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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B65D
管理番号 1087697
審判番号 無効2003-35128  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-07 
確定日 2003-11-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第2986450号発明「アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2986450号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2986450号の請求項1乃至4に係る発明(以下、「本件特許発明1乃至4」という。)についての出願は、平成10年5月22日の特許出願に係るものであって、平成11年10月1日に特許の設定登録がなされたものであり、その後、その特許について、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年5月23日に意見書の提出と共に訂正請求がなされ、平成13年6月27日に、訂正を認める及び特許を維持するとの決定がなされ、これに対して、請求人三和食品株式会社(以下、「請求人」という。)より、平成15年4月7日付で特許無効審判の請求(無効2003-35128)がなされ、その後、被請求人株式会社万城食品(以下、「被請求人」という。)から平成15年6月3日付けで答弁書が提出され、平成15年7月17日付けで、請求人、被請求人双方から口頭審理陳述要領書が提出され、平成15年7月17日に口頭審理が行なわれ、被請求人より平成15年7月31日付け上申書及び平成15年8月8日付け上申書が、請求人より平成15年8月22日付け上申書がそれぞれ提出されたものである。

2.本件特許発明
訂正後の本件特許発明1乃至4に係る発明は、平成13年5月23日に提出された訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側で、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側から遠い中心に近い部分には、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品本来の辛味成分は残存しており、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビであり、このワサビは、さしみと共に使用するものである
ことを特徴とするアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。
【請求項2】アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側で、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側から遠い中心に近い部分には、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品本来の辛味成分は残存しており、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビであり、さしみを入れる容器内に前記ワサビを内在する包装材を共に入れる
ことを特徴とするアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。
【請求項3】ガス透過性の包装材は、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムをガス透過性の紙で被覆し、
前記内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、
前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものである
ことを特徴とする請求項2記載のアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。
【請求項4】ガス透過性の包装材は、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムの外側に孔を有したバリア性フィルムの多層フィルムで構成され、
前記内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、
横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、
前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものである
ことを特徴とする請求項2記載のアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。」

3.請求人の主張
請求人は、証拠を提出するとともに、本件特許には、概略、以下の無効理由1乃至3がある旨主張している。
(1)甲第1号証の商品カタログ「三和の香辛料」に記載された「生おろしわさび&さしみたれ」の製品が、特許出願前に日本国内又は外国において、公然知られる状態にあったものであり、また、特許出願前に日本国内又は外国において、公然実施されたものである。
(2)そして、請求項1乃至4に係る発明は、特許出願前に日本国内又は外国において、公然知られた発明、あるいは、特許出願前に日本国内又は外国において、公然実施された発明であるから、本件特許は特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきものである(以下、「無効理由1」という。)。
(3)また、請求項1乃至4に係る発明は、特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきものである(以下、「無効理由2」という。)。
(4)さらに、本件訂正後の特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、特許請求の範囲の請求項1乃至4の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許は特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきものである(以下、「無効理由3」という。)。

(証拠方法)
請求人が提出した甲第1号証乃至甲第17号証の2は、次のとおりである。
甲第1号証:商品カタログ「三和の香辛料」
甲第2号証:大成ラミック株式会社が三和食品株式会社に宛てた報告書
甲第3号証:「東洋紡ハーデンフィルム」のパンフレットの抜粋
甲第4号証:「機能性・食品包装技術ハンドブック」の抜粋
甲第5号証:株式会社つくば食品評価センター作成の実験成績報告書
甲第6号証:三和食品株式会社代表取締役石川朝夫が弁理士藤田耕三、弁護士吉武賢次、弁護士宮嶋学に宛てた報告書
甲第7号証の1乃至2:「食品商業」1979年4月号と1979年10月号の抜粋
甲第8号証:「わさびはツーンと効く」(株式会社ハート出版社)の抜粋
甲第9号証:特開平4-79869号公報
甲第10号証:株式会社小松製作所のカタログ「コマック特選カタログ」
甲第11号証:株式会社小松製作所のカタログ「JKL-1300-V」
甲第12号証:形式JKL-1300-3P型の写真
甲第13号証:仕様書番号:No.AI-0046,装置名称:JKL-1300・3P型の仕様書
甲第14号証:特開平3-15370号公報
甲第15号証:「食品の包装」第12巻第2号の抜粋
甲第16号証:包装袋におろしワサビが充填された状態を断面で示す参考図
甲第17号証の1乃至2:大成ラミック株式会社の三和食品株式会社に対する納品台帳の抜粋

