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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
審判 全部申し立て 1項1号公知  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
管理番号 1088023
異議申立番号 異議2002-70453  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-26 
確定日 2003-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3202008号「複合撚糸およびその製法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3202008号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3202008号は、平成11年11月1日に特許出願され、平成13年6月22日に特許権の設定登録(発明の数4)がされ、その後、その特許について、平成14年2月26日付けで、特許異議申立人 上島 徹(以下、「申立人A」という。)から、及び、特許異議申立人 豊田撚糸株式会社(以下、「申立人B」という。)から特許異議の申立てがされ、平成14年12月18日付けで取消理由通知(以下、「通知A」という。)がされて、その指定期間内である平成15年3月7日付けで特許異議意見書が提出され、その後、平成15年5月9日付で取消理由通知(以下、「通知B」という。)がされて、その指定期間内である平成15年7月18日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、明細書の訂正請求がされ、さらにその後、平成15年8月1日付けで手続補正指令がされて、その指定期間内である平成15年8月25日付けで先の訂正請求に添付の訂正明細書が手続補正されたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成15年7月18日付けの訂正請求(平成15年8月25日付で適法に手続補正された。)により特許権者が求めている訂正は、以下の訂正事項a及びb-1)〜b-9)である。
訂正事項a: 特許請求の範囲を、
「【請求項1】 1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一で、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きく、前記長繊維が伸縮性の長繊維のみであることを特徴とする複合撚糸。
【請求項2】 紡績糸と伸縮性の長繊維を撚り合わせて複合撚糸を製造する方法において、撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加えることを特徴とする複合撚糸の製法。」と訂正する。
訂正事項b-1):明細書の段落0007の、
「…複合撚糸であって、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きいところに特徴を有しており、特に上記長繊維として伸縮性の長繊維を使用したものは、伸縮性で外観・触感に優れた複合撚糸として極めて有用である」を、
「…複合撚糸において、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きく、前記長繊維が伸縮性の長繊維のみであるところに特徴を有しており、伸縮性で外観・触感に優れた複合撚糸として極めて有用である」と訂正する。
訂正事項b-2):明細書の段落0008の、
「1本の紡績糸と1本以上の長繊維を」を、
「1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを」と訂正する。
訂正事項b-3):明細書の段落0009の、
「十分な糸強力を有する」を、
「十分な糸強力と伸縮性を有する」と訂正する。
訂正事項b-4):明細書の段落0014の、
「1本以上の長繊維を」を、
「1本以上の伸縮性の長繊維のみを」と訂正する。
訂正事項b-5):明細書の段落0017の、
「1本(複数本でも構わない)の長繊維M」を、
「伸縮性を有する1本(複数本でも構わない)の長繊維Mのみ」と訂正する。
訂正事項b-6):明細書の段落0027の、
「有効に活かすには、長繊維としてそれ自身が伸縮性を持ったポリウレタンなどの長繊維を使用することが望ましい。」を、
「有効に活かすため、本発明では、長繊維としてそれ自身が伸縮性を持ったポリウレタンなどの長繊維のみを使用する。」と訂正する。
訂正事項b-7):明細書の段落0028の、
「一方、長繊維の数には」を、
「一方、伸縮性長繊維の数には」と訂正する。
訂正事項b-8):明細書の段落0029の、
「1本以上の長繊維を複合した」を、
「1本以上の伸縮性の長繊維のみを複合した」と訂正する。
訂正事項b-9):明細書の段落0034の、
「織・編物を与える複合撚糸」を、
「織・編物を与える伸縮性の複合撚糸」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の明細書の請求項1の「1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸であって、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きいことを特徴とする複合撚糸。」、請求項2の「長繊維が伸縮性の長繊維である請求項1に記載の複合撚糸。」、請求項3の「紡績糸と長繊維を撚り合わせて複合撚糸を製造する方法であって、撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の長繊維を引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加えることを特徴とする複合撚糸の製法。」及び請求項4の「長繊維として伸縮性の長繊維を使用する請求項3に記載の製法。」との記載、並びに、段落0007の「本発明にかかる複合撚糸とは、1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸であって、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きいところに特徴を有しており、特に上記長繊維として伸縮性の長繊維を使用したものは、伸縮性で外観・触感に優れた複合撚糸として極めて有用である。」、及び、段落0032の「1本の綿紡績糸(綿番手;20番、Z撚り;18回/インチ)と1本の伸縮性長繊維(東洋紡績社製商品名「エスパ」:70デニール、3.5倍ドラフト)を、混用率で前者93%と後者7%の比率で複合し、これを引き揃えて綿紡績糸の撚り方向と逆方向によりを与え、該綿紡績糸の無撚り点を超えてS方向撚りが18回/インチとなるまで引き揃え糸にS方向撚りを掛けることによって、複合撚糸としての撚りがS方向に36回/インチで、その中の綿紡績糸の撚りがS方向に18回/インチである複合撚糸を製造した。得られた複合撚糸は、表面に綿紡績糸が露出した状態で且つその周りが伸縮性長繊維で捲き締められたバルキーで伸縮性と適度の強力を有しており、風合いおよび外観・触感は通常のコアヤーンに類似した良好なものであった。」との記載に基づいて、実質的に、(1)訂正前の請求項1、3について、「長繊維」を「伸縮性の長繊維のみ」に限定し、(2)訂正前の請求項2、4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-1)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0007で「特に上記長繊維として伸縮性の長繊維を使用したものは、…極めて有用である。」という好ましい態様としての記載を、課題を解決する手段として明記するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-2)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0008の「長繊維」を「伸縮性の長繊維のみ」に限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-3)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0007の「長繊維として伸縮性の長繊維を使用したものは、伸縮性で…極めて有用である。」との記載に基づいて、訂正前の段落0009の複合撚糸の性質について、さらに「伸縮性」であると限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-4)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0014の「1本以上の長繊維」を限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-5)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0017の「1本(複数本でも構わない)の長繊維M」を「伸縮性を有する1本(複数本でも構わない)の長繊維Mのみ」に限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-6)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0027における「使用することが望ましい」という好ましい態様としての記載を、「使用する」と明記するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-7)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0028の「長繊維」を「伸縮性の長繊維」に限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-8)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0029の「長繊維」を「伸縮性の長繊維のみ」に限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項b-9)は、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴い、訂正前の段落0007の「長繊維として伸縮性の長繊維を使用したものは、伸縮性で…極めて有用である。」との記載に基づいて、訂正前の段落0034の複合撚糸の性質をさらに限定しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き第1及び第3号に規定する事項を目的とし、かつ同条第3項の規定により準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立ての概要と取消理由通知の概要
1.申立人Aは、以下の甲第1〜3号証を提出して、以下の主張A1〜A3をしている。
甲第1号証の1:「TEXTILE & FASHON 付録 収集見本 開発見本 6月号 1999 Vol.16 No.3」(財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター、平成11年6月20日発行)第28ページ(以下「甲A第1号証の1」という。)
甲第1号証の2:財団法人日本紡績検査協会近畿事業所が2002年1月10日付けで作成した試験番号012650-1の試験証明書(以下「甲A第1号証の2」という。)
甲第2号証の1:「収集見本 開発見本 5月号 1995 Vol.12 No.2」(財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター)第13ページ(以下「甲A第2号証の1」という。))
甲第2号証の2:財団法人日本紡績検査協会近畿事業所が2002年1月10日付けで作成した試験番号012650-3の試験証明書(以下「甲A第2号証の2」という。)
甲第3号証:繊維学会編「繊維便覧-加工編」(丸善株式会社、昭和57年2月20日第2版第3刷発行)第398〜400ページ(以下「甲A第3号証」という。)
主張A1:訂正前の請求項1に係る発明は、甲A第1号証の1又は甲A第2号証の1により、特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号の規定に該当するものであり、その特許を取り消すべきものである。
主張A2:訂正前の請求項2に係る発明は、甲A第1号証の1により、特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第1号の規定に該当するものであり、その特許を取り消すべきものである。
主張A3:訂正前の請求項1に係る発明は、甲A第1号証の1及び甲A第2号証の1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものである。
主張A4:訂正前の請求項2に係る発明は、甲A第1号証の1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものである。
主張A5:訂正前の請求項3、4に係る発明は、甲A第1号証の1及び甲A第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものである。

