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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない C07D
審判 全部無効 1項2号公然実施 訂正を認める。無効としない C07D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない C07D
管理番号 1088861
審判番号 無効2002-35460  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-12-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-10-25 
確定日 2003-08-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2708715号発明「形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2708715号に係る出願は、昭和62年8月4日に出願された特願昭62-193855号の一部を平成6年8月22日に新たな特許出願としたものであって、本件発明は、平成9年10月17日に特許権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対して、請求人により平成14年10月25日に本件無効審判の請求がされ、本件特許の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内において公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができず(主張1)、また、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、同法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず(主張2)、さらに本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、上記刊行物記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものであると主張し(主張3)、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証を提出している。
(3)被請求人は、平成15年3月13日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。すなわち、以下の訂正を求めるものである。
訂正事項a.
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1における「特徴とする「B」型のファモチジン」の「する」と「「B型」」の間に、「再結晶により析出された形態学的に均質な」なる記載を付加する。
訂正事項b.
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2における「40℃以下の温度で過飽和させたその過飽和溶液から」の「40℃以下の温度で」と「過飽和させた」の間に、「迅速に」なる記載を付加する。

2.訂正の適否に対する判断
訂正事項a.は、「B」型のファモチジンを「再結晶により析出された形態学的に均質な」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項b.は過飽和を「迅速に」行わせるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、平成15年3月13日付けの訂正は、特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件の請求項1〜3に係る発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第2号の「公然実施された発明」に該当し、請求項1〜3に係る発明は、同法第29条第1項第3号の「刊行物に記載された発明」に該当し、さらに同法第29条第2項進歩性を欠如しているので、いずれの請求項に係る発明についての特許も同法第123条第1項第2号により無効とすべきである、と主張し、証拠方法として甲第1号証〜甲第18号証を提出している。(なお、請求項3は請求項2の実施態様項である。)

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の主張は何れも失当である、と主張し、乙第1号証〜第9号証を提出している。

5.本件発明
本件特許発明の要旨は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり、その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506、3103及び777cm-1にあり、及びその融点が159〜162℃であることを特徴とする、再結晶により析出された形態学的に均質な「B」型のファモチジン。
【請求項2】形態学的に均質なファモチジン[化学名:N-スルファモイル-3-(2-グアニジノーチアゾール-4-イルーメチルチオ)-プロピオンアミジン]の製造方法において、任意の形態学的組成のファモチジンを加熱下に水及び/又は低級脂肪族アルコール中に溶解し、及び「B」型の製造の場合には、生成物を、40℃以下の温度で迅速に過飽和させたその過飽和溶液から沈殿させ、そして目的生成物を、得られた結晶の懸濁液から分離することを特徴とする方法。」

6.甲第1〜18号証に記載された内容
甲第1号証(「最近の新薬、’86/37集」、株式会社薬事日報社、昭和61年4月2日発行、第238頁及び第241頁)には、山之内製薬が「ガスター」の販売名でファモチジン製剤の販売を開始したのが昭和60年7月29日であること、及び原薬(有効成分)の性状が記載されている。
甲第2号証(「医薬品市場統計」、IMS ジャパン K.K.)は、その掲載内容が極秘のものであることがその第1頁に記載され、本件特許の優先日の前月である1986年7月までに、「ガスター」の売り上げが合計して161億1870万円であった証拠とするものである。
