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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1091430
異議申立番号 異議2000-73697  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-10-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-09-27 
確定日 2003-12-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3036818号「ハードコート層を有する成形品およびその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3036818号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3036818号の発明は、平成1年11月20日に日本国に出願した特願平1-301233号に基づいて優先権を主張し、平成2年10月30日に特許出願されたものであって、平成12年2月25日にその特許の設定登録がなされ、その後、ジェイエスアール株式会社及び三井化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年7月23日付けで特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、平成14年10月21日に「訂正を認める。特許第3036818号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との特許異議の決定がなされたところ、特許権者は、平成14年12月9日に当該決定の取消を求める訴えを提起し、この訴えについて東京高等裁判所において平成14年(行ケ)第611号事件として審理され、平成15年8月20日に口頭弁論が終結し、同年8月29日に、「特許庁が異議2000-73697号事件について平成14年10月21日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決がなされたものである。

2.訂正の可否についての判断
2-1.訂正の要旨
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。」を、
「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の
「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、乾燥後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法。」を、
「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分で乾燥させた後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法。」と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書第9頁第2〜6行(平成11年11月22日付け手続補正書第2頁第6〜10行、特許公報第3頁第5欄第11行〜第15行)の、
「かくして、本発明によれば、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品が提供される。」を、
「かくして、本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品が提供される。」と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書第9頁第7〜12行(特許公報第3頁第5欄第16〜21行)の、「また、本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、乾燥後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法が提供される。」を、
「また、本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分で乾燥させた後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法が提供される。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1の、「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、」を追加する訂正は、訂正前の明細書の「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、」(請求項2)及び「乾燥温度と時間は、使用する溶剤の種類、塗布量、接着面の形状によっても異なるが、基材の熱変形がないように、おおむね120℃以下で、かつ、十分に乾燥できるように条件を決定すればよい。具体的には60〜120℃で、3〜60分程度の乾燥が適当である。……。その後、高圧水銀灯などの紫外線を効率的に発生する光源から紫外線を照射することにより、硬化が短時間で起こり、硬度の高いハードコート層が形成される。」(第20頁第3〜15行(特許公報第5頁第9欄第8〜18行))との記載に基づいて、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
(2)訂正事項2の、「該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させた後、」を追加する訂正は、訂正前の明細書の「乾燥温度と時間は、使用する溶剤の種類、塗布量、接着面の形状によっても異なるが、基材の熱変形がないように、おおむね120℃以下で、かつ、十分に乾燥できるように条件を決定すればよい。具体的には60〜120℃で、3〜60分程度の乾燥が適当である。」(第20頁第3〜8行(特許公報第5頁第9欄第8〜13行)との記載に基づいて、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の製造方法を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
(3)訂正事項3は、訂正事項1による請求項1の訂正に伴い対応する発明の詳細な説明の記載をそれに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(4)訂正事項4は、訂正事項2による請求項2の訂正に伴い対応する発明の詳細な説明の記載をそれに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、上記訂正事項1〜4の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、上記訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。
【請求項2】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分で乾燥させた後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人 ジェイエスアール株式会社は、甲第1〜10号証を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1及び2に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。
(1)請求項1に係る発明は、甲第1、2又は3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)請求項1に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項2に係る発明は、甲第1、3〜10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

また、特許異議申立人 三井化学株式会社は、甲第1〜3号証を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1及び2に係る特許は取り消されるべきである旨、主張している。
(3)請求項1及び2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において平成15年5月1日付けで通知した取消理由は、特許異議申立人 ジェイエスアール株式会社が主張する理由(1)のうち甲第3号証を引用する理由、同特許異議申立人が主張する理由(2)及び特許異議申立人 三井化学株式会社が主張する理由(3)と同旨(以下、それぞれ、「取消理由1」、「取消理由2」及び「取消理由3」という。)であり、引用した刊行物及びその記載事項は以下のとおりである。

4-2-2.引用した刊行物およびその記載事項
1.刊行物1:特開平1-132626号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第1号証)
(1-1)「下記一般式(I)で表わされる少なくとも1種の化合物の重合体または該化合物と他の共重合性モノマーとを重合させて得られる重合体を、水素添加して得られる重合体からなることを特徴とする光学材料。
一般式(I)

[式中AおよびBは……を示す。]」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明は、ビデオディスク、コンパクトディスク、追記可能な光ディスク、記録・消去・再生可能な光ディスク、プラスチックレンズなどの材料として好適に使用される光学材料に関するものである。」(第1頁右下欄第13〜17行)
(1-3)「このように水素添加することにより、得られる(共)重合体は優れた熱安定性を有するものとなり、その結果、成形加工時や製品としての使用時の加熱によってその特性が劣化することがない。水素添加率は、通常、50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%である。水素添加率が50%未満の場合には、熱安定性の改良効果が小さい。」(第9頁右下欄第8〜15行)
(1-4)「本発明による光学材料には、その表面に、熱硬化法、紫外線硬化法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの方法により、無機化合物、シランカップリング剤などの有機シリコン化合物、アクリル系モノマー、ビニルモノマー、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂などをハードコートすることにより、耐熱性、光学特性、耐薬品性、耐摩耗性、透湿性などを向上させることができる。」(第10頁左上欄第12行〜末行)
(1-5)「接着性 樹脂基板上にアルミニウムを蒸着し、1mm×1mmの碁盤目100個をカッターで刻み、セロテープ剥離試験を行って接着性を評価した。すなわち剥離されたます目の数が10以下のものを「○」とし、11以上のものを「×」とした。」(第12頁右上欄第4〜9行)
(1-6)第1表には、実施例1〜5により得られた水素添加重合体の接着性評価(蒸着膜の剥離試験)が「○」であることが記載されている。(第14頁)

2.刊行物2:特開平1-240517号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第2号証)
(2-1)「1)下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を50重量%以上含有する、ポリスチレン換算による数平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする重合体。
一般式(I)

(式中、……を示す。)
2)下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を50重量%以上含有する、ポリスチレン換算による数平均分子量が5,000〜1,000,000であることを特徴とする重合体。
一般式(II)

(式中、……を示す。)
3)特許請求の範囲第1項記載の重合体を、少なくとも50%以上の割合で水素添加することを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の重合体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2-2)「本発明の新規な重合体は……成形品とすることができる。本発明の新規な水素添加重合体の用途は特に限定されるものではなく、透明性の要求される広い範囲の分野に使用されるが、なかでも光学レンズなどの一般的光学材料の他、高度の機能を要求される光ディスク基板に最適である。」(第9頁右上欄第7〜14行)
(2-3)「実施例8 耐圧反応容器中において、実施例1で得られた不飽和結合を有する開環重合体100重量部をテトラヒドロフラン2,000重量部に溶解し、これに触媒として活性炭に担持させたパラジウム(パラジウム濃度5%)10重量部を加え、仕込み水素圧を150kg/cm2とし、150℃で4時間水素添加反応を行なった。冷却後、容器中の水素ガスを放圧し、さらに反応溶液から触媒を濾別した後メタノールを添加することにより、水素添加重合体を凝固させ、乾燥させて回収した。得られた水素添加重合体の数平均分子量を測定したところ44,000と水素添加前と同一であった。水素添加率は第12図に示す赤外吸収スペクトルおよび第13図に示すNMRスペクトルから定量したところ100%であった。得られた重合体を射出成形し、試験片を作製して諸特性を測定した。結果を第1表に示す。
実施例9 実施例2で得られた開環重合体100重量部に対し、触媒として活性炭に担持させたロジウム(ロジウム濃度5%)10重量部を加え、実施例8と同様の条件で水素添加反応および後処理を行った。得られた水素添加重合体の数平均分子量を測定したところ28,000と水素添加前と同一であった。水素添加率は第14図に示す赤外吸収スペクトルおよび第15図に示すNMRスペクトルから定量したところ100%であった。得られた重合体を射出成形し、試験片を作製して諸特性を測定した。結果を第1表に示す。
実施例10 実施例6で得られた開環重合体100重量部に対し、触媒としてアルミナに担持させたパラジウム(パラジウム濃度5%)10重量部を加え、実施例8と同様の条件で水素添加反応および後処理を行った。得られた水素添加重合体の数平均分子量を測定したところ28,000と水素添加前と同一であった。水素添加率は第16図に示す赤外吸収スペクトルおよび第17図に示すNMRスペクトルから定量したところ100%であった。得られた重合体を射出成形し、試験片を作製して諸特性を測定した。結果を第1表に示す。」(第10頁右下欄第9行〜第11頁右上欄第11行)
(2-4)第1表には、実施例8〜10により得られた水素添加率100%の重合体の接着性評価(蒸着膜の剥離試験)が「○」であることが記載されている。(第12頁)
(2-5)「接着性 得られた樹脂基板上にアルミニウムを蒸着し、1mm×1mmの碁盤目を10×10個、カッターで切り目をつけ、セロテープ剥離試験を行なった。剥離のないものを○、剥離が観察されたものを×と評価した。」(第13頁右上欄第19行〜同頁左下欄第4行)