2.申立人Bは、以下の甲第1〜6号証を提出して、以下の主張B1〜B3をしている。
甲第1号証:特開平6-146126号公報(以下「甲B第1号証」という。)
甲第2号証:特開平7-11531号公報(以下「甲B第2号証」という。)
甲第3号証:特開平2-234934号公報(以下「甲B第3号証」という。)
甲第4号証:特開平8-209476号公報(以下「甲B第4号証」という。)
甲第5号証:特開平8-113839号公報(以下「甲B第5号証」という。)
甲第6号証:特開昭55-122034号公報(以下「甲B第6号証」という。)
主張B1:訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲B第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、その特許を取り消すべきものである。
主張B2:訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲B第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものである。
主張B3:訂正前の請求項2、4に係る発明は、甲B第1号証及び甲B3第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許を取り消すべきものである。

3.通知Aの趣旨は、申立人Bの主張B1と同じである。

4.通知Bの趣旨は、申立人Aの主張A1、2及び5と同じである。

IV.特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
II.で述べたとおり、本件特許の明細書の訂正が認められるので、本件特許の訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、それぞれ訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
訂正発明1:「1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一で、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きく前記長繊維が伸縮性の長繊維のみであることを特徴とする複合撚糸。」
訂正発明2:「紡績糸と伸縮性の長繊維を撚り合わせて複合撚糸を製造する方法において、撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加えることを特徴とする複合撚糸の製法。」

2.甲号各証の記載
甲A第1号証の1には、
ア:「収集見本と解説 第24号」として、「[品名]婦人服地(アンゴラ、経緯ストレッチ)」に相当すると認められる見本が貼付されており、
「[解説] 経、緯に三子撚りストレッチ糸(アンゴラ紡毛糸1/16×ナイロン糸70D×ポリウレタン糸40D)1/14相当を使用した婦人服地である。…
[製織・仕上結果]
原糸 経・緯 紡毛糸 1/16
ナイロン糸 70D
ポリウレタン糸 40D
撚糸方法 1/16×70D×40D S43回/10cm …」と記載されている。
甲A第1号証の2には、次の記載がある。
イ:試料名が「TEXTILE & FASHON 付録 収集見本 開発見本6月号 1999 Vol.16 No.3 P28 婦人服地(アンゴラ、経緯ストレッチ)」である試料についての「試験項目 1.より数」「試験方法及び条件 JIS-L-1095」の試験結果として、
「より数(回/2.54cm)及びより方向
よこ糸(三子撚ストレッチ糸)
上より S11.9
下より 紡績糸(アンゴラ紡毛糸) Z 9.1
長繊維(ナイロン糸) 0.0
〃 (ポリウレタン糸)※ 0.0 ※モノフィラメントの為
構造
紡績糸(アンゴラ紡毛糸)と無撚の長繊維(ナイロン糸及びポリウレタン糸)からなる三子撚ストレッチ糸であって、紡績糸の撚方向に対して撚戻し方向に撚が加わっており、無撚点を超えて撚が加わっている。」