甲第3号証(「ノリマツ イサオの陳述書」及び訳文、1995年6月16日作成)は、本件特許に対応するヨーロッパ特許(甲第8号証)に対する異議申立事件において山之内製薬株式会社により提出されたものであり、山之内製薬株式会社高萩工場、生産管理グループのノリマツイサオ氏が、山之内製薬株式会社においてファモチジンを含有する錠剤の製造に使用したファモチジンの原末は、市販用錠剤の製造の開始から現在まで、赤外吸収スペクトルから判断して、B型の結晶のみであることを陳述したものである。
甲第4号証(「インタビューフォーム、ガスター」)は、請求人によれば、山之内製薬株式会社がガスターについて、病院、診療所等の医療機関に対して公開した医薬品情報を記載したものであって、原薬ファモチジンの理化学的性質について、その第2頁の「融点」の項目に「162°以上になると徐々に黄色に着色し、162.5°付近から溶け始め、164°付近で熱分解し発泡して黄褐色となる。」と記載され、「確認試験」の項目に、赤外吸収スペクトルにおいて、「3512cm-1、3403cm-1、1638cm-1、1535cm-1、1290cm-1及び781cm-1に吸収を認める。」と記載されている。
甲第5号証の1(ヨーロッパ特許公開第0128736号明細書)には、参考例4として、化学反応により生成したファモチジン「の一部をジメチルホルムアミド-水から再結晶し、さらに等モル量の酢酸水に溶解した後等モル量の稀水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより析出させた結晶は、つぎの理化学的性状を示す。」ことが記載され、融点が163-164℃であることが記載されている。
甲第5号証の2(特開昭59-227870号公報)は、甲第5号証の1に対応する日本公開特許公報である。
甲第6号証(山之内製薬株式会社、合成技術研究所 合成技術担当 主管研究員石井吉雄氏が1993年8月4日に作成した「実験報告書」であって、甲第3号証と同様に、本件特許に対応するヨーロッパ特許に対する異議事件において山之内製薬株式会社から提出されたものであり、上記ヨーロッパ特許公開明細書の参考例4を追試した結果が記載されている。
甲第7号証(上記石井吉雄氏が1995年11月30日に作成した「実験報告書(追補)」及びその訳文(一部))は、本件特許に対応するヨーロッパ特許に対する異議事件において山之内製薬株式会社から提出されたものであり、上記甲第6号証の実験報告書で得た粗結晶を再分析し、その融点は158〜160℃(1°/30秒)であり、DSCの最大吸熱温度は163.8℃であり、赤外吸収スペクトルはcm-1で、3504.6、3399.5、3103.0、1638.0、1330.8、1146.2、981.8、851.6および776.2に特徴的なピークが存在し、これらのパラメータが本件特許公報に記載されたB型ファモチジン結晶のものに実質上一致する、というものである。
甲第8号証(EP0256747B1及び訳文)は、本件特許に対応する当初のヨーロッパ特許公報であり、そのオーストリア以外の締約国におけるクレームのうち、クレーム2が本件特許の請求項1に相当し、クレーム4及び8が本件特許の請求項2及び3にそれぞれ相当する。
甲第9号証(EP0256747B2及び訳文)は、上記甲第8号証の特許に対する山之内製薬株式会社などの異議申立にあたり、特許権者の訂正請求の結果、最終的に特許が維持されることになった本件特許に対応するヨーロッパ特許の公報であり、オーストリアを除く締約国におけるクレームにおいて、当初含まれていたB型ファモチジンそのもののクレームは削除され、B型ファモチジンの製造法が、減縮されてクレーム3として残っているものである。
甲第10号証(Marko教授の実験報告書及び訳文)は、本件特許に対応するヨーロッパ特許の異議事件において、特許権者によって提出されたものであり、EP0128736A1(甲第5号証の1)の参考例4を追試したところ、未精製ファモチジンは、98.3%がB型であったこと、さらなる生成が必要なこと、生成を行わなければ、生成物は医薬的観点から無効であること(「結論」の項)、再結晶後のファモチジンについては、甲第6号証及び甲第7号証の石井吉雄の実験報告書の精製工程(上記参考例4の追試とされるもの)を再現したところ、A型のファモチジンが93.7%、B型のファモチジンは-%で得られたこと、すなわち精製で得られた生成物は本質的に純粋なA型のファモチジンであることが示されている。
甲第11号証(Burger教授の実験報告書及び訳文)は、これも本件特許に対応するヨーロッパ特許に対応する異議事件において、山之内製薬株式会社から提出されたもので、EP0128736A1(甲第5号証の1)の参考例4を追試して得た粗結晶、および該粗結晶をジメチルホルムアミド-水から再結晶して得た精製結晶はいずれも形態学的にB型100%のファモチジンである結果が得られたことが示されている。
甲第12号証(ヨーロッパ特許庁審判部決定書及び訳文)は、本件特許に対応するヨーロッパ特許EP0256747B1に対する山之内製薬株式会社らの異議申立に対し、ヨーロッパ特許庁異議部がなした中間決定に対する審判請求を棄却した審判部の決定書である。
甲第13号証(「岩波理化学辞典」第5版、第504頁)には、常法による結晶性物質の再結晶方法の一般的操作及び原理が記載されている。
甲第14号証(石井吉雄の実験報告書(追補2)及び訳文)には、EP128736号の実施例4を追試して得た粗ファモチジンが純粋なB型結晶であり、これを通常の再結晶法である水からの再結晶及びメタノールからの再結晶により精製したところ、いずれも純粋なB型結晶が得られた、というものである。
甲第15号証(報告書)は、大原薬品工業株式会社の研究員である中田嘉孝が、平成14年6月25日、27日及び28日の3日間、岐阜薬科大学名誉教授 牧 敬文の立ち会いのもとで甲第5号証の2(特開昭59-227870号公報)の参考例4に記載の方法を追試した結果を示すもので、A型結晶が検出されない、実質上100%のB型ファモチジンの結晶が得られたとされる。
