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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1089839
異議申立番号 異議2000-70474  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-03 
確定日 2003-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2930202号「自動車用可変反射率ミラー」の請求の範囲第1〜16項、第17〜25項、第26〜34項に記載された発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2930202号の特許請求の範囲第1〜16項、第17〜25項、第26〜34項に記載された発明についての特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2930202号(以下、「本件特許」という)は、特願昭62-79562号(優先権主張を伴う昭和62年3月31日出願(第1国:米国、優先日、1986年3月31日)、以下、「原出願」という。)の一部を、平成9年8月28日付で、特許法第44条第1項に規定する新たな特許出願として出願された、特願平9-232379号に係り、平成11年5月21日にその発明について特許の設定登録がなされたものであるが、本件特許に対して、名越千栄子より、特許異議の申立てがあったので、当審において、当該申立ての理由を検討の上、平成12年5月8日付で本件特許について取消理由を通知し、これに対して、特許権者より平成12年11月20日付で、特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件特許発明
本件特許異議申立てに係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の構成に欠くことのできない事項を記載した第1項、第17項、第26項に記載されたとおりの次の事項により特定されるものである。但し、今後の検討のため、その一部を下記の記載によって特定される構成要件(a)、構成要件(b)、構成要件(c)及び構成要素(A),構成要素(B),構成要素(C),構成要素(D)とする。
第1項.
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可逆的可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、ここで、当該エレクトロクロミックデバイスの透明な電極層のシート抵抗が1〜40オームパースクエアであることを特徴とし」(以下、「構成要件(a)」という。)、
ただし、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の
「(A)溶剤;」(以下、「構成要素(A)」という。)
「(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;」(以下、「構成要素(B)」という。)
「(C)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆酸化波を表示し、これらの酸化のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、アノードエレクトロクロミック化合物;」(以下、「構成要素(C)」という。)
および
(D)カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、「不活性の電流搬送電解質」(以下、「構成要素(D)」という。)
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、
前記自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。

第17項.
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、当該エレクトロクロミックデバイスが、最高反射率が70%を超え、最低反射率が10%未満でなければならないような反射率範囲を与えることを特徴とし」(以下、「構成要件(b)」という。)、ただし、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の:
「(A)溶剤;」(構成要素(A))
「(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;」(構成要素(B))
「(C)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆酸化波を表示し、これらの酸化のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、アノードエレクトロクロミック化合物;」(構成要素(C))
および
(D)カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中においてイオン性でない場合は、「不活性の電流搬送電解質」(構成要素(D))
を含む単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、
前記自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。
第26項.
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、自己消去式溶液相媒質が空間をおいて離れた二つの電極層により画定された空間中に保持され、当該エレクトロクロミックミラーは反射層を有し、当該反射層が、前記エレクトロクロミックデバイスの溶液を通り、前記溶液を通過した後当該反射層に到達する光を反射し、ここで、前記エレクトロクロミックデバイスが、印加した電位差の関数として反射率の全範囲にわたって連続的に変化可能な反射率を与えることを特徴とし、」(以下、「構成要件(c)」という。)
ただし、当該単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の:
「(A)溶剤;」(構成要素(A))
「(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;」(構成要素(B))
「(C)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆酸化波を表示し、これらの酸化のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、アノードエレクトロクロミック化合物;」(構成要素(C))
および
(D)カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、「不活性の電流搬送電解質」(構成要素(D))
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、
前記自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。

3.対比する本件特許発明の認定
本件特許の発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した第1項、第17項、第26項の発明は、共通する構成要素とそれぞれの発明の構成要件(a)、(b)、(c)の単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって、次の、構成要素(A)、構成要素(B)、構成要素(C)及び、カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、構成要素(D)を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーとなっており、いわゆる「除くクレーム」であって、発明の構成に欠くことができない事項が多岐にわたるので、進歩性の判断を行う発明として、本件特許発明に含まれる発明を以下に特定する。

