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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J |
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管理番号 | 1091153 |
審判番号 | 不服2000-20725 |
総通号数 | 51 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-01-12 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-12-28 |
確定日 | 2004-02-03 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第178913号「無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シート」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 1月12日出願公開、特開平11-5860]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.本願は、平成9年6月19日に特許出願されたものであって、本願の請求項1〜2に係る発明は、平成12年10月12日付け補正書及び平成13年1月29日付け補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載されたとおりのものであって、請求項1には、次のとおり記載されている。 「【請求項1】厚み3mm以上10mm未満、密度0.025g/cm3以上0.06/cm3未満、平均気泡径0.05〜1.2mmの無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シートであり、気泡形状が下記(1)、(2)式を満足することを特徴とする無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シート。 0.65<A/B<1.20 ・・・(1) 0.65<A/C<1.20 ・・・(2) 〔但し、式中A、B、Cのそれぞれは、発泡シートの厚み方向、押出方向(MD方向)、幅方向(TD方向)における気泡径の平均値である。〕」 2.これに対する原査定の、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、とする拒絶の理由は、 「本件明細書の発明の詳細な説明中において、本件請求項1〜2に記載された条件を満足するためには、特定の押出条件と特定の構造のダイスを採用すれば良いと記載されており、該特定の構造のダイスとは、樹脂が二次ブレーカーを通過するときに樹脂の流れを大きく遮らない形状の二次ブレーカーを用いてダイスを構成するとともに、ダイス内部がリップ先端で急圧縮となり、ダイス内部の圧力が80kg/cm2未満となるような構造としたものと記載されている。 しかしながら、当該特定の構造を有するダイスの構造に関し、このような作用的な記載のみでは、当該ダイスの具体的な構造について全く不明である。また、このような特定の押出条件と特定の構造のダイスを採用すること以外に、どのような方法によれば、本件請求項1〜2に係る要件を満足する様な発泡シートを製造することが出来るのかについて、本件明細書中の記載からは全く不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜2に係る発明を実施できることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」というものである。 3.上記拒絶の理由について検討する。 (1)本願の出願当初の明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載事項がある。 「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来からの技術では、上記した密度範囲でこのような厚みのある高発泡のポリプロピレン系樹脂発泡シートを得るのは困難であり、また、たとえ4mm程度の厚みをもつ高発泡のポリプロピレン系樹脂発泡シートを得ることができたとしても、得られたシートは気泡が大きく外観が不良であるばかりか、シート幅方向の厚みムラが激しく、成形には全く適さないものであった。」