甲第16号証(意見書)は、本件特許出願の審査の過程で、平成8年3月12日付の拒絶理由に対して、出願人すなわち本件特許権者が提出した意見書であり、そのなかで、出願人は、B型ファモチジンがA型に比べて有利な薬理学的効果を奏する、旨主張していることが示されている。
甲第17号証(「第14改正日本薬局方第629〜632頁)には、日本薬局方ファモチジンの原薬、散剤、錠剤及び注射剤が記載されているが、結晶形に関する記載はない。
甲第18号証(Journal of Pharmaceutical & Biochemical Analysis VOL.7,No.8,pp981-985,1989 及び訳文)は、本件特許権者であるリヒター社の研究員が行ったA型ファモチジンとB型ファモチジンの比較薬物動態に関する研究発表であり、イヌを用いた実験により、A型ファモチジンとB型ファモチジンとは、生物学的に同等であることが記載されている。

7.判断
(請求人の主張1について)
請求人は、甲第1号証によれば、本件の優先権主張日前である1985年7月29日に山之内製薬株式会社が、ファモチジンを有効成分とする錠剤及び散剤を「ガスター」の販売名のもとに販売を開始したことが明らかであるところ、当時からの製造責任者であるノリマツ イサオの陳述書(甲第3号証)によれば、ファモチジンを含有する錠剤の製造に使用したファモチジンの原末は、「赤外吸収スペクトルから判断して、B型の結晶のみ」(訳文の第2頁)であるから、上記ガスター製剤に含有されていたファモチジンはB型のファモチジンであって、本件請求項1に係る発明は、本件特許の優先権主張日前に、日本国内で公然実施されていたものである、と主張する。
そこで、山之内製薬株式会社が製造、販売していた「ガスター」製剤中に含有されたファモチジンが、形態学的に均質なB型ファモチジンであるか否かについて、検討する。
ノリマツ イサオの陳述書によれば、ガスター製剤の製造に使用したファモチジンの原末がB型ファモチジンである根拠を、上述したように赤外吸収スペクトルから判断しているが、原末ロット番号B009、C013(この二つのロットのみが優先権主張日前のもの)及びE031については「タノケッショウケイ」について「ゲンドナイ」と記載しているのに対し、これ以降の、原末ロット番号H018などについては「ND」と記載しており、記載上に差異が認められる。
「タノケッショウケイ」という記載からみて、複数の結晶形について認識されていたことは示されるものの、「ゲンドナイ」という記載における「ゲンド」がどのようなものであるのかについては一切記載するところがなく、これだけでも原末ロット番号B009、C013のものがB型ファモチジンのみであるという主張の妥当性に疑いがでてくるものであるが、「ゲンドナイ」にしろ「ND」にしろ、その判断の根拠は赤外吸収スペクトルにあるとされるので、赤外吸収スペクトルについてひきつづき検討する。
請求人が乙第9号証として提出した、ヘゲデュシュ博士の宣言書には、A型ファモチジンとB型ファモチジンの混合物について、A型ファモチジンの含有量を0、5、10、15、20、25、30、40、50、95及び100%としたものを作成し、赤外吸収スペクトルをパーキン・エルマー スペクトル1000FT-IR装置で4cm-1のスペクトル分解能で測定した結果得られたスペクトルが示されているところ、A型に最も特徴的な3452cm-1(この吸収はノリマツ イサオの陳述書においても3460cm-1の吸収として、その有無をもってA型ファモチジンの有無を判定しているものである。)に着目すると、A型ファモチジンの含有率が0%のときはもちろん吸収がないが、5%含有させた場合でも、全くその吸収を確認できず、含有率10%の場合でも、吸収があると断定するのは困難であり、含有率20%になってはじめて吸収を確認できるものであることが読みとれるものである。この実験結果について特に疑うべき合理的根拠はなく、また、この乙第9号証について請求人は平成15年4月22日付の弁駁書において何らの反論もしていないので、この実験結果は信憑性のあるものと認められる。
そうすると、赤外吸収スペクトルにおいて、3460cm-1における吸収の有無のみに基づいてA型ファモチジンの存在を否定するノリマツ イサオの陳述書の内容からは、各原末ロット番号のものがA型ファモチジンを含有しないB型ファモチジンである、とまでいうことはできない。ノリマツ イサオの陳述書においては、さらに、「ファモチジンを得る最終工程はEP-A-0128736の比較例4に基づいた方法であ」るとしているが、以下に述べる理由により、この方法で得られるファモチジンが常に形態学的に均質なB型ファモチジンであるということはできず、そのうえ、原末ファモチジンと市販されたファモチジン製剤との関係についてなにも立証されていないのであるから、甲第3号証は、山之内製薬株式会社が製造、販売していたガスター製剤に含まれるファモチジンが、A型を含まない、すなわち形態学的に均質なB型ファモチジンであったことを示すものではない。
したがって、山之内製薬株式会社が製造、販売していたガスター製剤によって、本件請求項1に係る「形態学的に均質な「B」型のファモチジンが公然実施されたものであるということはできず、請求人の主張1は妥当でない。
(主張2について)
請求人は、本件請求項1に係る再結晶により析出された形態学的に均質な「B」型のファモチジンは、甲第5号証の1として提出したEP0128736A1の参考例4で得られる粗結晶及びそれを再結晶して得られるファモチジンと同一であると主張するので、以下に検討する。
本件請求項1に係る形態学的に均質な「B」型のファモチジンは、「再結晶により析出された」ものであるから、これと対比すべきは、上記参考例4における粗結晶ではなく、この粗結晶を再結晶して精製されたファモチジンであることは明らかである。
上記参考例4における再結晶は2段階で行われている。すなわち、まず「ジメチルホルムアミドー水から再結晶」し、「さらに、等モル量の酢酸水に溶解した後等モル量の稀水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより析出させ」るものである。このような2段階精製を行う理由として、石井報告書(甲第6号証)はその第4頁において、以下のように説明している。
