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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1085742 |
審判番号 | 不服2002-18226 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-04-11 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-09-19 |
確定日 | 2003-10-16 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第 99828号「記録装置、記録方法及び制御方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 4月11日出願公開、特開平 7- 96615]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成6年5月13日の出願であって、平成14年8月15日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月19日付けで本件審判請求を行うとともに、同年10月18日付けで明細書についての手続補正(平成6年改正前特許法17条の2第1項5号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 1.補正の却下の決定の結論 平成14年10月18日付けの手続補正を却下する。 2.補正事項及び補正目的 本件補正は、補正前請求項1記載の「前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第1の記録モードと、前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第2の記録モードを有する駆動手段」を「前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し複数回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を複数回の走査で完成させる第1の記録モードと、前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し1回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を1回の走査で完成させる第2の記録モードを有する駆動手段」と限定し、さらに「前記判別手段は、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が2色以上の場合、前記記録手段の駆動負荷を大と判定し、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が1色の場合、前記記録手段の駆動負荷を小と判定する」との限定を行うことを補正事項の1つとしている。 上記補正事項は、請求項1及びそれを引用する請求項(補正後にあっては、請求項2〜請求項9)を減縮するものであるから、平成6年改正前特許法17条の2第3項2号に掲げる事項を目的とするものと認める。 そこで、上記補正事項が、平成6年改正前特許法17条の2第4項で準用する同法126条3項の規定に違反するかどうか以下検討する。 3.却下理由1(記載不備に基づく独立特許要件欠如) 本件補正後の請求項7の記載は、「前記判別手段は、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が文字データである時、駆動負荷を小と判別することを特徴とする請求項1記載の記録装置。」である。補正後請求項7は補正後請求項1を引用しているから、補正後請求項1記載の「前記判別手段は、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が2色以上の場合、前記記録手段の駆動負荷を大と判定し、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が1色の場合、前記記録手段の駆動負荷を小と判定する」との限定構成は、補正後請求項7に係る発明にも当てはまる。 そして、データ信号が文字データである時、そのデータ信号が2色以上である場合も当然存在し、そのようなデータ信号に対しては、2色以上であるため駆動負荷を大と判定しなければならず、他方、文字データであるため駆動負荷を小と判別しなければならないことになる。すなわち、2色以上の文字データに対しては、判定又は判別が不可能である。 したがって、補正後の請求項1及び請求項7の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を記載したものとはいえず、平成6年改正前特許法36条5項に規定する要件を満たさないから、補正後請求項7に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.却下理由2(進歩性欠如に基づく独立特許要件欠如) (1)請求項1に係る発明の認定 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、平成14年10月18日付けの手続補正書の【請求項1】に記載されたとおりの次の発明と認める。 