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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1089666
審判番号 不服2000-469  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-01-13 
確定日 2004-01-07 
事件の表示 平成 6年特許願第304995号「免震方法及び該方法に使用する免震装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 6月18日出願公開、特開平 8-158697]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年12月8日の出願であって、その請求項1ないし6に係る発明は、平成10年12月9日付けで補正された明細書及び出願当初図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであり、請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は次のとおりのものである。
【請求項2】 基礎部と上部構造物との間に介在され、地震発生時に地震エネルギーを減衰させる複数の地震エネルギー消費装置と、前記上部構造物と前記基礎部とに上下端部がそれぞれ固定されて前記上部構造物の鉛直荷重を受け止める水平方向に弾性変形可能な複数の弾性体とを備えた免震装置において、前記地震エネルギー消費装置を、地震発生時に前記上部構造物を前記基礎部に対して水平方向に滑らせる複数の滑り支承によって構成して、該滑り支承及び前記弾性体の両方で前記上部構造物の鉛直荷重を受け止め、且つ、前記複数の弾性体の全体系のバネ定数を小さくすべく、該弾性体の数を前記滑り支承で受け止める鉛直荷重の分だけ少なく配分し、これにより免震周期を長くしたことを特徴とする免震装置。
(なお、平成11年7月16日付けの手続補正は原審において、また、平成12年2月9日付けの手続補正は当審において、それぞれ補正却下の決定がなされた。)

2.引用例記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である「R.Ivan Skinner,William H.Robinson and Graeme H.McVerry」”An Introduction to Seismic Isolation”(1993)John Wiley & Sons Ltd.(イギリス)(以下、「引用例1」という。)、特開昭61-192941号公報(以下、「引用例2」という。)、及び、実願昭62-192224号(実開平1-96544号)のマイクロフイルム(以下、「引用例3」という。)に記載された発明は以下のとおりである。
(1)引用例1には、下記(イ)の記載がある。
(イ)「An isolator with a wider range of applications is obtained if part of the weight of the structure rests on PTFE bearings, while the remainder of the weight rests on rubber bearings.」(翻訳要旨:構造物の重量の一部を複数のPTFE支承で支持し、その重量の残部複数のゴム支承で支持すれば、応用範囲の広い免震装置が得られる。)(第111頁3.7.2 PTFE sliding bearings PTFE滑り支承 第3段落第1〜3行参照)
(2)また、引用例2には、下記(イ)ないし(ニ)の記載がある。
(イ)「構造物と基礎との間に、すべり摩擦板、弾性支持体および支持装置を介挿して構成される構造物の免震装置において、構造物下面あるいは基礎上面に、摩擦係数の分布が半径方向に異なるすべり摩擦板を固定し、先端にこのすべり摩擦板と対面して接する摩擦面を持ち、その押し付け力の調整が可能である支持装置を、弾性支持体と並列に基礎上面あるいは構造物下面に固定したことを特徴とする構造物の免震装置」(特許請求の範囲)
(ロ)「本発明によれば、構造物と基礎との間にまず水平方向に弾性を有した第1の支持体が設けられる。また、構造物下面あるいは基礎上面のいずれか一方に摩擦係数の分布が半径方向に異なるすべり摩擦板が固定される。さらに、先端にこのすべり摩擦板と対面して接する摩擦面を有し、その押し付け力の調整が可能な機構を持つ支持装置を、基礎上面あるいは構造物下面に弾性支持体と並列に固定することにより、小規模地震では構造物を基礎に対して固定し、中規模以上の地震に対して確実に作動して構造物と基礎との相対変位を抑え、システム全体の健全性を保つことができる。」(第3頁左上欄20行〜右上欄11行)
(ハ)「第1図において、弾性支持体6が上部固定板7および下部固定板8によりそれぞれ構造物1の下面および支持台4に固定され、支持台4は基礎3に固定されている。また、構造物1の下面にはすべり摩擦板13が固定されており、これは中心から半径方向に摩擦係数の大きくなっている3種類の摩擦面14,15,16から構成されている。さらに、摩擦板16の外周には、ストッパー17が設置してある。また、先端にすべり摩擦板13と対面して接する摩擦面11を設け、その押し付け力を任意に設定できる調整装置12を備えた支持装置10が基礎3の上面に、弾性支持機構5と並列に固定されている。」(第3頁右上欄14行〜左下欄6行)
(ニ)「本発明によれば免震装置の作用を地震動の大きさにより段階的に切りかえる事ができるため、特に常時あるいは発生確率的に大きい地震に対しては構造物と基礎との相対変位が生ずる事なく、又発生確率の小さい中、大規模地震に対してはその程度に応じ、振動抑制効果を増しながら構造物自体の耐震性を向上させ、構造物の安全性を高める事ができる。」(第4頁右上欄9行〜右上欄16行)
したがって、引用例2には、「構造物と基礎との間に、すべり摩擦板、弾性支持体および支持装置を介挿して構成される構造物の免震装置において、構造物下面あるいは基礎上面に、摩擦係数の分布が半径方向に異なるすべり摩擦板を固定し、先端にこのすべり摩擦板と対面して接する摩擦面を持ち、その押し付け力の調整が可能である支持装置を、弾性支持体と並列に基礎上面あるいは構造物下面に固定した構造物の免震装置」が記載されていると認められる。
(3)また、引用例3には、下記(イ)ないし(ハ)の記載がある。
(イ)「免震床或は対象機器を積層ゴムで支持すると共に該積層ゴムの合計の剪断ばね定数が免震効果を奏する様積層ゴムの数を決定し、該積層ゴムの間に転動体を有する支持台を設け、免震床或は対象機器を基礎に対して移動自在に支持せしめたことを特徴とする免震装置」(実用新案登録請求の範囲)
(ロ)「垂直荷重は積層ゴム、支持台が負担し、横荷重は積層ゴムが負担し、該積層ゴムは水平振動に対して充分小さいばね定数を与える。」(第3頁17〜19行)
(ハ)「重量用免震装置に用いられる積層ゴムと同様の積層ゴム1によって床2に支持させる。該積層ゴム1の数は全体の剪断ばね定数が所要の値となる様決定する。次に積層ゴム1と1の支持点の中間所要位置に床2の支持スパンが経済的床強度とマッチングする様に支持台4を設ける。該支持台4は基礎5に対して自在に動き得る様転動体(ボールベアリング等)6を有している。而して、免震の効果を発揮し得るに充分小さなばね定数とする共に垂直支持力も十分な容量を有する。」(第4頁3〜13行)