「ファモチジンの精製のために、このような2段階精製を採用するのは次の事情による。即ちファモチジンの物理化学的性質を少し検討すれば容易に理解できることであるが、ファモチジンは通常の有機溶媒に対して溶解性が低く、単一溶媒を用いる再結晶では十分精製できない。DMFを用いる再結晶だけでは製品中の残留溶媒を考慮すると好ましくない。また通常の単一有機溶媒に溶解させるときには加熱を必須とするのでファモチジンの分解を誘発して純度低下の原因となる。そこで参考例4ではファモチジンを酢酸塩として可溶化した後中和により結晶を析出させる方法が精製方法として採用された。」
一旦結晶化しても、再度溶解してしまえば、溶解前の結晶形は失われてしまうことを考慮すれば、上記2段階精製のうちの、後段の再結晶精製工程において精製する結晶が形態学的に見てどのようなものであるかを検討すれば足りるから、以下、この後段の再結晶精製工程で得られる結晶について検討する。
甲第5号証の1における参考例4では、この後段の再結晶精製工程について、「等モル量の酢酸水に溶解した後等モル量の稀水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより析出させ」る、と記載するに止まり、溶解されたファモチジンの濃度、稀水酸化ナトリウム水溶液の添加条件(たとえば、攪拌下に行うのか、攪拌を行うとしてどの程度の攪拌を行うのか、一度に添加するのか、少しずつ添加するのか、等々)あるいは稀水酸化ナトリウム水溶液の濃度などについて、全く記載するところがない。結晶多形でないものについては、このような条件の相違によっては生成物が変わることがないので詳細に記載されないものであるが、ファモチジンのように結晶多形が存在する場合には、これらの条件が決定的にその結晶形に影響を与える場合がある。本件明細書の記載には、ファモチジンの再結晶について「【0007】得られたファモチジンの形態学的特性と製造の動力学的条件との関係を研究したところ、我々は、「A」型の製造のためには結晶化を熱溶液から出発して比較的小さい冷却速度を用いることにより実施するのが最も好ましいことを見出した。これとは対照的に、結晶化の間迅速な過飽和により引起こされる析出によって生成物を得る場合には、この生成物は特性的に低融点の「B」型になる。【0008】迅速な過飽和はファモチジン溶液の極めて迅速な冷却或いはファモチジン塩基のその塩からの迅速な遊離により達成することができる。・・・。【0009】・・・この塩からの遊離塩基は逆投与方法を用いて水酸化アンモニウムによって遊離させることができることを見出した。」と記載されている。本件明細書における、上記「迅速な過飽和により引起こされる析出」に対応する工程が、上記参考例4における後段の再結晶精製工程に対応するものであるところ、参考例4における記載は、上述したように、単に「等モル量の酢酸水に溶解した後等モル量の稀水酸化ナトリウム水溶液を加えることにより析出させ」る、と記載するに止まるので、本件明細書の記載によれば、再結晶の条件により、「A型」ファモチジン、「B型」ファモチジン及びそれらの混合物が得られることになる。この再結晶工程について、「B」型ファモチジンが得られたとする石井報告書(甲第6号証)では、この析出を、ファモチジンの酢酸水溶液に「攪拌下、室温(25℃付近)で10%水酸化ナトリウム水溶液9.6mlを素早く加えた後攪拌を止め、30分間静置した。」(第3頁)とあり、攪拌の度合いにもよるが、「B」型ファモチジンが得られたということから、本件明細書における迅速な過飽和あるいはそれに近い条件を採用していたものと考えるのが合理的である。少なくとも、本件明細書の記載を否定するためには、再結晶条件を参考例4の範囲でいろいろ変更しても、常に「B型」ファモチジンが得られることを示す必要があるが、甲第6号証はそのような実験結果を示していない。請求人が甲第11号証として提出したBurger博士の報告書に記載されている2回の実験においても、当該再結晶により「B」型ファモチジンのみが得られた結果が記載されているが、一回目の実験では、ファモチジンの酢酸水溶液に「水10ml中水酸化ナトリウム0.18gの溶液を全体として(as a whole))透明溶液に加えた」(訳文第3頁)とあるのみで、攪拌の有無、その度合い、あるいは添加方法については全く記載するところがなく、二回目の実験でも、水酸化ナトリウムの水溶液を「全体として」加えるのではなく「全部一度に」(all at once)(訳文第5頁)加える点が相違するだけであって、本件明細書によれば、再結晶の条件次第で「A」型、「B」型あるいは混合物が析出するものであるときに、これらの実験のみから、参考例4の後段の再結晶で析出するのは、常に「B」型のファモチジンであるということはできない。また、牧/中田報告書(甲第15号証)は、3回の実験においていずれもN,N-ジメチルスルホンアミドの溶液からファモチジンを再結晶させており、これは甲第5号証の2(特開昭59-227820号公報)の参考例4に記載された方法とは関係のない(上記方法はN,Nージメチルスルホンアミドを用いていない)ものであり、本件に関係のないものである。
かえって、被請求人が乙第7号証として提出した竜田邦明の実験報告書では、ファモチジンの酢酸水溶液を「攪拌下10%水酸化ナトリウム水溶液2.4mlを素早く加えた。同温にて3時間攪拌した後、インキュベータから取り出して室温にて1時間静置」した場合(実験2)、A型ファモチジンとB型ファモチジンの45:55の存在比のファモチジン結晶が得られ、同じくファモチジンの酢酸水溶液に「激しくかき混ぜながら10%水酸化ナトリウム水溶液1.18mlを素早く加えた。結晶の析出が確認された後、35℃にて3時間激しくかき混ぜ、室温にて30分間静置」した場合(実験3)、A型ファモチジンとB型ファモチジンの35:65の存在比のファモチジン結晶が得られることが示され、請求人は平成15年4月22日付けの弁駁書において、この結果について反論するところがないので、この実験結果を参酌して判断すると、攪拌の度合いをより強くするだけで、B型ファモチジンの生成比率が大きく変化することがわかるので、上記参考例4のように再結晶条件を厳密に記載していない記載に基づいて、再結晶を行ってみても、B型ファモチジンのみからなる結晶が常に生成するとはいえない。
請求項2に係る発明は、B型ファモチジンの製造方法に係るものであるが、上述のとおり参考例4における再結晶後のファモチジンがB型ファモチジンに限られないのであるから、請求項2に係る発明が参考例4に記載された発明であるとはいえない。
