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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  G03F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G03F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03F
管理番号 1093210
異議申立番号 異議2003-70378  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-12 
確定日 2004-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3312653号「フォトマスク」の請求項1乃至8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3312653号の請求項1乃至8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3312653号の請求項1乃至8に係る発明は、平成2年12月26日に特許出願され、平成14年5月31日にその特許権の設定登録がなされ、その後、斎藤順一より特許異議の申立がされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月7日に特許異議意見書が提出され、さらに、審尋に対し、被請求人から平成15年12月26日付けの回答書が提出されたものである。

2.本件特許発明
本件特許第3312653号(平成2年12月26日出願、平成14年5月31日設定登録)の請求項1乃至8に係る発明は(以下、「本件発明1」、・・・、「本件発明8」という。)、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】照明光に対して透明な基板上に、遮光性の材質を配置することによって形成されたパターンを有するフォトマスクであって、前記パターンは、前記照明光に対する所定の透過率を持たせた所定厚さの遮光性の材質の第1層で形成された第1部分と、遮光性の材質の前記第1層に更に遮光性の材質の第2層を重ねて形成され、前記第1部分に隣り合う位置に配置される第2部分と、不要な反射を低減させるための反射防止手段とを備え、前記第1層は位相シフト層を含む複数層構造であることを特徴とするフォトマスク。
【請求項2】請求項1のフォトマスクにおいて、前記第1部分は、遮光性の材質を所定の厚さに形成することによって、前記遮光性の材質に前記所定の透過率を持たせて形成されることを特徴とするフォトマスク。
【請求項3】請求項1又は2のフォトマスクにおいて、前記第1層を形成する遮光性材質と、前記第2層を形成する遮光性材質とが異なることを特徴とするフォトマスク。
【請求項4】請求項3のフォトマスクにおいて、前記第1層を形成する遮光性材質がクロムであり、前記第2層を形成する遮光性材質がタングステン・シリサイドであることを特徴とするフォトマスク。
【請求項5】請求項1乃至4いずれかのフォトマスクにおいて、前記反射防止手段が、前記第2層の表面、および、前記第1層の表面に形成された反射防止膜であることを特徴とするフォトマスク。
【請求項6】請求項5のフォトマスクにおいて、前記反射防止膜は、酸化クロム、又は、二酸化珪素で形成されることを特徴とするフォトマスク。
【請求項7】請求項1乃至6いずれかのフォトマスクは、さらに、エッチング防止手段を有することを特徴とするフォトマスク。
【請求項8】 請求項1乃至7いずれか一項記載のフォトマスク上に形成された前記パターンは回路パターンであって、前記フォトマスクに前記照明光を照射して基板上に前記パターンの像を形成することによって、前記パターンを前記基板上に転写する工程を含む回路素子製造方法。

2.特許異議申立ての理由の概要
異議申立人の異議申立書における主張は、概要以下のとおりである。
(1)特許法第29条の2違反
本件発明1〜8は、本件特許の出願の日前に出願され、本件特許出願後に公開された先願明細書である甲第1号証(特開平4-25841号公報)に記載された発明である。
(2)特許法第29条第1項第3号又は第2項違反
本件発明1〜8は、甲第2号証(米国特許第4890309号明細書)又は甲第3号証(特開平2-211451号公報)に記載された発明であり、または甲第2号証及び/又は甲第3号証記載の発明に基づき、当業者ならば容易に発明し得るものである。
(3)特許法第36条第3項、第4項違反
本件特許明細書は、特許法第36条第3項、第4項に規定する要件を満たしていない。
(4)要旨変更を前提とした特許法第29条第1項第3号又は第2項違反
本件特許出願の平成14年3月6日付の手続補正が要旨変更であることを前提として、本件発明1〜8は、甲第10号証(特開平7-128840号公報)または本件特許出願の公開公報である特開平4-223464号公報に記載された発明であり、または、甲第10号証及び/又は特開平4-223464号公報記載の発明に基づき、当業者ならば容易に発明し得るものである。

