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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A01G
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01G
管理番号 1091446
異議申立番号 異議2003-70924  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-09-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-08 
確定日 2003-11-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3337191号「松茸菌と椎茸菌との融合キノコおよびその原基培養方法ならびにその栽培方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3337191号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続きの経緯
平成 8年3月19日 出願(特願平8-90174号)
平成14年8月 9日 設定登録(特許第3337191号、請求項9)
平成15年4月 7日 本件特許異議の申立て(請求項1、2に対して)
平成15年6月30日 異議申立書副本送付
平成15年9月 2日 取消理由通知
平成15年9月 9日 特許異議申立人に対する意見書
平成15年9月30日 意見書及び訂正請求書

第2.訂正の適否についての判断
I.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は、本件特許明細書を平成15年9月30日付け訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち次のとおりに訂正しようとするものである。
イ.明細書の【発明の名称】の「松茸菌と椎茸菌との融合キノコおよびその原基培養方法ならびにその栽培方法」を、「松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法」と訂正する。
ロ.明細書の【0001】の「本発明は、松茸菌と椎茸菌との融合キノコおよび該融合キノコの原基培養方法ならびにその栽培方法」を、「本発明は、松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法」と訂正する。
ハ.明細書の【0009】の「本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合マツタケは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gのものも得られる。収量とすれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は見込めるのであり、新品種のキノコである。また、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能である。」を、「本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合キノコは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gのものも得られる。収量とすれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は見込めるのであり、新品種のキノコである。また、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能である。」と訂正する。
ニ.明細書の【0015】の「本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合マツタケは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gものも得られる。本発明方法によれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は可能であり、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能であって、工場大量生産に適すると云う大きな特徴がある。」を、「本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合キノコは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gものも得られる。本発明方法によれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は可能であり、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能であって、工場大量生産に適すると云う大きな特徴がある。」と訂正する。

II.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
これらの訂正事項について検討する。
訂正事項イ、ロは、発明の名称及び発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲に整合させようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項ハ、ニについて検討すると、訂正前の明細書【0009】及び【0015】の「この融合マツタケ」は、前出の「融合キノコ」を指していることは明らかであるから、これらの訂正事項は、誤記の訂正を目的とするものと認められ、いずれも願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