3.刊行物3:特開昭53-102933号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第3号証)
(3-1)「1.(i)少なくとも一つのシアノ基もしくはシアノ基を含む置換基を有するノルボルネン誘導体(シアノ系ノルボルネン誘導体)から成る開環重合体、
(ii)少なくとも50モル%の前記シアノ系ノルボルネン誘導体に……の少なくとも一種を多くとも50モル%共重合させた開環共重合体又は
(iii)炭素-炭素二重結合を有する不飽和重合体へ少なくとも一つの前記シアノ系ノルボルネン誘導体をグラフトさせたグラフト共重合体の成形物にアクリル系樹脂塗料を塗布するに当り、
(i)……炭素数1〜4の脂肪族アルコール100重量部と、
(ii)(イ)ベンゼン、トルエン、キシレン及び炭素数1〜4の脂肪族ケトンの群から選定した少なくとも一種の溶媒30〜100重量部又は
(ロ)前記(ii)(イ)の溶媒30〜100重量部のうちの少なくとも10重量部を含み、……少なくとも一種で置換した混合溶媒30〜120重量部から成る混合溶媒を希釈剤として使用することを特徴とするノルボルネン重合体成形物の塗装方法。」(特許請求の範囲)
(3-2)「本発明者等の一部はノルボルネン誘導体の開環重合体、開環共重合体及びグラフト共重合体の製造方法に関し既に数多くの提案を行なった・・・これらの重合体の多くは透明で,耐熱性やガス遮断性にすぐれ、かつ、広い温度範囲領域において良好な耐衝撃性をもつ剛性高分子材料として有用である。例えば、シクロペンタジエンとアクリロニトリルから合成した5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体はビカット軟化温度が130〜135℃、抗張力が約500kg/cm2、アイゾット衝撃値が常温で2ft・lb/inノッチ、-30℃で約1.2ft・lb/inノッチと機械的特性、熱的特性ともにすぐれている。このため本重合体の成形品は各種機械部品、自動車などの車輌部品、電気機器或いはハウジング関係、建材関係などの分野への適用に好適である。然るに具体的な適用に際しては装飾、色付けもしくは光沢を出して商品品位を高めたり、耐候性や耐薬品性を改良したりするため成形品に塗装することが一般に行なわれる。本発明者等はノルボルネン誘導体の開環重合体、開環共重合体又はグラフト共重合体の成形物に対する一般のプラスチック材料用塗料として最も多用されているアクリル系樹脂塗料の塗装性を調べたところ、従来方法では塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜と成形物との密着性などに問題があり実用的でないことを確認した。そこでこれらの重合体成形物をアクリル系樹脂塗料で塗装する方法について鋭意研究を重ねた結果,ある特定の組成の希釈剤でアクリル系樹脂を希釈して塗布することにより塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜の密着性などが良好でしかも素地成形物の機械的性質を殆ど損うことのない塗装方法を見出し本発明に到達した。」(第2頁左上欄第1行〜同頁右上欄第18行)
(3-3)「その他希釈剤としては一般に以下の条件をみたすことが要請される。
(イ)塗布時の作業性を良くするために適当な揮発性をもつことが必要であって、塗布後常温下数時間〜拾数時間で揮発すること、
(ロ)塗膜の均一性、平滑性を確保するのに適当な粘度を有すること、
(ハ)被塗物と適度の親和性をもち、塗布後良好な密着性をもつ塗膜を与えること(例えば、クロスカット法のセロテープ剥離性の良好なこと)、
(ニ)被塗装物の物性の低下を来たさないこと。」(第5頁右上欄第9〜19行)
(3-4)「また塗布後は常温放置にて乾燥してもよいし、加熱下にて迅速乾燥させてもよい。」(第5頁左下欄第10〜12行)
(3-5)「(1)シアノ系ノルボルネン重合体の調製 40 lのSUS27製オートクレーブ中に、単量体として5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2……を加え、70℃で4時間重合させた。……。上記方法で得た5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体を粉末とし、……安定剤……を添加しヘンシエルミキサーを用いて3分間混合した。得られた混合物を20mmφの押出機……で溶融混練を行いペレットを成形した。このペレットを……厚さ1mmのシートに成形し引張り試験用としてJIS3号ダンベル試験片を打ち抜いた。……。引張試験の結果は引張強度522kg/cm2、伸び205%であった。」(第5頁右下欄第10行〜第6頁右上欄第4行)
(3-6)「……重合体A(註:シアノ系ノルボルネン重合体)のペレットを……射出成形機によって……シャーレを成形し塗装試験用サンプルとした。……。このように調製した試験用サンプルに塗料としてアクリル系樹脂塗料レクラック♯72M,白(藤倉化成(株)製,樹脂主成分アクリル樹脂)を……吹付一回塗り塗装を行なった。塗膜硬化後の膜厚はいずれも約30μであった。このようにして塗布した塗膜の性能を確認するため下記に示す剥離試験を行なった。……。また、重合体Aの調製例に記載したような方法で重合体AのJIS3号ダンベル型試験片を打ち抜き、その片面と両側面に塗装し、……テンシロンを使用して試験速度200mm/minで引張試験を行い引張速度と標線間20mmの伸び率を測定した。(註:第2表には、剥離試験,引張強度,伸び率を測定した結果が記載されている。)」(第7頁左下欄第2行〜第9頁第2表)
(3-7)「剥離試験法 塗装サンプルを室内に72時間放置後、片刃安全剃刀で1cm2の塗装面を1mm間隔に100目盛にカットし、その上にセロテープを密着させ45°上方に引き剥した時に塗装面から剥離した目盛数を100目盛からマイナスして剥離強度とした。例えば、剥離強度 100/100:全く剥離しないもの
99/100:100目盛中1目盛が剥離したもの
98/100:100目盛中2目盛が剥離したもの
0/100:100目盛とも剥離したもの」(第7頁右下欄第6〜19行)
(3-8)「【実験No.1】〔希釈剤(重量部)〕n-ブチルアルコール(40)、イソブチルアルコール(25)、エトキシエタノール(35)、酢酸エチル(50)、酢酸メチル(20)、〔剥離試験〕50/100〜100/100
【実験No.2】〔希釈剤(重量部)〕イソブチルアルコール(65)、ブトキシエタノール(35)、酢酸メチル(75)、酢酸イソブチル(25)、〔剥離試験〕80/100〜100/100
【実験No.3】〔希釈剤(重量部)〕イソブチルアルコール(65)、ブトキシエタノール(35)、トルエン(25)、〔剥離試験〕80/100〜95/100
【実験No.4】〔希釈剤(重量部)〕イソブチルアルコール(65)、ブトキシエタノール(35)、トルエン(50)、〔剥離試験〕100/100
【実験No.5】〔希釈剤(重量部)〕イソブチルアルコール(65)、ブトキシエタノール(35)、トルエン(100)、〔剥離試験〕100/100
【実験No.6】〔希釈剤(重量部)〕イソブチルアルコール(65)、ブトキシエタノール(35)、トルエン(150)、〔剥離試験〕100/100」(第8頁の第2表)

4.刊行物4:特開昭59-89330号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第4号証)
(4-1)「プラスチック成形品の表面に、
(1)微粉状酸化ケイ素、
(2)分子中にアクリロイル基またはメタクリロイル基を含有する少なくとも1種の(メタ)アクリレートオリゴマー、および/または
(3)多官能アリルまたはアリリデン化合物と多官能チオールとの配合物、
(4)多官能アクリルまたはメタクリルモノマー、
(5)場合によっては光増感剤、を混合してなる組成物を塗布し、これに活性エネルギー線を照射して硬化させることを特徴とするコーティング法。」(特許請求の範囲)
(4-2)「本発明はプラスチック成形品の表面に、特定の組成物を塗布したのち、活性エネルギー線を照射して硬化塗膜をその表面上に形成させることを特徴とするプラスチック成形品のコーテイング法に係わるものであって、この方法によってプラスチック成形品表面を表面硬度にすぐれ耐久性のあるものとするプラスチック表面強度を改良する表面処理方法を提供するものである。」
(第1頁左下欄第18行〜同頁右下欄第5行)
(4-3)「従来行なわれているプラスチック成形品のハードコートには2つの方法が用いられている。その一つは……。もう一つの方法は蒸着によってプラスチック成形品表面に酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの無機物の皮膜を形成させる方法である。」(第1頁右下欄第12行〜第2頁左上欄第6行)
(4-4)「本発明の特徴とするところは、上記の成分(1)、(2)および/または(3)、および(4)より成る組成物はプラスチック成型品との密着性がよく、耐久性に秀れるのみならず、硬化物の硬度が高い。……。また硬化時間は1秒〜10分間という短時間で充分硬化して上記の様に秀れた特徴を有する保護塗膜が得られる。本発明でオリゴマー成分(2)および/またはモノマー成分(3)に多官能アクリルまたはメタクリルモノマー成分(4)を配合するのは次の理由による。一般にオリゴマー成分(2)やモノマー成分(3)を硬化して得られる重合体はプラスチックとの密着性はすぐれているけれども硬度が不足している。一方、多官能アクリルまたはメタクリルモノマー(4)を硬化して得られる重合物は硬度はすぐれているが、脆くて密着性が不十分である。オリゴマー成分(2)および/またはモノマー成分(3)に多官能モノマー(4)を併用することによって両者の特徴が一層発揮される。」(第2頁右上欄第7行〜同頁左下欄第10行)
(4-5)「上記成分(2)は、反応条件(たとえば、モル比や反応率)を変えることによって、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するものが主成分として得られたり、または両末端に(メタ)アクリロイル基を有するものが主成分として得られるが、本発明においては、1分子中に平均して1.5個、好ましくは2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。……。第(4)成分である多官能アクリルまたはメタアクリルモノマーの例としては、エチレングリコールジアクリレート、……、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスルトールトリアクリレート、ジペンタエリスルトールトリメタクリレート等が挙げられる。第(5)成分である光増感剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ジメトキシアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン、メチルオルソベンジルベンゾエート、アゾビスアルキロニトリル等を挙げることができる。」(第3頁右上欄第5行〜同頁右下欄第14行)
(4-6)「本発明に用いる組成物に配合する他の成分としては、塗装液の粘度を下げて薄く塗布できるような溶剤を用いることが出来る。溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル等が用いられる。」(第4頁左上欄末行〜同頁右上欄第4行)
(4-7)「本発明で用いる活性エネルギー線とは紫外線、X線、ガンマ線、電子線等であり、照射時間としては1秒ないし10分が適当している。」(第4頁左下欄第1〜3行)
(4-8)「本発明方法により得られた塗膜は、次に記す実施例に明らかな如く、プラスチック成形品表面に密着性がよく、硬度が大で、しかも耐久性に富んだ保護膜を形成する。たとえば硬度は鉛筆硬度で2H以上、密着性はゴバン目テストで100/100、耐久性はウエザオメーター試験で500時間以上で変化なしという秀れた成績を示す。」(第4頁左下欄第7〜13行)
(4-9)実施例1、2及び5には、コーティング後紫外線照射で硬化させたフィルムの鉛筆硬度及びゴバン目試験の値が、それぞれ4H〜5H及び100/100であることが記載されている。(第4頁右下欄第12行〜第6頁左下欄末行)

