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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H02K
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) H02K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) H02K
管理番号 1089743
審判番号 無効2002-35001  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-12-27 
確定日 2004-01-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2136664号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2136664号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第2136664号発明に係る出願は、昭和61年2月24日になされ、平成 6年11月 2日付けで出願公告され、上記発明は、平成10年 6月 5日付けで設定登録された。以下「本件特許発明」という。)
上記特許に対して、平成13年11月16日付けで日本電産株式会社より、また、平成13年12月27日付けで株式会社ダイドー電子より、それぞれ特許無効審判が請求された。
そして、当該審判請求に対して、被請求人は、それぞれ、平成14年 2月25日付け、平成14年 4月 1日付けで答弁書を提出した。

第2.本件発明
本件特許第2136664号に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。(請求項2は、実施態様項である。)
「1.多極着磁した筒状の永久磁石を、磁気的に等方性のFeーBーR系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して、外径25mm以下、密度5.0g/cm3以上に成形した樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。」

第3.請求人の主張
1.無効2001ー35505号の請求人の主張
(1)本件特許明細書の記載不備について
無効2001ー35505号の請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由1として、本件特許請求の範囲に含まれるモータでありながら、本件特許明細書の作用効果を奏しない、いわゆる発明でないものが特許請求の範囲に含まれているということができるから、本件特許は、特許法第36条第3項または第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項により無効とされるべきである旨主張している。
(2)本件特許発明の容易性について
また、同上請求人は、その理由2として、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項により無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第3号証(特開昭59-211549号公報),甲第4号証(ゼネラル・モーターズ社パンフレット「magnequench」英文版、1985年),甲第5号証(ゼネラル・モーターズ社パンフレット「マグネクエンチ」日本語版、1985年),甲第6号証(「Machine design」1985年、24,25,28,30ページ),甲第7号証(「プラスチック成形技術」第3巻第2号、(株)シグマ出版、昭和61年2月1日発行、20〜28ページ),甲第8号証(プラスチック工業技術研究会、第7回異方性フェライト・希土類プラスチックマグネットの成形と応用開発講演会(1984年8月8日)「高性能プラスチック磁石の射出成形技術と応用開発ー現状と今後の市場展開〈希土類プラスチック磁石を中心に〉講演要旨集」6-1〜6-14ページ),甲第9号証(特開昭60-213253号公報),甲第13号証(特開昭60-208817号公報),甲第14号証(特開昭60-211908号公報)を提出している。(なお、甲第10号証,甲第11号証,甲第12号証,甲第15号証は、いずれも参考グラフである。)

2.無効2002ー35001号の請求人の主張
(1)本件特許発明の容易性について
無効2002ー35001号の請求人は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由1として、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項により無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証(「プラスチック成形技術」第3巻第2号、(株)シグマ出版、昭和61年2月1日発行、20〜28ページ),甲第2号証(ゼネラル・モーターズ社パンフレット「マグネクエンチ」日本語版、1985年),甲第3号証(特開昭59-211549号公報),甲第4号証(特開昭60-207302号公報),甲第5号証(特開昭60-213253号公報)を提出している。
(2)本件特許明細書の記載不備について
また、同上請求人は、その理由2として、本件特許は、その特許請求の範囲における記載のとおり、各円筒磁石の肉厚が1.5mmである点、およびその筒状の磁石のL/Dが0.50〜0.025である点が限定されておらず、
発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、特許法第36条第3項または第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項により無効とされるべきである旨主張している。
3.甲各号証の対応関係
ここに、無効2001ー35505号の請求人が提出した、甲第3号証,甲第5号証,甲第7号証,甲第9号証は、それぞれ、無効2002ー35001号の請求人が提出した、甲第3号証,甲第2号証,甲第1号証,甲第5号証と共通のものである。

