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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1088011
異議申立番号 異議2003-70060  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-11-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-15 
確定日 2003-10-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3301075号「半導体装置の製造方法」の請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3301075号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 I. 手続の経緯
特許第3301075号の請求項1〜6に係る発明は、平成11年4月20日に特許出願され、平成14年4月26日に設定の登録がなされた後、本件請求項1〜6に係る発明の特許について、特許異議申立人天野多美子(以下、「申立人」という)により、平成15年1月15日付けで特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年6月6日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求の適否
II-1.訂正の内容
上記訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という)を訂正請求書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という)のとおりに訂正しようとするものであって、その内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1:特許明細書第【0008】欄の
「即ち、本発明は、半導体素子を、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1、温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2、温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定することを特徴とする製造方法を提供する。」を、
「即ち、本発明は、半導体素子を、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1、温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2、温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定することを特徴とする製造方法を提供する。本発明においては、圧力P1及び圧力P2のプロファイルが不連続な階段状となっていることが好ましい。」と訂正する。
(2)訂正事項2:同じく、第【0002】欄の
「ベアICチップ等の半導体素子を配線板に接合する場合、配線板と半導体素子との間にエポキシ樹脂など主成分とする液状もしくはフィルム状の熱硬化性絶縁接着剤を配し、加熱手段を備えたボンディングツールで半導体素子を加熱加圧すすることにより接合している。」を、「ベアICチップ等の半導体素子を配線板に接合する場合、配線板と半導体素子との間にエポキシ樹脂など主成分とする液状もしくはフィルム状の熱硬化性絶縁接着剤を配し、加熱手段を備えたボンディングツールで半導体素子を加熱加圧することにより接合している。」と訂正する。
(3)訂正事項3:同じく、第【0030】欄の
「シランカップリング剤(A187、日本ユニカ社社製)」を、「シランカップリング剤(A187、日本ユニカ社製)」と訂正する。

II-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、および拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、第【0008】欄の記載を、特許明細書の特許請求の範囲請求項2の記載に整合させたものであって、明りょうでない記載の釈明に該当するものである。
(2)訂正事項2、訂正事項3は、誤記の訂正に該当する。
そして、上記訂正事項1〜3はいずれも願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)まとめ
したがって、この訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立て
III-1.本件発明
前述のように、本件訂正は適法なものであるので、本件請求項1〜6に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本件発明1〜6」という)である。
