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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199935074 審決 特許
審判199721136 審決 特許
審判19984525 審決 特許
異議199773380 審決 特許
不服20024614 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A61K
管理番号 1084220
審判番号 審判1999-35293  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-09-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-06-14 
確定日 2003-09-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2766986号発明「動脈の血栓症的閉塞または塞栓症を阻止するための医薬組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2766986号の請求項1〜16に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許2766986号の請求項1〜16に係る発明についての出願は優先権主張を伴う昭和63年11月17日(優先日 1987年11月17日 米国)の出願であって、平成10年4月10日に、その発明についての特許権の設定の登録がされたものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された次のとおりのものと認める。(以下、順次「本件第1発明」「本件第2発明」・・・といい、これら全発明を一括して本件発明ということがある。また、「蛋白質C」を「プロテインC」または「PC」といい、「活性化された蛋白質C」を「APC」ということがある。)

【請求項1】
急性の動脈の血栓症的閉塞、塞栓症、または冠状動脈、大脳または末梢動脈における狭窄症、または導管移植における狭窄症の阻止、または動脈血小板沈降の阻止のための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、少なくとも95%の純度を有する活性化された蛋白質Cを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
製薬学的に受容可能なキャリヤ一を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
0.1〜1.6μg/m1の範囲の活性化蛋白質C血漿レベルを提供するのに充分な活性化された蛋白質Cを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記の活性化された蛋白質Cが、血漿誘導されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記の活性化された蛋白質Cが、組み換え技術によって製造されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナ一ゼ、ストレプトキナ一ゼ、プラスミノ一ゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナーゼ-プラスミノ一ゲン複合体からなる群より選ばれた一種または複数の血栓溶解剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記の血栓溶解剤が組織プラスミノ一ゲン活性化剤で、前記組織プラスミノ一ゲン活性化剤が0.1〜0.4mg/kg-hrの投与量をもたらす量で含まれていることを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記の活性化された蛋白質Cが、
(a)免疫親和性カラムを用いて、蛋白質Cが含有する源泉から蛋白質Cを精製すること、及び
(b)固定トロンビンを用いて、精製された蛋白質Cを活性化することによって得られた1ものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記の蛋白質Cが、血漿から誘導されたもの、あるいは組み換え技術によって製造されたものであることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記の蛋白質Cの源泉が、人間の血漿フラクションであることを特徴とする請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記の蛋白質Cの源泉が、血漿プロトロンビン複合体濃縮物であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記の免疫親和性力ラムが、これに結合した抗体を含み、前記抗体が蛋白質CのL鎖に結合していることを特徴とすることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
バイオレックス70での吸着または急速蛋白質液体クロマトグラフィーを用いて、前記の活性化された蛋白質Cから残存しているトロンビンが除去されることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせが、前記の活性化された蛋白質Cおよび前記キャリヤ一と混合されることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記の血栓溶解剤が、組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナ-ゼ、プラスミノーゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナ一ゼ-プラスミノーゲン複合体からなる群より選ばれたものであることを特徴とする請求項15に記載の医薬組成物。

3.請求人の主張の概要
審判請求人は、「特許第2766986号の請求項1〜16に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、下記の証拠方法を提出して、以下のア〜エの理由により、本件特許は、特許法第123条第1項第2号、第4号及び6号の規定により無効とされるべきであると主張している。

ア、請求項1は甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証又は甲第5号証に記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。その他の請求項に記載の発明も、いずれも請求項1に記載の発明に周知又は公知の技術を単に組み合わせたものにすぎない。
したがって、本件特許の請求項1〜16に記載された発明は、いずれも本件出願優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。

イ、平成7年11月16日に提出された手続補正書は明細書の要旨を変更するものであり、本件特許出願日は平成7年11月16日とみなされるから、本件特許の全請求項に記載の発明は、本件特許の出願公開公報(甲第27号証)に記載された発明及び下記甲第各号証に記載の発明に基づいて容易に発明できたものである。
なお、請求項1、請求項4及び請求項8に記載の発明は、ウ、に記載のとおり、特許法第36条第5項にも違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項4号により無効であるが、仮に、本件特許の請求項1,請求項4及び請求項8のうちの一つ、例えば、請求項1に記載の発明が出願当初の明細書及び図面に開示されていたとすると、本件特許の請求項1ないし3,5ないし7、9ないし16項に記載の発明は、本件特許の出願公開公報(甲第27号証)に記載された発明であり、特許法第29条第2項(29条1項3号の誤記と認められる。)に違反して特許されたものである。

ウ、本件特許は、請求項1,4,8の記載は当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていなく、かつ、本件特許の範囲の請求項1、請求項4及び請求項8は明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないので特許法第36条第3項及び第4項に違反して特許されたものである。

エ、95%の純度を有するAPCを達成することが当業者に容易でないならば、本件特許の全請求項に記載の発明、もしくは、少なくとも請求項1に記載した発明は、他人が発明したもの或いは共同発明に係るものであり、本件特許は、その他人或いは共同発明者のうちの他の発明者からその発明について特許を受ける権利を承継しない者の特許出願に対してなされたものでもある。