第4.被請求人の主張
1.無効2001ー35505号の請求人の主張に対する主張
被請求人は、無効2001ー35505号の請求人の主張に対して、以下の旨主張し、証拠方法として、乙第1号証(「マグネット設計・加工技術」株式会社トリケップス、昭和59年11月25日発行、28〜46ページ),乙第2号証(「日経メカニカル」1984年7月16日発行、54〜60ページ),乙第3号証(「BM News」No.22、日本ボンド磁石工業協会、1999年10月1日発行、40〜45ページ),乙第4号証(「BM News」No.18、日本ボンデッドマグネット工業協会、1997年9月30日発行、30〜32ページ)を提出している。
(1)本件特許明細書の記載不備について
本件特許明細書の発明の詳細な説明および特許請求の範囲は、当業者が本件特許発明に係る永久磁石型モータを実施し得る程度に詳しく記載されており、本件特許発明は、何ら記載不備のない特許出願に基づくものであり、本件特許は特許法第123条第1項第3号の無効理由を有しないものである。
(2)本件特許発明の容易性について
(a)いずれの証拠においても、小型モータ用の円筒型磁石の外径は全く問題とされておらず、本件特許発明特有の課題は一切認識されていない。
(b)本件特許出願時においては、小型モータ用の円筒型磁石に等方性のネオジム系磁石材料を用いることは技術常識に反するものとされていたという事実があるのであるから、永久磁石型モータに関する甲第9号証において、異方性磁石に比較して比較して否定的に捉えられている甲第3号証および甲第6号証記載の磁気等方性のNdーFeーB急冷微細片磁石材料を適用することを、当業者が容易に想到し得るとは到底言えない。
(3)以上より、本件特許発明は、甲第9号証、甲第6号証および甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第123条第1項第1号の無効理由を有しない。

2.無効2002ー35001号の請求人の主張に対する主張
また、被請求人は、無効2002ー35001号の請求人の主張に対して、以下の旨主張し、証拠方法として、乙第1号証(プラスチック工業技術研究会、第7回異方性フェライト・希土類プラスチックマグネットの成形と応用開発講演会(1984年8月8日)「高性能プラスチック磁石の射出成形技術と応用開発ー現状と今後の市場展開〈希土類プラスチック磁石を中心に〉講演要旨集」6-1〜6-14ページ)を提出している。
(1)本件特許発明の容易性について
(a)甲第1号証について
甲第1号証は、本件特許発明における課題認識が本件特許出願当時にはなかったということ示している証拠に過ぎないから、甲第1号証を根拠に本件特許発明の進歩性を否定する請求人の主張は妥当ではない。
(b)甲第1号証および甲第2号証について
甲第1号証および甲第2号証においては、小型モータ用の円筒型磁石の外径は全く問題とされておらず、本件特許発明特有の課題は一切認識されていないから、甲第1号証および甲第2号証を根拠に本件特許発明の進歩性を否定する請求人の主張は妥当ではない。
(c)甲第3号証および甲第1号証、甲第5号証について
まず、本件特許発明の課題について開示も示唆もない甲第3号証記載の発明に、同じく本件特許発明の課題について開示も示唆もない甲第1号証記載の発明を組み合わせて、本件特許発明を完成することを、当業者が容易に想到し得るはずがない。
加えて、小型モータ用の円筒型磁石の外径は全く問題とされておらず、本件特許発明特有の課題が一切開示されていない甲第3号証と甲第5号証とを、当業者が組み合わせて本件特許発明を容易に想到し得るはずがない。
よって、甲第3号証と甲第1号証との組み合わせ、または甲第3号証と甲第5号証との組み合わせにより、本件特許発明に進歩性がないとする請求人の主張は当たらない。
(2)本件特許明細書の記載不備について
発明の詳細な説明および特許請求の範囲の意義を考えてみると、特許請求の範囲において厚さおよびL/Dが特定されていないとしても、当業者であれば本件特許明細書に基づいて本件特許発明を充分に実施することができるのであるから、このことが直接に特許法第36条第3項または第4項の規定に違反するとは言えず、何ら無効理由(特許法第123条第1項各号)に該当するものではない。

第5.本件特許明細書の記載不備に関する判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明および特許請求の範囲の記載事項から判断して、本件特許請求の範囲において、筒状の永久磁石の厚さ、および長さL/外径Dが特定されていないからといって、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとも、当業者が本件特許明細書に基づいて本件特許発明を容易に実施することができないとすることもできないから、本件特許出願が特許法第36条第3項または第4項に規定する要件を満たしていないとは言えず、したがって、本件特許は特許法第123条第1項各号に該当するものではない。

第6.本件特許発明の進歩性の判断
1.甲各号証
無効2001ー35505号、および無効2002ー35001号の各請求人が証拠として提出した甲各号証中、甲第1号証乃至甲第3号証および甲第5号証の記載内容は、それぞれ、以下のとおりである。(ただし、甲各号証の表記は、無効2002ー35001号の請求人が証拠として提出した甲号証の番号を採用し、括弧( )中に無効2001ー35505号の請求人が証拠として提出した甲号証の番号を付記した。)