「【請求項1】半導体素子を、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1、温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2、温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定することを特徴とする製造方法。
【請求項2】P1及びP2の圧力プロファイルが不連続な階段状となっている請求項1記載の製造方法。
【請求項3】T1よりもT2を高温に設定する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】T1及びT2の温度プロファイルが階段状となっている請求項3記載の製造方法。
【請求項5】半導体素子が、ベアチップ、チップサイズパッケージ又はICモジュールである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】接着剤が、異方性導電接着剤である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。」

III-2.申立人の主張する特許異議申立ての理由
(1)申立人は、
(1-1)特許明細書の請求項1〜6に係る発明は、下記の甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、
(1-2)特許明細書の請求項1〜6に係る発明は、請求項1、2及び発明の詳細な説明に不備があるから、特許法第36条第4項および第6項の規定に違反してなされたものであり、特許明細書の請求項1〜6に係る発明の特許は取り消されるべきである旨を主張している。

甲第1号証:特開平7-66225号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証:特開平9-212100号公報(以下、「刊行物2」という)
甲第3号証:特公平6-71028号公報(以下、「刊行物3」という)
甲第4号証:特開昭61-251045号公報(以下、「刊行物4」という)

III-3.刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
(1-1)第【0011】〜【0012】欄には、
「図2(a)のように、リードフレーム1の各単位のインナーリード1aの下面には、両面に熱可塑性接着剤4、4を塗布したポリイミドフィルム3が仮止めされる。一方、半導体素子2は第1ステージ10のヒーターブロック11に供給され、所定の位置に支持される。そして、リードフレーム1の単位が所定位置にまで移動され、リードフレーム1に仮止めされたポリイミドフィルム3がヒータブロック11の直上位置に到達されると、図2(b)のように、ヒーターブロック11が上動される。これと同時にローラ12が下動され半導体素子2とリードフレーム1とを上下から押圧する。そして、ヒータブロック11により半導体素子を比較的に低い温度で加熱しながらローラ12を回転し、ローラ12をリードフレーム1上を左から右に向けて転動する。これにより、接着剤4は若干軟化されて半導体素子2をリードフレーム1に接着するとともに、接着剤4中に存在する気泡は側方に押し出される。その後、ヒータブロック11は下動し、ローラ12は上動してそれぞれ退避される。次いで、図2(c)のように、リードフレーム1が1単位分右方に移動されて半導体素子4が第2ステージ20のヒータブロック21上に位置されると、ヒータブロック21、22がそれぞれ上下動されて半導体素子2とリードフレーム1を平面状態で加圧し、かつ同時に高い温度でこれらを加熱する。これにより接着剤4も高温加熱されて十分に軟化され、リードフレーム1と半導体素子2との完全な接着を行う。」が記載されている。
(2)刊行物2の記載事項
(2-1)第【0033】欄には、
「IC部品のフラットパネルディスプレイへの接合装置1のステージ10上にフラットパネルディスプレイ20が保持され、このフラットパネルディスプレイ20の電極21上に異方性導電膜30が貼付されている。なお、この異方性導電膜30は従来から市販され、多用されているものである。この異方性導電膜30は、約200℃で25秒前後保持することにより、その接着剤が硬化するものである。」が記載されている。
(2-2)第【0035】〜【0038】欄には、
「支持軸45によりこの加圧ヘッド42を介して、IC部品50に、下方に圧力が印加され、しかも同時に、加熱ヘッド41のヒータ44により加熱され、温度センサー43により、一定温度に保持されている。…中略…前記の異方性導電膜30中の導電粒子31によりIC部品50のバンプ51とフラットパネルディスプレイ20の電極21とが導通すると共に、その異方性導電膜30中の接着剤が硬化し、IC部品50とフラットパネルディスプレイ20の熱圧着工程が完了するものである。…中略…本実施形態では、この熱圧着工程を前圧着工程Aと最終圧着工程Bに分割した。この前圧着工程Aと最終圧着工程Bにおける加熱温度とその保持時間との関係を図5(a)に示し加圧力とその保持時間との関係を図5(b)に示す。…中略…前圧着工程Aでは、130℃、1500Kgf/cm2の状態で3秒間保持し、最終圧着工程Bでは、200℃、700Kgf/cm2の状態で20秒間保持した。」が記載されている。