甲第1号証; EP公開 0191606A2
甲第2号証; S.C. Emerick, et. al., The Pharmacology and Toxicology of Proteins, 351-367, 1987.11.12
甲第3号証; K. Suzuki, et al., The Journal of Biological Chemistry, 258(3), 1914-1920, February 10, 1983
甲第4号証; J.W. Suttie, Thrombosis Research, 44, 129-134, 1986
甲第5号証; B.W. Grinnell, et al., Bio/Technology, 5, 1189-1192, 1987.11.12
甲第6号証; 生駒英信 他 血液と脈管, 13(1), 72-77, 1982
甲第7号証;M. Friedman, The Coronary Thrombus: Its Origin and Fate, Human Pathology-Volume 2, Number 1, Harold Brumn Institute of Mount Zion Hospital and Medical Center, 1600 Divisadero Street, San Francisco, CA 94115, March 1971
甲第8号証; E.N. Santander, et al., Role of Activated Protein C on Platelet Aggregation Induced by Thrombin. Acta. Physiol.Latinoam., 33,161-164, 1983
甲第9号証;R.P. Zolton, et al., Autoprothrombin II-A: Thrombin Removal and Mechanism of Induction of Fibrinolysis, Thrombosis Research, Vol.3, pp. 23-33, 1973
甲第10号証: C.T. Emson, et al., Identification of an endothelial cell cofactor for thrombin-catalyzed activation of protein C, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 78, No. 4, pp. 2249-2252, April 1981
甲第11号証; M. Verstraete, Journal of Cardiovascular Pharmacology, 7(Suppl. 3), S191-205, 1985
甲第12号証; S.R. Hanson, et al., Thrombosis and Haemostasis, 53, 423- 427,1985
甲第13号証; B.S. Coller, et al., Arteriosclerosis, 7(5), 456-462, September/October, 1987
甲第14号証; M.H. Horellou, et al., British Medical Journal, 289, November 10, 1984
甲第15号証;医療薬日本医薬品集 第10版 日本医薬情報センター,1986年版 薬業時報社
甲第16号証; B. Kaiser, et al., Thrombosis and Haemostasis, 55(2), 194- 196, 1986
甲第17号証;田辺達三 他、臨床医薬, 2, 1645-1655, (12月) 1986
甲第18号証;F. Markwardt, et al., Thromb. Haemostas, 47(3), 226-229, 1982
甲第19号証;Richard A. Marlar, et al., Blood, 59, 1067-1072, 1982
甲第20号証;特開昭 60-34916号公報
甲第21号証;特開昭 61-134399号公報
甲第22号証;特開昭62-111690号公報
甲第23号証;V.W.M. van Hinsbergh, et al., Blood, 65(2), 444-451, 1985
甲第24号証;松尾 理, t-PAとPro-UK, 学際企画, 1986年11月15日71-75頁
甲第25号証;W.Kisiel, Human Plasma Protein C, J. Clin. Invest. Volume 64, pp 761-769, September 1979
甲第26号証;W.Kisiel, [26] Protein C, Method in Enzymology, pp. 320-332,80, 1981
甲第27号証;特開平 1-238536号公報
甲第28号証; Eli Lilly and Company (本件請求人)の Senior Biochemistである S. Betty Yan, Ph.D.から Scripp Clinic & Research Foundation(本件被請求人)のDr.John H.Griffin(本件発明者)及びDr.Laurence A.Harkerへ宛てた1987年1月9日付けの手紙
甲第29号証;Scripps(本件被請求人)のDr.John.H.Griffin(発明者)から、Eli Lilly(本件)請求人のDr.Betty Yanに宛てた1987年10月29日付けの手紙
甲第30号証;The British Libraryから英国特許事務所のJ A Kemp & Coに宛てた甲第2号証刊行物の受け入れ日かつ公知日を知らせた手紙
甲第31号証;アメリカ合衆国ペンシルバニア州HaverfordにあるHaverford Collegeの図書館の蔵書である甲第5号証刊行物の目次の頁の写し
甲第32号証の1;本件特許出願手続における平成9年4月10日付拒絶理由通知書
甲第32号証の2;本件特許出願手続における平成9年11月6日付意見書
甲第33号証;Dr.Betty Yanの1999年6月9日付宣誓供述書
甲第34号証;特開昭61‐205487号公報(甲第1号証の対応日本出願の公開公報)
Betty Yanを 証人とする証人尋問申請


4.被請求人の主張の概要
被請求人は、上記請求人の主張する無効の理由ア〜エは、いずれも理由がない旨主張し、これを立証する証拠方法として、下記の書証を提出している。なお、無効理由についての被請求人の具体的な主張は、下記の「当審の判断」において取り上げる。

乙第1号証;Harker and SIichter,Throm.Diath.Haemorrh.,(1974),31:188‐203
乙第2号証;Eisenberg and Ghigliotti,lnt.J.Cardlology 68(Suppll)(1999):S3‐SIO
乙第3号証;Hladovec,Thrombosis Research 43:545‐551,1986
乙第4号証;Conard and Samama,Seminars in Thrombosis and Hemostasis,(1986),12:87‐90
乙第5号証;Bick,1985,Chapter12,"Hypercoagulability and Thrombosis" Disorders of Hemostasis and Thrombosis:Principles of Clinical Practice,pages294‐321
乙第6号証;Bick,1985,Chapterl,"Basic Physiology of Hemostasis and Thrombosis“ Disorders of Hemostasis and Thrombosis:Principles of Clinical Practice,pages l-35
乙第7号証;Schafer,1997,Chapterl,"The Primary and Secondary Hypercoagulable States" Molecular Mechanisms of Hypercoaguable States,pages l-34
乙第8号証;Gruber A;Hanson SR;Kelly AB;Yan BS;Bang N;Griffin JH;Harker LA,1990;Circulation 82(2):578‐85
乙第9号証;D' Angelo,et al.,1986,J.Clin.Invest.77:416-425
乙第10号証;Kisiel,et al.,1977,Biochemistry16:5824‐5831
乙第11号証;MSDS sheet(material data safety sheet)for MOPS
乙第12号証;Comp,et al.,1981,J.CIin.Invest.68:1221‐1228
乙第13号証;MSDS sheet(material data safety sheet)for benzamidine
乙第14号証;Friedman,1971,"The Coronary Thrombus:Its origin and Fate",Human Pathology‐Volume 2,Numberl,Harold Brumn Institute of Mount Zion Hospital and Medical Center,1600 Divisadero Street,San Francisco,CA 94115
乙第15号証;Dr.John Griffinの2000年10月3日付宣誓供述書

