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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E04B
管理番号 1086288
審判番号 無効2000-35429  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-07-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-08-09 
確定日 2003-11-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3004046号発明「プレハブ建造物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3004046号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯・本件発明
本件特許第3004046号の請求項1〜4に係る発明(平成2年11月20日出願、平成11年11月19日設定登録。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。

「 【請求項1】 セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の基礎と、該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該ベースプレートには、前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており、更に、前記側面プレートにも、前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており、
前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し、更に、隣接する双方のGRCパネルに設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項2】 セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の角部における基礎と、隣接の壁用のGRCパネルの下端部とを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り、更に、該ベースプレートには、前記建造物の角部の基礎に設けられているアンカーボルトを挿入するためのボルト孔が設けられており、更に前記側面プレートにも、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の下端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており、
前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締し、更に、建造物の角部に配設される角部用のGRCパネル及び該GRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の接合部位に設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項3】 セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、且つ、該ベースプレートには前記隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルに設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており、更に、前記側面プレートにも前記隣接する壁用のGRCパネル双方に設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており、
前記屋根用のGRCパネル及び壁用のGRCパネルに夫々設けられている前記スリーブナットに、該スリーブナットに夫々対峙して設けられている前記ボルト孔からボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。
【請求項4】 セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと、隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形のベースプレートと、該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り、更に、該ベースプレートには前記建造物の角部における屋根用GRCパネルに設けられたスリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿されており、更に前記側面プレートにも、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており、
前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締したことを特徴とするプレハブ建造物。」

2 請求人の主張の概要
請求人は、下記の甲第1号証ないし甲第10号証及び証人により、本件請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であり、また、本件請求項1〜4に係る発明は、その出願前日本国内において公然実施された発明であり、さらに、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明、もしくはその出願前日本国内において公然実施された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は無効にすべきものであると主張している。

甲第1号証:「積算資料」1990年11月号、グラビア広告第8〜9頁、
1990年11月1日、財団法人経済調査会発行
甲第2号証:「日経アーキテクチユア」1989年8月21日号、
第123頁、1989年8月21日、日経BP社発行
甲第3号証:特公昭61-32471号公報
甲第4号証:第3回(1991年)GRCシンポジウム講演要旨集第43〜
45頁、1991年2月5日、日本GRC工業会開催
甲第5号証: 財団法人日本建築センター 評定・評価経過議事録及び
添付資料-1〜一4(平成1年8月2日、建築センター第9
会議室で開催の第2回委員会)
甲第5号証の(1):評定・評価経過議事録
甲第5号証の(2):同添付資料-1「GRCパネル説明書」
甲第5号証の(3):同添付資料-2「構法の概要」
甲第5号証の(4):同添付資料-3「建築物の一般図」
甲第5号証の(5):同添付資料-4「接合物の説明」
甲第6号証:本件特許出願人トヨタハウス株式会社が、(財)日本建築セン
ターの構造耐カ性能評定を受けるために、GRCユニットハウ
スの施工実績として同センターに提出したカラー写真の写し。
甲第7号証:「GRC造ユニットハウス」別添図書抜粋、トヨタハウス株式
会社作成
甲第7号証の(1):表紙
甲第7号証の(2):目次
甲第7号証の(3):大臣認定書
甲第7号証の(4):構法の概要
甲第7号証の(5):接合部の説明
甲第7号証の(6):建築物の一般図
甲第7号証の(7):施工実績表
甲第7号証の(8):(財)日本建築センター評定書及評定報告書
甲第8号証:郡リース株式会社が昭和62年2月27日に東京都立練馬高校
において施工した、ユニットハウスの施工現場を写した工事用
アルバム
甲第9号証:「ユニットハウス初期10現場の現地調査」に関する調査報告
書(昭和62年5月21日、日本板硝子株式会社GRC部商品
開発グループ石井卓郎氏作成)
甲第10号証:住商鉄鋼販売株式会社社内文書及び添付別紙1
甲第10号証の(1):「トヨタハウス(株)との取り組みに関する件」
甲第10号証の(2):「トヨタハウス株式会社事業計画書」
(証人)
石井 卓郎
東京都港区芝4丁目10番5号
日本板硝子ビル建材株式会社 東日本営業部 担当部長
3 被請求人の主張の概要
本件請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明ではなく、また、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
すなわち、甲第1号証及び甲第2号証に記載されている図面は本件特許公報中の第1図及び第2図に対応するものであることは敢えて之を否定するものではないが、本件請求項1〜4に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明の項及び図面第1〜18図において詳細に説明したことによってその構成及び作用効果が明確になっているのであり、請求人の主張は後知恵に基づく推測以外の何ものでもない。また、甲第3号証のコンクリート壁によって、請求項1〜4記載のGRCパネルが容易に想到しうるものとはいえない。
さらに、甲第4〜10号証は、本件請求項1〜4に係る発明がその出願前日本国内において公然実施されたことを証明する証拠力を有しないものである。