(2-4)第【0051】欄〜第【0052】欄には、
「本実施形態のように従来例2等に反し、前圧着工程A時の加圧力を最終圧着工程B時の加圧力に比較して大きくすることにより、IC部品50とフラットパネルディスプレイ20とを接合した製品の耐久性、信頼性を高めることができる。なお、このような繰り返し行なわれた実験結果と異方性導電膜30による接合接着条件等から、前圧着工程A時の加圧力を300〜3000Kgf/cm2とし、最終圧着工程B時の加圧力を100〜1500Kgf/cm2とするとより好ましいい効果を得ることができる。…中略…前圧着工程A時の加圧力を最終圧着工程B時の加圧力に対し2倍以上とすることによりさらに好ましい効果を得ることができる。」が記載されている。
(2-5)第【0054】欄〜第【0055】欄には、
「熱圧着工程を前圧着工程と最終圧着工程に分割し、前圧着工程時の加圧力を最終圧着工程時の加圧力に比較して大きくすることにより、前圧着工程後にフラットパネルディスプレイの画像検査を十分行えるようになり、接続不良品等の改修も容易になると共に、接合後のIC部品のバンプとフラットパネルディスプレイの電極間の接続抵抗値を低減でき、これらを用いた製品の耐久性、信頼性の向上が図れる。…中略…この前圧着工程時と最終圧着工程時との加圧力を最適な範囲に設定することにより、より一層前記耐久性、信頼性の向上が図れる。」が記載されている。
(3)刊行物3の記載事項
(3-1)第1図及び第3欄末行〜第4欄40行には、
「次に、第1図(b)に示すように、Au、Cu、Al、In合金等よりなる突起電極4を有したLSIチップ5を、突起電極4と導体配線1の位置が一致するように、配線基板2の絶縁性樹脂3が塗布された領域に設置する。…中略…加圧ツール6で、第1の荷重7によりLSIチップ5を加圧する。第1の荷重7の設定は、突起電極4の加圧の際の変形量で、突起電極4の厚さのバラツキ、および配線基板2の平面度を吸収する値にする必要がある。突起電極4の変形量は通常1〜5μ程度であり、第1の荷重7は、例えば0.5g/突起電極〜30g/突起電極である。このとき、第1の荷重7は非常に大きいため、LSIチップ5および配線基板2にはそりおよび歪が生じる。また、このとき、絶縁性樹脂3は周囲に押し出され、LSIチップ5の突起電極4と導体配線1は電気的に接触する。次に、加圧ツ-ル6をLSIチップ5に接触させた状態で、荷重LSIチップ5および配線基板2のそりおよび歪が生じなくなる第2の荷重8に設定する。第2の荷重8は、例えば第1の荷重の1/3〜1/8程度である。次に、LSIチップ5を、第2の荷重8で加圧ツール6により加圧した状態で絶縁性樹脂3を硬化する。…中略…第1図(c)に示すように、加圧ツール6を解除する。このとき、LSIチップ5は配線基板2に固着されると同時に、突起電極4と導体配線1は接触により電気的に接続される。なお、本発明においては、LSIチップに限らず他の種々の半導体素子にも適用することができる。…中略…本発明によれば、半導体素子の加圧時の荷重を、十分な接触を得るための第1の高荷重と、LSIチップおよび配線基板のそり、歪が生じない第2の低荷重の2段階に分け、第2の低荷重のときに絶縁性樹脂を硬化するため、半導体素子、配線基板にそり、歪が生ぜず、半導体素子の特性が変化することなく、さらに、高温高湿中においても、絶縁性樹脂の剥離が起こらず、高信頼性の接続が得られ、その実用上の効果は極めて大である。」が記載されている。
(4)刊行物4の記載事項
(4-1)第2頁右上欄12行〜左下欄3行には、
「傾斜させたリードフレーム1の垂れ防止用突片1aの近辺にハンダ2を所定量滴下し、前紀リ-ドフレ-ム1と平行な方向から、半導体チップ3を所定庄力で押しつけることにより、リ-ドフレ-ム1に半導体チップ3を接続固定させている…中略…半構体チップ3の押圧時1に前記半導体チップ3のボンディング面に沿って矢印A方向へとハンダ2内に含まれる多数の気泡が有効に取り除けることになる。」が記載されている。

III-4.当審の判断
[1]特許法第29条第2項違反について
[1-1]本件発明1と刊行物1に記載の発明の容易性
記載事項「III-3.(1)(1-1)」によれば、刊行物1には、
「ヒーターブロック11とローラ12から第1ステージ10が、ヒータブロック21、22から第2ステージ20が、それぞれ構成されるものであって、
(1)リードフレーム1の各単位のインナーリード1aの下面に、両面に熱可塑性接着剤4、4を塗布したポリイミドフィルム3が仮止めされる工程、
(2)半導体素子2は第1ステージ10のヒーターブロック11の、所定の位置に支持され、リードフレーム1の単位が所定位置にまで移動されてリードフレーム1に仮止めされたポリイミドフィルム3がヒータブロック11の直上位置に到達される工程、
