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審決分類 |
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) E02D |
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管理番号 | 1091365 |
審判番号 | 無効2000-35232 |
総通号数 | 51 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1985-06-19 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-04-28 |
確定日 | 2004-02-24 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2985172号発明「ホイ-ルクレ-ン杭打機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2985172号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 経緯 昭和58年11月24日 出願 平成11年10月 1日 設定登録(特許第2985172号) 平成12年 4月28日 本件無効審判請求 (請求人:株式会社石走商会外7名) 平成12年 8月10日 答弁 平成12年11月 8日 弁駁 平成13年 2月26日 第2答弁 平成13年 3月23日 請求人に対する審尋 平成13年 4月10日 第3答弁 平成13年 4月27日 株式会社大枝建機工業より参加申請 平成13年 5月22日 審尋に対する回答 平成13年 8月20日 株式会社石走商会外7名が請求取り下げ 平成13年 8月28日 株式会社西牟田重機より参加申請 平成13年 9月21日 株式会社大枝建機工業の参加を認める決定 平成14年 2月28日 株式会社大枝建機工業が参加を取り下げ 平成14年 3月 5日 株式会社西牟田重機の参加を認める決定 平成14年 4月15日 参加人より上申書 第2 本件発明 本件特許に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「1.車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、 前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、 前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、 前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けた ことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」 以下、特許請求の範囲に記載された発明を本件発明という。 第3 無効審判請求人及び被請求人の主張の概要 1.無効審判請求人の主張 無効審判請求人等、参加人(以下、単に請求人という)は、特許第2985172号の登録を無効とする旨の審決を求め、請求書、弁駁書及び平成13年5月23日付けの回答書において次のように無効理由を主張する。 (1)無効理由1:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、無効となるべきである。 (2)無効理由2:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、無効となるべきである。 (3)無効理由3:本件発明は、その出願前に日本国内において公然と実施された発明である(甲第10号証ないし甲第13号証、甲第20号証、甲第25号証、甲第26号証参照)から特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、無効となるべきである。 (4)無効理由4:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証及び甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから特許法第29条第2項の規定に該当し、無効となるべきである。 (5)無効理由5:本件発明は、本件特許出願日前の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された特願昭58-1524号(特開昭59-126822号)(甲第15号証参照)の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明と同一であって、その発明者または出願人が本件特許の発明者または出願人と同一でないから、特許法第29条の2の規定に該当し、無効となるべきである。 そして、上記無効理由の証拠及びその理由を補強する証拠として以下の証拠を提出し、必要なら証人として大枝守を申請する。 ・甲第4号証:特開昭55-142826号公報 ・甲第5号証:実公昭57-26927号公報 ・甲第6号証:実公昭57-28927号公報 ・甲第7号証の1:佐野喜一郎の宣誓書 ・甲第7号証の2:佐野喜一郎の印鑑登録証明書 ・甲第8号証:株式会社加藤製作所大阪支店技術サービス課三谷寛司による同社製トラッククレーンの説明書 ・甲第9号証:特公昭45-18550号公報 ・甲第10号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号判決書 ・甲第11号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(営業案内 無振動・無騒音圧入工法 ラフタークレーン搭載型〈杭打機〉パンフレット) ・甲第12号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(調査委託の申立書及びその回答書) ・ 甲第13号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(ホイールクレーンTR-151型の車検証) ・甲第14号証:「愛知車両20年史」昭和57年12月頃株式会社愛知車両発行 ・甲第15号証:特開昭59-126822号公報 ・甲第16号証:証人(大枝 守)尋問申請書 ・甲第17号証:株式会社大枝建機工業の登記簿謄本 ・甲第18号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200B型の整備要領書 ・甲第19号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200Hv型の実験報告書 ・甲第20号証:田中浩による技術説明書 ・甲第21号証:実公昭45-18857号公報 ・甲第22号証:異議2000-72254号の異議決定書 ・甲第23号証:平成6年審判第17426号、平成7年審判第12480号の平成12年8月21日付け審決書 ・甲第24号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200Hv型の技術資料 ・甲第25号証:株式会社タダノ製TR-151型ラフタークレーンのパンフレット ・甲第26号証:株式会社タダノ製TR-151型ラフタークレーンの修理要領書 ・甲第27号証:横山重吉、六角康久著「流体機械」昭和56年3月30日株式会社コロナ社発行 ・甲第28号証:大阪高等裁判所平成9年(ネ)第1610号判決書 ・甲第29号証:大阪地方裁判所平成12年(ワ)第290号判決書 ・甲第30号証:「営業案内 無振動・無騒音圧入工法 ラフタークレーン搭載型〈杭打機〉」発行日、発行者不詳 ・甲第31号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号での嘱託申立書及び回答書 ・甲第32号証:寺田組の移動式クレーン検査証写し ・甲第33号証:大阪高等裁判所平成9年(ネ)第3586号での証人、澤博照の証人尋問調書 ・甲第34号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第132号での証人、稲岡芳彦の当事者尋問調書 ・甲第35号証:株式会社タダノ発行のTR-150、TR-151の納入実績表 ・甲第36号証:大阪地方裁判所平成11年(ワ)第13840号判決書 2.無効審判被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない旨の審決を求め、審判事件答弁書、審判事件答弁書(第2回)、審判事件答弁書(第3回)において、請求人の主張する無効理由は何れも理由がなく、本件特許は無効されるものではないと主張し、以下の証拠を提出し、証人として中村耕三を申請する。 ・乙第1号証:東京高等裁判所平成9年(行ケ)第286号判決書(平成11年2月17日言い渡し) ・乙第2号証:東京高等裁判所平成9年(行ケ)第222号判決書(平成11年2月16日言い渡し) ・乙第3号証:社団法人日本建設機械化協会編「建設機械用 油圧機器ハンドブック」昭和50年8月20日株式会社技術堂発行 ・乙第4号証:労働省労働基準局安全衛生部安全課編「改正2版 クレーン等各構造規格の解説」社団法人日本クレーン協会平成7年6月25日発行 ・乙第5号証の1〜3:中山信弘編著「注解 特許法 第3版 上巻」平成12年8月25日株式会社青林書店発行、第841頁ないし第862頁 ・乙第6号証の1〜3:土質工学会編「掘削用機械・特殊な掘削」昭和54年3月15日社団法人土質工学会発行、第59頁ないし第65頁 ・乙第7号証の1〜3:油圧技術便覧編集委員会編「改訂新版 油圧技術便覧」昭和51年1月3日日刊工業新聞社発行、第388頁ないし399頁 ・乙第8号証:「戸田技報」昭和56年6月発行67、68頁 ・乙第9号証:「土木技術ニュースNo.701」’82.2.1鹿島建設土木関係技術開発対策統合委員会編 ・乙第10号証の1〜9:株式会社タダノのTR150、及びTR-151の納入履歴 ・乙第11号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号における平成9年5月21日付け橋本政興の「本人調書」 ・乙第12号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第132号における平成9年2月26日付の稲岡芳彦の「本人調書」 第4 無効理由の検討 まず、請求人主張の無効理由3について検討する。 1.本件発明の特許請求の範囲に関する解釈 本件発明の特許請求の範囲に記載された「前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け」における「被圧入物」及び「ホイールクレーン車の重量を用いて」が何を意味するかについては、文言からは一義的に明らかではないから、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌して検討する。 (1)「ホイールクレーン車の重量を用いて」について (ア)本件特許の明細書の「発明の詳細な説明」には、次の記載が認められる。 (i)[従来技術]の欄 最近市街地での土木工事に対して環境条件が厳しくなり、・・このため・・いわゆる無振動、無騒音工法と称せられる基礎工、土止め工が出現してきた。これらの工法の・・中でオーガー工法といわれる工法がある。 オーガー工法・・のなかで連続オーガー工法はとくに知られている。連続オーガー機を一般にアースオーガーと称し、・・駆動装置、・・リーダー、・・クローラクレーン、スクリュー及びヘッドなどから構成される。 ・・掘削のための押し込む力は、・・回転力の分力で食い込ませていくのと、スクリューの頂部に設けた駆動装置,ウエイト等の自重により行っている。・・ また、・・クレーン機のウインチを使い、既に埋設された被圧入物にワイヤーを引っ掛けて、このワイヤーをクレーン機のウインチで巻き上げその反力で圧入するものもある。(特開昭55-142827号公報) (ii)[発明が解決しようとする問題点]の欄 ・・連続オーガー機は、・・硬い岩盤の場合はスクリューを押し込む力が不足し掘削が困難であった。アースオーガー駆動装置にウエイトを載せて押し込み力を倍加する方法もあるが、構造上の制約もあり充分な押し込み力を発揮できなかった。 また、ワイヤーの力で押し込む方法は・・、埋設物を反力に利用するので圧入力に限界があった。したがって、従来のオーガー工法は硬い岩盤には適用できなかった。本発明は、硬い岩盤でも圧入できる新規な工法に使用するホイールクレーン杭打機を提供することにある。 (iii)[実施例]の欄(特許公報4欄44行〜5欄6行) 牽引シリンダー装置7は、伸縮ブーム5を引っ張り第4図矢印方向に力を作用させると挿入部6の上端には垂直分力f1が作用し強制的にアースオーガー装置12に押圧力を加える。この垂直分力f1は、牽引シリンダー装置7の引っ張り力をfとすれば、伸縮ブーム5とピストンロッド9となす角度及び挿入部6とケーシング15となす角度で変化するが牽引シリンダー装置7の引っ張り力でf1の垂直分力を生じる。 更に、アースオーガー装置12の自重と、伸縮ブーム5の自重が垂直分力となり上記ケーシング15のを押圧する力となって掘削力を倍加する。この垂直分力f1は、理論的には最大でホイルクレーン車1の重量がすべて垂直分力f1になって垂直方向の掘削力になる。 (iv)[発明の効果]欄(同6欄7〜9行) また起伏シリンダー(牽引シリンダー装置)により杭等に押圧作用を静的に加え得るので硬質地盤でも容易に施工ができる。 (イ)以上のような明細書の記載に照らせば、本件発明は、リーダーやウインチを利用してスパイラルスクリューを圧入しようとする従来技術では、スパイラルスクリューの自重やウインチに連結された埋設物の反力を圧入に利用しているため、硬い地盤にスパイラルスクリューを圧入するために必要な押圧力を十分に得ることができないという問題点があったので、このような問題点を解決するために、牽引装置を具備したホイールクレーン車の伸縮ブームの他端にアースオーガー装置、スパイラルスクリューを設け、牽引装置が伸縮ブームを牽引して、ブーム上端に牽引力の垂直分力を及ぼすことにより、硬い地盤にスパイラルスクリューを圧入するために必要な押圧力を得るようにしたものと認められる。そして、この場合、伸縮ブームと牽引装置はクレーン本体に設けられているため、押圧力は、上記従来技術と比較して、ホイールクレーン車の重力という大きな力を利用することができると認められる。 そうすると、本件発明の「ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」とは、「ホイールクレーン車の重量を利用して得られる垂直分力によってアースオーガ装置を強制的に押圧する」という意味と理解するのが相当である。 (2)「被圧入物」について 本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌すると、 (i)従来技術について、「既に埋設された被圧入物にワイヤーを引っ掛けて、このワイヤーをクレーン機のウインチで巻き上げその反力で圧入する」との記載(同3欄27行)、 (ii)発明が解決しようとする問題点について、前記(1)(ア)に記載されており、このうち(ii)において「圧入」されるのが、スパイラルスクリューであることは明らかである。また、「杭打ちの為の掘進にはスパイラルスクリュー19をアースオーガー装置12の下端にセットして孔を掘削した後杭を上から圧入する。」(同5欄19〜21行)と記載されていることが認められ、本件発明のホイールクレーン杭打機としては、スパイラルスクリューで孔を掘削した後、杭を上から圧入するものも予定されているというべきである。 したがって、「被圧入物」には、スパイラルスクリューのみを圧入するものも含まれると解すべきである。 2.TR-151のブーム起伏用油圧シリンダ装置について (1)甲第25号証は株式会社多田野鉄工所の「ROUGH-TERRAIN CRANE TR-151」(ラフタクレーンTR-151)(以下、単にTR-151という。)のパンフレットであって、裏表紙の下部に「192-300-01400-S-55-09」と記載されており、「S-55-09」は昭和55年9月を意味し、同年月に発行されたと考えられる。 甲第25号証のパンフレット第4葉には、TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け、地盤に孔明け作業をしている写真が記載されており、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められない。そして、同パンフレット全体の記載及び写真から、TR-151は、自走式のクレーンで、物を吊り上げ、吊り下げる作業ができるとともに、杭打ち、スパイラルスクリューによる孔明け(スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を当然に備えている)にも適用できるものであって、スパイラルスクリューとスパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガ装置を備えた場合には、以下の構造をしていると認められる。 