甲A第2号証の1には、
ウ:「収集見本と解説 第11号」として、「[品名]紳士服地(ピケ、霜降糸使用)」に相当すると認められる見本が貼付されており、
「[解説] 経、緯に梳毛糸1/30とポリエステル糸50Dの交撚糸を使用した紳士服地である。…
[製織・仕上結果]
原糸 経・緯 梳毛糸 1/30
ポリエステル糸 50D
撚糸方法(分解結果)1/30×50D S78回/10cm …」と記載されている。
甲A第2号証の2には、
エ:試料名が「収集見本 開発見本 5月号 1995 Vol.12 No.2 P13 紳士服地(ピケ、霜降糸使用)」である試料についての試験結果として、
「より数(回/2.54cm)及びより方向
よこ糸(梳毛糸とポリエステル糸の交撚糸)
上より S16.4
下より 紡績糸(梳毛糸) Z11.2
長繊維(ポリエステル糸) 0.0
構造
紡績糸(梳毛糸)と無撚の長繊維(ポリエステル糸)からなる交撚糸であって、撚方向が紡績糸と逆である。」と記載されている。

甲A第3号証:
オ: 「より糸」の概論の記載において、「壁より よりをかけた太い糸とよりくせのない細い糸を引きそろえて、上よりをかけたものをいう。」と記載されている。(第399ページ下から9〜8行)

甲B第1号証には、次の記載がある。
カ:「…セルロース長繊維と綿紡績糸とからなる撚糸であって、下撚が施されているセルロース長繊維と、セルロース長繊維と同方向に下撚されその下撚数がセルロース長繊維の下撚数の0.6〜0.9倍に設定されている綿紡績糸とが下撚方向とは逆方向に上撚されていることを特徴とする、セルロース長繊維と綿紡績糸との交撚糸。」(特許請求の範囲の請求項1)
キ:「本発明のセルロース繊維と綿紡績糸との交撚糸を製造するには、典型的には上記セルロース長繊維は沸水収縮率(Y%)が1〜4%を有するものを用い、(300〜50Y)〜(400〜25Y)回/mの下撚(T)を施し、上記綿紡績糸は、セルロース長繊維に施したと同方向の撚(T1)が0.6〜0.9T回/mの下撚を施し、次いで、この下撚を施された上記セルロース長繊維と綿紡績糸とを合せて、下撚方向とは逆の方向にセルロース長繊維に施した下撚の数より大きく、かつ綿紡績糸に施した下撚の数(T1)の2倍より少ない数の上撚を施す」(段落0012)
ク:「紡績糸に施される下撚数(T1)がセルロース糸に施された下撚数(T)の0.6倍より少ないと交撚時に綿紡績糸の糸切れが発生し易く、0.9倍より多いと得られた交撚糸に紡績糸が部分的に壁糸状となったり、撚溜りが発生する。さらに上撚数がセルロース繊維に施した数より少ないとセルロース繊維が芯糸状になり均一な交撚糸が得られず、紡績糸に施した下撚数(T1)の2倍を超えると得られた交撚糸に紡績糸が壁糸状になったり、撚溜りが発生することがある。」(段落0015)
ケ:「綿糸が単糸である場合には撚が付与されているため、熱セット等の方法で実質的に撚トルクを低下させ、記載の範囲にするごとき工程を必要とするため、実質的に撚トルクがない双糸が好ましく、双糸の方が壁状部が発生しにくい。」(段落0017)
コ:「【実施例1】…レーヨン長繊維に下撚としてS撚210回/mを付与し、65/2のシルケット加工された綿紡績糸にS撚150回/mの撚を付与し、該レーヨン長繊維と綿紡績糸とを撚糸機に供給し上撚としてZ撚280回/mを施して交撚糸を得た。次いで…編物を得た。…
【実施例2】実施例1と同様のレーヨン長繊維及び綿紡績糸に…実施例1と同様に交撚糸を得、編物を得た。」(段落0023〜0024)
サ:【表1】として、実施例1、2及び比較例1〜6のすべてにつき、紡績糸番手の欄に「65/2」の値が記載されている。(段落0031)

甲B第2号証
シ:「紡績糸と長繊維糸が混繊交絡した複合糸であって…前記複合糸は,下式を満足する範囲の撚数で,かつ紡績糸の撚方向とは逆方向に紡績糸と長繊維糸とが合撚されていることを特徴とするスパン複合嵩高糸。
0.1t≦T≦t
ただし,T:合撚数(T/M)
t:紡績糸の撚数(T/M)」(特許請求の範囲の請求項1)
ス:「合撚する撚方向は,紡績糸の撚方向とは逆方向とし,かつ合撚数は,前記の式を満足する範囲でなければならない。上記範囲の撚数で紡績糸と長繊維糸とを合撚すれば,紡績糸自身の実撚が解かれ,紡績糸を構成している短繊維が平行に引き揃えられた状態に近づき,流体混繊処理時の開繊効果を一段と高めることが可能となる。短繊維が平行状態に近づけば,流体混繊処理時に素抜けや脱落の原因となるが,長繊維糸がそれを抑制する働き,つまり紡績糸の押さえ糸的な作用をし,素抜けや脱落が防止され,安定して本発明のスパン複合嵩高糸を得ることができる」(段落0011)
セ:「本発明のスパン複合嵩高糸を構成する紡績糸は,単糸が好ましいが,双糸であってもよい。双糸を用いる場合は,双糸撚(上撚)と逆方向の撚で長繊維糸と合撚すれば,紡績糸の双糸撚が解かれ,流体混繊処理時の混繊効果を高めることが可能となる。」(段落0012)

甲B第3号証には、次の記載がある。
ソ:「通常ドラフト部よりも高いドラフトで引伸ばされた高ドラフト部を糸の長さ方向に間歇的に有する弾性糸からなる芯部と、該芯部の周りを被覆する長繊維フィラメント糸、もしくは短繊維紡績糸からなる鞘部からなることを特徴とする変りカバード糸。」(特許請求の範囲の請求項1)