5.刊行物5:特開昭59-86001号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第5号証)
(5-1)「ポリメタクリル酸メチルまたはビスフェノール系ポリカーボネート樹脂を用いて製造したプラスチックレンズの表面に、
(1)微粉状酸化ケイ素、
(2)分子中にアクリロイル基またはメタクリロイル基を含有する少なくとも1種の(メタ)アクリレートオリゴマー、及び/または
(3)多官能アリルまたはアリリデン化合物と多官能チオールとの配合物、
(4)多官能アクリルまたはメタクリルモノマー、及び
(5)場合によっては光増感剤、を混合してなる組成物を塗布し、これに活性エネルギー線を照射して硬化させることを特徴とするコーティング法。」(特許請求の範囲)
(5-2)「本発明は、ポリメタクリル酸メチルまたはビスフェノール系ポリカーボネート樹脂から製造したプラスチックレンズの表面に微粉状酸化ケイ素を含有する硬化性樹脂組成物を塗布したのち、活性エネルギー線を照射してこれを硬化させることを特徴とするプラスチックレンズのコーテイング法に係わりこの方法によって表面硬度、密着性にすぐれ耐久性のある塗膜をレンズ表面に形成させるプラスチックレンズ表面処理方法を提供するものである。」(第1頁右下欄第1〜10行)
(5-3)「従来のレンズのハードコート法には2つの方法が用いられてきた。その一つは、……。もう一つの方法は蒸着による方法であって、レンズ表面に酸化アルミニウム等の無機物の皮膜を形成する方法である。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第8行)
(5-4)「本発明の特徴とするところは、上記のオリゴマー成分(2)及び/またはモノマー成分(3)、とモノマー成分(4)より成る樹脂液に微粉状酸化ケイ素を分散して成る組成物をポリメタアクリル酸メチルまたはビスフェノール系ポリカーボネート樹脂製のプラスチックレンズ表面に塗布し、これを活性エネルギー線の照射によりその場で硬化させることにより、上記プラスチックレンズ表面に透明であり、これ等のプラスチックと密着性よく、更に耐久性に富んだ、保護表面塗膜を形成させるプラスチックレンズ表面コーテイング法を提供するものである。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第2行)
(5-5)「本発明でオリゴマー成分(2)及び/またはモノマー成分(3)に多官能アクリルまたはメタクリルモノマー成分(4)を配合するのは次の理由による。一般にオリゴマー成分(2)やモノマー成分(3)を硬化して得られる重合物はレンズとの密着性はすぐれているけれども硬度が不足している。一方、多官能アクリルまたはメタクリルモノマー成分(4)を硬化して得られる重合物は硬度はすぐれているが、脆くて密着性が不十分である。オリゴマー成分(2)及び/またはモノマー成分(3)に多官能モノマー成分(4)を併用することによって両者の特徴が一層発揮される。……。硬化時間は1秒乃至10分間という短時間で充分に硬化する。本発明に係わる硬化組成物は酸化ケイ素を含有しているので硬度は高く、また樹脂液成分中にモノマー成分(第(4)成分)を含有して架橋度の高い硬化物を与えるので硬化塗膜の硬度及び密着性に秀れている。また、上記の如き短時間の活性エネルギー線の照射によって充分に硬化した保護膜を形成出来るので生産性に極めて秀れている。」(第2頁左下欄第6行〜同頁右下欄第9行)
(5-6)「上記成分(2)は、反応条件(たとえば、モル比や反応率)を変えることによって、片末端に(メタ)アクリロイル基を有するものが主成分として得られたり、または両末端に(メタ)アクリロイル基を有するものが主成分として得られるが、本発明においては、硬化物の皮膜の架橋密度を考慮すると1分子中に平均して1.5個以上、好ましくは2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。……。第(4)成分である多官能アクリルまたはメタアクリルモノマーの例としては、エチレングリコールジアクリレート、……、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスルトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート等が挙げられる。第(5)成分である光増感剤としては、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ジメトキシアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン、メチルオルソベンジルベンゾエート、アゾビスアルキロニトリル等が挙げられる。」(第3頁右上欄第13行〜第4頁左上欄第2行)
(5-7)「本発明に用いる組成物に配合する他の成分としては、塗装液の粘度を下げて薄く塗布できるように溶剤を用いることが出来る。溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル等が用いられる。」(第4頁右上欄第6〜10行)
(5-8)「本発明で用いる活性エネルギー線とは紫外線、X線、ガンマ線、電子線等であり、照射時間としては1秒ないし10分が適当している。」(第4頁左下欄第6〜8行)
(5-9)「本発明方法により得られた塗膜は次に記す実施例に明らかな如くプラスチックレンズ表面に密着性がよく、硬度が大で、しかも耐久性に富んだ保護膜を形成する。例えば硬度は鉛筆硬度で2H以上、密着性はゴバン目テストで100/100,耐久性はウエザオメーター試験で500時間以上の照射で変化なしという秀れた成績を示す。」(第4頁左下欄第12〜18行)
(5-10)実施例1及び3には、コーティング後紫外線で硬化させたフィルムの、鉛筆硬度及びゴバン目試験の値がそれぞれ4H及び100/100であることが記載されている。(第4頁右下欄第1行〜第5頁左上欄第12行及び第5頁左下欄第1行〜同頁右下欄第11行)

6.刊行物6:特開昭61-281133号(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第6号証)
(6-1)「溶剤中にガラス転移温度が30℃以上でかつヒドロキシル価が20〜120であるアクリル樹脂、該アクリル樹脂の硬化剤及び球状α-アルミナを主剤として含有することを特徴とする表面被覆用組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(6-2)「本発明の目的は、高硬度で優れた耐摩耗性を有していると共に、平滑性、密着性及び耐薬品性等の諸特性にも優れている皮膜を形成し得る表面被覆用組成物を提供することにある。また本発明の他の目的は耐摩耗性、耐擦傷性等の表面特性に優れた皮膜を形成し得るため、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性プラスチック成型品のコーテイングに好適に用いることのできる表面被覆用組成物を提供することにある。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第1行)
(6-3)「該アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルエステル等のヒドロキシル基含有モノマー及びヒドロキシル基を含まない(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須成分とするモノマー混合物、或いは該必須成分と、該必須成分と共重合可能なビニルモノマー、例えばスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸等、又はこれらの混合物とを含むモノマー混合物を通常の方法で重合して得られる樹脂である。」(第2頁右下欄第3行〜第15行)
(6-4)「本発明で使用する溶剤は被覆される表面の溶剤劣化を来さないものであれば、特に制限されるものではなく、例としてトルエン、キシレン等の炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、及びメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が挙げられる。」(第3頁左下欄第4〜9行)
(6-5)「(実施例1〜3) 第1表に示した重合用モノマー組成によりトルエン中で……ガラス転移温度とヒドロキシル価の異なるアクリル樹脂のトルエン溶液を得た。このアクリル樹脂溶液にポリイソシアネート化合物……をアクリル樹脂中のヒドロキシ基量と当量となるように添加した後、……球状α-アルミナを……加え高速攪拌を行うことによってそれぞれコーティング材(I)、(II)及び(III)を得た。こうして得たコーティング材をABS樹脂板に30μmとなるようにスプレー塗装し、60℃で60分間乾燥を行った。この方法により得た塗装板の塗膜性能評価結果を第1表に示す。」(第3頁右下欄第14行〜第4頁左上欄11行)

7.刊行物7:特開昭64-90210号公報(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第7号証)
(7-1)「(1)不飽和アルキッド及び/または不飽和エポキシエステルと多官能性(メタ)アクリレートを含むことを特徴とするハードコート組成物」(特許請求の範囲)
(7-2)「・・・不飽和アルキッド及び/又は不飽和エポキシエステルと多官能(メタ)アクリレートを含む組成物をゲルコート用樹脂として使用すると表面硬度が高く、表面乾燥性の良いハードコート成形物が得られることを見いだし、更に、硬化の際、特定の硬化剤及び促進剤を用いると特に好ましいハードコート成形物が得られることを見いだし、本発明に至った。」(第2頁右下欄第18行〜第3頁左上欄第6行)
(7-3)「また、所望におうじ重合禁止剤、重合促進剤、空気遮断剤、無機質充填剤、揺へん剤、顔料、紫外線吸収剤などの添加剤を配合してもよい。」(第4頁右下欄第1〜4行)
(7-4)実施例1〜8には、「25℃硬化1日後」の表面硬度がいずれも4H、「80℃2時間後加熱処理後」の表面硬度が6H〜8Hであることが示されている。(第8頁表2)