(3)ヒーターブロック11が上動され半導体素子2とリードフレーム1とを上下から押圧する工程、
(4)接着剤4を若干軟化し半導体素子2をリードフレーム1に接着するとともに、接着剤4中に存在する気泡を側方に押し出すために、ヒータブロック11により半導体素子を比較的に低い温度で加熱しながらローラ12を回転し、ローラ12をリードフレーム1上を左から右に向けて転動する工程、
(5)第2ステージ20のヒータブロック21上に位置され、ヒータブロック21、22がそれぞれ上下動されて半導体素子2とリードフレーム1を比較的に高い温度で加熱しながら平面状態で加圧することからなる半導体装置の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。
そこで、本件発明1(以下、「前者」という)と引用発明(以下、「後者」という)とを対比すると、
(1-1)後者の「リードフレーム」、「気泡を側方に押し出す第1ステージ」は、前者の「配線板」、「ボイドを除去する第1条件で行うこと」に相当する。
してみると、両者は、「半導体素子を、接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件で行うことを特徴とする製造方法。」で一致している。
しかしながら、両者は、下記相違点1〜2で相違している。
相違点1;前者が、「熱硬化性樹脂」を主成分使用しているのに対し、後者で使用しているものは、「熱可塑性接着剤」である点。
相違点2;加熱加圧処理を、前者が、「ボイドを除去するための第1条件(圧力=P1、温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2、温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定」しているのに対し、後者においては、第2ステージは、接着剤が軟化する高温加熱をおこない、かつ、第1ステージと、第2ステージの圧力条件の関連性については何も言及していない点、
そこで、上記相違点2について検討すると、刊行物2〜4には、少なくとも、上記相違点2として摘記した半導体素子の加熱加圧処理において、「熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件の圧力をボイドを除去するための第1条件より低圧」とする点については、記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、上記相違点2を構成要件として備えることにより、「例えばベアチップを配線板に通常の接着剤で接続する場合に、加熱加圧の初期圧力が高いのでボイドレスで接続できる。また、接着剤を本硬化させる際の圧力が、加熱加圧の初期圧力よりも相対的に低くなっているので、配線パターンの変形を大きく抑制することができる。従って、本発明の製造方法によれば、半導体素子が高い接続信頼性で配線板に接続された半導体装置が提供される。」という本件明細書第【0017】欄に記載の作用効果を奏するものである。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1〜4に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
[1-2]本件発明2〜6と刊行物1〜4に記載の発明との容易性
本件発明2〜6と刊行物1〜4に記載の発明とを対比すると、本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに、所定の要件を特定したものであるところ、本件発明1は、刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明2〜6についても刊行物1〜4に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができない。

[2]特許法第36条第4、6項違反について
「ボイドを除去するための条件」は、熱硬化性樹脂の種類により、当業者が適宜設定可能であり、また、「熱硬化性樹脂を本硬化させるための条件」は、熱硬化性樹脂の種類により、当業者が適宜設定可能である。
なお、「P1及びP2の圧力プロファイルが不連続な階段状となっている」点については、訂正事項1のとおり訂正された。
してみると、本件特許は、その明細書が不備である特許出願に対してされたとすることはできない。
よって、申立人の明細書の記載が不備であるとの主張は認められない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由および提出した証拠によっては、本件発明1〜6の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 半導体素子を、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1,温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2,温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定することを特徴とする製造方法。