「車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、 前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、 前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に油圧シリンダ装置の一端を枢着して設け、 前記装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けた ことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」 ここで、上記油圧シリンダ装置は、クレーンのブームを起伏させる機能を有するものであるが、TR-151の主要諸元を記載した表(第7葉)において、「起伏装置 複動油圧シリンダ直押式2本」と記載されており、ここで、「複動油圧シリンダ」とは、ピストンの両側に交互に圧力油を供給して、両方向に推進力を与える油圧シリンダを意味するものとして当業者において周知の事項(例えば甲第27号証参照)であり、また、その場合にピストンに供給される油圧は特に圧力を異ならせる必要がある場合以外には同じ圧力が供給されるのであって、TR-151においてそのような特別な事情があるとも考えられない(甲第26号証2頁のFIG.1の油圧回路や同号証に添付された油圧回路Fig.1においても起伏シリンダの上側と下側に供給される油圧が異なっているとは考えられない。カウンタバランス弁やアンロード弁の作用については後述する。)から、当業者であれば、TR-151のブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであると理解できる。 そして、TR-151のブームを起伏させる複動油圧シリンダが上記したようなものであれば、油圧シリンダ装置のピストンの一方に圧力を作用させればブームは起立し、ピストンの他方に圧力を作用させればブームは倒伏することになるのであって、杭打ち作業時にブームを倒伏するようにピストンに圧力を作用させることは、ブームを牽引することにほかならない。即ち、TR-151のブームを起伏させる複動油圧シリンダは、ブームを牽引する牽引装置ということができる。 また、ブームを牽引してアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物であるスパイラルスクリューを地盤に圧入するためには、その圧入による反力をホイールクレーン車の重量にて受け止めることは当然のことであって、この反力の作用を押圧する観点から表現すれば、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧することになる。 一方、本件発明において、「ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」とは、上記1(1)に記載したように「ホイールクレーン車の重量を利用して得られる垂直分力によってアースオーガ装置を強制的に押圧する」を意味すると解されることから、本件発明とTR-151とは、ブームを倒伏させる油圧シリンダの機能において異なるところはない。 そうすると、本件発明の杭打機と、TR-151搭載型杭打機とは、構成において同じということができる。 (2)被請求人の主張について 被請求人は、 「(TR-151に用いられている)カウンターバラスバルブの設定圧は、160±5Kg/cm2である(甲第26号証の24頁)。この圧力が本機種でいうと最大で約15トンの重量をブームを吊り上げる力となる。これに対して、起伏シリンダー用のアンロードバルブの設定圧は、7Kg/cm2である(甲第26号証の第23頁)。物を吊り上げる場合の定圧の約23分の1の設定圧である。仮に、ブーム先端で加圧したとしても本機種では、ピストンロッドの断面積だけ加圧力が減少するので、単純に計算しても最大で15トンの23分の1より更に少ない程度しか加圧できない。即ち、機械工学的には、加圧を想定した設計ではなく、実質的には加圧できない構造のものである。従って、請求人が主張するTR-151のホイールクレーン車は、本件特許発明の工法には原理的に使用できない。」(答弁書(第2回)9頁2行〜12行)、 「前記したように従来のホイールクレーン車の構造、機能ではブームの先端で意図的、かつ積極的にアースオーガーの先端を押圧することはできない。自己(注:特許権者)が所有するホイールクレーン車のメーカーである株式会社タダノに依頼して起伏用の油圧回路を改造したものである。当時としてはこの油圧回路は同社の標準品にはないので、同社の指定サービス工場で改造したものである。この改造によりブームも当然ながら強度的に耐えられないので肉厚を厚くするなどの改造を行った。」(答弁書(第2回)10頁7行〜14行)、 「TR-151型ラフタークレーンは(甲第11号証、及び甲第26号証)、重量物を吊り上げるものである。従って、甲第11号証(頒布性については、立証されていない。)に記載されている写真は、単にラフタークレーンを用いて、アースオーガを吊り下げて移動させるためのものとして使用している写真にすぎず、この写真から直ちに判決でいうように本件発明に係る杭打機が公然と実施されていたことにはならない。 このラフタークレーンの起伏装置というものは、吊り上げ専用であったという歴史的事実に照らして、牽引力の大きさについての定性的若しくは定量的に明りょうかつ正確な説明が付されていない限り、吊り上げ専用のものと解するのが当然至極である。」(答弁書(第3回)4頁27行〜5頁8行)、 「ホイールクレーンTR-151型の機種を仮に杭打機に使用したとしても・・自重以外に杭を押圧する機能はない。この点について、更に当時、株式会社多田野鉄工所の大阪支店でラフタークレーンTR151を販売し、この分野の専門家である中村耕三氏を証人として申請する。」(答弁書(第3回)11頁4行〜9行)、 とし、TR-151には、吊り上げる機能を有するが、牽引する機能を有せず、特許権者において改良することにより牽引する機能を有するようになった旨主張する。 しかしながら、上記したように、TR-151のブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであり、TR-151を用いて杭打ち作業を行った場合には、ブームの倒伏時には牽引する機能を有すると考えられる。 被請求人は、TR-151の修理要領書である甲第26号証の記載をもとに、起伏シリンダー用のアンロードバルブの設定圧は7Kg/cm2であるので、ブームを倒伏させる場合に作用する油圧は起伏時(吊り上げ時)の23分の1より更に少ない圧力である旨主張するが、アンロードバルブは、甲第26号証2頁の記載によれば、「当バルブは、ポートがベント用のシャットオフバルブに連結され、AMLの100%検出時、フックの過巻時、伸縮の誤操作時にのみシャットオフソレノイドバルブが開き、それと同時にアンロードバルブ内のチェック弁を保持していた圧力が抜けます。従ってクレーン作動圧油はタンクに連通され、クレーン作業が停止します。」と説明されており、AMLの100%検出時等の異常事態が発生した場合にアンロードバルブが作動して圧力を抜いたアンロードの状態、つまり起伏シリンダに圧油が作用しない状態になるというものであって、アンロードバルブの作用により起伏シリンダに7Kg/cm2の圧油が作用する旨の記載はなく、むしろAMLの100%検出時等の異常事態が発生しない限り、起伏シリンダには起立時にも倒伏時にも甲第25号証第7葉に「油圧ポンプ型式 3連ギアタイプ、圧力 160Kg/cm2」と記載されているように約160Kg/cm2の圧油が作用すると考えるのが自然である。 また、被請求人は、TR-151は、牽引する機能を有せず、特許権者において油圧回路等を改良することにより牽引する機能を有するようになった旨主張するが、改良した事実を証する証拠は提出されていないから、当該主張は採用できない(なお、当該主張は、甲第28号証によれば、大阪高等裁判所における平成9年(ネ)第1610号事件の審理においても特許権者である控訴人が供述していたが、当該事件の判決において、当該供述を裏付ける他の証拠がないことをもって、当該供述を直ちに採用できない旨判示されている。)。 さらに、被請求人は、TR-151は、杭打機に使用したとしても自重以外に杭を押圧する機能を有しないことを証人中村耕三の証言で立証する旨主張するが、仮に当該証人により上記の事項が供述されたとしても、その供述を裏付ける他の証拠は本件審判において何ら提出されておらず、当該供述を直ちに採用することはできないと考えられることから、証人尋問の必要はない。 3.TR-151の公然実施について (1)乙第10号証の5ないし同9によれば、株式会社タダノ(旧社名 株式会社多田野鉄工所)は、TR-151を、本件特許出願前の1974年(昭和49年)9月以降本件特許出願時までに100台以上の納入履歴が認められる。(なお、朔鷹へも1978年(昭和53年)3月30日に1台、1979年7月5日に1台、1979年11月16日に1台納入していることが認められる。) (2)甲第25号証第4葉には、TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け、地盤に孔明け作業をしている写真が記載されており、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められない。