刊行物8:機能材料 1989年2月号 第5〜12頁(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第8号証)
(8-1)「3.表面塗布 もっとも一般的な、また古くから行われている方法の一つであり、帯電防止、耐候性改良、表面硬度改良、あるいは軟質塩化ビニル製品の可塑剤移行防止などを目的とした塗布剤が多く開発されている。……。塗膜の強度向上や塗布剤の無溶剤化などのため、電子線(EB)や紫外線(UV)による硬化が近年多く用いられてきている。塗布剤としては、アクリル系のモノマーやオリゴマーが主として使用されている。」(第6頁左欄下から第4行〜同頁右欄第14行)

9.刊行物9:遠藤 剛・吉田晴雄監修「プラスチックレンズの製造と応用」、株式会社シーエムシー、1989年8月28日発行、第10〜12、23〜32、57〜64、130〜133頁(特許異議申立人三井化学株式会社が提出した甲第1号証、特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第9号証)
(9-1)「さらにエチレンと脂環式オレフィンからなるPC並みの耐熱性、光学的等方性、耐薬品性等を有する共重合体も開発されている。」(第11頁第6行〜第7行)
(9-2)「光学異方性の少ない例としては、エチレンと下記の環状オレフィンとの共重合体がある。

非晶質・透明性・耐熱性・耐溶剤性であり、複屈折が極めて小さい。」(第29頁下から2行〜第30頁1行)
(9-3)「最近、APO以外の新規ポリオレフィン系光学材料が発表された。ノルボルネン系モノマーをカチオン重合した後、水素添加して製造される。」(第64頁第1行〜第2行)、
(9-4)「プラスチックはガラスに比較し価格,軽量性,耐衝撃性,易加工性の面で優れた特長を有している反面,特に表面の耐擦傷性,硬度面で劣り,レンズ素材として幅広く使用していくためには,その表面の改良が必要である。・・・レンズとして第一に重要なことは,いうまでもなく使用中に失透せず,常に高い透過率を保つことであり,この観点から現在プラスチックレンズに用いられている表面処理は次の3つが主流である。
(1)耐擦傷性向上のためのハードコート
(2)表面の反射率を低下させ,かつ耐擦傷性も改良した反射防止コート
(3)水の結露による曇りを防止する防曇コート
(註:()付き数字は、原文では丸付き数字)
プラスチックレンズの一般的な表面処理について図13・1に示した。表面硬化法としては,物理的或は化学的な方法により,素材表面に耐擦傷性を有する硬化膜をコートする方法と,あらかじめ内面に架橋硬化膜を形成させた鋳型を用いてキャスト重合する転写法があるが,コーティング法が主流である。」(第130頁第4〜24行)
(9-5)図13には、「プラスチックレンズの表面処理」として「表面硬化」、「反射防止」、「防曇」、「撥水」、「反射増加」が、「表面硬化」として「コーティング法」、「転写法」が、「コーティング法」として「熱硬化法」、「紫外線硬化法」、「電子線硬化法」、「真空蒸着法」、「スパッタリング法」、「イオンプレーティング法」が記載されている。(第131頁)
(9-6)「1.2 ハードコート(耐擦傷性コート)
1.2.1 シリコン系ハードコート
プラスチックレンズのハードコートとして用いられる素材はシリコン系と多官能アクリレート系が一般的である。」(第131頁下から第10行〜下から第7行)
(9-7)「活性エネルギー線を用いる硬化法の中で、プラスチックレンズの表面硬化には紫外線硬化法が一般的であり、アクリル樹脂製レンズなどの表面硬化に多官能アクリレート系ハードコート剤の紫外線硬化法が用いられている。」(第132頁第19〜21行)

10.刊行物10:内尾舜二著「実用プラスチックレンズ」、日刊工業新聞社、1989年12月25日発行、第84〜85頁(特許異議申立人ジェイエスアール株式会社が提出した甲第10号証)
(10-1)「そこで眼鏡用プラスチックの望ましい性質は次のようになる。・・・
(5)(註:5の丸付き文字)表面処理に適していること。プラスチックレンズの表面処理には、次のようにいろいろなものがあって、これらの処理に適していることが望ましい。
a)硬質皮膜処理-有機質の皮膜をつけて表面を硬くするのである。これらの皮膜にはシリコン系、アクリル系、ウレタン系などがある。皮膜の方法には浸漬法、スプレー法などがある。皮膜を硬化させるには、加熱反応や紫外線反応などがある。硬質皮膜はサングラスや老眼鏡のほかにも、PMMAやPCの板状成品の付加価値を高める方法として、広く実施されている。」(第85頁第1〜24行)

11.刊行物11:特開昭61-292601号公報(特許異議申立人三井化学株式会社が提出した甲第2号証)
(11-1)「(1)少なくとも式(1)で示されるモノマー成分を含む重合体であって、重合体中において前記モノマー成分が式(2)で示される構造をとる重合体からなることを特徴とする光学材料。
(1)

(2)

(式中、……いてもよい。)」(特許請求の範囲第1項)
(11-2)「かかる重合体として好ましい態様は、式(1)のモノマー成分と共にα-オレフィン及び/又は式(1)以外の環状オレフィンとからなる共重合体が例示でき、取り分けて好適なものとして重合体の必須成分として式(1)のモノマー及びエチレンを含むものを挙げることができる。」(第3頁左上欄第10〜16行)
(11-3)「重合体の特徴は、式(1)のモノマー成分が重合体中において主として式(2)で示される構造をとっていることであり、これにより重合体の沃素価は通常5以下、多くが1以下である。」(第5頁右上欄第5〜9行)
(11-4)「その他の利用例としてプラスチックレンズがある。」(第6頁右上欄末行〜同頁左下欄第1行)

12.刊行物12:特開昭57-74369号公報(特許異議申立人三井化学株式会社が提出した甲第3号証)
(12-1)「(1)多官能性アクリル系カルボン酸エステルモノマーまたはそのプレポリマー(a)、粉末状無機充填剤(b)および重合開始剤(c)を必須成分として含有することを特徴とする被覆用組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(12-2)「溶剤は前記多官能性アクリル系カルボン酸エステルモノマーまたはそのプレポリマー(a)および前記重合開始剤(c)を溶解するかもしくは均一に分散するものならばいかなる溶剤でも使用することができ、・・・」(第7頁右下欄第10〜14行)
(12-3)「・・・被膜を硬化させる方法としては、・・・電子線による硬化方法、放射線による硬化方法などが例示できる。」(第8頁左下欄第12〜15行)
(12-4)「本発明の被覆用組成物による被膜処理が施される基材はとくに限定されないが、各種のプラスチックス、金属およびセラミックスが好適に用いられる。」(第8頁左下欄末行〜同頁右下欄第3行)
(12-5)「前記基材のいずれに本発明の被覆用組成物よりなる被膜を形成させても、表面硬度、耐引掻き性および耐摩耗性、可とう性などの機械的特性に優れ、かつ耐候性、耐熱性、耐薬品性および表面光沢に優れた被膜を得ることができるという特徴がある。」(第9頁左上欄第14〜19行)

4-2-3.取消理由1について
(1)刊行物3に記載された発明との対比における本件発明1の新規性
刊行物3には、その特許請求の範囲に、「少なくとも一つのシアノ基もしくはシアノ基を含む置換基を有するノルボルネン誘導体(シアノ系ノルボルネン誘導体)から成る開環重合体等の成形物にアクリル系樹脂塗料を塗布するに当り、(i)炭素数1〜4の脂肪族アルコール100重量部と、(ii)(イ)ベンゼン、トルエン、キシレン及び炭素数1〜4の脂肪族ケトンの群から選定した少なくとも一種の溶媒30〜100重量部から成る混合溶媒を希釈剤として使用するノルボルネン重合体成形物の塗装方法」(摘示記載(3-1))が記載されている。この「シアノ系ノルボルネン誘導体から成る開環重合体」は本件発明1における「ノルボルネン系ポリマー」に相当するものであり、同刊行物には、該重合体の成形物に「アクリル系樹脂塗料」を塗布してなる成形物自体の発明も開示されているものと認められる。また、刊行物3に記載された「混合溶媒」は、ベンゼン、トルエン、キシレン等を含み得るものであるから、本件発明1における「芳香族炭化水素系溶剤」に相当するものといえる。そして、刊行物3に記載された「アクリル系樹脂塗料」と、本件発明1における「紫外線硬化型ハードコート剤」とは、いずれも、成形体の表面に被覆層を形成する被覆剤である点で共通するものである。
そうすると、本件発明1と刊行物3に記載された発明とは、ともに、
「ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤を含む被覆剤を塗布してなる被覆層を有するノルボルネン系ポリマー成形品」
である点で一致しているが、刊行物3に記載された発明は、本件発明1における以下の点を備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)ノルボルネン系ポリマーが「熱可塑性飽和」である点、
(い)被覆剤が「紫外線硬化型ハードコート剤」である点、
(う)「塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、ついで紫外線硬化させる」点、
(え)「ゴバン目テストによる接着強度が90%以上」である点、及び
(お)「表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有する」点。