3.引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消しの理由に引用した本件特許の出願の日前に出願され、本件特許出願後に公開された先願明細書である甲第1号証(特開平4-25841号公報)には以下の事項が記載されている。
(a1)「特許請求の範囲
(1)主開口部と、前記主開口部に対する透過光の位相及び透過率が異なる補助開口部とを備えたマスク装置。
(2)補助開口部の透過光の位相が主開口部に比べて180°異なるとともに、光透過率が小さいことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のマスク装置。」(第1頁「特許請求の範囲」)
(a2)「第1図は、本発明の一実施例におけるマスク装置の構成図を示すものである。第1図において、21は回路パタンを転写する主開口部、31は主開口部21による回折光を低減する本発明による補助開口部である。」(第2頁左上欄14-18行)
(a3)「第3図(b)は、本発明によるマスク装置による0.6μmの正方形パタンの開口部の投影像の、第1図のa-b切辺に於ける像面強度のシミュレーション結果を示す。本発明によるマスク装置によって、マスクパタンの開口部の転写像の光強度のコントラストを著しく改善できる。」(第2頁右上欄第12-17行)

また、当審が通知した取消しの理由に引用された甲第2号証(米国特許第4890309号明細書)の第6コラム第7行-22行には、要約すると以下の事項が記載されている。
(b1)「ガラスや石英の基板14に、掘り込み部16を形成して紫外線を減衰させずに通過させる透過部(開口部)とし、この掘り込み部16以外の領域の表面に非常に薄い金属薄膜15を形成し、この金属薄膜15を形成した部分を、通過紫外線の位相をずらすとともに通過紫外線を減衰させる位相シフト部分にした位相シフトマスク」

同じく、当審が通知した取消しの理由に引用された甲第3号証(特開平2-211451号公報)には、以下の事項が記載されている。
(c1)「リソグラフィ光を遮る様に設けられたマスク層と、このマスク層に隣接して設けられた第1の透過領域と、この第1の透過領域に隣接し前記第1の透過領域を透過するリソグラフィ光に対して位相が180°シフトする様に設けられた第2の透過領域とを具備したことを特徴とする露光マスク。」(第1頁左下欄第6〜11行、特許請求の範囲の請求項1)、
(c2)「第3図は、本発明の第2の実施例の位相シフト法を用いた露光マスクの断面図である。
リソグラフィ光が透過するマスク基板8上には、リソグラフィ光の位相をシフトさせる位相シフタ9が形成されている。更に、このシフタ9上には所定のパターンを得るためにはマスク層10が形成されている。以上の様に形成された露光マスクにおいて、露出した位相シフト9の部分が第1の透過領域となり露出したマスク基板8の部分が第2の透過領域になっている。また、光源の波長をλ、位相シフタ9の屈折率をnとすると、第1の透過領域である位相シフタ9を透過するリソグラフィ光に対して、第2の透過領域であるマスク基板8を透過するリソグラフィ光の位相を180°シフトさせた場合、この位相シフタ9の厚さはλ/2(n-1)となる。例えば、マスク基板8が石英、位相シフタ9がSiO2膜、光源をi線とした場合、4000Å程度となる。
以上の様にして形成された露光マスクを用いてウェハを露光すると、第3図の破線に示す様に、位相シフタ9を通過するリソグラフィ光の光強度分布とマスク基板8を通過するリソグラフィ光の光強度分布とは位相が180°ずれている為、これらを重ね合わせることにより形成された光強度分布は、位相シフタ9真下で極めて低下し、トータルでみると実線に示す様にシャープなものが得られる。よって、解像度は、従来の0.6μm程度のものが約半分の0.3μm程度になる。」(第5頁左下欄9行〜右下欄16行)