「複数色の記録を行うためのヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置において、 カラー画像を記録するためのカラー記録モード、または単色画像を記録するための単色記録モードを設定する設定手段と、 前記記録手段の1回の走査で記録可能な走査記録幅の領域に対応するデータ信号に基づいて、前記記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷を判別する判別手段と、 前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し複数回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を複数回の走査で完成させる第1の記録モードと、前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し1回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を1回の走査で完成させる第2の記録モードを有する駆動手段と、 前記設定手段により前記カラー記録モードが設定された場合、前記判別手段による判別の結果、前記記録手段の駆動負荷が大と判定されたときは前記駆動手段を前記第1の記録モードに変更し、前記記録手段の駆動負荷が小と判定されたときは前記第2の記録モードに変更する変更手段とを有し、 前記判別手段は、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が2色以上の場合、前記記録手段の駆動負荷を大と判定し、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が1色の場合、前記記録手段の駆動負荷を小と判定することを特徴とする記録装置。」 (2)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-363255号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア〜ケの記載がある。 ア.「複数の吐出口からインクを吐出する記録ヘッドを記録媒体の同一領域に複数回相対走査させ、各相対走査で間引き画像を記録して所望の画像を得る記録モードを有するインクジェット記録装置において、 前記記録モード時に、間引き画像の記録と非間引き画像の記録を選択的に行うことを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項1】) イ.「記録媒体上の同一領域に対して同一の記録ヘッドを複数回走査して記録を行うマルチパス印字は、様々な目的で多用されている。例えば、・・・インク色の異なる複数の記録ヘッドを用いてカラー記録を行う場合には、記録媒体上でインクが溢れて、筋状のムラ(「ビーディング」と呼ばれる)や、異なった色・濃度の境界でにじみ(「境界にじみ」と呼ばれる)が発生し、画像品位が著しく落ちることがある。このインク溢れによる「ビーディング」「境界にじみ」を防止するため、一度に全記録データを印字せずに、1回の走査を千鳥格子状に間引いて複数の間引きパターンを複数回記録することによって、全記録データに対応した画像に仕上げてゆく間引きマルチパス印字が行われている。」(段落【0004】) ウ.「間引きマルチパス印字では、間引かずに一度に記録した場合と比べて記録された画像の濃度が低くなる場合がある。」(段落【0009】) エ.「(第3実施例) 図10に、本発明を異なる色のインクを噴射する複数の記録ヘッド持ったカラー画像記録を行うインクジェット記録装置に適用した場合の実施例を示す。同図中、1K、1C、1M、1Yはブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色のインクを噴射する記録ヘッド、2はこれら4個の記録ヘッドを保持するキャリッジ、14は本発明の単色印字部検出手段をそれぞれ示している。」(段落【0028】) オ.「印字デューティによるマルチパス印字間隔の制御は、以下のようにして行われる。・・・間引きマルチパス印字を選択した場合、入力画像信号(印字信号SY,SM,SC,SK)は先ず、単色印字部検出手段14に送られて単色印字部の領域が検出され、検出された単色印字部は非間引き印字領域として、その印字データのアドレスが間引き印字データ作成手段7に送られる。」(段落【0029】) カ.「各色の各画素の印字、非印字をそれぞれ0、1に対応させる。各色の画素の数値を全て合計し、数値が1の画素を単色印字部であると判定する(図11の斜線部分)。」(段落【0030】) キ.「間引き印字データ作成手段7では、印字信号Sは単色印字部検出手段14で決定された単色印字部に対応する画素のデータは、各色毎に非間引き印字信号Smとして抽出される。残った印字信号S-Smは、従来と同様の方法で間引き印字信号S1(4色分)と間引き印字信号S2(4色分)に分けられる。次に、印字信号S1はヘッド駆動手段8に送られるが、この時、非間引き印字データSmを間引き印字信号S1に重ね合わせた後送り、1パス目の印字を行う。その後、間引き印字信号S2をヘッド駆動手段8に送り、記録ヘッド1を駆動する。」(段落【0031】) ク.「本発明実施例に基づき、単色印字部では間引き印字を行わないようマルチパス印字を行ったところ、単色印字部分での大きな濃度低下が無く、更に混色印字部での「境界にじみ」等の画像弊害の無い良好な画像を得る事ができた。」(段落【0032】) ケ.「1ラインの領域がすべて非間引き印字部である場合、上述の各実施例では2パス印字時には記録が行われないが、2パス目の印字を行わないで次のラインの印字に移行すれば、記録速度が向上する。」(段落【0035】) また、本願出願前に頒布された特開平5-31919号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のコ〜スの記載がある。 コ.