(1)甲第1(7)号証(「プラスチック成形技術」第3巻第2号,(株)シグマ出版,昭和61年2月1日発行,20〜28ページ)には、
下記(a)〜(d)の事項が別個独立に開示されている。
(a)ラジアル異方性の筒状磁石を多極着磁すること。
(b)溶湯金属冷法で微細に結晶させたリボンを粉砕した磁石粉末から圧粉成形により得られるFeーBーR系の等方性プラスチック(樹脂)磁石。
(c)ロータ磁石の外径が8.0mmであること。
(d)応用例としてPM型ステップモータがあること。

(2)甲第2(5)号証(ゼネラル・モーターズ社パンフレット「マグネクエンチ」日本語版,1985年)には、
(a)高速固化法で得られたリボンを粉砕した磁石粉末と結合材との混合材料を成形して得られるFeーBーR系の等方性樹脂磁石。
(b)磁石の用途の一つとして小型永久磁石モータがあること。
が記載されている。

(3)甲第3(3)号証(特開昭59-211549号公報)には、
(a)「本発明は接着された(bonded )永久磁石微細片と,その製法に関するものである。本発明によれば、このような磁石は、溶融スピンニングされた希土類‐鉄合金のリボンから所望の形状に容易に成形できる。これらの磁石はサマリウムーコバルト磁石と同程度の固有の保磁力とエネルギー積を持つが、はるかに経済的である。接着された磁石のコンパクトは磁気的に等方性であり、適当な磁界中で希望する任意の方向に容易に磁化される。」(公報第2頁左上欄12行〜右上欄1行)
(b)「本発明は、接着サマリウムーコバルト磁石とほぼ匹敵する特性を持った高密度の、接着された希土類ー遷移金属磁石に関するものである。しかしこれらの新規な磁石は、比較的普通の安価な軽希土類元素であるネオジム、プラセオジム、遷移金属元素である鉄、および硼素を基本材料としている。」(公報第2頁左下欄15行〜右下欄1行)
(c)「本発明に使用するために、磁性合金は溶融スピンニングによりつくられる。溶融スピンニングとは、溶融した合金の流れを回転している冷却用の輪の周辺に衝突させて、急速に冷却された合金リボンを得る操作のことである。
これらのリボンは相対的に脆く、非常に細かい結晶性のミクロ構造を持っている。これらは、新規な、等方性の、高密度の、高性能の永久磁石をつくるために、後述されるように圧縮固化され、接着される。」(公報第2頁右下欄5〜15行)
(d)「本発明の実施により、溶融スピンニングされた接着された金属リボンから成る磁化しうる物体を、殆んどどのようにでも所望の形状につくることが可能になった。リボンの切片は、通常用いられる殆んどいかなるダイプレスででも、高密度に圧縮固化できる。更に、コンパクトは磁気的には等方性である。即ち、コンパクトは、個々の用途にたいして最適の性質を持つように任意の所望の方向に磁化することができる。
例えば、直流モーターのアーチ形の界磁石は、パンチとダイスの組合せで溶融スピニングされた希士額ー鉄のリボンをコンパクト化することにより成形される。」(公報第3頁右上欄12行〜左下欄6行)
(e)「本発明の望ましい具体例によれば、鉄、希土類元素および少量のホウ素が溶融され、次に溶融スピニング工程によって急速に冷却され比較的もろい合金リボンが得られる。・・・・・
望ましい合金は、約10から50原子%のネオジム、プラセオジム、あるいはこれらの希土類元素で主として構成されるミツシュメタル;小量のホウ素(一般に約10原子%未満 );および残りとして鉄を含んでいる。」(公報第3頁左下欄16行〜右下欄18行)
(f)「望ましい実施方法には、硬化性の液状のエポキシのバインダーレンジを使用するが、・・・その他の方法として、樹脂の粉と、溶融スピンニングされた希土類ー鉄のリボンの切片とを混ぜることである。圧縮固化後合金の粒子を接着させるために適当な高い温度で樹脂を硬化させ、あるいは、溶融する。」(公報第5頁左上欄19行〜右上欄16行)
(g)「リボンは最初は(巾)約2ミリ、(厚さ)30ミクロンの断面を持つていた。溶融スピンニングされたままのこの合金リボンは、圧縮固化の前に容易に小さな切片に破砕された。コンパクトの密度と、円筒形のコンパクトの軸方向に圧縮された、破砕されたNdーFeーBリボン微細片へかけた単軸的な圧力との関係を第3図に示した。圧縮固化の圧力は、リボンの密度(7.53グラム /立方センチ)の約83%(6.24グラム/立方センチ)の密度となるほぼ1,103,162 KPa (160,000ポンド/平方インチ)以上では、圧縮曲線より平らになった。」(公報第7頁左下欄15行〜右下欄7行,第3図)
との記載がある。