甲B第4号証には、次の記載がある。
タ:「【請求項1】 …短繊維からなる紡績糸又は…長短複合糸と、単繊維繊度が7〜30dの範囲にある合成繊維フィラメントの1本又は複数本とが同方向に合撚されており、…合撚糸。
【請求項2】 紡績糸又は長短複合糸の撚係数が2.0≦K1≦8.0の範囲にある請求項1に記載の合撚糸。
【請求項3】 合撚時における撚係数K2と、紡績糸又は長短複合糸の撚係数K1との比が0.3≦K2 /K1 ≦1.5にある請求項1〜2のいずれか1項に記載の合撚糸。…
【請求項5】 …紡績糸又は…長短複合糸と、単繊維繊度が7〜30dの範囲にある合成繊維フィラメントの1本又は複数本とを同方向に10°〜40°の合撚角度で合撚することを特徴とする合撚糸の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1〜5)
チ:「合撚糸における上撚の撚方向と紡績糸又は長短複合糸の撚方向は同方向であることが好ましい。」(段落0017)

甲B第5号証には、次の記載がある。
ツ:「短繊維である紡績糸と長繊維であるフィラメント糸を合撚して長・短複合糸を製造する時、紡績糸と合撚糸の撚方向、紡績糸の番手、撚数に応じてフィラメント糸のオーバーフィード率を調節しながら合撚することを特徴とする長繊維・短繊維の複合糸製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

甲B第6号証には、次の記載がある。
テ:「長繊維原糸および/または長繊維撚糸と紡績糸とを混撚してなることを特徴とする編上げホース用補強糸。」(特許請求の範囲)

3.当審の判断
(1)申立人Aの特許異議の申立て及び通知Bに関わって
(1-1)訂正発明1について
(ア)甲A第1号証の1の発明
甲A第1号証の2に記載されたJIS-L-1095の試験結果も踏まえると、甲A第1号証の1の見本は、紡績糸(アンゴラ紡毛糸)、無撚の長繊維(ナイロン糸)及び無撚の長繊維(ポリウレタン糸)とからなる三子撚ストレッチ糸をよこ糸として含むものであると認められる。
(イ)甲A第2号証の1の発明
甲A第2号証の2に記載された試験結果も踏まえると、甲A第2号証の1の見本は、紡績糸(梳毛糸)と長繊維(ポリエステル糸)との交撚糸をよこ糸として含むものであると認められる。
(ウ)訂正発明1と甲A第1号証の1の発明との対比
訂正発明1と甲A第1号証の1の発明とを対比すると、両者は、1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸である点で一致するが、該長繊維が、訂正発明1では、「伸縮性の長繊維のみ」であるのに対して、甲A第1号証の1の発明では「ナイロン糸及びポリウレタン糸」である点で相違する。
(エ)相違点についての検討及び特許法第29条第1項第1号該当の有無について
甲A第1号証の1の発明における、ポリウレタン糸が伸縮性のものであることは当業者に周知の技術的事項であるが、ナイロン糸については、伸縮性である旨の記載もなく、これが伸縮性のものであると認めるべき格別の根拠も見い出せないから、甲A第1号証の1の発明における長繊維は「伸縮性の長繊維のみ」からなるものではない。したがって、先の相違点は実質的な相違点である。
よって、訂正発明1が甲A第1号証の1により日本国内において公然知られた発明であるということはできないから、訂正発明1は特許法第29条第1項第1号の規定に該当するものではない。
(オ)訂正発明1と甲A第2号証の1の発明との対比及び特許法第29条第1項第1号該当の有無について
甲A第2号証の1の発明における長繊維であるポリエステル糸については、伸縮性である旨の記載もなく、これが伸縮性のものであると認めるべき格別の根拠も見い出せないから、甲A第2号証の1の発明における長繊維は「伸縮性の長繊維のみ」からなるものではない。
よって、訂正発明1が甲A第2号証の1により日本国内において公然知られた発明であるということはできないから、訂正発明1は特許法第29条第1項第1号の規定に該当するものではない。
(カ)特許法第29条第2項違反の有無について
1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、甲A第1号証の1の発明における伸縮性の長繊維と伸縮性ではない長繊維との組合せ、又は、甲A第2号証の1の発明における伸縮性ではない長繊維を、挙動において類似するとはいえない「伸縮性の長繊維のみ」に置換することについては、甲A第1、2号証には何らかの示唆の余地がなく、また甲A第3号証の摘示オにみられるような撚糸に関する当業者の技術常識を踏まえても置換について格別の動機付けを見い出すことはできない。
したがって、訂正発明1が、甲A第1号証の1の発明又は甲A第2号証の1の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(1-2)訂正発明2について
