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審決分類 審判 全部申し立て 産業上利用性  G01C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
管理番号 1091532
異議申立番号 異議2003-71447  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-03 
確定日 2004-02-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第3353029号「最小コスト経路探索方法およびシステム」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3353029号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許出願 平成 9年 7月25日
特許権設定登録 平成14年 9月20日
特許異議申立て 平成15年 6月 3日(申立人 比嘉道子)


2.本件発明

特許第3353029号の請求項1〜6に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのものである(以下、本件発明1〜6という。)。

【請求項1】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかから有効な経路を探索する方法において、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記リンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索することを特徴とする最小コスト経路探索方法。

【請求項2】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかで任意の経路における最小コストとなる経路をコンピュータ装置により探索する方法において、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記リンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索する方法によって求められた最小コスト経路において、異なる路線と接続する1以上の新リンク(元のネットワークにおけるリンク対)を使用禁止にしてダイクストラ法を用いて経路探索し、有効代替経路を求めることを特徴とする最小コスト経路および有効代替経路探索方法。

【請求項3】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかから有効な経路を探索するコンピュータシステムにおいて、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記のリンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索する手段を備えたことを特徴とする最小コスト経路探索システム。

【請求項4】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかで任意の経路における最小コストとなる経路をコンピュータ装置により探索するコンピュータシステムにおいて、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記リンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索する方法によって求められた最小コスト経路において、異なる路線と接続する1以上のリンク対(新リンク)を使用禁止にしてダイクストラ法を用いて経路探索し、有効代替経路を求める手段を備えたことを特徴とする最小コスト経路および有効代替経路探索システム。

【請求項5】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかから有効な経路を探索する方法において、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記リンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索することを特徴とする最小コスト経路探索方法を記録したコンピュータ用記録媒体。

【請求項6】ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的点に到達する組み合わせのなかで任意の経路における最小コストとなる経路をコンピュータ装置により探索する方法において、(1)ノードに対する入リンクと出リンクを対とするリンク対のコストを前記出リンクとリンク間遷移コストの和とし、(2)前記リンクを新ノード、前記リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、(3)前記新ネットワークに対してダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索する方法によって求められた最小コスト経路において、異なる路線と接続する1以上の新リンク(元のネットワークにおけるリンク対)を使用禁止にしてダイクストラ法を用いて経路探索し、有効代替経路を求めることを特徴とする最小コスト経路および有効代替経路探索方法を記録したコンピュータ用記録媒体。

3 特許異議申立てについて

3-1 申立の理由の概要

特許異議申立人比嘉道子は、

(A)本件特許発明は、ノード、リンク、ネットワークなどで定義づけられる仮想モデルを用いてダイクストラ法で経路を検索するものであり、単なる人為的な取り決めに過ぎず、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によったものではないので、
自然法則を利用した技術思想の創作に該当しない。
との理由で、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、本件の請求項1-6に係る発明の特許は特許法第113条第2項に該当するので取り消されるべきものであり、

(B)甲第1〜甲第3号証(下記刊行物1〜3)を提示して、本件の請求項1-6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから特許法第113条第2項に該当するので取り消されるべきものであり、

(C)本件明細書及び図面は、
(1)請求項1-6に係る発明は、それぞれ方法、システム、コンピュータ記憶媒体の発明であるが、請求項に係る発明に対応する技術的手順又は機能が抽象的に記載してあるだけで、その手順又は機能がハードウェア或いはソフトウェアでどのように実行又は実現されるか記載されていないので、請求項に係る発明を実施できない。

(2)請求項3及び4に係る発明はシステムの発明であるが、発明の詳細な説明においてこのシステムの機能ブロック図が提示されておらず、又、コンピュータシステムによって実現されることは記載されていない。

(3)請求項5及び6に係る発明はコンピュータ用記憶媒体の発明であるが、発明の詳細な説明において、コンピュータ用記憶媒体が記載されていない。

(4)請求項2,4,6に係る発明において「コンピュータ装置により探索する」と記載されているが、これらの発明がコンピュータ装置により探索されることは記載されておらず、コンピュータ装置の具体的手段も記載されていない。

(5)請求項1及び2に係る発明は方法の発明であるが、発明の詳細な説明において、フローチャートが提示されていないので、特許法第36条第2項の規定に違反する。

(6)請求項3及び4に係る発明はシステムの発明であるが、詳細な説明においてこのシステムの機能ブロック図が提示されていないので、特許法第36条第2項の規定に違反する。

(7)請求項1及び2に係る発明は方法の発明であるが、各ステップにおける動作の主体が特定されている訳ではないので、請求項1,2に係る発明が不明確となって請求項1,2に係る発明が明確に把握できない。

(8)請求項5及び6に係るの発明はコンピュータ記録媒体の発明であるが、「プログラム」は、コンピュータを手段として機能させるものではあるが、「プログラム」そのものが「手段」として機能するものではない。従って、「プログラム」そのものが機能手段を備えていることはあり得ず、「最小コスト経路を探索することを特徴とする最小コスト経路探索方法を記録したコンピュータ用記録媒体」では、請求項に係る発明を明確に把握することができない。

との理由で、特許法第36条第4項、第6項第1号、第2号の規定に適合しておらず、本件の請求項1-6に係る発明の特許は特許法第113条第4項に該当するので取り消されるべきものである
旨主張している。


3-2 特許法第29条第1項柱書きの規定について

本件発明は、ダイクストラ法という数理計画上の手法を利用するものではあるが、純粋数学そのものではなく、例えば鉄道などの交通経路の経路検索への利用という具体的な産業上の利用性を有したものであって、かつ、出発点から目的点への経路という空間上に存するものの検索・選択に関して移動に伴う所要量を表すコストが小さなものを高速に検索し選択できるという技術的効果を奏するものであるから、単なる人為的な取り決めではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するものである。


