)、リウマチ因子(RF)、抗ストレプトリジン-O(ASO)、C-反応性蛋白質(CRP)、フィブリノーゲン-フィブリン分解物(FDP)、ヒト絨毛膜ゴナドトロピン(HCG)、癌胎児性抗原(CEA)などのタンパク質またはポリペプチド、ステロイド、多糖類、脂質等が挙げられる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明するために、その実施例を示す。なお、以下の実施例および比較例においては、アンチトロンビンIII(以下、「AT III」という)を測定するための試薬を製造し、得られた試薬を用いて検量線を作成した。
【0022】
実施例1
(1)抗AT III抗体担持ラテックス試薬の調製
抗体の不溶性担体への担持工程
抗ヒトAT III山羊産生抗体(ATAB社製)を2mg/mlの濃度で0.02Mリン酸緩衝液(pH6.5)に溶解した液5mlに、平均粒径が0.1μmのポリスチレン系ラテックス(固形分10%、積水化学工業社製)500μlを添加し18℃にて2.5時間攪拌した。
担持担体の界面活性剤溶液への懸濁工程
次に、牛血清アルブミンを2重量%濃度で含有し、界面活性剤としてTween20を0.0126mg/ml溶解するリン酸緩衝液(pH6.5、0.35M)5mlを、上記の抗ヒトAT III山羊産生抗体担持ラテックス懸濁液に加え(混合後、Tween20の最終濃度は0.006mg/mlとなる)、室温で一晩混合、攪拌を続けAT III測定用試薬を製造した。その後4℃で保存した。
【0023】
(2)AT IIIの光学的測定
上記ラテックス試薬200μlを、牛血清アルブミンを1重量%、ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール6000、平均分子量7500、和光純薬社製)を4重量%の濃度で溶解するリン酸緩衝液(pH6.5、0.35M)350μlにて希釈し、検体(スタンダードヒューマンプラズマ(べーリンガーマンハイム社製、凍結乾燥品)を純水で復元したものを、5重量%牛血清アルブミン水溶液で希釈し、または復元時純水の添加量を減じることにより濃縮して0、25、50、75、100、150、200%の濃度系列を調製したもの。ここで、100%とは正常人血清中のAT III標準含有濃度である。)を3μl添加し、攪拌し4分後の波長570nmの吸光度を測定した。なお、それぞれの希釈系列について、繰り返し測定回数は5回とした。得られた吸光度(5回測定の平均値)とAT III濃度との関係を図1に示した。図1において、吸光度は実測値を10000倍した値で示した。なお、図1において、点線で示したものは機器の吸光度測定の上限値である。
【0024】
実施例2〜5
実施例1における、担持担体の界面活性剤溶液への懸濁工程において、Tween20を0.0126mg/ml溶解するリン酸緩衝液を使用する代わりに、Tween20をそれぞれ0.105mg/ml(実施例2)、1.05mg/ml(実施例3)、1.68mg/ml(実施例4)、2.1mg/ml(実施例5)溶解するリン酸緩衝液を使用したこと(Tween20の最終濃度は、実施例2が0.05mg/ml、実施例3が0.5mg/ml、実施例4が0.8mg/ml、実施例5が1.0mg/mlとなる)の他は、実施例1と同様にしてAT III測定用試薬を製造し、実施例1と同様にして、吸光度とAT III濃度との関係を求め図1に示した。
【0025】
比較例1
実施例1における、担持担体の界面活性剤溶液への懸濁工程において、Tween20を含まないリン酸緩衝液を使用したことの他は、実施例1と同様にしてAT III測定用試薬を製造し、実施例1と同様にして、吸光度とAT III濃度との関係を求め図1に示した。
【0026】
比較例2
実施例1における、担持担体の界面活性剤溶液への懸濁工程において、Tween20を0.0126mg/ml溶解するリン酸緩衝液を使用する代わりに、Tween20を2.52mg/ml溶解するリン酸緩衝液を使用したこと(Tween20の最終濃度は、1.2mg/mlとなる)の他は、実施例1と同様にしてAT III測定用試薬を製造し、実施例1と同様にして、吸光度とAT III濃度との関係を求め図1に示した。
【0027】
比較例3
比較例1で得られたAT III測定用試薬を、牛血清アルブミンを2重量%含有し界面活性剤を含有しないリン酸緩衝液(pH6.5、0.35M)を用いて、1.5倍に希釈し、抗AT III抗体担持ラテックスの固形分濃度を下げたAT III測定用試薬を調製し、実施例1と同様にして、吸光度とAT III濃度との関係を求め図1に示した。
【0028】
評価
図1から判るように、実施例1〜5で得られた試薬は、従来の方法によって得られた比較例1の試薬に比べて試薬ブランク(図1におけるAT III濃度0%におけるOD値)が低く、検量線の直線部分もAT IIIの高濃度領域にまで伸びている。また、比較例2の検量線から判るように、担持された担体をより高濃度の界面活性剤溶液に懸濁させると、検量線の直線部分は更に伸びるが、試薬自身の抗原抗体反応そのものが阻害されるため、濃度変化当たりの吸光度の変化量が小さい。また、比較例3のように試薬中のラテックス濃度を下げると検量線がS字形となる。
【0029】