4.被請求人の主張
被請求人の主張は、概略、次のとおりである。
【無効理由1について】
本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、甲第2号証から甲第7号証の1乃至2をもってしても、甲第1号証に記載されているとも認められないし、甲第1号証に記載されたものが、特許出願前に日本国内又は外国において公然に知られる状態にあったものであったとは認められず、また、甲第1号証に記載されたものが、特許出願前に日本国内又は外国において公然実施された状態にあったものであったとは認められないので、請求人の主張する上記無効理由1は失当である。
【無効理由2について】
本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、甲第14号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものではないので、請求人の主張する上記無効理由2は失当である。
【無効理由3について】
本件特許請求項の記載及び詳細な説明の記載は明確であり、請求人の主張する上記無効理由3は失当である。
(証拠方法)
被請求人が提出した乙第1号証乃至乙第7号証は、次のとおりである。
乙第1号証:平成13年3月15日付け異議2000-72263の取消理由通知書
乙第2号証:「東洋紡ハーデンフィルム」のパンフレットの抜粋
乙第3号証:株式会社東光のホームページ(URL:http://www.package.co.jp/ top.html)の一部をプリントアウトしたもの
乙第4号証及び乙第4号証の1:「機能性・食品包装技術ハンドブック」の抜粋
乙第5号証:特開2000-52508号公報
乙第6号証:1998年10月27日発行「流通サービス新聞」の抜粋
乙第7号証:平成13年6月27日付け異議2000-72263の異議の決定
乙第8号証:「最新 機能包装実用事典」の抜粋
乙第9号証:「包装用語辞典」の抜粋
乙第10号証:「包装の事典」の抜粋
乙第11号証:昭和48年審判第428号審決

