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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1087240
審判番号 不服2000-19922  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-12-14 
確定日 2003-11-13 
事件の表示 平成 8年特許願第284108号「光磁気記録媒体及びその再生方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 5月22日出願公開、特開平10-134429]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年10月25日の出願であって、平成12年11月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成13年1月15日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成13年1月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年1月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の発明
本件補正によって、補正前の請求項1乃至4は削除され、それに伴い補正前の請求項5,6は項番号を請求項1,2とすると伴に次のように補正された。
「【請求項1】 GdFeCoからなる第1磁性層、GdFeCoからなる希土類磁化優勢の第2磁性層、TbFeCoからなる第3磁性層をこの順に積層しており、前記第1磁性層及び第3磁性層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層は室温で面内方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層の組成Gdx (Fe100-y Coy )100-x について26<x≦38,0<y≦17を満たし、前記第2磁性層の膜厚は15nm以上,60nm以下であり、予め前記第3磁性層の磁化方向を第1方向に揃え、ビーム光の強度を変調させて照射することにより磁化方向が第1方向から第2方向に反転した領域と前記第1方向を維持した領域とを前記第3磁性層に形成することにより情報を記録した光磁気記録媒体に、該光磁気記録媒体との相対移動を伴ってビーム光を照射し、該ビーム光の照射領域に磁界を印加し、該ビーム光内の低温領域であるフロントマスクと高温領域であるリアマスクとが磁気マスクとして働くことにより、中間温度領域にて前記情報を再生する再生方法であって、前記情報を読出す際に、前記光磁気記録媒体にビーム光を照射し、少なくとも該ビーム光の照射領域に、前記フロントマスクと前記リアマスクとで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなるように、前記第2方向の磁界を印加することを特徴とする光磁気記録媒体の再生方法。」
「【請求項2】 GdFeCoからなる第1磁性層、GdFeCoからなる希土類磁化優勢の第2磁性層、TbFeCoからなる第3磁性層をこの順に積層しており、前記第1磁性層及び第3磁性層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層は室温で面内方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層の組成Gdx (Fe100-y Coy )100-x について26<x≦38,0<y≦17を満たし、前記第2磁性層の膜厚は15nm以上,60nm以下であり、予め前記第3磁性層の磁化方向を第1方向に揃え、磁界の方向を変調させて印加することにより磁化方向が第1方向から第2方向に反転した領域と前記第1方向を維持した領域とを前記第3磁性層に形成することにより情報を記録した光磁気記録媒体に、該光磁気記録媒体との相対移動を伴ってビーム光を照射し、該ビーム光の照射領域に磁界を印加し、該ビーム光内の低温領域であるフロントマスクと高温領域であるリアマスクとが磁気マスクとして働くことにより、中間温度領域にて前記情報を再生する再生方法であって、前記情報を読出す際に、前記光磁気記録媒体にビーム光を照射し、少なくとも該ビーム光の照射領域に、前記フロントマスクと前記リアマスクとで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなるように、前記第2方向の磁界を印加することを特徴とする光磁気記録媒体の再生方法。」

上記請求項1,2にかかる補正は、発明を特定するために必要な事項である。「希土類-遷移金属」を「TbFeCo」と限定し、第2磁性層の膜厚の下限を「60nm以下」と限定し、再生することに関して「該ビーム光の照射領域に磁界を印加し、該ビーム光内の低温領域であるフロントマスクと高温領域であるリアマスクとが磁気マスクとして働くことにより、中間温度領域にて前記情報を再生する」ことと「前記フロントマスクと前記リアマスクとで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなるように」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)乃至同請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
これに対して、当審での独立特許要件に違反するため補正却下すべきものとの判断が示された審尋において、次の刊行物1〜3が引用された。
刊行物1.特開平7-244877号公報
刊行物2.「第20回日本応用磁気学会学術講演概要集」1996年
9月20日,社団法人日本応用磁気学会発行、第316頁
刊行物3.「第20回日本応用磁気学会学術講演概要集」1996年
9月20日,社団法人日本応用磁気学会発行、第317頁

注:特許法第30条第1項適用のための文献(上記刊行物2)には、第2磁性層に相当する層の材料に関して、GdFeである例は示されているが、特定組成のGdFeCoについて言及されていないので、他の構成の記載の有無に言及するまでもなく特許法第30条第1項の適用は認められない(なお、仮にGdFe(y=0の場合)が包含されていても、Coを含有させる点に関しては記載されていないから該判断は左右されない)。 なお、上記刊行物3は、特許法第30条第1項の適用が主張されていない。

