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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C |
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管理番号 | 1083179 |
異議申立番号 | 異議2003-70142 |
総通号数 | 46 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-01-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-22 |
確定日 | 2003-08-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3303918号「合成石英ガラス及びその製法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3303918号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3303918号発明は、特許法第30条第1項の適用を申請して、平成2年5月14日に出願された。この適用申請の証明書には、「第30回ガラス討論会講演要旨集1989」プログラムi〜vi、59〜60頁、平成元年11月16日発行の刊行物が添付されている。 そして、平成14年5月10日にその特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人本田敦子により請求項1〜5に係る特許に対して特許異議の申立がなされたものである。 2.本件発明 本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件1〜5発明」という)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、つぎのとおりのものである。 「【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成してKrFエキシマレーザー(248nm)及びArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理してArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光を防止した合成石英ガラス。 【請求項2】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスの製造方法において、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成してKrFエキシマレーザー(248nm)及びArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、さらに非還元性の雰囲気中、または真空中において、200〜1200℃で熱処理してArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光の原因となる過剰水素の残存を防止した合成石英ガラスの製造方法。 【請求項3】請求項2において、非還元性の雰囲気が、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、大気のいずれかである合成石英ガラスの製造方法。 【請求項4】請求項3において、酸化性雰囲気が、酸素ガス雰囲気である合成石英ガラスの製造方法。 【請求項5】請求項3において、不活性雰囲気が、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスのいずれかの雰囲気である合成石英ガラスの製造方法。」 3.特許異議申立てについて 3-1.(申立ての理由) 特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証〜甲第4号証を提出し、甲第1号証については、本件出願人が本件出願時に、特許法第30条第1項の適用を申請した文書であるが、当文書には本件発明の数値規定が記載されていないから、本件発明が記載されているとはいえず、特許法第30条第1項の適用を受けられないので、当文書は本件出願時の公知文献となると主張し、そして、本件発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであると主張している。 3-2.(証拠の記載内容) 特許異議申立人が提出した甲第1号証〜甲第4号証には、それぞれ次の事項が記載されている。 3-2-1.甲第1号証:「第30回ガラス討論会講演要旨集1989」プログラムi〜vi、59〜60頁、平成元年11月16日発行 (1a)「合成シリカガラスにエキシマレーザーを照射すると、さまざまな発光が生じる。この発光現象は製造履歴を強く反映している。」(59頁2〜4行) (1b)「<<試料>> 試料としてタイプIIIのシリカガラス(OH約1000ppm)で、エキシマレーザー照射時の赤色発光が無いもの(A)、・・・を用いた。」(59頁6〜10行) (1c)「<<熱処理>> 石英ガラス製の炉心管を挿入した管状炉で900℃で2時間熱処理したのちガスをフローしたまま放冷した。」(59頁11〜13行) (1d)「<<発光の測定>> エキシマレーザー(ArF(193nm)、100Hz)ビームをレンズで集光してエネルギー密度を200mJ/cm2Pulseに調整したのちビーム径を2mmにしてサンプルに照射した。」(59頁14〜18行) (1e)「サンプルAにおいては、雰囲気熱処理前には280nmに強い発光ピークがみられる。