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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する E04G
審判 訂正 特29条の2 訂正する E04G
審判 訂正 2項進歩性 訂正する E04G
管理番号 1090651
審判番号 訂正2003-39182  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-08-29 
確定日 2003-11-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3060175号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3060175号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3060175号(平成10年11月6日出願、平成12年4月28日設定登録)の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。
本件訂正審判請求書の「6.請求の理由」の「(3)訂正事項」は、本件設定登録時の明細書と対比して記載すべきところ、そのように記載されていないので、その訂正事項は訂正明細書をもとに以下のとおりと認定する。

訂正事項a:特許明細書の特許請求の範囲を以下のように訂正する。
「【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け、
前記縦横の切溝の形成は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成し、
次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【請求項2】 切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた請求項1に記載の壁面の表層剥離方法。」

訂正事項b:明細書の段落【0004】を以下のように訂正する。
「【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決した本発明の構成は、建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け、前記縦横の切溝の形成は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成し、次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法、及び、
2)切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた前記1)に記載の壁面の表層剥離方法によって達成することができる。」

2.当審の判断
(2-1)訂正の目的、新規事項の有無及び拡張・変更について
上記訂正事項aは、訂正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「壁面」を「鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり」と限定し、同じく「切断機」を「空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機」と限定し、同じく「格子状に切溝を設け」を「表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設け」と限定し、同じく「切溝」を「前記縦横の切溝の形成は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成し」と限定し、さらに請求項2及び4を削除し、訂正前の請求項3を訂正後の請求項2に繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものである。
また、上記訂正事項bは、発明の詳細な説明の欄を特許請求の範囲の訂正事項aに対応させるように訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記各訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2-2)独立特許要件について
(2-2-1)刊行物等
(ア)本件特許の出願前に頒布された特公平4-19350号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
「煙突、ダクト等の構造物に施工されたライニング材の解体工法に関する」(第1欄第15〜16行)
「建造物内面に施こされる耐熱、耐酸性のライニングは、一般に例えば構造物の鋼板1面に一定間隔でスタツド3を取付け、このスタツド3上に縦筋4、横筋5を溶接して取付け、これにラス6を溶接して取付け、これらを補強材として内蔵させるようにセメント系、その他のモルタルを吹付、固化させているのが普通である。」(第3欄第14〜21行)
「ウオータージエツト7を用いて縦横に格子状にライニング材2を溝堀して鋼板1面まで露出させる。」(第3欄第27〜29行)
「カッター8を用いてラス6、横筋5及び縦筋4を切断し、溝で切られた角形のブロック状の残されたライニング材2を各々独立した状態にする。」(第3欄第33〜36行)
「ブロツクの裏溝個所にバール9の先を挿入し、こじることにより壁面1に残るライニングのブロツクを掻き落す。」(第4欄第3〜6行)
そして、第1図には、厚いライニング材2が示されている。
上記記載を含めた明細書全体の記載及び第1〜6図の記載から、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「構造物の鋼板1の表面に別素材でライニング材2を吹付、固化した構造の壁面のライニング材の解体方法において、壁面は、鋼板1の内側表面に耐熱材を厚くライニング材として吹付、固化させた煙突、ダクトの壁面であり、この壁面を、ウオータージエツト7で鋼板1までの深さに、格子状に縦横の溝を設けて壁面を溝によって小さな面積のブロツクに分け、次に各ブロツクのライニング材部分を鋼板1から掻き落して壁面のライニング材全体を解体する壁面のライニング材の解体方法。」