該刊行物1には、
(1-i)「【請求項30】 透明基板と、該透明基板上に積層された膜面に対して垂直方向の磁化容易軸を有する第1磁性層と、該第1磁性層上に積層された室温で面内方向に磁化容易軸を有する第2磁性層と、該第2磁性層上に積層された膜面に対して垂直方向の磁化容易軸を有する第3磁性層とを具備し、前記第1、第2、第3磁性層のキュリー温度をそれぞれTc1,Tc2,Tc3とし、室温における前記第1及び第3磁性層の保磁力をそれぞれHc1,Hc3とするとき、各磁性層のキュリー温度が、Tc1>Tc2及びTc3>Tc2の関係を満たし、前記第1及び第3磁性層の室温における保磁力が、Hc3>Hc1の関係を満たす光磁気記録媒体に記録された情報の再生方法であって、バイアス磁界を印加しながら前記記録媒体にレーザビームを照射して、前記第3磁性層のキュリー温度以下に前記記録媒体を加熱し、ビームスポット内に前記第1磁性層の磁化がバイアス磁界方向を向く第1領域と、前記第3磁性層の磁化が交換結合によって前記第2磁性層と前記第1磁性層に転写される第2領域と、前記第2磁性層がキュリー温度以上となり前記第1磁性層の磁化方向がバイアス磁界方向を向く第3領域とからなる温度分布を形成することを特徴とする光磁気記録媒体に記録された情報の再生方法。」(【請求項30】参照)、及び、
(1-ii)「【0120】 次に図23を参照して、本発明第6実施態様の記録媒体の構成について説明する。本実施態様の説明において、上述した第1乃至第5実施態様と実質的に同一構成部分については同一符号を付し、重複を避けるためその説明を省略する。 【0121】 誘電体層16上にはGdFeCo等の希土類-遷移金属非晶質合金膜から形成された磁性再生層18′が積層されている。磁性再生層18′は基板14に対して垂直方向に磁化容易軸を有している。 【0122】 磁性再生層18′上にはGdFeCo等の希土類-遷移金属非晶質合金膜から形成された磁性制御層20′が積層されている。磁性制御層20′は、室温では面内方向に磁化容易軸を有している。好ましくは、磁性制御層20′の磁化容易軸は、再生ビームパワーで昇温される所定温度以上では面内方向から垂直方向に変化する。 【0123】 再生層18′,制御層20′及び記録層22のキュリー温度をそれぞれTc1,Tc2,Tc3とすると、各磁性層のキュリー温度はTc2<Tc1及びTc2<Tc3の関係を満たしている。 【0124】 また再生層18′及び記録層22の室温における保磁力をHc1及びHc3とすると、Hc1<Hc3の関係を満たす必要がある。 再生層18′はTbGdFeCoの非晶質合金膜から形成することができ、制御層20′はGdFeの非晶質合金膜から形成することが可能である。また、好ましくは、制御層20′にはSi,Al,Tiからなる群から選択される非磁性材料が添加される。
【0125】 次に図24を参照して、本実施態様のデータの消去方法を説明する。バイアス磁界Hbを下向きに印加しながらレーザビームを記録媒体に照射し、記録層22のキュリー温度以上に昇温することによって記録層22の磁化方向を下向きにする。 【0126】 レーザビームから遠ざかると、記録媒体は室温まで降温される。室温では制御層20′は面内磁化膜となり、再生層18′と記録層22は磁気的に結合していない状態になる。従って、再生層18′の磁化は消去用バイアス磁界程度の小さな磁界で下向きに揃う。 【0127】 次に図25を参照して、本実施態様のデータの書き込み方法について説明する。バイアス磁界Hbを消去方向とは逆向き、即ち上向きに印加しながら、記録部分にのみ強いレーザビームを照射すると、データが記録された部分の磁化のみ上向きになる。 【0128】 レーザビームから遠ざかると、記録媒体は室温まで降温される。室温では、制御層20′は面内磁化膜となり、再生層18′と記録層22は磁気的に結合していない状態になる。従って、再生層18′の磁化はバイアス磁界程度の小さな磁界で上向きに揃う。
【0129】 次に図26を参照して、本実施態様におけるデータのシングルマスク再生方法について説明する。トラック64上に照射されたビームスポット58内には温度がTcopy以下の低温領域と、Tcopy以上で制御層20′のキュリー温度Tc2以下の高温領域が形成される。 【0130】 ビームスポット58内の低温領域ではアップスピンマスク60が形成され、高温領域では開口部62が形成される。この状態は上述した特開平5-81717号のデータ再生時の状態に類似しており、開口部62を介して光磁気信号を読み出すことができる。 【0131】 再生レーザパワーを更に上げると、図27に示したようにビームスポット58内に再生層18′の磁化が再生バイアス磁界Hr方向を向く低温領域と、記録層22の磁化が交換結合によって制御層20′及び再生層18′に転写される中間温度領域と、制御層20′のキュリー温度Tc2以上の高温領域が形成される。 【0132】 低温領域及び高温領域では、再生層18′の磁化方向がバイアス磁界Hrに揃うアップスピンマスク60,68が形成され、2つのアップスピンマスク60,68の間の中間温度領域に開口部62が形成される。 【0133】 アップスピンマスク部68では、記録媒体が制御層20′のキュリー温度Tc2以上に加熱されているため、制御層20′の磁化が無くなり、再生層18′と記録層22は磁気的に結合していない状態である。 【0134】 従って、再生層18′は室温で保磁力が小さいことからその磁化方向は再生用バイアス磁界Hrの方向を向くことになる。即ち、制御層20′のキュリー温度以上の温度領域では、再生層18′の磁化は常に上向きとなり、光磁気信号は出力されず一種のマスクとして機能する。 【0135】 従って、特開平5-81717号に記載された従来方法に比較して非常に小さな開口部62を形成することができる。更に、ビームスポットの端に比べて相対的にレーザ強度が強いビームスポット中心部に開口部62が形成されるので、大きな光磁気信号を得ることができる。」(段落【0120】〜【0135】参照)こと、
(1-iii)「【0196】 ・・・。 実施例12 再生層18′の組成について検討した。スパッタリング装置内にTbFeCo、第1のGdFeCo、第2のGdFeCo及びSiのターゲットと1.2μmのトラックピッチを有するポリカーボネート基板をセットし、スパッタリング装置のチャンバー内を10-5Paまで真空引きした。 【0197】 次に、以下の条件で基板上に膜圧70nmの窒化珪素をDCスパッタリング法で製膜した。この膜は磁性層を酸化から保護する役目だけでなく、光磁気信号を増大させるエンハンス効果も有している。 【0198】 ガス圧:0.3Pa スパッタガス:アルゴン、窒素 分圧:アルゴン:窒素=6:4 投入電力:0.8kW 次に、再びチャンバー内を10-5Paまで真空引きし、以下の条件で上記窒化珪素膜の上にGdFeCo第1のGdFeCo、第2のGdFeCo、TbFeCoの順にDCスパッタリング法で連続的に製膜した。 【0199】 ガス圧:0.5Pa スパッタガス:アルゴン 投入電力:1kW 各磁性層の組成、膜厚及び磁気特性は表8に示す通りである。
【0200】 【表8】(表8には、再生層の組成がGd20Fe54Co26、膜厚40nm、キュリー温度360℃、ドミナントTMリッチであり、制御層の組成がGd39Fe56Co5、膜厚12nm、キュリー温度210℃、ドミナントREリッチであり、記録層の組成がGd19Fe73Co8、膜厚50nm、キュリー温度220℃、ドミナントTMリッチとの記載) 【0201】 更に、記録層の上に100nmの膜厚を有する窒化珪素膜を上記と同様の方法で製膜した。窒化珪素膜は磁性膜を酸化から防止する役目をする。 このようにして製造した光磁気ディスクの記録特性を図4に示した装置を用いて調べた。使用したレーザの波長は780nmである。まず、光磁気ディスクを全面消去、即ち初期化した。このときのレーザパワーは9mWとし、下向きのバイアス磁界を印加した。 【0202】 情報の記録はディスクを線速3m/secで回転させながら初期化のときと反対方向の上向きのバイアス磁界を印加して、記録パワー4mW、周波数7.5MHz、発光デューティ比26%で行った。ディスク上に記録されたマークの長さは約0.4μmである。 【0203】 次に、この光磁気ディスクの再生特性を調べた。このとき印加する再生用バイアス磁界は上向きとした。再生パワー1.5mWでは、先に記録された信号に対する光磁気信号の出力は得られなかった。これは再生層18′の全域がアップスピンマスクを形成しているためと思われる。 【0204】 再生パワー1.6mWでは、記録層22の磁化方向が制御層20′を介して再生層18′に転写され、光磁気信号の出力を得ることができた。これは、ビームスポット内で記録層22の磁化方向が制御層20′を介して再生層18′に転写される温度以上の領域ができたために、アップスピンマスクと開口部が形成されたためと思われる。このときの信号とノイズの比(C/N)は42dBであった。 【0205】 再生パワー1.7mWでは、記録層22の磁化はバイアス磁界の方向、即ち上方向に向き、制御層20′が記録層22と交換結合する領域(開口部)の直径が0.4μm程度となったために、46dBのC/Nを得ることができた。」(段落【0196】〜【0205】参照)こと、
(1-iv)「【0207】 実施例13 実施例12では再生層18′としてGdFeCoからなる材料を使用した。しかし、GdFeCo膜は垂直磁気異方性を示す組成マージンは広くなく、組成制御が難しい場合がある。そこで本実施例では、GdFeCoに垂直磁気異方性を大きくできるTbをわずかに添加することを試みた。実験は以下のように行った。 ・・・(中略)・・・ 【0213】 ・・・(中略)・・・。 このようにして製造した光磁気ディスクの再生特性を実施例12と同様な条件で調べた。この時印加した再生用バイアス磁界は上向きとした。再生パワー1.4mWでは、先に記録された信号に対する光磁気信号の出力は得られなかった。これは、再生層18′全域がアップスピンマスクを形成しているためと思われる。 【0214】 再生パワー1.5mWでは、記録層22の磁化方向が制御層20′を介して再生層18′に転写され、光磁気信号の出力を得ることができた。これは、ビームスポット内で記録層22の磁化方向が制御層20′を介して再生層18′に転写される温度以上の領域ができたために、アップスピンマスクと開口部が形成されたためと思われる。このときの信号とノイズの比(C/N)は42dBであった。 【0215】 再生パワー1.6mWでは、再生層18′の磁化はバイアス磁界の方向、即ち上方向に向き、制御層20′が記録層22と交換結合する領域(開口部)の直径が0.4μm程度となったために46dBのC/Nを得ることができた。 【0216】 このC/Nは実施例12とは変わらなかった。これは、再生層18′にTbを添加することによって、磁気異方性が増大しノイズが低減した反面、GdFeCoにTbを添加したことで磁気光学効果が低下したためと考えられる。 【0217】 そして、これらの効果が相殺して実施例12と同様な結果が得られたためと思われる。しかし、Tbを添加することによって、再生層18′の組成マージンを広げることができる。」(段落【0207】〜【0217】)こと、が記載されていて、
(1-v)図23〜図27に、前記摘示で説明されている図が示されている。