III.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項に規定する訂正の目的を満たすものであり、かつ同条第3項において準用する第126条第2、3項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。

第3.特許異議申立についての判断
I.異議申立ての概要
異議申立人は、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出し、本件請求項1、2に係る各特許発明は、特許法第29条第2号、特許法36条第4項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法113条第2項、第4項の規定により取り消すべきものであると主張している。
異議申立書をみると、「証拠の説明」と「本件特許発明と証拠の対比」の記載が矛盾しており、申立の理由は必ずしも明確ではないが、異議申立書および証拠全体からみて、申立の理由の主旨は、概略次のようなものであると認められる。
理由1:請求項1、2には、甲第1、2号証に記載のような細胞融合の過程、融合の特徴、融合の証拠に関する記載がなく、さらに甲第5号証に「融合による近縁種間の雑種形成では、子実体が形成されたのは、交配可能な異種融合のみである。」ことが記載されていることからみて、請求項1、2に係る発明により栽培されたキノコは、融合した確証もないまま出来た未完成のものであり、さらに当該キノコは甲第6号証又は甲第7号証に示されるように椎茸菌だけの特徴が顕著であって、甲第3、4号に記載されている松茸菌の特徴は何もない。
そして、請求項1、2に係る発明の原基培養方法又は栽培方法は、甲第1号証等が掲載された刊行物に記載されているような従来の椎茸栽培方法とほとんど同じであるから、請求項1、2に係る発明は、特許法第29条第2号の規定により特許を受けることができない。
理由2:本件請求項1、2に係る発明に関して、発明の詳細な説明には、細胞融合の核心の部分は何一つ明確に且つ詳細に記載されていないから、本件請求項1、2に係る発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:「最新バイオテクノロジー全書7 きのこの増殖と育種」農業図書株式会社 1992年9月14日発行 298頁左欄32行〜右欄20行
甲第2号証:同294頁左欄11行〜13行
甲第3号証(1)(原文は丸数字、以下同じ):同292頁右欄10行〜20行
甲第3号証(2):「新特産シリーズ マツタケ 果樹園感覚で殖やす育てる」社団法人農山漁村分化協会 1997年3月20日発行 64頁図2-15、図2-16
甲第4号証(1):「最新バイオテクノロジー全書7 きのこの増殖と育種」農業図書株式会社 1992年9月14日発行 292頁右欄21行〜23行
甲第4号証(2):「マツタケの生物学」築地書館株式会社 1978年12月20日発行 185頁1行〜5行
甲第5号証:「キノコとカビの基礎科学とバイオ技術」株式会社アイピーシー 2002年7月20日発行 270頁4〜5行
甲第6号証:大分県きのこ研究指導センター研究部主任研究員野上友美氏の撮影した走査型電子顕微鏡による、分離培養した菌糸、種、菌床及び子実体の写真及び分離培養した菌糸の観察結果
甲第7号証:奈良県森林技術センター副所長渡辺和夫氏の撮影した、子実体、コロニーの写真及び菌糸体蛍光顕微鏡写真
甲第8号証:有限会社東洋きのこ研究所(特許権者)と株式会社ミック(異議申立人)との新品種きのこ(特許出願番号平8-90174、特許出願公開番号平9-252647 発明の名称;松茸菌と椎茸菌との融合きのこ及びその原基培養方法とその栽培方法)の製造及び販売を実施許諾するにあたって締結された契約書のコピー

II.本件請求項1、2に係る発明
本件の請求項1、2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】 広葉樹の鋸屑に白土、腐葉土を混合し、これにビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめるとともに、少量の消石灰を混和して殺菌処理したものを培地となし、この培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種し、室内温度15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、さらに培養することで培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなしてさらに所要日数培養することで培地表面にキノコ原基が形成されるものであることを特徴とする松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法。
【請求項2】 広葉樹の鋸屑に白土、腐葉土を混合し、これにビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめるとともに、少量の消石灰を混和して殺菌処理したものを培地となし、この培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種し、室内温度15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、さらに培養することで培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなしてさらに所要日数培養することで培地表面にキノコ原基が形成された後に、培地を取り出し水洗いしてから菌糸培養所に移し室内温度を12℃〜20℃に調節することで数日後に培地表面より皮膜を破ってキノコが発生するものであることを特徴とする松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。」

III.特許法第29条第2項についての判断
1.刊行物の記載事項
異議申立人の提出した甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証(1)、甲第4号証(1)は、いずれも「最新バイオテクノロジー全書7 きのこの増殖と育種」に関するものであるので、以下、これを「刊行物1」という。