「複数の吐出口からインクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行なうインクジェット記録装置において、同一の記録領域に対して複数回の前記記録ヘッドの相対的走査で分割した記録データを順次記録する間引きマルチパス印字モードと、前記記録ヘッドの1回の相対的走査で全記録データを記録する1パス印字モードとを切り換えて印字を行なう印字制御手段と、前記記録ヘッドから吐出されるインクの吐出量を、前記間引きマルチパス印字モードでの記録領域の総計インク量が、前記1パス印字モードでの総計インク量よりも大きくなるように制御する吐出量制御手段と、を有することを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項1】) サ.「インク色の異なる複数の記録ヘッドを用いてカラー記録を行う場合には、記録媒体上でインクが溢れてにじんだりしないように、一度に全記録データを印字ぜすに、1回の走査を千鳥格子状に間引いて複数回記録することによって、全記録データに対応した画像に仕上げてゆく間引きマルチパス印字が行われている。」(段落【0004】) シ.「間引きマルチパス印字では、間引かずに一度に記録した場合(1パス印字)と比べて記録された画像の濃度が低くなる場合がある。」(段落【0005】) ス.「間引きマルチパス印字の設定がされていてもBk以外の色のデータが無い場合にはにじみの問題が発生しにくいので1PASS印字を行い、C,M,Yデータが有った場合のみ2PASSによる間引きマルチパス印字を行うようにしている。・・・C,M,Yデータが有る行と無い行とではBkの濃度が変化してしまうが、・・・C,M,Yのデータ有無に応じてPWMテーブルを変更することによって吐出量を変化させ濃度の安定化を計っている。」(段落【0028】) (3)引用例1記載の発明の認定 引用例1の記載オ、キ、ケによれば、1ラインの領域がすべて単色印字部である場合には、そのラインは1パス印字され、1ラインの領域に単色印字部でない画素が1つでもある場合には、単色印字部でない画素が間引かれて、そのラインが2パス印字されるものと認められ、当然1ラインの領域がすべて単色印字部であるかどうか判別する判別手段を有するものと認められる。 そうすると、記載ア〜ケを含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には次の発明(以下「引用例発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色のインクを噴射する記録ヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置において、 1ラインの領域がすべて単色印字部であるかどうか判別する判別手段と、 1ラインの領域がすべて単色印字部であると判別したときは1パス印字を行い、1ラインの領域に単色印字部でない画素があると判別したときは、単色印字部でない画素を間引くことにより、そのラインを2パスで印字する手段を有する記録装置。」 (4)補正発明と引用例発明1との一致点及び相違点の認定 引用例発明1の「1ラインの領域」は、補正発明の「1回の走査で記録可能な走査記録幅の領域」に相当する。引用例発明1における1パス印字及び2パス印字が、1ラインの領域に対する記録を完成させるものであることは明らかである。 引用例発明1において、単色印字部でない画素を間引くことにより、2パスで印字する場合、間引いた分だけ「記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷」が軽減されていることは自明である。したがって、引用例発明1において、1パス印字と2パス印字が選択的に行われることは、補正発明が「前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し複数回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を複数回の走査で完成させる第1の記録モードと、前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し1回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を1回の走査で完成させる第2の記録モードを有する駆動手段」及び「前記判別手段による判別の結果、前記記録手段の駆動負荷が大と判定されたときは前記駆動手段を前記第1の記録モードに変更し、前記記録手段の駆動負荷が小と判定されたときは前記第2の記録モードに変更する変更手段」を有することと異ならない。ここで、引用例発明1の1パス印字及び2パス印字が、補正発明の「第2の記録モード」及び「第1の記録モード」にそれぞれ相当することはいうまでもない。 この点請求人は、「引用文献2(審決注.引用例1)では、・・・1ラインに対する走査回数は常に同じ(2パス)となっています。」(平成14年10月18日付けの、審判請求書についての手続補正書9頁9〜13行)、及び「引用文献2では、パス数の変更は行っていません。」(同書10頁19〜23行)などと主張するが、引用例1の記載ケからみて採用できない。また請求人は、「1ライン(1バンド領域)内に複数色(CMYK)が存在する場合であっても、当該1バンド領域内の各画素が単色画素(1画素に1色だけが印字される画素)で構成されていれば、当該1バンド領域は1パスで印字されることになります。」(同書9頁24〜27行)、及び「引用文献2(審決注.引用例1)では、・・・1ライン(1バンド領域)内に複数色(CMYK)が存在する場合であっても、当該1バンド領域内の各画素が単色画素で構成されていれば、当該1バンド領域は1パスで印字されることになります。」(同書10頁25〜29行)とも述べており、この主張自体には誤りはない。 補正発明の「判別手段」は、走査記録幅の領域に対応するデータ信号が2色以上か1色であるかを判別するものであり、「記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷」を定量的に把握した上で、ある駆動負荷を境として駆動負荷がそれよりも大きいか小さいかを判別する手段ではなく、駆動負荷がある値以下といえる(4色での印刷を前提とした場合、1色であれば全体の記録素子の1/4以下しか駆動しないことが確実にいえる。)