4 甲第1号証ないし甲第3号証
4-1 甲第1号証:「積算資料」グラビア広告第8〜9頁(1990年11月号)(以下、「引用例1」という。)
トヨタハウス株式会社の「GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステム」についての広告であって、「F.S.T.ユニパネルシステムは、時代のニーズから生まれた、RC・ブロックに代わる、ニューテクノロジーのコンクリートパネル工法。」(8頁5〜9行)、「日本建築センター評定 No.BCJ-LC-330」(同13行)と記載され、また、「断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたユニパネルは、抜群の耐久性・耐衝撃性を持ち、しかも軽量、スピーディな施工でメンテナンスも容易です。」(同頁右欄1〜3行)、「スピーディな施工 装置は効率のよいパネル工法ですから、わずか3週間というスピーディな工期で、工費も削減できます。」(同頁右欄11〜13行)と記載されている。
また、「構造図」(9頁)として、プレハブ建造物を構成するGRCパネルの一部切欠斜視図が記載され、GRCにより断熱材を密閉した構造が記載されている。
さらに、GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図(同8頁)が記載され、屋根と隣接するパネルとの取付部分(請求人が付した符号A及びC部分)においては、取り付け金物を介して取り付けるもので、その取り付け金物は少なくとも長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して屋根とパネルを接合して組み立てることが認められる。
基礎と隣接するパネルとの取付部分(請求人が付した符号B部分)においては、取り付け金物を抜き出して明示する記載はないが、屋根とパネルとの取り付け構造からみて取り付け金物を介するものであることは明らかで、その取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、取り付け金物に設けられた孔から接合部材を挿入して基礎とパネルを接合して組み立てることが認められる。
取り付け金物の取り付け態様は次のとおりである。
(A)屋根用パネルと直線状に隣接した壁用パネルとの相互接合(請求人が付した符号A部分)
プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって、取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、側面プレートには隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿され、該孔から接合部材を挿入して接合すること。
(B)基礎と直線状に立設された壁用のGRCパネルとの接合(請求人が付した符号B部分)
プレハブ建造物の基礎と、基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって、取り付け金物は長方形状のベースプレートと、ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、ベースプレートには孔が開穿されており、更に、前記側面プレートにも、前記隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿されており、隣接する双方のGRCパネルに側面プレートに設けた孔より接合部材を挿入して接合すること。
(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接の壁用パネルの上端部との接合(請求人が付した符号C部分)
プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと、隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって、取り付け金物は長方形のベースプレートと、ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り、側面プレートには隣接する壁用のGRCパネルの一方と対峙する個所に孔が開穿され、該孔より接合部材を挿入して壁用のGRCパネルを接合し、2本の接合部材がベースプレートを挿通して屋根用のGRCパネルを接合すること。

4-2 甲第2号証:「日経アーキテクチュア」1989年8月21日号123頁(以下、「引用例2」という。)
トヨタハウス株式会社のGRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステムについての広告が記載され、123頁には、GRCパネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物の一部展開斜視図として、甲第1号証の図面と同じ図面が記載されている。