(段落【0004】) 「しかしながら、このような方法では、環状ダイスから押し出された樹脂が三次元的に発泡してダイス径よりも大きな径を有する円筒状発泡体となり、このダイス径と円筒状発泡体の径との差によって、あたかもギャザースカートの如く円筒状発泡体がダイスで絞られたように、発泡体の押出方向に流れる多数本のシワが円筒状発泡体の周面に発生し(このシワがコルーゲートと称されるものであり、厚みのある高発泡シートを得ようとする場合に顕著となる)、これに起因するシートの厚みムラや気泡の不均一性がシートの幅方向に生じ易いばかりか、ポリプロピレン系樹脂を環状ダイスから円筒状に押出発泡させる際に、押出機の環状ダイスのシャフトを支える二次ブレーカーの柱が樹脂の流路に位置しているため、この二次ブレーカーにより押出機内で樹脂が遮られてその部分の厚みが出にくくなり、発泡シートに厚みムラが生じてしまうというような問題もあり(この厚みムラは、通常、ブレーカーマークと称されている)、これも発泡シートの幅方向における厚みの均一性を阻害する一因となっていた。」(段落【0007】) 「そして、コルゲートやブレーカーマークによるシートの幅方向に不均一な性状を持つ発泡シートを熱成形すると、厚みの薄い部分が特に伸ばされて成形され、厚みムラがより強調されてしまうため、このような発泡シートを成形して得られる成形品は外観や剛性に欠けるものとなっていた。」(段落【0008】) 「また、本出願人は上記のようなブレーカーマークを解決するために、特開平5-338055号にて、二次ブレーカーの下流側のダイス内の一部に絞りを設ける方法を先に提案している。しかしながら、このようなダイス内の絞りはダイス部の圧力の上昇を招き、押出機からの樹脂の吐出量を一定の範囲内に制限しなければならないため、得ようとする発泡シートの厚みを厚くするのが難しく、また、コルゲート対策が不十分となり、気泡を細かくするのも難しくなってしまうというように、改善すべき余地が残されていた。」(段落【0009】) 「本発明者らは、上記従来技術の有していた問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の押出条件と特定の構造のダイスを採用することで、厚みがあるにもかかわらず、気泡の細かい外観良好な高発泡のポリプロピレン系樹脂発泡シートを得ることができ、特にこのようなポリプロピレン系樹脂発泡シートにおいて、その厚み、密度、平均気泡径を特定するとともに、気泡形状をも特定の形状となるようにすることによって発泡シートの緩衝性や剛性等の物性が向上し、成形性にも優れたものとなる等、従来からの高発泡のポリプロピレン系樹脂発泡シートに比べてより優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0010】) 「本発明において、発泡シート1の平均気泡径が0.5mmに満たないと、該シート1にコルゲートが発生してシート1の厚みムラの原因となってしまう。また、平均気泡径が1.2mmを越えると、発泡シート1が緩衝性に劣ったものとなってしまうばかりか、外観上も好ましくない。本発明において、発泡シートの平滑性、緩衝性、外観の面で上記平均気泡径のより好ましい範囲は、0.7〜1.10mmである。」(段落【0021】) 「本発明において、発泡シート1の密度が0.025g/cm3に満たないと、コルゲートが発生し易いため均一な厚みを維持しにくいばかりか、保形性に乏しく曲がり易いため、発泡シート1を成形してなる成形品の保形性(剛性)が十分なものとならない。また、密度が0.085g/cm3を超えると、高発泡のポリプロピレン系樹脂発泡シートに要求される緩衝性が得られなくなってしまい、特に、果実等の軟質物を包装する輸送用パッケージ等の用途に不向きなものとなってしまう。」(段落【0024】) 「本発明発泡シート1は、特定の厚み、密度、平均気泡径を有し、且つ気泡形状が前述した条件を満足する、より球形に近い気泡形状となっているので、成形性に優れたものであるのみならず、高い保形性(剛性)と優れた緩衝性を同時に備えたものであり、果実等の軟質物を包装する輸送用パッケージ等の用途に好適に用いられる。」(段落【0027】) 「上記において、マンドレル7の径は、得ようとする発泡シート1の幅に応じて適宜に選択できる。マンドレル7の長さは、円筒状発泡体6の冷却に充分な長さであれば任意である。押出速度(ラインスピード)は吐出量、発泡シート1の目的厚み等によって異なるが、概ね3〜15m/分が好ましい。円筒状発泡体6の冷却温度は、上記押出速度等によって異なるが、概ね5〜80℃が好ましい。」(段落【0057】) 「本発明の発泡シート1を得るにあたり、その気泡形状を本発明で規定する特定のものとするには、例えば、この円筒状発泡体6の製造の段階で、特定の押出条件と特定の構造のダイスを採用する等すれば良い。」(段落【0058】) 「特定の押出条件とは、例えば、押出機先端に取り付けた環状ダイスをオイル温調で正確に温度コントロールし、樹脂の温度を結晶化が起きない限界温度まで下げ、高い粘度を保持したまま環状ダイスを通過させるというものである。」(段落【0059】) 「また特定の構造のダイスとは、例えば、樹脂が環状ダイスのシャフトを支持する二次ブレーカーを通過するときに樹脂の流れを大きく遮らない形状の二次ブレーカを用いてダイスを構成するとともに、ダイス内部がリップ先端で急圧縮となり、ダイス内部の圧力が80kg/cm2未満となるような構造としたものである。」