3.対比・判断
本願発明2と引用例2に記載された発明を対比すると、引用例2に記載された発明の「基礎」「構造物」「支持装置」「弾性支持機構」「すべり摩擦板」は、各々本願発明2の「基礎部」「上部構造物」「地震エネルギー消費装置」「弾性体」「滑り支承」に相当する。
したがって両者は、
「基礎部と上部構造物との間に介在され、地震発生時に地震エネルギーを減衰させる地震エネルギー消費装置と、前記上部構造物と前記基礎部とに上下端部がそれぞれ固定されて前記上部構造物の鉛直荷重を受け止める水平方向に弾性変形可能な弾性体とを備えた免震装置において、前記地震エネルギー消費装置を、地震発生時に前記上部構造物を前記基礎部に対して水平方向に滑らせる滑り支承によって構成し、かつ、前記弾性体は複数からなる免震装置」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1
本願発明2では、地震エネルギー消費装置が複数であるのに対し、引用例2に記載された発明では、地震エネルギー消費装置が複数ではない点で相違する。
相違点2
本願発明2の免震装置が、滑り支承及び弾性体の両方で上部構造物の鉛直荷重を受け止めた構成であるのに対し、引用例2にはこの点が明確に記載されていない点で相違する。
相違点3
本願発明2の免震装置では、弾性体の全体系のバネ定数を小さくすべく、弾性体の数を滑り支承で受け止める鉛直荷重の分だけ少なく配分し、これにより免震周期を長くした構成であるのに対し、引用例2には、この点が明確に記載されていない点で相違する。
そこで、これらの相違点について検討する。
相違点1について
免震装置において用いられる地震エネルギー消費装置を複数個備えるようにすることは、例えば、特開平1-137077号公報に見られるように周知の事項である。
してみれば、相違点1の本願発明2の構成は、引用例2記載の発明に周知の事項を適用することにより、それほどの技術的な困難性を要することなく、当業者ならば容易になし得たものである。
相違点2について
引用例2記載の支持装置の押し付け力は、上部構造物の鉛直荷重に外ならず、相違点2の本願発明の構成が、引用例2に事実上記載されており、この点に関し、両者は実質的に異ならない。
また、免震装置において「滑り支承及び弾性体の両方で上部構造物の鉛直荷重を受け止めた構成」とすることは、引用例1に記載されている。してみれば、相違点2の本願発明2の構成は、引用例2に記載の発明に、引用例1に記載の発明を適用することにより、それほどの技術的な困難性を要することなく、当業者ならば容易になし得たものである。
相違点3について
引用例3には、「積層ゴム1及び転動体6により、免震の効果を発揮し得るに充分小さなばね定数とすると共に垂直支持力も十分な容量を有する。」と記載されており、小さなバネ定数であれば、必然的に、免震周期は長くなるから、引用例2に記載された発明において、引用例3記載の発明を適用し、本願発明2のように、免震装置において「弾性体の全体系のバネ定数を小さくすべく、弾性体の数を滑り支承で受け止める鉛直荷重の分だけ少なく配分し、これにより免震周期を長くした構成」とすることは、当業者ならば容易になし得たものである。
また、上記相違点1〜3の、本願発明2の構成による効果も引用例1ないし3の効果の範囲内のものであり、当業者ならば容易に想到し得るもので何ら格別のものではない。

4.むすび
したがって、本願発明2は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1ないし3に記載の発明および周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-08-06 
結審通知日 2002-08-13 
審決日 2002-08-26 
出願番号 特願平6-304995
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長島 和子五十幡 直子土屋 真理子  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 蔵野 いづみ
小山 清二
発明の名称 免震方法及び該方法に使用する免震装置  
代理人 森 哲也  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 崔 秀▲てつ▼  

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