したがって、甲第25号証発行時の昭和55年9月において、TR-151にアースオーガー装置を用いた杭打機を搭載して用いることは、当然に予定されていたといえる。 (3)TR-151は、上記2で検討したように、ブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであり、TR-151を用いて杭打ち作業を行った場合には、ブームの倒伏時には牽引する機能を有すると考えられることから、TR-151を購入した使用者が、例えばアースオーガー装置を有する杭打機を搭載して地盤に孔明け作業を行うに当たり、ブームを倒伏させる作業を行えば、当該起伏シリンダがブームを牽引する機能を有すると容易に認識できたはずである。 (4)さらに、アースオーガー装置を有する杭打ち機を搭載したTR-151(TR-151搭載型杭打機)の使用状況については、 (ア)甲第11号証(甲第30号証と同じ)のパンフレットは発行者、発行日が不明であるが、4頁にはTR-151を用いてアースオーガースクリューを用いて孔明けを行う図が記載され、5頁にはTR-151を用いてオーガースクリューによる孔明けを奈良県吉野町東川上村小学校新築工事で行った写真が記載され、裏表紙には、施工実績として「工事名称 奈良県東吉野小学校新築工事、工事内容 PC400φ×13.0〜20.0×190本、施工工法 岩盤掘削セメントミルク」と記載されている。 そして、上記パンフレットの記載及び同パンフレットの全体図及び写真には、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められないことからすると、上記TR-151搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引しTR-151の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧するものであると認められる。 (イ)甲第12号証(甲第31号証と同じ)の神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号における調査委託において、奈良県吉野郡川上村村長大谷一二は、平成7年9月26日付け回答書において、川上村立東小学校新築工事の杭工事期間は昭和56年12月〜昭和57年2月であり、工法は岩盤掘削用特殊刃使用オーガセメントミルク工法であった旨回答している。 (ウ)上記(ア)及び(イ)から、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事の杭工事期間は本件特許出願前の昭和56年12月〜昭和57年2月であり、その時にTR-151搭載型杭打機を用いた杭工事が行われたことが認められる。 そして、当該工事は、甲第11号証のパンフレットに掲載されている工事現場写真によれば、同工事に使用されたTR-151搭載型杭打機は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で使用されていたものと認められる。 また、施工時期は不明であるものの、上記パンフレットには、TR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真が複数掲載されているところ、そのどの写真においても、TR-151搭載型杭打機を不特定人から見えないようにするための特別な措置をとっている工事現場が認められず、甲第25号証第4葉におけるTR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真においても、TR-151搭載型杭打機を不特定人から見えないようにするための特別な措置をとっていないことからすれば、TR-151搭載型杭打機を使用した工事においては、TR-151搭載型杭打機は不特定人が知り得る状況の下で使用されたと推認される。そして、そのような状況で使用されたにもかかわらず、現実には不特定人に知られなかったことをうかがわせるに足る証拠はない。 (エ)したがって、TR-151搭載型杭打機を使用した工事においては、TR-151搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引しTR-151の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧するものであって、その工事は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で公然と行われていたということができる。 (5)被請求人の主張について 被請求人は、 「甲第11号証は、あたかも寺田組が発行したかの主張であるが、その末頁には、「第一運輸作業株式会社」と記されており、しかもゴム印らしきもが押されており少なくとも寺田組が発行した表記はない。更に、甲第11号証は、いつどこでだれが作成したか作成名義人も不明であり、かつ立証もない。従って、甲第11号証の文書の成立も怪しく、成立を争う。」(答弁書13頁25行〜14頁1行)、 「甲第12号証の調査嘱託事項で回答された・・平成7年9月26日付で川上村長大谷一二氏から出された回答には、「工法岩盤掘削用特殊刃使用オーガセメントミルク注入工法」と書かれているのみである。即ち、本件特許発明を伺わせるものはなく、むしろ「岩盤掘削用特殊刃」を使用し、かつ「オーガセメントミルク注入工法」と具体的に基礎工法が特定されている。 本件特許発明は、特殊な「岩盤掘削用特殊刃」を使用するものではなく、一般に使用されているオーガー工法であると推定され、かつ「セメントミルク注入工法」でもない。このオーガー工法といっても無数の工法が知られており(乙第6号証の1の第61頁参照)、どのような工法かも特定できない。更に、重要なのは、この工事を施工した業者は、元請が「(株)堀内工務店」であり、下請は「三和コンクリート工業(株)」である。」(答弁書(第2回)4頁15行〜26行) と主張する。 確かに甲第11号証(甲第30号証と同じ)のパンフレットは発行者、発行日が不明であるが、「寺田組」と書かれたTR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真が複数掲載されており、5頁に記載された写真の奈良県吉野町東川上村小学校新築工事は、甲第12号証(甲第31号証と同じ)の調査嘱託回答によれば、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事であって、また、裏表紙の「施工実績」欄に記載された「神戸電鉄藍那4供橋改修工事」は、甲第12号証の調査嘱託回答によれば、「神戸電鉄 藍那第4供橋改築工事」であって、基礎杭工事は昭和56年1月〜同年3月であって、工法は「ラフタークレーンによるアースオーガー工法」、下請関係「株式会社 寺田組」となっており、当該パンフレットの記載と整合する。 したがって、甲第11号証のパンフレットに記載された事項はほぼ正確と認められ、少なくとも奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事における杭工事においてTR-151搭載型杭打機が用いられたことが十分に認められ、発行者、発行日が不明であることのみをもって、記載された写真の内容や、記載事項すべてが信頼できないとすることはできない。また、同工事において、「工法 岩盤掘削用特殊刃使用 オーガセメントミルク注入工法」と書かれていることは、岩盤掘削用特殊刃を使用したオーガースクリューを用いた孔明けが行われ、その時にセメントミルクが注入されたことをいうのであって、岩盤掘削用特殊刃を使用したことは、地盤が岩盤のように固いものであったことを示しており、本件特許発明のように、被圧入物であるオーガースクリューを地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引する必要があったことを示唆している。 よって、杭工事をした会社に拘わらず、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事の杭工事においてTR-151搭載型杭打機が用いられ、本件発明に係る杭打機が公然と実施されたとの上記認定を左右するものではない。 (6)まとめ 以上検討したように、TR-151は、本件特許出願時までに100台以上の納入履歴が認められ、TR-151搭載型杭打機を用いた杭打ち工事は、日本国内において、不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で公然と行われていたということができ、本件発明は、特許法第29条第1項第2号に該当する。