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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22F
管理番号 1084621
審判番号 審判1999-8243  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-07-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-05-14 
確定日 2003-10-14 
事件の表示 平成6年特許願第254124号「硫黄含有粉末冶金工具鋼物体」拒絶査定に対する審判事件[平成7年7月18日出願公開、特開平7-179908]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続きの経緯及び本願発明
本願は平成6年9月26日の出願(パリ条約による優先権主張1993年9月27日 米国)であって、その後、平成11年5月14日付けで提出された手続補正書は却下されたから、本願の請求項1〜7に係る発明は、平成9年9月19日付けで提出の手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7にそれぞれ記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 15μm以下の最大硫化物サイズを持ち、重量%で、0.80〜3.00%の炭素、0.20〜2.00%のマンガン、0.10〜0.30%の硫黄、0.04%までのリン、0.20〜1.50%のシリコン、3.00〜12.00%のクロム、0.25〜10.00%のバナジウム、11.00%までのモリブデン、18.00%までのタングステン、10.00%までのコバルト、0.10%までの窒素、0.025%までの酸素及び残り鉄及び付随的不純物よりなる工具鋼合金の窒素ガス噴霧され、予め合金化した粒子の熱加工され、完全に密に圧密された塊よりなる機械加工できる粉末冶金製造された硫黄含有工具鋼物体。」

2、引用例とその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-80305号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。
(イ)「【産業上の利用分野】
本発明は、機械的性質を低下させることなく被研削性、被切削性を向上させた粉末高速度鋼製品の製造方法に関する。
【従来の技術】
粉末高速度鋼から工具などの製品を製造するには、熱間静水圧プレス(HIP)-鍛造-切削または研削による仕上げ-の工程を経ることが多い。従来、粉末高速度鋼の切削性を向上させる目的で、SやSeのような快削元素を添加し、主としてMnS(Se)からなる介在物を生成させる手段がとられて来た。このような介在物は、溶湯噴霧により得た段階の高速度鋼粉末中では、微細かつ均一に分散している。しかし、その後の加熱工程で、粉末内部において介在物が凝集したり、粉末表面において濃化したS成分のもたらす介在物の凝集粗大化が起り、大型化した介在物が鍛伸工程で延伸されて異方性を高めるとともに、熱間加工性を悪くしていた。・・・事実、HIP-鍛造による粉末高速度鋼製品中には、長さ1μmを超える介在物の存在がしばしば観察される。」(第1頁右下欄第2行〜第2頁左上欄第6行)
(ロ)「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、粉末高速度鋼製品・・・加熱工程において快削化介在物の粗大化が進まず、かつ鍛伸工程における介在物のアスペクト比(縦、横の比)の増大が押えられ、したがって機械的特性が低下せず、しかも被削性向上効果を十分に享受できる製品を製造する方法を提供することにある。」(第2頁左上欄第7〜14行)
(ハ)「【実施例】
下記の合金組成(重量%、残部Fe)をもつ工具用粉末ハイス鋼「DEX80」に、快削元素としてSを0.01〜1.5%の範囲で種々の量添加した鋼を溶製し、ガス噴霧法により粉末化した。
C Si Mn Cr Mo V W Co
2.8 0.3 0.3 4.2 6 5 14 10
この粉末を・・・・HIP処理した。得られた焼結体について、A)そのまま、B)1200℃において鍛造・・・に分け、それぞれの試料について、快削化介在物の占める体積%および平均アスペクト比(L/T)をしらべた。この測定は、大きさ0.1μm以上の粒子を対象に行なった。
試料を焼入れ焼戻し処理した後、・・・研削、・・・切削、および衝撃試験を行って、下記の物性を測定した。
研削比:・・・・・
抗折力:最も低い方向の抗折力
・・・それらのデータを、下表に示す。」(第2頁欄左下第15行〜第3頁左上欄第4行)
なお、第3頁下段には、実施例の試験結果を示す表が示されている。
(ニ)「表のデータから、本発明の製造方法に従えば、介在物のアスペクト比として好ましい1.5以下の値が確保でき、それによって製品の被研削性と被切削性が向上し、しかも抗折力も高く得られることがわかる。」(第4頁左下欄第3〜7行)

3、対比・判断
3-1、引用例1の記載について
本願発明と引用例に記載の発明とを対比するにあたり、まず、引用例の記載について検討する。
上記イ、ハで摘記した記載を総合すると、引用例には、快削化介在物(MnS)をもち、重量%で、2.8%の炭素、0.3%のマンガン、0.01〜1.5%の硫黄、0.3%のシリコン、4.2%のクロム、5%のバナジウム、6%のモリブデン、14%のタングステン、10%のコバルト及び残り鉄よりなる工具鋼合金をガス噴霧させ、得られた粉末を熱間静水圧プレス(HIP)させ、あるいはさらに鍛造させ、圧密された塊よりなる機械加工できる粉末冶金製造された硫黄含有工具鋼物体が記載されているということができる。
そして、そのような引用例の記載において、快削化介在物が硫化物であることは明らかであり、そのサイズに関し、上記摘記した記載ロ、ニには、介在物(硫化物)は粗大化が進まず、かつ、アスペクト比の増大が抑えられて、1.5以下の値が確保できることが記載され、さらに、それによって製品の機械的特性が低下しないことが記載されているから、硫化物はその最大サイズが制限されたものということができる。また、ガス噴霧させて得られた粉末は予め合金化された粒子であり、その粒子を熱間静水圧プレスし、鍛造することにより、完全に密に圧密された塊となることは明らかである。さらに、工具鋼合金は残りとして鉄の外に付随的不純物を有することも明らかである。
そうすると、引用例には、制限された最大硫化物サイズを持ち、重量%で、2.8%の炭素、0.3%のマンガン、0.01〜1.5%の硫黄、0.3%のシリコン、4.2%のクロム、5%のバナジウム、6%のモリブデン、14%のタングステン、10%のコバルト及び残り鉄及び付随的不純物よりなる工具鋼合金のガス噴霧され、予め合金化した粒子の熱加工され、完全に密に圧密された塊よりなる機械加工できる粉末冶金製造された硫黄含有工具鋼物体が記載されているものといえる。