4.対比・判断
(1)特許法第29条の2違反について
先願明細書(甲第1号証の特開平4-25841号公報参照)には、半導体露光装置におけるマスク装置として、通過光の位相を主開口部に比べて180°異ならせる所定の屈折率を有する補助開口部を有することが記載され、また、マスクとして機能を考慮すれば補助開口部の外側領域が遮光部を構成するもの解するのが相当であるから、遮光部(本件発明に係る第2部分に相当)と位相シフト機能を奏する補助開口部(本件発明における第1部分に相当)が隣り合う位置に配設されることが記載されており、その点において本件発明1の構成要件の一部と合致するものであるが、先願明細書には本件発明1が具備する「遮光性の材質の第1層に更に遮光性の材質の第2層を重ねて形成」し、「不要な反射を低減させるための反射防止手段とを備え」、かつ、「第1層は位相シフト層を含む複数層構造である」構成を具備しておらず、また、それらの構成を示唆する記載も見いだせない。
してみると、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。
また、本件発明2〜8は、いずれも請求項1を引用するものであるから、本件発明1に対するものと同様な理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(2)特許法第29条第1項第3号又は第2項違反について
甲第2号証刊行物には、基板14に、掘り込み部16を形成して紫外線を減衰させずに通過させる透過部(開口部)と、これに隣接して通過紫外線の位相をずらすとともに通過紫外線を減衰させる位相シフト部を形成した位相シフトマスクが開示されており、また、甲第3号証には、リソグラフィ光が透過するマスク基板8上に位相シフタ9及びマスク層を積層した露光マスクが開示されているが、いずれの刊行物にも、本件発明1が具備する「所定の透過率を持たせた所定厚さの遮光性の材質の第1層が位相シフト層を含む複数層構造である」構成、及び「不要な反射を低減させるための反射防止手段」を具備しておらず、また、それらの、構成を示唆する記載も見いだせない。
そして、本件発明1は、かかる点により「パターンの第1部分と第2部分とで光の透過率を変化させることにより、パターンの像の暗部に生じる光の強度を減少させることができる。また、反射防止手段を備えることにより、パターンでの不要の反射を防止することができる。さらに、透光部の層を1層だけでなく、さらに多くの層を重ねることにより、透光部の光透過率を位置により変化させることも可能である。また、複数の層の一部を位相シフト材料の薄膜に変えることにより、位相シフト用マスク(エッジ強調型、若しくは遮光効果強調型)の効果を持たせることも可能である。特に、中間層を位相シフターとして用いるようにすると、位相シフター等の膜厚管理を成膜時に行なうことができ、好都合である。またこのとき、所定の光透過率を有する透光部との組み合わせにより位相シフターの部分の透過光の強度を減少させることができるため、パターンの像のコントラストを強めることが可能である。さらに、従来の技術による位相シフト用マスクと同様の効果を得るための位相シフター部分の面積、乃至は線幅を大きくすることができるので、マスクパターンの製造時における欠陥が発生する可能性が小さくなるという利点もある。」という作用・効果を生じるものと認められる。
してみると、本件発明は1、甲第2号証刊行物又は甲第3号証刊行物に記載された発明と同一とは認められず、また、甲第2号証刊行物及び/又は甲第3号証刊行物に記載された発明に基づき容易に発明することができたものとすることはできない。