該刊行物2には、
3層RAD媒体のランド/グルーブ記録特性についての記載があり、
(2-i)「再生磁場方向を記録(正)磁場と同じ方向とすることで、クロストークが小さくなり、クロスライトの影響も無くなることを見出した。 また、正磁場方向に媒体をチューニングすることで、±14%の記録パワーマージンを得たので報告する。」こと、
(2-ii)「媒体は、トラックピッチ0.7μm、溝深さ50nmのガラス2P基板上に、マグネトロンスバッタ法により作製した。 構成は、Grass2P/SiN(70nm)/GdFeCo(40nm)/GdFe(40nm)/TbFeCo(50nm)/SiN(60nm)である。 Land/Groove記録の実験は周速6m/s、マーク長0.4μm、再生パワー2.8mW、記録磁場300 Oeの条件で行った。クロストークは、記録したLand部のC(キャリア)レベルと、両サイドのGroove部のCレベル差の平均とした。また、クロスライト測定は、初めにLand部に記録を行い、次に両サイドのGrooveに記録を行った後、最初に記録したLand部に戻ってCNRを測定した。」こと、
(2-iii)「Fig.1は、再生磁場(Hr)を変化させた場合のCNRとクロストークの測定結果である。 再生磁場が消去磁場(負)方向では、一気にダブルマスクとなり、CNRは高いが、クロストークも高く、25dB程度である。 一方、正の方向ではCNRは2段階に上昇し、350 Oe以上でのクロストークは50dB程度と非常に低い。 Fig.2は、負方向再生磁場の記録特性である。クロスライトの影響で記録パワーマージンが狭い。 しかし、このクロスライトの影響は両サイドのグルーブのマークを消去すると無くなる。Fig.3は、正方向再生磁場での記録特性である。クロスライトの影響は殆ど見られず、CNR=46dB以上のパワーマージンは±14%が得られた。」こと、が図面を参照して記載されている。