(5)甲第5(9)号証(特開昭60-213253号公報)には、
(a)「周知のとおり多極モータは、等方性磁石を用いるか、一軸異方性磁石の組磁石を用いる。等方性磁石は磁気性能が・・・極めて小さく改善の余地があるが、小型モータの場合、組磁石を低コストで作ることが困難なため用いられている。」(公報第1頁右下欄12〜17行)
(b)「モータは・・・を用いる。磁石の寸法は外径18mmで高さは18mmである。磁石は軸方向に平行に24極の着磁がなされる。試作したモータのトルク、・・・を表3に示す。」(公報第2頁左下欄6〜12行)
との記載がある。
そして、表3中の参考例の一つである圧縮法等方性磁石を採用したモータの磁石寸法が外径18mm,内径16mm,高さ18mmであること、および、圧縮法で等方性磁石を成形する際には、磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮する方法が一般的に採用されていることから、甲第5(9)号証には、
「多極着磁した筒状の永久磁石を、磁気的に等方性の磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮して、外径18mmに成形した樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。」
が記載されていることが認められる。

2.対 比
本件特許発明と甲第5(9)号証に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比すると、両者は、
「多極着磁した筒状の永久磁石を、磁気的に等方性の磁性材料と結合剤との混合材料を圧縮して、外径25mm以下に成形した樹脂磁石で構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。」
で一致し、
(イ)本件特許発明においては、磁気的に等方性の磁性材料がFeーBーR系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)であるのに対して、引用発明においては、磁気的に等方性の磁性材料に関して、材料の限定がされていない点。
(ロ)本件特許発明においては、成形した樹脂磁石の密度が5.0g/cm3以上であるのに対して、引用発明においては、成形した樹脂磁石の密度についての特定がない点。
で相違する。

3.判 断
(1)相違点(イ)について
相違点(イ)について検討するに、まず、甲第1(7)号証および甲第2(5)号証の記載のとおり、磁気的に等方性のFeーBーR系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石自体は、本件特許出願時において既に周知のものである。
加えて、甲第3(3)号証には、磁気的に等方性のFeーBーR系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石が、様々な用途に使用可能なものとして開示されている(成形方法に関しては、公報第5頁右上欄11〜16行の記載参照。)。
そして、上記甲第3(3)号証には、前記樹脂磁石は、(a)殆んどどのようにでも所望の形状につくることが可能であること、(b)リボンの切片は、通常用いられる殆んどいかなるダイプレスででも、高密度に圧縮固化できること、(c)個々の用途にたいして最適の性質を持つように任意の所望の方向に磁化することができること、(d)例えば、直流モーターのアーチ形の界磁石として使用できること、も記載されている(公報第3頁右上欄12行〜左下欄6行参照。)。
以上の事項を踏まえれば、甲第3(3)号証に記載の樹脂磁石で、引用発明のような多極着磁した筒状の永久磁石を構成することを阻害する事由を見出すこともできないから、引用発明の永久磁石を構成する樹脂磁石を、甲第3(3)号証に記載された、磁気的に等方性のFeーBーR系急冷微細片(RはNdまたは/およびPr)と結合剤との混合材料を圧縮して成形される樹脂磁石に置き換えて、上記相違点(イ)に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことと認められる。