そこで、これらの相違点のうち、まず、(い)の点について検討する。
上記のように、刊行物9には、「プラスチックはガラスに比較し価格,軽量性,耐衝撃性,易加工性の面で優れた特長を有している反面,特に表面の耐擦傷性,硬度面で劣り,レンズ素材として幅広く使用していくためには,その表面の改良が必要である。・・・レンズとして第一に重要なことは,いうまでもなく使用中に失透せず,常に高い透過率を保つことであり,この観点から現在プラスチックレンズに用いられている表面処理は次の3つが主流である。
(1)耐擦傷性向上のためのハードコート
(2)表面の反射率を低下させ,かつ耐擦傷性も改良した反射防止コート
(3)水の結露による曇りを防止する防曇コート
(註:()付き数字は、原文では丸付き数字)
プラスチックレンズの一般的な表面処理について図13・1に示した。表面硬化法としては,物理的或は化学的な方法により,素材表面に耐擦傷性を有する硬化膜をコートする方法と,あらかじめ内面に架橋硬化膜を形成させた鋳型を用いてキャスト重合する転写法があるが,コーティング法が主流である。」(摘示記載(9-4))と記載され、また、「プラスチックレンズの表面処理」として「表面硬化」、「反射防止」、「防曇」、「撥水」、「反射増加」が、「表面硬化」として「コーティング法」「転写法」が、「コーティング法」として「熱硬化法」、「紫外線硬化法」、「電子線硬化法」、「真空蒸着法」、「スパッタリング法」、「イオンブレーティング法」が記載され(摘示記載(9-5))、さらに、「1.2ハードコート(耐擦傷性コート)」(摘示記載(9-6))との項目がある。
また、本件訂正明細書には、「一般に、プラスチック成形品は、使用する用途によって高い表面硬度を必要とする場合がある。例えば、コンパクトディスク、レーザーディスク等の光ディスクでは、直接人間の手に触れて使用されるため、他の物質等と接触して表面にキズが生じると、記録されたメモリーの内容を読み取り間違えるというエラーが発生する。その他、光学用途や包装容器等の分野では、成形品表面にキズが発生すると透明度が低下して好ましくない。一般に、このようなキズができないためには,鉛筆硬度試験(JIS K-5400;1kg荷重)で3H以上が必要である。熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品の表面硬度は、通常1〜2H程度であり、表面硬度を向上させることが望ましい。このため、成形品の表面にハードコート層を設けて、表面の改質を行なうことがある。」(全文訂正明細書第2頁第3〜11行)と記載されている。
そうすると、刊行物9に示された上記技術常識及び訂正明細書の上記記載によれば、本件発明1において、「紫外線硬化型ハードコート剤」を塗布、乾燥、紫外線照射させて得られる「ハードコート層」とは、耐擦傷性コート、すなわち、耐擦傷性を向上させるためにプラスチックの表面に設けられる硬化層のことを意味するものと解するのが相当である。
他方、刊行物3には、「本発明者等の一部はノルボルネン誘導体の開環重合体、開環共重合体及びグラフト共重合体の製造方法に関し既に数多くの提案を行なった・・・これらの重合体の多くは透明で,耐熱性やガス遮断性にすぐれ、かつ、広い温度範囲領域において良好な耐衝撃性をもつ剛性高分子材料として有用である。例えば、シクロペンタジエンとアクリロニトリルから合成した5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体はビカット軟化温度が130〜135℃、抗張力が約500kg/cm2、アイゾット衝撃値が常温で2ft・lb/inノッチ、-30℃で約1.2ft・lb/inノッチと機械的特性、熱的特性ともにすぐれている。このため本重合体の成形品は各種機械部品、自動車などの車輌部品、電気機器或いはハウジング関係、建材関係などの分野への適用に好適である。然るに具体的な適用に際しては装飾、色付けもしくは光沢を出して商品品位を高めたり、耐候性や耐薬品性を改良したりするため成形品に塗装することが一般に行なわれる。本発明者等はノルボルネン誘導体の開環重合体、開環共重合体又はグラフト共重合体の成形物に対する一般のプラスチック材料用塗料として最も多用されているアクリル系樹脂塗料の塗装性を調べたところ、従来方法では塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜と成形物との密着性などに問題があり実用的でないことを確認した。そこでこれらの重合体成形物をアクリル系樹脂塗料で塗装する方法について鋭意研究を重ねた結果,ある特定の組成の希釈剤でアクリル系樹脂を希釈して塗布することにより塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜の密着性などが良好でしかも素地成形物の機械的性質を殆ど損うことのない塗装方法を見出し本発明に到達した。」(摘示記載(3-2))と記載され、実施例として、シアノ系ノルボルネン重合体から成形品を製造し、その引張強度と伸びを測定した結果が記載され(摘示記載(3-5))、同じシアノ系ノルボルネン重合体の成形品にアクリル系樹脂塗料レクラック♯72M、白(藤倉化成(株)製、樹脂主成分アクリル樹脂)で塗装を施したものについて、剥離試験、引張強度、伸び率を測定した結果(摘示記載(3-6))が記載されている。
上記記載によれば、刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は、5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品に対して、装飾、色付け又は光沢を出して商品品位を高めたり、耐候性や耐薬品性を改良したりする目的で行われる塗装に多用される材料であって、塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜の密着性などが良好であり、しかも5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品の伸び率等の機械的強度を損なわない塗膜を形成するものとして位置付けられていることが認められる。
そうすると、刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は、成形品の耐擦傷性を向上する目的で設けられるものでないことは明らかであり、また、成形品の伸び率を含む機械的強度を損なわない塗膜を形成するとされている以上、伸び率を悪化させることが予測される硬化膜を形成するようなものではないと認められる。
そして、刊行物3に記載された発明において、アクリル系樹脂塗料が単に硬い塗膜を形成するというだけでは、この塗膜が施されるプラスチック成形品の耐擦傷性を向上できる程度の硬さを有することにはならないから、アクリル系樹脂塗料の塗膜硬化後のものが本件発明1における「ハードコート層」と異なるものではないと認めることはできず、他に、刊行物3のアクリル系樹脂塗料が被塗装物であるプラスチックの耐擦傷性を向上する硬化層を形成するものであると認めるに足りる証拠はない。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるとすることはできない。

4-2-4.取消理由2について
(1)刊行物1〜7に記載された発明との対比における本件発明1の進歩性
上記のように、刊行物3に記載された発明は、少なくとも本件発明1における、
(い)被覆剤が「紫外線硬化型ハードコート剤」である点
を備えていない。
そこで、この点が刊行物1〜7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものか否かについて以下に検討する。
刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は、5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品に対して、装飾、色付け又は光沢を出して商品品位を高めたり、耐候性や耐薬品性を改良したりする目的で行われる塗装に多用される材料であって、塗装時の作業性、塗膜の光沢性及び塗膜の密着性などが良好であり、しかも5-シアノ-ビシクロ[2,2,1]-ヘプテン-2の開環重合体の成形品の伸び率等の機械的強度を損なわない塗膜を形成するものとして位置付けられていることは上記のとおりであるところ、刊行物3には、アクリル系樹脂塗料に換えて紫外線硬化型ハードコート剤を使用することについて何ら開示ないし示唆するところがない。
一方、刊行物4には、「本発明はプラスチック成形品の表面に、特定の組成物を塗布したのち、活性エネルギー線を照射して硬化塗膜をその表面上に形成させることを特徴とするプラスチック成形品のコーティング法に係わるものであって、この方法によってプラスチック成形品表面を表面硬度にすぐれ耐久性のあるものとするプラスチック表面強度を改良する表面処理方法を提供するものである。」(摘示記載(4-2))と記載され、刊行物5には、「本発明は、ポリメタクリル酸メチルまたはビスフェノール系ポリカーボネート樹脂から製造したプラスチックレンズの表面に微粉状酸化ケイ素を含有する硬化性樹脂組成物を塗布したのち、活性エネルギー線を照射してこれを硬化させることを特徴とするプラスチックレンズのコーテイング法に係わりこの方法によって表面硬度、密着性にすぐれ耐久性のある塗膜をレンズ表面に形成させるプラスチックレンズ表面処理方法を提供するものである。」(摘示記載(5-2))と記載されている。また、一般文献である刊行物8及び9には次の点が記載されている。即ち、刊行物8は、「プラスチックスの表面改質」と題する論文であり、「塗膜の強度向上や塗布剤の無溶剤化などのため、電子線(EB)や紫外線(UV)による硬化が近年多く用いられてきている。塗布剤としては、アクリル系のモノマーやオリゴマーが主として使用されている。」(摘示記載(8-1))と記載され、刊行物9には、「1.2ハードコート(耐擦傷性コート)」として、「活性エネルギー線を用いる硬化法の中で、プラスチックレンズの表面硬化には紫外線硬化法が一般的であり、アクリル樹脂製レンズなどの表面硬化に多官能アクリレート系ハードコート剤の紫外線硬化法が用いられている。」(摘示記載(9-7))と記載されている。
これらの記載によれば、紫外線硬化型の塗料は、プラスチック成形品の表面硬度、耐久性、強度、耐擦傷性等の物性の向上を目的として用いられるものであることが認められるが、上記各刊行物は、いずれも、刊行物3の実施例において確認された、密着性が良好で、かつ、成形品の引張強度と伸び率を悪化させないという性能を有する塗料について記載するものではなく、むしろ、硬度は高いが伸び率が悪いことは硬化(架橋)された樹脂の一般的な傾向であるから、上記各刊行物に記載された硬度が高い塗膜は、成形品の伸び率を悪化させることが予測されるものと認められる。また、刊行物1には、ノルボルネン系重合体を水素添加して得られる重合体から成る光学材料について、「本発明による光学材料には、その表面に、熱硬化法、紫外線硬化法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの方法により、無機化合物、シランカップリング剤などの有機シリコン化合物、アクリル系モノマー、ビニルモノマー、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂などをハードコートすることにより、耐熱性、光学特性、耐薬品性、耐摩耗性、透湿性などを向上させることができる。」(摘示記載(1-4))と記載されているものの、上記記載は、種々の方法で種々の材料から成るハードコート層を形成した場合に、耐熱性、光学特性、耐薬品性、耐摩耗性、透湿性などが向上することを示しているにすぎず、紫外線硬化法によるハードコート層の有する性能について開示したものとは認められない。
以上検討したところによれば、上記各刊行物は、いずれも、刊行物3に記載されたアクリル系樹脂塗料の目的、性能を達成するものとして紫外線硬化型塗料が周知であることを示すものということはできない。また、他の刊行物2、6及び7も、この点が周知であることを示すものではない。
そして、刊行物3におけるアクリル系樹脂塗料は、成形品の耐擦傷性を向上する目的で設けられるものではなく、成形品の伸び率を含む機械的強度を損なわない塗膜を形成するとされている以上、伸び率を悪化させることが予測される硬化膜を形成するようなものではないことは上記のとおりであり、また、刊行物3発明において、アクリル系樹脂塗料が特定の目的で用いられ、特定の性能を達成するものとして位置付けられている以上、プラスチック成形品の表面コートを紫外線硬化型としそれを硬化させることが、上記の目的や性能とは無関係に単に周知であるというだけでは、当業者にとって、刊行物3発明におけるアクリル系樹脂塗料を、紫外線硬化型のものに置換することの動機付けはないというべきである。
したがって、本件発明1は、刊行物8、9に記載された周知事項を加味しても、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)刊行物1及び3〜10に記載された発明との対比における本件発明2の進歩性