(1)請求の範囲第1項の発明について
本件特許における第1項の発明を構成要件及び構成要素にしたがって記載すれば、
「構成要件(a)、ただし、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の、構成要素(A)、構成要素(B)、構成要素(C)、及び、カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、構成要素(D)を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」となるが、特許明細書の詳細な説明の記載からみて、上記第1項の発明は、以下の(1-1)記載の発明を包含するものと認める。
(1-1)
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可逆的可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、ここで、当該エレクトロクロミックデバイスの透明な電極層のシート抵抗が1〜40オームパースクエアであることを特徴とする単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって(構成要件(a))、
(A)溶剤;(構成要素(A))
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;(構成要素(B))
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」

(2)請求の範囲第17項の発明について
本件特許における第17項の発明を構成要件及び構成要素にしたがって記載すれば、
「構成要件(b)、ただし、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の、構成要素(A)、構成要素(B)、構成要素(C)及び、カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、構成要素(D)を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」となるが、特許明細書の詳細な説明の記載からみて、上記第17項の発明は、以下の(2-1)の発明を包含するものと認める。
(2-1)
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、当該エレクトロクロミックデバイスが、最高反射率が70%を超え、最低反射率が10%未満でなければならないような反射率範囲を与えることを特徴とする単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって、(構成要件(b))
(A)溶剤;(構成要素(A))
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;(構成要素(B))
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」

(3)請求の範囲第26項の発明について
本件特許における第26項の発明を構成要件及び構成要素にしたがって記載すれば、
「構成要件(c)、ただし、当該単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスから、次の、構成要素(A)、構成要素(B)、構成要素(C)、及び、カソード化合物およびアノード化合物がすべてそれらのゼロ電位平衡状態で該溶液中でイオン性でない場合は、構成要素(D)を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスを除く、自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」となるが、特許明細書の詳細な説明の記載からみて、上記第26項の発明は、以下の(3-1)の発明を包含するものと認める。
(3-1)
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、自己消去式溶液相媒質が空間をおいて離れた二つの電極層により画定された空間中に保持され、当該エレクトロクロミックミラーは反射層を有し、当該反射層が、前記エレクトロクロミックデバイスの溶液を通り、前記溶液を通過した後当該反射層に到達する光を反射し、ここで、前記エレクトロクロミックデバイスが、印加した電位差の関数として反射率の全範囲にわたって連続的に変化可能な反射率を与えることを特徴とする単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって、(構成要件(c))
(A)溶剤;(構成要素(A))
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴う、カソードエレクトロクロミック化合物;(構成要素(B))
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」

4.本件特許発明の出願日について
本件特許出願は、適法な分割出願であって、本件特許発明の出願日は、昭和62年3月31日出願(第1国:米国、優先日、1986年3月31日)まで遡及するものと認める。