また、甲第3号証(2)、甲第4号証(2)、甲第5号証を、それぞれ、「刊行物2」、「刊行物3」、「刊行物4」という。

(1)刊行物1には、シイタケの栽培に関して次のように記載されている。
「おが屑培地に菌糸が繁殖し,光線が当たると,表面に褐色の被膜が形成し,きのこが発生するようになる。」(183頁左欄下から2行〜右欄下から15行)
「(3)培地の調整
a.材料
おが屑(培地基材)と栄養材料(培地添加物)を混合し,水を加え,培地を調整する。
i)おが屑
……現段階では,広葉樹のおが屑の使用が無難であるといえる。……
ii)栄養材料
新鮮な米ぬか,ふすま,トウモロコシぬか,専用の栄養体などが使われている。」(184頁左欄5〜21行)
「c.培地の滅菌
培地を詰めた袋,びんを高圧型または常圧型の釜に入れて,蒸気滅菌をする。」(同頁右欄15〜17行)、
「a.接種
……培地を入れた袋,びんのキャップまたは栓をはずして,培地の表面と孔に種菌を落下させる。」(185頁左欄2〜15行)
「ii)空調による培養
……室温は,培養前半20℃,培養後半25℃前後にするか,または培養初期18〜20℃,培養中期20〜22℃,培養後期20℃にする。培養期間は,1.2Kgの菌床では80〜100日,2.5Kgの場合120日前後である。培養完了の20〜30日前までは暗くてよいが,それ以降は10lxの光線を照射し,被膜および原基の形成を促す。」(185頁右欄26〜35行)
「イ 空調による発生
1.2Kgまたは2.5Kgの菌床を,袋やびんに入れたまま15℃前後,……換気装置付きの室内の棚に並べる。2〜3日後に,菌床を露出させて十分に散水する。……その後,乾いた良いきのこを育てるために,温度を12〜13℃にするとともに,散水を控えて湿度を落す。棚に並べてから15日前後で収穫できる。収穫が終ると,20℃前後で,湿度や明るさ等が発生室に準ずる施設の棚に移し,5〜7日に1回菌床がぬれる程度に散水し,その表面を乾かないようにして20日前後休養させた後,切り残した袋や底びんを取り除き,24時間浸水し,発生室に戻してきのこを再収穫する。」(186頁左欄29行〜右欄6行)。
また、マツタケの栽培に関して次のように記載されている。
「マツタケの菌糸を顕微鏡で見ると,細胞と細胞をくぎる隔壁が不明瞭である。また担子菌類の二核菌糸の特徴であるクランプコネクションが見られない。しかし,核染色を行ってみると,1個の細胞には核が2個ずつ入っており(写真22-3),二核菌糸であることがわかる。マツタケの仲間はすべてクランプコネクションがないので,交配したことを確認するためには,核を染色しなければならず,育種を困難にさせる原因の一つとなっている。」(292頁右欄10行〜20行)、
「マツタケの菌糸の生長はきわめて遅く,最適条件下でも1カ月に5〜10mm伸長するだけである。代謝活性が低く,呼吸量も小さい。」(同頁右欄21行〜23行)、
「酸性土壌を好むマツタケは弱酸性でよく生長し,pH4.5〜5.5が最適である。生育温度範囲は5℃〜30℃で,最適は22℃〜25℃,死滅温度は30℃である。このような性質は菌根菌に一般的なもので,マツタケ特有のものではない。」(293頁左欄22〜26行)、
「マツタケの菌糸を土壌や多孔質体の支持体に栄養液をしみこませて植えると,よく伸びる。これまでに子実体原基ができたとされているのは,頁岩の風化した鉱質土壌やバーミキュライトなどである。」(同頁右欄18〜22行)、
「通常,マツタケの菌糸を樹木の根に接種したり,大量培養するときは,バーミキュライトや桐生砂,日向土,山土などが用いられる。材料の大きさをフルイでそろえ,液体培地を加える。」(同頁右欄33〜36行)、
「細胞融合や遺伝子操作によって育種を行うためには,菌糸の細胞壁を酵素で溶かしてプロトプラストにしなければならない。」(294頁左欄11行〜13行)
「菌糸を土壌などの固形物に植え,温度や培養条件を変えると,稀に子実体原基とよべるものが出てきた。しかし,これまでの実験では再現性がなく,完全なマツタケになったためしはない。もし,物理的条件をかえることによって発生する程度のものなら,これまでにもほかのきのこで偶然成功した例があってもおかしくないはずである。問題はもっと本質的なところ,共生菌の遺伝的性質にあるように思える。残念ながら,そのような研究はまだ緒についたばかりである。
マツタケとシイタケを細胞融合させてマツタケをつくるとか,遺伝子組み換えはどうかといった話をよく耳にする。細胞融合について言えば,担子菌の菌糸内の核は通常,1核ずつ別個に行動していて,減数分裂の直前にしか合体しないので,子実体形成をし,胞子をつくらなければ,新しいものができたとはいいきれない。最近,細胞融合によってヒラタケとヤナギマツタケの間の雑種ができ,子実体も形成したという報告があったが,証明が不十分であり,本当の雑種を形成させるためには,さらに研究を進めなければならないようである。担子菌の中には1核の状態でも十分子実体形成できるものがあるので,親和性のないものの核は置きざりにされるおそれもある。細胞融合や遺伝子組み換えで合体をはかる以前に,子実体形成のメカニズムを明らかにし,分化誘導の方法を完成させておかなければならない。」(298頁左欄32行〜右欄20行)。
これらの記載によれば、刊行物1には、
「広葉樹のおが屑に栄養材料を混合し、殺菌処理したものを培地となし、この培地に種菌を接種し、培養前半20℃,培養後半25℃前後で培養し、80〜120日間培養することで培地表面にキノコ原基を形成させ、その後に、培地に散水するか又は浸水処理し発生室で室内温度を12〜13℃に調節しキノコを発生させるシイタケ栽培方法」及び
「バーミキュライトや桐生砂、日向土、山土などの支持体に栄養液をしみこませて培地となし、この培地にマツタケの菌糸を植え、生育温度範囲5℃〜30℃で、最適は22℃〜25℃で培養するマツタケ栽培方法」の発明が開示されていると認める。
(2)刊行物2には、64頁の図2-15にマツタケの菌糸の写真が掲載され、「直径は数μ……,細い糸状の構造をしており,途中枝分かれしながら伸びる。」と説明されている。