4-3 甲第3号証:特公昭61-32471号公報(以下、「引用例3」という。)
「多孔質系下地材にガラス繊維強化セメント層が積層されてなる複合板をコンクリート壁の少なくとも片面に固着すべく、該複合板のガラス繊維強化セメント層をコンクリート壁の表面材となるように、配筋を介して該複合板を締付金具で固定した後コンクリートを打設して養生硬化することを特徴とする断熱性コンクリート壁の施工方法。」(特許請求の範囲)
「本発明に使用する複合板を構成する多孔質系下地材とは発泡スチロール、ポリウレタンフォーム等の有機系多孔質材、石膏ボード、石膏ラスボード、ケイ酸カルシウム板、炭酸マグネシウム板、気泡コンクリート、軽量コンクリート、ロックウール、グラスウール、岩綿保温板、パーライト板、石綿パーライト板、或はシラスパルーン、アルミニウム粉末等を混入せしめたセメント質板等の無機系多孔質或は木毛セメント板、木片セメント板、木毛木片セメント板等の木質系セメント板等である。
該多孔質系下地材のうち特に発泡スチロール及びポリウレタンフォームは軽量にして優れた断熱性を有しており好適である。」(3欄2〜15行)
5 対比・判断
5-1 本件請求項1に係る発明について
引用例1及び引用例2には、GRCダブルスキンパネル製F.S.T.ユニパネルシステムについて記載され、同一のプレハブ建造物の一部展開斜視図が記載されている。
そして、プレハブ建造物を構成するGRCパネルは、断熱材をGRC(耐アルカリガラス繊維強化セメント)でフルカバーしたパネルであり、プレハブ建造物は、基礎と該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを取り付け金物によって接合して組み立てたものであることが認められる(請求人の付した符号B部分参照)。
本件請求項1に係る発明と引用例1及び2に記載された該発明(以下、「引用発明B」という。)ものを対比すると、
「セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に断熱材を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の基礎と、該基礎上に直線状に立設された壁用のGRCパネルとを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該ベースプレートには孔が開穿されており、更に、前記側面プレートにも、前記隣接する壁用のGRCパネル双方と対峙する個所に孔が開穿されており、
隣接する双方のGRCパネルに前記側面プレートに設けた孔より接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物。」で一致し、次の3点で相違する。
(1)本件請求項1に係る発明は、断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して、引用発明Bは断熱材の材料を開示するものではない点。
(2)本件請求項1に係る発明のベースプレートの孔は、隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の基礎に設けられているアンカーボルトを挿通するためのものであり、基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するものであるのに対して、引用発明Bは、接合部材をベースプレートの孔を介して基礎に挿入して接合する点。
(3)本件請求項1に係る発明の側面プレートの孔はボルト孔であって、GRCパネルに設けたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Bの取り付け金物の孔に挿入される接合部材はボルトであるとまではいえず、したがって、GRCパネルに設けたスリーブナットにボルトを螺入して緊締するものであるかどうか不明である点。
上記相違点(1)については、引用例3に記載されているように、建築材料の断熱材として、発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体は周知であるから、引用発明1の断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いることは、当業者であれば容易に選択し得ることにすぎない。
上記相違点(2)については、基礎と壁との接合に際して、基礎に設けられたアンカーボルトを用いることも周知慣用の手段であるから、引用発明Bの接合部材に代えてアンカーボルトを用い、取り付け金物の孔に該アンカーボルトを挿通してナットにて緊締して接合することは、当業者が容易になし得ることである。
上記相違点(3)については、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であり、取り付け金物を介してパネルを接合するに際して、パネルにスリーブナットを設け、取り付け金物の孔を介してボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者であれば容易になし得ることである。