該刊行物3には、
3層RAD媒体におけるマスク形成と再生磁場方向の関係についての記載があり、
(3-i)「Fig.1は、再生磁場方向を変えたときの再生波形である。 磁場を消去方向に加えた場合、前縁よりも後縁が急峻である。磁場を加えずに通常再生(再生パワー-1mW)した波形と比べると、立ち上がり位置は同じであるが立ち下がり位置が早く、リアマスク形成の特徴を示している。 一方、再生磁場を記録方向に加えると後縁よりも前縁の方が急峻となっており、これは主にフロントマスク形成による。 この媒体の動特性評価では、再生磁場を記録方向に加えた方がクロストークが低いがこれはフロントマスクの大きさが再生磁場方向に依存するためと思われる。」こと、
(3-ii)「Fig.2は、マスク形成に必要な磁場の温度依存性である。 縦軸正方向が記録方向である。 フロントマスク形成の動作点(H1.Herase1)は、記録方向加えた方が温度に対する変化が少ないことがわかる。 これは、温度を上げても、フロントマスクが狭くなりにくいということを意味しており、高い再生パワーで観察したFig.1の再生波形を理解できる。 消去方向と記録方向の再生磁場に対するこの違いは、マーク領域の磁化を反転させるか、マーク周辺領域の磁化を反転させるかの違いによると考えられる。」こと、
(3-iii)「この媒体は、記録方向に再生磁界を加えるとクロスライト(ランドに隣接したグルーブにマークを記録したときのランドへの影響)も低い。 クロストークが観測されるとクロスライトも見られることから、これは再生層に転写された隣接マークからの静磁場がマスク形成の動作点に影響を与えているためと思われる。 この現象についても波形観察の結果から議論する。 」こと、が図面を参照して記載されている。

(3)対比、判断
そこで、本願補正発明1と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1には、前記摘示の段落【0201】〜【0203】の説明で、初期化バイアス磁界が下向き、それと反対方向の上向きに記録用のバイアス磁界とし、再生用バイアス磁界は上向きとされていること(なお、再生バイアス磁界の向きが図27中で上向きであることを勘案すれば、段落【0125】〜【0131】にも同様な記載がある。)、及び、段落【0131】に低温領域と高温領域がマスクとして作用し、中間温度領域で交換結合によって記録層の磁化が制御層更に再生層に転写されているとされているから、低温領域はフロントマスクであり、高温領域はリアマスクと認められること、及び他の上記記載から判断して、
「GdFeCoからなる再生層、GdFeCoからなるREリッチの制御層、TbFeCoからなる記録層をこの順に積層しており、前記再生層及び記録層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記制御層は室温で面内方向の磁化容易特性を有し、予め前記記録層の磁化方向を第1方向(上向き)に揃え、ビーム光の強度を変調させて照射することにより磁化方向が第1方向(上向き)から第2方向(下向き)に反転した領域と前記第1方向(上向き)を維持した領域とを前記記録層に形成することにより情報を記録した光磁気記録媒体に、該光磁気記録媒体との相対移動を伴ってビーム光を照射し、該ビーム光の照射領域に磁界を印加し、該ビーム光内の低温領域であるフロントマスクと高温領域であるリアマスクとが磁気マスクとして働くことにより、中間温度領域にて前記情報を再生する再生方法であって、前記情報を読出す際に、前記光磁気記録媒体にビーム光を照射し、前記第2方向(下向き)の磁界を印加することを特徴とする光磁気記録媒体の再生方法。」の発明が記載されているものと認められる。
なお、刊行物1の段落【0205】において「記録層22の磁化はバイアス磁界の方向、即ち上方向に向き」と記載されているが、この記載が誤記であることは次の点から明らかである。 即ち、再生中に記録層の磁界の向きが変化することは、その記録層としての目的に明らかに反していること、及び、段落【0134】の「再生層18’は室温で保磁力が小さいことからその磁化方向は再生用バイアス磁界Hrの方向を向くことになる。」との一般的記載と、実施例12の変形例である実施例13の対応する箇所の記載である段落【0215】の「再生層18’の磁化はバイアス磁界の方向、即ち上方に向き」との記載からみて、記録層22が再生層18’の誤記であることが明らかである。 そうであるから、かかる誤記の点をもって、刊行物1記載の発明の上記認定に問題があるとすることはできない。