また、64頁の図2-16には、ワカフサタケ属のキノコの菌糸の写真が記載され、「シイタケやヒラタケなどの菌糸に見られる。このようなクランプコネクションはマツタケの菌糸には見られない。」と説明されている。
(3)刊行物3には、マツタケの培養温度に関して、
「コロニーの直径が一ミリメートル伸長するのに必要な日数で生育温度を測定した浜田氏の結果はつぎのとおりである。菌糸の生育可能範囲は五〜二八度で、低温側では七度で一ミリメートル伸びるのに四八日かかり、一〇度で二七日、一五度で八日、一八度から二六度の間で三〜四日かかり、最適温度は、二〇〜二三度であった。高温側では二八度で一八日かかり、三〇度では菌糸が伸なくなった。」(185頁1行〜5行)と記載されている。
(4)刊行物4には、
「2)近縁種間の雑種形成
「近縁種間で交配不能が主な障壁になっているような場合は、融合すれば再生する組合せがあり得る。……担子菌異種融合の報告も幾つかあるが、子実体が形成されたのは、交配可能な異種(後に亜種とされた)融合のみである。」(270頁2〜5行)と記載されている。

2.対比、判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1には「広葉樹のおが屑に栄養材料を混合し、殺菌処理したものを培地となし、この培地に種菌を接種し、培養前半20℃,培養後半25℃前後で、所定日数培養することで培地表面にキノコ原基を形成させるシイタケの原基培養方法」及び「バーミキュライトや桐生砂、日向土、山土などの支持体に栄養液をしみこませて培地となし、この培地にマツタケの菌糸を植え、生育温度範囲5℃〜30℃で培養するマツタケ栽培方法」の発明が開示されているが、本件請求項1に係る発明を特定する事項、特に、広葉樹の鋸屑に白土、腐葉土を混合した培地に、松茸菌と椎茸菌を混合接種し、請求項1に規定される特定の温度条件下において培養することについては、記載も示唆もない。
また、上記特定事項については、刊行物2ないし4にも何ら記載されていないし示唆もない。
すなわち、刊行物2には、マツタケのキノコの菌糸について、刊行物3には、マツタケの培養温度について、刊行物4には、担子菌の異種融合について記載されているにすぎず、請求項1に記載の特定の培養方法については記載も示唆もない。
そして、本件請求項1に係る発明は、上記特定事項により、香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよいキノコ(段落【0009】参照)の原基が得られるとの、明細書記載の特有の作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(2)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明を特定する事項を全て含み、さらにキノコ原基の形成後、培地表面からキノコを発生させる工程を付加したキノコの栽培方法であるから、請求項1に係る発明について述べたのと同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

IV.特許法第36条第4項についての判断
本件の請求項1、2に係る発明は、上記第3.IIに記載のとおりの融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法に係るものである。
そして、訂正後の本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】ないし【0008】には、融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法に関する、培地の種類、栄養材料、殺菌処理方法、松茸菌と椎茸菌との混合割合、培養温度、原基発生方法および原基の培養方法が具体的に説明され、段落【0010】ないし【0014】には、発明の実施の形態が詳細に記載されているのであるから、発明の詳細な説明には、請求項1、2に係る発明が、当業者が容易に実施しうる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
なお、異議申立人は、本件請求項1、2に係る発明は、融合キノコの細胞融合の核心の部分を何一つ明確に且つ詳細に記載することなくまた融合した確証もない旨、主張する。
しかし、本件の請求項1、2に係る発明は、キノコの原基培養方法および栽培方法であって、「融合キノコ」とは、請求項1、2に記載の特定の培養方法および栽培方法により得られた、「香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい」キノコを意味しており、細胞融合により得られるキノコではないことは明らかである。
したがって、細胞融合に関して明確に且つ詳細に記載されていないから、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとの異議申立人の主張は妥当でない。
また、異議申立人の提出した甲第6号証ないし甲第8号証によっても上記判断は左右されない。

第4.むすび
以上のとおり、異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 広葉樹の鋸屑に白土、腐葉土を混合し、これにビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめるとともに、少量の消石灰を混和して殺菌処理したものを培地となし、この培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種し、室内温度15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、さらに培養することで培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなしてさらに所要日数培養することで培地表面にキノコ原基が形成されるものであることを特徴とする松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法。