したがって、請求人の主張2も妥当でない。
(主張3について)
請求人は、A型ファモチジンとB型ファモチジンはその奏する効果において差がないことを理由に、本件請求項1に係る発明に進歩性がないと主張し、その理由の第一として、ファモチジンについての日本薬局方の記載(甲第17号証)において、A型B型の区別がないから、薬理効果において両者に差異がないことを挙げているが、本件明細書の記載によれば、B型はA型より速溶性であり(表5)、「薬品の場合においては溶解速度が極めて重要であり、・・・「B」型の場合の方がより高い」ことが記載(【0039】)されており、B型ファモチジンは、A型のファモチジンと比較して顕著な効果を奏するものと認められる。
請求人は、第2の理由として、被請求人のリヒター社の研究員が行ったA型ファモチジンとB型ファモチジンの比較薬物動態に関する研究発表(甲第18号証)において、「薬物投与後24時間で吸収が終わると仮定すれば、2つの結晶形は、・・・生物学的に同等であると結論することができる」と記載されていることから、A型もB型もその効果において差異がない、と主張するが、本件明細書の段落【0029】の表5は、薬物投与後2分〜1時間の溶解量の推移を示しており、薬物投与後2〜15分ではB型がA型よりも速溶性であることを数値をもって示している、すなわち、薬物投与後24時間での総吸収量では同等であっても、B型はA型より速溶性であるという医薬品としての利点を有しているものであるから、甲第18号証の記載が、B型ファモチジンの奏する効果を否定するものではない。
したがって、B型ファモチジンが公知のファモチジンに対して顕著な効果を奏するものではない、という請求人の主張は妥当でない。
請求項2は、B型ファモチジンの製法に係るものであるところ、上述のとおり、B型ファモチジン自体が甲各号証のいずれにも実体として記載されていないのであるから、それらに基づいてB型ファモチジンを製造することは、当業者が相違に想到し得ないものである。
したがって、請求項1及び2に係る発明が、甲第5号証の1の参考例4の記載に基づいて当業者が容易に発明をし得たものである、という請求人の主張3も妥当でない。

4.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠によっては、本件請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 その融解吸熱最大がDSCで159℃にあり、その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506、3103及び777cm-1にあり、及びその融点が159〜162℃であることを特徴とする、再結晶により析出された形態学的に均質な「B」型のファモチジン。
【請求項2】 形態学的に均質なファモチジン〔化学名:N-スルファモイル-3-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)―プロピオンアミジン〕の製造方法において、任意の形態学的組成のファモチジンを加熱下に水及び/又は低級脂肪族アルコール中に溶解し、及び「B」型の製造の場合には、生成物を、40℃以下の温度で迅速に過飽和させたその過飽和溶液から沈殿させ、そして目的生成物を、得られた結晶の懸濁液から分離することを特徴とする方法。
【請求項3】 前記方法において、過飽和溶液を熱溶液からそれを10℃/分より高い冷却速度で冷却することにより或いはファモチジンの遊離塩基をその塩から遊離させることにより製造することを特徴とする、特許請求の範囲第2項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は形態学的に均一なファモチジン(Famotidine)の製造方法に関する。そのケミカルアブストラクツによる名前が3-[(2-ジアミノメチレンアミノ-4-チアゾリル)メチルチオ]-スルファモイルプロピオンアミジンであるファモチジン〔化学名:N-スルファモイル-3-(2-グアニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジン〕が優れたヒスタミン-H2レセプタ遮断効果を有していることは良く知られている。しかしながら、文献にはファモチジンが多形型をもつかどうかについては示唆がない。
【0002】
ファモチジンの従来公知の製造方法の我々の再現試験の間に、これらの試験をDSC〔示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)〕により分析した際にファモチジンが二つの型即ち「A」及び「B」型を有することがわかった。1℃/分の加熱速度を用いて測定されたこれらの型の吸熱最大の場所は「A」型の場合において167℃であり、及び「B」型の場合には159℃であった。
【0003】
我々の更に得た観察の一つは、平行実験の生成物はいつも特に嵩密度及び接着性の点で互いにむしろ相違し、及びそれらの赤外スペクトルにおいてむしろ大きな相違があったことである。通常の方法で行われた実験の間、生成物の特性はランダムに広範囲に変化した。この陳述は、我々の測定による3500,3400及び1600cm-1における吸収帯が明確に低融点の「B」型に対応し、及び3240cm-1における吸収帯が高融点の「A」型に対応するその赤外分光データに関してスペイン特許明細書第536,803号〔インケ社(INKE Co.)〕により支持されている。この混合物-特性は又、「A」型の1005及び986cm-1吸収帯及び「B」型の1009及び982cm-1吸収帯の融合から生じ得る1000cm-1における吸収帯によっても証明される。この混合物-特性は又、冒頭で述べた我々のDSC-データを上記スペイン特許明細書における融点データ(162〜164℃)並びにヨーロッパ特許明細書第128,736号に公開された158〜164℃の融点と比較することによっても証明することができる。この様に、両者の場合において研究者達は、組成が規定されない(明らかになっていない)「A」型及び「B」型の混合物を得ていたことが明白と思われる。
【0004】