次に、比較例2(Tween20最終濃度1.2mg/ml)と実施例5(Tween20最終濃度1.0mg/ml)において、AT III濃度0%と25%の検体をそれぞれ5回ずつ測定したものの吸光度、その平均値およびその標準偏差を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より界面活性剤濃度が1.0mg/mlを越えると、検体濃度25%における2σと検体濃度0%における2σの範囲は重なるので、測定を精度よく行うことが難しくなることが判る。
【0032】
【発明の効果】
本発明の抗原または抗体測定用試薬の製造方法の構成は前記した通りであり、本製造方法によると、被測定物質の濃度に対する不溶性担体凝集による吸光度もしくは散乱光強度の増加率を一定に保ったまま、より広い測定範囲を持った抗原または抗体測定用試薬を製造できる。吸光度もしくは散乱光強度の増加率が一定なので、検量線作成のための測定も2回ですむので、本発明の製造方法で得られる試薬は操作が簡便であるとともにコストも安い。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、実施例1〜5および比較例1〜3で得られたAT III測定用試薬の検量線である。
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1において、「不溶性担体が分散された懸濁液中で」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「凝集可能な不溶性担体が分散された懸濁液中で」と訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項1において、「不溶性担体に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を接触させる抗原または抗体測定用試薬の製造方法」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「不溶性担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する抗原または抗体測定用試薬の製造方法」と訂正する。
これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、以下の点について訂正する。
c.特許明細書の段落番号0014の第4〜6行の記載、「▲1▼ 担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体のみを遠心分離や濾過等の手段によって分離し、分離された担体を界面活性剤を含む緩衝液に懸濁する方法。」を削除する。
d.特許明細書の段落番号0013の第1・2行目の記載、「本発明においては、上記の抗体または抗原の担持工程に引き続いて、担持された担体を非イオン性または陰イオン性界面活性剤に接触させる。」を、「本発明においては、上記の抗体または抗原の担持工程に引き続いて、担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤が添加される。」と、
e.特許明細書の段落番号0013の第3行目の記載、「上記の界面活性剤に接触させるまでの時間は」を、「上記の界面活性剤が添加されるまでの時間は」と、
f.特許明細書の段落番号0014の第1〜9行の記載、「本発明において、抗体または抗原が担持された担体と、非イオン性または陰イオン性界面活性剤とを接触させる方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
…(中略)…
▲2▼ 担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体を分離せずに、担体を含む溶液に界面活性剤のみ、または界面活性剤を含む緩衝液を添加する方法。」を、「本発明において、抗体または抗原が担持された担体が分散された懸濁液に、非イオン性または陰イオン性界面活性剤を添加する方法としては、担持工程で使用した抗体または抗原液を含む溶液から、担体を分離せずに、担体を含む溶液に界面活性剤のみを加える方法でもよいし、または界面活性剤を含む緩衝液を添加する方法であってもよい。」と、
g.特許明細書の段落番号0014の第10行の記載、「なお、上記▲1▼および▲2▼の方法において」を、「なお、上記の方法において」と、
h.特許明細書の段落番号0014の第13行の記載、「▲3▼ 抗体または抗原の担持工程終了後」を、「また、抗体または抗原の担持工程終了後」と、
i.特許明細書の段落番号0014の第18行の記載、「懸濁する方法」を、「懸濁させてもよい」と、
j.特許明細書の段落番号0014の第19行の記載、「上記▲3▼のように」を、「上記のように」と訂正する。
異議決定日 2003-06-06 
出願番号 特願平5-153789
審決分類 P 1 651・ 113- YA (G01N)
P 1 651・ 121- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 渡部 利行
植野 浩志
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3246978号(P3246978)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 抗原または抗体測定用試薬の製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