5.当審の判断
(1)【無効理由2】について
【無効理由2】は、本件特許発明1乃至4は、当業者が甲第14号証に記載された発明に基づて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
(2)甲第14号証及び甲第15号証に記載された事項
イ.甲第14号証
甲第14号証(特開平3-15370号公報)には、ワサビを通気性を有するシートで包装したものからなる食品のカビ発生防止剤について、図面とともに次の事項が記載されている。
記載ア.「ワサビ又はカラシを通気性を有するシート材で包装したことを特徴とする食品のカビ発生防止剤。」(特許請求の範囲請求項1)
記載イ.「シート材として水分及び油分を通さない紙を用いたことを特徴とする請求項1記載の食品のカビ発生防止剤。」(特許請求の範囲請求項2)
記載ウ.「本発明はパン、餅、あられ、ケーキ、菓子等の食品を保存する場合、カビの発生を防止して長期保存を可能にするための食品のカビ発生防止剤に関するものである。」(1頁左下欄13行〜16行)
記載エ.「本願第1の発明のカビ発生防止剤を食品とともに保存すれば、ワサビ又はカラシ中の有効成分が、シート材を通って食品の保存されている空間に揮散してカビの増殖活動を抑制する。」(1頁右下欄19行〜2頁左上欄2行)
記載オ.「本実施例のワサビを用いたカビ発生防止剤は、第1,2図に示すように粉末状の合成ワサビと水とを1:1の割合で十分練り合わせた練りわさび1を、通気性のある紙製の袋2で包装したものである。この紙は、西洋紙の材質と和紙の材質とが混合されてできたものであって、WOP加工(水分及び油分を通さないようにするための加工)後、更にPEラミネート加工(微細な穴が形成されているポリエチレンをラミネートする加工(アナポリ加工))を施したものである。」(2頁左上欄12行〜同頁右上欄1行)
記載カ.「上述のような効果を奏する理由としては、ワサビ又はカラシ中に含有される前駆体としての配糖体(シニグリン)に、同じくワサビ又はカラシ中に含有されるミロシナーゼが作用して、アリルイソチオシアネートになり、このアリルイソチオシアネートが揮発性の抗菌性物質として作用するからである。」(2頁右上欄10行〜16行)
記載キ.「本実施例のカビ発生防止剤は、紙に包装されているので、パンケース等の中に直接入れて食品と並べて使用しても、パンやパンケース内部とワサビ又はカラシとが直接触れることがないので、清潔で、使い勝手がよく、簡便である。」(2頁右上欄18行〜2頁左下欄2行)
記載ク.「この試験報告書記載の試験において使用したハイビックAワサビは前記実施例の練ワサビ1を紙製の袋2で包装したものである。・・・・表-1記載の試験区は前記ハイビックAワサビ又はハイビックBカラシと食パン1枚とを袋に入れシール後、室温(約20℃)で保存して経時的に観察したものである。
・・・・表-1からわかるようにハイビックAワサビを使用した試験区においては、12日間放置してもカビの発生は認められなかった。」(2頁左下欄14行〜同頁右下欄9行)
記載ケ.「なお、ワサビ及びカラシはそのもの自体、食用に供される食品であり、仮にワサビ又はカラシ中の成分がパン等の表面に付着して、人体に摂取されることがあったとしても、食品添加物のような人体への悪影響はまったく考えられない。」(3頁左上欄16行〜20行)
記載コ.「本発明においてワサビ又はカラシを包装するシート材としては、紙の他通気性を有するポリエチレン等でもよい。更に、本発明のカビ発生防止剤としては前述の練ワサビ1、練カラシに限定されることなく、次のようなものも使用してもよい。・・・・・・・
すりおろした新鮮なワサビにする。すりおろした場合にはワサビの細胞が破壊され、細胞中離れて存在していた前駆体にミロシナーゼが反応し、抗菌性物質であるアリルイソチオシアネートが多量に生成される。」(3頁右上欄15行〜同頁左下欄8行)