(イ)本件特許の出願前に頒布された特開平6-235512号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
「カッタによって煙突ライニングに溝を形成する」(段落【0009】)
「煙突ライニングの補修装置10はワイヤロープ12を介してゴンドラウインチ14に接続されており、煙突16内を昇降するように吊り下げられている。」(段落【0019】)
「図2に示すように、補修装置10には、ゴンドラ28と、このゴンドラ28の床30上に設けられ作業台32とが備えられている。また、作業台32に設けられたフレーム34には床30に対してほぼ垂直になるようにシャフト36が設けられており、さらにこのシャフト36には6枚の中空円盤38が嵌入されている。後述する図4に示すように、この中空円盤38の周縁部には4つのカッタ40が取り外し自在に取り付けられており、このカッタ40の取付位置と長さを変えることによって形成される溝の深さを調整するようになっている。」(段落【0020】)
「図3、図4に示すように、床30上には煙突16の内周42に沿ってレール44が設けられており(図4ではレール44を図示していない。)、作業台32にはこのレール44の上を転動する2つのガイドローラ46a、46bと、ガイドローラ46aを回転させるためのモータ48とが設けられている。さらに、作業台32を支えて床30上を回転する2つのゴムローラ50a、50bが設けられている。」(段落【0021】)
「一枚の中空円盤38には複数のカッタ40が取り付けられるので、原動機60でシャフト36を回転させる・・・本実施例では円盤の周縁部にカッタを取り付ける構成にしたが、円盤状カッタをシャフトに嵌入させる構成としても良い。」(段落【0026】)
「煙突16の外周鋼板62の内側に形成された下層ライニング64上に形成されている上層ライニング66に、複数の溝68a〜68cが形成されている状態を示す。隣り合う溝の間隔は隣り合う円盤の間隔と等しくなっており、図6では上方3つの円盤によって形成された溝だけを示している。補修装置10を使用することにより複数の環状の溝68a〜68cを無人で形成でき、ゴンドラ28を徐徐に降下させて環状の溝を連続的に形成させることによって溝の幅を広げ、ライニング66を解体することができる。図4のシャフト36に小さな等間隔で螺旋状にカッタ40を配すれば、連続的に解体する事が出来る。このように溝を形成してライニングを解体するので、発生する騒音が低下し、さらに作業効率が良くなる。」(段落【0027】)
「なお、複数の溝の形成を補修装置10で行い、残りの部分のライニングは従来の方法で除去しても良く、この場合は、溝が形成されているので従来より容易にしかも低騒音で残り部分のライニングが除去されることとなる。」(段落【0028】)

(ウ)本件特許の出願前に頒布された特開平8-259142号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。
「11は出入り口の既設部品除去や出入り口面積拡大を行う加工用の圧砕機であり、12は圧砕機を揚重するバランサーであり、所定の重量の吊りあげ能力と、所定のストロークを持ち、揚重用のワイヤー12aを持つ。13は圧砕機11とバランサ12を揚重する電動のウインチであり、揚重用のワイヤー13aを持ち、上部13bはエレベータ塔内1aの最上部3の近辺で、最上階床7の出入り口8の上部14に保持された支持具15に懸垂されている。」(段落【0009】)
「バランサー12は、図2に示すようなスプリング式のものである。本体20は上フック21によりウインチ13のワイヤー13aに懸垂され、合わせて安全確保のため補助ワイヤ23により図示せざる適切な部位に補助懸垂される。本体20の中にはドラム24を有し、下端部に荷重を懸垂する下フック22を保持したワイヤー12aを巻取り収納する。」(段落【0011】)
「圧砕機11を、懸垂用のアイボルト65の部分をウインチ12の下フック22に結合して懸垂する。・・・下方から上方への移動をストローク機能を利用して容易に行うことができる。さらに、上下の他に四方八方に動かし得るようにした状態で作業することができる。」(段落【0016】)

(エ)本件特許の出願前に頒布された特開昭61-90874号公報、特開昭52-57580号公報、特開平9-41326号公報(以下、「刊行物4」〜「刊行物6」という。)には、切断する層の内部に鉄筋があれば一緒に切断することが記載されている。

(オ)本件特許出願前の出願であって、本件特許出願後に公開された特願平9-130499号(特開平10-306914号公報参照)の願書に最初に添附した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、製鉄工場・火力発電所・大型焼却炉等で使用される大型の煙突の内面補修装置に関する発明が記載されている。