5-2 本件請求項3に係る発明について
引用例1及び2の斜視図には、プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを取り付け金物によって接合して組み立てたプレハブ建造物が記載され(請求人が付した符号A部分)、該取り付け金物は、長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、側面プレートには隣接する壁用のGRCパネル双方に対峙する個所に孔が開穿され、該孔から接合部材を挿入して接合するものである。
したがって、本件請求項3に係る発明と引用例1及び2に記載された該発明(以下、「引用発明A」という。)とを対比すると、
「セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、GRCパネル内に断熱材を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の屋根用のGRCパネルと直線状に隣接した壁用のGRCパネルとを相互に接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの一側縁に立設した側面プレートとから成り、前記側面プレートに前記隣接する壁用のGRCパネルに対峙する個所に孔が開穿されており、
壁用のGRCパネルに夫々対峙して設けられている前記孔から接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物。」で一致し、次の3点で相違する。
(1)本件請求項3に係る発明は、断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して、引用発明Aは断熱材の材料を特定していない点。
(2)本件請求項3に係る発明の取り付け金物のベースプレートには、隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルに設けられているスリーブナットと対峙する個所にボルト孔が開穿されており、該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Aの取り付け金物のベースプレートには孔が示されておらず、接合部材も明示されていない点。
(3)本件請求項3に係る発明は、隣接する壁用のGRCパネル双方にスリーブナットを設け、スリーブナットに夫々対峙して設けられている側面プレートのボルト孔からボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Aでは、接合部材がボルトであるかどうか不明であり、パネルにスリーブナットを設けているかどう不明である点。
相違点(1)については、本件請求項1に係る発明について述べたと同じ理由で、当業者が容易に採用し得ることである。
相違点(2)については、引用例1及び2に記載された斜視図の請求人が付した符号C部分には、取り付け金物のベースプレートに孔が記載されていないものの、屋根用のGRCパネルに対応する個所にベースプレートを介して接合部材を挿通して接合することが記載されており、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用の技術であるから、引用発明Aにおいても、屋根用のパネルにスリーブナットを設け、取り付け金物の該スリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し、該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(3)については、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから、取り付け金物を介して壁用パネルを接合するに際して、壁用パネルにスリーブナットを設け、取り付け金物の孔をボルト孔としてボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者であれば容易になし得ることである。

5-3 本件請求項4に係る発明について
引用例1及び2の斜視図(請求人が付した符号C部分)には、プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと、隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを取り付け金物によって接合して組み立てたプレハブ建造物であって、プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと、隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを相互に接合するための取り付け金物は長方形のベースプレートと、該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成され、この取り付け金物は側面プレートに孔を開穿し、該孔に接合部材を挿入して接合するプレハブ建造物が記載されている。
本件請求項4に係る発明と引用例1ないし2に記載された該発明(以下、「引用発明C」という。)とを対比すると、
「セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に断熱材を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の角部における屋根用のGRCパネルと、隣接の壁用のGRCパネルの上端部とを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形のベースプレートと、該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り、ベースプレートを介して接合部材を挿入して接合し、側面プレートには孔が開穿され、該孔より接合部材を挿入して接合したことを特徴とするプレハブ建造物。」
で一致し、次の3点で相違する。
(1)本件請求項4に係る発明は、断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して、引用発明Cは断熱材の材料を特定していない点。
(2)本件請求項4に係る発明の取り付け金物のベースプレートには、前記建造物の角部における屋根用GRCパネルに設けられたスリーブナットに対峙する個所にボルト孔が開穿されており、前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Cでは、取り付け金物のベースプレートにはボルト孔の明示はないが、接合部材がベースプレートを挿通して屋根用パネルを接合している点
(3)本件請求項4に係る発明の取り付け金物の側面プレートには、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿され、前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Cでは、取り付け金物の側面プレートに孔が開穿され、接合部材を該孔を挿通して対応するパネルを接合している点
相違点(1)については、本件請求項1に係る発明について述べたと同じ理由で、当業者が容易になし得ることである。
相違点(2)については、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから、引用発明Cにおいても、屋根用のパネルと壁用のパネルとを接合するために、取り付け金物のベースプレートに隣接する壁用のGRCパネルの接合部位の屋根用のGRCパネルにスリーブナットを設け、ベースプレートに該スリーブナットと対峙する個所にボルト孔を開穿し、該ボルト孔からボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(3)については、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから、取り付け金物を介してパネルを接合するに際して、パネルに設けられるスリーブナットを用い、取り付け金物の孔にボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者であれば容易になし得ることであり、建造物の角部であって、角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには、それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから、引用発明Cについても、取り付け金物の側面プレートに、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿し、前記ボルト孔よりボルトを螺入して緊締することは、当業者が容易になし得ることと認められる。