5.特許法第29条第2項違反について
(1)引用刊行物及びその記載事項
当審が平成12年5月8日付けで通知した取消理由において引用した刊行物2:特開昭57-208530号公報(異議申立人が提出した甲第2号証)には、「防眩ミラー装置」に関し、以下の記載及び対応する図面として図3、5が記載されている。
ア.「外面に透明ガラス板を備えた対向する透明電極間に、電気化学的に酸化還元可能な有機物質が不活性溶媒に溶解されている電解液を封入し、前記対向する透明ガラスまたは透明電極の一方に高反射面を形成した反射ミラーと、前記電極間に電圧または電流を印加する駆動電源との間にスイッチ機構を設けてなる駆動回路とよりなることを特徴する防眩ミラー装置」(請求項1)
イ.「本発明は、後続車のヘッドランプ等の光線によって運転者が眩惑するのを防止すべくなした防眩ミラー装置に関する」(1頁右欄7〜9行)
ウ.「前記反射ミラー1は、第3図,第4図に示すように、2枚の透明ガラス板11,11を対向させており、その各透明ガラス板11,11の内面全面に透明電極12,12’を蒸着させている。各透明電極12,12’にはリード線17,17を接続し、そのリード線を前記スイッチ機構21に接続させるようにしている。また、透明電極12,12’との間には透明ガラス材等からなる枠体15を接着し、該枠体15内に後述の如き電解液14を封入させている。前記透明電極12,12’のうち、入射光Aに対して後方がわの透明電極12’には反射膜を一体に形成することにより反射ミラー1を構成している。」(2頁右上欄8〜19行)
エ.「前記電解液14は、電気化学的に酸化還元可能な有機物質が不活性溶媒に溶解されたものである。そして、この電解液14は、常態では透明であるが、透明電極12及び12’に電圧または電流を印加することにより発色すると共に、その発色濃度が電気量に対応して変化することにより透光率を減少できるようになっている。
具体的に述べると、前記電解液14を構成する有機物としては、1,1’-ジアルキル-4,4’-ジビリジニウムのハロゲン化合物であり、その構造式を下記に示す。

但し、Rは4〜9個の炭素原子を有する鎖状アルキル基、例えば、C4H9(ブチル基)、C5H11(ペンチル基)、C6H13(ヘキシル基)、C7H15(へプチル基)、C8H17(オクチル基)、C9H19(ノニル基)であり、また、X-はBr-(臭素イオン),Cl-(塩素イオン),I-(ヨウ素イオン)などの陰イオンを表している。」(2頁左下欄4行〜右下欄4行)
オ.「また、前記不活性溶媒としては、誘導率が比較的大きな溶媒、例えばメタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N’-ジメチルホルムアミドなどが用いるが、これらの有機溶媒を単一若しくは混合させて用いても良い」(2頁右下欄9行〜3頁左上欄3行)
カ.「また、前記の減光状態からスイッチ機構2をオフさせると、電解液14は可逆反応が起こって速やかに透明状態に戻るので、高い反射率を維持することができる。」(3頁右上欄2〜5行)
キ.「即ち、電解液の発色濃度の度合と電気量とが相対的な比例関係にあるので、第8図に示すように電気量に応じて透光率が減少する。その結果反射ミラー1の反射率を無段階にかつ連続的に変更させることができる。」(3頁右上欄12〜16行)
上記したアないしキの記載によれば、刊行物2には、
「外面に透明ガラス板11,11を備えた対向する透明電極12,12’間に、枠体15を接着し、該枠体14内に電気化学的に酸化還元可能な有機物質が不活性溶媒に溶解されている電解液14を封入し、前記対向する透明ガラス11,11または透明電極12,12’の一方に反射膜を一体に形成することにより反射ミラーを構成し、各透明電極12,12’にはリード線17,17を接続し、そのリード線に前記透明電極12,12’間に電圧または電流を印加する駆動電源との間にスイッチ機構21を設けた防舷ミラー装置であって、
前記電気化学的に酸化還元可能な有機物質が構造式(1)