【請求項2】 P1及びP2の圧力プロファイルが不連続な階段状となっている請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 T1よりもT2を高温に設定する請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】 T1及びT2の温度プロファイルが階段状となっている請求項3記載の製造方法。
【請求項5】 半導体素子が、ベアチップ、チップサイズパッケージ又はICモジュールである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】 接着剤が、異方性導電接着剤である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベアチップ、チップサイズパッケージ、ICモジュール等の半導体素子を、熱硬化性接着剤で配線板に実装した半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベアICチップ等の半導体素子を配線板に接合する場合、配線板と半導体素子との間にエポキシ樹脂など主成分とする液状もしくはフィルム状の熱硬化性絶縁接着剤を配し、加熱手段を備えたボンディングツールで半導体素子を加熱加圧することにより接合している。
【0003】
ところで、微細導体パターンを有する配線板に微細バンプを備えた半導体素子を接合した際、硬化した接着剤中にボイドが残存すると、接着力が低下し、耐湿試験や耐ヒートショック試験等に対する接続信頼性が低下するという問題がある。従って、そのようなボイドを接着剤中になるべく残存させずに、しかも確実な接着力を確保できるように加熱加圧条件を設定している。
【0004】
そのような加熱加圧条件としては、温度、圧力及び時間のファクターのそれぞれを最適且つ一定の数値に設定したワンステップ条件(例えば、温度=180℃一定、ICチップ一個当たりの圧力=10kg/cm2一定、時間=20秒一定)や、圧力一定の下で温度プロファイルを変化させる条件、特に温度を2段階に上昇させるツーステップ条件(例えば、圧力=10kg/cm2一定の下、温度=100℃/時間=10秒→温度=200℃/時間=10秒)が挙げられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したようなワンステップ条件や、圧力一定の下、温度プロファイルを変化させるツーステップ条件では、接着剤中のボイドを十分に除去することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、半導体素子を配線板に熱硬化性接着剤を介して接合して半導体装置を製造する場合に、ボイドが残存しないように接着剤を硬化させ、良好な接続信頼性を実現できるようにすることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来試みられていなかった圧力プロファイル変化に着目し、まず、ある程度高い圧力で加圧して接着剤中のボイドを主として除去し、その後その圧力よりも低い圧力で加圧して熱硬化性樹脂の本硬化を行うことにより、硬化した接着剤中にボイドが残存することを大きく抑制でき、良好な接続信頼性を獲得できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、半導体素子を、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧処理して配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法において、加熱加圧処理を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1,温度=T1)で行い、その後で、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2,温度=T2)で行い、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定することを特徴とする製造方法を提供する。本発明においては、P1及びP2の圧力プロファイルが不連続な階段状となっていることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤を介して加熱加圧により半導体素子を配線板に接続することを含む半導体装置の製造方法である。
【0010】