このピークは熱処理により減少し、300nm付近の発光強度が増大してくる。・・・サンプルAをO2中で熱処理すると280nmの発光はほとんど消滅し、300nmの発光が生ずる。O2、空気、N2中での熱処理結果を比較してみるとO2、空気、N2の順に280nm付近の発光が強くなっている。酸化性が強くなるにしたがって280nmの発光を抑制する効果が大きくなっている。」(60頁5〜11行) (1f)「赤色発光の生じないサンプルでは280nmの発光が生じる。この発光は酸化雰囲気またはHe中での熱処理により抑制することができる。このことから280nmの発光はガラス中の不安定な水素に関連しているものと考えられる。」(60頁31〜34行) (1g)図-1には、タイプIIIのシリカガラスとして650nmの赤色発光の無いものを用いる点、及び、タイプIIIのシリカガラスを各種ガス(H2,He,O2,Air,N2)で熱処理を行うことが記載されている。 3-2-2.甲第2号証:特開平2-69332号公報 (2a)「略185nm以上の紫外線波長域のレーザ光に使用されるレーザ光用透過体において、OH基濃度が100ppm以上含有する合成石英ガラスを用いて前記透過体を形成するとともに、該ガラス組織中に存在する吸蔵水素を実質的に除去し、前記波長域185nmにおける吸収係数を10-2(cm-1)以下に設定したことを特徴とするレーザ光用透過体」(1頁左下欄4〜10行) (2b)「OH基を増大させた合成石英ガラスにおいて、この吸蔵H2の脱ガス処理を行ってOH基が含有しない石英ガラスと同程度に前記吸蔵H2を低減又は実質的に除去する事により前記250nm以下の短波長域での透過率の改善を図り得、特に250nm〜略185nmの範囲内における耐レーザ性を向上させる事が知見された。尚、前記脱ガスの手法としては、真空中雰囲気又は、He、Ar、N2ガスの単一不活性ガス又は、複数の不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気にて、略600℃から1200℃の温度にて熱処理することにより効率的に脱ガスすることが可能」(3頁左下欄2〜13行) (2c)「石英ガラスの限界値である185nm近傍におけるArFエキシマレーザ(193nm)を照射した所、H2ガス脱ガス処理のなされていない供試体は、処理のされている供試体に比較して、蛍光の発生量が多く、紫外域における吸収バンドの発生が早く、耐レーザ性の面で実用的に問題のある事が判明した。」(4頁右上欄9〜15行) 3-2-3.甲第3号証:特開平2-64645号公報 (3a)「(1)KrF25Hz、500mJ/cm2以上であるエキシマレーザ光の5分以上の照射に対し赤色蛍光を発せず波長200nmでの吸収係数が1×10-2以下である紫外域用有水合成石英ガラス」(1頁左下欄5〜8行) (3b)「(5)四塩化ケイ素を酸水炎中で加水分解して有水合成石英ガラスを製造する工程において、原料の四塩化ケイ素に不活性ガスをキャリアガスとして同伴させることを特徴とする紫外域用有水合成石英ガラスの製造方法。」(1頁左下欄17行〜右下欄3行) (3c)「得られたガラスのエキシマレーザー(KrF、20Hz)照射による赤色蛍光の「しきい値」と200nmにおける透過率のデーターを、H2/O2比に対して整理した結果を図2に示す。H2/O2比を2.2〜2.3にすると、スパッタリングやプラズマエッチングに対して変質して赤色蛍光を発することは無く、エキシマレーザーKrF(248nm)に対し200mJ/cm2のエネルギー密度にまで耐える。」(5頁右上欄10行〜左下欄7行) 3-2-4.甲第4号証:「ガラスの辞典」、作花済夫編集、朝倉書店、1998年10月15日発行、204〜207頁 (4a)「III型有水合成ガラス 原料には四塩化ケイ素を用いる。これを蒸発させ、気相として酸水素炎中に導入し、火炎加水分解によってガラス微粒子(ストーとよぶ)を合成する。これを回転ダーゲット上に溶融堆積して透明ガラスを得る。」(206頁4〜7行) 3-3.(当審の判断) 3-3-1.(特許法第30条第1項の適用について) 特許法第30条第1項の適用を申請した文書には、本件発明の全ての数値規定が記載されていなくとも、本件発明が規定する「タイプIIIのシリカガラスで、エキシマレーザー照射時の赤色発光の無いもの(上記(1b))」を用いること、「H2,He,O2,Air,N2(上記(1g))」の「雰囲気中900℃で熱処理(上記(1c))」すること、「280nmの強い発光ピークが熱処理により減少(上記(1e))」すること、といった本件発明の主要な構成を具備した発明が記載されているので、特許法第30条第1項の適用を受けられないとはいえないから、特許異議申立人の上記の主張は採用できない。 3-3-2. 3-3-1.で述べたとおり、甲第1号証は本件出願時の公知文献ではないから、以下その余の甲第2号証〜甲第4号証に基づき、検討する。 3-3-3.(本件1発明について) 甲第3号証は、合成石英ガラス及び合成石英ガラスの製造方法に関する文献であって、上記(3a)〜(3c)の記載を総合すると、「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.3とした、エキシマレーザーの照射に対して赤色発光を発しない合成石英ガラス」が記載されていると云える。ここで、波長が650nmは赤色の光に相当することからすれば、赤色発光を発しないとは650nmの発光も防止していると云える。 よって、これら記載を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.3で合成して、エキシマレーザーの照射による650nmの赤色発光を防止した合成石英ガラス」の発明(以下、「甲3発明」という)が記載されていると云える。 