5-4 本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明と引用発明Cとを対比すると、
「セメントにガラス繊維を混入して形成したGRCパネルであって、該GRCパネル内に断熱材を密閉し、該パネルを相互に接合して組み立てたプレハブ建造物に於て、
前記プレハブ建造物の角部における構造部材と、隣接の壁用のGRCパネルの端部とを接合するための取り付け金物であって、該取り付け金物は長方形状のベースプレートと、該ベースプレートの外縁部に立設した側面プレートとから成り、
且つ、該取り付け金物は中央部で直角に折曲されて平面視L字状に形成されて成り、該取り付け金物を介して接合部材により接合することを特徴とするプレハブ建造物。」
で一致し、次の4点で相違する。
(1)本件請求項2に係る発明は、断熱材として発泡スチロール又はウレタンホーム等の有機質系の発泡体を用いるのに対して、引用発明Cは断熱材の材料を特定していない点。
(2)本件請求項2に係る発明の角部における構造部材は基礎であり、取り付け金物は隣接するパネルの下端部を接合するのに対して、引用発明Cの構造部材は屋根であり、取り付け金物は隣接するパネルの上端部を接合する点
(3)本件請求項2に係る発明の取り付け金物のベースプレートには、建造物の角部の基礎に設けられているアンカーボルトを挿入するためのボルト孔が設けられ、前記基礎に設けられたアンカーボルトをベースプレートに設けたボルト孔に挿通してナットにて緊締するのに対して、引用発明Cでは、接合部材が取り付け金物のベースプレートを介して接合している点
(4)本件請求項2に係る発明の取り付け金物の側面プレートには、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の下端部に設けられたスリーブナットにボルトを挿通するためのボルト孔が開穿されており、建造物の角部に配設される角部用のGRCパネル及び該GRCパネルに隣接する壁用のGRCパネルの夫々の接合部位に設けたスリーブナットに前記側面プレートに設けたボルト孔よりボルトを螺入して緊締するのに対して、引用発明Cでは、取り付け金物の側面プレートに孔が開穿され、対応するパネルに接合部材を挿通して接合していることが認められるが、具体的な接合手段については不明である点
相違点(1)については、本件請求項1に係る発明について述べたと同じ理由で、当業者が容易になし得ることである。
相違点(2)については、引用例1及び2は、(B)基礎と直線状に立設された壁用パネルとの接合(請求人が付した符号B部分)、(C)屋根用パネルと角部用パネル及び隣接した壁用パネルの上端部との接合(請求人が付した符号C部分)の各々に使用される取り付け金物を開示するから、基礎と角部用パネル及び隣接した壁用パネルの下端部との接合についても、引用例1及び2に接する当業者に対して、同様の取り付け金具により接合し組み立てることを示唆するものと認められ、引用発明Cの取り付け金具を基礎に対して使用するようなことは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
相違点(3)については、基礎と壁との接合に際して基礎に設けられたアンカーボルトを用いることは周知慣用の手段であるから、接合部材に代えてアンカーボルトを用い、取り付け金物の孔に該アンカーボルトを挿通してナットにて緊締して接合することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
相違点(4)については、パネルの接合手段としてボルトとスリーブナットは周知慣用手段であるから、取り付け金物を介してパネルを接合するに際して、パネルにスリーブナットを設け、これにボルトを螺入して緊締するようなことは、当業者であれば容易になし得ることであり、建造物の角部であって、角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルを接合するためには、それぞれのパネルを接合部材を用いて接合する必要があることは当然のことであるから、取り付け金物の側面プレートにも、建造物の角部用のGRCパネル及び之に隣接する壁用のGRCパネルの夫々の上端部にスリーブナットを設け、側面プレートにボルトを挿通するためのボルト孔を開穿し、該ボルト孔よりボルトを螺入して緊締することは、当業者が容易になし得ることと認められる。

被請求人は、本件請求項1〜4に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明の項及び図面第1〜18図において詳細に説明したことによってその構成及び作用効果が明確になっているのであり、請求人の主張は後知恵に基づくものであると主張するが、引用例1及び2に接した当業者であれば、引用例に開示された技術思想を上述のように認識できるものであり、本件請求項1〜4に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本件請求項1〜4に係る発明は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の公然実施を検討するまでもなく、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-04-20 
結審通知日 2001-05-08 
審決日 2001-06-05 
出願番号 特願平2-315156
審決分類 P 1 112・ 121- Z (E04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 幸長 保次郎
後藤 千恵子
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3004046号(P3004046)
発明の名称 プレハブ建造物  
代理人 林 孝吉  
代理人 芳村 武彦  

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