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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C07D 審判 全部申し立て 2項進歩性 C07D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C07D 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C07D |
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管理番号 | 1089848 |
異議申立番号 | 異議2003-72059 |
総通号数 | 50 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-11-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-11 |
確定日 | 2003-12-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3377092号「ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3377092号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3377092号の発明については、昭和63年6月25日に出願した特願昭63-157063号の一部を平成6年12月19日に新たに出願した特願平6-334940号の一部を2000年5月15日に新たな特許出願としたものであって、平成14年12月6日にその特許権の設定登録がなされ、その後、渡辺由里子より特許異議の申し立てがなされたものである。 2.特許異議の申立てについて ア.本件発明 特許第3377092号の請求項1〜4に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】ビフェニルテトラカルボン酸の結晶を加熱処理することにより得られたビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物であって、該加熱処理を、少なくとも80℃から250℃までの平均昇温速度が50℃/時間より高くならないように行ない、続いて250〜300℃の温度で少なくとも3時間加熱することにより行なって、ビフェニルトリカルボン酸及び/又はその無水物の混在量がビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対して0.15重量%未満となるようにしたことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物。 【請求項2】上記反応生成物中のビフェニルトリカルボン酸及び/又はその無水物の混在量がビフェニルテトラカルボン酸二無水物に対して0.1重量%未満である請求項1に記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物。 【請求項3】上記ビフェニルテトラカルボン酸の加熱無水化が溶媒の不存在下、かつ不活性気体雰囲気下にて行なわれたものである請求項1もしくは2に記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物。 【請求項4】少なくとも80℃から250℃までの該加熱処理を、途中に昇温を中断する工程を交えながら行なう請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載のビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物。 イ.申立の理由の概要 特許異議申立人渡辺由里子(以下、「申立人」という。)は、証拠として甲第1号証(特開昭60-81154号公報)及び甲第2号証(特開昭61-249977号公報)を提出し、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができず(主張1)、また、本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず(主張2)、さらに、本件特許明細書には記載不備があり、(改正前の)特許法第36条第3項に規定する要件を満足していない(主張3)ので、請求項1〜4係る発明の特許は、取り消されるべき旨主張する。 ウ.申立人が提出した甲号証記載の発明 甲第1号証は、芳香族テトラカルボン酸二無水物および芳香族ジアミンの回収方法に関するもので、その実施例1には3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及びジアミノジフェニルエーテル(DADE)の重縮合によって製造された芳香族ポリイミドを「加水分解し、・・・。・・・。析出した沈殿を濾過、水洗して60℃で一夜減圧乾燥し、一部をメチルエステル化した後、元素分析及びガスクローマス分析して、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸(以下BPTAと略記する)であることを確認した。更に、エステル化した後のガスクロ分析では、脱炭酸成分の濃度は0.014%であった。・・・。窒素気流中、240℃で10時間BPTAを加熱脱水して,BPDAとした後の回収率は、・・・。」と記載(第3頁左下欄下から8行〜右下欄第9行)され、実施例2には「実施例1と同様に、・・・回収したBPDA中の脱炭酸成分の濃度は0.018%と充分に低く・・・」と記載(第4頁左上欄第16行〜右上欄第2行)されている。 甲第2号証は、高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製法に関するものであり、その実施例3にはビフェニルテトラカルボン酸を加熱脱水してビフェニルテトラカルボン酸二無水物となし、これを精製処理して高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得た旨の記載があり、得られた高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の「カルボキシル基の残量」は「0」(μeq/g)であったと記載(第2表)されている。 