訂正発明2は、「撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え」ることを発明を特定するための事項として備えるものであるが、(1-1)で述べたように、1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、長繊維が「伸縮性の長繊維のみ」からなるものは、甲A第1号証の1により日本国内において公然知られた発明ではなく、またこれから当業者が容易に想到できたものでもないから、甲A第3号証の記載によって、「よりをかけた太い糸とよりくせのない細い糸を引きそろえて、上より」(摘示オ参照)をかける複合撚糸の製造方法が当業者に知られていたとしても、訂正発明2が甲A第1号証の1の発明及び甲A第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)申立人Bの特許異議の申立て及び通知Aに関わって
(2-1)訂正発明1について
(ア)甲B第1号証に記載された発明及び訂正発明1との対比
甲B第1号証には、セルロース長繊維と綿紡績糸との交撚糸の発明が記載されており、下撚が施されているセルロース長繊維と、セルロース長繊維と同方向に下撚されその下撚数がセルロース長繊維の下撚数の0.6〜0.9倍に設定されている綿紡績糸とが下撚方向とは逆方向に上撚されているものが記載されている(摘示カ参照)。
訂正発明1と甲B第1号証に記載された発明を対比すると、両者は、紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸である点で一致するが、訂正発明1が、「1本の紡績糸」を有すること(相違点1の1)、「複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きい」こと(相違点1の2)、及び長繊維が「伸縮性の長繊維のみ」であること(相違点1の3)、を発明を特定するための事項とする点で相違する。
(イ)相違点1の1についての検討
相違点1の1については、甲B第1号証には、「綿糸が単糸である場合には撚が付与されているため、熱セット等の方法で実質的に撚トルクを低下させ、記載の範囲にするごとき工程を必要とするため、実質的に撚トルクがない双糸が好まし」いことが記載され(摘示ケ)、単糸、すなわち1本の紡績糸の採用を事実上否定しており、また、実施例1、2で採用される「65/2」の紡績糸(摘示コ、サ)も、2本の綿紡績糸からなる双糸を意味すると解されるものであるから、当業者がことさら1本の紡績糸を選定することが容易であるということはできない。
(ウ)相違点1の2についての検討
相違点1の2については、甲B第1号証には、上撚に関して「下撚を施された上記セルロース長繊維と綿紡績糸とを合せて、下撚方向とは逆の方向にセルロース長繊維に施した下撚の数より大きく、かつ綿紡績糸に施した下撚の数(T1)の2倍より少ない数の上撚を施す」(摘示キ)こと、実施例として「レーヨン長繊維に下撚としてS撚210回/mを付与し、65/2のシルケット加工された綿紡績糸にS撚150回/mの撚を付与し、該レーヨン長繊維と綿紡績糸とを撚糸機に供給し上撚としてZ撚280回/mを施して交撚糸を得た」こと(摘示コ)、及び、「上撚数がセルロース繊維に施した数より少ないとセルロース繊維が芯糸状になり均一な交撚糸が得られ」ないこと(摘示ク)が記載されているが、これらの記載をみても、交撚糸、すなわち複合撚糸において、「複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きい」かどうかは不明であり、またかかる撚り方向と撚り数との特定の関係が示唆されているものとも認められない。
この点、申立人Bは、紡績糸に単糸を用いれば、かかる撚り方向と撚り数との関係になることは、当業者において自明な事項にすぎず、甲B第2号証からも明らかである旨を主張している。しかしながら、この主張には具体的な根拠があるものでなく、また甲B第2号証の摘示シ、スを併せ読めば、合撚数Tと紡績糸の撚数tが少なくともT≦tであるという関係からみて、複合撚糸における紡績糸の撚り方向と合撚糸の撚り方向は逆になっていると解されるから、紡績糸と合撚された複合糸の撚り方向が同一であるものについては記載も示唆も見い出せない。
また、甲B第3号証には弾性糸の芯部及び短繊維紡績糸からなる鞘部からなる変わりカバード糸(摘示ソ)が、甲B第6号証には、長繊維原糸と紡績糸とを混撚してなる編上げホース用補強糸(摘示テ)が、それぞれ記載されているだけであり、相違点2の撚り方向と撚り数との特定の関係については何らの示唆もない。さらに、甲B第4号証には、合撚糸における上撚の撚方向と紡績糸の撚方向を同方向とすること(摘示チ)、及び、合撚時における撚係数K2と、紡績糸又は長短複合糸の撚係数K1との比が0.3≦K2/K1≦1.5であること(摘示タ)が記載されているが、複合撚糸の撚り数と紡績糸の撚り数の関係は不明であるから、相違点1の2についての示唆は見い出せない。