(2-2-2)対比・判断
(ア)請求項1について
訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されている発明(以下、「訂正発明1」という。)と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「構造物の鋼板1」、「ライニング材2」、「吹付、固化」、「ライニング材の解体方法」、「鋼板1」、「耐熱材」、「煙突、ダクト」、「ブロツク」、「掻き落し」、及び、「解体」は、それぞれ訂正発明1の「建造物の駆体強度を担う壁強度層」、「表層」、「付着」、「表層剥離方法」、「鉄皮の壁強度層」、「耐火材」、「煙突又は煙道」、「区画」、「引き剥し」、及び、「剥離」に相当するから、両発明は、
「建造物の駆体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、格子状に縦横の溝を設けて壁面を溝によって小さな面積の区画に分け、次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離する壁面の表層剥離方法。」
の点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1:溝を設ける手段に関し、訂正発明1は、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して切溝を設けるのに対し、刊行物1記載の発明は、ウオータージエツトで壁強度層までの深さに溝を形成している点。
相違点2:縦横の切溝の形成に関し、訂正発明1は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成するのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような方法で溝を形成するものではない点。

上記相違点2に関し検討する。
刊行物2には、ライニングの切溝の形成に関し、煙突、ダクト等の構造物内に吊り下げられたゴンドラに設けたレールに沿って移動可能な、周縁部にカッタを有する中空円盤が水平に取付けられた作業台を、レールに沿って動かすことにより、横の切溝を切削して形成することが記載されているものの、横杆についての記載がなく、この横杆に沿って滑って移動可能なバランサーについての記載もなく、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆の2つのワイヤ吊り部の記載もなく、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、2つのワイヤ吊り部の一方から他方に掛け変えて、切断機の回転刃の向きを変え、縦横の切溝を形成することも記載されておらず、上記訂正発明1の上記相違点2に係る構成は記載されていない。
刊行物3には、上部に保持された支持具に懸垂されているバランサーのワイヤの下端の下フックを、圧砕機の懸垂用のアイボルトに掛けて圧砕機をバランサーによって吊り下げ、上下の他に四方八方に動かし得るようにすることが記載されているものの、ゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆についての記載がなく、この横杆に沿ってバランサーを移動可能にする記載もなく、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆の2つのワイヤ吊り部の記載もなく、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、2つのワイヤ吊り部の一方から他方に掛け変えて、切断機の回転刃の向きを変え、縦横の切溝を形成することも記載されておらず、上記訂正発明1の上記相違点2に係る構成は記載されていない。
刊行物4〜6には、切断する層の内部に鉄筋があれば一緒に切断することが記載されているものの、上記訂正発明1の上記相違点2に係る構成は何ら記載されていない。

そして、訂正発明1は、上記相違点2に係る構成により、切断機の使用・操作が容易となるという明細書記載の効果を奏する。

したがって、相違点1の検討をするまでもなく、訂正発明1は、刊行物1ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものではない。

次に、先願明細書には、横杆についての記載がなく、この横杆に沿って滑って移動可能なバランサーについての記載もなく、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆の2つのワイヤ吊り部の記載もなく、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、2つのワイヤ吊り部の一方から他方に掛け変えて、切断機の回転刃の向きを変え、縦横の切溝を形成することも記載されていないから、先願明細書には、訂正発明1と同一の発明が記載されていない。