を有する1,1’-ジアルキル-4,4’-ジビリジニウムのハロゲン化合物(式中、Rは4〜9個の炭素原子を有する鎖状アルキル基、例えば、C4H9(ブチル基)、C5H11(ペンチル基)、C6H13(ヘキシル基)、C7H15(へプチル基)、C8H17(オクチル基)、C9H19(ノニル基)であり、また、X-はBr-(臭素イオン),Cl-(塩素イオン),I-(ヨウ素イオン)などの陰イオンを表している)であり、前記不活性溶媒がメタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N,N’-ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒であり、前記電解液14は、常態では透明であるが、透明電極12及び12’に電圧又は電流を印可することにより発色し、その発色濃度が電気量に応じて変化することにより透光率を減少できるとともに前記の減光状態からスイッチ機構2をオフさせると、電解液14が透明状態に戻り、反射ミラー1が高い反射率を維持することができ、反射率を無段階にかつ連続的に変更させることができる防眩ミラー装置。」が記載されていると認める。
同じく、当審が平成12年5月8日付けで通知した取消理由において引用した刊行物5:特開昭60-247226号公報(異議申立人が提出した甲第5号証)は、「調光ミラー」に関して、以下の記載がある。
ク.「従来、上述のタイプの調光ミラーとしては、例えば特公昭57-7415号公報に開示されるように、・・・例えば特開昭57-208530号公報に開示されるように、・・・本発明は、このような従来の調光ミラーの欠点を解消するためになされた」(1頁左欄17行〜右欄13行)
ケ.「透明電極を形成した透明な表基板と、反射性電極を形成した裏基板とを電解質を挟持し透明電極と反射性電極とを内側にして対向させ、該透明電極又は反射性電極のいずれか一方の上にエレクトロクロミック物質層を電解質に接して形成して成る調光ミラーにおいて、前記反射性電極として第IV族Bの元素の窒化物を用いたことを特徴とする調光ミラー」(請求項1)
コ.「透明電極2としては酸化インジウム・酸化錫(ITO)や酸化錫(Sn02)等を用いる。この透明電極2は、例えばITOを材質として用した場合には、蒸着法やスパッタ一法により表基板1上に面抵抗値が20Ω以下程度に形成することが望ましい。」(2頁左上欄18行〜同右上欄3行)
同じく、当審が平成12年5月8日付けで通知した取消理由において引用した刊行物6:特開昭61-32037号公報(異議申立人が提出した甲第6号証)は、「電気発消色装置」に関して、以下の記載がある。
サ.「調光ミラー、調光窓等の電気発消色装置に用いて特に有効」(2頁右下欄8〜9行)
シ.「ガラス製裏基板3上に蒸着法によりITO膜を膜厚1500Åにコートし透明電極4を形成する。」(3頁左上欄13〜15行)
同じく、当審が平成12年5月8日付けで通知した取消理由において引用した刊行物7:特開昭60-216333号公報(異議申立人が提出した甲第7号証)は、「エレクトロクロミック表示素子」に関して、以下の記載がある。
ス.「ガラス基板に、ITO(ln203-Sn02)透明電極を1400Å(約35Ω/□)蒸着し」(4頁右下欄1〜2行)
(2)対比・判断
(2-1)本件特許の第1項の発明について
本件特許の第1項の発明が包含する上記3.(1)の(1-1)の発明(以下、「第1項に記載の発明」という。)において、本件特許明細書には、カソードエレクトロクロミック化合物に関し、「本発明の溶液に適したカソードエレクトロクロミック化合物には式II既知の化合物(バイオロゲン)

{式中、R21およびR22は・・・それぞれ、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基・・・、X ̄23およびX ̄24は・・・それぞれクロリド、ブロミド、ヨージド・・・から選ばれる}・・・が含まれる。」(【0056】欄)との記載があり、溶剤に関し、「溶剤として適したものは、・・・、メタノール、・・・、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、・・・が含まれる。」(【0053】欄)との記載がある。
そこで、第1項に記載の発明と上記刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2のミラー装置は上記イ.の「本発明は、後続車のヘッドランプ等の光線によって運転者が眩惑するのを防止すべくなした防眩ミラー装置に関する」の記載から、自動車類用ということができ、上記キ.の「即ち、電解液の発色濃度の度合と電気量とが相対的な比例関係にあるので、第8図に示すように電気量に応じて透光率が減少する。その結果反射ミラー1の反射率を無段階にかつ連続的に変更させることができる。」の記載から、可変反射率ミラーであるといえ、刊行物2の発明における不活性溶媒及び電解液14を構成する構造式(1)