そして、刊行物1記載の発明の「記録層」、「制御層」、「再生層」は、それぞれ本願補正発明1の「第3磁性層」、「第2磁性層」、「第1磁性層」に相当し、「REリッチ」とは「希土類磁化優勢」と同義である。
してみると、本願補正発明1と刊行物1記載の発明は、
「GdFeCoからなる第1磁性層、GdFeCoからなる希土類磁化優勢の第2磁性層、TbFeCoからなる第3磁性層をこの順に積層しており、前記第1磁性層及び第3磁性層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層は室温で面内方向の磁化容易特性を有し、予め前記第3磁性層の磁化方向を第1方向に揃え、ビーム光の強度を変調させて照射することにより磁化方向が第1方向から第2方向に反転した領域と前記第1方向を維持した領域とを前記第3磁性層に形成することにより情報を記録した光磁気記録媒体に、該光磁気記録媒体との相対移動を伴ってビーム光を照射し、該ビーム光の照射領域に磁界を印加し、該ビーム光内の低温領域であるフロントマスクと高温領域であるリアマスクとが磁気マスクとして働くことにより、中間温度領域にて前記情報を再生する再生方法であって、前記情報を読出す際に、前記光磁気記録媒体にビーム光を照射し、前記第2方向の磁界を印加することを特徴とする光磁気記録媒体の再生方法。」の発明である点で一致し、次の(イ)〜(ハ)の点で一応相違している。
(イ)第2磁性層の材質に関して、本願補正発明1がGdx(Fe100-yCoy)100-x 、26<x≦38、0<y≦17と特定しているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような特定をしていない点、
(ロ)第2磁性層の膜厚に関して、本願補正発明1が15nm以上60nm以下と特定しているのに対して、刊行物1記載の発明ではそのような特定をしていない点、
(ハ)本願補正発明1が「少なくとも該ビーム光の照射領域に、前記フロントマスクと前記リアマスクで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなるように」と記載しているのに対して、刊行物1記載の発明ではその点について言及していない点。

なお、
(a)図面に記載されたフロントマスク領域の各磁性層の磁界の向き(特に再生層の磁界の向き)は、本願補正発明1の図1と刊行物1記載の図27とでは異なっているけれども、本質的に各層の構成(材質の組成)とダブルマスクの同じ記録再生手段から判断して、異なるメカニズムが存在することは自然の理に反している。 刊行物1記載の発明は本願発明者らによるものであって、かつ先行技術として引用しているにもかかわらず、メカニズムが異なることは何ら説明されていないし、まして、図11に示されたメカニズムは刊行物1記載の発明と本願補正発明1で本質的な相違がないことを示している。 そればかりか、フロントマスク領域の再生層の磁界の向きは、あえて本願補正発明1の構成(請求項1で特定された構成)とはされていないから、もともと考慮すべき対象ではない。 そうであるから、かかる点を相違点とすることもできない。
(b)刊行物1記載の発明では、記録の再生に関して、再生パワー(照射パワー)が低い場合にはシングルマスク再生できることも記載されているけれども、再生レーザーパワーを更に上げると、図27のように低温領域と中間温度領域と高温領域が形成され、低温領域と高温領域ではマスクされ、中間温度領域では記録層の磁化が交換結合により制御層に転写され更に再生層に転写される開口部が形成されることが明確に記載されている(段落【0120】〜【0135】など参照)。 そうであるから、照射パワーが低い場合の再生挙動について言及があることをもって、相違点であるということはできない。

(イ)の点について検討する。
刊行物1記載の発明では、制御層(第2磁性層)のGdFeCoの組成比について特定されていないところ、実施例12ではGd39Fe56Co5 、即ちGd39(Fe92Co8)61、の組成のものが使用されている。 該組成は、本願補正発明1で特定する組成のGd含有量が38までとする点に対して極わずか多い点で本願補正発明1と一応相違がある。 しかしながら、そもそも刊行物1記載の発明において、その実施例に限定して解釈すべき理由はなく、また示された数値を考慮してその数値の近辺にまで拡大して実施してみる程度のことは通常の研究手法であるから、良好な実験結果から、Gd含有量xの値を38以下のものを用いることは当業者が容易に採用し得る程度のことである。 そして、本願補正発明1を検討しても、その数値限定に臨界的意義があるとは認められない、このことは、本願明細書の図6を検討すれば、xが38%であろうと、39%であろうとその結果は微差で実質的な差異があるとは解しがたい。
よって、第2磁性層の組成でGd含有量を38以下とすることは、当業者が容易に採用し得る程度のことというべきである。

(ロ)の点について検討する。
刊行物1記載の発明では第2磁性層の膜厚について特別な言及がないところ、その実施例では12nmの膜厚で実施されている。 この12nmの値は本願特定の範囲を外れているけれども、その実施例に限定して解釈すべき理由もないし、例えば刊行物2においても第2磁性層に相当する層の膜厚は40nmが採用されている。 一方、本願明細書には、図10に中間層の膜厚について必要な再生磁界のプロット図が示されていて、クロストークが40dBとなる再生磁界が500 Oe以下であることを理由に15nm以上としているけれども、この根拠は恣意的に決めているもので、その根拠としては採用できない。 更に、仮にその根拠を採用したところで、第2磁性層の膜厚が記録層や再生層の膜厚や保磁力などによって影響を受けないとする理由も見いだせないから、ある条件下のデータが示されているにすぎず、汎用性が有ると解し得ない。
よって、第2磁性層の膜厚として15nm以上とすることは、当業者が容易に採用し得る程度のことというべきである。