3-2、対比
次に、そのような引用例に記載の発明と本願発明とを対比すると、本願発明でも、最大硫化物サイズが制限されたものということができるから、両者はともに、
「制限された最大硫化物サイズを持ち、重量%で、2.8%の炭素、0.3%のマンガン、硫黄、0.3%のシリコン、4.2%のクロム、5%のバナジウム、6%のモリブデン、14%のタングステン、10%のコバルト及び残り鉄及び付随的不純物よりなる工具鋼合金のガス噴霧され、予め合金化した粒子の熱加工され、完全に密に圧密された塊よりなる機械加工できる粉末冶金製造された硫黄含有工具鋼物体」
である点で一致するが、次の点で相違するものである。
(相違点1)
制限された最大硫化物サイズに関し、本願発明が、「15μm以下の最大硫化物サイズを持ち」としたのに対し、引用例に記載の発明ではそのサイズが不明な点。
(相違点2)
工具鋼合金に関し、本願発明が「0.10〜0.30%の硫黄」としたのに対し、引用例に記載の発明は「0.01〜1.5%の硫黄」としている点。
(相違点3)
工具鋼合金に関し、本願発明が「0.04%までのリン、0.10%までの窒素、0.025%までの酸素」を有するのに対し、引用例に記載の発明ではそれらを有するかどうか不明な点。
(相違点4)
工具鋼合金のガス噴霧にあたり、本願発明が「窒素ガス噴霧」としたのに対し、引用例に記載の発明ではどのようなガスを噴霧するのか不明な点。

3-3、当審の判断
そこで、相違点について検討する。
(1)相違点1について
硫黄含有工具鋼において、硫化物は熱間加工により圧縮されて加工方向に延伸して存在しており、さらに、本願明細書の「【0023】実験及び市販工具鋼における硫化物のサイズ及び分布は、夫々図1及び図2に示されている。・・・この発明による実験工具鋼における全ての硫化物が、硫黄含量に関係なく、その最長寸法で約15ミクロン以下であることも明らかである。更に、実験工具鋼における硫化物のサイズが、その最長寸法において、類似の組成の市販工具鋼における硫化物より相当に小さいことが明らかである」という記載や本願の図1、2に示された硫化物形状を参照すると、本願発明における「15μm以下の最大硫化物サイズ」とは、延伸した方向の最大長さをそのように制限したものであるということができ、さらに、そのようなサイズに制限した目的は、「硫黄の存在及び生じている硫化物が、曲げ破壊強度により示されたように、靱性を有意に劣化させない」(本願明細書の段落【0008】)ためであるということができる。
一方、引用例に記載の発明では、硫化物のサイズについて、アスペクト比で1.5以下が好ましいとしているが、それは「大型化した介在物が鍛伸工程で延伸されて異方性を高める」ことがないようにするため(上記イ、ロで摘記した記載参照)、すなわち、延伸した方向の長さが大きくならないようにするためであり、かつ、もともと硫化物は粗大化しないようにされているから、アスペクト比で規定したということは、実質的に延伸した方向の長さを制限したものということができる。しかも、そのようにする際に、引用例に記載の発明は、曲げ破壊試験による抗折力を測定して材料の脆性を調べ、靱性を劣化させない範囲を選択したものであるから(上記ハで摘記した実施例の記載や3頁の表参照)、引用例に記載の発明において、物体の靭性を劣化しないようにするために、最大硫化物サイズをこの相違点に係る本願発明の範囲内とすることは当業者が容易になし得ることであり、しかも、そのようにしたことによる作用効果は、当然予想できた範囲内のものといえる。
(2)相違点2について
鋼の被削性を向上させるために、硫黄を0.10〜0.25%の範囲で含有させることは周知技術であるから、引用例に記載の発明において、硫黄の含有量を、この相違点に係る本願発明の範囲内のものとすることは当業者が適宜なし得ることである。
(3)相違点3について
リン、窒素、酸素は、意識的に添加するかどうかにかかわらず、不純物元素として工具鋼には必ず存在する元素であるとともに、それらの元素の存在によって鋼がどのような影響を受けるかもよく知られていることであるから、それらの元素の添加量、あるいは、不純物としての許容量は、当業者が目的に応じて適宜定め得るものである。しかも、リン、窒素、酸素のそれぞれの含有量をこの相違点に係る本願発明のように規定する理由について、本願明細書中には何の説明もなされていない。
そうすると、引用例に記載の発明において、それぞれの元素の含有量を、この相違点に係る本願発明の範囲内に規制することは当業者が適宜なし得ることである。
(4)相違点4について
工具鋼合金に対し窒素ガスを噴霧することにより予め合金化した粒子とすることは周知技術であるから、引用例に記載の発明において、この相違点に係る本願発明のようにすることは当業者が適宜なし得ることである。
(5)当審の判断のまとめ
各相違点に関する構成は、上記のようにいずれも当業者が容易になし得るものである。しかも、本願発明は各相違点のようにしたことにより特に相乗的な作用効果を奏するものではない。

4、むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-11-29 
結審通知日 2001-12-14 
審決日 2001-12-26 
出願番号 特願平6-254124
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 明弘  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 大橋 賢一
中村 朝幸
発明の名称 硫黄含有粉末冶金工具鋼物体  
代理人 桑原 英明  

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