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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1084861
異議申立番号 異議1999-70739  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-03-02 
確定日 2003-10-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第2792373号「非水電解液二次電池」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2792373号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2792373号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年11月30日になされ、平成10年6月19日に、その発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月22日に訂正請求がなされ、これに対し訂正拒絶理由通知がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】繰り返し充放電可能な正極と、アルカリ金属イオンを含む非水電解液と、アルカリ金属イオンを吸蔵放出することが可能な炭素材料より成る負極を具備した非水電解液二次電池において、
負極が少なくとも平均粒径10〜50μmの粒子からなる炭素材料と合成樹脂バインダーとの混合物からなり、前記炭素材料は、X線広角回折法による(002)面の面間隔が0.337nm未満、C軸方向の結晶子長さ(Lc)が100nm以上、負極集電体に圧延後の充填密度が1.3g/cm3以上、1.6g/cm3 以下であることを特徴とする非水電解液二次電池。」
2-2.刊行物に記載された発明
当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開平4-196055号公報)には、
「リチウムを吸蔵した粒状または粉末状炭素をリチウムを吸蔵した炭素繊維に担持させたことを特徴とするリチウム二次電池用負極。」(特許請求の範囲)
が記載され、また、
「実施例
以下、本発明の詳細について一実施例により説明する・
異方性のピッチを2000℃以上の温度で焼成した直径10μmで格子面間隔(d002)が3.35〜3.40Å、結晶子の大きさLc,Laがともに200Å以上、真密度が2.0以上の炭素繊維からなる厚さ約0.3mmの織布に、前記炭素繊維をボールミルにて粒径2〜10μmに粉砕し、EPDMをバインダーに用いてペーストとしたものを塗布し、カレンダーロール掛けをしてリチウム二次電池用負極を形成した。
この負極の炭素充填密度を調査し、その結果を第1表に示した。
また、この負極と正極を組み合わせ、試作電池を組み、充放電試験を実施し、負極の単位体積当りの放電容量と電池の放電持続時間を調査した。その結果を第2表と第2図に示す。
なお、正極には、LiCoO2を活物質とし、これに・・・を混合してペーストにし、アルミニウムのエキスパンドメタルに塗布圧着したものを用いた。・・・電解液はLiClO4-PC(過塩素酸リチウムのプロピレンカーボネイト)溶液を用いた。」(第2頁左上欄6行〜右上欄11行)
「比較例2
実施例で用いた炭素粉末とバインダーとからなるペーストをニッケルエキスパンドメタルに塗布、圧着して負極を形成し、その他は実施例と同様にして試作電池を製作した。そして、実施例と同様に負極の炭素充填密度、負極の単位体積当りの放電容量、電池の放電持続時間をそれぞれ調査した。その結果を第1表、第2表、第2図に示す。」(第2頁左下欄7行〜15行)
「第1表、第2表、第2図の結果から、本発明品は従来品に比べ、炭素充填密度が高いため、単位体積当りの容量が優れ、リチウム二次電池に用いると、電池の放電持続時間が長くなることが分った。」(第2頁右下欄7行〜11行)
と記載され、
第1表には、実施例、比較例2の炭素充填密度が、それぞれ、1.4g/cm3、1.1g/cm3あることが、第2表には、実施例、比較例2の単位体積当りの容量が、それぞれ、410mAh/ml、330mAh/mlであることが、また、第2図には、実施例電池の放電持続時間が、比較例1電池、比較例2電池のものに比べて長いことが示されている。
同じく引用された刊行物2(特開平4-337247号公報)には、
「本発明でいう炭素網面の面間隔d002が0.337nm未満の黒鉛質とはたとえばグラファイのごとく炭素網面の積層が規則正しく積層された炭素質材料のことをいう。炭素質材料はその出発原料及びその処理(製造)方法により種々の構造をを取るが、いずれの材料も高温処理によりその炭素網面の面間隔d002は小さくなり、炭素網面の積層厚みLcは大きくなる傾向にあり、グラファイトは最も小さい面間隔d002=0.3354nmを持つ。」(第4欄3〜11行)
「本発明の炭素質材料はd002が0.337nm未満のものが特に有効であり、d002が0.337nm以上であると電流効率が低くなったり、炭素当りのリチウム吸蔵量(利用率)が低くなったりするので好ましくない。」(第4欄20〜24行)
「本発明で用いる黒鉛の炭素網面の積層厚みLcは特に限定するものではないがグラファイト化に関してLcも重要なパラメータであり、好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上がよい。」(第4欄35〜38行)
「本発明に用いる黒鉛の形状は粉状、繊維状等があり、特に限定するものではないが、粉状では充填密度を大きくしやすいので好ましく用いられる。粒子径が0.1〜50ミクロン、好ましくは1〜50ミクロンの粉状が好適に用いられる。」(第4欄43〜47行)
「【実施例1】グラファイト(・・・d002=0.3355、Lc>100nm)100重量部に対し、スチレン/ブタジエンラテックス・・・を加え混合し、塗工液とした。10μCu箔を基材としてこの塗工液を塗布乾燥し、・・・負極電極を得た。」(第6欄35〜43行)
と記載されている。
2-3.対比・判断