を有する前記有機物質が、それぞれ、第1項に記載の発明における溶剤及び式II

のカソードエレクトロミック化合物と一致しているので、刊行物2の上記構造式(1)の有機物質も、「溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴うカソードエレクトロクロミック化合物」といえ、上記ア.キ.とカ.の「減光状態からスイッチ機構2をオフさせると、電解液14は可逆反応が起こって速やかに透明状態に戻るので、高い反射率を維持することができる」の記載から、刊行物2のものも自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって、可逆的可変透過率をもつものといえ、上記ア、ウの記載から、単一区画型ということができる。
そして、刊行物2の発明における不活性溶媒及び電解液14を構成する構造式(1)

を有する前記有機物質は、ゼロ電位平行状態で該溶液中でイオン性であるといえるので、両者は、
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可逆的可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスが、
(A)溶剤;
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴うカソードエレクトロクロミック化合物;
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
第1項に記載の発明においては、「透明な電極層のシート抵抗が1〜40オームパースクエアである」のに対して、刊行物2に記載の発明においては、透明な電極層のシート抵抗値について言及されていない点。
以下相違点について検討する。
相違点1について
まず、透明な電極層について本件特許明細書では「電極層に適した材料は・・・酸化スズ、・・およびインジウムドープした酸化スズ(“ITO”)の薄い透明な層・・好ましいものはITOである。導電性材料を層10および13の固体材料に施して適切な電極層を形成する方法は当技術分野で知られている。・・・電極層の厚さは好ましくは、これが100オームパースクエア以下、より好ましくは40オームパースクエア以下の抵抗率をもつものである。しかし電極層との電気接点を作成することができ、かつデバイスの作動に際し溶液空間内の溶液が電極層と接触している限り、電極層が本発明のデバイスの溶液容積全体を覆う必要はなく、あるいはデバイスの電極保有壁を離れた状態に保持するスペーサーの外側にまで広がる必要はない。さらに、電極層が均一な厚さをもつこと、または100オームパースクエア以下の抵抗率をもつことも要求はされない。」(本件特許明細書【0038】欄)なる記載から、第1項に記載の発明の電極層の材料はITOが好ましく、電気接点を作成できればよいものである。
そこで、上記相違点1について検討すると、刊行物2には、上記ウ.として指摘したように、「各透明電極12,12’にはリード線17,17を接続し、そのリード線を前記スイッチ機構21に接続させるようにしている」(2頁右上欄11行乃至13行)ことが記載され、上記記載によれば、刊行物2に記載のものにおいても、透明電極12,12’にリード線17,17’を接続しているので、透明電極12,12’の厚さはリード線17,17’を接続できる程度のものであることは明らかである。
さらに、刊行物5には、エレクトロクロミック調光体に反射層を設けた調光ミラーにおいて、「表基板1上に形成する透明電極2として酸化インジウム・酸化錫(ITO)や酸化錫・・・等を用いる。この透明電極2は、例えばITOを材質として用いた場合には、・・・表基板1上に表面抵抗値が20Ω以下程度に形成することが望ましい。」(2頁左上欄17行〜右上欄3行)との記載があり、この記載によれば、基板1上に20Ω/ロ以下の程度の透明電極2を形成することが実質的に開示されているものと認められる。
そして、刊行物5において従来技術として提示されている特公昭57-7418号公報及び特開昭57-208530号公報の調光ミラーは、自動車のバックミラーとして利用されるものであるので、刊行物5と刊行物2とは自動車用の可変反射率エレクトロクロミックミラーとして技術分野が同一であり、刊行物2には透明電極の素材について特に言及されてはいないが、透明電極として酸化インジウム・酸化錫(ITO)が用いられることは従来周知の技術事項(例えば、特開昭52-107596号公報、特開昭50-128197号公報、トヨタ技術会「エレクトロニクス用語辞典」、昭和61年12月26日発行、305頁、「とうめいでんきょく(透明電極)」及び「とうめいどうでんガラス(透明導電ガラス)」の項参照)であるので、刊行物2に記載の透明電極の素材として、刊行物5に記載されている酸化インジウム・酸化錫(ITO)を用い、基板上に形成する透明電極層の面抵抗を20Ω/ロ以下程度のものとすることは容易に想到することができるものというべきである。
したがって、上記相違点1に係る第1項に記載の発明の構成は、刊行物2及び刊行物5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易になしえたものといえる。
そして、第1項に記載の発明の作用効果も、上記刊行物2及び周知技術から予測される範囲内のものである。
したがって、本件特許の第1項の発明は、当業者が上記刊行物2、5及び周知技術から容易になしえたものである。