(ハ)の点について検討する。
刊行物1には、再生記録磁界を記録磁界と同方向とすることによって、「前記フロントマスクと前記リアマスクで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなる」ことは言及されていない。 しかしながら、前記刊行物2,3に徴すれば、再生記録磁界を記録磁界と同方向とすることによって、逆方向とすることに比べてクロストークが少なくなることが示されているし、また、逆方向とすることに比べて温度を上げてもフロントマスクが狭くなること、換言すれば開口域が狭くなることが示唆されていることは明らかである。 してみると、当業者であれば、刊行物2,3の前記記載を勘案して、「前記フロントマスクと前記リアマスクで挟まれた開口部がトラック幅方向に狭くなる」ことが容易に想い到るといえる。
そればかりか、かかる記載は現象の説明に過ぎず、他の構成が同一であれば、同じ状況(開口部が狭くなる)となると解するのが自然の理に適っている(なお、本願明細書の段落【0018】,【0036】でも、開口部がトラック幅方向に小さくなることは、再生磁界の印加方向を記録磁界と同方向にしたためであるとの認識がしめされている。)。

ところで、(イ)〜(ハ)の上記判断に関して、当審の審尋に対する平成14年12月20日付けの回答書において、次のような反論を主張しているが、その主張は到底採用できるものではない。 即ち、
(イ)に関して、「第1磁性層及び第3磁性層のバランス(・・・中略・・・)の条件の下で、低温で面内磁化、高温で垂直磁化となる組成であって、しかも高CNRが得られる条件を見出すことは容易ではない。」と主張しているが、本願明細書に添付された図6や図8のグラフを検討しても、xが38%であろうと、39%であろうと作用効果は微差で実質的な差異があるとは解されない。
(ロ)に関して、12nmと15nmとでは大きく相違し、「第2磁性層は、第1磁性層と第3磁性層との間の交換結合力を制御し、第1磁性層にフロントマスク及びリアマスクを形成させる働きを有しているが、第2磁性層の膜厚を厚くすることが有効であるという着眼点は、再生磁場との兼ね合いから発する考え方であり、単に動作をすることを考えた場合の発想とは異なるものである。第1磁性層との間の結合力と、第3磁性層との間の結合力とを同時に制御する第2磁性層は、3層構成のダブルマスクMSR媒体にとって特に重要であり、特性と磁場とを決める重要な要素である。さらにこれは、本願発明における再生磁場の方向とも関連しており、容易に導かれるものではない。また、たとえ(イ)の部分に着眼したとしても、(イ)、(ロ)を同時に着眼することは容易ではない。」と主張している。 しかし、第2磁性層が第1磁性層と第3磁性層との間の交換結合力を制御するもので重要な要素であることは、超解像再生を目的とする以上論を待たないが刊行物1と本願補正発明1で相違する点ではないし、再生磁場の方向を明確に論じ且つその再生磁場の方向が本願補正発明1と同じである刊行物2において、中間層(即ち第2磁性層)の膜厚として40nmを採用しているのであるから、その程度の膜厚は適宜ないし容易に採用し得るものというべきである。
(ハ)に関して、刊行物2及び3は本出願人による発表であり、刊行物2については特許法第30条第1項の適用を受けていることを主張し、また「通常、光磁気媒体における実用信号レベルの信号品質は44dB以上であるが、本願発明では46dB以上という高い信号レベルを実現しており、請求項1,2に記載した組成範囲は激しい条件下での実現性を示したものである。」と主張している。 しかし、前者の主張については、刊行物2を用いた特許法第30条第1項の適用を受けられないことは既に説明しているとおりであり、公知の刊行物2,3の発表者が本願出願人に所属するものであるかどうかは何ら関係の無い事項である。 また、後者の主張については、少なくとも本願明細書添付の図6や図8のグラフからはxが38%であろうと39%であろうと信号レベルは46dB近傍であることが明らかであるから、到底採用できるものではないばかりか、(ハ)の内容とは関係ない反論である。

次に、本願補正発明2について検討する。
本願補正発明2は、本願補正発明1とは、記録手段が光変調であるのに対して磁界変調である点で相違があるだけで他の構成に実質的な相違はない。 その他の構成については上記本願補正発明1で検討した理由と同じ理由が適用でき、更に、記録手段を光変調ではなく磁界変調で行うことも知られていることから、そのような記録手段の変更は、当業者が容易に想い到る程度のことと認められる。

以上の通りであるから、本願補正発明1,2は、刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得る発明と認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、特許法第126条第4項を準用する同法第17条の2第5項に違反するので、同法第159条第1項の規定で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成13年1月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願は、平成8年10月25日の出願であって、その請求項1〜6にかかる発明は、平成11年4月7日付け手続補正及び平成12年8月18日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜6に記載されたとおりのもの認められるところ、その内の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 GdFeCoからなる第1磁性層、GdFeCoからなる希土類磁化優勢の第2磁性層、希土類-遷移金属からなる第3磁性層をこの順に積層しており、前記第1磁性層及び第3磁性層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層は室温で面内方向の磁化容易特性を有する光磁気記録媒体において、前記第2磁性層は、Gdx (Fe100-y Coy )100-x の組成を有し、以下の条件を満たすことを特徴とする光磁気記録媒体。
x=31の場合に0≦y≦17,y=6の場合に26≦x≦38 」