5.当審の判断

5-1 無効理由アについて

(1)本件第1発明について
請求人が提示した甲第30号証により本件特許の優先日前の1987年11月12日に頒布されたと認められる甲第2号証には、概略以下の事項が記載されている。

「活性化された蛋白質C(APC)は特殊な活性(Va、VIIIa因子の不活性化)をもつので魅力的な抗血栓塞栓剤となる可能性があることはインビトロの研究で予測されていたが、APCの大血管の血栓症における抗血栓性はインビボでは示されていない。この研究では、サルとアカゲザルに前もって形成した頸静脈血栓に対する放射性ラベルされたフィブリノーゲン(F)の付着を阻止するAPCの能力を調査した。高度に精製された血漿由来のヒト蛋白質Cをウサギのトロンボモジュリン‐ウシトロンビン(T)で活性化させた。・・・・・フィブリン溶解を阻止するためイヌには、はじめに、200mg/kg、実験期間中は200mg/kg/hのAMICARが投与された。・・・イヌの実験では、当初84、126、168μgAPC/kgの一時静注、続いて21、31.5、42μg/kg/hの2時間連続注入で投与された。・・APC注入により、APTTの延長は3一6秒であり、プロトロンビンタイムに変化はなく、血栓へのフィブリンの付着は対照に比べ大きく減少した。・・手術の傷からの出血は少なく、対照のイヌよりAPC処理されたものが多くはなかった。ヒトPC抗原LがELISAによる測定で、0.7一3.4μg/m1であった。・・・サルの実験では、組換えヒトAPCは当初60μg/kgの一時投与、続いて15μg/kg/hの2時間連続注入で投与されAMICARは投与されなかった。・・イヌと同様サルの実験でも、APTTの延長はわずかで、プロトロンビンタイムの変化も過度の出血もAPC処理された動物には見られなかった。このように,APCはイヌやサルにおいて魅力的な抗血栓塞栓剤であり、手術中の出血増加を起こさないようである。」(要約部分参照)

したがって、甲第2号証においては、APCが頸静脈に形成された血栓へのフィブリンの付着を阻止することを確認した実験により、APCの静脈血栓症治療薬としての用途の具体的裏付けがなされているものである。

本件第1発明と、甲第2号証に記載された発明を対比すると、両者は活性化された蛋白質C(APC)を含む血栓治療に用いる医薬組成物である点で一致し、

a.前者では、医薬品の用途発明の構成要件としての用途が、急性の動脈の血栓症的閉塞、塞栓症、または冠状動脈、大脳または末梢動脈における狭窄症、または導管移植における狭窄症の阻止、または動脈血小板沈降の阻止(以下、動脈血栓症等の治療という。)であるのに対し、後者は具体的実験データにより裏付けられているのは静脈血栓症の治療の用途である点、

b.前者では活性化された蛋白質C(APC)の純度が少なくとも95%であるのに対し、後者ではそのような限定がない点

で相違する。以下、各相違点につき検討する。

(相違点aについて)
甲第2号証には、APCの生理的意義及び抗血栓剤としての作用機作を概略、以下のように記述している

「最近数年間にわたり、いわゆる蛋白質Cー蛋白質Sートロンボモジュリンシステムは血液凝固の主要なダウンレギュレイテイングフォースであることがインビトロ実験で確立された。・・このシステムの鍵となるものはビタミンーK依存血漿チモーゲン(酵素前駆体)である蛋白質Cであり、活性状態のセリンプロテアーゼになったときに、血液凝固の主要な補助因子である凝固因子を不活化することによってトロンビン生成に大きく影響を与える。・・・
この報文において我々は、APCが有効な抗血栓剤であることを示唆する前臨床的薬学的データを示している。デイスカッションのセクションで我々は簡単に、なぜ活性化された蛋白質Cがある種のハイリスク患者におけるヘパリンの魅力的な代替物になる可能性があるのかその理論的理由をまとめた。」 (イントロダクション参照)