本発明においては、加熱加圧の際の条件を、接着剤中のボイドを除去するための第1条件(圧力=P1,温度=T1)と、その後で実施される、熱硬化性樹脂を本硬化させるための第2条件(圧力=P2,温度=T2)とから構成し、且つ第2条件の圧力P2を第1条件の圧力P1よりも低圧に設定する。このように、接着剤中のボイドを主として除去するために、ある程度高い圧力(P1)で加圧し、その後その圧力よりも低い圧力(P2)で加圧して熱硬化性樹脂の本硬化を行うことにより、硬化した接着剤中にボイドが残存することを大きく抑制でき、良好な接続信頼性を獲得できる。このようにP1をP2より高圧に設定する理由は、以下のように考えられる。
【0011】
即ち、配線板の微細パターン間に残ったボイドを、配線板と半導体素子の間の接着剤から外部に押し出すためには、接着剤の溶融粘度が低すぎるとボイドを押し出しにくくなるので、接着剤の溶融粘度が比較的高い間にボイドを押し出す必要がある。従って圧力を高く設定することが必要となる(加熱加圧の第1条件)。一方、ボイドを押し出した後に接着剤中の熱硬化樹脂を本硬化させる際には、圧力が高すぎると樹脂の硬化による収縮と半導体素子のバンプに集中する加圧力により、配線板の微細パターンに変形が生じる。従って、本発明においては、P2をP1よりも低圧に設定する。
【0012】
本発明において、加熱加圧の第1条件の圧力P1及び第2条件の圧力P2の圧力プロファイルパターンとしては、P1>P2(>0)という関係が維持されている階段状パターン(図1(a))、直線状パターン(図1(b))、曲線状パターン(図1(c)、図1(d))等が挙げられる。中でも、階段状パターン(図1(a))が、ボイドを効率よく除去する点で好ましい。なお、圧力を3段階以上の階段状パターンとしてもよい。また、これらのパターンを組み合わせたものを圧力プロファイルとしてもよい(例えば、図1(e)参照)。
【0013】
本発明の製造方法において、加熱加圧の温度条件(即ち、第1条件のT1及び第2条件のT2)は、従来と同様に設定してもよい。例えば、圧力を図1(a)に示すようなプロファイルに設定し且つ温度を一定(T1=T2)とすることができる。特に、ボイドを効率よく除去するためには、図2(b)に示すように、接着剤の温度T1における溶融粘度が、温度T2における本硬化処理の初期段階の溶融粘度よりもある程度高い溶融粘度を示すことが好ましいので、図2(b)に示すようにT1<T2という条件の下、圧力プロファイルを階段状に設定することが好ましい。
【0014】
なお、本発明の製造方法におけるP1、P2、T1、T2及び加熱加圧時間の具体的な数値範囲は、使用する接着剤の種類等により異なるが、接着剤がエポキシ樹脂系である場合には、例えば、第1条件をP1=5〜15kgf/cm2、T1=80〜120℃、5〜15秒に設定し、第2条件をP2=0.5〜3kgf/cm2、T2=180〜220℃、5〜15秒と設定することができる。
【0015】
本発明の製造方法において、熱硬化性樹脂を主成分として含有する接着剤としては、半導体素子を配線板に搭載する際に利用されている従来の一般的な熱硬化性樹脂含有接着剤を使用することができる。この接着剤は、液状、ペースト状あるいはフィルム状で供給されるものを使用することができる。また、導電性粒子を含有した異方性導電接着剤も使用することができるが、導電性粒子を含有しない絶縁性接着剤も使用することができる。
【0016】
また、配線板としても従来と同様なものを使用することができる。半導体素子としても、公知のベアチップ、チップサイズパッケージ、ICモジュール等を使用することができる。
【0017】
以上説明した本発明の製造方法によれば、例えばベアチップを配線板に通常の接着剤で接続する場合に、加熱加圧の初期圧力が高いのでボイドレスで接続できる。また、接着剤を本硬化させる際の圧力が、加熱加圧の初期圧力よりも相対的に低くなっているので、配線パターンの変形を大きく抑制することができる。従って、本発明の製造方法によれば、半導体素子が高い接続信頼性で配線板に接続された半導体装置が提供される。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を以下の実施例により具体的に説明する。
【0019】
実施例1〜6,比較例1及び2
配線板(端子銅パターン幅100μm、パターンピッチ150μm)にベアチップ(6mm角)を、ベアチップ実装用のフィルム状異方性導電接着剤(FP10425,ソニーケミカル社製)を使用し、80℃に設定された加圧ステージ上で表1の条件に従って接合して半導体装置を作製した。
【0020】
(評価)
得られた半導体装置について、接着剤中のボイドの有無(顕微鏡による目視観察)、及びJedecのレベル3相当の耐湿性(30℃、70%RH、168時間)を確保できるプレッシャークッカー(PCT(121℃、2気圧))処理時間並びに熱衝撃処理(H/S(-55℃(15分)←→125℃(15分)))サイクル数を調べた。得られた結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示されているように、比較例1は加熱加圧条件が一定の例であるが、Jedecのレベル3相当の耐湿性を満足できなかった。また、比較例2は圧力一定で温度プロファイル(ステップ状に上昇)を変化させた例であるが、比較例1よりも優れた結果を示している。