以上のように、訂正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(イ)請求項2について
訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載されている事項により特定されている発明(以下、「訂正発明2」という。)は、訂正発明1を引用し、さらに限定事項を付したものであるから、上記(ア)に検討したと同様の理由により、刊行物1ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができるものではなく、また、先願明細書に記載された発明と同一でもなく、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項ないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
壁面の表層剥離方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け、
前記縦横の切溝の形成は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成し、
次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法。
【請求項2】 切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた請求項1に記載の壁面の表層剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼炉、大型燃焼炉等の大型の煙突・煙道・燃焼室の壁面、あるいはビル・コンクリート建造物の垂直躯体壁面に付着させた外装の表層等の表層を剥離する技術であって、表層の張り直し・補修作業において有用な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
大型の煙突の壁は、10mm程の厚みの鋼鉄製の鉄皮の壁強度層の内側に鉄筋と75〜100mm正方のます目の格子状の金網とを入れて耐火材を35〜200ミリの厚みに付着して内側表層を形成している。この耐火材の表層は使用すると劣化するため剥離され、新しく表層を構築する補修が定期的・不定期的になされている。従来、この大型の煙突の表層の剥離作業は煙突内に足場を作り、この足場上でブレーカー・ピッカーを用い表層を削孔と振動とによって小さく破砕して剥離し、鉄筋・金網は破断機又は熔断機で切断して除去していた。この従来の表層の剥離方法では、ブレーカー・ピッカーを使用するので煙突内の作業者にとってきわめて高い騒音を受け、又粉塵が多く、しかも振動の為作業者が白ろう病になるといった作業環境がよいものでなかった。又煙突の外周にも高い騒音を与え周辺の人に迷惑がかかるものとなっていた。又ブレーカー,ピッカーは重たいものであるため、これを持って作業する者の労力負担は大きいものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、騒音・振動が大巾に低くなり、粉塵の発生も少なく、作業も容易で労力の負担が軽減できるという壁面の表層剥離方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決した本発明の構成は、建造物の躯体強度を担う壁強度層の表面に別素材で表層を付着した構造の壁面の表層剥離方法において、壁面は、鉄皮の壁強度層の内側表面に耐火材を厚く表層として付着させた煙突又は煙道の壁面であり、この壁面を、空気圧・油圧・電気を駆動源として作動する回転刃である切断機で壁強度層近くまでの深さに、表層の内部に鉄筋、金網があれば一緒に切断して格子状に縦横の切溝を設けて壁面を切溝によって小さな面積の区画に切り分け、前記縦横の切溝の形成は、煙突又は煙道内に吊り下げられたゴンドラ式足場の上方に水平に設けられた横杆に、この横杆に沿って滑って移動可能な吊りフックを介してバランサー機能を有するバランサーを取付け、バランサーのワイヤの下端の連結フックを、回転刃が取付けられた保護ケーシングからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆のワイヤ吊り部に掛けて切断機をバランサーによって吊り下げて行い、前記縦の切り溝は、連結フックをワイヤ吊り杆に設けられた2つのワイヤ吊り部のうちの一方のワイヤ吊り部に掛けて、切断機の回転刃を縦にして、所定間隔毎に形成し、横の切溝は、連結フックをワイヤ吊り杆の他方のワイヤ吊り部に掛け、切断機を水平にし、水平に切削して形成し、次に各区画領域の表層部分を壁強度層から引き剥して壁面の表層全体を剥離することを特徴とする壁面の表層剥離方法、及び、