「ここで示された実験における抗血栓剤としてのAPCの有効性を理解するために、トロンビンの生成、フィブリンへのフィブリノーゲンの変換を起こす複雑な凝集反応における2つの重要なステップを理解することが必要である。第4図に示す2つの反応は、凝固因子XのXaへの変換、プロトロンビンのトロンビンへの変換である。2つの反応はいくつかの点で類似している。これらは液相では起こらず、血小板、白血球・・などの細胞表面で起こるインターフェイス現象である。・・・
APCが細胞表面で利用できるときに、凝固因子Xaとトロンビンの生成を効果的にシャツトダウンする。APCは必要時に生ずる抗凝固剤であり得る。トロンビンにはV及びVIII因子のVa及びVIIIa因子への変換が不可欠であり、Va、VIIIa因子はAPCにとって好ましい基質であるから、APCはトロンビンが生成される時、及びその場所に限りその作用を及ぼすであろう。このことは、すべての活性化されたセリンプロテアーゼを阻害するヘパリンとは対照的である。・・・
APCは血栓が生じている患者に対し少なくともへパリンと同様の効果を奏するばかりでなく、ヘパリンや経口抗凝固剤がもつ重篤な出血合併症を引き起こす可能性が少ないことを期待できるだろう。我々の考え及び医薬として蛋白質Cを発展させる戦略を理解するためには生理的にどのように蛋白質Cが活性化されるかを理解することが重要である。内皮細胞表面のレセプターであるトロンボモジュリンが重要である。・・・・・
トロンボモジュリン-トロンビンによる蛋白質Cの活性化の速度定数はトロンビンのみの場合の20000倍高い。…単純な解剖学的観察によれば、チモ一ゲンである蛋白質Cは、大血管の血栓症では無効な抗血栓剤ではないかと強く示唆されている。血管系の表面領域あるいはむしろ血漿量に対する表皮細胞表面の比を考慮すると、大血管の細胞表面、従ってトロンビンと複合体を作り蛋白質Cを活性化するトロンボモジュリンを利用する可能性は相対的に小さく、一方、マイクロ循環における表面領域、すなわち、体内の毛細血管の総和は、マクロ循環系の表面領域より少なくとも100,000倍以上大きい。従って、播種性血管内凝固のようなマイクロ循環系の血栓症では、蛋白質Cを活性化するのに十分な機会が理論的には存在する筈であり、チモ一ゲンは恐らくマイクロ循環系血栓症の治療に有用だと思われる。これに対し、大血管において進行性の血栓部位で利用可能なトロンボモジュリンは、十中八九蛋白質Cを活性化するには十分ではない。
これらの理由により、我々は、インビトロで予め活性化された蛋白質Cは、静脈血栓塞栓症や冠動脈閉塞、血栓性発作のような大血管の血栓症治療に好ましい処方であると結論づけた。」 (デイスカッション参照)

このように甲第2号証では、あらかじめ蛋白質Cが活性化されていれば接触する血管内皮表面の大きさに左右されることなくその作用を発揮することが期待でき、冠状動脈閉塞等の大血管にも適用可能との結論を導いている。したがって、すでにAPCの動脈血栓への適用は蛋白質C活性化の機序の点から理論的に説明されている。

更に、請求人が提示した甲第1号証は、遺伝子組換え法により血漿中の生理活性蛋白である蛋白質Cを製造する技術に関する文献であるが、APCの有用性に関連し以下の事項が記載されている。

「プロテインCは他のタンパク質と一緒になって、血栓症の誘因である、血液凝固(凝血)に対する最も重要なダウンレギュレーター(降下調整剤、down regulater)として作用すると思われる。換言すると、プロテインC酵素系は、抗凝血作用に関する主要な生理学的機構に係っている。プロテインCの生理学的重要性及び潜在的な治療上の重要性は、臨床上の所見から推察される。・・・先天性のホモ接合体プロテインC欠損症の場合には罹患した家族において、幼児期早期における急奔性紫斑病・・・による死亡がみられる。ヘテロ接合体性のプロテインC欠損症の場合には、罹患した人々は重篤な、再発性の血栓塞栓症に苦しむことになる。B型血友病又は第IX因子欠損症治療のための血漿濃縮物であって、不純物としてプロテインCを含んでいるものは、ヘテロ接合体性プロテインC欠損症に有効であると同時に、ホモ接合体性の血管内凝血を阻止し、治療するのにも有効であるということが臨床上、十分に確立されている。また、血栓塞栓症、あるいは、血栓塞栓症に至る前置的な病的状態・・・播種性血管内凝固、大けが、大手術を受けた状態・・・・・・にもプロテインCレベルが低くなるということがわかっている。」(甲第1号証に対応する日本出願の公開公報である甲第34号証の第4頁左上欄〜右上欄)

「組換えにより生産されたプロテインCは深部静脈血栓症、肺動脈塞栓症、末梢動脈血栓症、心臓または末梢動脈で生じた塞栓、急性心筋梗塞症、・・・・の疾患状態を予防、並びに治療するのにも有用であろう。・・・・活性化されたプロテインCはヘパリンよりも選択性が高く、トロンビンが生成し、繊維素トロンビンが形成された時、およびその位置でしか活性を示さない。それ故、プロテインCは、深部静脈血栓症を防止するために予防的に用いたとき、ヘパリンよりも有効であり、しかも出血性合併症を引き起こし難いと思われる。・・・末梢動脈の塞栓の場合にも・・・ヘパリンの代わりに活性プロテインCを用いることができる。・・・・・確立された深部静脈トロンビンー肺動脈塞栓の治療に匹敵しうる用量の活性プロテインCを携帯用のポンプで連続注入する方法は、心臓性の塞栓の予防に、実質上有効である。・・・・・組換えにより生産された活性プロテインCは、インビボでの繊維素(フィブリン)溶解の促進能力を有しているので、急性心筋梗塞の治療に有効である。・・・組織プラスミノーゲン活性化剤による治療の開始時に、プロテインCを負荷容量として1〜10mg与え、以後・・・プロテインCを連続注入する。 」 (甲第34号証第18頁左上欄〜第19頁右上欄)

上記甲第1号証によれば、蛋白質Cの抗凝血作用、及び蛋白質Cを含有する血漿濃縮物がヘテロ接合体性蛋白質C欠損症に有効であると同時に、ホモ接合体性の血管内凝血を阻止するという臨床上の知見により、蛋白質C並びにAPCが従来の血栓症治療薬であるヘパリンの代替薬として、静脈並びに動脈の血栓や塞栓の治療、予防に有用であるという理解が甲第2号証の頒布前の1986年に当業界にすでに存在していたことが窺われる。