本件発明2は、本件発明1におけるものと同様の方法で、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品へハードコート層を形成する、「成形品の製造方法」に係る発明である。
そして、刊行物3に記載された「ノルボルネン重合体成形物の塗装方法」は、「塗布により塗膜層を有するノルボルネン重合体成形物を製造する方法」と言い換えることができるから、本件発明2と刊行物3に記載された発明とは、ともに、
「ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤を含む被覆剤を塗布する被覆層を有する成形品の製造方法」
である点で一致しているが、刊行物3に記載された発明は、本件発明2における以下の点を備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)ノルボルネン系ポリマーが「熱可塑性飽和」である点、
(い)被覆剤が「紫外線硬化型ハードコート剤」である点、及び
(う)「塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させた後、紫外線照射する」点。
そして、これらの相違点のうち(い)の点についての判断は上記のとおりであり、刊行物8〜10の参酌如何によってその判断が影響されるものではない。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び3〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4-2-5.取消理由3について
(1)刊行物9、11及び12に記載された発明との対比における本件発明1及び2の進歩性
刊行物9には、「ノルボルネン系モノマーをカチオン重合した後、水素添加して製造」した光学材料(摘示記載(9-3))が記載されており、一方、「プラスチックレンズの表面処理」として「表面硬化」等が、「表面硬化」として「コーティング法」等が、「コーティング法」として「紫外線硬化法」等(摘示記載(9-5))が記載されているものの、本件発明1及び2のように、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、紫外線硬化型ハードコート剤を塗布してハードコート層を形成することは直接的には記載されていない。また、刊行物9、11及び12のいずれにも、本件発明1及び2のような「芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤紫外線硬化型ハードコート剤」について記載されておらず、接着強度の向上を企図してこのような特定の溶剤を含有する紫外線硬化型ハードコート剤を飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に塗布することを、当業者が容易になし得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1及び2が、刊行物9、11及び12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

4-2-6.他の申立理由について
特許異議申立人 ジェイエスアール株式会社が主張した、
「(1)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1又は2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」
との申立理由は、当審において、取消理由として採用しなかった。
この申立理由について、本件発明1が刊行物1又は2(甲第1又は2号証)に記載された発明であるか否か、更に進んで、本件発明1がこれらの刊行物に記載された発明に他の刊行物に記載された発明を寄せ集めて発明をすることができたものであるか否か、について検討した結果は次のとおりである。
刊行物1には、その特許請求の範囲に、「下記一般式(I)で表わされる少なくとも1種の化合物の重合体または該化合物と他の共重合性モノマーとを重合させて得られる重合体を、水素添加して得られる重合体からなることを特徴とする光学材料。
一般式(I)

[式中AおよびBは……を示す。]」(摘示記載(1-1))
が記載されており、また、「本発明は、ビデオディスク、コンパクトディスク、追記可能な光ディスク、記録・消去・再生可能な光ディスク、プラスチックレンズなどの材料として好適に使用される光学材料に関するものである。」(摘示記載(1-2))及び「本発明による光学材料には、その表面に、熱硬化法、紫外線硬化法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの方法により、無機化合物、シランカップリング剤などの有機シリコン化合物、アクリル系モノマー、ビニルモノマー、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂などをハードコートすることにより、耐熱性、光学特性、耐薬品性、耐摩耗性、透湿性などを向上させることができる。」(摘示記載(1-4)と記載されている。この一般式(I)で表される化合物の重合体を水素添加して得られる重合体は、本件発明1における「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー」に相当するものであり、刊行物1には、このような材料からなる光学材料を光ディスク、レンズ等の成形体として用いること、及び、紫外線硬化法等の方法により(シリコーン樹脂以外の)アクリル系モノマー等をハードコートすることにより、耐摩耗性などを向上させることができることが開示されているものといえる。
そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、ともに、
「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、紫外線硬化させて得られたハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品」
である点で一致しているが、刊行物1に記載された発明は、本件発明1における以下の点を備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。

(か)紫外線硬化型ハードコート剤が「芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む」点、
(き)「塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ」、ついで紫外線硬化させる点、
(く)「ゴバン目テストによる接着強度が90%以上」である点、及び
(け)「表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有する」点。