2)切断機の切断個所に向けて水を噴射させる噴水ノズルと、飛散する水を外周に拡がらないように防止する飛散防止体とを切断機に取付けた前記1)に記載の壁面の表層剥離方法によって達成することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の切断機としては、広く使用されている空気圧で作動する回転刃による切断機を使用するのが、小型で安価で使い易い。この回転刃に向けて噴水し、又水の飛散防止体を取付けることが好ましい。本発明の切断機は、スプリング力でワイヤに吊った物品の重さを略相殺し、上下の吊り下げ位置調整をワイヤ巻取りで行えるスプリングを用いたワイヤ巻取式のバランサーを用いるのが好ましい。これに吊るして所定高さで保持でき、軽い力を上又は下に加えると上下動できるようにすることが切断機を手で支持する必要がないので切断作業の労力を大巾に軽減でき、しかも切断作業を迅速にできるので好ましい。切断機による切溝の深さは、その建造物の壁面の構造で決められ、躯体強度を担う壁強度層の近くまで切断する。表層の内部に鉄筋・金網等があれば一緒に切断機で切断するのが区画された領域の表層ブロックがそのまま外されるので好ましい。切断機による切断される区画領域の面積・切断形状も、壁面・表層によって適切な寸法・形状に決められるが、通常は水平と垂直に切溝を形成して長方形・正方形の格子状のます目にする。ます目の一辺の長さは表層の厚み等によって異なるが10〜40cm程が一般的である。区画領域の表層部分の引き剥し方法は、バールを切溝に挿入して倒し込むことを複数回行うことでこの表層部分(ブロック状)は壁強度層から引き剥される。
【0006】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例は、壁強度層として9mm厚みの鋼鉄製の鉄皮の内側に鉄筋と金網を配置し、これを埋設するように100mm程の厚みで耐火材を吹付して表層を形成した大型煙突の表層剥離方法の例である。切断機としては空気圧で回転刃を高速回転させるエア式切断機を使用し、しかもこれをワイヤ巻取式バランサーで吊り、回転刃付近に噴水ノズルと飛散防止体を取付けた切断機を使用した例である。図1は、実施例の切溝形成工程の説明図である。図2は、実施例の区画領域の表層部分の引き剥し工程の説明図である。図3は、実施例の表層剥離後の状態の壁面の断面図である。図4は、実施例の引き剥された区画領域の表層部分の破砕処理を示す説明図である。図5は、実施例の切断機を示す正面図である。図6は、実施例の切断機を示す側面図である。図7は、実施例の切断機の噴水ノズルと飛散防止体を示す説明図である。図8は、実施例の作業状態を示す説明図である。図中、Cは大型煙突、Wは同大型煙突の壁面、Waは9mm厚みの鋼鉄製鉄皮の壁強度層、Wbは100mm厚みの耐火物の表層、Wcは同表層中の鉄筋、Wdは表層中の一辺が90ミリ正方形の格子状の金網、Weは切溝、Wfは区画領域の表層部分である。又、図中1は切断機、1aは回転刃、1bは同回転刃を回動させるエアモータを内蔵した把手部、1cは回転刃1aを取付けた保護ケーシング、1dは案内車輪、1eは保護ケーシング1cからコ字状に突出させたワイヤ吊り杆、1f,1gはワイヤ吊り部、1hはエアホース、1iは回転刃1aの外周の回転送り方向に向けて水を噴出する噴水ノズル、1jは同噴水ノズル1iへの給水ホース、1kはゴム製の飛散防止体である。図中2は、一定の高さで吊り保持し、軽い力の上向き、下向きの付加によって高さ保持が解除され上下動できるバランサー機能を有するスプリングを用いたワイヤ巻取式バランサー、2aは同バランサーの巻き取られるワイヤ、2bは同ワイヤ下端の連結フック、2cはウインチ2を保持する吊りフック、2dはウインチ2を水平に保持する足場3上方に架設された横杆、3は煙突C内に垂下されたゴンドラ式の昇降できる足場、4は剥離作業用のバールである。この実施例では、煙突C内にゴンドラ式足場3を吊り下げ、又その上方に水平の横杆2dを設ける。この横杆2dに吊りフック2cを介してバランサー機能を有するバランサー2を取付ける。このバランサー2は横杆2dに沿って吊りフック2cが滑って移動可能となっている。このバランサー2のワイヤ2aの下端の連結フック2bを切断機1のコ字状のワイヤ吊り杆1eのワイヤ吊り部1fに掛けて切断機1をバランサー2によって吊り下げ、切断機1の重さを略相殺し、軽い力で上下移動できるようにしている。この状態で切断機1を作動させ、噴水ノズルから水を噴水しながら回転刃1aを回転させる。切断機1の回転刃1aを縦にし、上方から回転刃1aを回転させながら100mm近い深さで表層Wbの耐火材,鉄筋Wc,金網Wdを切断する。