甲第1号証及び甲第2号証において蛋白質CやAPCと対比されているヘパリンは、アンチトロンビンIIIの存在下でプロトロンビンからトロンビンへの変換やトロンビンの作用を阻害するのをはじめ、血液凝固機構の各種因子に作用して血液凝固の阻止、血小板凝集の抑制作用もあるとされ、静脈、動脈を含む血栓塞栓症に適用されることが周知(甲第15号証[適用][作用]の項参照)であるから、同様にトロンビン生成を阻止し血液凝固阻止作用を持つAPCについてもヘパリンと同じ、静脈、動脈の両方に対する適用の可能性を期待するのはきわめて自然であり、さらにAPCはヘパリンに比べ出血合併症の危険が少ないという利点は臨床上注目に値し、実用化への意欲を誘うものである。

甲第2号証は、冒頭で「活性化された蛋白質C(APC)は特殊な活性(Va、VIIIa因子の不活性化)をもつので魅力的な抗血栓塞栓剤となる可能性があることはインビトロの研究で予測されていた・・・」と述べているように、すでに当業界において予測されていたAPCの医薬用途の可能性につき、具体的に頸静脈血栓モデルの実験で確認したものとして位置づけることができ、動脈モデルでの確認は単にその延長線上にあるものということができる。

このように、甲第1,2号証には、APCにつき、当業者が動脈血栓症等の治療での有効性を理論的に予測し、具体的に動脈血栓モデルによりその作用を確認する強い動機付けが存在するが、甲第12号証によれば、本件出願の優先日当時にはヒヒを用いた動脈血栓のモデルもすでに確立されていたのであるから、これを利用して動脈における抗凝固活性や血小板凝集阻止などの抗血栓作用を確認することは当業者にとって、ことさら困難を伴うものではない。

被請求人は、甲第2号証について、静脈血栓症しか検討されていないので、動脈ではAPCのどんな循環水準があり、或る特定のAPCの血漿水準がイヌまたはサルまたは他の動物の動脈血栓症の治療に十分であるのかは示されないし、線維素分解の強力な阻害剤であるアミカ-が共投与されているので、このイヌの実験を被請求人のヒヒの実験と比較することはできないとし、さらに、甲第4号証の131頁に「外科手術の過程で、活性化された蛋白質C(APC)が、低用量へパリン療法に代わることができるかもしれないこと、および、手術後の時期に予防的に有用であるかもしれないことが示唆された。この理論的には魅力的な示唆を利用可能であることを実証するデ-タはほとんどないが、Lilly Research LaboratoriesのDr.N.Bangは、犬をモデルに用いた前臨床デ一タをいくつか提示している。」と記載されていることを挙げ、先行技術においては、Bang(甲第2号証および甲第1号証の著者)の静脈動物モデルのみを根拠に、静脈血栓症の治療においてAPCを臨床使用することに懐疑的であったことは明らかであると主張している。
しかしながら、イヌの静脈実験で使用されたアミカーはイヌでは線維素分解活性が高く、そのままではAPCの作用を確認できないため使用されているものであり、このように実験に用いた動物種特有の事情で共投与された薬剤があるからといって、他の動物での作用が予測不可能となるものではないし、実際アミカ-を共投与していないサルでもAPCはイヌで観察されたと同様の作用があることが確認されている。そして、APCの血栓に対する作用は上述したように、動物の静脈血栓の実験結果からも、理論上からも強く肯定されるものであるから、静脈実験におけるAPCの有効投与量、有効血漿水準などが直ち動脈における有効投与量、有効血漿水準になるかどうか示されていないとしても、当業者が、それらを実際に動脈実験で確認するのに十分な動機付けを与えるものである。
また、甲第4号証には、上記摘記部分に続いて「彼は手術の傷からの出血を起こすことなく頸静脈の停滞により生じた血栓へのフィブリノーゲンの付着防止にAPCが効果的であることを報告した。」との記載があるように、Dr.N.Bangのイヌモデルの実験がAPCの血栓症への臨床使用の実証データであることをむしろ肯定するものであって、臨床使用に懐疑的であったと解することはできない。

さらに被請求人は、動脈血栓と静脈血栓は別のものであり、ある形の血栓症の治療に有用である治療が、他の形態の血栓症の治療にも有用であろうと予想することはないとも主張する。
しかしながら、トロンビンの生成の阻止あるいはトロンビン自体を不活性化する作用(以下、抗トロンビン作用という。)のある薬剤については以下の理由から静脈血栓にも動脈血栓にも有効であることが予測可能であるといえる。
すなわち、静脈血栓形成には血流の遅滞化と凝固能の亢進が主として作用するのに対し、動脈においては血管内皮の損傷に始まる血小板の粘着、凝集反応が血栓形成の最も初期の過程であること、動脈血栓の本体が血小板とフィブリンであることはよく知られている(甲第6号証第73頁左欄、甲第7号証)。したがって、血液凝固(血液凝固の最終段階はフィブリノーゲンからフィブリンへの変換であるがこの反応にはトロンビンが必須である。)はいずれの血栓においても必要である。
また、動脈血栓における血小板凝集物の成長にはトロンビンが関与すること、トロンビンは血小板の活性化に必要であり、ヘパリンや他の合成インヒビターはフィブリン形成のみならず血小板凝集も妨げるであろうとされている(甲第11号証192頁)。そうすると、トロンビン生成が阻害されるとトロンビンによるフィブリノーゲンからフィブリンの生成すなわち血液凝固が阻止され、トロンビンによる血小板凝集物の成長も阻止されることとなり、結果的に静脈血栓及び動脈血栓の発生や成長が阻害されることは当業者には容易に理解されることであって、抗トロンビン作用のある薬剤は静脈血栓及び動脈血栓の両者に適用可能と考えるのが自然である。実際、抗トロンビン作用のあるヘパリンが両者に有効な薬剤として臨床使用されている(甲第15号証)ことは前述のとおりである。
被請求人は、ヘパリンについては、動脈血栓症にではなく、うっ滞型静脈血栓症に対して治療上有効であること(乙第1号証)又、動脈血栓症におけるへパリンの治療効果については論争があること(乙第2号証)、ヘパリンのごく少量の投与量が静脈モデルで有効であったが、動脈血栓症モデルで何らかの抑制を示すためには、標準的な臨床投与量より高い投与量が必要であったこと(乙第3号証)、凝固因子の調節因子はまだ全部知られていないし、解明もされていない(乙第6号証)とし、静脈血栓症モデルの結果から動脈血栓症モデルの結果は予測できないとも主張するが、これらにより甲第6号証によるヘパリンの動脈血栓への臨床適用の事実が否定されるものではない。むしろ乙第6号証(図1-3)には、蛋白質CがトロンビンによりオートプロトロンビンIIA(F-Xaのインヒビター)に変化することや、血小板の活性化にトロンビンが関与すること、アンチトロンビンIII(ヘパリンコファクター)がF-Xaを不活性化することなど、上記の従来からの知見と合致する内容が明記されており、ヘパリンの作用やヘパリン代替物としてのAPCの可能性を疑わせる根拠とはなり得ない。
また、被請求人は、乙第4、5号証、甲第13、14号証は、圧倒的多数の蛋白質C欠乏患者において、蛋白質C欠乏は、動脈血栓症ではなく、静脈血栓症に付随していることを教示するとも主張するが、上記証拠は、あくまでも蛋白質C欠損と静脈血栓症との臨床上の相関を示すにすぎず、蛋白質Cと動脈血栓症との関連を否定するに至っていないし、蛋白質Cとは異なり血管内皮細胞表面での活性化を要しないAPCの動脈血栓に対する有効性を否定するものでもない。