そして、本件発明1は、特に(か)の点により接着強度が向上したハードコート層が得られるという訂正明細書に記載された作用効果を生ずるものであるから、この点には充分な技術的意義が認められ、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1が、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
また、取消理由に引用した他の刊行物の記載事項をみると、ノルボルネン系重合体基材への塗布剤の溶剤として芳香族炭化水素系溶剤を用いることが開示されているのは刊行物3のみである。詳細には、刊行物3の特許請求の範囲には、「少なくとも一つのシアノ基もしくはシアノ基を含む置換基を有するノルボルネン誘導体(シアノ系ノルボルネン誘導体)から成る開環重合体等の成形物にアクリル系樹脂塗料を塗布するに当り、(i)炭素数1〜4の脂肪族アルコール100重量部と、(ii)(イ)ベンゼン、トルエン、キシレン及び炭素数1〜4の脂肪族ケトンの群から選定した少なくとも一種の溶媒30〜100重量部から成る混合溶媒を希釈剤として使用するノルボルネン重合体成形物の塗装方法」(摘示記載(3-1))が記載されているが、上記4-2-3.で判断したとおり、この「アクリル系樹脂塗料」は、成形品の耐擦傷性を向上する目的で設けられるものでなく、伸び率を悪化させることが予測される硬化膜を形成するようなものではないから、本件発明1における「紫外線硬化型ハードコート剤」とは全く別異の塗布剤であるというべきである。その上、刊行物3に記載された「ノルボルネン誘導体(シアノ系ノルボルネン誘導体)から成る開環重合体」と刊行物1に記載された飽和ノルボルネン系ポリマーとは、構造上、同一のものということができない。そして、刊行物3に記載されたものは、特許請求の範囲に記載された特定の被塗装基材に特定の溶剤(希釈剤)を含有する塗布剤を用いたことにより、良好な塗膜の密着性等が得られる(摘示記載(3-2))ものである。
そうすると、塗布剤及び被塗装基材のいずれもが異なる刊行物1と3の塗装方法において、一方の塗布剤の溶剤のみを他方の塗布剤に適用すべき理由はなく、それにより同様の効果を生ずることは予測し得ないものというべきであるから、刊行物1に記載された発明と刊行物3に記載された発明とを結合することが、当業者にとって容易になし得たものとすることはできない。
更に、刊行物2には水素添加したノルボルネン系重合体が記載されているにとどまり、本件発明1が刊行物2に記載された発明でないことはもとより、刊行物3に記載された発明を組み合わせても、本件発明1が容易になし得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1及び2は、刊行物1又は2に記載された発明であるとすることができないばかりでなく、これらの刊行物に記載された発明及び刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ハードコート層を有する成形品およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品。
【請求項2】熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分で乾燥させた後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、接着強度に優れ、硬度の高いハードコート層を設けた熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品およびその製造方法に関する。本発明の方法により得られる成形品は、特に、光学用材料として好適である。
〔従来の技術〕
従来、例えば、光ディスク基板やプラスチックレンズ等の光学用透明プラスチック成形材料として、ポリカーボネート(PC)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)が主として用いられてきた。しかしながら、PCは複屈折が大きく、また、PMMAは吸水性が大きく、耐熱性も不十分であり、ますます高度化する要求に応えることが困難となってきている。
最近、ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物やノルボルネン系モノマーとエチレンとの付加型ポリマーのような熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーが、光ディスク基板などの光学用プラスチック成形材料として注目をあびてきている(特開昭60-26024号、同64-24826号、60-168708号、61-115912号、同61-120816号など)。
熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーは、透明性に優れ、複屈折が小さく、耐熱性、耐吸水性等にも優れており、光学用に非常に有用な材料である。さらに、該ポリマーは、強度、耐水性、電気絶縁性、耐溶剤性、酸やアルカリ等への耐薬品性にも優れており、光学用途以外にも、電気絶縁材料、容器やフィルム等の耐湿包装材料としても有用である。
しかしながら、該材料からなる成形品は、汎用のハードコート剤との濡れが悪く、密着性が不十分で、硬化したあとのハードコート層が成形品から剥がれてしまうという問題があり、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上、表面硬度が鉛筆硬度で3H以上のハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品およびその製造方法は、これまで知られていなかった。
一般に、プラスチック成形品は、使用する用途によって高い表面硬度を必要とする場合がある。例えば、コンパクトディスク、レーザーディスク等の光ディスクでは、直接人間の手に触れて使用されるため、他の物質等と接触して表面にキズが生じると、記録されたメモリーの内容を読み取り間違えるというエラーが発生する。その他、光学用途や包装容器等の分野では、成形品表面にキズが発生すると透明度が低下して好ましくない。一般に、このようなキズができないためには、鉛筆硬度試験(JIS K-5400;1kg荷重)で3H以上が必要である。熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品の表面硬度は、通常1〜2H程度であり、表面硬度を向上させることが望ましい。
このため、成形品の表面にハードコート層を設けて、表面の改質を行なうことがある。さらに、透明プラスチック成形品にハードコート層を設けることにより、プラスチックの持つ透明性や美観を長期間維持し、かつ、優れた耐薬品性、耐汚染性を付与することができるため、プラスチックの応用範囲の拡大にもつながり、ガラスの代替をはじめ、自動車部品、電気・電子機器関連部品、建材、家具用など多面的な用途展開が可能である。
このようなハードコート層は、基材と十分強く接着している必要がある。基材との接着強度については、通常、ゴバン目テストで試験することができる。このゴバン目テストは、基材表面に形成されたハードコート層の上から、カッター等の鋭利な刃物で1mm間隔でタテ、ヨコ各11本の切れ目を入れ、1mm四方のゴバン目を100個作り、所定の粘着テープをしっかり押し付けた後、該粘着テープを90°方向に剥し、剥離しなかった目の数を%で表わすものである。常用においては、ゴバン目テストで少なくとも90%以上、好ましくは100%の接着強度が要求される。
ところで、汎用のハードコート剤は、シリコーン系ハードコート剤と有機系ハードコート剤とに大別できる。
シリコーン系のハードコート剤は、シラン化合物の部分加水分解物であり、120℃で1時間程度という比較的高温での加熱硬化処理が必要となるため、プラスチック基材が微妙に熱変形し、精度が要求されるプラスチック成形品用には適していない。
一方、有機系のハードコート剤には、メラミン系、アルキッド系、ウレタン系およびアクリル系の塗料を加熱硬化するタイプと、多官能アクリル系塗料を紫外線硬化するタイプとがある。前者は取り扱いが容易であるが、硬さや耐候性が劣るという欠点がある。後者は、硬さや生産性に優れ、紫外線硬化のため加熱による樹脂への影響は少ない。したがって、透明プラスチック成形品のハードコート剤としては、紫外線硬化型の多官能アクリル系ハードコート剤が適している。
紫外線硬化型の多官能アクリル系ハードコート剤は、多官能アクリルモノマーおよび/またはオリゴマーと光重合開始剤、その他の添加剤を含み、無溶剤または溶剤(シンナー)で希釈したものである。
汎用の透明プラスチックであるPCやPMMAでは、紫外線硬化型ハードコート剤のシンナーとして、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤が用いられている。
ところが、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品に、上記シンナーを使った紫外線硬化型ハードコート剤を適用しても、硬化後のハードコート層と成形品との接着性が悪く、容易に剥がれてしまう。これは、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーが一種のオレフィン樹脂であるため、表面の濡れが悪く、また、耐薬品性が高いために、界面を越えて互いに相手相の中に拡散するということがなく分子のからみあいが起きにくいためである。このように、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーは、ポリエチレンポリプロピレン等のオレフィン樹脂同様に、接着や薬品による表面処理を行ない難い材料の一つである。
したがって、従来、接着性に優れた表面硬度の高いハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品およびその有効な製造法は知られていなかった。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は、接着性に優れた表面硬度の高いハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品およびその製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、溶剤(シンナー)として芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を用いた紫外線硬化型ハードコート剤を用いることにより、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品表面との接着力が飛躍的に改善されたハードコート層を形成できることを見出した。
さらに、ハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品が、生産性よく得ることができ、透明性、表面硬度、耐光性が良好であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
〔課題を解決するための手段〕
かくして、本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分乾燥させ、次いで紫外線硬化させて得られた、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層(シリコーン系ハードコート層を除く)を有することを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品が提供される。
また、本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品の表面に、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を塗布し、該塗膜を60〜120℃で3〜60分で乾燥させた後、紫外線照射することを特徴とするハードコート層を有する成形品の製造方法が提供される。
以下、本発明について詳細に説明する。
(熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー)
本発明が対象とする成形材料は、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーであって、具体例としては下記一般式〔I〕および/または〔II〕で表される構造単位を有する重合体を挙げることができる。
一般式〔I〕

〔ただし、式中、R1およびR2は、水素、炭化水素残基、またはハロゲン、エステル、ニトリル、ピリジルなどの極性基で、それぞれ同一または異なっていてもよく、また、R1およびR2は互いに環を形成していてもよい。nは、正の整数である。qは、0または正の整数である。〕
一般式〔II〕