エ.判断 請求項1に係る発明について: (主張1について) 甲第1号証の実施例1に記載の「脱炭酸成分」が0.014%とあるのは、その前の加水分解工程において析出した沈殿を、濾過、乾燥したもの、すなわちBPTA中の「脱炭酸成分」を意味することは明らかであり、したがって、この記載を受けて記載された実施例2中の「回収したBPDA」というのは「回収したBPTA」の誤記であることが明らかである。このことは実施例3についても全く同様であるから、申立人の主張、すなわち実施例2及び3に、それぞれ、脱炭酸成分たるビフェニルトリカルボン酸の濃度が0.011%及び0.018%のBPDAが記載されているという主張及び該誤記を正しい記載と誤解してする主張は、いずれも妥当でない。 また、請求人は、請求項1に記載の「・・・したことを特徴とするビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物」は、化学物質であるビフェニルトリカルボン酸無水物に他ならないから、甲第1及び2号証に記載された発明と同一であるとも主張するが、請求項1に係る発明の「ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物」は、特定の加熱工程を経て得られたもので、その工程に由来するビフェニルトリカルボン酸及び/又はその無水物が0.15重量%未満混在し、そのほかにも該工程を経たことに起因する性状を有するものであり、いわゆる化学物質発明とは異なるものである。 この点については、被請求人も平成14年4月30日付で提出した手続補正書の「審判請求の理由」において、「この生成物は、ビフェニルトリカルボン酸類が混在し、その混在量がビフェニルテトラカルボン酸二無水物の0.15重量%未満である組成物であります。当該組成物中のビフェニルトリカルボン酸類の下限の規定はありませんが、その混在が必須であり」と記載(第4頁)されているものである。 したがって、この点についての請求人の主張も妥当でない。 つぎに、請求項1に係る発明と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、両者は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に関するものである点で一致するものの、前者は、上記のとおり、特定の加熱工程に由来するビフェニルトリカルボン酸及び/又はその無水物が0.15重量%未満混在し、そのほかにも該工程を経たことに起因する、それを直接表現することのできない性状を有するものであって、さらに精製工程を経ることを要件とするものではないのに対して、後者は、粗ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を加熱揮発させ、その蒸気を冷却することにより得られる、未反応カルボキシル基を実質上含まない(カルボキシル基の残存量が0μeq/g)高純度ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であって、互いにその性状を異にするものであるから、両者が同一である、という請求人の主張は妥当でない。 したがって、請求人の主張1は妥当でない。 (主張2について) 請求人の主張は、請求項1における特定の加熱工程が不明瞭であることを前提とするものであるが、次の(主張3について)で述べるように該工程に特許法第36条の規定に違反するほどの不明瞭な点はなく、請求人の主張2は、その前提においてすでに妥当でない。 (主張3について) 請求人は、請求項1における「少なくとも80℃から250℃までの平均昇温速度が50℃/時間より高くならないように行ない」という記載に関連して、「平均昇温速度は、一定時間当たり(本件の場合1時間当たり)何℃(本件の場合50℃)上昇したかを意味し、従って、」(異議申立書第7頁)いろいろな昇温パターンを採りうるものであるから、この点において、請求項1に係る発明は不明瞭であり、当業者が容易に実施することができない、と主張する。 しかしながら、本件特許明細書によれば、上記平均昇温速度としないと、付着水及び結晶水の除去・乾燥が不充分となり、結晶を無水化処理するときに無水化温度を結晶全体にわたって均一に維持することが困難になる(本件特許明細書の段落【0018】)ことから、上記平均昇温速度が、多少のぶれは当然として、極端な昇温パターンを意味するものでないことは明らかであるから、上記昇温速度にすることが当業者にとって容易に実施することができないものとはいえないものである。 したがって、請求人の主張3も妥当でない。 請求項2〜4に係る発明について: 請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに技術的に限定するものであり、請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明をさらに技術的に限定するものであり、請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明をさらに技術的に限定するものであり、記載の不備についても請求項1におけると同一の不備を指摘するものであるから、いずれも上記と同様の理由により、請求人の主張はいずれも妥当でない。 オ.むすび 以上のとおりであるから、本件特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-11-19 |
出願番号 | 特願2000-142420(P2000-142420) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C07D)
P 1 651・ 113- Y (C07D) P 1 651・ 534- Y (C07D) P 1 651・ 531- Y (C07D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 星野 紹英、内藤 伸一、安藤 達也 |
特許庁審判長 |
竹林 則幸 |
特許庁審判官 |
深津 弘 小柳 正之 |
登録日 | 2002-12-06 |
登録番号 | 特許第3377092号(P3377092) |
権利者 | 宇部興産株式会社 |
発明の名称 | ビフェニルテトラカルボン酸加熱無水化生成物 |