なお、被請求人は、請求人が被請求人のヒヒ動脈血栓症モデルに、rAPC(組み換え技術により製造されたAPC)材料と資金を提供しており(乙第15号証の宣誓供述書)、請求人自身の従業員が、本件特許の発明者と共著で、この試験結果は重要で、しかも画期的であったとする論文を刊行した(乙第8号証参照)ことから、請求人の主張は信頼性がないとも主張するが、本件発明の進歩性の有無については出願当時の公知技術、技術水準を参酌して当業者が容易に発明することができたか否かが客観的に判断されるものであり、ヒヒ動脈モデル実験の実施に至る当事者間での事情や、実験結果に対する私的な評価に左右されるものではない。

そして、他のいずれの証拠を見ても、甲第1,2号証のAPCの動脈血栓塞栓治療への適用可能性の教示に反して、動脈モデルでの実験を躊躇させるべき阻害要因は何ら見あたらない。

(相違点bについて)
生体成分を最終的にヒトに投与する薬剤とする場合、当業者としてはできるだけ純度の高いものを使用しようと考えるのは当然であり、甲第2号証でも精製の重要なステップはAffigel 10ビーズに固定されたCa++-依存性モノクローナル抗PC抗体を利用した免疫親和性クロマトグラフィーである(MATERIALS AND METHODSの項参照)とされ、その精製法により得られた蛋白質Cを活性化してAPCとし実験に用いている。
蛋白質を高度に精製するのに、甲第2号証のようにその蛋白質に特異的なモノクロ一ナル抗体を固定した免疫親和性カラムを用いることは、本件特許出願当時、既に技術常識であるところ(例えば甲第4,5、20,21号証)、甲第4号証には95%以上の純度の蛋白質Cが得られたことが記載され、甲第5号証においては、蛋白質Cの純度についての数値は記載されていないが、ウエスタンブロット分析で第4図のSDS-PAGEで現れたバンドはいずれも不純物ではないことが確認されている。また、甲第20号証(第3頁左下欄)には蛋白質CなどのビタミンK依存蛋白質をモノクロ一ナル抗体を用いた免疫親和性カラムで高純度に、すなわち不純物はほとんどなく、治療に用いることも更に精製することもできると記載されている。また、甲第3号証には免疫親和性カラム法によらない純度95%蛋白質Cの精製法も報告されている。
したがって、医薬に使用しうる程度の純度の蛋白質C、少なくとも95%以上の純度の蛋白質Cはすでに従来の精製方法で得られることが広く知られていたのであり、さらに、蛋白質Cの活性化を、処理後の分離が可能な固定化されたトロンボモジュリン-トロンビン(甲第5号証第1192頁)やトロンビンセファロースビーズ(甲第19号証、本件明細書で蛋白質Cの活性化方法として引用されている)で行うことも知られている点を考慮すれば、少なくとも95%純度の蛋白質Cをこのような活性化剤で処理し、さらに必要に応じて適宜の精製工程を追加することにより、「少なくとも95%の純度のAPC」を得るのは当業者にとって容易になしうる範囲ということができる。