(2-2)本件特許の第17項の発明について
本件特許の第17項の発明が包含する上記3.(2)(2-1)の発明(以下、「第17項に記載の発明」という。)と上記刊行物2に記載された発明を対比すると、刊行物2に記載のものと第1項に記載の発明との対比に関する記載「5.(2)(2-1)」と同様の理由により、刊行物2に記載のものと第17項に記載の発明との対比における両者の一致点の認定は、刊行物2に記載のものと第1項に記載の発明との一致点の認定と同様であるので、両者は、
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可逆的可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、上記単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスが、
(A)溶剤;
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴うカソードエレクトロクロミック化合物;
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点2>
エレクトロクロミックデバイスが、第17項に記載の発明においては、「最高反射率が70%を越え、最低反射率が10%未満でなければならないような反射率範囲を与える」のに対して、刊行物2に記載の発明においては、この点について言及されていない点。
以下相違点について検討する。
相違点2について
一般に、透明導電ガラスにおいて光透過率が90%以上であることは周知(例えば、特開昭52-107596号公報、トヨタ技術会「エレクトロニクス用語辞典」、昭和61年12月26日発行、305頁、「とうめいどうでんガラス(透明導電ガラス)」の項参照)である。そして、エレクトロクロミック化合物を用いるものではないが、防眩ミラーにおいて、最高反射率が70%を越え、最低反射率が10%未満とすることは従来周知(例えば、社団法人自動車技術会編「新編 自動車工学便覧」、昭和62年6月20日第3刷、社団法人自動車技術会発行、第7編、1-103,104における「12・1・2インサイドミラー」、特開昭54-66158号公報参照)である。
そして、刊行物2には「電解液14は、電気化学的に酸化還元可能な有機物質が不活性溶媒に溶解されたものである。そして、この電解液14は、常態では透明であるが、透明電極12及び12’に電圧または電流を印加することにより発色すると共に、その発色濃度が電気量に対応して変化することにより透光率を減少できるようになっている」(2頁左下欄6〜11行)との記載があり、この記載によれば、刊行物2に記載のエレクトロクロミック化合物が常態では透明であることは明らかである。
そうすると、自動車ミラーにおいて昼間には後方の状況を確認しうる程度の反射率にすることは当然のことであり、刊行物2に記載の防眩ミラーにおいては、透明導電ガラス及び常態における刊行物2に記載のエレクトロクロミック化合物はほぼ透明であるので、刊行物2の防眩ミラーについて最高反射率が70%を越え、最低反射率が10%未満となるようなエレクトロクロミック化合物を用いてみようとの目標設定自体は、当業者が容易に想到しうる設計事項であるといえる。
そして、第17項に記載の発明の効果も、自己消去式溶液層エレクトロクロミックデバイスに最高反射率が70%を越え、最低反射率が10%未満となるようなエレクトロクロミック化合物を用いることが可能となった時に奏する効果であるから、上記刊行物2及び周知技術から予測される範囲内のものといえる。
したがって、本件特許の第17項の発明は、当業者が上記刊行物2及び周知技術から容易になしえたものである。