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、請求人の他の無効理由について検討するまでもなく、本件発明のホイールクレーン杭打機は、本件特許出願前に日本国内において公然と実施されたものであって、本件発明の特許は特許法第29条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 また、審判費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 昭和58年11月24日 出願 平成11年10月 1日 設定登録(特許第2985172号) 平成12年 4月28日 本件無効審判請求 (請求人:株式会社石走商会外7人) 平成12年 8月10日 答弁 平成12年11月 8日 弁駁 平成13年 2月26日 第2答弁 平成13年 3月23日 請求人に対する審尋 平成13年 4月10日 第3答弁 平成13年 4月27日 株式会社大枝建機工業より参加申請 平成13年 5月22日 審尋に対する回答 平成13年 8月20日 株式会社石走商会外7人が請求取り下げ 平成13年 8月28日 株式会社西牟田重機より参加申請 平成13年 9月21日 株式会社大枝建機工業の参加を認める決定 平成14年 2月28日 株式会社大枝建機工業が参加を取り下げ 平成14年 3月 5日 株式会社西牟田重機の参加を認める決定 平成14年 4月15日 参加人より上申書 第2 本件発明 本件特許に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。 「1.車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、 前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、 前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、 前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けた ことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」 以下、特許請求の範囲に記載された発明を本件発明という。 第3 無効審判請求人及び被請求人の主張の概要 1.無効審判請求人の主張 無効審判請求人等は、特許第2985172号の登録を無効とする旨の審決を求め、無効審判請求人等、参加人(以下、単に請求人という)は、請求書、弁駁書及び平成13年5月23日付けの回答書において次のように無効理由を主張する。 (1)無効理由1:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、無効となるべきである。 (2)無効理由2:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、無効となるべきである。 (3)無効理由3:本件発明は、その出願前に日本国内において公然と実施された発明である(甲第10号証ないし甲第13号証、甲第20号証、甲第25号証、甲第26号証参照)から特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、無効となるべきである。 (4)無効理由4:本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証及び甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから特許法第29条第2項の規定に該当し、無効となるべきである。 (5)無効理由5:本件発明は、本件特許出願日前の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された特願昭58-1524号(特開昭59-126822号)(甲第15号証参照)の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明と同一であって、その発明者または出願人が本件特許の発明者または出願人と同一でないから、特許法第29条の2の規定に該当し、無効となるべきである。 そして、上記無効理由の証拠及びその理由を補強する証拠として以下の証拠を提出し、必要なら証人として大枝守を申請する。 ・甲第4号証:特開昭55-142826号公報 ・甲第5号証:実公昭57-26927号公報 ・甲第6号証:実公昭57-28927号公報 ・甲第7号証の1:佐野喜一郎の宣誓書 ・甲第7号証の2:佐野喜一郎の印鑑登録証明書 ・甲第8号証:株式会社加藤製作所大阪支店技術サービス課三谷寛司による同社製トラッククレーンの説明書 ・甲第9号証:特公昭45-18550号公報 ・甲第10号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号判決書 ・甲第11号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(営業案内 無振動・無騒音圧入工法 ラフタークレーン搭載型〈杭打機〉パンフレット) ・甲第12号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(調査委託の申立書及びその回答書) ・ 甲第13号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号の提出書類(ホイールクレーンTR-151型の車検証) ・甲第14号証:「愛知車両20年史」昭和57年12月頃株式会社愛知車両発行 ・甲第15号証:特開昭59-126822号公報 ・甲第16号証:証人(大枝 守)尋問申請書 ・甲第17号証:株式会社大枝建機工業の登記簿謄本 ・甲第18号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200B型の整備要領書 ・甲第19号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200Hv型の実験報告書 ・甲第20号証:田中浩による技術説明書 ・甲第21号証:実公昭45-18857号公報 ・甲第22号証:異議2000-72254号の異議決定書 ・甲第23号証:平成6年審判第17426号、平成7年審判第12480号の平成12年8月21日付け審決書 ・甲第24号証:株式会社加藤製作所製トラッククレーンNK200Hv型の技術資料 ・甲第25号証:株式会社タダノ製TR-151型ラフタークレーンのパンフレット ・甲第26号証:株式会社タダノ製TR-151型ラフタークレーンの修理要領書 ・甲第27号証:横山重吉、六角康久著「流体機械」昭和56年3月30日株式会社コロナ社発行 ・甲第28号証:大阪高等裁判所平成9年(ネ)第1610号判決書 ・甲第29号証:大阪地方裁判所平成12年(ワ)第290号判決書 ・甲第30号証:「営業案内 無振動・無騒音圧入工法 ラフタークレーン搭載型〈杭打機〉」発行日、発行者不詳 ・甲第31号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号での嘱託申立書及び回答書 ・甲第32号証:寺田組の移動式クレーン検査証写し ・甲第33号証:大阪高等裁判所平成9年(ネ)第3586号での証人、澤博照の証人尋問調書 ・甲第34号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第132号での証人、稲岡芳彦の当事者尋問調書 ・甲第35号証:株式会社タダノ発行のTR-150、TR-151の納入実績表 ・甲第36号証:大阪地方裁判所平成11年(ワ)第13840号判決書 2.無効審判被請求人の主張 被請求人は、本件審判請求は成り立たない旨の審決を求め、審判事件答弁書、審判事件答弁書(第2回)、審判事件答弁書(第3回)において、請求人の主張する無効理由は何れも理由がなく、本件特許は無効されるものではないと主張し、以下の証拠を提出し、証人として中村耕三を申請する。 ・乙第1号証:東京高等裁判所平成9年(行ケ)第286号判決書(平成11年2月17日言い渡し) ・乙第2号証:東京高等裁判所平成9年(行ケ)第222号判決書(平成11年2月16日言い渡し) ・乙第3号証:社団法人日本建設機械化協会編「建設機械用 油圧機器ハンドブック」昭和50年8月20日株式会社技術堂発行 ・乙第4号証:労働省労働基準局安全衛生部安全課編「改正2版 クレーン等各構造規格の解説」社団法人日本クレーン協会平成7年6月25日発行 ・乙第5号証の1〜3:中山信弘編著「注解 特許法 第3版 上巻」平成12年8月25日株式会社青林書店発行、第841頁ないし第862頁 ・乙第6号証の1〜3:土質工学会編「掘削用機械・特殊な掘削」昭和54年3月15日社団法人土質工学会発行、第59頁ないし第65頁 ・乙第7号証の1〜3:油圧技術便覧編集委員会編「改訂新版 油圧技術便覧」昭和51年1月3日日刊工業新聞社発行、第388頁ないし399頁 ・乙第8号証:「戸田技報」昭和56年6月発行67、68頁 ・乙第9号証:「土木技術ニュースNo.701」’82.2.1鹿島建設土木関係技術開発対策統合委員会編 ・乙第10号証の1〜9:株式会社タダノのTR150、及びTR-151の納入履歴 ・乙第11号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号における平成9年5月21日付け橋本政興の「本人調書」 ・乙第12号証:神戸地方裁判所平成7年(ワ)第132号における平成9年2月26日付の稲岡芳彦の「本人調書」 第4 無効理由の検討 まず、請求人主張の無効理由3について検討する。 1.本件発明の特許請求の範囲に関する解釈 本件発明の特許請求の範囲に記載された「前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け」における「被圧入物」及び「ホイールクレーン車の重量を用いて」が何を意味するかについては、文言からは一義的に明らかではないから、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌して検討する。 (1)「ホイールクレーン車の重量を用いて」について (ア)本件特許の明細書の「発明の詳細な説明」には、次の記載が認められる。 (i)[従来技術]の欄 最近市街地での土木工事に対して環境条件が厳しくなり、・・このため・・いわゆる無振動、無騒音工法と称せられる基礎工、土止め工が出現してきた。これらの工法の・・中でオーガー工法といわれる工法がある。 オーガー工法・・のなかで連続オーガー工法はとくに知られている。連続オーガー機を一般にアースオーガーと称し、・・駆動装置、・・リーダー、・・クローラクレーン、スクリュー及びヘッドなどから構成される。 ・・掘削のための押し込む力は、・・回転力の分力で食い込ませていくのと、スクリューの頂部に設けた駆動装置,ウエイト等の自重により行っている。・・ また、・・クレーン機のウインチを使い、既に埋設された被圧入物にワイヤーを引っ掛けて、このワイヤーをクレーン機のウインチで巻き上げその反力で圧入するものもある。(特開昭55-142827号公報) (ii)[発明が解決しようとする問題点]の欄 ・・連続オーガー機は、・・硬い岩盤の場合はスクリューを押し込む力が不足し掘削が困難であった。アースオーガー駆動装置にウエイトを載せて押し込み力を倍加する方法もあるが、構造上の制約もあり充分な押し込み力を発揮できなかった。 また、ワイヤーの力で押し込む方法は・・、埋設物を反力に利用するので圧入力に限界があった。したがって、従来のオーガー工法は硬い岩盤には適用できなかった。本発明は、硬い岩盤でも圧入できる新規な工法に使用するホイールクレーン杭打機を提供することにある。 (iii)[実施例]の欄(特許公報4欄44行〜5欄6行) 牽引シリンダー装置7は、伸縮ブーム5を引っ張り第4図矢印方向に力を作用させると挿入部6の上端には垂直分力f1が作用し強制的にアースオーガー装置12に押圧力を加える。この垂直分力f1は、牽引シリンダー装置7の引っ張り力をfとすれば、伸縮ブーム5とピストンロッド9となす角度及び挿入部6とケーシング15となす角度で変化するが牽引シリンダー装置7の引っ張り力でf1の垂直分力を生じる。 更に、アースオーガー装置12の自重と、伸縮ブーム5の自重が垂直分力となり上記ケーシング15のを押圧する力となって掘削力を倍加する。この垂直分力f1は、理論的には最大でホイルクレーン車1の重量がすべて垂直分力f1になって垂直方向の掘削力になる。 (iv)[発明の効果]欄(同6欄7〜9行) また起伏シリンダー(牽引シリンダー装置)により杭等に押圧作用を静的に加え得るので硬質地盤でも容易に施工ができる。 (イ)以上のような明細書の記載に照らせば、本件発明は、リーダーやウインチを利用してスパイラルスクリューを圧入しようとする従来技術では、スパイラルスクリューの自重やウインチに連結された埋設物の反力を圧入に利用しているため、硬い地盤にスパイラルスクリューを圧入するために必要な押圧力を十分に得ることができないという問題点があったので、このような問題点を解決するために、牽引装置を具備したホイールクレーン車の伸縮ブームの他端にアースオーガー装置、スパイラルスクリューを設け、牽引装置が伸縮ブームを牽引して、ブーム上端に牽引力の垂直分力を及ぼすことにより、硬い地盤にスパイラルスクリューを圧入するために必要な押圧力を得るようにしたものと認められる。そして、この場合、伸縮ブームと牽引装置はクレーン本体に設けられているため、押圧力は、上記従来技術と比較して、ホイールクレーン車の重力という大きな力を利用することができると認められる。 そうすると、本件発明の「ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」とは、「ホイールクレーン車の重量を利用して得られる垂直分力によってアースオーガ装置を強制的に押圧する」という意味と理解するのが相当である。 (2)「被圧入物」について 本件明細書の「発明の詳細な説明」を参酌すると、 (i)従来技術について、「既に埋設された被圧入物にワイヤーを引っ掛けて、このワイヤーをクレーン機のウインチで巻き上げその反力で圧入する」との記載(同3欄27行)、 (ii)発明が解決しようとする問題点について、前記(1)(ア)に記載されており、このうち(ii)において「圧入」されるのが、スパイラルスクリューであることは明らかである。また、「杭打ちの為の掘進にはスパイラルスクリュー19をアースオーガー装置12の下端にセットして孔を掘削した後杭を上から圧入する。」(同5欄19〜21行)と記載されていることが認められ、本件発明のホイールクレーン杭打機としては、スパイラルスクリューで孔を掘削した後、杭を上から圧入するものも予定されているというべきである。 したがって、「被圧入物」には、スパイラルスクリューのみを圧入するものも含まれると解すべきである。 2.TR-151のブーム起伏用油圧シリンダ装置について (1)甲第25号証は株式会社多田野鉄工所の「ROUGH-TERRAIN CRANE TR-151」(ラフタクレーンTR-151)(以下、単にTR-151という。)のパンフレットであって、裏表紙の下部に「192-300-01400-S-55-09」と記載されており、「S-55-09」は昭和55年9月を意味し、同年月に発行されたと考えられる。 甲第25号証のパンフレット4葉には、TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け、地盤に孔明け作業をしている写真が記載されており、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められない。そして、同パンフレット全体の記載及び写真から、TR-151は、自走式のクレーンで、物を吊り上げ、吊り下げる作業ができるとともに、杭打ち、スパイラルスクリューによる孔明け(スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を当然に備えている)にも適用できるものであって、スパイラルスクリューとスパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガ装置を備えた場合には、以下の構造をしていると認められる。 「車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、 前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、 前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に油圧シリンダ装置の一端を枢着して設け、 前記装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けた ことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」 ここで、上記油圧シリンダ装置は、クレーンのブームを起伏させる機能を有するものであるが、TR-151の主要諸元を記載した表(第7葉)において、「起伏装置 複動油圧シリンダ直押式2本」と記載されており、ここで、「複動油圧シリンダ」とは、ピストンの両側に交互に圧力油を供給して、両方向に推進力を与える油圧シリンダを意味するものとして当業者において周知の事項(例えば甲第27号証参照)であり、また、その場合にピストンに供給される油圧は特に圧力を異ならせる必要がある場合以外には同じ圧力が供給されるのであって、TR-151においてそのような特別な事情があるとも考えられない(甲第26号証2頁のFIG.1の油圧回路や同号証に添付された油圧回路Fig.1においても起伏シリンダの上側と下側に供給される油圧が異なっているとは考えられない。