訂正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「LiCoO2を活物質とし、これに・・・を混合してペーストにし、アルミニウムのエキスパンドメタルに塗布圧着した正極」、「LiClO4-PC(過塩素酸リチウムのプロピレンカーボネイト)溶液」、「リチウム二次電池用負極」、「炭素繊維をボールミルにて粒径2〜10μmに粉砕したもの」及び「EPDM」は、それぞれ、訂正発明における「繰り返し充放電可能な正極」、「アルカリ金属イオンを含む非水電解液」、「アルカリ金属イオンを吸蔵放出することが可能な炭素材料より成る負極」、「粒子からなる炭素材料」及び「合成樹脂バインダー」に相当し、また、刊行物1に記載された発明の実施例において、炭素材料は格子面間隔(d002)が3.35〜3.40Åであり、0.337nm(3.37Å)未満のものを含み、負極の炭素充填密度は1.4g/cm3(1.3g/cm3以上、1.6g/cm3 以下)あるから、両者は、「繰り返し充放電可能な正極と、アルカリ金属イオンを含む非水電解液と、アルカリ金属イオンを吸蔵放出することが可能な炭素材料より成る負極を具備した非水電解液二次電池において、負極が炭素材料と合成樹脂バインダーとの混合物からなり、前記炭素材料は、X線広角回折法による(002)面の面間隔が0.337nm未満、負極支持体に圧延後の充填密度が1.3g/cm3以上、1.6g/cm3 以下である非水電解液二次電池。」で一致し、(1)炭素材料の粒径が、訂正発明においては、「平均粒径10〜50μm」であるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、「粒径2〜10μm」である点、(2)「C軸方向の結晶子長さ(Lc)が、訂正発明においては、「100nm以上」であるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、「200Å(20nm)以上」である点、(3)負極支持体が、訂正発明においては、負極集電体であるのに対し、刊行物1に記載された発明においては、「炭素繊維からなる織布」である点で相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(1)について
本件特許明細書の段落【0013】には、「炭素材料とバインダーを有機溶剤でペースト状にして塗布する負極の場合、均一に塗布するためには、炭素粒子の粒子径と表面積が重要な因子となる。・・・炭素材料の平均粒子径は5μm以上50μm以下、表面積は4m2/g以上、20m2/g以下が好ましい。」と記載され、また、表1によれば、充填密度が1.37g/cm3の場合、平均粒子径(平均粒径)が10μmの負極を用いた二次電池の放電容量は472mAh/cm3であり、10μmよりも平均粒径が大きい15、25、44μmを用いたものよりも放電容量が大きいことが示されているから、訂正発明における炭素材料の平均粒径の「10μm」という下限の限定に格別な技術的意義は認められない。
また、刊行物2に、「粉状では充填密度を大きくしやすいので好ましく用いられる。粒子径が0.1〜50ミクロン、好ましくは1〜50ミクロンの粉状が好適に用いられる。」と記載されているように、負極に用いる炭素材料の充填密度を大きくするためには、細かいものを除いた1〜50ミクロンの粉状が好ましいものであるから、炭素材料として、刊行物1に記載された「粒径2〜10μm」のものに代えて、「平均粒径10〜50μm」のものを用いることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
相違点(2)について
刊行物2に、「炭素質材料は・・・いずれの材料も高温処理によりその炭素網面の面間隔d002は小さくなり、炭素網面の積層厚みLcは大きくなる傾向にあり、グラファイトは最も小さい面間隔d002=0.3354nmを持つ。」、「グラファイト(・・・d002=0.3355、Lc>100nm)」、「グラファイト化に関してLcも重要なパラメータであり、好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上がよい。」と記載されているように、(002)面の面間隔が0.337未満で0.3354に近いものが、「C軸方向の結晶子長さ(Lc)が100nm以上」となることは自明であるから、炭素材料の(002)面の面間隔を小さくして、C軸方向の結晶子長さ(Lc)を「100nm以上」とすることも、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
相違点(3)について
エキスパンドメタル、箔等の負極集電体を支持体とし、これに、炭素材料と合成樹脂バインダーとの混合物を塗布、圧着して非水電解液二次電池の負極とすることは、刊行物1の比較例2及び刊行物2に示されるように周知であり、また、負極の炭素充填密度が高いと、単位体積当りの容量が大きくなり、二次電池の放電持続時間が長くなることは刊行物1に示されているから、負極支持体として、刊行物1に記載された「炭素繊維からなる織布」の代わりに、周知の負極集電体を使用し、刊行物1に記載されているように圧延し負極の炭素充填密度を高めて高容量の非水電解液二次電池を得ることは当業者が容易に想到し得るものと認める。
したがって、訂正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
2-4.訂正の適否についての結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
3.特許異議申立てについての判断
3-1.本件発明
本件発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】繰り返し充放電可能な正極と、アルカリ金属イオンを含む非水電解液と、アルカリ金属イオンを吸蔵放出することが可能な炭素材料より成る負極を具備した非水電解液二次電池において、
負極が少なくとも炭素材料と合成樹脂バインダーとの混合物からなり、前記炭素材料は、X線広角回折法による(002)面の面間隔が0.337nm未満、C軸方向の結晶子長さ(Lc)が100nm以上、負極での充填密度が1.0g/cm3以上、1.6g/cm3 以下であることを特徴とする非水電解液二次電池。」
3-2.取消理由の概要
取消理由は、本件発明は、刊行物1(特許異議申立人木村薫提出の甲第1号証と同じ)及び刊行物2(同甲第2号証と同じ)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。
3-3.当審の判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、上記相違点(2)に示した相違点があるが、この相違点は、上記のとおり、刊行物2の記載からみて当業者が適宜なし得ることにすぎないから、本件発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3-4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-06-05 
出願番号 特願平4-345361
審決分類 P 1 651・ 121- Z (H01M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 正紀天野 斉  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 綿谷 晶廣
柿沢 恵子
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2792373号(P2792373)
権利者 日本電池株式会社
発明の名称 非水電解液二次電池  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 西 義之  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  

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