【請求項2】 広葉樹の鋸屑に白土、腐葉土を混合し、これにビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめるとともに、少量の消石灰を混和して殺菌処理したものを培地となし、この培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種し、室内温度15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、さらに培養することで培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなしてさらに所要日数培養することで培地表面にキノコ原基が形成された後に、培地を取り出し水洗いしてから菌糸培養所に移し室内温度を12℃〜20℃に調節することで数日後に培地表面より皮膜を破ってキノコが発生するものであることを特徴とする松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【請求項3】 前記請求項2に記載の融合キノコの栽培方法にて、キノコを採取した後の菌床を約二週間程度休ませた後に数日程度水にどぶ浸し、水切りしたものを室内温度12℃〜20℃に調節して培養することで数日後に培地表面より再度キノコが発生するものであることを特徴とする松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【請求項4】 前記の、培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種して培養をするときの室内温度を18℃〜20℃に保持するものであることを特徴とする請求項1に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法。
【請求項5】 前記の、培地が白色の菌糸で覆われ、培地表面に凹凸ができた後の、培地表面が黒褐色に色づく迄培養をするときの室内温度を20℃〜25℃となすことを特徴とする請求項1に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法。
【請求項6】 前記の、培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種して培養するときの室内温度を18℃〜20℃に保持するものであることを特徴とする請求項2に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【請求項7】 前記の、培地が白色の菌糸で覆われ、培地表面に凹凸ができた後の、培地表面が黒褐色に色づく迄培養をするときの室内温度を20℃〜25℃となすことを特徴とする請求項2に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【請求項8】 前記の、培地表面にキノコ原基が形成された後に培地を取り出し水洗いしてから菌糸培養所に移して培養をするときの室内温度を15℃〜18℃となすことを特徴とする請求項2に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【請求項9】 前記の、請求項2に記載の融合キノコの栽培方法にて、キノコを採取した後に再度キノコを発生させるときの室内温度を15℃〜18℃となすことを特徴とする請求項3に記載の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、松の根に寄生する菌根菌たる松茸菌と死物寄生的性格の椎茸菌との融合キノコと云うことは不可能とされていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、松茸菌と椎茸菌との融合キノコを得て、培養し易く大量生産的に人工栽培をなし得るキノコを得ることを念願し、多年の研究実験の結果この融合キノコを得ることに成功した。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本願発明方法により、所要培地に、松茸菌と椎茸菌とを所要割合で混入接種して松茸菌と椎茸菌との融合キノコを得たのである。この融合キノコは本物の松茸に比し香りはうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、歯ごたえも充分あり、味もよい。
【0005】
この松茸菌と椎茸菌との融合キノコに於ては、前記の松茸菌と椎茸菌との配合割合が重量比で2:8乃至5:5であることが好ましい。例えば松茸菌2〜5に対して椎茸菌が8〜5の割合で混合するものとする。なお、これらの松茸菌および椎茸菌は粉末状であっても良く、また、液体状であっても良い。
【0006】
本発明の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法は、櫟(クヌギ)、楢(ナラ)、山毛欅(ブナ)、椎(シイ)などの広葉樹の鋸屑に(実施例では2kgに対し)家庭園芸用に市販されている白土と腐葉土(各々等量で合計400g)を混合し、これに栄養分として、ビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめると共に、少量の消石灰を混和し混ぜ合わせてポリ袋に入れて殺菌処理したものを培地となし、該培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌とを所要割合(重量比で2:8乃至5:5)で混入接種し、室内温度15℃〜25℃(好ましくは、18℃〜20℃)に保持して約2ヶ月後に培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、更に培養することで約3ヶ月後に培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなして(好ましくは20℃〜25℃となして)更に所要日数(約2週間以上)培養することで培地表面にキノコ原基が形成されると云うものである。
【0007】
