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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1089667
審判番号 審判1995-14475  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1995-07-03 
確定日 2004-01-13 
事件の表示 平成 5年特許願第162620号「ヘテロポリマー系蛋白質」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 4月19日出願公開、特開平 6-107692]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯:
本願は、インテグレーテッド・ジェネティックス・インコーポレーテッドにより昭和59年10月31日付で特許出願(優先権主張1983年11月2日、US)された特願昭59-504232号をもとの出願として、特許法第44条第1項の規定により特願平5-162620号として分割出願されたものであり、平成7年3月28日付の拒絶査定に対して同年7月3日審判請求され、本件請求人に名義変更がなされた。その後、平成9年5月30日付で審判の請求は成り立たない旨の審決がなされ、当該審決に対して高等裁判所に出訴されて(平成9年(行ケ)302号)、平成12年2月17日付で審決取消の判決言渡があったところ、当審で新たな拒絶理由が通知され平成13年1月9日付で意見書と共に手続補正書が提出されたものである。

2.本件発明の要旨:
本件発明の要旨は、上記平成13年1月9日付で手続補正された明細書の特許請求の範囲第1項に記載された以下のとおりのものである。(以下、本件発明という。)

「【請求項1】他のホルモンを含まず、翻訳後に修飾されており、そして生物学的に活性なhCGである、組換えヒトタンパク質ホルモン。」

3.引用文献との対比判断:
当審で新たに通知された前記拒絶理由で引用された下記の刊行物1には、第1四半期の胎盤からのRNAを用いたcDNAライブラリーからヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)のαサブユニットをコードするcDNAがクローニングされたことと共に、621塩基対の全長cDNAの核酸配列がアミノ酸配列と併記して記載されており(第354頁図5)、また刊行物2には、同様にクローニングされたhCGのβサブユニットをコードする579塩基対の全長cDNAの核酸配列及び対応するアミノ酸配列が記載されている。
ところで、天然のhCG自体は既に本件優先日以前に単離精製されており、hCGがαサブユニット及びβサブユニットからなる糖鎖で修飾された糖タンパク質であることも周知の事柄であったといえる。
そして、本件優先日前には既にSV40含有ベクターを用いてマウスもしくはサル由来の哺乳動物細胞宿主のゲノム中にヒト由来生理活性タンパク質の遺伝子を導入することで、糖鎖も天然の修飾程度に極めて近く、生理活性も有する組換え体が得られた成功例が多数報告されていた時期であるから、ヒト由来の糖鎖で修飾された糖タンパク質ホルモンであるhCGを天然と同等の生理活性を有する組換え体で得ようとすれば、糖鎖が付加できない細菌宿主ではなく、ヒトにできるだけ近い宿主細胞である哺乳動物細胞を選択することは当業者がむしろ当然に選択する事柄であったといえる。
そうであるから、上述の如くαサブユニット及びβサブユニットそれぞれの遺伝子がクローニングされ全塩基配列が公知であった以上、これらの遺伝子を同一ベクター中に挿入するか別々のベクターで同時トランスフェクションすることにより哺乳動物宿主ゲノムに導入して生物活性を有するhCGを得ようとすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。
なお、その際、hCGのα、βサブユニット遺伝子を同一ベクター上に載せるか別々のベクター上に載せるかはともかく、両遺伝子を同一の宿主細胞ゲノム中に導入しようとすることは両遺伝子を等量発現させようとしていることからみても極めて自然な発想であって特別なものではなく、先の拒絶理由中の参考文献(PNAS USA 79,2976-2980(1982))にも示される如く、封入体を作りやすくサイズも小さい大腸菌ですら2つの遺伝子を等量発現させてダイマーとしたい場合にはまず同一宿主内で発現させることが発想され成功している。しかも本件優先日当時にその発想を妨げるような阻害要因があったともいえないのであるから、この点に何らの困難性は見出せない。
ところで、本件明細書には実際に生物学的活性を確認した組換えhCGについての実施例すら記載されておらず、この点を指摘した当審の拒絶理由に対して本件出願人は平成 9年 2月10日付意見書において以下のように述べている。
「原審にて引用された2つの文献(1971年及び1974年公表)は何れもhCG単離物を記載しており、また平成7年7月20日提出の審判請求理由補充書に添付の参考資料5(1971年公表)はLH単離物を記載しますが、本願優先日である1983年迄の約10年間にわたり、これらのホルモンの遺伝子の単離に成功した例はありませんでした。即ち、遺伝子そのものの単離に過度な実験を要する困難があったことは容易に推察されます。しかし、残念ながら本願明細書も上記提出物件も成功例のみを記載していることから、その理由については言及しておりません。唯一、提出物件(1)の第78頁には、互いの類似性等のためにプローブの選択が困難であったことが暗示されているにすぎません。よって、この点については、提出物件(4)をご参照ください。当該文献は類似ホルモンであるhFSH(ヒト卵胞刺激ホルモン)を記載しますが、hCGおよびLHと同様に1970年代に単離物は得られていたにも拘わらず、その遺伝子の単離は10年以上も後でありました。第4771頁左欄の下線部には、bovine FSHβ cDNA probeを用いた最初のスクリーニングは失敗に終わり、即ち、得られたクローンはプラーク形成および再スクリーニングに際してプローブとハイブリダイズしなかった旨記載されています。そして、特別な41bpのオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより遺伝子の単離に成功しました。このFSHの例から推察すれば、類似ホルモンであるhCGおよびLHも同様に遺伝子の単離に困難があったことが推察され、よって、その遺伝子を単離したことで十分に進歩性を有する発明が完成していたと言えます。」
上記記載から見ても本件出願人自身がhCGについてもhFSH等他の類似ホルモンと同様に、遺伝子の単離こそが技術的なブレークスルーであって、遺伝子がクローニングされさえすれば、その後の哺乳動物細胞宿主を用いて生物活性を有する組換え体を得る工程自体はその生物活性を確認する具体的な実施例の記載も不必要なほどに本件優先日当時の常套手段であったと考えていたことが窺われる。このことはまさにhCGα及びβサブユニット遺伝子を単離したことについての刊行物の記載に基づき周知のSV40ベクター・哺乳動物細胞系により当業者が直ちに生物活性のある組換え体を得ることができることを本件出願人自身が認めていることに他ならない。
したがって、いずれにしても組換えhCGに係る本件発明は、本件優先日前の技術水準を勘案すれば、刊行物1及び2の記載に基づき当業者が容易に想到し得る範囲を逸脱するものではないと認められる。


刊行物1 Nature Vol.281,p.351-356
刊行物2 Nature Vol.286,p.684-687

4.まとめ:
以上のことから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-05-08 
結審通知日 1997-05-27 
審決日 1997-05-21 
出願番号 特願平5-162620
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 真由美加藤 浩  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 眞壽田 順啓
大久保 元浩
田村 明照
佐伯 裕子
発明の名称 ヘテロポリマー系蛋白質  
代理人 小林 泰  
代理人 村上 清  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 増井 忠弐  
代理人 今井 庄亮  
代理人 社本 一夫  

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