(エ)まとめ
してみると、相違点1の3について検討するまでもなく、相違点1の1〜1の3を発明を特定するための事項に併せ備える訂正発明1が、甲B第1〜6号証に記載された発明であるとも、これら発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

(2-2)訂正発明2について
(ア)甲B第1号証に記載された発明と訂正発明2との対比
訂正発明2と甲B第1号証に記載された発明を対比すると、両者は、訂正発明2が、「撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え」る点(相違点2の1)、及び「該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加える」点(相違点2の2)を、発明を特定するための事項とする点で少なくとも相違する。
そして、甲B第1〜6号証には、少なくとも相違点2の2について、記載も示唆も見い出せない。
(イ)まとめ
してみると、相違点2の1〜2の2を発明を特定するための事項に併せ備える訂正発明2が、甲B第1〜6号証に記載された発明であるとも、これら発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、訂正後の本件発明1、2に係る特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複合撚糸およびその製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一で、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きく、前記長繊維が伸縮性の長繊維のみであることを特徴とする複合撚糸。
【請求項2】 紡績糸と伸縮性の長繊維を撚り合わせて複合撚糸を製造する方法において、撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加えることを特徴とする複合撚糸の製法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な複合撚糸とその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紡績糸と長繊維を組み合わせた複合糸の代表的なものとして、
▲1▼長繊維からなる芯糸の周りを紡績糸で被包して撚りを与えたコアヤーン、
▲2▼長繊維からなる芯糸の周りに紡績糸を単層もしくは複層に巻き付けたシングルまたはダブルカバードヤーン、
▲3▼2本または3本の紡績糸と1本以上(通常は1本)の長繊維を撚り合わせたプライヤーン
が知られている。
【0003】
これらのうち、▲1▼のコアヤーンは、糸の全表面に紡績糸が露出したもので、風合いがよく暖かみを持った外観と感触を有しており高級糸に属する。しかし綿紡績糸を用いてコアヤーンを製造するには、短繊維の絡み合いを高めて糸強力を確保することの必要上、紡績糸の素材として短い繊維を選別除去した長い繊維のみを使用することが望ましく、原綿などの歩留まりが著しく低くなるといった難点に加えて、長繊維を芯部にしてその周りに紡績糸を被包するのに高度の技術と設備を要し、複合糸が高価になるという欠点がある。しかも、製造上の制約から細番手のコアヤーンの製造は極めて困難である。
【0004】
また前記▲2▼のカバードヤーンは、長繊維の周りに紡績糸を巻回したもので、糸強力に優れると共に外観・感触も良好であるが、長繊維の周りに紡績糸を単層もしくは複層に巻回しなければならないため、複合糸としての生産性が低い。
【0005】
更に前記▲3▼のプライヤーンは、通常2本または3本の紡績糸と長繊維を引き揃えて撚り合わせることにより製造されるもので、前記▲1▼のコアヤーンに指摘される原綿の選別が不要で且つ複合糸としての生産性も高いが、紡績糸と長繊維が強く撚り合わされたものであるから、複合糸としての風合いが硬く暖かみを持った外観・触感が得られ難い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、特に原綿などの選別が不要で複合糸として高い歩留まりと生産性を得ることのできるプライヤーンに注目し、その欠点として指摘される風合いを改善し、暖かみを持った優れた外観・触感の複合撚糸を提供すると共に、細番手のものであっても容易に製造することのできる新たな製法を確立し、更には該複合撚糸を用いた優れた外観・触感の織・編物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明にかかる複合撚糸とは、1本の紡績糸と1本以上の長繊維を撚り合わせてなる複合撚糸において、該複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の撚り数が後者の撚り数よりも大きく、前記長繊維が伸縮性の長繊維のみであるところに特徴を有しており、伸縮性で、外観・触感に優れた複合撚糸として極めて有用である。
【0008】
また本発明に係る製法とは、上記優れた特性の複合撚糸を製造する方法を提供するもので、その構成は、撚りの与えられた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて逆方向に撚りを加えるところに特徴を有している。
【0009】
本発明の上記複合撚糸は、十分な糸強力と伸縮性を有すると共に優れた風合い・外観・触感を有しており、この複合撚糸を少なくとも一部として用いた織・編物はそれ自身も風合い・外観・触感の優れたものとなるので、該織・編物も本発明の権利範囲に包含される。
【0010】
【発明の実施の形態および実施例】
本発明者らは上記の様な課題の下で、前記▲3▼に示したプライヤーンの特徴である「原綿などの選別が不要で高歩留まりが得られ、製造も容易である」という利点を生かし、その欠点として指摘される「風合いが硬く外観・触感が悪い」といった難点を克服し、安価で且つ高級感を備えた織・編物を与える複合撚糸の開発を期して様々の角度から研究を進めた。
【0011】
そして従来のプライヤーンは、前述の如く通常2本または3本の紡績糸と長繊維を、紡績糸の撚り方向に対して通常は逆撚り方向に撚り合わせたもので、紡績糸の撚り合わせにより撚糸が締め付けられて外観・触感が硬くなるという本質的欠点を有していることに着目し、該撚糸としての締まりを軽減しつつ長繊維とうまく撚り合わせる技術を確立すれば、上記プライヤーンの欠点が克服できるのではないかと考え、その線に沿って研究を進めた。
【0012】
そして、2本以上の紡績糸を撚り合わせる方法では、撚糸としての撚り方向を紡績糸の撚り方向に対して逆方向にするのが通常であることから、前述したプライヤーンの本質的欠点を改善することはできないが、1本の紡績糸を長繊維と組み合わせ、撚糸工程で紡績糸の撚り方向に対して逆方向の撚りを与えれば、該撚糸工程で紡績糸には撚り戻し方向に撚られることになり、紡績糸の締まりが緩和されるのではないかと考えた。