噴水ノズル1iから水が切削部分の回転刃1aに吹付けられることで、回転刃の焼損・過熱を防止するとともに切削された切粉を飛散しないように吸水させて泥状にする。又水及び切粉の飛散は反対側のゴム製の飛散防止体1kによって防止されている(図1,7参照)。所定の高さに足場3を位置させ、縦の切溝Weをまず所定間隔毎に形成する。その後、切断機1を水平にし、連結フック2bをワイヤ吊り杆1eのワイヤ吊り部1eに掛け直し、切断機1を水平にしながらバランサー2を横杆2dに沿って水平に滑らせながら水平に切削して水平の切溝Weを形成する。縦横の切溝Weによって表層Wbを一辺が35cm程の長方体に区画する(図1(b)参照)。その後、バール4を切溝Weに挿入し、同バール4を倒し込んで区画領域の表層部分Wfを鉄皮の壁強度層Waから剥す。バール4によって壁強度層Waは容易に剥離できる(図2参照)。この剥離された表層部分Wfは手で持てる重量であり、その取り外し、移動は容易であり、剥離した表層部分Wfは煙突C外に運び出され、破砕されて、耐火材の破片、鉄筋Wc,金網Wdに分離され廃棄処理される(図4参照)。この切溝Weの形成、剥離、取り外しの工程を煙突Cの内部の壁面Wの上方から足場3を下げながら行って、壁面Wの表層Wb全体の剥離を行う。この実施例では、切断機1を使用するので、ブレーカー,ピッカーに比べ騒音・振動は大巾に低いものに抑えられ、又粉塵の発生を少なく、しかも噴出ノズル1iからの噴水と飛散防止体1kの存在によって粉塵の発生は少ない。又、煙突Cの周辺の騒音は、暗騒音程度で問題になることはないものとなった。
【0007】
【発明の効果】
以上の様に、本発明によれば、切断機を用いて格子状に切溝を設け、区画された小さな区画領域の表層部分を引き剥す工程のものであるため、騒音・振動及び粉塵の発生は大巾に低減でき、作業環境を改善し周辺への騒音問題を解消し、又表層剥離を容易に行えるようにした。特にバランサーを用いればその切断機の使用・操作は容易となり、労力の負担を軽減できる。切断機に噴水ノズルによる放水・飛散防止体を取付ければ粉塵の発生が更に少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例の切溝形成工程の説明図である。
【図2】 実施例の区画領域の表層部分の引き剥し工程の説明図である。
【図3】 実施例の表層剥離後の状態の壁面の断面図である。
【図4】 実施例の引き剥された区画領域の表層部分の破砕処理を示す説明図である。
【図5】 実施例の切断機を示す正面図である。
【図6】 実施例の切断機を示す側面図である。
【図7】 実施例の切断機の噴水ノズルと飛散防止体を示す説明図である。
【図8】 実施例の作業状態を示す説明図である。
【符号の説明】
C 大型煙突
W 壁面
Wa 壁強度層
Wb 表層
Wc 鉄筋
Wd 金網
We 切溝
Wf 表層部分
1 切断機
1a 回転刃
1b 把手部
1c 保護ケーシング
1d 案内車輪
1e ワイヤ吊り杆
1f,1g ワイヤ吊り部
1h エアホース
1i 噴水ノズル
1j 給水ホース
1k 飛散防止体
2 バランサー
2a ワイヤ
2b 連結フック
2c 吊りフック
2d 横杆
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2003-11-06 
出願番号 特願平10-331996
審決分類 P 1 41・ 121- Y (E04G)
P 1 41・ 16- Y (E04G)
P 1 41・ 856- Y (E04G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 新井 夕起子
木原 裕
鈴木 憲子
長島 和子
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060175号(P3060175)
発明の名称 壁面の表層剥離方法  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  
代理人 村社 厚夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 北村 博  
代理人 中村 稔  
代理人 井野 砂里  
代理人 今城 俊夫  
代理人 竹内 麻子  
代理人 大塚 文昭  
代理人 辻居 幸一  
代理人 井野 砂里  
代理人 箱田 篤  
代理人 箱田 篤  
代理人 北村 博  
代理人 小川 信夫  
代理人 辻居 幸一  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 西島 孝喜  
代理人 竹内 麻子  
代理人 小川 信夫  

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