(2)相違点(ロ)について
相違点(ロ)について検討するに、本件特許発明において、成形した樹脂磁石の密度を5.0g/cm3以上とした理由は、例えば、本件特許明細書第4欄30〜43行の記載、および図面第1図の記載内容から明らかなように、樹脂磁石を圧縮成型するに際しての加工性や、得られる樹脂磁石に所定の磁気特性(最大エネルギー積)を付与する必要性に起因したものであり、密度5.0g/cm3という数値自体に臨界的な意義があるわけではない。
したがって、甲第3(3)号証に、本件特許発明と組成を同じくする樹脂磁石を成形するに際して、所定の磁気特性を得るために設定された密度として、5.0g/cm3以上の数値が開示されている以上(第3図参照。)、引用発明の永久磁石を構成する樹脂磁石の密度として、甲第3(3)号証に記載された範囲のものを設定して、上記相違点(ロ)に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。

(ハ)被請求人の主張に対する判断
なお、被請求人は、第1に、いずれの証拠においても、小型モータ用の円筒型磁石の外径は全く問題とされておらず、本件特許発明特有の課題は一切認識されていない旨主張する。
しかしながら、甲第5(9)号証に、組磁石を低コストで作ることが困難な小型モータの場合、等方性磁石を用いることが記載されている(公報第1頁右下欄12〜17行参照)とともに、比較例の中に、外径が18mmの円筒型磁石が具体的に開示されているのであり、更に、甲第2(5)号証に、前記樹脂磁石を使用すれば、従来のモーターに比べて著しく小さいサイズと重量で同じ馬力を出すことができることが記載されているとおり、本件出願時において、モータの小型化を図るという課題は十分認識されていたのである。そして、前記樹脂磁石の特性を把握する当業者であるならば、前記認識に基づいて、成形加工の容易性、および任意方向への磁化容易性という前記樹脂磁石の特性を利用して、これを小型モータの永久磁石として採用しようとすることは容易に想到し得たことと言うべきである。
加えて、本件特許発明の構成要件である「外径25mm以下」の点について言うならば、本件特許明細書および図面第2図の記載から明らかなように、FeーBーR系樹脂磁石と希土類コバルト樹脂磁石とで構成した各円筒磁石の肉厚を1.5mm,L/D=0.50〜0.25に設定したときに、磁気特性に大小の反転が生じる各円筒磁石の外径値であって、前記肉厚やL/Dの数値が変更されれば、当然に変更する数値に過ぎず、本件特許発明の他の構成要件との関連においても格別の意義を有するものではない。また、上記数値は、その前後において磁気特性が一定になっていることから、臨界的意義のある数値であるとも認められない。

また、被請求人は、第2に、本件特許出願時においては、小型モータ用の円筒型磁石に等方性のネオジム系磁石材料を用いることは技術常識に反するものとされていたという事実があるのであるから、永久磁石型モータに関する甲第5(9)号証において、異方性磁石に比較して否定的に捉えられている甲第3(3)号証記載の磁気等方性のNdーFeーB急冷微細片磁石材料を適用することを、当業者が容易に想到し得るとは到底言えない旨主張する。
しかしながら、甲第5(9)号証には、異方性磁石に比較して等方性磁石は磁気特性で劣るとの記載があったとしても、同時に、小型モータにおいて等方性磁石が用いられていることが記載されており(公報第1頁右下欄12〜17行参照)、少なくとも、等方性磁石を多極モータの永久磁石として用いることが排除されているとの認識を認めることはできない。また、甲第2(5)号証には、ネオジム系等方性磁石を小型モータに使用することが明らかに記載されている。したがって、少なくとも、本件特許出願時においては、小型モータ用の円筒型磁石に等方性のネオジム系磁石材料を用いることが排除されていたということはできず、乙第1号証乃至乙第4号証の記載内容を検討しても、被請求人の主張を是認することはできない。

4.結 論
以上のとおり、本件特許発明は、甲第2(5)号証,甲第3(3)号証,甲第5(9)号証の各々に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-25 
結審通知日 2002-06-28 
審決日 2002-07-11 
出願番号 特願昭61-38830
審決分類 P 1 112・ 532- Z (H02K)
P 1 112・ 531- Z (H02K)
P 1 112・ 121- Z (H02K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 及川 泰嘉橋本 武  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 大森 蔵人
三友 英二
登録日 1998-06-05 
登録番号 特許第2136664号(P2136664)
発明の名称 永久磁石型モ-タ  
代理人 岡部 讓  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 北村 秀明  
代理人 池田 治幸  
代理人 産形 和央  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 河崎 眞一  
代理人 石井 和郎  
代理人 岡部 正夫  
代理人 臼井 伸一  

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