(2-3)本件特許の第26項の発明について
本件特許の第26項の発明が包含する3.(3)(3-1)の発明(以下、「第26項に記載の発明」という。)と上記刊行物2に記載された発明を対比すると、刊行物2に記載のものと第1項に記載の発明との対比に関する記載「5.(2)(2-1)」に加えて、上記ウ.の記載から刊行物2のものも「自己消去式溶液相媒質が空間をおいて離れた二つの電極層により画定された空間中に保持され、当該エレクトロクロミックミラーは反射層を有し、当該反射層が、前記エレクトロクロミックデバイスの溶液を通り、前記溶液を通過した後当該反射層に到達する光を反射」するものといえ、上記ア.ウ.カ.の記載から「エレクトロクロミックデバイスが、印加した電気量の関数として反射率の全範囲にわたって連続的に変化可能な反射率を与える」ものであるといえるので、両者は、
「自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラーであって、可変反射率が単一区画型自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである可変透過率をもつ構成成分によって与えられ、自己消去式溶液相媒質が空間をおいて離れた二つの電極層により画定された空間中に保持され、当該エレクトロクロミックミラーは反射層を有し、当該反射層が、前記エレクトロクロミックデバイスの溶液を通り、前記溶液を通過した後当該反射層に到達する光を反射し、ここで、前記エレクトロクロミックデバイスが、電気量の関数として反射率の全範囲にわたって連続的に変化可能な反射率を与える自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスであって、
(A)溶剤;
(B)上記溶剤中で室温において行われたボルタモグラムにおいて少なくとも2種の化学的可逆還元波を表示し、これらの還元のうち第1のものが可視領域の少なくとも1種の波長において分子吸光係数の増大を伴うカソードエレクトロクロミック化合物;
を含む自己消去式溶液相エレクトロクロミックデバイスである自動車類用可変反射率エレクトロクロミックミラー。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3>
第26項に記載の発明においては、反射率は印加した電位差の関数であるのに対して、刊行物2に記載の発明では、反射率は電気量の関数であって、その具体例として電圧又は電流が例示されている点。
以下相違点について検討する。
相違点3について
刊行物2には、電解液の発色濃度の度合いと電気量との関係に関し、「この電解液14は、常態では透明であるが、透明電極12及び12’に電圧または電流を印加することにより発色すると共に、その発色濃度が電気量に対応して変化することにより透光率を減少できるようになっている」(2頁左下欄6〜11行)との記載、「電解液の発色濃度の度合と電気量とが相対的な比例関係にあるので、第8図に示すように電気量に応じて透光率が減少する。その結果反射ミラー1の反射率を無段階にかつ連続的に変更させることができる。」(3頁右上欄12〜16行)との記載、及び、透明電極に印可する電気量に関し「電気量(電圧または電流)可変装置23」(3頁右上欄8〜9行)の記載がある。
そして、電気量は、アンペア(電流)×時間 であって、オームの法則から、電位差/抵抗値×時間 でも表現できることは技術常識である。
そうすると、上記刊行物2には、電解液の発色濃度の度合いと電気量との関係に関して、エレクトロクロミックデバイスが、印可した電位差の関数として反射率の全範囲にわたって連続的に変化可能な発射率を与えることが実質上開示されているので、相違点3に係る第26項に記載の発明の構成は、上記刊行物2の上記各記載に基づいて、当業者が容易に想到しえたことといえる。
そして、第26項に記載の発明の作用効果も、上記刊行物2から予測される範囲内のものである。
したがって、本件特許の第26項の発明は、当業者が上記刊行物2から容易になしえたものである。

8.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の第1項、第17項、第26項の各発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件各発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、本件特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-01-31 
出願番号 特願平9-232379
審決分類 P 1 651・ 121- Z (B60R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 向後 晋一田部 元史  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 大島 祥吾
井口 嘉和
登録日 1999-05-21 
登録番号 特許第2930202号(P2930202)
権利者 ジェンテックス・コーポレーション
発明の名称 自動車用可変反射率ミラー  
代理人 社本 一夫  
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