薬品製造の分野において、製造業者は、決定的に大多数の場合において、構造式の同一性は又薬学的見地からの異なった形態の同一性も意味するとしているので、形態学に余り注意を払わないことがほとんどである。これは例えば殆どのステロイド化合物に該当する。しかしながら、ある場合において、例えばメベンダゾール〔Janssen Pharmaceutica:Clin.Res.Reports No.R 17635/36(1973)〕におけるように異なった型では生体利用可能性における驚くべき相違があり、或いはその他のパラメータに関して極端な相違を検出し得る。ファモチジンはこの後者の場合の最良の代表例の一つである。
【0005】
我々の研究の目的はファモチジン試料の異なった特性の理由を明確にすること、及び更に適当な形態学的純度を有する異なった型のファモチジンの製造方法を作り出すことであった。我々の最初の研究段階において、我々はファモチジンの溶解度特性を考慮に入れながら医薬品製造のための最も普通の溶媒を使用する際の結晶化により得られた生成物の形態学的特性間の相関関係を研究した。我々は全ての状況において一方の型を提供し得る様な溶媒を見出すことはできなかったが、しかし、我々は有機溶媒の存在下において低融点の「B」型の製造が通常妨害されることを観察することができた。
【0006】
これらの後に、我々は結晶化の動力学的条件の効果を研究したところ、驚くべきことに、これが、得られる生成物の形態学的特性を明確に決定付けるパラメータそのものであることを見出した。
【0007】
得られたファモチジンの形態学的特性と製造の動力学的条件との関係を研究したところ、我々は、「A」型の製造のためには結晶化を熱溶液から出発して比較的小さい冷却速度を用いることにより実施するのが最も好ましいことを見出した。これとは対照的に、結晶化の間迅速な過飽和により引起こされる析出によって生成物を得る場合には、この生成物は特性的に低融点の「B」型になる。
【0008】
迅速な過飽和はファモチジン溶液の極めて迅速な冷却或いはファモチジン塩基のその塩からの迅速な遊離により達成することができる。迅速冷却の場合には、高容積を用いる際、不確実性要素として「A」型及び「B」型の結晶核の形成速度が出発物質の化学的純度に応じて異なることを考慮すべきである。
【0009】
迅速過飽和即ちファモチジン塩基のその塩からの遊離を達成するための他の可能性については、3より低いpHを有する媒体中においてはアミジノ基は極めて加水分解可能であるので極めて注意を払わなければならない。我々は、カルボン酸、特に酢酸を用いる塩形成が最も好ましく、又この塩からの遊離塩基は逆投与方法を用いて水酸化アンモニウムによって遊離させることができることを見出した。
【0010】
従って、本発明は一方においてファモチジンの「A」型に関する。この型は、その融解の吸熱最大がDSCで167℃にあり、その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3450,1670,1138及び611cm-1にあり、及びその融点が167〜170℃であることにより特徴付けられる。
【0011】
本発明は他方において、ファモチジンの「B」型に関する。この型のその融解の吸熱最大がDSCで159℃にあり、その赤外線スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1にあり、及びその融点が159〜162℃であることにより特徴付けられる。
【0012】
本発明は更に形態学的に均質なファモチジンの製造方法に関する。この方法は任意の形態学的組成のファモチジンを加熱下に水及び/又は低級脂肪族アルコール中に溶解し、及び
a)「A」型の製造の場合には、熱飽和溶液を約1℃/分以下の冷却速度を用いて結晶化させ、或いは
b)「B」型の製造の場合には生成物を40℃以下の温度で過飽和させたその過飽和溶液から沈澱させ、及び両者の場合に目的生成物を、得られた結晶の懸濁液から分離することにより特徴付けられる。
【0013】
1〜8個の炭素原子数のアルコール類が低級アルコールと考えられる。それらは直鎖或いは分岐炭素鎖及び0.1、又は2個の二重結合を有していることができ、例としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、クロチルアルコールなどが挙げられる。
【0014】
本発明の好都合な態様に従えば、過飽和溶液は熱溶液を10℃/分より高い冷却速度で冷却するか或いはファモチジンの遊離塩基型をその塩から遊離させることにより得られる。本発明の方法により得られる生成物の濾過分離は-10℃〜+40℃の温度において行われ、最も有利な温度は10〜20℃である。
【0015】
又、酢酸を用いて形成したファモチジンの塩を、遊離塩基型を得るために水酸化アンモニウムに添加するように操作することもできる。必要な高冷却速度は氷或いはドライアイスの添加により達成することができる。
【0016】
むしろ、結晶化開始前に系中に必要型の種晶を添加するのが有利である。本発明の方法により製造されたファモチジンの「A」型は167℃の値を有する融解の吸熱最大(DSC-曲線上)を有し、そのIR-スペクトルの典型的な吸収帯は3450,1670,1138及び611cm-1にある。
【0017】
本発明の方法により製造されたファモチジンの「B」型は159℃の値を有する融解吸熱最大(DSC-曲線上)を有し、そのIR-スペクトルの典型的な吸収帯は3506,3103、及び777cm-1にある。
【0018】
本発明の方法の最大の利点は、本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造するための容易な、良く制御された技術を与え、及び正確にファモチジン多形を相互に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することである。多形混合物の代わりに均質多形体を説明することの重要性を示すために、純粋な「A」型および「B」型のファモチジンの測定されたデータからの表を示す。これらのデータは全て実施例I/5及びII/5に記載の工業的規模の製造方法から得た試料に対応するものである。
【0019】
【表1】

【0020】