(段落【0060】) 「以上のような特定条件の下で円筒状発泡体6を製造することによって、気泡が略本発明における特定形状の発泡シートが得られる。」(段落【0061】) 「実施例1〜6 基材樹脂、発泡剤及び気泡調整剤を押出機内で溶融混練した後、押出機の先端に取り付ける2次ブレーカー形状を樹脂の流れを大きく遮らない形状とし、ダイス形状としてダイス内部の樹脂流路がリップ先端で急に狭くなった形状のものを選択してダイス部内の圧力を80kg/cm2以下とし(但し、実施例6のみは2次ブレーカーとして樹脂の流れが柱状の部分で遮られてしまう形状のものを使用した。)、上記溶融混練物を環状リップよりマンドレル上に表1に示す吐出量で押出発泡して円筒状の発泡体を得た。次いで、この円筒状発泡体をそのままマンドレル上を通過させ、これをシート状に切り開いて発泡シートを得た。このとき、ダイス部にはオイル温調機を設けて上記溶融混練物の温度を140〜160℃の範囲内の特定温度に正確にコントロールした。尚、詳細は以下の通りである(実施例1〜6共通)。」 「〔押出機〕 ・タンデム押出機 〔配合及び温度条件〕基材樹脂100重量部に対する発泡剤及び気泡調整剤の配合量を表1に示す。また、押出発泡する際の一次ブレーカー部の温度条件も表1に併せて示した。」(段落【0071】) 「比較例1、2 実施例と同じ基材樹脂、発泡剤及び気泡調整剤を用い、表1に示す基材樹脂100重量部に対する配合及び温度条件にて押出発泡を行なった。押出機においては、実施例6と同様の2次ブレーカーと、ダイス内部の樹脂流路全体が狭い形状の従来のダイスを用い、吐出量を通常通り120kg/hで行なった。尚、比較例1、2ではダイス部のオイル温調は行なわなかった。」(段落【0072】) 「比較例3 実施例と同じ基材樹脂、発泡剤及び気泡調整剤を用い、表1に示す基材樹脂100重量部に対する配合及び温度条件にて押出発泡を行なった。押出機においては、実施例6と同様の2次ブレーカーを用い、ダイスの一部にしぼりを取り付けた。そして、吐出量を70kg/hとして、押出発泡して得られた円筒状発泡体を切り開いて発泡シートを得た。尚、比較例3ではダイス部のオイル温調を行った。」(段落【0073】) 「比較例4 平均気泡径1.2mm以下、厚み4.0mm以上の発泡シートを得ようとして、ダイスのリップクリアランス及び押し出された円柱状発泡体の引取速度を調整した以外は、比較例1、2と同様の操作を行った。その結果、コルゲートが激しく発泡シートを得ることができなかった。」(段落【0074】) (2)判断 上記摘記した段落【0004】、【0007】〜【0010】の記載を考慮すると、厚み3mm以上10mm未満、密度0.025g/cm3以上0.06/cm3未満、平均気泡系0.05〜1.2mmであり、気泡形状が 0.65<A/B<1.20、0.65<A/C<1.20 (A,B,Cは上記参照)を満足する無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シートまたは発泡シートの幅方向(TD方向)に沿って厚みを測定したときに、幅方向(TD方向)にわたって一方の片側端部から他方の片側端部へ100mmの間隔で区画されるそれぞれの範囲内での最大厚み(Tm )と最小厚み(Tl )との比(Tl /Tm )が0.75以上である無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シートを得るためには、 (i)特定の押出条件を採用すること、 (ii)特定の構造のダイスを採用すること、 (iii)押出機先端に取り付けた環状ダイスをオイル温調で正確に温度コントロールすること、 が必要と認められる。 しかしながら、発明の詳細な説明中には、前記事項に関する(i)特定の押出条件、(ii)特定の構造のダイス、(iii)オイル温調の正確な温度については何ら記載されていない。 また、段落【0061】によれば、特定の構造のダイスとは、例えば、樹脂が環状ダイスのシャフトを支持する二次ブレーカーを通過するときに樹脂の流れを大きく遮らない形状の二次ブレーカを用いてダイスを構成するとともに、ダイス内部がリップ先端で急圧縮となり、ダイス内部の圧力が80kg/cm2未満となるような構造としたものである、との記載はされているが、具体的に「樹脂が環状ダイスのシャフトを支持する二次ブレーカーを通過するときに樹脂の流れを大きく遮らない形状の二次ブレーカ」がどのような構造のものであるかも何ら記載がないし、「ダイス内部がリップ先端で急圧縮となり」とはどういう状態のものであるのかも具体的に示されていない。さらに、「ダイス内部の圧力が80kg/cm2未満となるような」とは、どの程度を示すのか具体的な例が何ら示されていない。実施例1〜6において、「ダイス部内の圧力を80kg/cm2以下とし(但し、実施例6のみは2次ブレーカーとして樹脂の流れが柱状の部分で遮られてしまう形状のものを使用した。)」