3-3 特許法第36条第4項、第5項第1号、第2号の規定に適合しているかどうかについて

(1)について
発明の詳細な説明には、当業者が請求項1-6に係る発明を実施しうる程度の具体的な記載がある。

(2)について
段落0072に「小さなメモリ容量のシステムでも使用できる。」と記載されており、
段落0046に「処理はコンピュータの内部処理として行われる」と記載されていることから、システムによって実現されることは実質的に記載されている。

(3)について
段落0046に「処理はコンピュータの内部処理として行われる」と、段落0068に「本発明ではネットワークを新ネットワークに書き換えるアルゴリズムは・・・、アルゴリズムが非常に簡単であり、プログラム化が容易である。」と、段落0069に「ダイクストラ法を一つのサブルーチン化しておけば、どのようなネットワークに対しても対応が可能であり、処理時間もきわめて速い。」と記載され、サブルーチン化したコンピュータのプログラムを用いることが示されており、サブルーチン化したコンピュータのプログラムを用いた処理をコンピュータの内部で実行するためにはプログラムが記録されたコンピュータ用記憶媒体からプログラムを読み取って用いることが通常のことであるので、コンピュータ用記憶媒体は発明の詳細な説明の記載ないし示唆から読みとれるものである。

(4)について
段落0046に「処理はコンピュータの内部処理として行われる」と記載され、段落0067に「使用するメモリ容量は代替経路数に依存しない。・・・代替経路数の数にもよるが、通常利用者が必要とする経路数では、探索に要する処理時間はほとんど必要としない。」と記載されていることから、コンピュータ装置により探索することは、発明の詳細な説明の記載から読みとれるものである。

(5)について
請求項1,2に係る発明は明確である。フローチャートの提示がないからといって、請求項1,2に係る発明が不明確となってはいない。

(6)について
請求項3,4に係る発明は明確である。システムの機能ブロック図が提示されていないからといって、請求項3,4に係る発明が不明確となってはいない。

(7)について
請求項1,2に係る発明が、プログラム化されたアルゴリズムによりコンピュータ装置の処理として探索する方法であることは明らかであり、請求項1,2に係る発明は不明確ではない。

(8)について
請求項5,6に係る発明は明確である。請求項5,6は、「プログラム」そのものが「手段」として機能するものとして記載されたものではない。


3-4-1 刊行物に記載された発明

刊行物
刊行物1(甲第1号証):特開平7-244798号公報
刊行物2(甲第2号証):グラフ理論(フランク・ハラリィ)
1972年6月初版第2刷発行 共立出版 102頁-120頁
刊行物3(甲第3号証):特開平8-292058号公報


刊行物に記載された発明又は事項

刊行物1:段落0024には、「「アークコスト」とは、当該リンクを通過するときの走行時間であるリンクコストに、退出リンクに出るための接続コストを加算したものをいう・・・。ここでアークというのは、・・・リンクの始端ノードの直後から次のリンクの始端ノードの直後までをいう」と記載されており、刊行物1には、「ノードとリンクで構成され、リンク間遷移コストを含むネットワークに対して、出発点から目的地に到達する組み合わせのなかから有効な経路を探索する方法において、ノードに対する入リンクと出リンク(退出リンク)を対とするリンク対のコストを、前記入リンク(当該リンクを通行するときの走行時間であるリンクコスト)とリンク間遷移コスト(接続コスト)の和(アークコスト)とする」ことが示されている。
また、段落0007には、「本発明の目的は、できるだけ差異のある複数の経路を取得することができる複数経路取得方法を提供することである。」と記載され、請求項1には、「複数のリンクのいずれかを特定しその通行を規制して、前記計算開始リンクから、前記通行を規制されたリンクからつながる最適経路トリーの存在する規制領域に存在する各リンクに到る準最適経路トリーを取得する」と記載されており、「差異のある複数の経路を取得するという目的を達成するために、根リンクの一つを規制して経路を取得すること」が記載されている。

刊行物2:「グラフGの線集合Xを,V(G)の(線の両端の2点のなす)2点部分集合の集合族と考えるとき、交グラフΩ(X)のことを,Gの線グラフ(line graph of G)とよんで、これをL(G)で表わす。したがって、L(G)の点はGの線であり」(103頁2行〜4行)と記載されている。

刊行物3:段落0005に「経路探索手段5は、ダイクストラ法等の計算手法により・・・出発地から目的地への最短経路を作成する。」とありダイクストラ法を用いて最小コスト経路を探索することが記載されている。


3-4-2 刊行物に記載された発明との対比・判断

本件発明1-6と刊行物1ないし3に記載された発明とを対比すると、先ず次の点で両者は相違する。
本件発明1-6は「リンクを新ノード、リンク対を新リンクとし、前記新ノードと前記新リンクからなる新ネットワークを構築し、新ネットワークに対して最小コスト経路を探索する」手法を用いるものであるのに対して、刊行物1ないし3に記載された発明には、この手法が記載されておらず、また、示唆もされていない。

そして、本件発明1-6は、上記手法をダイクストラ法と共に用いることにより、明細書の発明の効果の欄に記載されたとおりの効果を得るものである。

したがって、本件発明1-6は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


4.結論
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-16 
出願番号 特願平9-213935
審決分類 P 1 651・ 536- Y (G01C)
P 1 651・ 537- Y (G01C)
P 1 651・ 121- Y (G01C)
P 1 651・ 14- Y (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 牧 初
村上 哲
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3353029号(P3353029)
権利者 株式会社ナビタイムジャパン
発明の名称 最小コスト経路探索方法およびシステム  
代理人 豊田 正雄  

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