そこで、本件1発明と甲3発明とを対比すると、「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.3で合成して、エキシマレーザーの照射による650nmの赤色発光を防止した合成石英ガラス」という点で両者は一致し、次の点で相違していると云える。 (イ)本件1発明の合成石英ガラスが、「非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理してArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光を防止」しているのに対し、甲3発明は、該点を具備していない点。 次に、この相違点(イ)について甲第2号証を検討すると、この証拠には、合成石英ガラスに関し、上記(2a)に「OH基濃度が100ppm以上含有する合成石英ガラスを用いて前記透過体を形成するとともに、該ガラス組織中に存在する吸蔵水素を実質的に除去」することが、そして上記(2b)に「OH基を増大させた合成石英ガラスにおいて、この吸蔵H2の脱ガス処理を行ってOH基が含有しない石英ガラスと同程度に前記吸蔵H2を低減又は実質的に除去する事」、「吸蔵H2の脱ガス処理を行って・・・吸蔵H2を低減又は実質的に除去する事により前記250nm以下の短波長域での透過率の改善を図り得、特に250nm〜略185nmの範囲内における耐レーザ性を向上させる事」、「脱ガスの手法としては、真空中雰囲気又は、He、Ar、N2ガスの単一不活性ガス又は、複数の不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気にて、略600℃から1200℃の温度にて熱処理すること」が記載されているだけであり、KrFエキシマレーザー(248nm)及びArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止した上で、かつ、「非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理」することにより「ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光を防止」することについては何ら示唆されていないから、甲第2号証と甲第3号証には、これら証拠を結び付ける動機付けとなる何らの記載もないと云うべきである。 また、甲第4号証についても検討すると、この証拠には上記(4a)にIII型有水合成ガラスについての記載がされているだけであって、上記相違点(イ)について何ら記載がない。 してみると、本件1発明は、甲第2号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3-3-4.(本件2発明について) 上記(3-3-3)で述べたとおり、甲第2号証〜甲第4号証には、「KrFエキシマレーザー(248nm)及びArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止」した上で、かつ、「非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理」することにより「ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光を防止」することについては何ら示唆されていない から、本件2発明は、甲第2号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3-3-5.(本件3発明について) 本件3発明は、本件2発明を引用することによりその発明特定事項を全て含むものであるから、前記(3-3-4)と同様の理由により、本件3発明は、甲第2号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3-3-6.(本件4発明について) 本件4発明は、本件3発明を引用することによりその発明特定事項を全て含むものであるから、前記(3-3-5)と同様の理由により、本件4発明は、甲第2号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 3-3-7.(本件5発明について) 本件5発明は、本件3発明を引用することによりその発明特定事項を全て含むものであるから、前記(3-3-5)と同様の理由により、本件4発明は、甲第2号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 4.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件1〜5発明についての特許を取り消すことはできない。また、他に本件1〜5発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-07-28 |
出願番号 | 特願平2-123760 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C03C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 武重 竜男 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
後谷 陽一 西村 和美 |
登録日 | 2002-05-10 |
登録番号 | 特許第3303918号(P3303918) |
権利者 | 東ソー・エスジーエム株式会社 東ソー・クォーツ株式会社 |
発明の名称 | 合成石英ガラス及びその製法 |
代理人 | 石井 良和 |
代理人 | 石井 良和 |