【0013】
ところが1本の紡績糸を長繊維と撚り合わせる際に、該紡績糸に与えられた撚りに対して逆方向の撚りを与えると、紡績糸は当然に撚りが解けて複合撚糸としての強力が維持できなくなる。そのため、撚り戻し方向に撚りを与えるにしても自ずと限界があり、従来のプライヤーンの特性を凌駕する性能の複合撚糸を得ることはできなかった。特に、複合撚糸としての撚り工程で、用いた紡績糸の撚りがゼロ、即ち無撚り状態となるまで逆方向の撚りを与えると、該紡績糸はもはや原料綿状態となって強力を失うので、その様な撚り戻しをかけることは現実的でない。
【0014】
そこで、紡績糸の強力を確保しつつ複合される長繊維との絡み合いを密にして外観・触感の優れたものを得るべく更に研究を進めた結果、前述の如く撚りを与えた1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを引き揃え、該引き揃え糸を、前記紡績糸の撚り方向に対して撚り戻し方向に撚りを加え、該紡績糸の無撚り点を超えて更に逆方向にまで撚りを加えれば、紡績糸としての強力が維持されると共に長繊維と紡績糸との撚りも密に与えられ、風合い・外観・触感の全てに優れた複合撚糸が得られることを知り、上記本発明に想到したものである。
【0015】
そしてこの方法を採用することによって得られる複合撚糸は、以下の説明からも明らかである様に、複合撚糸の撚り方向と紡績糸の撚り方向が同一であり、且つ前者の複合撚糸としての撚り数が後者の紡績糸の撚り数よりも大きくなる点で、従来公知のプライヤーンとは異質の撚り構造を有するものとなる。
【0016】
以下、本発明で特徴付けられる撚り合せ方法と、それによって得られる複合撚糸の特徴を、一実施例を示す図面を参照しつつ詳細に説明していく。
【0017】
本発明では、図1に示す如く撚り(図ではZ方向)が与えられた1本の紡績糸Bと伸縮性を有する1本(複数本でも構わない)の長繊維Mのみを引き揃え、この引き揃え糸に、図2に示す如く前記紡績糸Bの撚り方向(Z方向)に対して撚り戻し方向(即ちS方向)の撚りを加える。そうすると、紡績糸Bは撚り戻されて徐々に撚りが解かれると共に、引き揃え糸Aには、該紡績糸Bの撚り戻し数に対応した逆方向(S方向)撚りが加わり、紡績糸Bには長繊維Mが巻き付いていく。
【0018】
そして該S方向に更に撚りを加えて行き、当初紡績糸Bに加えられた撚りと等しい数の逆方向撚りが加わると、図3に示す如く該紡績糸Bの撚りは完全に解かれて無撚り状態になり、紡績糸Bはもはや撚りのかかっておらない綿状となって紡績糸B自身の強力は失われる。ところが、その時点で該無撚り状態の紡績糸Bには長繊維Mが初期の紡績糸Bの撚り数分だけ巻き付いているので、該巻き付いた長繊維Mによって外周側から締め付けられる結果、無撚り状態の紡績糸Bがばらけて飛散することはない。
【0019】
但しこのままでは、紡績糸Bの糸強力が殆どゼロとなるので、複合撚糸としての強力は長繊維の強力のみに頼ることになり、十分な強度が確保できなくなる。従って本発明では、引き揃え糸に更に撚りを掛けて行く。そうすると、図4に示す如く、紡績糸Bには当初の撚り方向(Z方向)に対して逆方向(S方向)の撚りが加わり、該S方向の撚り数が増えるにつれて紡績糸B自体の強力が回復すると共に、該紡績糸Bには更に長繊維Mが巻き付き、複合撚糸としてのS方向の撚りピッチは密になってその強力は高まって行く。従って、該紡績糸B自身に十分な強力が与えられるに足るS方向撚りを引き揃え糸に加えると、十分な強力を備えた複合撚糸を得ることができる。
【0020】
この間の紡績糸Bおよび引き揃え糸の撚り方向と撚り数の関係は図5に示す通りとなる。即ち図5において、実線Xは引き揃え糸の撚り方向と撚り数の変化を示し、実線Yは引き揃え糸中の紡績糸Bの撚り方向と撚り数の変化を示しており、引き揃えられる紡績糸Bには、当初Z方向の撚り(例えば20回/インチ)が加えられている。該紡績糸Bを含む引き揃え糸に、該紡績糸Bの撚り方向に対して逆方向(即ちS方向)の撚りを加えて行くと、実線Yに示す如く引き揃え糸にはS方向撚りが加わると共に、紡績糸Bは撚り戻されて行く。そして、紡績糸Bが無撚り状態にまで撚り戻された状態(Y1点)では、引き揃え糸には、当初の紡績糸Bに加えられていたのと同数のS方向撚りが加えられることになる(X1点)。
【0021】
その後、引き揃え糸に更にS方向撚りを加えていくと、紡績糸Bには、当初与えられていた撚り方向とは逆のS方向撚りが加わり、撚りを更に進めると、引き揃え糸のS方向撚り数が増大すると共に紡績糸BのS方向撚り数も増大して行く。そして、紡績糸Bのより状態がY2点(例えばS方向撚り数で20回/インチ)になるまで引き揃え糸に撚りが加わった時点では、引き揃え糸の撚り状態はX2点の位置に達しており、紡績糸Bに当初与えられていたZ方向撚り(20回/インチ)に、無撚り状態から更にS方向に加えられた逆方向撚り(20回/インチ)を加えた数の撚り(即ち40回/インチ)が加えられることになる。
【0022】
従って、X2点に達した本発明の複合撚糸では、結果的に紡績糸Bに与えられる撚り方向と同一方向(S方向)の撚りが加わると共に、複合撚糸全体として与えられたS方向撚りが加わったものとなり、複合撚糸の撚り方向とその内部にある紡績糸Bの撚り方向は同一方向で、且つ前者の撚り数は後者の撚り数よりも大きくなっている点で、特徴的な撚り構造となる。
【0023】
なお、最終的に得られる複合撚糸の撚り方向は当初の紡績糸Bに与えられた撚り方向によって変わるが、いずれにしても、本発明複合撚糸の最終的な撚り方向とその中に含まれる紡績糸Bの撚り方向は同一方向となる。
【0024】
一方、該複合撚糸と紡績糸Bの撚り数は、当初紡績糸Bに与えられる撚り数と、該紡績糸Bの無撚り状態を超えて逆よりされる複合撚糸の撚り数によって任意に変えることができる。しかし、一般的に初期の紡績糸Bに与えられる撚り数は、例えば20番手の紡績糸で通常15〜22回/インチの範囲、最も一般的には18回/インチ前後であり、また、該紡績糸Bを無撚り状態にしてから更に逆よりを掛けた時に、該紡績糸B自体に強力を与える上で好ましい撚り数は同様に通常15〜22回/インチ程度(最も一般的には18回/インチ前後)であるから、最終的に得られる複合撚糸全体としての撚り数は30〜44回/インチ程度(最も一般的には36回/インチ前後)で、その中に撚り込まれた紡績糸Bの撚り数はその半分程度の15〜22回/インチ程度(最も一般的には18回/インチ前後)となる。但し本発明では、長繊維の撚り数増大により強力はかなり高められるので、複合撚糸全体としての撚り数および紡績糸としての撚り数を通常の8割乃至9割程度に少なくしても十分な強力を確保することができる。
【0025】