〔ただし、式中、R3およびR4は、水素、炭化水素残基、またはハロゲン、エステル、ニトリル、ピリジルなどの極性基で、それぞれ同一または異なっていてもよく、また、R3およびR4は互いに環を形成していてもよい。lおよびmは正の整数で、pは0または正の整数である。〕
一般式〔I〕で表される構造単位を有する重合体は、単量体として、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5-メチル-2-ノルボルネン、5,6-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン等:ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン、これらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル置換体、およびハロゲン等の極性基置換体:ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチリデン-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-クロロ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-シアノ-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-ピリジル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-メトキシカルボニル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンの3〜4量体、例えば、4,9:5,8-ジメタノ-3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-1H-ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9-トリメタノ-3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a-ドデカヒドロ-1H-シクロペンタアントラセン等を使用し、公知の開環重合方法により重合して得られる開環重合体を、通常の水素添加方法により水素添加して製造される飽和重合体である。
また、一般式〔II〕で表される構造単位を有する重合体は、単量体として、前記のごときノルボルネン系モノマーと、エチレンを公知の方法により付加共重合して得られる重合体および/またはその水素添加物であって、いずれも飽和重合体である。
分子量の範囲は、シクロヘキサンを溶剤とするGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)分析により測定した数平均分子量で1〜20万が適当である。た、分子鎖中に残留する不飽和結合を水素添加反応により飽和させる場合には、耐光劣化や耐候劣化性などから、水添率は90%以上が好ましい。
また、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーは、重合体〔I〕および〔II〕の製造過程で、α-オレフィンやシクロオレフィンなどの他のモノマー成分を共重合したものであっても構わない。
また、使用目的に合わせて他の樹脂とブレンドして用いる場合にも、本発明の方法は有効である。
さらに、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーに帯電防止剤、老化防止剤、ガラス繊維等のフィラー、染料、顔料などの添加剤を添加して得た成形品にも、本発明の方法は有効である。
本発明に係わる熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーの成形品の成形方法には、特に制約は無く、例えば、光ディスクやレンズのように射出成形によって得られるもの、チューブや棒状に溶融押出成形したもの、溶融押出してロールで巻き取ったシートやフィルム、熱プレスによりシート状に成形したもの、溶剤溶液をキャストして得られるフィルム、さらに延伸による延伸フィルムなどが挙げられる。
(紫外線硬化型ハードコート剤)
紫外線硬化型ハードコート剤は、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーと光重合開始剤が必須成分となっている。
反応性モノマーとしては、アクリレート類がその主なものであるが、具体的には、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシプロピルアクリレート、その他の高級アルキルアクリレート等の単官能アクリレートモノマー類;スチレン、ビニルピロリドン等のその他の単官能モノマー類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、テトラメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類に2個以上のアクリレートが結合した多官能アクリレートモノマー類;などを挙げることができる。反応性オリゴマーとしては、末端にアクロイル基を持つポリエステルアクリレート、分子鎖中にエポキシ基かつ末端にアクロイル基を持つエポキシアクリレートまたはポリウレタンアクリレート、分子鎖中に二重結合を持つ不飽和ポリエステル、1,2-ポリブタジエン、その他のエポキシ基またはビニルエーテル基をもつオリゴマーを挙げることができる。
光重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、塩素化アセトフェノン等のアセトフェノン類;ベンゾフェノン類;ベンジル、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾイン類;α,α′-アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビスプロパン、ヒドラゾン等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド等の有機パーオキサイド類;ジフェニルジサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジベンゾイルサルファイド等のジフェニルジサルファイド類;等を挙げることが出来る。
本発明においては、これら反応性モノマーおよび/または反応性オリゴヤーと光重合開始剤を特定の溶剤(シンナー)で希釈して用いることが必要である。
すなわち、溶剤として、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素系溶剤から選択される少なくとも一種の溶剤を使用する。
これらの溶剤の添加量は、反応性オリゴマー、反応性モノマー、光重合開始剤、その他の添加剤を合せた総重量に対して、通常、重量比で0.05〜20倍、好ましくは0.1〜10倍、さらに好ましくは0.15〜5倍である。0.05倍未満では添加量が少すぎて接着性改善効果が得られない。逆に、20倍より多い場合には、硬化成分が希薄過ぎて十分な表面硬度を得るのに必要な厚みを持った膜が得られない。
目的とするハードコート剤を得るためには、これらの反応性オリゴマー、反応性モノマー、光重合開始剤、溶剤を個別に準備して調製してもよいが、市販の紫外線硬化型ハードコート剤を上記溶剤で希釈して用いてもよい。
さらに、粘度を調製したり、接着力を向上させることを目的として、適当な熱可塑性ポリマーを加えてもよい。
一般的に類似の構造を持ったポリマーどうしは相溶性が良く、濡れが良いため、接着力を向上することを目的として、熱可塑性ポリマーを添加するのであれば、構造式〔I〕または〔II〕で表されるポリマーと類似の構造を持ったポリマーを用いるのが効果的である。具体的には、式〔I〕または式〔II〕で表されるノルボルネン系ポリマー自体や、ジシクロペンタジエン系、ジエン系、脂肪族系、芳香族系、ウォーターホワイト系などの石油樹脂またはこれらの水添物等が適当である。
また、表面の帯電性やその他の特性を改善するための各種の界面活性剤を添加してもよい。この場合、界面活性剤は透明で、ハードコート剤との相溶性の良いもの、具体的には、非イオン系界面活性剤、特に、アミン系界面活性剤が適している。
その他に、熱重合禁止剤、光重合禁止剤、粘着性付与剤、充填剤等を適宜使用してもよい。
(使用方法)
熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品にハードコート剤を塗布し、溶剤を乾燥し、紫外線を照射することにより、硬化したハードコート層が形成される。
塗布条件には、特に制約は無く、スプレー、浸漬、スピンコート、ロールコーター等すべての塗布方法が可能である。
塗布する厚さは、乾燥後の厚さで2〜300μmであることが好ましい。この範囲よりも薄い場合には、強度の強いハードコート層が得られず、十分な表面硬度の改良硬化が得られない。この範囲よりも厚い場合には、乾燥や硬化反応に時間がかかって、生産性が悪くなり、また、硬化不十分でハードコート層の強度が薄い場合よりも低下する場合や、ハードコート層が硬くなりすぎて割れることがある。
塗布面は十分に乾燥させる必要がある。溶剤を多量に含んだまま硬化させると、塗膜にクラックが発生しやすく、また、高硬度の塗膜が得られない原因にもなる。乾燥温度と時間は、使用する溶剤の種類、塗布量、接着面の形状によっても異なるが、基材の熱変形がないように、おおむね120℃以下で、かつ、十分に乾燥できるように条件を決定すればよい。具体的には60〜120℃で、3〜60分程度の乾燥が適当である。高温で乾燥したあとは、室温で10秒〜10分程度の冷却を行ない、ほぼ室温近くまで冷却することが好ましい。
その後、高圧水銀灯などの紫外線を効率的に発生する光源から紫外線を照射することにより、硬化が短時間で起こり、硬度の高いハードコート層が形成される。紫外線の照射量は、反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤の反応性によっても異なるが、通常、80W/cmの高圧水銀灯の場合、5〜10秒程度の短時間で硬化させることができる。
〔実施例〕
以下に実施例、参考例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。なお、物性測定方法は次のとおりである。
<ゴバン目テスト>:
成形品表面に形成されたハードコート層の上から、カッターにより1mm間隔でタテ、ヨコ各11本の切れ目を入れて1mm四方のゴバン目を100個作り、セロハン粘着テープ(積水化学社製)を貼り、該粘着テープを90°方向に剥して、剥離しなかった目の数を%で表わした。
<鉛筆硬度>:JIS K-5400にしたがって、1kg荷重で測定した。
[参考例1]
6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン(MTD)の開環重合体の水添物(数平均分子量28,000、水添率ほぼ100%、ガラス転移温度152℃)を射出成形して、厚さ2mm、直径100mmの円板を作成した。この成形物の鉛筆硬度は2Hであった。
[参考例2]
反応性モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート100g、光重合開始剤(チバガイギー社製、商品名イルガキュア184)3g、およびトルエン40gを混合撹拌しハードコート剤を調製した。
[実施例1]
参考例1で作成した円板を、参考例2で調製したハードコート剤中に浸し、ゆっくりと引き上げてハードコート剤を全面に塗布した。
ハードコート剤を塗布した円板を100℃の温風乾燥機で10分間乾燥し、次いで20℃で5分間静置した後、80W/cmの高圧水銀灯で10cmの距離から5秒間紫外線を照射して硬化した。
硬化したハードコート層を有する円板(成形物)表面の鉛筆硬度を測定したところ、5Hに改良されていた。また、ハードコート層の表面に、所定のゴバン目を作って、セロハン粘着テープを貼り、剥がしたところ、ハードコート層は剥がれず、良好な接着性(接着強度100%)を示した。
[参考例3]
トルエンの代わりに酢酸ブチル50gを用いた以外は、参考例2と同様にしてハードコート剤を調製した。
[比較例1]
参考例1で作成した円板に、参考例3で調製したハードコート剤を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
ゴバン目テストを行ったところ、テープに接した面の内90%が剥離した(接着強度10%)。
[参考例4]
MTDとジシクロペンタジエン(DCP)との混合モノマー(MTD/DCP=70/30モル比)を開環重合して得た共重合体の水添物(数平均分子量27,000、水添率ほぼ100%、ガラス転移温度133℃)を射出成形して、参考例1と同様の円板を作成した。
成形物表面の鉛筆硬度は1Hであった。
[参考例5]
反応性モノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート100g、光重合開始剤(チバガイギー社製、商品名イルガキュア184)3g、ジシクロペンタジエン系水添石油樹脂(トーネックス社製、商品名エスコレッツ5300)50g、界面活性剤(東邦化学工業社製、商品名SA-300)1g、およびトルエン100gを混合撹拌してハードコート剤を調製した。
[実施例2]
参考例4で作成した円板に、参考例5のハードコート剤を塗布したこと以外は実施例1と同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
成形物表面の鉛筆硬度を測定したところ、3Hに改良されていた。また、ゴバン目テストを行なったところ、ハードコート層が剥離することはなかった(接着強度100%)。
[参考例6]
MTDとエチレンとの付加共重合体(エチレン含量モル60%、数平均分子量32,000、ガラス転移温度130℃)を射出成形して、参考例1と同様の円板を作成した。成形物の鉛筆硬度は2Hであった。
[実施例3]
参考例6で作成した円板に、参考例2で調製したハードコート剤を塗布したこと以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
成形物表面の鉛筆硬度を測定したところ、5Hに改良されていた。また、ゴバン目テストを行なったところ、ハードコート層が剥離することはなかった(接着強度100%)。
[参考例7]
紫外線硬化型樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名ユニディック17806)100g、光重合開始剤(チバガイギー社製、商品名イルガキュア184)3g、シクロヘキサン30gおよびトルエン100gとを混合撹拌しハードコート剤を調製した。
[実施例4]
参考例1で作成した円板に、参考例7で調製したハードコート剤をスピンコート法により塗布したこと以外は、実施例1と同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
成形物表面の鉛筆硬度を測定したところ、5Hに改良されていた。また、ゴバン目テストを行ったところ、ハードコート層が剥離することはなかった(接着強度100%)。
[参考例8]
紫外線硬化型樹脂(根上工業社製、商品名ART RESIN UN-3340)100gと光重合開始剤(チバガイギー祉製、商品名イルガキュア184)3gとを混合撹拌しハードコート剤を調製した。
[比較例2]
参考例1で作成した円板に、参考例8で調製したハードコート剤をロールコーターにより塗布したこと以外は、実施例1同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板9を得た。ゴバン目テストを行なったところ、テープに接した面の内70%が剥離した(接着強度30%)。
[参考例9]
さらにトルエン100gを加えた以外は、参考例8と同様にしてハードコート剤を調製した。
[実施例5]
参考例1で作成した円板に、参考例9で調製したハードコート剤をスピンコート法により塗布したこと以外は、実施例1同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
成形物表面の鉛筆硬度を測定したところ、5Hに改良されていた。また、ゴバン目テストを行なったところ、ハードコート層が剥離することはなかった(接着強度100%)。
[参考例10]
市販の紫外線硬化型ハードコート剤(日本合成化学社製、商品名ゴーセラック UV-1164)100gにトルエン20gを加えて撹拌しハードコート剤を調製した。
[実施例6]
実施例1で作成した円板に、参考例10で調製したハードコート剤をスピンコート法により塗布したこと以外は、実施例1同様にして紫外線硬化したハードコート層を有する円板を得た。
成形物表面の鉛筆硬度を測定したところ、5Hに改良されていた。また、ゴバン目テストを行ったところ、ハードコート層が剥離することはなかった(接着強度100%)。
以上の実施例および比較例から明らかなように、本発明によって、ゴバン目テストによる接着強度が90%以上であって、かつ、表面硬度(鉛筆硬度)が3H以上のハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品を初めて得ることができた。また、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる成形品にハードコート剤を適用する場合に、ハードコート剤として、芳香族炭化水素系溶剤および/または脂環族炭化水素系溶剤を含む紫外線硬化型ハードコート剤を用いると、良好な接着力を有するハードコート層の得られることが分かる。
なお、実施例において、基材として熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーの射出成形による円板状の試験片を用いたが、ハードコート層の密着性の大小は材質によって決まるため、成形方法、成形品の形状あるいは材料の分子量により本発明が制約を受けるものでないことは明らかである。
〔発明の効果〕
本発明により、接着強度および表面硬度の高いハードコート層を有する熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー成形品を提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-10-21 
出願番号 特願平2-293161
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08J)
P 1 651・ 121- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 柿崎 良男
特許庁審判官 井出 隆一
佐藤 健史
船岡 嘉彦
中島 次一
登録日 2000-02-25 
登録番号 特許第3036818号(P3036818)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 ハードコート層を有する成形品およびその製造方法  
代理人 大井 正彦  
代理人 中嶋 重光  
代理人 山口 和  

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