(1)先願明細書
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願日前の他の出願であって、その後に出願公開された特願平8-248320号(出願日:平成8年9月19日、特開平10-92029号公報参照、公開日:平成10年4月10日)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、
(i)「【請求項1】 透明な基板上に少なくとも再生層、中間層、記録層の順に積層された希土類遷移金属合金からなる薄膜を有する光磁気記録媒体において、再生層及び記録層が室温からキュリー温度までの温度範囲で垂直磁化膜であり、中間層が室温で希土類優勢の面内磁化膜で、温度の上昇に従い垂直磁気異方性が増大する特性を有し、再生層、中間層、記録層のキュリー温度を各々Tc1、Tc2、Tc3、膜厚を各々d1、d2、d3とすると、Tc2≦Tc3<Tc1、25nm≦d1≦60nm、25nm≦d2≦80nm、30nm≦d3≦80nmを満たし、かつ、再生層の組成がGdx1(Fe1-y1Coy1)1-x1(0.24≦x1≦0.28、0.20≦y1≦0.50)であることを特徴とする光磁気記録媒体。」(【請求項1】参照)、および、
(ii)「【請求項2】 透明な基板上に少なくとも再生層、中間層、記録層の順に積層された希土類遷移金属合金からなる薄膜を有する光磁気記録媒体において、再生層及び記録層が室温からキュリー温度までの温度範囲で垂直磁化膜であり、中間層が室温で希土類優勢の面内磁化膜で、温度の上昇に従い垂直磁気異方性が増大する特性を有し、再生層、中間層、記録層のキュリー温度を各々Tc1、Tc2、Tc3とすると、Tc2≦Tc3<Tc1であり、かつ、基板側から測定したカー回転のマイナーループが希土類優勢の特性から遷移金属優勢の特性へ遷移する温度をTcompとし、このTcompより高い温度で1kOeの磁界で再生層の磁化の向きが磁界方向に揃う温度をTh とすると、20℃≦Th -Tcomp≦60℃であることを特徴とする光磁気記録媒体。」(【請求項2】参照)、
(iii)「【請求項3】 再生層、中間層、記録層の膜厚を各々d1、d2、d3とすると、25nm≦d1≦60nm、25nm≦d2≦80nm、30nm≦d3≦80nmであり、かつ、再生層の組成がGdx1(Fe1-y1Coy1)1-x1(0.24≦x1≦0.28、0.20≦y1≦0.50)であることを特徴とする請求項2記載の光磁気記録媒体。」(【請求項3】参照)、
(iv)「【請求項4】 再生層の組成がGdx1(Fe1-y1Coy1)1-x1(0.24≦x1≦0.28、0.25≦y1≦0.40)、中間層の組成がGdx2Fe1-x2(0.31≦x2≦0.35)、記録層の組成がTbx3(Fe1-y3Coy3)1-x3(0.20≦x3≦0.24、0.13≦y3≦0.25)であることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の光磁気記録媒体。」(【請求項1】参照)、
(v)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 一般に光磁気記録媒体では、その記録密度を増大するとともに、信号の再生を容易かつ確実にするために、高密度に記録された記録マークの再生信号のC/N(キャリア対ノイズ比)をより高くし、再生パワーマージンをより大きくすることが求められているが、本発明は再生層、中間層、記録層の3層で磁性層が構成されたダブルマスク型の磁気超解像光磁気記録媒体において、特に、高密度に記録された記録マークの再生信号のC/Nを向上させ、また、信号品質を落とすことなく、低い再生磁界で再生パワーマージンを大きくすることのできる光磁気記録媒体を提供することを目的とするものである。」(段落【0005】参照)こと、
(vi)「【0015】 ここで本発明の光磁気記録媒体の再生原理について、図2を用いて説明する。この再生原理はJapanese Journal of Applied Physics Vol. 35 (1996) pp. L144-L146で既に報告されたものである。再生磁界24により再生前には、再生層21の磁化が再生磁界24の方向に揃って第1マスク26が生じる。このとき再生層はかなり希土類優勢の中間層の大部分と磁気的に一体化しているので、図3(a)のように全体的に希土類優勢の特性を示し、遷移金属のスピンの向きは再生磁界24の方向と逆になる。なお、図2の磁性層中の矢印はこの遷移金属のズピンの向きを示したものである。再生レーザービームの照射で温度が上がることで中間層22の垂直磁気異方性が高まり、記録層23から再生層21への記録マークの転写がおこる。さらに高い温度Tcompで、基板側から測定したカー回転のマイナーループが希土類優勢の特性から図3(b)のような遷移金属優勢の特性へ遷移し、さらに温度が上昇するにつれて交換結合と再生層の保磁力が下がることで、再生層21の磁化の向きは再び再生磁界24の方向を向くようになり第2マスク28が生じる。記録マークはビームスポットの中の第1マスク26と第2マスク28の間の領域(アパーチャ)27でのみ再生される。従って実質的なビームスポットが小さくなり、光の回折限界以下の周期で高密度に記録された記録マークの再生が可能となる。」(段落【0015】参照)こと、
(vii)「【0023】 (実施例1 ) 図1に示すような構造を有する光磁気記録媒体を作製した。マグネトロンスパッタ法によりトラックピッチ1.1 μmのポリカーボネート(PC)基板11上にSiNからなる第1誘電体層12をアルゴンと窒素を流しながら0.3Pa の圧力で70nm成膜し、その上にアルゴンを流しながら0.6Pa の圧力でGdx1(Fe1-y1Coy1)1-x1からなる再生層13を40nm、キュリー温度が270 ℃のGd0.32Fe0.68からなる中間層14を40nm、キュリー温度が290 ℃のTb0.22(Fe0.84Co0.16)0.78からなる記録層15を50nm、SiNからなる第2誘電体層16をアルゴンと窒素を流しながら0.3Pa の圧力で30nmの順に薄膜を積層した。第2誘電体層16の上には紫外線硬化樹脂からなる保護コート17を施した。 【0024】 ここでx1=0.26としてy1=0.22、0.28、0.35、0.40、0.46とした。また、比較例1としてx1=0.26としてy1=0.16、0.58とした。なお、いずれの場合も再生層のキュリー温度は350 ℃以上であった。 【0025】 製造した光磁気媒体に記録マーク長が0.4 μm(マークピッチの半分とみなす)となるように線速7.5m/sとして記録周波数9.4MHz、duty33% で680nm のレーザー光(対物レンズのNA=0.55 )を用いて記録を行った。同じ光を用いて再生レーザーパワーを3.2mW 、再生磁界を500 Oeとして再生信号のC/N(キャリア対ノイズ比)をスペクトラムアナライザで測定した。また、磁界を消去方向にかけながらレーザー照射で記録層の初期化を行った後、薄膜側から光磁気媒体をガラス基板に接着剤ではりつけ、有機溶剤でポリカーボネート(PC)基板を溶かしたのち、第1誘電体層側から680nm の光を照射してカーループの温度変化を調べることでTcomp、Th の測定を行った。」(段落【0023】〜【0025】参照)こと、
(viii)「【0031】 (実施例3) 再生層13をGd0.26(Fe0.65Co0.35)0.74、中間層14をGdx2Fe1-x2としたほかは実施例1と同様の光磁気媒体を作製した。ここで、x2=0.31、0.32、0.33、0.34とした。また、比較例2としてx2=0.30、0.36を作製した。なお、いずれの場合も各層のキュリー温度はTc2≦Tc3<Tc1の関係を満たしていた。 【0032】 表3に実施例3、比較例3のx2とC/NおよびTh -Tcompの関係を示す。C/Nについて実施例3では45dB以上の良好な値が得られたが、比較例3では45dBを下回った。比較例3のx2=0.30では再生磁界が500 Oeでは足りないので800 Oeで測定した。x2がさらに小さくなると1kOeより大きな再生磁界が必要になりC/Nもさらに下がった。Th -Tcompについては実施例3のx1=0.32、0.33で20℃≦Th -Tcomp≦60℃となりC/Nも47dB以上の特に高い値が得られた。 【0033】【表3】(表3は、実施例3として、x2=0.31、0.32、0.33、0.34の場合のC/N(dB)とTh-Tcomp(℃)のデータ)」(段落【0031】〜【0033】参照)こと、が記載されている。