また本発明の複合撚糸では、前述の如く複合撚糸全体としての撚り数が通常の紡績糸の撚り数よりもかなり多くなる傾向があるが、紡績糸と複合される長繊維は紡績糸に対して著しく小径であるのが一般的であるので、太径の紡績糸に対して細径の長繊維がかなり密に撚り合わされたとしても、それによって紡績糸が過度に捲き絞められることはなく、複合撚糸の状態では紡績糸は表面に十分露出した状態で長繊維と十分に撚り合わされた状態が維持される。従って、複合撚糸としての風合いや外観・触感は前述したコアヤーンに近似したものが得られると共に、その強力は通常のプライヤーンなどに十分匹敵し得るものとなる。しかも本発明では1本の紡績糸を使用することを前提としているので、紡績糸を2本または3本組み合わせた通常のプライヤーンに比べると細番手の複合撚糸であっても容易に得ることが可能となる。
【0026】
上記の様に本発明の複合撚糸は、その特有の撚り方法によって与えられる特有の撚り構造、即ち「複合撚糸全体としての撚り方向とその中の紡績糸の撚り方向が同一」で且つ「複合撚糸自体としての撚り数がその中の紡績糸の撚り数よりも大きい」撚り構造を有しているところに特徴を有しており、紡績糸や長繊維の素材やサイズ等については一切制限がなく、あらゆる種類の紡績糸や長繊維を使用することが可能である。
【0027】
即ち紡績糸としては、最も代表的な綿や麻、羊毛等をはじめとする全ての植物性および動物性繊維や再生繊維、合成繊維などの紡績糸を使用することができ、更にはそれらを任意に組み合わせて混紡した混繊糸であっても構わない。また長繊維としては、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、レーヨンなどの合成もしくは半合成長繊維が一般的であるが、絹などの天然長繊維を使用することもできる。但し、コアヤーンやプライヤーンは伸縮性糸として利用することが多く、この様な伸縮性糸としてその特徴を有効に活かすため、本発明では、長繊維としてそれ自身が伸縮性を持ったポリウレタンなどの長繊維のみを使用する。
【0028】
また本発明では、前述した撚り加工の特徴を有効に活かすため、紡績糸として1本だけを使用することが必要であり、2本以上の紡績糸を使用したのでは撚り戻しをうまく活用する本発明の特徴が活かせなくなる。但し紡績糸のサイズは一切制限されず、用途・目的に応じて任意のサイズの紡績糸を選択使用することができ、また撚り数は紡績糸の番手によって適宜に選定することが望ましい。一方、伸縮性長繊維の数には特に制限がなく、1本もしくは2本以上を任意に引き揃えて撚り合わせることができるが、通常は1本もしくは2本の長繊維が使用され、そのサイズ(単糸デニール)も、用途・目的に応じて任意に変えることができる。
【0029】
そして、1本の紡績糸と1本以上の伸縮性の長繊維のみを複合した本発明の複合撚糸の撚り数などを、得られる複合撚糸の要求特性に応じて任意に調整することができ、細番手のものでも容易に得られることも先に延べた通りである。
【0030】
かくして得られる本発明の複合撚糸は、前述の如く複合撚糸として公知のプライヤーンとほぼ同様に原綿の選別などを要することなく容易且つ安価に製造することができ、それにもかかわらず高価なコアヤーンに類似した風合いと外観・触感を有しており、高級感を備えた織・編物を与える複合撚糸として極めて優れたものである。
【0031】
本発明の複合撚糸は上記の様な特徴を有しており、その特徴は各種の織物や編物の原料糸として使用することによって有効に発現される。該複合撚糸を用いた織り方や編み方にも一切制限がなく、織物とする場合にも通常の平織りや綾織などの如何を問わず、経糸および緯糸の一方のみ、もしくは経糸・緯糸の双方に本発明の複合撚糸を使用することができる。特にジーンズ地の素材糸として使用した場合は、得られるジーンズ地に適度の伸縮性が与えられ、柔軟性の高いジーンズ地を得ることができるので好ましい。
【0032】
ちなみに、本発明者らが1本の綿紡績糸(綿番手;20番、Z撚り;18回/インチ)と1本の伸縮性長繊維(東洋紡績社製商品名「エスパ」:70デニール、3.5倍ドラフト)を、混用率で前者93%と後者7%の比率で複合し、これを引き揃えて綿紡績糸の撚り方向と逆方向に撚りを与え、該綿紡績糸の無撚り点を超えてS方向撚りが18回/インチとなるまで引き揃え糸にS方向撚りを掛けることによって、複合撚糸としての撚りがS方向に36回/インチで、その中の綿紡績糸の撚りがS方向に18回/インチである複合撚糸を製造した。得られた複合撚糸は、表面に綿紡績糸が露出した状態で且つその周りが伸縮性長繊維で捲き締められたバルキーで伸縮性と適度の強力を有しており、風合いおよび外観・触感は通常のコアヤーンに類似した良好なものであった。
【0033】
そして、この複合撚糸を緯糸として使用し、経糸として7番手の綿紡績糸を組み合わせてジーンズ織物を織製したところ、横方向に伸縮性を持った優れた外観と触感を有するジーンズ地が得られた。
【0034】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、従来のコアヤーンに匹敵する風合いと外観・触感の織・編物を与える伸縮性の複合撚糸を容易に得ることができる。しかも、綿紡績糸を組み合わせた従来のコアヤーンの如く、綿紡績糸素材の選別(短尺繊維の除去)が不要であり、高品質の複合撚糸を安価に提供できる他、細番手のものであっても容易に得ることができ、織・編物への適用範囲を更に拡大することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る複合撚糸とその製法を例示する説明図である。
【図2】
本発明に係る複合撚糸とその製法を例示する説明図である。
【図3】
本発明に係る複合撚糸とその製法を例示する説明図である。
【図4】
本発明に係る複合撚糸とその製法を例示する説明図である。
【図5】
本発明を実施する際に原料として用いる紡績糸と引き揃え糸の撚り方向と撚り数の変化を示す説明図である。
【符号の説明】
B 紡績糸
M 長繊維
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-24 
出願番号 特願平11-311485
審決分類 P 1 651・ 113- YA (D02G)
P 1 651・ 121- YA (D02G)
P 1 651・ 111- YA (D02G)
最終処分 維持  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 鴨野 研一
野村 康秀
登録日 2001-06-22 
登録番号 特許第3202008号(P3202008)
権利者 森川撚糸株式会社
発明の名称 複合撚糸およびその製法  
代理人 小谷 悦司  
代理人 村上 智司  
代理人 植木 久一  
代理人 小谷 悦司  
代理人 植木 久一  

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