カウンタバランス弁やアンロード弁の作用については後述する。)から、当業者であれば、TR-151のブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであると理解できる。 そして、TR-151のブームを起伏させる複動油圧シリンダが上記したようなものであれば、油圧シリンダ装置のピストンの一方に圧力を作用させればブームは起立し、ピストンの他方に圧力を作用させればブームは倒伏することになるのであって、杭打ち作業時にブームを倒伏するようにピストンに圧力を作用させることは、ブームを牽引することにほかならない。即ち、TR-151のブームを起伏させる複動油圧シリンダは、ブームを牽引する牽引装置ということができる。 また、ブームを牽引してアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物であるスパイラルスクリューを地盤に圧入するためには、その圧入による反力をホイールクレーン車の重量にて受け止めることは、当然のことである。 一方、本件発明において、「ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」とは、「ホイールクレーン車の重量を利用して得られる垂直分力によってアースオーガ装置を強制的に押圧する」を意味すると解されることから、本件発明とTR-151とは、ブームを倒伏させる油圧シリンダの機能において異なるところはない。 そうすると、本件発明の杭打機と、TR-151搭載型杭打機とは、構成において同じということができる。 (2)被請求人の主張について 被請求人は、 「(TR-151に用いられている)カウンターバラスバルブの設定圧は、160±5Kg/cm2である(甲第26号証の24頁)。この圧力が本機種でいうと最大で約15トンの重量をブームを吊り上げる力となる。これに対して、起伏シリンダー用のアンロードバルブの設定圧は、7Kg/cm2である(甲第26号証の第23頁)。物を吊り上げる場合の定圧の約23分の1の設定圧である。仮に、ブーム先端で加圧したとしても本機種では、ピストンロッドの断面積だけ加圧力が減少するので、単純に計算しても最大で15トンの23分の1より更に少ない程度しか加圧できない。即ち、機械工学的には、加圧を想定した設計ではなく、実質的には加圧できない構造のものである。従って、請求人が主張するTR-151のホイールクレーン車は、本件特許発明の工法には原理的に使用できない。」(答弁書(第2回)9頁2行〜12行)、 「前記したように従来のホイールクレーン車の構造、機能ではブームの先端で意図的、かつ積極的にアースオーガーの先端を押圧することはできない。自己(注:特許権者)が所有するホイールクレーン車のメーカーである株式会社タダノに依頼して起伏用の油圧回路を改造したものである。当時としてはこの油圧回路は同社の標準品にはないので、同社の指定サービス工場で改造したものである。この改造によりブームも当然ながら強度的に耐えられないので肉厚を厚くするなどの改造を行った。」(答弁書(第2回)10頁7行〜14行)、 「TR-151型ラフタークレーンは(甲第11号証、及び甲第26号証)、重量物を吊り上げるものである。従って、甲第11号証(頒布性については、立証されていない。)に記載されている写真は、単にラフタークレーンを用いて、アースオーガを吊り下げて移動させるためのものとして使用している写真にすぎず、この写真から直ちに判決でいうように本件発明に係る杭打機が公然と実施されていたことにはならない。 このラフタークレーンの起伏装置というものは、吊り上げ専用であったという歴史的事実に照らして、牽引力の大きさについての定性的若しくは定量的に明りょうかつ正確な説明が付されていない限り、吊り上げ専用のものと解するのが当然至極である。」(答弁書(第3回)4頁27行〜5頁8行)、 「ホイールクレーンTR-151型の機種を仮に杭打機に使用したとしても・・自重以外に杭を押圧する機能はない。この点について、更に当時、株式会社多田野鉄工所の大阪支店でラフタークレーンTR151を販売し、この分野の専門家である中村耕三氏を証人として申請する。」(答弁書(第3回)11頁4行〜9行)、 とし、TR-151には、吊り上げる機能を有するが、牽引する機能を有せず、特許権者において改良することにより牽引する機能を有するようになった旨主張する。 しかしながら、上記したように、TR-151のブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであり、TR-151を用いて杭打ち作業を行った場合には、ブームの倒伏時には牽引する機能を有すると考えられる。 被請求人は、TR-151の修理要領書である甲第26号証の記載をもとに、起伏シリンダー用のアンロードバルブの設定圧は7Kg/cm2であるので、ブームを倒伏させる場合に作用する油圧は起伏時(吊り上げ時)の23分の1より更に少ない圧力である旨主張するが、アンロードバルブは、甲第26号証2頁の記載によれば、「当バルブは、ポートがベント用のシャットオフバルブに連結され、AMLの100%検出時、フックの過巻時、伸縮の誤操作時にのみシャットオフソレノイドバルブが開き、それと同時にアンロードバルブ内のチェック弁を保持していた圧力が抜けます。従ってクレーン作動圧油はタンクに連通され、クレーン作業が停止します。」と説明されており、AMLの100%検出時等の異常事態が発生した場合にアンロードバルブが作動して圧力を抜いたアンロードの状態、つまり起伏シリンダに圧油が作用しない状態になるというものであって、アンロードバルブの作用により起伏シリンダに7Kg/cm2の圧油が作用する旨の記載はなく、むしろAMLの100%検出時等の異常事態が発生しない限り、起伏シリンダには起立時にも倒伏時にも甲第25号証7葉に「油圧ポンプ型式 3連ギアタイプ、圧力 160Kg/cm2」と記載されているように約160Kg/cm2の圧油が作用すると考えるのが自然である。 また、被請求人は、TR-151は、牽引する機能を有せず、特許権者において油圧回路等を改良することにより牽引する機能を有するようになった旨主張するが、改良した事実を証する証拠は提出されていないから、当該主張は採用できない(なお、当該主張は、甲第28号証によれば、大阪高等裁判所における平成9年(ネ)第1610号事件の審理においても特許権者である控訴人が供述していたが、当該事件の判決において、当該供述を裏付ける他の証拠がないことをもって、当該供述を直ちに採用できない旨判示されている。)。 さらに、被請求人は、TR-151は、杭打機に使用したとしても自重以外に杭を押圧する機能を有しないことを証人中村耕三の証言で立証する旨主張するが、仮に当該証人により上記の事項が供述されたとしても、その供述を裏付ける他の証拠は本件審判において何ら提出されておらず、当該供述を直ちに採用することはできないと考えられることから、証人尋問の必要はない。 3.TR-151の公然実施について (1)乙第10号証の5ないし同9によれば、株式会社タダノ(旧社名 株式会社多田野鉄工所)は、TR-151を、本件特許出願前の1974年(昭和49年)9月以降本件特許出願時までに100台以上の納入履歴が認められる。(なお、朔鷹へも1978年(昭和53年)3月30日に1台、1979年7月5日に1台、1979年11月16日に1台納入していることが認められる。) (2)甲第25号証の4葉には、TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け、地盤に孔明け作業をしている写真が記載されており、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められない。したがって、甲第25号証発行時の昭和55年9月において、TR-151にアースオーガー装置を用いた杭打機を搭載して用いることは、当然に予定されていたといえる。 (3)TR-151は、上記2で検討したように、ブームを起伏させる起伏シリンダは、ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して、ブームを起伏させるものであり、TR-151を用いて杭打ち作業を行った場合には、ブームの倒伏時には牽引する機能を有すると考えられることから、TR-151を購入した使用者が、例えばアースオーガー装置を有する杭打機を搭載して地盤に孔明け作業を行うに当たり、ブームを倒伏させる作業を行えば、当該起伏シリンダがブームを牽引する機能を有すると容易に認識できたはずである。 (4)さらに、アースオーガー装置を有する杭打ち機を搭載したTR-151(TR-151搭載型杭打機)の使用状況については、 (ア)甲第11号証(甲第30号証と同じ)のパンフレットは発行者、発行日が不明であるが、4頁にはTR-151を用いてアースオーガースクリューを用いて孔明けを行う図が記載され、5頁にはTR-151を用いてオーガースクリューによる孔明けを奈良県吉野町東川上村小学校新築工事で行った写真が記載され、裏表紙には、施工実績として「工事名称 奈良県東吉野小学校新築工事、工事内容 PC400φ×13.0〜20.0×190本、施工工法 岩盤掘削セメントミルク」と記載されている。 そして、上記パンフレットの記載及び同パンフレットの全体図及び写真には、アースオーガーの動きを支持するリーダーや、オーガースクリューを押圧するための埋設物及びワイヤーの存在は認められないことからすると、上記TR-151搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引しTR-151の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧するものであると認められる。 (イ)甲第12号証(甲第31号証と同じ)の神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号における調査委託において、奈良県吉野郡川上村村長大谷一二は、平成7年9月26日付け回答書において、川上村立東小学校新築工事の杭工事期間は昭和56年12月〜昭和57年2月であり、工法は岩盤掘削用特殊刃使用オーガセメントミルク工法であった旨回答している。 (ウ)上記(ア)及び(イ)から、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事の杭工事期間は本件特許出願前の昭和56年12月〜昭和57年2月であり、その時にTR-151搭載型杭打機を用いた杭工事が行われたことが認められる。 そして、当該工事は、パンフレットに掲載されている工事現場写真によれば、同工事に使用されたTR-151搭載型杭打機は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で使用されていたものと認められる。 また、施工時期は不明であるものの、上記パンフレットには、TR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真が複数掲載されているところ、そのどの写真においても、TR-151搭載型杭打機を不特定人から見えないようにするための特別な措置をとっている工事現場が認められず、甲第25号証第4葉におけるTR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真においても、TR-151搭載型杭打機を不特定人から見えないようにするための特別な措置をとっていないことからすれば、TR-151搭載型杭打機を使用した工事においては、TR-151搭載型杭打機は不特定人が知り得る状況の下で使用されたと推認される。そして、そのような状況で使用されたにもかかわらず、現実には不特定人に知られなかったことをうかがわせるに足る証拠はない。 (エ)したがって、TR-151搭載型杭打機を使用した工事においては、TR-151搭載型杭打機の油圧シリンダ装置は、アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引しTR-151の重量を用いてアースオーガー装置を強制的に押圧するものであって、その工事は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で公然と行われていたということができる。 (5)被請求人の主張について 被請求人は、 「甲第11号証は、あたかも寺田組が発行したかの主張であるが、その末頁には、「第一運輸作業株式会社」と記されており、しかもゴム印らしきもが押されており少なくとも寺田組が発行した表記はない。更に、甲第11号証は、いつどこでだれが作成したか作成名義人も不明であり、かつ立証もない。従って、甲第11号証の文書の成立も怪しく、成立を争う。」(答弁書13頁25行〜14頁1行)、 「甲第12号証の調査嘱託事項で回答された・・平成7年9月26日付で川上村長大谷一二氏から出された回答には、「工法岩盤掘削用特殊刃使用オーガセメントミルク注入工法」と書かれているのみである。即ち、本件特許発明を伺わせるものはなく、むしろ「岩盤掘削用特殊刃」を使用し、かつ「オーガセメントミルク注入工法」と具体的に基礎工法が特定されている。 本件特許発明は、特殊な「岩盤掘削用特殊刃」を使用するものではなく、一般に使用されているオーガー工法であると推定され、かつ「セメントミルク注入工法」でもない。このオーガー工法といっても無数の工法が知られており(乙第6号証の1の第61頁参照)、どのような工法かも特定できない。更に、重要なのは、この工事を施工した業者は、元請が「(株)堀内工務店」であり、下請は「三和コンクリート工業(株)」である。」(答弁書(第2回)4頁15行〜26行) と主張する。 確かに甲第11号証(甲第30号証と同じ)のパンフレットは発行者、発行日が不明であるが、「寺田組」と書かれたTR-151搭載型杭打機を使用した工事現場の写真が複数掲載されており、5頁に記載された写真の奈良県吉野町東川上村小学校新築工事は、甲第12号証(甲第31号証と同じ)の調査嘱託回答によれば、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事であって、また、裏表紙の「施工実績」欄に記載された「神戸電鉄藍那4供橋改修工事」は、甲第12号証の調査嘱託回答によれば、「神戸電鉄 藍那第4供橋改築工事」であって、基礎杭工事は昭和56年1月〜同年3月であって、工法は「ラフタークレーンによるアースオーガー工法」、下請関係「株式会社 寺田組」となっており、当該パンフレットの記載と整合する。 したがって、甲第11号証のパンフレットに記載された事項はほぼ正確と認められ、少なくとも奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事における杭工事においてTR-151搭載型杭打機が用いられたことが十分に認められ、発行者、発行日が不明であることのみをもって、記載された写真の内容や、記載事項すべてが信頼できないとすることはできない。また、同工事において、「工法 岩盤掘削用特殊刃使用 オーガセメントミルク注入工法」と書かれていることは、岩盤掘削用特殊刃を使用したオーガースクリューを用いた孔明けが行われ、その時にセメントミルクが注入されたことをいうのであって、岩盤掘削用特殊刃を使用したことは、地盤が岩盤のように固いものであったことを示しており、本件特許発明のように、被圧入物であるオーガースクリューを地盤に圧入するために、伸縮ブームを牽引する必要があったことを示唆している。 よって、杭工事をした会社に拘わらず、奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事の杭工事においてTR-151搭載型杭打機が用いられ、本件発明に係る杭打機が公然と実施されたとの上記認定を左右するものではない。 (6)まとめ 以上検討したように、TR-151は、本件特許出願時までに100台以上の納入履歴が認められ、TR-151搭載型杭打機を用いた杭打ち工事は、日本国内において、不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で公然と行われていたということができ、本件発明は、特許法第29条第1項第2号に該当する。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、請求人の他の無効理由について検討するまでもなく、本件発明のホイールクレーン杭打機は、本件特許出願前に日本国内において公然と実施されたものであって、本件発明の特許は特許法第29条第1項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 また、審判費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-07-22 |
結審通知日 | 2002-07-25 |
審決日 | 2002-08-07 |
出願番号 | 特願昭58-221856 |
審決分類 |
P
1
112・
112-
Z
(E02D)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 佐田 洋一郎 |
特許庁審判長 |
田中 弘満 |
特許庁審判官 |
鈴木 公子 中田 誠 |
登録日 | 1999-10-01 |
登録番号 | 特許第2985172号(P2985172) |
発明の名称 | ホイ-ルクレ-ン杭打機 |
代理人 | 富崎 元成 |
代理人 | 杉本 丈夫 |
代理人 | 円城寺 貞夫 |
代理人 | 山田 勉 |