(2)対比、判断
前記摘示の記載からすると、先願明細書には、「GdFeCoからなる再生層、GdFeからなる希土類優勢の中間層、TbFeCoからなる記録層をこの順に積層しており、前記再生層及び記録層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記中間層は室温で面内方向の磁化容易特性を有する光磁気記録媒体において、中間層の組成がGdx2Fe1-x2の組成を有し、以下の条件を満たすことを特徴とする光磁気記録媒体。 0.31≦x2≦0.35 」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認める。
そして、先願発明の「再生層」、「中間層」、「記録層」、「希土類優勢」は、それぞれ本願発明の「第1磁性層」、「第2磁性層」、「第3磁性層」、「希土類磁化優勢」に相当し、更に、本願発明の「希土類-遷移金属からなる第3磁性層」は、その希土類-遷移金属としてTbFeCoが用いられているから、先願発明の「TbFeCoからなる記録層」に相当する。
そうであるから、両者は、本願発明の用語を用いて表現すれば、「GdFeCoからなる第1磁性層、希土類磁化優勢の第2磁性層、TbFeCoからなる第3磁性層をこの順に積層しており、前記第1磁性層及び第3磁性層は積層方向の磁化容易特性を有し、前記第2磁性層は室温で面内方向の磁化容易特性を有する光磁気記録媒体。」の発明である点で一致し、
他方、第2磁性層(中間層)の材質に関して、本願発明ではGdFeCoと言いつつ、「Gdx(Fe100-y Coy )100-x の組成を有し、」「x=31の場合に0≦y≦17,y=6の場合に26≦x≦38」の条件を満たすことを特徴とするのに対して、先願発明では、GdFeであって、「Gdx2Fe1-x2の組成を有し、」「0.31≦x2≦0.35」の条件を満たすことを特徴とする点で、形式的に相違する。
しかしながら、本願発明の第2磁性層の組成は、x=31でy=0の場合に、「GdxFe1-x の組成でx=0.31 の場合」と表すことが出来るから、これは先願発明の中間層(第2磁性層)の組成である「「Gdx2Fe1-x2の組成で、x2=0.31 」と一致している。 実際に先願発明では、実施例(実施例3参照)としてx2=0.31 の場合の例が示されている。
なお、第2磁性層(中間層)の材質に関しての「GdFeCo」と「GdFe」(Gdx(Fe100-y Coy )100-x でy=0、即ちCo無しの場合)は、一見すると矛盾する。 このことは、両者による二重限定であって、「GdFe」は除外される可能性がある。 しかしながら、本願明細書段落【0043】において図9を引用しつつ「yが0〜17%」と明示し、図9でもy=0の点がデータとして示されている(更に特許法第30条適用を受けるための文献にはy=0であるGdFeの例のみが示されている)ことを勘案すると、本願発明の「GdFeCo」はGdFeCoの3元のみならずGdFeの2元の場合を包含する概念と解するのが相当である。
してみると、前記形式的に相違するとした点は、実質的な相違であるということができない。

(3)むすび
したがって、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願時に、その出願人が他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-09-09 
結審通知日 2003-09-16 
審決日 2003-09-29 
出願番号 特願平8-284108
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康志北岡 浩馬場 慎  
特許庁審判長 麻野 耕一
特許庁審判官 江畠 博
川上 美秀
発明の名称 光磁気記録媒体及びその再生方法  
代理人 河野 登夫  

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