(3)特許法第36条第3項、第4項違反
[異議申立人の主張]
異議申立人は、異議申立書において本件特許明細書に記載不備がある旨主張しているが、その概要は次のとおりである。
ア.本件発明1に記載の「所定の透過率」、「所定の厚さ」及び「所定の透過率を持たせた所定厚さの遮光性の材質の第1層」は、その技術的意味が不明瞭であり、また、「不要な反射を低減させるための反射防止手段」は無意味な規定であり記載不備である。
イ.詳細な説明に記載の実施例において、透過率を1%程度(段落【0021】)及び40%(段落【0026】)とした例があげられているが、その根拠が不明である。
ウ.本件明細書の段落【0024】〜【0028】及び【0029】の記載が不備である。
[当審の判断]
ア.について
本件発明1では、フォトマスクの第1層の材質は、「照明光に対する所定の透過率を持たせた所定厚さの遮光性の材質」と規定されているが、ここで「所定の透過率」及び「所定の厚み」とは、遮光性の材質が透明なものではなく、一定の透過率と一定の厚みをもつことを特定しているものであり、技術的意味が不明であるとはいえない。
また、反射防止部材は、明細書の段落番号【0019】の記載によれば、複数の層で構成された遮光層のうちの表面の層、若しくは透光層のうちのガラス基板に接する層の少なくとも一方を酸化クロム等の反射防止材で形成してもよいことが記載されているから、本件発明1において、「不要な反射を低減させるための反射防止手段とを備え」る点が、技術的に不明瞭とはいえず、また、その作用効果からみて無意味な規定ということもできない。
イ.について
本件発明は第1層に所定の透過率をもたせることを一つの構成要件としているものであり、透過率を1%程度(段落【0021】)及び40%(段落【0026】)とする実施例と矛盾するものではなく、この構成により他の構成要件と相俟って明細書記載の作用効果を奏するものである。したがって、上記数値の根拠が記載されていないからといって、当業者が容易に本件発明を実施することはできないとまではいえない。
ウ.について
異議申立人は、本件明細書の段落番号【0020】に層Bの幅が0.6μmと記載されているのに対し、段落番号【0023】には「層Bは幅0.5μmの開口部を有し」と記載され、そうすると開口部の両脇の遮光層の幅が0.05μmとなり、非現実的であると主張するが、段落番号【0020】に記載の数値は従来技術に係るフォトマスクの数値であり、本件発明に関するものではなく、異議申立人の主張は採用できない。
また、異議申立人は、本件発明に係る効果の記載が不明瞭等である等主張するが、いずれも当業者が容易に本件発明を実施することはできないとまではいえない。
したがって、本件明細書は記載不備があり、特許法第36条第3項及び第4項に違反しているという異議申立人の主張は採用することができない。

(4)要旨変更を前提とした特許法第29条第1項第3号又は第2項違反
平成14年3月6日付けの手続補正が要旨変更にあたるか否かを検討する。
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、「照明光に対して透明な基板上に、遮光性の材質を配置することによって形成されたパターンを有するフォトマスクであって、前記パターンは、前記照明光に対する所定の透過率を持たせた所定厚さの遮光性の材質の第1層で形成された第1部分と、遮光性の材質の前記第1層に更に遮光性の材質の第2層を重ねて形成され、前記第1部分に隣り合う位置に配置される第2部分と、不要な反射を低減させるための反射防止手段とを備え、前記第1層は位相シフト層を含む複数層構造であることを特徴とするフォトマスク。」に補正された。
異議申立人は、要するに「第1部分に隣り合う位置に配置される第2部分」との記載は、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない旨主張する。
検討するに、当初の明細書の段落番号【0007】には、「半導体素子製造用のフォトマスクにおける回路パターンは、結像状態(回路パターンの像のコントラスト)に影響を与えない部分(回路パターンの中央部付近)と、光透過部(ガラス基板部)に隣接した、結像状態に影響を与える部分(回路パターンのエッジ付近)とに分けられる。この回路パターンの像の結像状態(コントラスト)を向上させるためには、回路パターンのエッジ付近に所定の光透過率を持たせれば良い。因みにこの光透過率は、遮光材の吸光度と膜厚とにより決まるものである。」と記載されている。これによれば、回路パターンは、結像状態に影響を与えない部分(回路パターンの中央部付近すなわち第1部分(当審注))と、結像状態に影響を与える部分(回路パターンのエッジ付近すなわち第2部分(当審注))とに分けられることが解る。さらに、図1〜図3を参酌すれば、ジャイロパターンは第1部分と第2部分からなり、それらが隣接する関係であることが解る。してみれば、上記手続補正に係る「第1部分に隣り合う位置に配置される第2部分」は、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
よって、異議申立人の主張は採用することはできず、同時に要旨変更を前提として、本件発明1乃至8が特許法第29条第1項第3号又は第2項違反とする異議申立人の主張は理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1乃至8に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1乃至8に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-02-20 
出願番号 特願平2-406811
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G03F)
P 1 651・ 537- Y (G03F)
P 1 651・ 113- Y (G03F)
P 1 651・ 536- Y (G03F)
P 1 651・ 161- Y (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大熊 靖夫  
特許庁審判長 鹿股 俊雄
特許庁審判官 辻 徹二
末政 清滋
登録日 2002-05-31 
登録番号 特許第3312653号(P3312653)
権利者 株式会社ニコン
発明の名称 フォトマスク  
代理人 渡辺 隆男  

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