【0023】
一方、実施例1は、温度一定で圧力プロファイル(ステップ状に低下)を変化させた例であり、比較例2の場合に比べてボイドが大きく減少し、しかもPCT結果及びH/S結果も向上していた。
【0024】
実施例2は、実施例1の場合と同じ圧力プロファイルであるが、更に温度プロファイル(ステップ状に上昇)も変化させた例であり、ボイドがなくなり、しかもPCT結果及びH/S結果も向上していた。従って、実施例1と実施例2との結果から、圧力プロファイル(ステップ状に低下)だけでなく温度プロファイル(ステップ状に上昇)を変化させることが好ましいことがわかる。
【0025】
実施例3及び実施例4は、実施例2における第1条件及び第2条件の時間を増減させた例であり、これらの結果から加熱加圧時間の50%程度の増減では、結果に影響がないことがわかる。
【0026】
実施例5は、第1条件の温度を実施例2の場合に比べ低めに設定した例であり、実施例2の場合に比べいずれの評価項目についても、実用上問題がないが、PCT結果及びH/S結果においては若干劣った結果が得られた。従って、加熱加圧の初期段階(第1条件)の温度は30℃よりも100℃の方が好ましいことがわかる。
【0027】
実施例6は、加熱加圧条件を3条件(圧力はステップ状に低下させ、温度はステップ状に上昇させる)に分割した例であり、加熱加圧条件を2段階以上に分割可能であることがわかる。
【0028】
実施例7
フィルム状異方性導電接着剤(FP10425,ソニーケミカル社製)に代えて、液晶表示素子用のフィルム状異方性導電接着剤(CP7131,ソニーケミカル社製)を使用すること以外は、実施例2と同様に半導体装置を作製し、評価した。その結果、得られた半導体装置の接着剤中にはボイドが観察されなかった。また、PCT処理時間も500hr以上であり、H/Sサイクル数も1000回以上であり、実用上問題のない結果であった。
【0029】
実施例8
フィルム状異方性導電接着剤(FP10425,ソニーケミカル社製)に代えて、表2の液状のエポキシ系絶縁性接着剤を使用すること以外は、実施例2と同様に半導体装置を作製し、評価した。その結果、得られた半導体装置の接着剤中にはボイドが観察されなかった。また、PCT処理時間は300hrであり、H/Sサイクル数は700回であり、実用上問題のない結果が得られた。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例9
フィルム状異方性導電接着剤(FP10425,ソニーケミカル社製)に代えて、表3の液状のエポキシ系異方性導電接着剤を使用すること以外は、実施例2と同様に半導体装置を作製し、評価した。その結果、得られた半導体装置の接着剤中にはボイドが観察されなかった。また、PCT処理時間は350hrであり、H/Sサイクル数は750回であり、実用上問題のない結果が得られた。
【0032】
【表3】

【0033】
実施例10
フィルム状異方性導電接着剤(FP10425,ソニーケミカル社製)に代えて、表4の配合のフィルム状のエポキシ系絶縁性接着剤を使用すること以外は、実施例2と同様に半導体装置を作製し、評価した。その結果、得られた半導体装置の接着剤中にはボイドが観察されなかった。また、PCT処理時間は250hrであり、H/Sサイクル数は500回であり、実用上問題のない結果が得られた。
【0034】
【表4】

【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、半導体素子を配線板に熱硬化性接着剤を介して接合して半導体装置を製造する場合に、ボイドが残存しないように接着剤を硬化させ、良好な接続信頼性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の製造方法における圧力プロファイルのバリエーションを示す説明図である。
【図2】
半導体素子を配線板に搭載する際の加熱加圧条件のバリエーションを示す説明図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-08 
出願番号 特願平11-112786
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 536- YA (H01L)
P 1 651・ 537- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 三崎 仁
中西 一友
登録日 2002-04-26 
登録番号 特許第3301075号(P3301075)
権利者 ソニーケミカル株式会社
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 田治米 惠子  
代理人 田治米 登  
代理人 田治米 惠子  
代理人 田治米 登  

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