と記載されているのみであるから、この記載をもって具体的な数値が示されているとすることはできない。(80kg/cm2以下とは、0kg/cm2のものまでを示すことを考慮すると、単に80kg/cm2以下とし、との記載では実施例としての特定の数値が具体的に示されているとはいえない。) また、段落【0072】において、「比較例1、2ではダイス部のオイル温調は行なわなかった」と記載され、比較例において、ダイス部のオイル温調が正確に行われないと、本件発明のものが得られないことが示されており、前記したとおり、押出機先端に取り付けた環状ダイスをオイル温調で正確に温度コントロールすることが必要と認められるが、段落【0072】の記載によれば、「ダイス部にはオイル温調機を設けて上記溶融混練物の温度を140〜160℃の範囲内の特定温度に正確にコントロールした」と記載されているのみで、正確にコントロールした数値(特定温度)に関しての具体例は何ら記載がない。 さらに、段落【0074】の記載によれば、ダイスのリップクリアランス及び押し出された円柱状発泡体の引取速度を調整した以外は、比較例1、2と同様の操作を行ったが、コルゲートが激しく発泡シートを得ることができなかったと記載され、「ダイスのリップクリアランス及び押し出された円柱状発泡体の引取速度の調整」が重要な要素であるといえるが、それらについて、本願発明の発泡シートを得るための具体的な数値について何ら記載がされていない。 そうすると、本願明細書には、本願発明である「厚み3mm以上10mm未満、密度0.025g/cm3以上0.06/cm3未満、平均気泡系0.05〜1.2mmの無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シートであり、気泡形状が下記(1)、(2)式を満足することを特徴とする無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シート。 0.65<A/B<1.20 ・・・(1) 0.65<A/C<1.20 ・・・(2) 〔但し、式中A、B、Cのそれぞれは、発泡シートの厚み方向、押出方向(MD方向)、幅方向(TD方向)における気泡系の平均値である。〕」を得るための記載が、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている、ということはできない。 なお、審判請求人は、当審の本件審判事件に対する審尋の回答書において、 「(b)実施例1において、 (イ)『特定の押出条件』とは、下記(ロ)の構成によるダイス内部の圧力が50kg/cm2となり、樹脂が流動する際の剪断発熱を抑制する条件であり、 (ロ)『特定構造のダイス』とは、開口面積70cm2の多孔型の2次ブレーカーを用い、リップ角度が40度の急圧縮構造であると共にダイス内の樹脂流路間隔が8mmのダイスであり、 (ハ)『オイル温調の正確な温度」とは、155℃である。」旨述べると共に、 (イ)については段落【0060】の記載に基づくものであり、 (ロ)については段落【0060】の記載に基づくものであると記載し、かかる記載と平成13年4月11日提出の甲第2号証の記載等の技術常識に基づく試行錯誤により、当業者であれば容易に実施できることである、旨述べている。また、 (ハ)については段落【0059】の記載に基づくものである、旨述べている。 しかしながら、本件明細書には、前記「『特定の押出条件』が(ロ)の構成によるダイス内部の圧力が50kg/cm2となり、樹脂が流動する際の剪断発熱を抑制する条件である」こと、「『特定構造のダイス』が、開口面積70cm2の多孔型の2次ブレーカーを用い、リップ角度が40度の急圧縮構造であると共にダイス内の樹脂流路間隔が8mmのダイス」であること、「『オイル温調の正確な温度』が、155℃である」ことについては、これらの具体的な数値の記載は一切されているものではないし、これらの数値が本願明細書の記載から導きだせるとうい具体的な根拠もない。さらに、これらの数値を採ることが、本願請求項1の発明において周知の技術というものでもない。そうすると、前記回答書における前記説明が本願明細書の記載に基づいてなされていると言うことはできない。 したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-04-18 |
結審通知日 | 2002-04-23 |
審決日 | 2002-05-09 |
出願番号 | 特願平9-178913 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C08J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小野寺 務 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 村上 騎見高 |
発明の名称 | 無架橋ポリプロピレン系樹脂発泡シート |
代理人 | 細井 勇 |