かどうかを判別する手段である。そして引用例発明1において、1ラインの領域がすべて単色印字部である場合も、全体の記録素子の1/4以下しか駆動しないことが確実にいえる(引用例発明1は4色印字である。)から、引用例発明1の「1ラインの領域がすべて単色印字部であるかどうか判別する判別手段」は、具体的な判定基準は別として、補正発明の「判別手段」に相当する。 したがって、補正発明と引用例発明1とは、 「複数色の記録を行うためのヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置において、 前記記録手段の1回の走査で記録可能な走査記録幅の領域に対応するデータ信号に基づいて、前記記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷を判別する判別手段と、 前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し複数回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を複数回の走査で完成させる第1の記録モードと、前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させるに際し、前記記録手段を前記走査記録幅の領域に対し1回走査させ前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を1回の走査で完成させる第2の記録モードを有する駆動手段と、 前記判別手段による判別の結果、前記記録手段の駆動負荷が大と判定されたときは前記駆動手段を前記第1の記録モードに変更し、前記記録手段の駆動負荷が小と判定されたときは前記第2の記録モードに変更する変更手段とを有する記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉補正発明が「カラー画像を記録するためのカラー記録モード、または単色画像を記録するための単色記録モードを設定する設定手段」を有し、「判別手段」及び「変更手段」は「カラー記録モード」が設定されたときに機能する旨限定しているのに対し、引用例発明1では、そもそも「設定手段」に相当する構成を有するかどうか明らかでない点。 〈相違点2〉「判別手段」の判定基準について、補正発明では「走査記録幅の領域に対応するデータ信号が2色以上の場合、前記記録手段の駆動負荷を大と判定し、前記走査記録幅の領域に対応するデータ信号が1色の場合、前記記録手段の駆動負荷を小と判定する」のに対し、引用例発明1では「1ラインの領域がすべて単色印字部である」場合に駆動負荷を小と判定し、そうでない場合には大と判定する点。 (5)相違点についての判断 〈相違点1について〉 「複数色の記録を行うためのヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置」は、当然カラー記録を行えるものであるが、種々の理由によりカラー記録ではなく単色記録を行いたい場合もあり、そのために「カラー画像を記録するためのカラー記録モード、または単色画像を記録するための単色記録モードを設定する設定手段」を有する構成としておくことは周知であり(例えば、原査定の拒絶の理由に引用した特開平5-57909号公報参照。)、この周知の構成を引用例発明1に採用することは単なる設計事項程度である。 そして、かかる「設定手段」を備えた場合、引用例発明1において1ラインの領域がすべて単色印字部であるかどうか判別する必要があるのは、カラー記録を行う場合に限られることは自明であるから、カラー記録モードが設定されたときに1ラインの領域がすべて単色印字部であるかどうか判別し、1パス印字とするか2パス印字とするかを選択する(判別手段及び変更手段を機能させる。)ことは、設定手段を備えることに伴う必然的な付随的事項にすぎない。 したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものである。 〈相違点2について〉 相違点2で問題となるのは、走査記録幅の領域(1ラインの領域)内の画素が、個々には単色であるが、全体としてみれば2色以上である場合に、第1の記録モード(2パス印字)により印字するか、それとも第2の記録モード(1パス印字)により印字するかの点であり、補正発明では第1の記録モードで印字するのに対し、引用例発明1では1パス印字が採用されていることである。 しかし、引用例2の記載スによれば、引用例2記載の発明(以下「引用例発明2」という。)は、引用例発明1同様1パス印字と2パス印字を選択するものであって、走査記録幅の領域(引用例2では「行」と記載されている。)に対応するデータ信号にBk以外の色のデータがあるかないかによって、1パス印字とするか2パス印字とするかが選択されている。さらに、引用例発明2において、このような選択基準が採用された理由は「にじみの問題が発生しにくい」ことにあるとされており、そうであればBkを他の3色と区別する理由はないから、走査記録幅の領域に対応するデータ信号が単色かどうかを、1パス印字と2パス印字の選択基準に拡張すること(以下、これを「引用例発明2の選択基準」という。)は、当業者であれば直ちに看取できるところである。 しかも、引用例発明1における判定基準であれば、記載カのような複雑な処理を行わねばならず、それよりも引用例発明2の選択基準の方が簡易であることは明らかである。 そうすると、引用例発明1に引用例発明2の選択基準を採用することは、同基準を採用することを妨げる特段の理由がない限り、当業者が容易に想到できたというよりない。 そこで、上記特段の理由の有無についてさらに検討する。