(B)DSC測定データこれらの測定は窒素雰囲気下にPerkin-Elmer機器で実施した。予め定めた加熱速度を用いて得たDSC曲線から、次のデータを測定した:最大の場所、曲線の上昇側の変曲点に対して引かれた接線とベースラインとの交点、「開始点」、及び曲線の下の面積から計算された融解のエンタルピー値。「Max.」及び「開始点」欄におけるデータの単位は℃であり、及びエンタルピーの欄における単位はJ/gである。
【0021】
【表2】

【0022】
(C)X-線回折データここに示したデータはPhilips機器で測定したものであり、層距離を示し、単位はÅである。
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
圧密は手動バイブレータを用いて5分間行った。
(E)接着性及びアーチ形成(arching)/陥没傾向
「A」型 「B」型
アーチ形成せず 著しくアーチ形成
粉末様 こぶ状に凝集
【0025】
(F)ローリング角度データここに与えられるデータは次の方法に従って測定した。試験すべき型を5mm直径の管を備えた漏斗中に充填し、次いで漏斗をその流出穴がベンチの水平位置より10cm高い位置に位置するように設置した。流出する粒子(grain)から形成される円錐体の基本角度を以下に示す。
「A」型 「B」型
41〜42° 55°を越える*
*「B」型の場合には、開始時点において試料は80〜58°の傾斜で堆積し、次いで1〜2mmの凝集体が壁を失ったので、ローリング角度の正確なデータを測定することはできなかった。示したデータはこの観察に対応するものである。
【0026】
(G)結晶の変形比(deformity ratio)変形比とは結晶の縦軸と最大直径との比をいう。データは250-250の粒子の測定値を平均することにより求めた。
「A」型 「B」型
1.40 4.70
【0027】
(H)溶解度データ
飽和溶解度
次の様にして調べた。即ち各々の型を蒸留水中で5時間攪拌し、そして溶液中の物質の濃度を277nm波長において紫外線分光分析により求めた。
「A」型 「B」型
860mg/l 980mg/l
動的溶解度
【0028】
次の様にして調べた。被試験型の10-10mgを攪拌下に100mlの蒸留水中に秤量した。適当な時点で試料を系から取出し、濾過及び適当な稀釈後、溶解したファモチジンの量を紫外線分光光度法により求めた。
【0029】
【表5】

【0030】
(I)熱力学的安定性
試験を次の様に行った。即ち、他の多形により汚染された両誘導体について95:5の比の異なった型の混合物を調製し、次いで水のみが結晶を被覆するように系を60℃で24時間マグネチックスターラーで攪拌した。次いで、結晶を濾過し、形態学的に調べた。いずれにおいても生成物は「A」型であることが判明した。
「A」型 「B」型
安定 準安定
【0031】
上記観察に関して、より高い融点を有する型を「A」型であると考えなければならない。
【0032】
(J)静電荷電
有機化学実験室において行われる簡単な方法がないので、以下に示すデータは次の様にして測定した。120mm直径のガラス皿中に37gの一方の型を移し、次いで試料を平らにした末端をもつガラス棒で1分間擦りながら攪拌した。これに続いて、皿の内容物をゆすらずに注ぎ出し、付着物質の量を天秤で測定した。次いで皿を10回ノックして測定を繰返した。

上記表のデータは本発明の重要性を明確に指摘するものであるが、しかし、幾つかの特性における結果は論ずる価値のあるものである。
【0033】
(1)赤外スペクトルの最良の評価可能領域において、3500cm-1を越えると、「B」型のみが吸収帯を有する。それは伝統的な光学配置の分光光度計を用いた場合でさえもファモチジンの「A」型中の5%の「B」型の存在を検出することを可能にするような特徴である。
【0034】
(2)嵩密度データにはおよそ2倍の相違があり、それは明らかになっていない形態の物質の場合には目盛りのついたジャーの助けによる回分処理は重大な誤差の可能性を表わすことがあることを意味する。
【0035】
(3)二つの型の静電荷電傾向には、一桁の大きさの相違がある。強く付着する「B」型の量は形態Aの量より20倍多い。
【0036】
(4)ローリング及びアーチ形成傾向データに関し、特性データは値のみならび、徴候においても異なる。一方の型或いは他方の型のいずれか一方のみに対して包装技術処理を信頼性をもって計画することが可能であるが、再現性のない組成の混合物に対してはそれは不可能である。
【0037】
(5)結晶の形状の説明のために規定された変形比の値は間接的にそれぞれ比表面積を示し、それらは結晶が一緒に付着することがどの程度可能であるか即ちそれらが接着性及びこぶ形成に反映するかを示している。これらの値は「A」型の場合よりも「B」型の場合の方が3.3倍高い。
【0038】
(6)上記のより高い比表面積のために、「B」型の溶解速度は「A」型のそれよりも相当に高い。飽和溶解度データに関し、「B」型についての値も又有意に高いものである。
【0039】
ファモチジンは薬局方に未だ載っていなかったので、本出願に記載された二つの型のいづれがより良好な治療的値を有しているかについて明解な答を与えることは現在のところできない。取扱い及び安定性の見地からは「A」型の性質は明らかにより有利であるが、しかし、薬品の場合においては溶解速度が極めて重要であり、この後者は「B」型の場合の方がより高いことを忘れてはならない。
【0040】
本発明を以下の限定的でない実施例により詳細に説明する。グループIの実施例は「A」型の製造に関し、そしてグループIIの実施例は「B」型の製造に関する。
【0041】
【実施例】
実施例I/1
任意の形態学的組成のファモチジン(以下、単にファモチジンと称する)10gを短時間煮沸することにより100mlの水中に溶解した。この溶液を100℃から20℃まで3時間以内に冷却させた。15〜20℃における30分間の攪拌に引続き、単斜柱(monoclinal prismatic)型として現れる、沈澱した結晶性生成物を濾過し、乾燥させた。収量:9.4g(94%)。融点:167〜169℃。生成物のその他の物理化学的パラメータ:DSC:167℃〔1℃/分の加熱速度で〕。
最も特徴的な赤外吸収帯:3452,3408,3240,1670,1647,1549,1138,1005,984,906,611及び546cm-1。