被請求人は、甲第3〜5号証には「少なくとも95%の純度を有するAPC」を含有する医薬組成物が如何にして調製されるかは実質的に記載されていないとし、甲第3号証のAPC調製物は有害なベンズアミジンが、甲第5号証のAPC調製物には有害なMOPSが含まれ、医薬組成物とは見なされないと主張する。
しかしながら「少なくとも95%純度を有するAPC」は、本件明細書の記載においては、ヒト血漿プロトロンビン複合態の濃縮液を蛋白質Cの源泉とし、これをベンズアミジンを含む緩衝液で希釈し、PCのL鎖に対して向けられたモノクローナル抗体を結合させた免疫親和性カラムに加え、PCをを分離し、トリスで緩衝した塩水で透析後、プロトロンビンーセファロースビーズで活性化したものであり(本件特許公報第3頁右欄参照)、免疫親和性カラム処理によって得た精製度の高い蛋白質Cをトロンビンセファロースビーズで活性化して「少なくとも95%純度を有するAPC」を得たのであって、「少なくとも95%APC」を得るために特殊な精製処理が採用されているわけではない。
また、本件明細書に記載の蛋白質C精製方法においても、ベンズアミジンは当初の希釈緩衝液中に含まれているが、精製工程で有害成分を含む緩衝液を使用することが直ちに精製物の医薬用途を阻害するものではなく、医薬組成物として好ましくない低分子成分が途中の段階で存在しても最終的に透析などの処理により除去することは当業者が通常行う範囲のことである。
したがって、「少なくとも95%の純度のAPC」について直接的な記載がないとしても、従来法で得られる高純度の蛋白質Cを十分に活性化処理し、必要に応じ適宜な精製処理を付加することにより少なくとも95%以上の純度の医薬用途に使用可能なAPCが得られることは当業者が容易に理解しうることである。

上記のとおり、a,bの相違点にはいずれも格別の困難性はなく、本件特許明細書の記載から見て、本件第1発明の効果にしても当業者の予測する範囲を越えるものではない。
したがって、本件第1発明は、本件の優先日当時の技術水準を参酌すれば甲第1,2号証に記載された発明及び甲第3、5号証に記載された蛋白質Cの精製技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

本件第2〜16発明は、いずれも請求項1を直接的、間接的に引用しており、甲第2号証との相違点a、b及びそれについての判断は上記の本件第1発明と重複するため、以下に記載する本件第2発明以下の判断においてはa、b以外の相違点に対する判断を追加的に記載するに留める。