本発明の松茸菌と椎茸菌との融合キノコの栽培方法は、前記のように、広葉樹の鋸屑に白土と腐葉土を混合し、これにビタミン、ミネラル、糖分等を含有せしめると共に、少量の消石灰を混和して殺菌処理したものを培地となし、該培地に粉末状の松茸菌と椎茸菌を所要割合で混入接種し、室内温度15℃〜25℃に保持して培地が白色の菌糸で覆われ培地表面に凹凸ができ、更に培養することで培地表面が黒褐色に色づいた後には、室内温度を前記室内温度よりは約5℃以下程度は高いが28℃よりは低温のものとなして更に所要日数培養することで培地表面にキノコ原基が形成された後に、培地を取り出し水洗いしてから菌糸培養所に移し室内温度を12℃〜20℃(好ましくは15℃〜18℃)に調節することで数日後に培地表面より皮膜を破ってキノコが発生すると云うものである。
【0008】
前記のようにして融合キノコを発生させこれが4〜5日程度で所要の大きさに生長したものを採取した後の菌床は再利用できる。すなわち、融合キノコを採取した後の菌床を約二週間程度休ませた後に数日程度水にどぶ浸し、水切りしたものを室温温度を12℃〜20℃(好ましくは15℃〜18℃)に調節して培養することで数日(4〜5日)後に培地表面より再度キノコが発生するのである。このようにすれば、3回まではキノコが得られる。
【0009】
【作用】
本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合キノコは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gのものも得られる。収量とすれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は見込めるのであり、新品種のキノコである。また、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能である。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る松茸菌と椎茸菌との融合キノコは前記の通りのものであって、その原基培養方法および栽培方法の実施例を次に述べる。
櫟(クヌギ)、楢(ナラ)、山毛欅(ブナ)、椎(シイ)などの広葉樹の鋸屑(大きさ2mm〜3mm)約2kgに、白土(とみやま園芸製として市販されているもの)と松林の腐葉土をそれぞれ等量で合計400gを混和し、これに栄養分として、米糠200g、糖分コーン20〜30g、フスマ100g、食品添加物としての塩化カルシウム〔CaCl2・2H2O〕(製造元片山化学工業株式会社)5g、油粕100g、ビタミンBとしてエビオス(アサヒビール薬品株式会社製)5〜8gを混合して、更に消石灰〔Ca(OH)2〕5〜10gを加え、水を加えてミキサーで充分に攪拌しポリ袋などのポリ容器に収容し常圧殺菌をし、室温に迄自然冷却したものを培地とする。
【0011】
次に、前記ポリ袋の口を開き、粉末状の松茸菌と椎茸菌とを重量比で2:8の割合で培地上部に混入接種する。この松茸菌と椎茸菌とは、松茸・椎茸の傘の裏の襞(ヒダ)を採り、液状葡萄糖を栄養分として加えた寒天培地にて菌糸を増殖させて採取したものを使用した。
【0012】
前記のキノコ菌の接種の完了後直ちにポリ袋の口を閉じて室内温度を18℃〜20℃に保持して培養する。約2ヶ月後に培地が白色の菌糸で覆われ、培地表面にあばた状の凹凸の隆起ができ、更に培養することで約3ヶ月後に培地表面が黒褐色に色づく。この後は、室内温度を20℃〜25℃となして培養すると3週間で培地表面にキノコ原基が形成された。
【0013】
このようにして培養地表面にキノコ原基が形成された後には、ポリ袋を破って培地を取り出し水洗いしてキノコ発生の準備をする。即ち、菌糸培養所(菌床培養棚)に移し室内温度を15℃〜18℃に調節することで1週間後に培地表面より皮膜を破ってキノコが発生した。
【0014】
前記のようにして融合キノコを発生させこれが4〜5日程度で所要の大きさに生長したものを採取した後の菌床は再利用できた。即ち、融合キノコを採取した後の菌床を約2週間程度休ませた後に2〜3日程度水にどぶ浸し、水切りしたものを室温温度を15℃〜18℃に調節して培養することで4〜5日後に培地表面より再度キノコが発生した。このようにすれば、3回までキノコが得られた。
前記の実施例は松茸菌と椎茸菌の融合割合が2:8であるが、この融合割合を5:5となしたものも実験し、収穫量が減少した点を除いては前記と同様の結果が得られた。
【0015】
【発明の効果】
本発明は、前記のようにして、初めて松茸菌と椎茸菌との融合キノコが得られたのである。香りは本物の松茸に比しうすいが、姿形は本物の松茸によく似て茎部は太く長く、繊維も充分にあり歯ごたえも充分であり且つ味もよい。この融合キノコは、小さいものでも一本20g〜30g、大きいものでは50g〜80gものも得られる。本発明方法によれば一箇の菌床から300g〜700gの収穫は可能であり、キノコ栽培の室内に空調の設備をすれば、周年栽培が出来、毎日のキノコ収穫が可能であって、工場大量生産に適すると云う大きな特徴がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-31 
出願番号 特願平8-90174
審決分類 P 1 652・ 121- YA (A01G)
P 1 652・ 536- YA (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 佳代子  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 白樫 泰子
山口 由木
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3337191号(P3337191)
権利者 有限会社東洋きのこ研究所
発明の名称 松茸菌と椎茸菌との融合キノコの原基培養方法およびその栽培方法  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 安倍 逸郎  
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