粉末X線回折データ(Åで表わされた層距離):8.23,6.09,5.13,4.78,4.44,4.30(基準)、4.24,3.79,3.43,2.790及び2.675。
【0042】
実施例I/2
10gのファモチジンを70mlの50%水性エタノール中に攪拌下に煮沸によって溶解した。78℃の溶液を清澄化し、濾過し、3時間以内に室温まで冷却した。この後30分間攪拌を行った。この様にして8.4gの、167〜169℃の融点を有する微結晶性の「A」型を得た。その他の物理学的パラメータは実施例I/1に示したものと同様である。
【0043】
実施例I/3
10gのファモチジンを50mlの50%水性エタノール中に攪拌下に熱溶解した。溶液を3時間以内に室温に冷却させ、次いで再び1時間攪拌した。濾過及び乾燥後、9.5g(95%)の、167〜169℃の融点を有する「A」型を得た。その他の物理学的パラメータは実施例I/1に示したものと同様である。
【0044】
実施例I/4
10gのファモチジンを60mlの50%水性イソプロパノール中に短時間の煮沸によって溶解した。溶液を3時間以内に均一に冷却させた。得られた結晶を濾過し、乾燥させた。
生成物の重量:9.4g(94%)
融点:167〜169℃その他の物理的パラメータは実施例I/1に示したものと同様である。
【0045】
実施例I/5
1000l容積の装置内において、煮沸及び攪拌下に溶液を70kgのファモチジン、427.5kgの脱イオン水、及び124kg(157.5l)のエタノールから調製した。得られた80℃の溶液をゆっくり5〜6時間以内に連続的に攪拌しながら20℃まで冷却させた。15〜20℃において1時間攪拌後、遠心分離及び乾燥を行い。67kgの、167〜170℃の融点を有する「A」型を得た。その他の物理学的パラメータは実施例I/1に示したものと同様である。
【0046】
実施例II/1
任意の形態学的組成のファモチジン(以下、ファモチジンと称する)10gを攪拌下に水中で短時間の煮沸によって溶解させた。溶解後直ちに、溶液の冷却を連続的攪拌下に氷浴を用いて開始した。針状結晶型で現れる「B」型を濾過し、乾燥させた。生成物の重量は9.4g(94%)であり、その融点は159〜161℃であった。生成物のその他の物理化学的パラメータ:DSC:159℃(1℃/分の加熱速度で)
最も特徴的な赤外吸収帯:3506,3400,3337,3103,1637,1533,1286,1149,1009,982,852,777,638及び544cm-1。
粉末X線回折データ:(Åで表わした層距離):14.03,7.47,5.79,5.52,4.85,4.38,4.13,3.66(基準)、2.954,2.755。
【0047】
実施例II/2
5gのファモチジンを連続的攪拌下に短時間の煮沸によって40mlの75%水性メタノール中に溶解した。熱溶液を濾過し、この溶液を攪拌しながら氷上に注いだ。これに引続いて、攪拌の1時間後、針状結晶型で現れる「B」型を溶液から濾過により取り出した。その重量は4.55g(91%)であり、159〜161℃の融点を有していた。この生成物のその他の物理的パラメータは実施例II/1に示したものと同様であった。
【0048】
実施例II/3
5gのファモチジンを短時間の煮沸によって30mlの50%水性イソプロパノール中に溶解した。次いで氷水で溶液を素速く冷却し、1時間の攪拌後に得られた「B」型の結晶を分離した。乾燥後の生成物の重量は4.6g(92%)であり、156〜162℃の融点を有していた。その他の物理的パラメータは実施例II/1に示したものと同様であった。
【0049】
実施例II/4
16.87gのファモチジンを数分間攪拌しながら125mlの水及び6.0gの氷酢酸の混合物に溶解した。得られた溶液を滴下漏斗中に注ぎ、20〜25℃の温度において一定速度で10ml(25%)アンモニア及び20mlの水の攪拌混合物中に滴下した。10分間の攪拌に続き、生成物を濾過し、水洗し、及び乾燥させた。15.8g(93.7%)の、融点159-162℃を有する「B」型が得られた。その他の物理的パラメータは実施例II/1に示されたものと同様であった。
【0050】
実施例II/5
110kgのファモチジンを816kgの脱イオン水及び39.2kgの氷酢酸の混合物に溶解した。得られた濾過溶液を滴下溜めに吸込み、次いで120kgの脱イオン水及び60kgの25%アンモニアを、攪拌機を備えた2000l容積の装置に入れた。これに引続き、550gの「B」型の種晶をこの水酸化アンモニウム含有水溶液に添加し、次いでファモチジン-アセテート溶液を一定速度で15〜25℃において攪拌下に1〜1.5時間以内にこの装置に供給した。30分の攪拌後、遠心分離、洗浄及び乾燥を行って99.4kg(90.4%)の「B」型を得た。融点159〜162℃。その他の物理的パラメータは実施例II/1に示したものと同様であった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-06-11 
結審通知日 2003-06-16 
審決日 2003-07-02 
出願番号 特願平6-196865
審決分類 P 1 112・ 113- YA (C07D)
P 1 112・ 112- YA (C07D)
P 1 112・ 121- YA (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 聖子岡部 義恵  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 小柳 正之
深津 弘
登録日 1997-10-17 
登録番号 特許第2708715号(P2708715)
発明の名称 形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法  
代理人 辰巳 和男  
代理人 岩田 弘  
代理人 石田 敬  
代理人 松居 祥二  
代理人 松居 祥二  
代理人 岩田 弘  
代理人 中嶋 正二  
代理人 中嶋 正二  
代理人 石田 敬  
代理人 辰巳 和男  

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