上記記載アの事項によると、ワサビは通気性を有するシート材で包装されている。
また、ワサビに含まれる生成されたアリル・イソ・チオシアネートは、ワサビの辛味を発現するものであり、辛味成分であるといえる(必要なら甲第15号証参照。)。
さらに、上記記載カの「ワサビ又はカラシ中に含有される前駆体としての配糖体(シニグリン)に、同じくワサビ又はカラシ中に含有されるミシロナーゼが作用して、アリルイソチオシアネートになり、このアリルイソチオシアネートが揮発性の抗菌性物質として作用する」との記載から、一定量のワサビが、通気性を有するシート材で包装されているときは、当該ワサビの表面側から内部にわたり、配糖体(シニグリン)及びミシロナーゼはそれぞれ一定量存在することとなり、その結果、生成したアリル・イソ・チオシアネートは、一定量のワサビの表面側から内部にわたり存在し、揮発する場合は、一定量のワサビの表面側で揮発するとともに、一定量のワサビの内部にもアリル・イソ・チオシアネートが存在することとなることは、明らかである。
そして、通気性を有するシート材で包装されたワサビは、上記記載エ、クの事項によると、シート材を破らない段階では、アリル・イソ・チオシアネートがワサビを包装しているシート材を透過して、周囲に抗菌作用を及ぼしている。
さらに、シート材の素材が紙、ポリエチレンラミネート等であること(上記記載オの事項参照。)並びに第1図及び第2図の包装されたものの袋状の形態を考慮すると、シート材は破くことができ、さらに破いた後、シート材により包装された元来食品であるワサビ(上記記載オの事項参照。)は食することができるといえる。
また、甲第14号証には、直接、アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法という記載はないが、ワサビを通気性シートで包装するということが記載されており、ワサビを通気性シートで包装するという包装方法が記載されているといえる。
以上のことを総合すると、甲第14号証には、「アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビを通気性を有するシート材で包装し、
前記シート材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビから揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビから揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビの表面側で揮発し、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビの表面側から遠い中心に近い部分には、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビの辛味成分は残存しており、
前記シート材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビを食することができる、
アリル・イソ・チオシアネートを含有するワサビの包装方法。」(以下、「甲第14号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
ロ.甲第15号証
甲第15号証には、ワサビの辛味は、アリル・イソ・チオシアネートによるものであること、及びワサビに含まれているシニグリンに酵素が関与して、アリル・イソ・チオシアネートが生成されることが記載されている。
(3)対比・判断
[本件特許発明1について]
まず、本件特許発明1の記載中、「前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側で、」との記載について検討すると、包装材に包装されたアリル・イソ・チオシアネート(辛味成分)を含有する食品であるワサビが本件特許公報の図2に示された状態で充填されている場合に、ワサビから揮発するアリル・イソ・チオシアネート(辛味成分)により、周囲の抗菌作用を及ぼす場合には(本件特許公報第0012段落及び図2参照)、アリル・イソ・チオシアネート(辛味成分)は、ワサビの表面側で、揮発することは自明であるから、上記記載は、アリル・イソ・チオシアネート(辛味成分)が食品の表面側で揮発していることを規定するものと解釈される。
また、「食品本来の辛味成分」は、「食品本来の」と記載されているものの、食品であるわさびの辛味成分は、アリル・イソ・チオシアネートであるので、アリル・イソ・チオシアネートを意味するものと解釈される。 そして、甲第14号証記載の発明の「ワサビ」は、そのもの自体、食用に供される食品であり、仮にワサビ中の成分が、人体に摂取されることがあったとしても、食品添加物のような人体への悪影響はまったく考えられないものであり(上記記載ケの事項参照。)、本件特許発明1における「食品」に相当するものと認められる。
加えて、甲第14号証記載の発明の「アリル・イソ・チオシアネート」は、ワサビの辛味を発現するものであり、辛味成分であり、本件特許発明1の「アリル・イソ・チオシアネート」及び「辛味成分」に相当する。また、甲第14号証記載の発明における「通気性を有するシート材」は、ワサビの有効成分であるアリル・イソ・チオシアネートが、シート材を通って食品の保存されている空間に揮散するという機能からみて、包装材を破らない段階では、アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により周囲に抗菌作用を及ぼす機能を有する、本件特許発明1における「ガス透過性の包装材」に相当するといえる。
してみると、本件特許発明1の用語を用いて表現すると、両者は、「アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側で、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側から遠い中心に近い部分には、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品本来の辛味成分は残存しており、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビである
アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。」である点において一致し、次の点において相違するものと認められる。

相違点1
本件特許発明1では、包装されるワサビは、さしみと共に使用するものであるのに対して、甲第14号証記載の発明では、包装されるワサビは食用のものではあるが、ワサビの使用目的が防かびにあり、さしみと共に使用するものではない点。

そこで、上記相違点1について、検討する。
本件特許発明1において、包装するワサビがさしみと共に使用するものであるとの特定がなされているが、これは、包装されたワサビの使用方法を特定したものであって、食品の包装方法に関する本件特許発明1の、具体的包装方法を特定するものではない。
また、甲第14号証に記載されたワサビはカビ発生防止剤として使用されるものであって、食することを目的とするものではないが、食品に供されるワサビを使用していることは、記載ケからも明らかである。そして、食品に供されるワサビをさしみと共に使用することは生活習慣といえるほどに広く行われていることであるので、甲第14号証記載のワサビをさしみと共に使用することに格別困難があったとはいえない。
してみると、本件特許発明1は、甲第14号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものである。
なお、この点に関し、被請求人はカビ発生防止剤に用いたワサビをさしみと共に食することはありえない旨を主張しているが(第1回口頭審理調書の被請求人の欄第3項及び平成15年7月31日付け上申書第7頁第22行〜第8頁第18行参照。)、そもそも甲第14号証記載のワサビも食品のカビ防止のために食品と共に使用されているものであり、カビ防止に使用されたからといっても食することのできない格別の事情も存在していないのであるから、上記被請求人の主張は認められない。