(2)本件第2発明について
本件第2発明は、本件第1発明に製薬学的に受容可能なキャリヤ一を含むものであるが、医薬組成物において、かかる成分を含ませることは常套の手段であるから、本件第1発明と同様、甲第1,2号証の発明及び甲第3、5号証に記載されたPC精製技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(3)本件第3発明について
本件第3発明は、本件第1発明の医薬組成物に一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせを含むものである。
当業界において、異なる作用機作で同種効果を奏する2つ以上の薬剤を併用し、単用による副作用等の緩和を図ることは当業者が一般的に試みることであるが、甲第24号証によれば組織プラスミノ一ゲン活性化因子(t-PA)はフィブリンを可溶化する作用があり、急性心筋梗塞などの治療に有用であることが、甲第22,23号証にはAPCがt-PAインヒビタの産生を抑制することが記載されていることから、心筋梗塞においてAPCはt-PAの作用を高めることが理論的に期待され、甲第1号証においても「組み換えにより生産された活性プロテインCは、インビボでの繊維素(フィブリン)溶解の促進能力を有しているので、急性心筋梗塞の治療に有効である。活性プロテインCを組織プラスミノーゲン賦活剤と一緒に、心筋梗塞の急性期に投与するとよい。」と併用を示唆している。
被請求人は、出願当時の技術水準では、血栓溶解剤が重大な血液学的副作用をもたらすことが知られており、この点を考慮すれば、当業者であれば、APCと、t-PAなどの血栓溶解剤の両方を組み合わせれば、血栓溶解剤の副作用を軽減するよりは一層悪化させることになると結論付けられ、両者の組み合わせの処方は到底想到し得ないとするが、APCは出血性合併症の危険が少ないことは甲第1,2号証にすでに開示されており、当業者は、むしろAPCの併用により、t-PAの用量を減じることができ、副作用の緩和が図れると考えるのが自然である。
そうすると、本件第3発明にしても、甲第1,2号証、甲第3、5号証,甲第22〜24号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)本件第4発明について
本件第4発明は、本件第2または第3発明において特定範囲の活性化蛋白質C血漿レベルを提供するのに充分な活性化された蛋白質Cを含む医薬組成物であるが、医薬組成物中の有効成分の含有量を実験的に決定することは、当業者の通常行う範囲のことにすぎない。
よって、本件第4発明は、上記5-1(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(5)本件第5発明について
本件第5発明は、蛋白質Cが血漿誘導されたものであることを特定するものであるが、甲第2号証、甲第3号証、甲第19号証に見られるように、ヒト血漿由来の蛋白質Cは周知であるから、蛋白質Cの源泉として血漿を選択することに何ら困難はない。よって、上記5-1(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(6)本件第6発明について
本件第6発明は、蛋白質Cが組み換え技術によって製造されたものであるが、甲第1、2号証、甲第4、5号証にもあるように、組み換え技術によって製造された蛋白質Cは当業者にとってすでに周知であり、蛋白質Cの源泉としてこれを選択することに何ら困難はない。
よって、上記5-1(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(7)本件第7発明について
本件第7発明は、組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナ一ゼ、ストレプトキナ一ゼ、プラスミノ一ゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナ一ゼ-プラスミノ一ゲン複合体からなる群より選ばれた一種または複数の血栓溶解剤を含むものである。
しかしながら、組織プラスミノ一ゲン活性化剤(t-PA)のほかウロキナーゼ、プロウロキナーゼ等の血栓溶解酵素も当業者のよく知るところであるから(甲第24号証)、これらとAPCとを併用することは上記5-1(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(8)本件第8発明について
本件第8発明は、血栓溶解剤が組織プラスミノ一ゲン活性化剤であり、それが0.1〜0.4mg/kg-hrの投与量をもたらす量で含まれているものである。
しかしながら、動脈血栓症等の治療に用いる組織プラスミノーゲン活性化剤の投与量を検討し、適切な量を設定することは、当業者が普通に行う範囲のことであるから、本件第8発明は、5-1(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(9)本件第9発明について
本件第9発明は、活性化された蛋白質Cが(a)免疫親和性カラムを用いて、蛋白質Cを含有する源泉から蛋白質Cを精製すること、及び(b)固定トロンビンを用いて、精製された蛋白質Cを活性化することによって得られたものである。
しかしながら、すでに5-1(1)の相違点bの項に述べたとおり、甲第4号証、甲第5号証、甲第20号証、甲第21号証には、免疫親和性力ラムを用いて蛋白質Cを含有する源泉から蛋白質Cを精製すること、甲第19号証には精製された蛋白質Cを固定トロンビンで活性化することが開示されており、活性化APCを上記手段の組み合わせにより得ることは当業者が容易に行いうることである。
よって、5-1(1)または(3)で引用した証拠及び上記証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(10)本件第10発明について
本件第10発明は、本件第9発明における蛋白質Cが血漿から誘導されたもの、あるいは組み換え技術によって製造されたものである。しかしながら、いずれも本願出願時において蛋白質Cの源泉として広く知られていたものであるから、5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(11)本件第11発明について
本件第11発明は、本件第9または第10発明において蛋白質Cの源泉が、人間の血漿フラクションであるものであるが、ヒトの血漿フラクション中に蛋白質Cが存在することは周知であるから、蛋白質Cの源泉として、人間の血漿フラクシヨンを用いることに何ら創意を要しない。
よって、5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(12)本件第12発明について
本件第12発明は、蛋白質Cの源泉が、血漿プロトロンビン複合体濃縮物であるものであるが、PCが血漿プロトロンビン複合体濃縮物中に含まれることは周知であり、甲第19号証(第1068頁左欄)においてもPCの源泉として商業用IX因子濃縮物Proplex(これはヒト血漿由来のプロトロンビン複合体製剤である)が使用されている。
よって、本件第12発明も、5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(13)本件第13発明について
本件第13発明は、免疫親和性カラムが、これに結合した抗体を含み、この抗体が蛋白質CのL鎖に結合していることを特徴とするものである。
しかし、甲第21号証(第6〜7頁参照)には、蛋白質CのL鎖を認識するカルシウム依存性の抗体を不溶性担体と結合させた吸着体を使用して蛋白質Cを分離することも記載されている。。
被請求人は、甲第21号証は、カルシウム存在下でのみヒト蛋白質Cを特異的に認識するモノクロ-ナル抗体に関するものであって、本件特許で用いられた抗体は、先行技術における抗体とは異なり、カルシウム依存的な抗体ではない旨主張するが、請求項13はカルシウム依存的な抗体を排除するものではないから、かかる主張は本件第13発明の構成に基づくものではない。
よって、本件第13発明にしても5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(14)本件第14発明について
本件第14発明は、バイオレックス70での吸着または急速蛋白質液体クロマトグラフィ一を用いて、活性化された蛋白質Cから残存しているトロンビンが除去されるものである。
しかしながら、トロンビンは凝固系の中心をなす酵素であって、抗凝固蛋白のAPCとは逆方向に作用するものであり、APCを医薬とする場合はそれを十分に除いておく必要性があることは当業者にとって自明のことであり、甲第9号証(第24頁)、甲第19号証(第1068左欄第34〜37頁)に見られるように蛋白質C中のトロンビンをバイオレックス70レジンにより除去することも周知である。したがって、必要に応じかかる精製処理を付加することは当業者が容易に行いうることである。 被請求人は、甲第19号証(第1069頁の第1欄第1段落)には「活性化された蛋白質C産物では、トロンビン活性が検出されなかった。」との記述がある旨主張するが、この方法でえられたAPCがどのような場合でもさらなるトロンビン除去を要しないことを意味するものではない。トロンビンーセファロースビーズを使用した場合は活性化後の分離が可能であり、遊離トロンビンを使用した場合に比べ、トロンビンによる汚染はかなり少ないと考えられるが、APCを医薬として用いようとする場合にはわずかなトロンビン汚染も問題となるのであるから、求められる精製度に応じ、バイオレックス70レジンでのトロンビン除去を付加することは当業者が適宜行うことである。
よって、5-1(9)で引用した証拠及び上記証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(15)本件第15発明について
本件第15発明は、一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせが、前記の活性化された蛋白質Cおよび前記キャリヤ一と混合されたものである。しかしながら、5-1(3)で記載したように、t-PA、その他の血栓溶解剤と一定純度のAPCとを併用する発明は当業者が容易になしうるものにすぎず、これに、さらに特定のキャリヤ-を加えることも常套の手段の付加にすぎない。
よって、5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(16)本件第16発明について
本件第16発明は、本件第15発明の医薬組成物に含まれる血栓溶解剤が組織プラスミノ-ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ等からなる群より選ばれたものであるが、組織プラスミノ-ゲン活性化剤を選択することも容易であることはすでに5-1(3)で述べた。
よって、本件第16発明にしても5-1(9)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)結び
以上のとおり本件発明は、本件出願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明並びに当業界における周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、その特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、イ〜エの無効理由についてさらに検討するまでもなく、これらの特許は特許法第123条第1項第2号規定により無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人の負担とすべきものとする。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-24 
結審通知日 2003-04-30 
審決日 2003-05-15 
出願番号 特願昭63-292222
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 聖子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 深津 弘
竹林 則幸
登録日 1998-04-10 
登録番号 特許第2766986号(P2766986)
発明の名称 動脈の血栓症的閉塞または塞栓症を阻止するための医薬組成物  
代理人 村田 紀子  
代理人 小林 純子  
代理人 武石 靖彦  
代理人 片山 英二  
代理人 ▲吉▼▲崎▼ 修司  
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