引用例発明1に引用例発明2の選択基準を採用するだけであれば、1ラインが2色以上で形成されている場合、個々には単色である画素までが2パス印字され、同画素の濃度が低下することになるから、これは上記特段の理由となる可能性があるものである。しかし、引用例発明2では、そのような濃度低下を回避するため、間引き2パス印字モードでの記録領域の総計インク量が、1パス印字モードでの総計インク量よりも大きくなるように制御しており(引用例2の記載コ及び記載ス参照。)、かかる制御を引用例発明2の選択基準と同時に採用すれば、画素の濃度が低下するという問題は回避されるから、引用例発明1に引用例発明2の選択基準を採用することを妨げる理由とまではならない。 したがって、引用例発明1に引用例発明2の選択基準(及び、間引き2パス印字モードでの記録領域の総計インク量を、1パス印字モードでの総計インク量よりも大きくするとの構成)を採用して、相違点2に係る補正発明の構成に至ることは、当業者にとって容易である。 (6)補正発明の独立特許要件の結論 相違点1及び相違点2は、いずれも当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る補正発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明は、引用例発明1、引用例発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.補正の却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正後の請求項1及び請求項7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成6年改正前特許法17条の2第4項で準用する同法126条3項の規定に違反する。 よって、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての当審の判断 1.請求項1に係る発明の認定 平成14年10月18日付けの手続補正は却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成13年10月9日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの、次のものと認める。 「複数色の記録を行うためのヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置において、 カラー画像を記録するためのカラー記録モード、または単色画像を記録するための単色記録モードを設定する設定手段と、 前記記録手段の1回の走査で記録可能な走査記録幅に対応するデータ信号に基づいて、前記記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷を判別する判別手段と、 前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第1の記録モードと、前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第2の記録モードを有する駆動手段と、 前記設定手段により前記カラー記録モードが設定された場合、前記判別手段による判別の結果、前記記録手段の駆動負荷が大と判定されたときは前記駆動手段を前記第1の記録モードに変更し、前記記録手段の駆動負荷が小と判定されたときは前記第2の記録モードに変更する変更手段とを有することを特徴とする記録装置。」 2.本願発明の進歩性の判断 引用例発明1は「第2 4」で述べたとおりのものであり、これと本願発明とは、 「複数色の記録を行うためのヘッドを有する記録手段を走査させて記録媒体に記録を行う記録装置において、 前記記録手段の1回の走査で記録可能な走査記録幅に対応するデータ信号に基づいて、前記記録手段の駆動に伴う単位時間あたりの駆動負荷を判別する判別手段と、 前記記録手段の駆動負荷を軽減して前記記録手段を駆動することにより前記記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第1の記録モードと、前記記録手段の駆動負荷を軽減せずに前記記録手段を駆動することにより前記走査記録幅の領域に対する記録を完成させる第2の記録モードを有する駆動手段と、 前記判別手段による判別の結果、前記記録手段の駆動負荷が大と判定されたときは前記駆動手段を前記第1の記録モードに変更し、前記記録手段の駆動負荷が小と判定されたときは前記第2の記録モードに変更する変更手段とを有する記録装置。」である点で一致し、「第2 4.(4)」で述べた〈相違点1〉(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)でのみ相違する。 そして、相違点1に係る本願発明の構成が当業者にとって想到容易であること、及び相違点1に係る本願発明の構成を採用することによる格別の作用効果を認めることができないことは「第2 4.(5),(6)」で述べたとおりである(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。 したがって、本願発明は、引用例発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する |
審理終結日 | 2003-08-12 |
結審通知日 | 2003-08-19 |
審決日 | 2003-09-02 |
出願番号 | 特願平6-99828 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門 良成、藤本 義仁、尾崎 俊彦 |
特許庁審判長 |
佐田 洋一郎 |
特許庁審判官 |
津田 俊明 藤井 靖子 |
発明の名称 | 記録装置、記録方法及び制御方法 |
代理人 | 西山 恵三 |
代理人 | 内尾 裕一 |