[本件特許発明2について]
本件特許発明2は、本件特許発明1における「このワサビは、さしみと共に使用するものである」を「さしみを入れる容器内に前記ワサビを内在する包装材を共に入れる」としたものである。
したがって、本件特許発明2と甲第14号証記載の発明とを対比するに、上記[本件特許発明1について]を参考とすれば、両者は、「アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分は前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側で、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の表面側から遠い中心に近い部分には、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品本来の辛味成分は残存しており、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビである
アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。」である点において一致し、次の点において相違するものと認められる。

相違点2
本件特許発明2では、さしみを入れる容器内に、ガス透過性の包装材でワサビを内在したものをさしみと共に入れているのに対して、甲第14号証記載の発明では、その点の限定がない点。

そこで、上記相違点2について、検討する。
本件特許発明2において、さしみを入れる容器内に、ガス透過性の包装材でワサビを内在したものをさしみと共に入れるとの特定がなされているが、これは、包装されたワサビの使用方法を特定したものであって、食品の包装方法に関する本件特許発明2の、具体的包装方法を特定するものではない。 また、甲第14号証には、食品のカビ発生防止の目的で、ガス透過性の包装材でワサビを内在したものを、パン、餅、あられ、ケーキ、菓子等の食品と並べて使用することが記載されており(上記記載ア、ウ及びキの事項参照。)、さらに、さしみが生鮮食品であり鮮度が求められ、微生物・菌類の増殖防止を図る必要があることは、本件の出願前周知の技術的課題であると同時に(必要なら、特開平9-191822号公報、特開平8-205838号公報等参照。)、さしみを入れる容器内に、包装材でワサビを内在したものを、さしみと共に入れることは、さしみの店頭販売の際に、普通に行われている事項である。
そうすると、甲第14号証記載の発明において、包装されたワサビの使用形態として、さしみを入れる容器内に、ガス透過性の包装材でワサビを内在したものをさしみと共に入れると特定するすることは、当業者が容易になし得たことである。
してみると、本件特許発明2は、甲第14号証記載の発明及び本件の出願前周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものである。

[本件特許発明3について]
本件特許発明3は、本件特許発明2を「ガス透過性の包装材は、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムをガス透過性の紙で被覆し、前記内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものである」ことで特定したものである。
したがって、本件特許発明3と甲第14号証記載の発明とを対比するに、上記[本件特許発明2について]を参考とすれば、両者は、
「アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビである
アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。」である点において一致し、上記相違点2に加えて、次の点において相違するものと認められる。

相違点3
本件特許発明3は、ガス透過性の包装材が、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムをガス透過性の紙で被覆されたものであるのに対し、甲第14号証記載の発明は、ガス透過性の包装材として紙にポリエチレンラミネート加工を施したものが記載されているものの、どちらを内面の素材とするか不明な点。

相違点4
本件特許発明3は、ガス透過性の包装材の内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものであるのに対して、甲第14号証記載の発明は、その点に直接触れた記載がない点。

そこで、上記相違点3、4について、検討する。
・相違点3について
甲第14号証には、ガス透過性を有する包装材として、ポリエチレンと紙とを積層することが記載されており(上記記載オの事項参照。)、また、ガス透過性包装材をヒートシールして包装袋を作成する場合に、内面をヒートシール性を有する樹脂であるポリエチレンで構成することが、本件の出願前周知の技術的事項であるので(必要であれば、特開平6-312478号公報、特開平9-110620号公報等参照。)、甲第14号証記載の発明において用いるガス透過性の包装材を、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムをガス透過性の紙で被覆されたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。

・相違点4について
ガス透過性の包装材に食品を充填して、甲第14号証の第1図にあるような略長方形形状の袋の製造方法として、「ガス透過性の包装材の内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着による」ことは、本件の出願前に周知の技術的事項である(必要であれば、登録実用新案第3046862号公報、特開平9-254909号公報、特開平9-169315号公報等参照。)。
したがって、甲第14号証記載の発明において、アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法として、上記周知の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得たことである。
してみると、本件特許発明3は、甲第14号証記載の発明及び本件の出願前周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものである。

[本件特許発明4について]
本件特許発明4は、本件特許発明2を「ガス透過性の包装材は、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムの外側に孔を有したバリア性フィルムの多層フィルムで構成され、前記内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものである」ことで特定したものである。
したがって、本件特許発明4と甲第14号証記載の発明とを対比するに、上記[本件特許発明2について]を参考とすれば、両者は、
「アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品をガス透過性の包装材で包装し、
前記包装材を破らない段階では、前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品から揮発する辛味成分により、周囲に抗菌作用を及ぼし、
前記包装材を破いて前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を食することができ、
前記アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品は、ワサビである
アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法。」である点において一致し、上記相違点2に加えて、次の点において相違するものと認められる。

相違点5
本件特許発明4は、ガス透過性の包装材は、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムの外側に孔を有したバリア性フィルムの多層フィルムで構成さているのに対し、甲第14号証記載の発明は、ガス透過性の包装材は、紙にポリエチレンラミネート加工を施したものである点。

相違点6
本件特許発明4は、ガス透過性の包装材の内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着によるものであるのに対して、甲第14号証記載の発明は、その点に直接触れた記載がない点。

そこで、上記相違点5、6について、検討する。
・相違点5について
甲第14号証には、ガス透過性の包装材として、ポリエチレンと紙とを積層したものが記載されており、また、ガス透過性を有する包装材として、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムの外側に孔を有したバリア性フィルムを積層したものは、本件の出願前周知の技術的事項である(必要であれば、特開平3-96334号公報、特開平6-22686号公報、特開平6-165636号公報、特開平10-87407号公報等参照。)。
そうすると、甲第14号証記載の発明におけるガス透過性の包装材として、内面がポリエチレンフィルムで、該ポリエチレンフィルムの外側に孔を有したバリア性フィルムの多層フィルムを採用することは、当業者が容易になし得たことである。

・相違点6について
ガス透過性の包装材に食品を充填して、甲第14号証の第1図にあるような略長方形形状の袋を製造方法として、「ガス透過性の包装材の内面が互いに向き合うように折り、縦シーラーで縦シールし、横シーラーで横シールすると共にアリル・イソ・チオシアネートを含有する食品を充填し、再び、横シーラーで横シールし、前記アリル・イソ・チオシアネートを密封し、その後、カッタでカットするものであり、前記縦シール及び前記横シールは、熱圧着による」ことは、本件の出願前に周知の技術的事項である(必要であれば、登録実用新案第3046862号公報、特開平9-254909号公報、特開平9-169315号公報等参照。)
したがって、甲第14号証記載の発明において、アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法として、上記周知の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得たことである。
してみると、本件特許発明4は、甲第14号証記載の発明及び本件の出願前周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1乃至4は、甲第14号証に記載された発明及び本件の出願前周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1乃至4は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-01 
結審通知日 2003-10-06 
審決日 2003-10-17 
出願番号 特願平10-140639
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 溝渕 良一  
特許庁審判長 吉国 信雄
特許庁審判官 山崎 勝司
杉原 進
登録日 1999-10-01 
登録番号 特許第2986450号(P2986450)
発明の名称 アリル・イソ・チオシアネートを含有する食品の包装方法  
代理人 藤田 耕三  
代理人 加藤 静富  
代理人 宮嶋 学  
代理人 入江 一郎  
代理人 野末 寿一  
代理人 吉武 賢次  

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